*注意!*
この作品では外の世界の物が幻想入りします。
ただ、物の中には外の世界で現役バリバリで働いてるのもあります。
その点を注意してご覧下さい。
幻想郷。
それは外の世界から隔離された人と妖怪が暮らす楽園。
外の世界から隔離され、文明は発展を終える。外の世界では当たり前となった『電気』や『ガス』などは無く、
人や妖怪は皆、質素ながらも楽しんだ生活を営んできた。
だが、時として外の世界の文明が、幻想郷に流れ着く事もある。大抵は使い道が分からず、
ゴミとなるだけなのだが、時として思わぬ形で道具を理解し、生活に役立つ事もある。
・・・そんな幻想の人妖が、外の世界の文明に出会った時、止まった幻想郷の文明が動き出す・・・。
#1「動け、鉄の馬車(前)」
今日も幻想郷は平和だ。人里には活気があふれ、里の外では妖精達が呑気に空を飛びまわっている。
時折空を切り裂くように飛ぶ烏天狗がいる以外は、いたって平和な日常だ。
「今日もいい天気ですね。絶好の取材日和です」
上空3000メートル辺りだろうか。烏天狗の少女、『射命丸文』が呟いた。右手には取材に欠かせない
写真機、左手には取材記録をまとめた文花帖を手にしている。彼女はネタを仕入れる為、妖怪の山から
出発したばかりであった。ちなみに今回彼女が狙うスクープは『衝撃!メイド長のアブナイ秘密!?』である。
「さて、そろそろ紅魔館ですが・・・?」
霧の湖に差し掛かった途端、文は突然急停止した。彼女の視界に映ったのは、昨日まではなかった白い物体と、
その周囲に群がる妖精達であった。皆首をかしげ、その白い物体を眺めている。文はその白い物体を眺めている内に、
自然と高度を落とし、気がついた時には地面に足が付いていた。
「ふむ。紅魔館に行く前に、まずはこれから取材してみましょうか」
文は妖精達を強引にかき分け、取材対象物の目の前にたどり着いた。・・・白い物体は歪な形をしていた。
長方形を凹ませた、曲線が目立つ頑丈な板。透明にも近い色をした板。触ると柔らかく、弾力がある車輪。
そして見た事もないボタンやレバー・・・。それら全てが、文の好奇心を肥大させていった。やがて、外観の一部に
引出しの取っ手のような物を見つけると、文は躊躇う事無く引っ張って見た。
「物体が動いた!」
「どうやって動かしたんだ!?」
意外と軽い音がしたかと思うと、物体の一部がまるで扉のように開いた。それと同時に、物体の内部に入れる事も
可能になった。周りからは驚きの声が聞こえるが、おもちゃを与えられた子供の目のように輝く文には、外部の声など
全く聞こえていなかった。内部に入り、椅子のような物に座る。普段使っている椅子よりも数倍座り心地はよかった。
目の前には左右に回る円盤があり、中央にはラッパのマークが描かれていた。同時に外の世界の言葉も書かれていたが、
文にはそんな事などどうでもよかった。
「外の世界の技術って、ここまで進んでいたのですね」
足もとの棒と板を踏みながら、文は呟いた。天狗は人間や妖怪よりも文明が進んでいると言われていたが、
外の世界はそれ以上の速度で文明が進んでいたのだ。そう感じながらも、さらに物体内部を捜索する文。
レバーには『P』や『D』などの文字が書かれていたが、どうやっても動かない。レバーの横についていたボタンも
押してみたが、駄目だった。レバーから手を離すと、今度は隣の座席にある引出しを開けてみた。
「色々と出てきましたけど・・・本でしょうか?」
引き出しの中には、ビニール袋に包まれた本が数冊出てきた。1冊目は、この白い物体と同じ姿が描かれている本だ。
どうやら、この物体の名前は『シビック』と言うらしい。その本を読んでいくと、このシビックという名前の物体の正体は
『車』と呼ばれる物であった。しかし、それを見てもまだ、文には疑問が生まれた。車と言えば馬が付き物だ。
しかし、外見からは馬が引っ張るような印象など全く無かった上、2冊目の本によると、なんとこれは馬を使わなくても
動くというらしい。いくら技術が進んでいるからと言って、そんな事など有り得るものか。文は内心そう思っていた。
「こんな物体が、一人で動くはずがないでしょう。もしそうだとしても、私は絶対信じませんよ」
そう言いながら、袋を引き出しの中に戻そうとする。と、何かが床に落ちた。銀色のギザギザな形をしたそれは、
“鍵”であった。一体何に使うのか。そう思い内部を見渡すと、すぐに答えにたどり着いた。左右に回る円盤の下、
いかにも怪しげな鍵穴があるではないか。文は迷わず鍵を差し込み、右へと捻り―――
ガッカカカカカ、ブォン!
「あやややや!?」
突如、白い物体が唸りを上げた。それと同時にノイズ音が内部に流れ、目の前に表示されていた針が小刻みに動き出す。
まるで生き物のように動き出した様子を見て、文はパニック状態に陥った。
「と、とにかく脱出を―――」
ピーーッ!
「ひゃあ!」
慌てて外に出ようとした文の左手がラッパのマークを押し、辺り一面に耳を劈くような高音が響いた。
周りの妖精達は我先にと白い物体から離れ、木陰でブルブルと震えている。どうにか脱出できた文は、
紅魔館とは逆の方向へと飛び去って行った。今の文にとって、とにかくあの白い物体から遠ざかる事が先決であった。
数分後。相変わらず白い物体からはノイズ音が響き、唸ったままその場から動こうとしない。妖精達はそのまま
立ち去ったらしく、周囲には誰もいない・・・いや、遠くから白い物体に接近する影が一つ。
「貴方・・・新手の妖怪かしら?」
幻想郷のお気楽巫女『博麗霊夢』。彼女とシビックとの出会いが、幻想郷の文明を動かす事となる・・・?
東方と車の組み合わせはあまり見ないので、#2からどうなるか期待