<カサカサ……>
黄色から鮮やかな赤に色づき始めた紅葉の葉が風に揺られて互いに擦れ合い、心地よい秋の到来を告げている。
視線を空へと上げれてみれば、少し高く感じる秋の空が遥か彼方まで続いている。
ここはそんな秋満開の妖怪の山。その山の中腹の開けた場所に小町はいた。
無縁の坂を抜け出してきた後、幻想郷のあちこちをフラフラとさ迷い歩きながら、彼女はここに辿り着いたのだ。
自分の手元にヒラヒラと落ちてきた一枚の紅葉を摘まみ、クルクルと回してみる。
オレンジ色に彩られた葉は彼女の指先で踊っていた。
そしてその葉を再び真上に投げると、何処からともなく流れてきた風にさらわれていった。
少しずつ遠く小さくなっていく葉を見つめながら、小町は何度目かの溜め息をついた。
「はぁ……」
しかしそれも無理はない。映姫のあの一言があまりにもショックだったのか、いつもの元気いっぱいの姿はどこにもなく、今はただ口をつぐんだままガックリと肩を落としたまま項垂れていた。
そして焦点の定まらない虚ろな目をしながら、小町はボーっと秋の空を見上げていた。
と、そこにあの鴉天狗が降りてきた。
「あやややや、これは珍しいですね。まさかあなたがこんなとこにいるなんて」
少し人を馬鹿にしたような口調。そしてあのお決まりの口癖。そう、その声の主は射命丸 文だった。
「……お邪魔だったかい?」
しかし小町は文の予想に反したトーンの低い声で呟く。その様子を見て、文もただならぬ雰囲気を察した。
「い、いえ……別にそういうわけではありませんが。それよりお仕事は大丈夫なんですか?こんなとこでサボってたらまた……」
「ああ、その心配はないさ」
文の言葉を遮って小町が答えた。
「仕事なら辞めたよ。だからこんなとこで道草くってるのさ」
「なるほど、そうだったんですか~……って、ええっ!?」
最初は何気なく聞いていた文も事の重大さに気付き、突拍子な大声をあげてしまった。
「えっ、ちょっ……それってどういう事ですか!?」
「どうもこうもないさ。映姫様からそう言われたんだ。反論の余地はないだろ?」
「でも……うぅむ、あまりにも突発的過ぎるというか」
「まぁ、さすがの映姫様も煮えを切らしたんだろう。私の余りの不甲斐なさにさ」
自分の赤いクセ毛をクルクルと指で回しながら小町は答えた。
「でっ、でもこれからどうするんです?渡し舟をする船頭がいなければ、またあの時のように……いやもっと彼岸花が咲き乱れますよ?」
「そうかもしれないね。でももうあたいには関係のないことさ」
小町は紅葉の絨毯に勢いよく寝そべり、目を閉じて言った。
「こ、これは一大スクープです!明日の一面記事はこれで決まりです!」
すると文は早速メモ帳を取り出し、何やら急いで書き留め始めた。
そんな彼女を見てて小町は少し寂しげに笑った。
「ははっ、あんたはいいねぇ。そんなに仕事熱心でさ」
「もちろんです!これは私の誇りでもありますからね♪」
そう言いつつも文は小町に目もくれず、ひたすら必死にペンを走らせている。
「誇り……ねぇ」
「小町さんはないんですか?渡し舟の誇りは?」
「ん?まぁ、今となっちゃあ言い訳にしかならないが、あるにはあったさ」
すると小町はムクリと起き上がり、腰に手を当ててコキコキと鳴らした。
「じゃあ何故、サボったりするんです?それじゃあ辻褄が合いませんよ?」
「その通り、ごもっともな意見だ。でもね……」
「でも?」
すると文はペンを一旦止め、少し俯いている小町に視線を移した
「あたいはあの人にもっとゆっくり仕事をしてほしかったのさ」
「えっ……?」
思いもよらぬ返答を聞き、文はペンを落としてしまった。
「あの人に休みなんてない。いつもあの大きな机に齧りついて死者の霊魂に裁きを下さなきゃならない。それには、裁く者がどんな生き様を送ってきたかを見届けた上で判断するんだ」
「……」
「でも、中には決めにくい事だってあるだろ?どんなに悪事を働いた奴だって誰かの助けになることを一つでもすれば、それは善行になる。でも天国か地獄、選択肢は二つしかないんだ。……それがどれだけ神経を磨り減らす事であるか、分かるだろ?」
「じゃあ、あなたがサボっているのは……?」
「そう。部下であるあたいが映姫様に出来るせめてもの事は、向こう岸に送る霊魂の数を加減して少しでも裁判のペースを調整してあげること。だから私は時々怠けたりしてたのさ」
そして小町は視線を下に落としたままフッと心なく笑った。
「そうだったんですか……。そんな事が……」
「そりゃあたいだって一気に大量の霊魂を運んじまえは楽はできる。あたいの仕事は死者の霊を向こう岸に運ぶことだけ。ならそれさえパパッと終わらせちまえば後は自由の身になれる」
「確かに……」
「でもそれは言い換えれば裁判のピッチを上げることになる。……あたいだって嫌さ。疲れきっている映姫様に鞭打つような事をするのは……」
「……」
すると文は、さっきまで書き留めていたメモ帳の一ページをビリビリに破り捨てた。
「おっ、おいおい……一面記事のネタじゃなかったのかい?」
文の予想外の行動に小町はビックリして問いかける。
「……えへへっ、こういう暗い記事は出さないようにしてるんです。やっぱり一面にはもっとビックリするようなネタを載せないと面白くないですしね♪」
そう言いながら文は少しだけ意味深な笑みを小町に向けた。
そんな文を見て小町は何かを察したのか、髪をワシャワシャと掻きながら照れくさそうに笑った。
「ふふっ、ありがとさん……」
それから暫くもしないうちに、遥か上空から誰かがこちらに向けて降りてきた。
「あっ!いたいた!文様ーっ!!」
天狗達が愛用する装束を身に纏い、赤と黒で彩られた袴を着用している。
背中には身の丈程の太刀を背負い、左手には紅葉のレリーフが型どられた丸い盾を装備している。そしてフサフサの尻尾と耳がトレードマークの白狼天狗。
その正体は椛だった。
「あら、椛ではありませんか。一体どうしたというのです?」
「それが、大天狗様がお呼びです。文様に何やら話があるらしいですよ」
「……何かまたやらかしたかしら?」
文は少し眉間にしわを寄せながら、ここ最近の自分の行動を振り返っていた。
しかしそれから数刻も経たない間に、何かを閃いたかのように突然手のひらをポンと叩いた。
「……!そうだ!!椛、あなたの能力を使って無縁塚の様子を偵察してみてください」
「無縁塚……ですか?」
「ええ、大天狗様の件はもう少し後でも構いません。今どういう状況なのか、それが知りたいのです」
「わ、分かりました~」
すると椛はゆっくりと目を閉じ、そしていきなりカッ!!と見開いた。
「……見えました。かなりの数の霊魂が集まってます。それに物凄い数の霊魂を乗せた舟が……あっ、今岸を離れました」
「・・・!?」
椛のその一言を聞いて小町が急に飛び起きた。
「渡し舟は!?舟には誰が乗ってるんだい!?」
「ええっ!?ふ、舟ですか?ええっと、ちょっと背の低い人が漕いでるみたいです。髪は緑で……何かすごい装飾を施した帽子を被ってます」
「やっぱり!最悪の予想が的中した!」
小町はそう叫ぶや否や、立て掛けてあった大鎌を手に取り、一直線に飛んで行った。
「ありがとう!邪魔したね!」
状況が今一つ飲み込めてない椛は、ポカーンと口を開けたまま小町が飛んでいった方向を見ていた。
「い、一体何なのですか・・・・?」
「やれやれ・・・慌ただしい人ですね、全く・・・」
文はそう言いながら苦笑いを溢していた。
黄色から鮮やかな赤に色づき始めた紅葉の葉が風に揺られて互いに擦れ合い、心地よい秋の到来を告げている。
視線を空へと上げれてみれば、少し高く感じる秋の空が遥か彼方まで続いている。
ここはそんな秋満開の妖怪の山。その山の中腹の開けた場所に小町はいた。
無縁の坂を抜け出してきた後、幻想郷のあちこちをフラフラとさ迷い歩きながら、彼女はここに辿り着いたのだ。
自分の手元にヒラヒラと落ちてきた一枚の紅葉を摘まみ、クルクルと回してみる。
オレンジ色に彩られた葉は彼女の指先で踊っていた。
そしてその葉を再び真上に投げると、何処からともなく流れてきた風にさらわれていった。
少しずつ遠く小さくなっていく葉を見つめながら、小町は何度目かの溜め息をついた。
「はぁ……」
しかしそれも無理はない。映姫のあの一言があまりにもショックだったのか、いつもの元気いっぱいの姿はどこにもなく、今はただ口をつぐんだままガックリと肩を落としたまま項垂れていた。
そして焦点の定まらない虚ろな目をしながら、小町はボーっと秋の空を見上げていた。
と、そこにあの鴉天狗が降りてきた。
「あやややや、これは珍しいですね。まさかあなたがこんなとこにいるなんて」
少し人を馬鹿にしたような口調。そしてあのお決まりの口癖。そう、その声の主は射命丸 文だった。
「……お邪魔だったかい?」
しかし小町は文の予想に反したトーンの低い声で呟く。その様子を見て、文もただならぬ雰囲気を察した。
「い、いえ……別にそういうわけではありませんが。それよりお仕事は大丈夫なんですか?こんなとこでサボってたらまた……」
「ああ、その心配はないさ」
文の言葉を遮って小町が答えた。
「仕事なら辞めたよ。だからこんなとこで道草くってるのさ」
「なるほど、そうだったんですか~……って、ええっ!?」
最初は何気なく聞いていた文も事の重大さに気付き、突拍子な大声をあげてしまった。
「えっ、ちょっ……それってどういう事ですか!?」
「どうもこうもないさ。映姫様からそう言われたんだ。反論の余地はないだろ?」
「でも……うぅむ、あまりにも突発的過ぎるというか」
「まぁ、さすがの映姫様も煮えを切らしたんだろう。私の余りの不甲斐なさにさ」
自分の赤いクセ毛をクルクルと指で回しながら小町は答えた。
「でっ、でもこれからどうするんです?渡し舟をする船頭がいなければ、またあの時のように……いやもっと彼岸花が咲き乱れますよ?」
「そうかもしれないね。でももうあたいには関係のないことさ」
小町は紅葉の絨毯に勢いよく寝そべり、目を閉じて言った。
「こ、これは一大スクープです!明日の一面記事はこれで決まりです!」
すると文は早速メモ帳を取り出し、何やら急いで書き留め始めた。
そんな彼女を見てて小町は少し寂しげに笑った。
「ははっ、あんたはいいねぇ。そんなに仕事熱心でさ」
「もちろんです!これは私の誇りでもありますからね♪」
そう言いつつも文は小町に目もくれず、ひたすら必死にペンを走らせている。
「誇り……ねぇ」
「小町さんはないんですか?渡し舟の誇りは?」
「ん?まぁ、今となっちゃあ言い訳にしかならないが、あるにはあったさ」
すると小町はムクリと起き上がり、腰に手を当ててコキコキと鳴らした。
「じゃあ何故、サボったりするんです?それじゃあ辻褄が合いませんよ?」
「その通り、ごもっともな意見だ。でもね……」
「でも?」
すると文はペンを一旦止め、少し俯いている小町に視線を移した
「あたいはあの人にもっとゆっくり仕事をしてほしかったのさ」
「えっ……?」
思いもよらぬ返答を聞き、文はペンを落としてしまった。
「あの人に休みなんてない。いつもあの大きな机に齧りついて死者の霊魂に裁きを下さなきゃならない。それには、裁く者がどんな生き様を送ってきたかを見届けた上で判断するんだ」
「……」
「でも、中には決めにくい事だってあるだろ?どんなに悪事を働いた奴だって誰かの助けになることを一つでもすれば、それは善行になる。でも天国か地獄、選択肢は二つしかないんだ。……それがどれだけ神経を磨り減らす事であるか、分かるだろ?」
「じゃあ、あなたがサボっているのは……?」
「そう。部下であるあたいが映姫様に出来るせめてもの事は、向こう岸に送る霊魂の数を加減して少しでも裁判のペースを調整してあげること。だから私は時々怠けたりしてたのさ」
そして小町は視線を下に落としたままフッと心なく笑った。
「そうだったんですか……。そんな事が……」
「そりゃあたいだって一気に大量の霊魂を運んじまえは楽はできる。あたいの仕事は死者の霊を向こう岸に運ぶことだけ。ならそれさえパパッと終わらせちまえば後は自由の身になれる」
「確かに……」
「でもそれは言い換えれば裁判のピッチを上げることになる。……あたいだって嫌さ。疲れきっている映姫様に鞭打つような事をするのは……」
「……」
すると文は、さっきまで書き留めていたメモ帳の一ページをビリビリに破り捨てた。
「おっ、おいおい……一面記事のネタじゃなかったのかい?」
文の予想外の行動に小町はビックリして問いかける。
「……えへへっ、こういう暗い記事は出さないようにしてるんです。やっぱり一面にはもっとビックリするようなネタを載せないと面白くないですしね♪」
そう言いながら文は少しだけ意味深な笑みを小町に向けた。
そんな文を見て小町は何かを察したのか、髪をワシャワシャと掻きながら照れくさそうに笑った。
「ふふっ、ありがとさん……」
それから暫くもしないうちに、遥か上空から誰かがこちらに向けて降りてきた。
「あっ!いたいた!文様ーっ!!」
天狗達が愛用する装束を身に纏い、赤と黒で彩られた袴を着用している。
背中には身の丈程の太刀を背負い、左手には紅葉のレリーフが型どられた丸い盾を装備している。そしてフサフサの尻尾と耳がトレードマークの白狼天狗。
その正体は椛だった。
「あら、椛ではありませんか。一体どうしたというのです?」
「それが、大天狗様がお呼びです。文様に何やら話があるらしいですよ」
「……何かまたやらかしたかしら?」
文は少し眉間にしわを寄せながら、ここ最近の自分の行動を振り返っていた。
しかしそれから数刻も経たない間に、何かを閃いたかのように突然手のひらをポンと叩いた。
「……!そうだ!!椛、あなたの能力を使って無縁塚の様子を偵察してみてください」
「無縁塚……ですか?」
「ええ、大天狗様の件はもう少し後でも構いません。今どういう状況なのか、それが知りたいのです」
「わ、分かりました~」
すると椛はゆっくりと目を閉じ、そしていきなりカッ!!と見開いた。
「……見えました。かなりの数の霊魂が集まってます。それに物凄い数の霊魂を乗せた舟が……あっ、今岸を離れました」
「・・・!?」
椛のその一言を聞いて小町が急に飛び起きた。
「渡し舟は!?舟には誰が乗ってるんだい!?」
「ええっ!?ふ、舟ですか?ええっと、ちょっと背の低い人が漕いでるみたいです。髪は緑で……何かすごい装飾を施した帽子を被ってます」
「やっぱり!最悪の予想が的中した!」
小町はそう叫ぶや否や、立て掛けてあった大鎌を手に取り、一直線に飛んで行った。
「ありがとう!邪魔したね!」
状況が今一つ飲み込めてない椛は、ポカーンと口を開けたまま小町が飛んでいった方向を見ていた。
「い、一体何なのですか・・・・?」
「やれやれ・・・慌ただしい人ですね、全く・・・」
文はそう言いながら苦笑いを溢していた。
>ならそれさえパパッを終わらせちまえば~
とありますが、正しくは「パパッと終わらせちまえば」ですよね。
感想は後編で。
この場合『口をつぐんだまま』かな。
>煉獄さん
>6の方
誤字のご報告、誠にありがとうございます。早急に修正をさせていただきました。
まだまだ未熟者ではございますが、これからもアドバイス等宜しくお願い致します。