Coolier - 新生・東方創想話

二人三脚 (前篇)

2008/10/24 16:19:40
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<サァァァ……>


辺り一面には見渡す限り、無骨な形をした岩が無造作に転がっており、所々には項垂れるように枝を撓らせた木が生えている。
時折吹く風に揺られる度に、緑を失った木々の枝が互いに擦れ合い、乾いた物悲しい旋律を奏でていた。
そう、ここは無縁塚。死者が必ず通ると言われている、別名『三途の川』。



少し前、この無縁塚に彼岸花が咲き乱れるという突発的な事件が起きたが、今ではあの深紅に輝く花も完全に姿を消し、いつも通りの殺風景な景色がどこまでも続いている。
だが誰も近づきそうにない、こんな不気味な地に彼女はいた。
枯れ木にだらしなくもたれ掛かり、鼻提灯を膨らませながら眠りこけている一人の女の子。
青を基調とした派手な着物(?)に身を包み、腰には一昔前の古銭を想像させるレリーフを付けた腰巻きを着けている。
そして少しクセのある赤いショートヘアーは赤い玉のついた髪飾りで結っていた。
これだけなら少し奇妙な格好をした女の子なのだが、右手の側に置かれている大きな鎌。それは彼女がこの三途の川の渡し船であることを意味していた。

彼女の名は『小野塚 小町』。いわば死神である。



「ん~、寝てませんよぉ~・・・んむぅ・・」

そんな寝言を呟きながらゴロリと寝返りをうつ。そうしている間にも無縁坂に辿り着いた霊魂達は向こう岸に渡る船が動くのを、まだかまだかと待ち続けている。
と、気持ちよさそうに眠っている彼女の元へ、足早に迫ってくる一つの影があった。
右手に悔悟の棒を握りしめ、額に青筋を立ててながらこちら向かってきている。
そして小町の傍まで来ると、溜め息をついたあとに大きく息を吸い込み、小町に怒鳴り付けた。

「小町っ!!誰が居眠りをしていいと言いましたかっ!?」

そのあまりの怒号にさすがの小町も飛び起きた。

「ふぇっ……!?あ、あぁ映姫様じゃないですか?そんなに血相を変えて……どうしたんですか?」

まだ寝ぼけているからか、状況がいまいち分かっていない小町に対し、映姫は何も言わぬまま、頭目掛けて悔悟の棒を振り下ろした。

<バシィッ!>

「きゃん!!」

威勢の良い音と当時に小町を可愛い叫び声が響く。

「あれほどペースを上げて運びなさいと忠告しておいたというのに……貴女は一体何をしているんですっ!?」
「いや~、もたれるのにちょうどいい感じの木を見つけたものですから、休憩がてらに腰を下ろしてたら、ついつい……」

小町は叩かれたところを擦りながら、だが少しも反省の色を見せずに少しだけ舌を出しながら答えた。
そんな部下の態度を見て、映姫はそれ以上怒る気にすらならなかった。

「はぁ……。あなたのサボり癖だけは、どうやっても治りませんね」
「いやいや、昔に比べたらあたいも頑張るようになりましたよ?」
「自慢になりません。いいですか、そもそもあなたは……」

そして彼女の十八番とも言える、有り難く、そして気が遠のくほどに長い説教が始まった。



「であるからして、あなたはもっと渡し舟としての自覚を……」
「わ、わわ分かりました!すぐに運び始めますんで、映姫様は館にお戻りくださいー!」

痺れを切らした小町はいきなり立ち上がり、こんこんと説教を続ける映姫をとめた。

「む……分かりました。でも次にサボっていたら説教程度では済みませんからね!」

映姫は小町をビシィッ!と指さしながら言った後、自分の仕事場である閻魔館へと戻っていった。



「ふぃ~っ、ちょっと休憩してるだけでこれだもんなぁ~」

小町は渋々、木の枝に立てかけてあった鎌を手に取りながらため息交じりに呟いた。

「まぁ仕方ない、仕事を再開するとしますか!」

大きく手を上に伸ばした後、小町はとめておいた舟へと歩いて行った。
その途中で彼女はふと何か思いついたように袴の右ポケットの中をゴソゴソと探り、小さな箱のようなものを取り出した。手のひらに収まるくらいの小さな白い厚紙の箱のようである。

「でもまぁ、これをお渡しすれば……ちょっとは怒りを鎮めてくれるだろう♪」

小町は心の中でほくそ笑みながら、その箱をポケットの中に戻した。

「さぁって!仕事仕事~っと!」

すると活を入れるように自分の頬をパンパンと叩き、いつも通りの手慣れた手つきで霊魂を船に乗せ、対岸へ向かって行った。



それから暫く立った後。やっとのことで無縁坂に残っていた霊魂を全て渡しきり、小町は肩を回しながら船の上で座っていた。

「んー、今日もかなりの数だったなぁ~。こりゃ何かあっちの世界で何かあったのかもしれないね」

と、この渡し船をやっているからこそ分かるような一言を呟く。
だがそう言いながらも他人事のように呑気な表情で話しているところを見ると、どうやらあまり深くは考えていないらしい。

「さぁって、そろそろ映姫様の裁判も終わるころかな?」

先程から世話しなく時間を気にしていた彼女は船から飛び降り、いそいそと閻魔館の中へ入っていった。



「へっへへ~、日頃の感謝の気持ちを込めてささやかな贈り物をプレゼントする!こんなに上司を敬う部下ってのはそうそういないよね~♪」

などと呟きつつ、小町は満面の笑みで陽気にスキップをしながら、館の一番奥にある裁判所へと向かっていた。
裁判所へと通じる廊下にも霊魂が一つも残っていない。どうやら裁判は本当に終わったようである。

「私の読みも当たってたみたいだし、早速渡してあげるとするか~♪」

と、部屋のドアノブに手を添えたその時だった。

「ん……?何か声が聞こえる……。映姫様かな?」

何を言ってるのか気になった小町はそっとドアに耳を添えた。
はっきりとまでは聞き取れなかったが、どうやらぶつぶつと独り言を呟いているようだった。


(はぁ……全く小町の……なさは本当に……余りますね。いつ……あんなに怠け者に……のでしょう)

「…………」

その独り言が自分に対しての事だと分かり、小町の顔が少しだけ曇った。

(これでは……に支障をきたしかねない。いっそのこと……誰かに……た方がいいのでしょうか?)

その言葉を聞いた瞬間、小町の体を何かが走り抜けた。
一番聞きたくなかった言葉、言われたくなかった事を自分の上司に言われてしまった。
どうしようもない悔しさとやるせなさが、一気に小町の心を支配していった。


(……!誰です!そこに……のは!?姿を現し……さい!)

どうやら映姫もドア越しに誰かがいることに気づいた。
すると小町は俯いたままドアをゆっくりと開けた。

「……!?小町!」

予想外の人物が顔を出したことに戸惑いながらも、映姫はいつものように威厳のある声で呼んだ。

「そんなところで一体何をしていたのです?今日の裁きはもう終わりましたよ?」
「…………」
「黙っていては分かりません。あなたは……」
「そうですよね。あたいのようにだらしない舟渡しなんて、必要ないですよね……」

映姫の言葉を遮るかのように小町はいつもとは違う暗い声で呟いた。
その一言に映姫は少しだけ体を強張らせる。

「……こ、小町?」
「もっとやる気のある者に任した方が、効率も上がりますもんね」
「な、何を言っているのです……?」
「いいんですよ、別に白を切らなくても。それに映姫様の本音が聞けて良かったです」
「小町!それは違います!何を聞いていたかは分かりませんが、私はそんなつもりで……」
「今までありがとうございました。今日を持って舟渡しを辞退させてもらいますね」
「小町……冗談はよしなさい!」

だが映季の言葉を最後まで聞かぬまま、小町はクルリと背を向けて裁判所から走って出て行ってしまった。

「待ちなさい!小町っ!!」

映姫も小町を止めようと彼女の後を追う。だがもうその時には小町の姿は見えなくなっていた。

「なんということなの……私としたことがこんな失態を!」

独り言だったとはいえ、映姫は軽率な発言をしてしまった自分を罵った。
今から小町を追いかけようにも、足は彼女の方が断然早い。それに彼女の言葉からしても、もう無縁の坂に留まっているとは考えにくかった。
その上渡し舟である小町がいない以上、彼女自身の裁きも下すことができない。彼女は窮地に立たされてしまった。

「このままでは……ん?」

と、その時。映季は足元に何やら白いものが落ちていることに気がついた。

「箱……ですか?」

それは小町がポケットに入れていたあの白い箱だった。
映姫はその箱を拾い上げ、その箱をそっと開けてみる。すると……

「これは、髪飾り?」

その中には、黄金色に輝く琥珀でできた小さい髪飾りが入っており、その傍に小さな紙きれが挟まっていた。
映姫は紙切れを取り出し広げてみる。それは小町が彼女に充てて書いた手紙だった。

「…………」

手紙を読み終わった後、映季はずっと下を向いたまま呆然と立ち尽くしていた。
そしてその手紙を綺麗に箱の中に仕舞った後、ポツリと一言だけ呟いた。

「小町、あなたという子は……」
どうも初めまして~♪鮭茶漬けという者でございます。

今回が創想話初投稿になりますので、ドキドキワクワクでございます。

SSを書き始めて間もない未熟者ではございますが、お読みいただければこれ幸いという次第でございます。

宜しくお願い致しますぅ~。
鮭茶漬け
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