Coolier - 新生・東方創想話

美鈴の吸血鬼異変

2008/11/01 22:45:37
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        このSSでは美鈴が紫の式神であったというオリジナル設定です。
       かなり強引な解釈やオリジナル設定もありますのでご注意ください。








私には最近気がかりな事がある。
紫様のおっしゃる幻想郷での妖怪の気力低下だ。
確かに大結界が出来て以来全力で暴れる事も出来ず、人間も中々襲えない。幻想郷で妖怪達の覇気は確かに落ちている。
紫様は一度妖怪同士で大きな争いを起こし喝を入れるつもりの様だが、そのような妖怪が出るとは思えない。
紫様はその他にも何か考えがおありの様だが、私も藍様もあの方の考えは良く分からない事がある。
私が洗濯をしながら答えの出ないそんな事を考えていると突然、結界に大きな揺らぎを感じた。
この大きさは尋常じゃない。
魔法の森が転移した時もこんな揺らぎは無かった。
胸騒ぎを感じ外に飛び出て藍様の行き先へ私も向かう。
藍様は結界の点検に出かけているはずだ。
こんな時、式なのに術が苦手で紫様と藍様のお役に立てない自分が恨めしい。
しばらく飛んで藍様と合流する。

「藍様!先ほどの揺らぎは?」
「紅か、外界からかなり強い連中が入ったようだな。かなり無理やりだったんで大きく揺らいだ」
「連中…複数ですか」
「あぁ。しかも自分達の住処ごとな」

藍様が指差した方向に昨日までは無かった館が豆粒のように見える。
霧の良く出る湖のすぐ近くだ。
館ごとの転移とは無茶苦茶だ。
紫様が結界を弄ってる訳でもないのに自らの力で転移してくるとは。
相当の術者が間違いなくあの館に居る。

「紫様にすぐご報告します」
「頼んだ。私は結界の修復を行わなければ」

すぐさま踵を返し紫様の下へ向かう。
戻るとスキマでお休みだったはずの紫様が既に起きられていた。
藍様の元からここまで数分も経っていないはずだが。
そしてすぐに報告を促される。
やはりこの方は並の妖怪ではない。

「紅、何があったの?」
「外界から新参の妖怪達が入ってきました。紫様の結界自体は動いていません。恐らく自らの力で転移してきた物と考えられます」
「へぇ。なかなか強いみたいね。どんな人達なのか見たいわ。紅、支度なさい。挨拶に参りましょう」
「はい!」

紫様は普段はのんびりしておられるが、事が起こるとその行動は迅速だ。
八雲の名こそ受けていないが、この方の式である事を誇りに思う。
藍様には結界の修復に当たるよう命令が飛んだ。
結果、紫様と私の二人で向かう事になる。
問題の館へはすぐに着いた。
かなり大きい、というより異様な館だ。
全体が真紅で窓がほとんど無い。
西洋の建物は窓が小さいと聞いたが、それでも異常だろう。

「館全体が真っ赤ですね。私たちが来ても誰も出ない。やはり先ほど着いたばかりで警戒しているのでしょうか」

能力を使い妖気を調べる。
強い気が多いが、特に非常に強い気が三つある。
いきなり争いになると、こちらの分が悪い

「んー。歓迎する気みたいよ」

ほら。と紫様がおっしゃるとすぐに重たそうな門が開いた。
閂の形も細工も全て西洋造りだ。
ただの趣味で作った館ではなく、実際に住まいとしているようだ。
やはり西洋からこの極東まで転移してきたのだろうか。
ここの術者は間違いなく強い。
それも尋常ではなく。

「ようこそ。紅魔館へ。ご案内いたします」

お手伝い風の女性から流暢な日本語でにこやかに案内された。
これには驚かない。
あれだけの転移、適当に座標を決めた訳ではあるまい。
恐らく長い月日をかけこの国に転移する事を決め準備したのだろう。
言葉もその長い時に習得したとしても不思議ではない。
私が驚いたのは他の事だ。
お手伝い姿の女性が何人も居るが全員妖精、しかも大きいと言う事だ。
恐らく種族としてはピクシーといった悪戯好きの妖精なのだろうが、全員その範疇を超えて大きい。
妖精は小さい。
手の平ほどの大きさから、大きくても人間の10歳児程度だ。
幻想郷も例外ではない。
しかしこの館の妖精は人間の10代半ばからそれ以降に見えるのが大半だ。
しかも妖精にしては落ち着いている。
この館は一体何なのか。
私が考えていると案内役の妖精が立ち止まり振り返った。

「従者の方はここまでです。当主様へは主の方だけお通し致します。従者の方は別の者がご案内いたします」
「私が紫様から離れる訳にはいきません。一緒にお目通りかないませんか?」
「紅、私なら大丈夫よ。私に何か危険を及ぼせる存在が居ると思う?」

紫様が少し挑発的におっしゃるが、やはり不安だ。

「しかし紫様…」

すっと耳元に近寄られ通常では聞き取れない高速言語で指示をされる。

(いざと言う時のために貴女の式に、私と同等の力が得られるよう命令を出したわ。貴女は私と違う所からこの館の内情を出来るだけ探ってね)

「分かりました。紫様」

紫様がおっしゃるなら仕方ない。
私が案内される場所で貴重な情報が得られるかは分からないが、それが紫様の命令なら喜んで従う。
もしかしたらあの妖精達の秘密も分かるかもしれない。

「こちらへどうぞ。奥にお進み下さい」

別の妖精から案内されたのは巨大な書庫だった。
良く分からない選択だ。
普通このような場所へ案内するだろうか。
案内していた妖精も入ってこない。
不審な点だらけだが書庫とは都合が良いかも知れない。
文字さえ読めれば彼らの情報が得られるかも、と期待を持ちながら奥へ進む。
すると奥に開けた場所がありちょっとした談話室のような場所があった。
ここで客をもてなすのかと訝しがりながら進むと人の気配がした。

「どうぞ」

小声で早口な聞き取りづらい声がした。
一応警戒しながら入ると少女が居た。
見た目は10代半ば位だろうか。
色が白く儚げな印象の少女だ。
だが意思の強そうな目と口をしている。
西洋の寝巻きだろうか、魔女の服だろうか、ゆったりとした服を着ている。
見た目は儚げなのに雰囲気には妙な威圧感がある。
さらに彼女の内に気の流れを複数感じた。
かなりの使い手だろう。
だがこちらを案内したのは良いが本から顔も上げない。

「始めまして、私は紅(ホン)と申します。遠方から転移されてすぐに押しかけてしまい申し訳ありません」
「ノーレッジよ」

少女が名乗る。
相変わらず小声で早口だ。

「ノーレッジさんですね」

私が名前を確認した途端少女が顔を上げる。
何か気に障ったのだろうか。

「貴女、聞き取れるのね」
「え?えぇ。それぐらいは」

紫様の命令や藍様の術は高速言語で行われる事が多い。
隙を無くし迅速に行動する為の基本的な事だ。
術が苦手な私も聞き取るくらいなら問題ない。

「ふぅん。少し試したんだけど術にも多少の理解があるとみて良いのかしら」

先ほどと違い今度は普通に話し始めた。
というか私はいきなり試されていたのか。

「私自身は苦手ですが」
「見た目から頭の中も筋肉かと思ったけど術に多少の理解はある。でもやっぱりお馬鹿ね。いきなり術が苦手って白状して」

言われて気付いた。
まだ彼女らが敵か味方かも分からないのに、あっさり弱点を話してしまった。
どうにも腹芸は苦手だ。
見た目からと言う事は体術が得意なのも見透かされているか。
もとから隠すつもりも無いが。

「でも合格にしてあげる。この館の者は殆ど聞き取れないし」

彼女自身もあっさり館に自分のような術者が居ない事をばらした。
私の場合とは全く違うが、念の為に聞いておこう。

「まさか転移は貴女一人の力で?」
「そうよ。私が一人でやったの」

素直に認める。
だが術者が他に居ない事を喋ったのも理解できる。
彼女からすれば他に術者が居ようが居まいがどうでも良いのだ。
それだけ彼女の術は他を超越している。

「貴女から複数の気の流れを感じましたが納得です。気の組み合わせも出来るようですね」

ノーレッジが本を閉じる。
真っ直ぐに私を見つめる。
かなり興味を惹いたようだ。

「『私が一人で』なんて疑ってかかると思ったけど。複数の属性を操るとか、そこまで一目で分かるの?貴女面白いわね。何者?」

まぁ別に弱点を喋るわけでもないので正直に答える事にする。

「元は人間です。大陸に居て修行していた頃、紫様と出会い式を憑けて頂きました。体の頑丈さがお気に召したようで。気を操る事が出来ます」
「ますます面白いわね。元人間?種族魔法使いになるようなものかしら。人外になる方法も様々なのね。式ってのは東洋の使い魔だと思ってたけど、『憑けて頂き』って事は貴女は式そのものではないのね。
配下の者を強化する補助的なものかしら?かなり興味深いわね。使い魔は自分の意思を持たないし。何か装置のようなものがあるのかしら。
式って東洋では高等な術に分類されるの?気ってイマイチ理解出来てないのよ。詳しく教えてくれる?こんな辺境の地まで来た甲斐があったわ」

突然ノーレッジが饒舌になり再び早口で喋りだす。
目が子供のように輝いている。
相当興味を持ったようだ。

「えっと。式について説明するとかなり長くなりますが…」
「そ、それもそうね。未知の術を聞いてつい…」

ノーレッジが急に顔を赤らめる。
初対面の者の前で興奮してしまった事に恥ずかしさを覚えたようだ。
最初見た時の威圧感や探りを入れていた狡猾さはもう完全に消えている。
彼女の本来の姿はこちらか。
こちらの方が個人的には好感を覚える。

「やっぱり演技は苦手。どんな奴が来るか自分の目で確かめてみたかっただけだし。改めて自己紹介します。私はパチュリー・ノーレッジ。種族は魔女。この紅魔館の術を全て制御しています。貴女は紅さんね?」
「紅で良いですよ」
「紅ね。それはファーストネーム?ファミリーネーム?」

何の事だか良く分からないが、苗字か名前かもしくは本名を聞かれているのだろうか。

「紅です。まだ私は八雲の名を継いでいないので」
「紅。名前だけなのね。人間の頃からその名前?」
「あ、人間の頃の名前は捨てました」
「ごめんなさい…」

急にノーレッジがうな垂れる。
第一印象とはまるで別人だ。
出会って間もないのに彼女のこんな一面を見られた事を何故か少し嬉しく思ってしまった。

「いや、別に嫌な思い出があって捨てたとかじゃないですからお気になさらずに」
「そうなの?」
「えぇ」

ノーレッジが少し微笑む。
最初の仏頂面が印象的だった分えらく可愛く思える。

(紫様も藍様も儚い印象とは程遠いからかなぁ)

脳裏をよぎった失礼な考えを慌てて振り払う。

「そういえば貴女にまだお茶すら出してなかったわね。コーヒーは大丈夫?」

紫様が外界から持ち込んでいたので味は分かる。

「コーヒーなら大丈夫です。ありがとうございます」

彼女が淹れてくれたコーヒーは、苦味が少なく酸味が強い美味しいものだった。
コーヒーを飲みながら、私に付いている式について軽く説明をしていると紫様から帰還の命令が入った。

「この館の御当主との会談が終わったようです。帰還の命令が入りました」
「通信の機能も付いてるのね。やっぱり詳しく解析したいわ。当主様には私から話しておくから何時でも遊びに来て良いわよ」
「では機会がありましたら」

話していると後ろからスキマが開いた。
何事かとノーレッジが驚いている。

「紫様の能力の一つですから大丈夫です」

一礼しながらスキマに入る。
スキマから出ると紫様と藍様が待っていた。
紫様が妙に上機嫌だ。

「紅。貴女の方はどうだった?」

すぐに二人へ報告する。

「館を転移させた術者と会いました。あの館は一人で転移させたようです」

二人とも軽く驚く。
無理も無い。
あれだけの術者は滅多に居ない。

「どんな奴?」
「華奢な感じの女の子です。魔女だそうです。体内に複数の気を感じましたから、かなり多くの精霊を使役出来ると見て良いかと」
「こちらに対して敵意は持ってた?」
「いえ。むしろ私に興味を持っているようでした。正確に言うと私に憑いている式にですが」

紫様は私の言葉を聞くと益々上機嫌になった。
何かあったのだろうか。

「紅。貴女、その子を篭絡しなさい」
「はい!?」
「紫様いきなり結論からおっしゃらないで下さい。紅が混乱してますよ」

一体何事だろうか。
篭絡って何故に。

「ごめんなさいね。軽く説明するわ」
「軽くじゃ駄目ですってば」

紫様の説明はこうだった。
あの館の当主は幻想郷を妖怪たちだけの楽園と信じて転移してきた。
だが幻想郷には多くの人間が存在している。
紫様が説明すると、それが余程腹に据えかねるような態度を取ったという。
幻想郷は勿論、妖怪たち自身も人間の存在なくしては成り立たない事を説明しても聞く耳を持たなかったそうだ。
実際問題、私たち妖怪は衣・食に関して人間が生産したものにかなり依存している。
また人間たちも八百万の神々による恩恵や河童の技術に頼っている。
人間を滅ぼす事は私たちの自滅に繋がるのだ。
特に人間の概念から発生し肉体を得た妖怪は人間が存在しなくなれば完全に消えてしまうだろう。
だが館の当主は余程人間に恨みがあるらしく滅ぼすつもりらしい。
譲歩して完全に奴隷のような存在にするのが限界だと譲らなかったようだ。

「でね、下手をすれば近い内にあの紅魔館とは戦争になると思うのよ。いくら全てを受け入れるのが目標だからって、人間滅ぼすなんて考えは流石に容認出来ないし。でも幻想郷には人間の存在を快く思ってない妖怪も多いから敵は結構な数になるわね」
「紫様はそれでよろしいのですか?」
「その場合はその場合で好都合よ。幻想郷の妖怪たちに覇気が無くなってきてるのは話したでしょ?戦争になれば参戦しなくとも少しは気合入れなおすわ。一応、何回かは妥協点を見つけるために話し合いたいけど。ま、どっちに転がり込んでも問題無いわ」
「あの、私がノーレッジを篭絡するというのは一体」
「鈍いわねぇ。紅魔館の者、しかも実力者が貴女に興味持ってるのよ?落とせば色々情報引き出せるじゃない」
「えと、私もノーレッジも女ですが」

やれやれといった感じで紫様が首を振る。

「まだ人間の頃の考えが抜けきってないわね。私たちは人間みたいに寿命が短くないし、そもそも子供自体が生まれにくいのよ?人口維持だとかそんな概念も無い私たちは性別なんて気にしないのが普通。それに貴女も結婚するのが嫌で山奥に逃げてたじゃない」

私が逃げたのは男性が嫌だからではなく、修行を10代前半で終えなければならないのが嫌だったからなのだが。
…私が本当に逃げたのは結婚だろうか。
それとも普通の穏やかな生活そのものだろうか。
妖怪になった今でもふと考える事がある。
紫様の式として動く事に不満があるわけでも無いのに。

「とにかく時間はかけて良いから情報収集は頼んだわよ。私と藍は計画を練るから」

藍様をスキマに落としながら紫様も消えていった。
幽々子様や幽香あたりにも話すつもりなのだろう。

「遊びに来て良いっては言われたけど…」

向こうの当主も紫様と話し合いがいきなり決裂した事で警戒しているだろう。
むしろノーレッジに私から情報を得るように命令していてもおかしくない。

「気が重い…」

明日、紅魔館へ向かう事を決意しながら長い一日は終わった。
それから私の紅魔館通いの日々が始まった。


「早速来て貰えるなんて嬉しいわ」

書庫の前でノーレッジが微笑みながら出迎えてくれた。
篭絡といっても何すれば良いか分からないので先ずは仲良くなる。
取り合えず昨日に引き続き式についての説明を行う。

「じゃあ、通信に召喚、身体機能と妖力の底上げ、命令を実行させる強制力まで兼ね備えた高等複合魔術みたいなものなのね」
「用途によって使い分けたりもしますが」

ノーレッジに説明を行いつつ篭絡方を一応考える。

(いきなり手触ったりしたら警戒するだろうし。ノーレッジの事を色々聞く方が情報収集にもなるし仲良くなれるかも)

「ノーレッジの事を聞いても良いですか?」
「私?」

ノーレッジが私の体をペタペタ触り始めた。
どうやら式が外部から本当に確認出来ないか試しているらしい。
ちゃんと外部からの確認は出来ないと伝えたのだが。
えらく大胆な子だ。

(私は手を触る事にも遠慮してるのに…)

「私の半生なんて話したらすぐよ。幼い頃レミィに助けられてからずっと紅魔館。ここの書庫の管理任されてからずっと読書と研究。あっという間に何十年も過ぎたわ。それぐらいかしら」

あっさり終わった。

「いや、端折り過ぎです」
「でも語る事も特に無いし」
「うー。ところでレミィってのは誰ですか?」
「私の友人。当主様の娘、レミリア・スカーレット」

ノーレッジが体を触る手を止めて少し声のトーンを落として語りだした。
どうやら彼女は語りだすと止まらない傾向にあるようだ。

「レミィにはここでずっと穏やかに暮らして欲しい。紅も妖精メイドの子達見たでしょ?あの子達は向こうに居た時、レミィが各地で保護した妖精たちなの。向こうでも自然が少なくなると妖精の数も激減したの。
レミィは奔走して妖精たちの保護に当たった。貴族たる者は弱い者を助ける責任があるって。ここの妖精たちが大きいのはレミィが保護してから極端に長生きして成長したのね。不死とは言ってもバラバラになったりして一回休みになったら最初からやり直しだから。
私もそうやって人外の者を保護しているレミィに拾われたの。レミィもこの幻想郷みたいな土地を作ろうとしてたんだけど、人間の勢力が強すぎて断念せざるを得なかった」

ノーレッジが一旦言葉を切り続ける。

「だから極東に妖怪や人間たちの楽園があると聞いた時は嬉しかった。レミィが今までしてきた事は無駄じゃないって。皆でそこに行けば幸せに暮らせる。レミィが口癖みたいに言う平和な『紅茶を飲む毎日が一番楽しい』そんな日々が実現できるんだって」
「今日貴女が来てくれて本当に嬉しいの。この世界が、少なくとも貴女は私たちを受け入れてくれたって事だから。昨日は警戒して探りを入れるような真似をしてごめんなさい」

私は心に重いものが沈むのを感じた。
今日来たのは先手を打つ為の情報収集であり、私はこの友人想いの子を騙しているのだ。
そしてそのレミリアの言った言葉が気にかかる。
やはり私は穏やかな日々から逃げたのだろうか。
普通の人間としての生き方は大昔に止めた。
それからは紫様の式として妖怪と人間たちの楽園を造る為に奔走している。
式としての生き方、それを言い訳にして穏やかな日々からまだ逃げているのだろうか。
考えてみれば紫様や藍様と私的な会話をした記憶が余り無い。
あくまで式として働いてきた。
そんな事を考えていると、ふと違和感にに気付いた。
先ほどのノーレッジの言葉、『妖怪や人間たちの楽園』確かにそう聞こえた。

「御当主とレミリア様は意見が食い違ったりしてませんか?」
「そうね。弱い者の保護という点では一致してるけど。でも当主様は楽園を作る計画が失敗した事で凄く人間を憎んでる。人間さえ居なければ上手く行ったのにって。それから当主様は極端な考えに走りがち。最近の二人の仲はかなり険悪」

もちろん私はレミィの味方とノーレッジが言い加える。
良かった。
いい事を聞けた。
人間を滅ぼすなんて考えは紅魔館の総意では無かったのだ。
少なくとも二人の実力者は反対なのだ。
先ほどの気分は消えた。
ノーレッジ達が人間を積極的に滅ぼす気だったら、情報収集の道具扱いにして最後に裏切らなければならない。
そう覚悟していたが杞憂で済んだ。
普通に仲良くなって紅魔館が受け入れられる土台を作ろう。

「じゃあ、紅は服を脱いでくれる?式を確認したいから」
「だから外部からの確認は出来ないんですってば!」


その日の夜、紫様に紅魔館が一枚岩でない事を伝えた。
思ったよりすんなり情報も手に入った。
ノーレッジを誑かす必要ももう無いだろう。
式の立場上、あまり頻繁に会えなくなるのは寂しいが暇な時は通おう。
こつこつと土台を作るのだ。
争いも回避出来る可能性が見えた。
だが紫様は報告を受けてから考え込んでいる。
当主さえどうにかすれば良い問題だと思ったのだが甘かっただろうか。

「変ねぇ。てっきりあの館に居た当主以外の強い二人、紅の話に出てきた当主の娘と転移させた魔女も人間を滅ぼす気だからあれだけ強気なのだと思ったのだけど。
当主一人じゃあの二人に勝てない。何か隠しているのは間違いないわ。
その魔女の話が全くの出鱈目か、当主が何か切り札を隠しているか。
紅、また引き続き明日からもあの館に出向いて情報を集めて」
「分かりました」

紫様の命令で再び紅魔館に通える口実が出来た。
それが妙に嬉しく思えた。
正直あの子が嘘を付いているとは思いたくない。
だが私自身が彼女に騙されている可能性もあるのだろうか。

次の日から毎日のように紅魔館へ通ったが特に情報の進展は無かった。
ノーレッジが東洋の術について私に聞き、私は紅魔館の事を聞く。
私より藍様の方が適任だろうが、術が苦手でも知識ならある。
徐々にノーレッジが術の事を質問しなくなり、幻想郷の各地の事を聞き始めた。
私にはこれが戦力分析なのか、ただの好奇心なのか分からない。
誘惑するはずの私が翻弄されていては本末転倒だ。
だがノーレッジと過ごす日々はとても楽しかった。
二人でお茶を飲みながら他愛もない話で笑いあう。
穏やかな日々も悪くない。
私は何を怖がっていたのだろうか。
そう自嘲する程に私の考えも変わっていった。


そして通い始め三ヶ月ほど経った頃に事態は動いた。
切っ掛けはノーレッジの喘息だった。
私が居る時に喘息の発作が起きたのだ。
すぐさま気管を内孔を使い拡張、点穴で発作を沈静化した。
人間の頃だったらこんな芸当まず有りえなかっただろう。
しかしノーレッジが倒れた事で思い出してしまった。
私が何故普通の日々を恐れていたのかを。
人間だった頃、突然両親が事故で亡くなった。
一人取り残された私は見も知らぬ男との縁談が決まった。
私は平穏な日々が簡単に消えうせた事が怖かった。
新しい環境が私を受け入れてくれるのか分からない事が怖かった。
だから見様見真似でしかなかったのに、武術の修行と称して逃げたのだ。

「紅…本当にありがとう」

ノーレッジは書庫にあるベッドで横になっている。
彼女の持つ喘息用の薬も飲ませた。
とりあえず大丈夫だろう。
完全に発作は収まった。

「何で助けてくれた貴女が震えているの?」
「え…?」

見れば手が微かに震えていた。
この際打ち明けよう。

「怖いんです」
「?」
「ノーレッジが倒れた時にノーレッジとの三ヶ月が消えてしまいそうに思えたのが」

そんな事、と彼女が微笑む。
何で笑えるのだろうか。
本当に怖くなったのに。

「バカね。その消えかけた三ヶ月を取り戻したのは貴女じゃない。
貴女が助けてくれたんでしょ。だからこうやって今も話せてる。
でも喘息の発作で私が死ぬかも、とか思うのは正直考えすぎ」
「ノーレッジ…」

そうだ、今の私には力がある。
昔のような事は防げるのだ。
それもよ、とノーレッジが指を立てる。

「何ですか?」
「何でいつまでもノーレッジなの。パチュリーっていい加減呼んでよ」
「さっきの話と関連が」
「黙りなさい。私が紅って呼んでるのに不公平よ」
「あんまり喋ると喘息に良くないですよ」
「じゃあパチュリーって呼んでくれたら黙る」

妙なところで強情な人だ。
怒って喘息が悪化するといけないので従う。

「パチュリー…」

何だか凄くこっちが恥ずかしい。
何だこの気持ち。
パチュリーが嬉しそうに微笑んで目を閉じる。
その笑顔の破壊力はやっぱり凶悪です。

「パチュリー?」

寝息が聞こえてきた。
外に居たメイドに発作が起きたことと今は落ち着いて安静にしている事を伝えその日は帰った。
飛びながらもパチュリーの笑顔が頭から離れなかった。
今日はパチュリーを助けたようで、実際には私が助けられた日だった。


次の日紅魔館へ向かうとパチュリーが門の所まで出迎えてくれた。

「喘息は大丈夫みたいですね。でも日光は嫌いって言ってませんでした?」
「胸は大きいのに細かいわよね。多少の日光ぐらい何の問題もないわよ」

まさか胸の事言われるとは。
それより、とパチュリーが促す。
それよりとはあれか。

「行きましょうか。パチュリー」

パチュリーが微笑んでよろしい、と言いながら手を握った。
パチュリーの冷えた手が私の火照った手には心地良い。
そのまま書庫まで一緒に歩く。

「紅、貴女に大事な話があるの」
「何でしょう」
「今、当主様が幻想郷の妖怪たちを戦力として集めて回ってるの」

少し前に藍様が報告していた。
目立たぬようにだが、当主が人里への襲撃と穏健派の妖怪たちへの攻撃をする為に戦力を集めているらしい。
…本来は私が聞き出さなければならない情報なのだが。
何も知らない振りをして続きを促す。

「それは…もう危険な段階まで来ているのですか?」
「危険。もちろんレミィも館の半数も反対してるけど、殆どが妖精メイド達で戦力にならないの。流石にレミィと私の二人じゃ止められない。
だから協力して欲しいの。一緒に戦ってくれると嬉しい」

やっと紫様からの命令であった貴重な情報が手に入った。
なによりパチュリーが私の事を信じてくれている。
高揚感を覚えながらすぐさま式の通信機能を使い紫様に報告する。

(紅、どうしたの?これ頭に響くから苦手なんだけど)

藍様も私もしょっちゅうこれで呼び出し受けていますが。

(紫様、パチュリーから当主の暴走を止めるように協力の要請がありました)
(…その子との会話を聞きたいから繋いだままにして指示も出すから)

「協力は駄目かしら…」
(協力するわ。決行の日取りが決まってそうなら聞いて)
「もちろん協力します」
「ありがとう!紅!」
「御当主はもう決行日など決めているのですか?」
「それが判明したの。やっと貴女に伝える事が出来た。今日から調度一週間後よ」
(こっちは少数精鋭だから問題無し)
「具体的に作戦などはレミリア様と決めていますか?」
「もう決まっているわ。昨日レミィから具体的な話があったの。その前に『今日、昨日まで存在しなかった未来が不確定とはいえ生まれた。それに賭けましょう』とか良く分からないこと言われたけど」
「何ですかそれ?」
「私が聞きたい。レミィの能力に関係している事なのは間違いないけど」
(運命操作、もしくは運命を視るような能力かしら)

この後、紫様からの指示を交えた話し合いで一週間後の作戦がすぐに決まった。
まず反逆した罪という名目でパチュリーが妖精メイドたち穏健派をこの書庫で保護する。
当主は戦力となる妖怪たちを襲撃前に紅魔館へ集合させるつもりなので、統制の取れていない内に紫様たちが奇襲をかける。
それに呼応してレミリアが内部からも攻撃。
作戦とも言えない様な作戦だが、こちらの人数が少ない以上仕方ない。
そして私には重要な役割が与えられた。

「妹様?」
「そうレミィの妹君。フランドール・スカーレット。彼女が当主様の切り札」
「そんなに強いんですか?」

この数ヶ月、全く気配を感じなかった。
結界か何かで存在を感知出来なくしていたのだろう。

「当主様が集めてる戦力全てを合わせたよりも強いわ。でも妹様自身は落ち着いた性格で争いも好まない」
「では何かあるんですね」
「狂気よ。当主様は妹様の力を暴走させるために極めて強力な禁呪を仕込んでるの。
実の娘にね。妹様が狂気に囚われると力が暴走して辺り一面灰と化すわ。
妹様の様子がおかしい事にレミィが気付いた時にはもう遅かった。解呪も西洋の術だけじゃ無理だった」

だからパチュリーは東洋の術に熱心だったのか。
親友の妹を助けるために。

「でも暴走させたら当主自身が死んじゃいませんか?」
「だからこそよ。いざとなったら全員巻き添えに自爆するぞってね。
一種のハッタリだけど今の彼ならやりかねないし」
「で私の出番ですね」
「『気』を操る貴女なら狂気も制御できるのでしょ?」
「人の気から天気まで何でも」
「だから全てが終わるまで妹様を制御して欲しいの。当主様が亡くなるか、術のマスターである事を放棄すれば、後はゆっくり時間をかけて解呪出来るから。解呪方法も貴女からの情報で可能だって分かったしね」
「パチュリーの期待に応えられるよう全力で制御します」

パチュリーが私の手を握り締める。
小さくて細い手だ。
この手を守れる力が私にはある。


それから一週間後、その時が来た。
紅魔館の近くに幻想郷の精鋭が集まっている。
全員の気配は私が気を操作して隠している。

「じゃあ手筈通りに。思い切り暴れるだけで良いから。皆殺しが目的でない事だけは留意して。」

実際のところ、紫様は当主自身も出来れば生かしたいらしい。
人を滅ぼさせないという妖怪たちの実力が分かれば、大人しくなると期待しているようだ。
何だかんだで紫様は結構甘い。
今回の件も幻想郷の妖怪たちに発破をかけることが出来れば十分と考えているようだ。
紫様自身、過去に何かあったらしく基本的に来る者は拒まない方針をずっと採り続けている。

「じゃあ…突撃!」

眩い閃光に蝶が舞い、鬼火や狐火、無数の光弾が門に炸裂する。
同時に館内から爆発音が響く。
私は一人単独行動を取り、パチュリーから貰った館の見取り図を頼りに地下の迷宮へ向かう。
予め最短ルートでの抜け方を教えてもらっていたのですぐに扉の前へ着く。
そして我が目を疑った。
パチュリーが戦っている。
彼女は妖精メイド達の保護に当たっている筈なのに。
相手の人狼は当主派で間違いないだろう。
切り札を守るため当主が念の為に配置した護衛か。
裏切り者が!と叫んでいる。
いくら術が強くとも接近戦が苦手なパチュリーは苦戦している。
その光景を見た瞬間、私は気を脚に送り込み床を蹴り加速した。
私に気付いた人狼が鋭い爪で突いてくる。
左腕で受け流し勢いを利用して体をひねる。
そのまま掌底を相手の胸板に叩き込む。
骨の砕ける嫌な感触と同時に私の手が相手にめり込む。
そこで全力で発剄。
人狼の上半身が背中からザクロのように弾け飛ぶ。
紫様と同等の力を振るえる今の私に敵う者はいない。

「パチュリー!怪我は無いですか!」
「大丈夫。紅…やっぱり来てくれたのね」
「当たり前です!何でこんな所に」

パチュリーが口ごもりながら答える。

「貴女の式とは少し違うけど私も式神を作ったの。その子に結界の維持を任せて、ここへ」
「危ないですよ…」
「私が居れば確実に妹様を制御出来るし…貴女に会いたくて…」

この状況で赤面するような事を言うなぁ。この人は。

「じゃあ二人でやりましょう」
「えぇ!」

扉を吹き飛ばし部屋に入ると一人の少女が眠っていた。
10にも満たない容姿で金髪の幼い子だ。

「彼女が?」
「ここ数日間ずっと眠っている。あの人が禁呪の発動準備をしているのが原因ね」

早速、二人で共同の作業に入る。
私がフランドールの気の流れを操作し、パチュリーが結界で禁呪の影響を抑える。

「酷く熱いですけどこれも呪いですか」
「これは妹様自身の力。彼女が本気で力を振るえば幻想郷が灰燼と化すわ」
「でもパチュリーが手伝ってくれてるから、かなり楽に終わりそうです」
「私が来て良かったでしょ?」

はにかむ様な微笑みが本当に良く似合う。
一時間もしない内に紫様から通信が入ってきた。

(紅、全部片付けたわ。当主も投降した。今から術を放棄させるからもうしばらく制御をお願い)

「紫様から通信が入りました。上はもう片付いたようです」
「貴女たちって凄いわね。あれだけの戦力を制圧するなんて」

言葉を返そうとした瞬間私たちはいきなり吹き飛ばされた。
何が起きたのか分からない。
ぐらつく頭を押さえる。
パチュリーは。

「パチュリー!」

急いで駆け寄る。
体を床で強打したのか気を失っている。
幸い骨も折れておらず打撲だけのようだ。
安堵もつかの間、フランドールの方を見ると気が膨れ上がっている。

(紫様!まずい状況です!すぐにスキマを開いてください!)

応答が無い。
理由はすぐに分かった。

「嘘…」

私自身の式が完全に破壊されている。
紫様と同等の力を振るう事なんて到底出来ない、ただの一妖怪にまで私は弱体化している。
その間にもフランドールの気は膨れ上がっている。
目の前が真っ暗になる。
怖い。
式が破壊されたのが怖い。
紫様の助けが来ないのが怖い。
自分が死ぬのが怖い。
恐怖で息が詰まる。
脚が震え力が抜けてゆく。
今すぐ逃げなければ確実に死ぬ。
私の力が及ぶ相手じゃない。

「嫌だ!死にたくない!」

私は叫びながら狂気の制御を再び開始していた。

「怖い!何で私また制御しようとしてるの!死ぬのに!」

自分で何をやってるのかも分からない。
ただ全力で制御する。

「式が外れて敵うわけ無いのに!」
「紅…」

パチュリーの声がする。
意識が戻ったのか。

「逃げて!パチュリーは早く逃げて!」

振り返らず叫ぶ。
今の私は涙と鼻水で顔がグシャグシャだろう。
好きな人にそんな顔見られたくない、こんな時に下らない見栄を張る自分は大馬鹿に違いない。
今はっきり気付いた。
私は本気でパチュリーの事が好きなんだ。
フランドールの気の膨張は止まらない。
その時パチュリーが自分の手と私の手を重ねた。
弱々しい結界がフランドールを包む。

「パチュリー!」

応えは無い。

(死にたくない!生きたい!)
(パチュリーと全然話し足りない!)
(好きだって事も伝えてない!)

だから。

「絶対に生きてやる!」

強力な閃光が輝き私は意識を失った。


目を開けると煤だらけの顔でパチュリーが私を揺らしていた。
視界が暗い。

「ーー。ーーーー」

何か口が動いているが聞こえない。
喋って安心させようとしても声が出ない。
焼きつくような痛みが喉に走る。
腕も動かない。
腕があるかどうかの感覚も分からない。
ただパチュリーが泣いているのだけが分かる。

(泣いてる。安心させないと…パチュリーは微笑んでるのが似合うのに)

私は再び意識を失った。


次に目が覚めると見知らぬ部屋のベッドの上に居た。
首を動かして見回すとベッドの側にパチュリーが居た。
眠っているようだ。
パチュリーに目立った怪我は無い。
思わず名前をつぶやく。

「パチュリー…」

かすれているが声が出た。
パチュリーが飛び起きて抱きつく。
痛い。
パチュリーは慌てて部屋を飛び出し紫様を連れてきた。

「良かった…境界を弄って治そうとしたけど再生力がかなり破壊されてて駄目だったのよ。パチュリーの怪我は治せたけど。貴女あの子の盾になってたから。でもあの子に感謝しないとね。
ずっと付きっ切りで貴女に治癒魔法をかけてたから」

そうだったのか。
やっぱりパチュリーに命を助けられたのか。

「私の判断ミスね。言い訳の仕様も無い。紅には酷い事を…」

紫様の話では当主は投降し、呪式を止める様な素振りを見せながら、いきなり死に物狂いで逃げ出し禁呪を暴走させたらしい。
しばらくの間追跡が続き、妹の件で恨んでいたレミリアが当主を殺害。
結果、中途半端な極めて小規模な暴走で済んだらしい。
だから私もパチュリーも生き残ったのだ。
私の意識が戻るくらいに回復した事で怪我の境界も弄れるようになったそうだ。
次の瞬間体の痛みが消えてゆく。

「紫様の能力は相変わらず凄いですね」
「この子がここまで回復させなかったら無理だったわ」

パチュリーが照れる。
この子の可愛らしさはやっぱり反則です。
そこへ凛とした声が響く。

「紅、礼を言うわ」

いつの間にかレミリアが居た。
パチュリーの所へ行く時何回か挨拶はしたことはあるが、話すのは初めてだ。

「フランとパチェを救ってくれてありがとう。心より感謝している」

私の方がパチュリーに助けられてばかりだ。

「あの子も無事なんですね?」
「禁呪の影響で少し情緒不安定気味になってしまったけど。でも100年もすれば完全に治るそうよ」
「本当に良かった」
「ところで、もし良かったらこの紅魔館で暮らさない?パチェも貴女を憎からず想ってるし。貴女たちが想いあった結果、運命すら捻じ曲げたのよ」
「え…」

パチュリーも私を?
それにいきなりの申し出だ。
紫様を見る。

「もう貴女の式は無いから好きなように生きて。再び新しい式を憑けて私や藍と一緒に暮らすのも良いし、ここで新しい生活をするのも良いわ」

私は…ここで暮らしたい。
パチュリーの側に居たいし、レミリアの言う平和な「紅茶を飲む毎日」も見たい。
人間だった頃に私が逃げた普通の生活を、式ではない一妖怪としてやり直してみたい。

「申し訳ありません。紫様、私はここで暮らします」

紫様が寂しそうに微笑む。
大陸で拾っていただいた恩は決して忘れない。
何かあればすぐに駆けつける事を誓う。

「そうだろうと思った。藍には私から伝えるわ。やっぱり式の扱い方考え直さないとね。八雲一家って呼ばれるような関係を目指そうかしら」
「じゃあ紅は私と一緒に書庫で…」

パチュリーが嬉しそうに言う言葉を紫様が途中で遮る。

「駄目よ。貴女たち紅魔館は凄く戦力が減ってるのよ。当主派は結局殆どが死んでしまったし、妖精メイド達しか残ってないじゃない。変な奴等が狙わないとも限らないわ。だから見えない場所は駄目」
「では私は何処へ?」
「門番になりなさい。貴女はもう式を憑けなくても強い。保障する。
それに貴女が私の式だった事を知っている妖怪も多いし、貴女が門を守れば館の皆を守れるわ。この私の関係者に手を出す愚か者は少ないでしょ」

パチュリーと一緒に居られないのは少し不満だが、パチュリーを守れるなら問題ない

「また顔を出すから元気で居なさい。巫女が考案中の新しい決闘方法があるんだけど、紅魔館はそれに協力してもらうつもりだから」

紫様がスキマへ消えてゆく。

「最後に紅、好きな名前を名乗りなさい。もう八雲の名を継ぐ事は無くなったのだから」

あの方は湿っぽいのが苦手だから別れは簡単に終わった。
でも、また会えるだろう。
新しい決闘方法か。
どんな物になるのだろうか。

「名前ねぇ」

振り返ると凄い形相でレミリアが唸ってる。
何だか嫌な予感がしたのでパチュリーに話を振る。

「ストロング…」
「自分じゃ思い付かないんですけど何か良い案あります?」
「門番になるんでしょ。前に教えてもらった幻想郷の名所は行きづらくなるわね……そうね、じゃあ門の美しい呼び鈴、美鈴って字はどう?大陸読みではどう発音するの?」
「それでしたら『メイリン』ですね。何か美しいってのは照れますけど。あ、紅って名前は残したいです。紫様から頂いた名前ですし、この館と同じ字です」








「じゃあ紅美鈴。ホン・メイリンが今日から貴女の名前ね」







それから私の普通だけどとても心満たされる日々が始まった。

「結界維持してた式神ってどんな子です?」
「この子よ」
「こあー」
「書庫に住み着いてた子悪魔を使ったの。まだ言語機能が不完全。結界維持する機能しかまともに憑けてなかったから」
「それより私と髪の色と顔が似てるのが気になるんですが」
「正確には美鈴7割、私3割の割合で造形しました」
「!?」



「あのレミィが連れてきた咲夜って子なに!?何で美鈴と同じ髪型してるの!?狙ってるのね!あの泥棒猫!」
「落ち着いてください。動く時に邪魔だからまとめてるだけですよ」
「私も美鈴とお揃いの物が欲しい」
「うー。じゃあこの三日月の帽子飾りを。私が星を付けますから」
「やった!」



「パチュリー様」
「二人きりの時はパチュリーって呼んでよ」
「パチュリー、何で花壇にミステリーサークル作るんですか」
「気付かない?星型よ星型」
「はぁ」
「あいらびゅーん」
「外の世界の変な本読むの禁止です」
「むきゅー」
(あぁ…理性飛びそう。可愛らし過ぎ)



私の幸せな普通の日々は続く。
ずっと続く事を祈る。
ずっと守る事を誓う。
お気づきの方も多いと思いますが、この作品は作品集51 にゃお氏の「レミリア・スカーレット~誇り高き吸血姫が守った未来~」から多大な影響を受けています。
にゃお氏の作品を読んで物凄く感動し、「こんな作品を書きたい!」と思い立って執筆しました。にゃお氏の足元にも及ばない拙作ですが。
問題があるようでしたら該当部分を訂正いたします。
誤字脱字や矛盾点の指摘も受けましたら随時訂正いたします。



頭をスキンヘッドにしたら家族、友人、職場から「怖い」「ヤ○ザみたい」と言われました…
ナクト
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コメント



0.3740簡易評価
6.100煉獄削除
美鈴が紫の式だったという設定を付加したのは驚きでしたね。
けど、それを抜きにしても美鈴やパチュリーのやりとりは
読んでて面白かったです。
これからも平和な日常が続くと良いですねぇ。
11.90名前が無い程度の能力削除
こういうオリ設定も個人的にはありですね

少し戦闘描写が話の割に少なかったのがもったいないですが話はよかったですよ
24.100名前が無い程度の能力削除
とても良い作品でした。美鈴が幸せそうでなによりです。
26.100名前が無い程度の能力削除
素晴らしい!

是非これからも美鈴が幸せになるお話を書いてくたさい。

出来れば続編を
27.90名前が無い程度の能力削除
パチュリー×美鈴は新鮮で面白かったです。
二人の帽子飾りがお揃いという解釈はなかなか。
32.100謳魚削除
めーパチュ!めーパチュ!
ナクト様ありがとう!幻想郷ありがとう!
八雲一家ありがとう!
美鈴もパッチュさんも可愛らしすぎて堪んないよもう!
これで終わっても十二分に満足ですがもし続編がお有りでしたらいつまでも待たせて頂きます。
35.100名前が無い程度の能力削除
美鈴とパチュリーの組み合わせは珍しいですね
咲夜さんに嫉妬するパチュリーが可愛い
40.90名前ガの兎削除
うおお これは良いもん読ませてもろた
43.100名前が無い程度の能力削除
なんと、かわいいパチュリー。いいですねー。
52.60名前が無い程度の能力削除
ああ、やっぱりあの話からの発想なんですね。当主や狼男など類似点が多くて、あれ?あの人?と思ってしまいました
美鈴が紫の式なのは色つながりですか。いい設定だと思いました。

物語の展開が少し強引だったのと、セリフと文章のバランスが序盤終盤で崩れていたので少し点を引かせてもらいました。
63.100名前が無い程度の能力削除
大胆な設定付けが面白い
66.100名前が無い程度の能力削除
ふぅ…
88.80名前が無い程度の能力削除
突飛な設定だけど面白ければそれでよし!
過去の紅魔館には当主様(レミリアの親)がいてもおかしくないと思ってたしすんなり読めた
ただ物語の展開を急ぎすぎた気がするのでもう少し腰を落ち着けて書いた方が良く仕上がると思った