名も無き妖怪の娘が語る――。
◇
無用、無用。
私を退治するなど無用。
飢えと手傷の二重苦に捕らわれたこの身なれば、あなたが手を下さずとも、あと数刻のうちには力尽きましょう。
その針もお札もただというわけではないのでしょうし、いたずらに使い減らすこともありますまい。
えっ、そうは言っても懲らしめないわけにはいかない?
その男はお前が殺したんだろうって?
――ああ、なるほど。
言われてみれば、そう見えるのでしょうね。
こんな夜更け、こんな山奥、男の屍の傍にぽつんと妖怪がおれば、それは殺しの下手人に違いなしと見るのが道理というもの。
ですが、違うのです。
彼の命を奪ったのは、それ、そこに転がっている鉄砲です。
あなたも、こんな時分に鉄砲の音が聞こえたのを怪しんでここに駆けつけたのでしょう?
私は鉄砲の扱いを心得ておりませんし、この牙も爪も彼の身体には傷ひとつ……おっと、これは言い過ぎというものでした。
ここ、彼の右手、小指が根元から欠けているでしょう。
これは確かにこの私が食いちぎり、今や我が血肉と化したものです。
――いやいや、その針は引っ込めて頂きたい。
決して、殺して食ったわけでも、食い殺したわけでもないのです。
人が死に、そこに妖怪がおれば、事情はどうあれあなたには同じに見えるのかもしれませんが、私にとってはこれが大違い。
彼がこうして死んでいるのにも、私がこうも飢えながら彼の指一本から先を食べずにいるのにも、それなりの経緯というものがあるのです。
よろしい。お話ししましょう。
あと数刻、その数刻を、実のところ私はこれまで生きたどの時間よりも惜しんでいるのです。
それを今、あなたに終わらされたくはない。むろんこれにも理由があります。
さあ、飢えに手傷のこの身なれど、まだまだ口は動くようです――。
◇
あの日も、私はこの界隈で飢えておりました。
どうも私は、狩りというものが得意な方ではないのです。
空腹で目が回り、なけなしの体力でふらふら歩いても木の実ひとつ見つからず、これは遠からずお迎えがくるかな――そう思っていた時です。
この男が通りかかったのです。
彼は猟師でした。
その日の収穫は上々だったと見えて、三羽の雉を肩から下げ、意気揚々と歩いていました。
本来ならば「獲物を見つけた」と大喜びすべきところなのでしょうが、その時の私はもはや思うようには動けないほどに弱っていました。おまけに相手は鉄砲を持っている。
幸運どころか、これはいよいよ運の尽きかな――半ば諦めた気持ちで身を小さくする私に、男が気付きました。
妖怪か? そう彼は尋ねてきました。
そうだ、と私は答えました。
今にして思えば、ここで正直に答えたのはいかにも愚かでした。自衛のためには、自分は人間の娘であるとか何とか、相手を謀るべきだったのかもしれません。やはり私は賢くない。
ともあれ、そんな私に彼は鉄砲を構えるでもなく、腕を組んでしばらく何事かを思案している様子でした。
そして彼は――私に雉をくれたのです。それも、三羽の中で一番太ったやつを。
夢中で食べました。羽根をむしるのも忘れて、口の周りを血だらけにしながら。
妖怪と人間とはいえ、娘が男の前でする振る舞いではなかったかもしれませんね。
食べ終わって、ようやく腹が落ち着いて。
その間ずっと私のことを見ていた男に、私は問いました。どうして妖怪の私を助けるのか、と。
はて、と彼は言い、少しうつむいて、ぐるぐると考えるそぶりを見せました。
それからふと顔を上げて、わからん、と言いました。
助けてもらった私が言うのもなんですが、彼のした事も立派な愚行だと思いますよ。
弱った人食い妖怪を殺さずにおくばかりか、わざわざ動けるようにしてやったわけですからね。
ひとまず腹が膨れたとはいえ、私が明日の糧のために男を殺したって誰も文句は言わんでしょう。
ただ、その男のあまりに堂々とした浅はかさに、私も拍子抜けしてしまいました。
生まれて初めて誰かから物を恵んでもらった、という事に戸惑っていたせいもあります。
とにかく私は「ありがとう」とだけ言い、男がうなずくと、何事もなく私達は別れました。
次にこの山で男に遇ったとき、彼は脚に怪我をしていました。
直ちに命に関わるような怪我ではないものの、ほとんど歩くこともできない様子でした。
このまま山を出られずに夜を迎えれば、闇に紛れた獣なり妖怪なりが彼を殺すことだろう――私は彼を見てそう思いました。
……彼を?
いえ、襲おうという気持ちは不思議にも湧きませんでした。
ちょうどその時の私は、一羽の山兎を腹に収めたばかりで、さしあたり何も食う気が無かったからかもしれません。
――すまんな。今日は何もやるものがない。
私を認めるなり、彼はそう言いました。
おかしいでしょう? おめでたいでしょう?
身動きもとれない人間が、山奥で妖怪に出くわした時にする挨拶じゃあない。
その滑稽さにすっかり楽しくなってしまった私は、ひとしきり笑った後、今はお腹が空いていないから、と言って彼を担ぎました。
気まぐれです。
ただの気まぐれですよ。
私は戸惑う男を抱えたまま山を下り、里に近い所で彼を転がしました。
ありがとう。
お前は命の恩人だ。
この恩は生涯忘れん。
知っている感謝の言葉を総ざらいしてるんじゃないかと思うほどに、彼は繰り返しました。
そういえば、誰かに感謝されるというのも、私にはあれが初めてだったような気がします。
それから今まで、幾度も彼と逢いました。
彼の通る山道を知ってからは、私もなんとはなしにその辺りを散策することが増えたのです。
うまくできたもので、二人が逢う時は必ず、私が食うに困っていないか、彼が余分な獲物を持っているかのどちらかでした。だから私は彼を襲って食べる必要がなかったのです。
私は、彼に何かを貰って食べる度に尋ねました。どうして妖怪の私に世話を焼くのか?
わからん。彼は決まってそう答えました。
……ただ、ええと、あれはいつだったかな。
何度目かにその質問をした時、彼はちょっと怒ったような顔になって、こう言ったのです。お前こそ――
お前こそ、どうして妖怪に生まれてきたのだ。
困りました。
そんな風に問い返されるとは思いませんでした。
私が妖怪なのは、あなたが人間なのと同じで、神様が初めっから決めていた事でしょう――私はそう答えるしかなかった。
そうだな。まったく、そうだよな――。
彼が私の返答に納得したのか、失望したのか。
私には判りませんでした。
そして、今日。
いや、そろそろ昨日になりますか。
私はまたも飢えていた上に、ご覧のとおり傷まで負っていました。
この怪我?
熊ですよ、熊。
食べ物を横取りしようとして、返り討ちにあったんです。
根が鈍いんでしょうね、私は。
この歳まで生きてこれたのは、むしろ運が良かったのかもしれない。
傷で死にはしないが、治るまで待っていたら飢えて死ぬ――そういう状況でした。いつだったかの彼と同じようなものです。
いつかと同じといえば――ええ、期待が無かったといえば嘘になります。彼が来てくれないかな、とね。
そうしたら――本当に現れたのですよ。彼が。
あの時はさすがに、因果だか縁だか、そういうよく解らないものを感じました。
ただ、以前とは事情の違っているところもありました。
一つは、私が傷を負っていたこと。
そしてもう一つは――彼が鉄砲以外に何も持ち合わせていなかったということです。
彼は私の状態を一目見るなり、「待ってろ」と言って踵を返し、来た道を戻っていきました。山の、奥深い方にです。
もう夕陽が差し始めていて、人間はすぐにでも山を下りなければ危ない時分だというのにね。
私はぼんやりと膝を抱えながら、山奥のどこかから立て続けに響いてくる鉄砲の音を聞いていました。
ああ、ろくに狙いもつけず、闇雲に撃ってるんだな――素人の私にもそう判るような撃ち方でしたよ。
なにしろもう、人間の目で獲物が見えるような明るさではなかったのです。
とうとう真っ暗になり、なにも聞こえなくなってしばらくした後、泣きそうな顔をした彼が、ゆらりと月明かりの中に現れました。
傷だらけの泥だらけ、いっそ私よりも彼の方が憐れに見えるくらいの、本当にボロボロの様子でした。
すまん――。
彼はかすれた声でそう言って、私の傍に膝を突きました。獲物がないのは明らかでした。
気にしないで、と私は返しました。
その時の私は、慌てるわけでも嘆くわけでもなく、不思議に安らいだ心地でいたのです。
それどころか、死ぬ前に彼の姿を見ることができて、なんだか得をしたような気分でさえありました。何故でしょうね? 腹が膨れるわけでもないのに。
それからしばらくの間は、二人ともただ黙っていました。
まんまるの月が昇り始めていました。
そのうちに、不意に彼が、私と彼の間の地面を「ばしん」と叩きました。何かを心に決めたように。
いや、実際のところ彼は決めていたのです。
彼は私の目を見据えて――何て言ったと思います?
俺を喰え、ですよ。
耳を疑いました。
昔話の兎じゃあるまいし、ひとを助けるために自分を喰えだなんて。
私がそれまで食べてきた人や獣の中で、自ら喰われることを望んだものなんていやしなかった。皆それぞれに、逃げ回ったり爪を立てたり泣き叫んだりして、喰われることを呪い、死ぬことに抗っていました。なのに――。
彼は本気でした。
どこまでも本気の目をしていました。
私はなんだか恐ろしくなりました。
そりゃあ、獲物の方から口に飛び込んできてくれるというんだから、私は諸手を上げてかぶりつくべきなのかもしれない。
ですが、知恵も情緒もあろう人間が、それもよくよく見知った顔が、薮から棒にそんな事を言い出したのですよ。戸惑いもするでしょう。
痛いよ? と私は言いましたが、構わん、と彼は答えました。
死ぬよ? と私が言っても、構わん、と彼は答えたのです。
一体この男はどういう神経をしているのか。私はすっかり怯えてしまいました。
もはや、この期に及んで「わからん」では済まされません。半分泣きそうになりながら、私は問い立てました。どうして、どうしてそこまで私を――。
それに対して、彼の答えは、
……。
いや――。
やっぱり、彼のその言葉くらいは、私一人だけの胸にしまっておいても構いませんよね。
私もその、どうやら、女、だったようですから。
今更ながら、まったく今更ながら、そんな気分なのです。
ともあれ、そこから先はもう一本道です。
彼は私の返答を聞こうともしなかったし、そもそも私は頭の中がぐらぐらで何も言えなかった。
淡々とした様子で彼は鉄砲を取り出し、
――流石に、生きながら喰われるのはぞっとせんからな。
むしろ軽いくらいの調子でそう言いながら、鉄砲に弾を込めて、
――どうせ、生きては一緒になれぬ身だ。
その筒先を、自分の胸に押し当て、
――なあ。俺と一緒になってくれないか――
屈託のない笑顔で、
◇
はい、これが事の顛末。
愚かです。
実に愚かですよ。
人喰い妖怪と自分の命を引き換えにするなんて。
それに、結果から言ってしまえば、私の命だって救われはしなかった。これでは彼は無駄死にです。まあ、それについては、もっぱら私の側に責任があるわけですが……。
彼が事切れるのを呆然と見届けた後、しばし私は金縛りにあったように、じっと彼の死に顔を見下ろしていました。
どうしてか、さあ飯だ喰うぞ、という気持ちにはなりませんでした。どちらかといえば、ああ食べなきゃ、という感じだったのです。
俺を喰え。
彼の、最後から幾番目かの言葉を反芻し、それに追い立てられるようにして、私はまだ生温かい彼の右腕を持ち上げました。
顔を寄せると、その手は火薬の臭いがしました。私は何日かぶりにモノを喰うために顎を開き、彼の小指の根元に歯を立てて、がりっと噛みちぎりました。
とろとろと頼りない勢いで傷口から血がこぼれ、私の口の中にも血の味が染み渡りました。
人間の指一本分の肉を、骨を、よくよく噛み締め、ごくりと飲み下しました。
そうして私は――それだけで、いっぱいになってしまったのです。
いっぱいって何がって?
私にも判りません。
ただ、腹でないのは確かです。現に私は今も猛烈に飢えている。
なのに、駄目なのです。
腹以外のどこか、私の知らないどこかが、本当にいっぱいになってしまって、雉や兎なんかよりよほど旨いはずの人間の肉を、それ以上少しも食べられなくなってしまったのです。
だから私は、やはり、このまま飢えて死ぬのでしょう――。
愚かです。
たかが妖怪のために己が身を差し出す彼も愚かなら、それをみすみす無駄にしてしまう私も愚かです。
ただ、無駄なら無駄なりに、せめて私が死ぬまでの間くらいは、この彼からの贈り物を自分だけのものにしておきたい。そう思うのです。
だからこうして、彼の死に顔を膝に乗せて、さっきからずっと眺めているのですよ。だんだん、良くは見えなくなってきましたけどね。
どうしました? 急に背を向けて。
退治するだけ無駄だからやめる?
終わった頃にまた来る?
そうですか。その時には彼をよろしく。
ああ――いい月ですね。
◇
月の光と、地の闇に包まれて、
男の屍を膝に抱く、名も無き妖怪の娘が一人、
今際のその唇が、声にならぬ声で、
――あなた、と動く。
感情の機微が人間側に傾く描写をもう少し詳しく見たかったのと、「必要性と価値」という言葉を汲み取ってちょっとだけ減点を。
そう思えました。
素性のわからない妖怪と猟師のちょっと穏やかで、だけど悲しい話。
二人はきっと想いあっていたのでしょうね。
だからこそ、妖怪は一口食べただけで満たされてしまったのだなぁ・・・と。
このような事があるかもしれないお話、大変面白かったです。
細々と語り継がれる、ものがたりのようなお話でした。
うまく言葉が見つかりませんが、良かったです。
それらを知ってる人同士が見たり読んだりするから、面白いと感じるんだと思います。
想いの広がる可能性を感じました。
催促するわけではないのですが、また機会があれば幻想郷のどこかの、名前も記されないような人や妖怪の話を読んでみたいです。
東方のSS読んだきになれんなー
読者のイメージ力に全てを任せる非常に挑戦的な作品ですが、
其れゆえの読後の喪失感と満足感のある、不思議な心地よさがありました。
そういえば東方の妖怪はなんでみんな少女の姿をしているのかと、普段は考えないことまで気にしたりしてみたり。
キャラではなくワールドを使った二次創作も素敵です。
レスに既出ではありますが、半人半妖という存在を知らぬが故の悲話
嗚呼、知っていれば… と思える余地があるのですからこれは紛れも無く東方かと。
東方のキャラクターはほぼ出ていないとは言え、この世界観は間違いなく東方ならでは、と思います。
話も文も上手かったですし、減点するところは何一つありません。良いものを読ませていただきました。
俺の拙い脳みそでも
舞台:幻想郷
退治しようとしている人:霊夢
くらいは読んでりゃパッと浮かんでくるし
ストーリー的にも東方の世界観に沿った良いものだったと思う。
何にせよ楽しませていただきました。
ありがとう。
ただ、ストーリーがよく有りそうな話だと思えてしまったのが残念です。
(作者様の発想がというより、自分がそう思ってしまったことが。)
超良かったです
ただ、私にはこれが創想話に投稿する東方のSSだとは思えません。
理由は単純。キャラクターにしても世界観にしても、この作品の中に東方ならではの要素が
見当たらないからです。
針とお札を持っていれば霊夢である、なんてことはないでしょう。
ではどういうジャンルの小説かというと、『オリジナルの民話』ではないかと。
東方の原作キャラを登場させないにしても、せめて幻想郷が舞台であることを読んでいて
確信できる内容であれば、また違った評価ができたのですが……。
以上独り言でした
ともあれ、ありがちな発想をテンポ良い語り口調で魅せる文章力には脱帽っすね。次作も期待、という意味をこめてこの点数。乙
間違いなく、ここは幻想郷だ。
責めて、あの世で二人が一緒に…いえ、来世でも一緒に居られますように…
もしかしたらこの出来事が巫女に自分の代で結界を引かせる決意をさせたのかも知れません。
単純な物語ですが良い読み物だと思います。
とは言えあまりに読者の受け取り方に丸投げであり
東方の二次としての価値はあっても必要性はないことから点は無しで
賛否は両論あるようですが、私はまたあなたに書いていただきたい。
人を自分の感性の中へ取り込むのではなく、読み手の感性を刺激する書き方もまた一つの手法ではないでしょうか?
確かに東方分は少しばかり少ないかもしれませんが、たとえばこんな話があってもいいし、こんな側面を想ってもいいのではないかと思います。
ですので、コメントやアドバイスはともかく、ただ貶すだけの言葉は自重することをお勧めします。
まぁ『東方』として読むか、『幻想郷』として読むかで評価は変わるでしょうけど、個人的には好きな話でした。
文章は読みやすく特に変な部分も無いですが、少々『―』多用傾向にあると感じます。
別に『―』多用が悪いわけではないですが、文章力に幅と深みを出したいのであれば、少しばかり控え、別の表現を模索しても良いかも知れませんね。
また空白も多用傾向ですが、これについては『小説』と『SS』どちら寄りの形式にするかで使用頻度が変わると思います、まぁそこらは作者様の勝手と言うことで。
ただ、より『小説』寄りにしたいなら空白も多少控える方が良いかもですね。
偉そうな物言いで申し訳ありません。
では、駄文乱文失礼しました。次作も期待しています。
スタンスも違うでしょうな
価値観、考え方も違うでしょうな
…まぁ、そんな難しいコトは置いといて
来世では、どうか幸せに…
すごい読みやすかったです。
すっごく質のいいよくある話。
もし、東方ではなくとも幻想郷ではあるかと。
ありがちですがいい話でした
創想話の空気にはちょっと合わないように思います。
私自身はこーゆーの好きなんですけどね。
そこが舞台ならば、種族を超えた愛が芽生えるのは自然なことでしょう。
上手く通い合うことが出来ぬからこその純粋な想い。
またこのような物語にお目にかかりたい、と思わずにはいられない作品でした。
人と妖との逢瀬、その最期の時、彼は彼女を愛するゆえに自らの命を絶ち、彼女は彼を愛するゆえに彼を食えず、命尽きるその時まで彼の屍を抱き続ける。
二人の愛は確かに本物で、ただ二人のいたところが幻想郷で、彼と彼女は喰い喰われる間柄だった。それだけの事だったんだと思います。
死に行く彼女による淡々とした語り口も何より上手い。
ああ――いい月ですね。
この一言で泣かずにはいられませんでした。
良い作品をありがとうございました。
特に慣れない感情に振り回されている事すら自覚していないところが微笑ましくさえ思われます。
この物語を読み終えると、ついつい二人に他の道は無かったのか――などと考えてしまいますが、
きっとこの結末こそが幸福な選択肢の一つだったのかも知れませんね。生きて苦を知るさだめなら、
永久に気持ちは二人の中に……そんな事を思わされた作品でした。
極端にいえば昔の日本のお話という設定でも成立してしまう。
確かに幻想郷は古き日本に近いものかもしれませんが、違いは重要かと…
ただ純粋に面白かったです。
あなたの言う「文章の力」に負けましたね。
少なくとも私にとって読む価値のあるSSであったのは確かなのでこの点数を。
これは、良い。
名前のあるキャラだけが幻想郷の住人じゃないんだなぁと思った。
心中に臨む男女に哀切と儚さを感じるのは、日本人的な無常観の特色ですね。大仰な悲劇性に酔いしれる風ではなく、あくまでも、少しの嘆きを含む風な。
我々から見ればこの物語には東方らしさが欠けているとか言い分は有りますが、それはこれを作品として見ている神の視点からの物言いでありましょう。しかし、これが語り部たる娘の独白であることを考えれば、何ら問題はなくなると思います。
我々の知るキャラクター達がいる一方で、映されていない住人もいる。『幻想郷』に生きる何の変哲もないただの妖怪と、ただの人間の物語としては、この小説には感じ入るものがありました。
作品に対する感想は「バカが」だけど