今晩は。すてきな月の夜ですね。おとなり、座ってもいいですか?
ありがとうございます。
って、あらら、あなたでしたか。お久しぶりです、雰囲気が変わっていたので気付きませんでした。また一段と薄く、ううん、ふんわり軽くなられたようで。
ひっく。
ああ、ごめんなさい。飲みすぎちゃったみたいです。八坂さんも洩矢さんも、杯を空けるとすぐ注いでくれるものですから。お外のしきたりなんですって。空にしておくと、気配りがなってないって怒られるそうです。だからって表面張力の限界に挑まれても、困ってしまいますけれど。おかげでスカートがびしょびしょです。
あなたはお酒、少しも入っていないんですね。一杯貰ってきましょうか。それとも一緒に戻りましょうか。いいんですよ、招待状がなくても。今夜は神様なら顔パスです。たくさん集まってますよ、風の方も水の方も、木霊の方も。懐かしい方も、騒がしい方も、そうでない方も、そうだった方も。聴こえるでしょう、横笛と太鼓の賑やかな音。すぐそこですよ。
あなたが来れば、みんな喜びます。
そうですか。あ、いえ、お気になさらず。欠席の方もいますし。わたしも、ずっとわいわいしたところにいると、すこし疲れてしまうので。ちょっとだけ妹が羨ましいです。あの子は場慣れしてるから。今も円陣の真ん中で酔っ払って踊ってます。
え、そうじゃない? 疲れるからじゃなくて、みんなに気付いてもらえないから?
またまた、そんな。わたし、気付いたでしょう。ちゃんとかたち、保ってますよ。しっかり神様しています。桜色のきれいな振袖です。声だって聴こえます。
「静葉さん、静葉さん」
「は、はいっ」
「此方にいらっしゃいましたか。穣子さんが捜してましたよ」
「もう少し、酔いが醒めたら戻ります」
「わかりました、伝えておきますね」
やっぱり、気付かれなかっただろう、って?
今の方は神様は神様でも、身体が人間ですもの。視えないことだってあるかもしれません。視力の差です。落ち込むことはありませんよ。
それは、まあ……人間に認識してもらえないのは、神様として悲しいかもしれませんけれど。
でも、ほら、日によって調子が良くなったり悪くなったりしますし。わたしだって、冬場は透けることもあります。すっかり忘れられたり、遠ざけられたりする日もあります。満開の墨染桜の宴席とか、里の花火大会の日とか、初雪の晩とか。
ええと、何て言ったらいいのかな。
だいじょうぶ。
多少うっすらしても、完全にいなくなっちゃうことはないんです。
だれか、たったひとりでも想っていてくれたら。ときどき思い出してくれたら、それだけで生きられる。
全員の記憶から抜け落ちるなんて、望んでもできることではないです。少なくともわたしは覚えています。仕えてくれる巫女だっているでしょう。
自信を持ってくださいな。
あなたは、この幻想郷でいちばん尊い神様ですよ。
たとえ巫女が頼りなくっても、お賽銭箱の中身がいつも寂しくても。
堂々としていてください、できれば巫女に一言言ってやってください。出会いがしらにお札をぶつけるのは反則です。この間なんて額に貼り付いて三日間取れなかったんですよ。
ふふ、ありがとうございます。良かった、笑ってくれて。
今日の宴会に間に合うように、山の木々を励まして回ったんですよ。わたしには、葉っぱを染める力はないけれど。
この間河童が言ってました。紅葉は何段階も複雑な過程を経てなるものだって。クロロフィルがどうとか。難しくてよくわかりませんでした。人間にもわからなかったんでしょうね。だから面倒な説明の代わりにわたしをつくった。紅葉の季節になると、拍手喝采で迎えてくれる。単純な信仰だけど、嬉しいです。
この子はいろは紅葉。この子は細枝楓。こうやって月光を透かすと、びっくりするほど紅く見えるんです。光って燃えているみたい。山火事と間違えそう。
南風に乗せてみましょうか。麓に届くか、妖怪の庵に届くか。あなたの巫女とお仲間のところには届かないことを願います。酒盛りの天ぷらにされちゃう。
そう、ですね。最近は人間と妖怪の距離が近くなっていますね。人里でも、あなたの神社でも、人妖が関わって生きている。夜雀の妖怪の屋台に人間が顔を出して、飲み比べを始めたり。人里の広場で、商人衆に交じって妖怪が碁を打っていたり。
悪いことではないと思いますよ。特にあなたにとっては。
神社に人が集まれば、いずれ神様の話にもなるでしょう。みんながあなたのことを考えてくれます。
それにね。長生きの妖怪と付き合う中で、里の人間たちは学ぶでしょう。今の幻想郷の成り立ちを。自分たちがどんな場所で生きていて、だれに今日を与えられているのかを。神社を訪れる人も増えるかもしれません。
あなたの可愛い巫女たちと、境界の妖怪が名声を全部持っていく?
ううん、どうでしょう。
彼らはクロロフィルの仕組みではなく、紅葉の神様を選びました。同じように、博麗大結界のシステムよりも、神様の加護を信じるのではないでしょうか。
もう、笑いたいなら笑ってください。夢見がちなんです、信じてくれる方に似て。
神様が夢を見てもいいでしょう。
こんなに喋ったのも久しぶりです。たまにいっぱい飲むとこれです。普段はもっともっと静かなんですよ。基本的に妹が応対してますし。
わたしは戻りますけど、本当に来ませんか?
はい。では、気が向いたらいつでもいらしてくださいね。最高のお酒と音楽と、黄金色のお化け銀杏が待っています。踊りの相手は随時募集中です。
え?
……ありがとう、ございます。面と向かって褒められると、照れますね。
来年は、さらに美しい幻想郷をお見せします。山の端から滝の岩場、人里の外れの狭い小路まで。いずこも忘れることなく、鮮やかな落葉絵巻を繰り広げましょう。
また今度。
ありがとうございます。
って、あらら、あなたでしたか。お久しぶりです、雰囲気が変わっていたので気付きませんでした。また一段と薄く、ううん、ふんわり軽くなられたようで。
ひっく。
ああ、ごめんなさい。飲みすぎちゃったみたいです。八坂さんも洩矢さんも、杯を空けるとすぐ注いでくれるものですから。お外のしきたりなんですって。空にしておくと、気配りがなってないって怒られるそうです。だからって表面張力の限界に挑まれても、困ってしまいますけれど。おかげでスカートがびしょびしょです。
あなたはお酒、少しも入っていないんですね。一杯貰ってきましょうか。それとも一緒に戻りましょうか。いいんですよ、招待状がなくても。今夜は神様なら顔パスです。たくさん集まってますよ、風の方も水の方も、木霊の方も。懐かしい方も、騒がしい方も、そうでない方も、そうだった方も。聴こえるでしょう、横笛と太鼓の賑やかな音。すぐそこですよ。
あなたが来れば、みんな喜びます。
そうですか。あ、いえ、お気になさらず。欠席の方もいますし。わたしも、ずっとわいわいしたところにいると、すこし疲れてしまうので。ちょっとだけ妹が羨ましいです。あの子は場慣れしてるから。今も円陣の真ん中で酔っ払って踊ってます。
え、そうじゃない? 疲れるからじゃなくて、みんなに気付いてもらえないから?
またまた、そんな。わたし、気付いたでしょう。ちゃんとかたち、保ってますよ。しっかり神様しています。桜色のきれいな振袖です。声だって聴こえます。
「静葉さん、静葉さん」
「は、はいっ」
「此方にいらっしゃいましたか。穣子さんが捜してましたよ」
「もう少し、酔いが醒めたら戻ります」
「わかりました、伝えておきますね」
やっぱり、気付かれなかっただろう、って?
今の方は神様は神様でも、身体が人間ですもの。視えないことだってあるかもしれません。視力の差です。落ち込むことはありませんよ。
それは、まあ……人間に認識してもらえないのは、神様として悲しいかもしれませんけれど。
でも、ほら、日によって調子が良くなったり悪くなったりしますし。わたしだって、冬場は透けることもあります。すっかり忘れられたり、遠ざけられたりする日もあります。満開の墨染桜の宴席とか、里の花火大会の日とか、初雪の晩とか。
ええと、何て言ったらいいのかな。
だいじょうぶ。
多少うっすらしても、完全にいなくなっちゃうことはないんです。
だれか、たったひとりでも想っていてくれたら。ときどき思い出してくれたら、それだけで生きられる。
全員の記憶から抜け落ちるなんて、望んでもできることではないです。少なくともわたしは覚えています。仕えてくれる巫女だっているでしょう。
自信を持ってくださいな。
あなたは、この幻想郷でいちばん尊い神様ですよ。
たとえ巫女が頼りなくっても、お賽銭箱の中身がいつも寂しくても。
堂々としていてください、できれば巫女に一言言ってやってください。出会いがしらにお札をぶつけるのは反則です。この間なんて額に貼り付いて三日間取れなかったんですよ。
ふふ、ありがとうございます。良かった、笑ってくれて。
今日の宴会に間に合うように、山の木々を励まして回ったんですよ。わたしには、葉っぱを染める力はないけれど。
この間河童が言ってました。紅葉は何段階も複雑な過程を経てなるものだって。クロロフィルがどうとか。難しくてよくわかりませんでした。人間にもわからなかったんでしょうね。だから面倒な説明の代わりにわたしをつくった。紅葉の季節になると、拍手喝采で迎えてくれる。単純な信仰だけど、嬉しいです。
この子はいろは紅葉。この子は細枝楓。こうやって月光を透かすと、びっくりするほど紅く見えるんです。光って燃えているみたい。山火事と間違えそう。
南風に乗せてみましょうか。麓に届くか、妖怪の庵に届くか。あなたの巫女とお仲間のところには届かないことを願います。酒盛りの天ぷらにされちゃう。
そう、ですね。最近は人間と妖怪の距離が近くなっていますね。人里でも、あなたの神社でも、人妖が関わって生きている。夜雀の妖怪の屋台に人間が顔を出して、飲み比べを始めたり。人里の広場で、商人衆に交じって妖怪が碁を打っていたり。
悪いことではないと思いますよ。特にあなたにとっては。
神社に人が集まれば、いずれ神様の話にもなるでしょう。みんながあなたのことを考えてくれます。
それにね。長生きの妖怪と付き合う中で、里の人間たちは学ぶでしょう。今の幻想郷の成り立ちを。自分たちがどんな場所で生きていて、だれに今日を与えられているのかを。神社を訪れる人も増えるかもしれません。
あなたの可愛い巫女たちと、境界の妖怪が名声を全部持っていく?
ううん、どうでしょう。
彼らはクロロフィルの仕組みではなく、紅葉の神様を選びました。同じように、博麗大結界のシステムよりも、神様の加護を信じるのではないでしょうか。
もう、笑いたいなら笑ってください。夢見がちなんです、信じてくれる方に似て。
神様が夢を見てもいいでしょう。
こんなに喋ったのも久しぶりです。たまにいっぱい飲むとこれです。普段はもっともっと静かなんですよ。基本的に妹が応対してますし。
わたしは戻りますけど、本当に来ませんか?
はい。では、気が向いたらいつでもいらしてくださいね。最高のお酒と音楽と、黄金色のお化け銀杏が待っています。踊りの相手は随時募集中です。
え?
……ありがとう、ございます。面と向かって褒められると、照れますね。
来年は、さらに美しい幻想郷をお見せします。山の端から滝の岩場、人里の外れの狭い小路まで。いずこも忘れることなく、鮮やかな落葉絵巻を繰り広げましょう。
また今度。
話し相手の神様のチョイスもいいですね。最初は誰だかわからなかったw
ぼちぼち秋も終わって冬になりそうですが、このSSのような秋姉妹のお話がもうちょい増えるといいなぁ。
10.様。寒い季節になりつつあります、東京で木枯らし1号も吹いたそうで。お風邪にはご注意ください。素敵なお話が読めると嬉しいです。
妄想広がリング様。旧作を遊んだことはないのですが、お話を聞いたり、プレイ動画を見たりしているととても楽しそうです。魅魔様、いずれ出てくるのでしょうか。
ほんわかして良い感じのお話でした。
魅魔様は公式じゃ違いますしね・・・気になるなぁ
でも魅魔様って,旧作の設定もきになりますね.
あ、踊りの相方は紹介しましょうか?w