一方、ここは無縁塚。死者の魂が裁きを受ける為に集う場所である。
だがいつもは閑古鳥が鳴くほどに殺風景であるこの場所に、なにやら異変が起きていた。
なんと塚全体が死者の魂で溢れ返っていたのだ。
それもそのはず、霊魂を向こう岸まで運ぶ渡し舟を務めていた小町がいなくなってしまったのだから、当然と言えば当然である。
だが不思議にも、その小町がいないにも関わらず、渡し舟は動いていたのである。
しかしその動きはぎこちなく、フラフラとまるでナメクジが這うように方向が定まらないまま、なんとか向こう岸にたどり着こうと動いていた。
その漕ぎ手は素人なのか。だがよくよく見てみれば、どこかで見たことのある姿。
身長より遥かに長い櫂に振り回されそうになりながらも、一生懸命前に進もうと踏ん張っている。
それはなんと、映姫本人だった。
自分の身勝手な一言が小町を傷つけてしまった事を後悔し、自分への罰の意味を含めて、小町の代わりに渡し舟の漕ぎ手を受けもったのだ。
だが慣れない力仕事などスムーズにこなせるわけもなく、先程から思うように動いてくれない舟を必死に堪えながら漕ぎ続けていた。
しかし彼女の体力は既に限界を超えており、顔色は真っ白になっている。いつ倒れてもおかしくない、そんな紙一重の状態を映姫は気力だけで自分を支えていた。
「はぁっ、はぁっ……。もっと、もっとペースをあげないと……」
肩で息をしながら呟き、それでも映姫は自分の体に鞭打ちながら櫂を動かす。
「小町が出ていってしまったのは、私が原因……なのだから……」
そんな映姫の様子を見ていた霊魂達は舟の一ヶ所に寄り合い、なにやらヒソヒソと呟いていた。
そしてその中の一つの霊魂がポウッと赤く光り始め、いきなり映姫に対し体当たりを仕掛ける。
対する映姫は櫂を動かすことだけに集中していた為か、咄嗟に行動に移ることができなかった。
気配に気付いた時には既に遅く、振り返った時には霊魂がもう目の前にまで迫ってきていた。
<ドンッ!>
「キャアッ!!」
霊魂の体当たりをもろにくらってしまった映姫は船底に腰を強かに打ち付けてしまい、櫂を落としてしまった。
「なっ、なにをするのです!!」
腰を擦りながら映姫は立ち上がる。しかしその声は突然途切れてしまった。
なんと舟に乗せていた全ての霊魂が赤く光っていたのだ。
そして映姫を嘲笑うかのように周囲に広がり、映姫を睨み付ける。
「ば、馬鹿な真似はよしなさい!自ら地獄に堕ちたいと言うのですか!?」
映姫も負けじと声を張り上げる。だが弱りきってしまった体は思うようには動いてくれず、立っているのがやっとである。
足はガクガクと震え、それと同時に今まで感じた事の無かった恐怖心が一気に映姫の心を支配した。
すると霊魂達は映姫のそんな姿を見て一層激しく光り出す。
そして今がチャンス!と言わんばかりに一斉に襲い掛かった。
「い、いやぁぁぁーー!!」
映姫は叫び声と共に両手を顔の前で交差させ、蹲まることしかできなかった。
そして、正に霊魂が映姫に飛び付こうとしたその時!
<ジャキンッ!>
金属が擦れるような鋭い音と共に、霊魂達は全て真っ二つに裂かれていた。
それと同時に何者かが降り立ったのか、舟が急に左右に大きく揺れた。
<ザプンッ!……>
いったい何が起こったのか、映季には全く分からなかった。
そして彼女は固く閉ざしていた瞳を恐る恐る開く。
微かに見える前方には、少しクセのある赤いショートヘアーの女の子。
「裁きを受ける分際で閻魔様に楯突こうだなんて、身の程を知りなっ!」
そしてこの聞き覚えのある、どこか懐かしい声……。
「ま、まさか……小町なの!?」
驚きのあまり、裏返った声を発しながら映姫は問いかける。
右手に握られた大きな鎌。間違いない、その正体は小町だった。
彼女は妖怪の山を抜け出した後、この河に向かっていたのだ。
「怪我はありませんか、映姫様!」
小町は映姫の体を抱き上げながら尋ねた。
しかし映姫は今一つ状況が飲み込みきれてないのか、焦点の定まらない瞳で小町を見つめていた。
「小町……何故、何故あなたがここに?」
「まぁ細かい話は後回しにして、ひとまず戻りましょう」
「でっ、でも櫂を落としてしまって……」
「なら予備を使いましょう。後は私に任せてください」
「小町……」
すると小町は舟の側面にくくりつけていた予備の櫂を取り出すと、慣れた手つきで向こう岸に向けて漕ぎ始めた。
映姫はそんな小町の様子を見つめながら、現状を頭の中で必死に整理しようとしていた。
そして岸に着いた後、小町は腰を痛めてしまった映姫を抱きかかえて館に向かった。
「小町……どこに行くのですか?」
「もちろん映姫様の寝室ですよ。今はゆっくり休んでください」
「しかし、あれだけの霊が裁きを待っているんです。私が休んでいては……」
「だからいけないんです!こんなフラフラの状態で裁きを下すなんて無理です!」
小町は真剣な眼差しで映姫を怒鳴り付けた。
「こ、小町……」
その剣幕にさすがの映姫も威圧され、なにも反論できないまま小町を見つめていた。
対する小町もさすがに言い過ぎたかと火照った気持ちをクールダウンさせ、一呼吸ついた。
「ふぅっ……映姫様、お願いですから無茶しないでください」
「……」
「確かに死者の霊に裁きを下せるのは映姫様しかいません。それに対する責任も重くなることだって分かってます。ですがそのあなたが倒れたら……」
小町は心配そうな目で映姫を見つめる。そんな彼女の視線が気になってか、映姫は直視することができなかった。
「これからはもうサボったりしません。ですから無理は・……」
「……小町」
小町の言葉を遮って映姫は突然尋ねた。
「は、はい……」
「あなたが船頭をしている時も、ああいう悪霊はいるのですか?」
「え?ああ、さっきの奴らですね」
やはり館を飛び出した事を怒られるのかと一瞬身構えたが、意外な映季の質問に小町は逆にギクシャクしてしまった。
「時々いるんですよ。未練を残したままだったり、悪事の限りを尽くした霊魂は逆らってくる事もあります」
「そうですか……」
「そういう不届きな霊魂もいますから、気が抜けないんですよね~」
苦笑いを零しながら小町はそう答えた。
すると、小町は映姫の顔を見てふと何かを思い出したかのような表情で言った。
「……あ、あの髪飾り。使ってくれてるんですね」
「こ、これですか?せっかくあなたが私の為に用意してくれたものなんですから、使わないと」
「あはは……いや、使ってくれて嬉しいですよ」
小町は苦笑いを浮かべながら答えた。
しかし二人の会話はそこで途切れてしまい、なにやら気まずい空気の中、急いで寝室へと向かった。
それから程なくして二人は寝室に到着し、映姫をベットの上に優しく寝かせた。
かなりの疲労が溜まっていたのも手伝って、彼女は横になってすぐに目を閉じた。
だいぶ無茶をしたのだろう。いつもはピシッと着こなしている服もヨレヨレになり、所々に擦り傷を負っている。
そんな痛々しい映姫の姿を見ていて、小町の胸には詰まるような想いが立ち込めてきた。
そして小町はそのままそっと部屋を出ていこうとドアノブに手をかけた時。
「小町……待ってください」
眠っていたはずの映季に呼び止められた。
ビクゥ!!と肩を震え上がらせ、小町は恐る恐る振り向く。
「な、なんでしょうか……?」
先程まで横になっていた映姫はベットから起き上がり少し俯き加減に正座をしていた。
そして両手を地面につけ、深々と頭を下げた。
「本当にごめんなさい」
「…………ええええっ!?」
映姫の取った行動が小町の予想を遥かに反していたのか、思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。
「い、いきなりどうしたんですか映姫様!?」
「……やはり、変ですか?」
「いえ、そんなことはありませんが……何故あたいに謝るんです?逆にこっちが謝らなくちゃいけないのに……」
少しの間沈黙が場を支配したが、程なくして映姫が少しずつ語り始めた。
「……今回初めて渡し舟の業に就いてみましたが、本当に辛い仕事なのですね」
「えっ?あ、ああ……もうあたいは慣れましたからそんなに苦でもありませんが……」
「でもそれは、あなたが今まで苦労してきたからこそです。それにあの時、あなたが来てくれなければ今頃どうなっていたか……」
「間一髪でしたが、何とか間に合ってよかったです。あんな感じに逆らってくる霊魂も稀にいますし……」
「ええ。……それに今回のこの騒動、全ての責任はこの私にあります」
「まぁ……あの時はちょっとショックでしたが、あたいもサボっていたんですから文句は言えないんですけどね」
苦笑いを浮かべながら小町は頭を掻く。
「しかしいくら独り言とはいえ、あなたを傷つける発言をしてしまったのは事実。本当にすいませんでした」
映姫はまた小町に頭を地面につけて謝った。
その行動を見て逆に恥ずかしくなった小町は慌てて両手を左右に振った。
「や、やめてくださいよぉ!私はそんなつもりでサボってたわけじゃ……」
「……つもり?ということはあなたがサボっていたのは何が理由があるのですか?」
「えっ!?いや、その……」
「……お願いです、何か訳があるのなら教えてください」
映姫は切実な表情で見つめる。そのあまりにも真剣な眼差しを小町は直視することができなかった。
「うー……わ、分かりました……」
とうとう我慢できなくなったか、小町はしぶしぶ口を開いた。
そして文に話した『怠けてた本当の理由』のすべて映季に話した。
小町の話を聞き終えて映姫は目を白黒させていた。
「あなたが怠けていたのは、私の為……だったというのですか!?」
映姫は身を乗り出して小町に尋ねる。
「ひゃっ!ま、まぁそんな理由もあったにはあったんですが……今じゃただの言い訳にしか聞こえませんよね、ハハ……」
冷や汗をかきながらも小町はやっぱり言うべきじゃなかったと後悔していた。
だがその映姫の反応はまたしても予想外だった。
「あなたにまで心配をかけてしまうとは……。私のやり方はやはり間違っていたのでしょうか」
急に映姫は大人しくなり、俯いたまま小さくなってしまった。
そんな彼女の姿を見て小町は一つため息をつき、ゆっくりと話し始めた。
「映姫様、決して間違ってはないんです。あたいが言うのもなんですが、映姫様はホント頑張ってると思いますよ」
「ええ。私に与えられた業務を忠実にこなす。それだけの念頭に置いてひたすら閻魔としての業に努めてきたつもりです」
「ごもっともです。でも映姫様には一つだけ欠けてるところがあるんですよ」
「私に欠けているところ?」
「ええ、それはペース配分ができないってとこです」
「ペース……ですか?」
「確かに映姫様のこなす仕事量は凄いです。でもそれに比例して疲労・ストレスも溜まってきているはずです」
「そんな感じはしませんが……」
「それはただ疲れきっている状態に慣れてしまってるだけです。このままの状態が続いたら、いつか本当に倒れちゃいますよ」
「そ、そうですか……」
「だからもうちょっと、いえもっとリラックスして仕事をしたほうがいいと思います」
「なるほど……。もっとリラックスしてですか……」
「でも本当に心配だったんです。もし映姫様が倒れたら誰が霊魂を裁くのかって……」
「……!!」
映姫は急に顔をあげ、何かに気づいたような表情を見せた。
「そうですね、小町……どうやらあなたの言ってることが正論のようです」
「えっ?」
「死者の魂の今後を判断するのは私の役割。その私が倒れてしまっては元も子もありませんよね」
「そ、そうです!その通りですよ映姫様!」
「無我夢中で裁いているうちに、そんな簡単なことすら私は忘れていたのですね」
すると映姫はゆっくりとベットの中に潜った。
「今は、ゆっくりと体を休めることにします」
「分かりました!新たな裁判の為にもしっかり疲れを癒してください」
「ええ。……小町、本当に心配をかけてしまいましたね」
「い、いえいえ!……な、なんだかちょっと恥ずかしいなぁ~」
照れくさそうに小町は頭をワシャワシャと掻きながら顔を赤くしていた。
「そ、それじゃああたいは一足先に霊魂をこちらに運んでおきますね!」
すると映姫は急いで出ていこうとする小町を呼び止めた。
「ありがとう、小町……これからもよろしくお願いしますね」
その一言を聞いた瞬間、小町の瞳にうっすらと涙が溢れた。
するとその涙を腕ですばやく拭い、満面の笑みで振り返った。
「は、はいっ!こちらこそよろしくお願いします、映姫様っ!」
そして照れ臭さを隠すかのように小町は全速力で部屋を出て行った。
小町が出て行ったのを見届けた映姫はゆっくりと目を閉じ、ホッとため息をついた。
「ふふっ、やはり私にとってあの子は、最高のパートナーなのかもしれませんね」
そう呟いた後、映姫はすぐに眠りにつき、静かな寝息を立て始めた。
だがいつもは閑古鳥が鳴くほどに殺風景であるこの場所に、なにやら異変が起きていた。
なんと塚全体が死者の魂で溢れ返っていたのだ。
それもそのはず、霊魂を向こう岸まで運ぶ渡し舟を務めていた小町がいなくなってしまったのだから、当然と言えば当然である。
だが不思議にも、その小町がいないにも関わらず、渡し舟は動いていたのである。
しかしその動きはぎこちなく、フラフラとまるでナメクジが這うように方向が定まらないまま、なんとか向こう岸にたどり着こうと動いていた。
その漕ぎ手は素人なのか。だがよくよく見てみれば、どこかで見たことのある姿。
身長より遥かに長い櫂に振り回されそうになりながらも、一生懸命前に進もうと踏ん張っている。
それはなんと、映姫本人だった。
自分の身勝手な一言が小町を傷つけてしまった事を後悔し、自分への罰の意味を含めて、小町の代わりに渡し舟の漕ぎ手を受けもったのだ。
だが慣れない力仕事などスムーズにこなせるわけもなく、先程から思うように動いてくれない舟を必死に堪えながら漕ぎ続けていた。
しかし彼女の体力は既に限界を超えており、顔色は真っ白になっている。いつ倒れてもおかしくない、そんな紙一重の状態を映姫は気力だけで自分を支えていた。
「はぁっ、はぁっ……。もっと、もっとペースをあげないと……」
肩で息をしながら呟き、それでも映姫は自分の体に鞭打ちながら櫂を動かす。
「小町が出ていってしまったのは、私が原因……なのだから……」
そんな映姫の様子を見ていた霊魂達は舟の一ヶ所に寄り合い、なにやらヒソヒソと呟いていた。
そしてその中の一つの霊魂がポウッと赤く光り始め、いきなり映姫に対し体当たりを仕掛ける。
対する映姫は櫂を動かすことだけに集中していた為か、咄嗟に行動に移ることができなかった。
気配に気付いた時には既に遅く、振り返った時には霊魂がもう目の前にまで迫ってきていた。
<ドンッ!>
「キャアッ!!」
霊魂の体当たりをもろにくらってしまった映姫は船底に腰を強かに打ち付けてしまい、櫂を落としてしまった。
「なっ、なにをするのです!!」
腰を擦りながら映姫は立ち上がる。しかしその声は突然途切れてしまった。
なんと舟に乗せていた全ての霊魂が赤く光っていたのだ。
そして映姫を嘲笑うかのように周囲に広がり、映姫を睨み付ける。
「ば、馬鹿な真似はよしなさい!自ら地獄に堕ちたいと言うのですか!?」
映姫も負けじと声を張り上げる。だが弱りきってしまった体は思うようには動いてくれず、立っているのがやっとである。
足はガクガクと震え、それと同時に今まで感じた事の無かった恐怖心が一気に映姫の心を支配した。
すると霊魂達は映姫のそんな姿を見て一層激しく光り出す。
そして今がチャンス!と言わんばかりに一斉に襲い掛かった。
「い、いやぁぁぁーー!!」
映姫は叫び声と共に両手を顔の前で交差させ、蹲まることしかできなかった。
そして、正に霊魂が映姫に飛び付こうとしたその時!
<ジャキンッ!>
金属が擦れるような鋭い音と共に、霊魂達は全て真っ二つに裂かれていた。
それと同時に何者かが降り立ったのか、舟が急に左右に大きく揺れた。
<ザプンッ!……>
いったい何が起こったのか、映季には全く分からなかった。
そして彼女は固く閉ざしていた瞳を恐る恐る開く。
微かに見える前方には、少しクセのある赤いショートヘアーの女の子。
「裁きを受ける分際で閻魔様に楯突こうだなんて、身の程を知りなっ!」
そしてこの聞き覚えのある、どこか懐かしい声……。
「ま、まさか……小町なの!?」
驚きのあまり、裏返った声を発しながら映姫は問いかける。
右手に握られた大きな鎌。間違いない、その正体は小町だった。
彼女は妖怪の山を抜け出した後、この河に向かっていたのだ。
「怪我はありませんか、映姫様!」
小町は映姫の体を抱き上げながら尋ねた。
しかし映姫は今一つ状況が飲み込みきれてないのか、焦点の定まらない瞳で小町を見つめていた。
「小町……何故、何故あなたがここに?」
「まぁ細かい話は後回しにして、ひとまず戻りましょう」
「でっ、でも櫂を落としてしまって……」
「なら予備を使いましょう。後は私に任せてください」
「小町……」
すると小町は舟の側面にくくりつけていた予備の櫂を取り出すと、慣れた手つきで向こう岸に向けて漕ぎ始めた。
映姫はそんな小町の様子を見つめながら、現状を頭の中で必死に整理しようとしていた。
そして岸に着いた後、小町は腰を痛めてしまった映姫を抱きかかえて館に向かった。
「小町……どこに行くのですか?」
「もちろん映姫様の寝室ですよ。今はゆっくり休んでください」
「しかし、あれだけの霊が裁きを待っているんです。私が休んでいては……」
「だからいけないんです!こんなフラフラの状態で裁きを下すなんて無理です!」
小町は真剣な眼差しで映姫を怒鳴り付けた。
「こ、小町……」
その剣幕にさすがの映姫も威圧され、なにも反論できないまま小町を見つめていた。
対する小町もさすがに言い過ぎたかと火照った気持ちをクールダウンさせ、一呼吸ついた。
「ふぅっ……映姫様、お願いですから無茶しないでください」
「……」
「確かに死者の霊に裁きを下せるのは映姫様しかいません。それに対する責任も重くなることだって分かってます。ですがそのあなたが倒れたら……」
小町は心配そうな目で映姫を見つめる。そんな彼女の視線が気になってか、映姫は直視することができなかった。
「これからはもうサボったりしません。ですから無理は・……」
「……小町」
小町の言葉を遮って映姫は突然尋ねた。
「は、はい……」
「あなたが船頭をしている時も、ああいう悪霊はいるのですか?」
「え?ああ、さっきの奴らですね」
やはり館を飛び出した事を怒られるのかと一瞬身構えたが、意外な映季の質問に小町は逆にギクシャクしてしまった。
「時々いるんですよ。未練を残したままだったり、悪事の限りを尽くした霊魂は逆らってくる事もあります」
「そうですか……」
「そういう不届きな霊魂もいますから、気が抜けないんですよね~」
苦笑いを零しながら小町はそう答えた。
すると、小町は映姫の顔を見てふと何かを思い出したかのような表情で言った。
「……あ、あの髪飾り。使ってくれてるんですね」
「こ、これですか?せっかくあなたが私の為に用意してくれたものなんですから、使わないと」
「あはは……いや、使ってくれて嬉しいですよ」
小町は苦笑いを浮かべながら答えた。
しかし二人の会話はそこで途切れてしまい、なにやら気まずい空気の中、急いで寝室へと向かった。
それから程なくして二人は寝室に到着し、映姫をベットの上に優しく寝かせた。
かなりの疲労が溜まっていたのも手伝って、彼女は横になってすぐに目を閉じた。
だいぶ無茶をしたのだろう。いつもはピシッと着こなしている服もヨレヨレになり、所々に擦り傷を負っている。
そんな痛々しい映姫の姿を見ていて、小町の胸には詰まるような想いが立ち込めてきた。
そして小町はそのままそっと部屋を出ていこうとドアノブに手をかけた時。
「小町……待ってください」
眠っていたはずの映季に呼び止められた。
ビクゥ!!と肩を震え上がらせ、小町は恐る恐る振り向く。
「な、なんでしょうか……?」
先程まで横になっていた映姫はベットから起き上がり少し俯き加減に正座をしていた。
そして両手を地面につけ、深々と頭を下げた。
「本当にごめんなさい」
「…………ええええっ!?」
映姫の取った行動が小町の予想を遥かに反していたのか、思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。
「い、いきなりどうしたんですか映姫様!?」
「……やはり、変ですか?」
「いえ、そんなことはありませんが……何故あたいに謝るんです?逆にこっちが謝らなくちゃいけないのに……」
少しの間沈黙が場を支配したが、程なくして映姫が少しずつ語り始めた。
「……今回初めて渡し舟の業に就いてみましたが、本当に辛い仕事なのですね」
「えっ?あ、ああ……もうあたいは慣れましたからそんなに苦でもありませんが……」
「でもそれは、あなたが今まで苦労してきたからこそです。それにあの時、あなたが来てくれなければ今頃どうなっていたか……」
「間一髪でしたが、何とか間に合ってよかったです。あんな感じに逆らってくる霊魂も稀にいますし……」
「ええ。……それに今回のこの騒動、全ての責任はこの私にあります」
「まぁ……あの時はちょっとショックでしたが、あたいもサボっていたんですから文句は言えないんですけどね」
苦笑いを浮かべながら小町は頭を掻く。
「しかしいくら独り言とはいえ、あなたを傷つける発言をしてしまったのは事実。本当にすいませんでした」
映姫はまた小町に頭を地面につけて謝った。
その行動を見て逆に恥ずかしくなった小町は慌てて両手を左右に振った。
「や、やめてくださいよぉ!私はそんなつもりでサボってたわけじゃ……」
「……つもり?ということはあなたがサボっていたのは何が理由があるのですか?」
「えっ!?いや、その……」
「……お願いです、何か訳があるのなら教えてください」
映姫は切実な表情で見つめる。そのあまりにも真剣な眼差しを小町は直視することができなかった。
「うー……わ、分かりました……」
とうとう我慢できなくなったか、小町はしぶしぶ口を開いた。
そして文に話した『怠けてた本当の理由』のすべて映季に話した。
小町の話を聞き終えて映姫は目を白黒させていた。
「あなたが怠けていたのは、私の為……だったというのですか!?」
映姫は身を乗り出して小町に尋ねる。
「ひゃっ!ま、まぁそんな理由もあったにはあったんですが……今じゃただの言い訳にしか聞こえませんよね、ハハ……」
冷や汗をかきながらも小町はやっぱり言うべきじゃなかったと後悔していた。
だがその映姫の反応はまたしても予想外だった。
「あなたにまで心配をかけてしまうとは……。私のやり方はやはり間違っていたのでしょうか」
急に映姫は大人しくなり、俯いたまま小さくなってしまった。
そんな彼女の姿を見て小町は一つため息をつき、ゆっくりと話し始めた。
「映姫様、決して間違ってはないんです。あたいが言うのもなんですが、映姫様はホント頑張ってると思いますよ」
「ええ。私に与えられた業務を忠実にこなす。それだけの念頭に置いてひたすら閻魔としての業に努めてきたつもりです」
「ごもっともです。でも映姫様には一つだけ欠けてるところがあるんですよ」
「私に欠けているところ?」
「ええ、それはペース配分ができないってとこです」
「ペース……ですか?」
「確かに映姫様のこなす仕事量は凄いです。でもそれに比例して疲労・ストレスも溜まってきているはずです」
「そんな感じはしませんが……」
「それはただ疲れきっている状態に慣れてしまってるだけです。このままの状態が続いたら、いつか本当に倒れちゃいますよ」
「そ、そうですか……」
「だからもうちょっと、いえもっとリラックスして仕事をしたほうがいいと思います」
「なるほど……。もっとリラックスしてですか……」
「でも本当に心配だったんです。もし映姫様が倒れたら誰が霊魂を裁くのかって……」
「……!!」
映姫は急に顔をあげ、何かに気づいたような表情を見せた。
「そうですね、小町……どうやらあなたの言ってることが正論のようです」
「えっ?」
「死者の魂の今後を判断するのは私の役割。その私が倒れてしまっては元も子もありませんよね」
「そ、そうです!その通りですよ映姫様!」
「無我夢中で裁いているうちに、そんな簡単なことすら私は忘れていたのですね」
すると映姫はゆっくりとベットの中に潜った。
「今は、ゆっくりと体を休めることにします」
「分かりました!新たな裁判の為にもしっかり疲れを癒してください」
「ええ。……小町、本当に心配をかけてしまいましたね」
「い、いえいえ!……な、なんだかちょっと恥ずかしいなぁ~」
照れくさそうに小町は頭をワシャワシャと掻きながら顔を赤くしていた。
「そ、それじゃああたいは一足先に霊魂をこちらに運んでおきますね!」
すると映姫は急いで出ていこうとする小町を呼び止めた。
「ありがとう、小町……これからもよろしくお願いしますね」
その一言を聞いた瞬間、小町の瞳にうっすらと涙が溢れた。
するとその涙を腕ですばやく拭い、満面の笑みで振り返った。
「は、はいっ!こちらこそよろしくお願いします、映姫様っ!」
そして照れ臭さを隠すかのように小町は全速力で部屋を出て行った。
小町が出て行ったのを見届けた映姫はゆっくりと目を閉じ、ホッとため息をついた。
「ふふっ、やはり私にとってあの子は、最高のパートナーなのかもしれませんね」
そう呟いた後、映姫はすぐに眠りにつき、静かな寝息を立て始めた。
ただ、ちょっとスペースが多い気が。あと3部構成ですけど、文量的に前後編か、1まとめにしてしまったほうがスッキリしたかもしれません
話自体に関しては何故三つに分けてるのか解らないほど内容が薄く、展開も強引過ぎて荒いですし、
何より文章が滅茶苦茶で読んでいて苦痛でした。
空白・改行の多さについては、まぁこういうのもあるよね。というのが私の感想です。
小町と映季様の相棒ともいうべき関係性はやはりいいものですね。
小町の優しさと、なんだかんだ言って小町を大切に想う映季様に少し感動しました。
初投稿ということですが、今後も頑張ってください。応援してます。
この程度の長さなら一話で投稿する人もいますし、分けてもせめて二話ぐらいかと。
作者がどういう意図で三つに分けたのか知りませんが、ただ単に目を引きたいだけの小細工に思えてしまう。
文章自体も構成や文法において稚拙さが目立つし、今後も投稿するつもりなら次回作に期待ってことでこの点数で。
こまえーきいいよこまえーき
映姫と小町の会話や雰囲気、文との会話も良かったです。
ただ、ちょっと空行が目立つかなぁ……と。
あと話が流れるのが少し早く、無理に進めている感じもありました。
話は面白かったですから文章の構成などは次回に期待したいです。
それなりのヴォリュームを期待して損しました。
無駄にスペース取っただけ
もっと東方をよく知ってから書くべきかと
自己満足はやめてくれ
いくら疲れていても霊にはやられない
『ふぅ…』
などの息を吐く部分はセリフに入れない方がよろしいと思います。
でも、話の甘さにニヤニヤ出来たので点数は赤点の40点よりは上にしました。
これくらいは知っとこうね
@これは言っちゃあ悪いがこれの上位互換がコンペにありましたよ(言いたいことが同じのが
もうちっとご都合主義を疑っていこうよ。こだわっていこ。
時間を表したいのはわかりますが、まばらすぎます。
たとえば、普通の行間2行、少しの沈黙5行、場面転換10行などに決めてしまうと読みやすくなります。
参考までに。
簡単ではありますが、皆さんのアドバイスを参考に少し修正をさせていただきました。
○改行の修正
○「……」の三点リーダーへの修正
○「!」「?」等の半角から全角への修正
○「無縁坂」を「無縁塚」へ修正
以上の点を修正させていただきました。
至らぬ点ばかりで申し訳ありませんが、次回載せる際にはそこを重点的に気をつけようと思っています。
申し訳ありませんでした。