これは、私が書いた「アーマード こぁ」シリーズの続編ですが、とくに前作をお読みになってない方、元ネタのゲームを御存じでない方でも大丈夫です。
ACネタはあくまで調味料程度に抑えたつもりです。
「アーマード こぁ」の最終話で皆様から受けたご批判が着想の元になりました。
わざわざ文字とPASS入力の手間をいとわず批評してくださった方々に感謝します。
幻想郷で、とある騒乱があった。
その後、幻想郷は人間の領域、妖怪の領域、人妖が溶け合って暮らす領域の三つに分割された。
妖怪が人を襲う事はもはや減少傾向にあった。
しかし、いつの世も争いの起こりやすい地域というのは存在する。
すなわち、人間領域と妖怪領域の境界線である。
これは、その境界線を中心として起きた、人と妖怪の物語である。
私はルーミア、宵闇の妖怪。昔は気まぐれに人を食べていたが、最近は邪魔が入るようになって、そうもいかなくなった。
もちろん、巫女や魔女が邪魔すると言うのもあるが、人間を襲うのはかわいそうであると言うイデオロギーが、あろうことか妖怪の間にさえ浸透しているという事実が一番大きい。
かくいう私も人間と付き合っているうちに、食べるのが惜しいと言うか、ある種の愛おしさに似た感情すら感じることがある。
そしてそれも悪くないと感じる自分が私の中に棲んでいる。
だが、やはり人を食うという妖怪の宿命も忘れられないのだ。
そして、この仕事はそんな私にとって天職と言えた。
橋梁破壊
依頼者 山の妖怪A(作者注・求聞史紀に出てきたのとは別物)
成功報酬 12000紅夢
柘榴村の人間は交易の時に私たちの山を登ります。
その通行量が良い収入になっていたのですが、最近山を迂回するために川に橋を造っているようです。
その橋の工期を少し遅らせてほしいのです。
フフフ、もっとも『妖怪の寿命』から見た『少し』ですけどね。
その天職とは『何でも屋』である。ただし、荒事専門の。
優しい小悪魔リトルが同じことをすれば、能力的にはともかく精神的に持たないだろう。
河童に貸与された平らな水晶のボードに、ときおりこうして依頼が伝達されてくる。受けるかどうかは各人次第だ。私はボードのある部分に指を触れ、受諾の意思を伝えた。
スペルカードを携え、森の中の一軒家を後にする。満月が冷たく私を照らしていた。
「いたぞ、撃て、橋に手を出させるな」
V字谷にかけられていた橋は7割ほど完成していた。人間が矢を放つが、そんな物かすりもしない。
「先に攻撃してきたのはあなた達」
弾幕を放つ、人間の一団が吹き飛んだ。何人が死ぬか生きるかは運次第だ。
「敵増援を確認」 使い魔が無機質に答える。感情を持ち、個性豊かな使い魔も呼ぶことができるのだが、仕事中にはこういうポーカーフェイスな奴の方が性に合う。
「こちら です、後は任せてください」
名前の知らない人間の少女、歳は霊夢と同程度か? こんな奴を雇うなんて、橋の建設でよほど金がないのだろうか。
彼女の弾幕は美しい、だが才能はさほどでもなかったようだ。
素早く彼女の背後に回り、軽く手刀で気絶させた。
私を退治するなら、もっと腕を磨いておくことだ。
少女を退けた後、橋を壊すことにする。無数の魔弾を生成し、ばらまく。
その時、何者かが魔弾の前に立ちはだかった。
気絶させたはずの少女だった。
彼女は防御結界を張り、弾幕から橋を守ろうとする。
しかし、一発も防ぎきることもなく、結界が破れ、彼女は吹き飛ばされた。
「なんてことだ、 様が……」
生き残った者たちが一目散に退散してゆく。橋が焼け落ち、仕事の完了を告げる。
私は少女を探した。彼女は谷底の中ほどの岩場に横たわっていた。
どこからともなく血が流れ出ており、手足がてんでばらばらに曲がっている。
亡骸を確認したあと、その死肉を喰らう事にした。邪魔するものはいない。
その子の霊魂が宙を舞っていた。私はその霊魂を掴み、口に入れ、飲み込んだ。
「誰か来る」
山の方から気配を感じる、翼の生えた、男の妖怪がこちらに飛んでくる。
たしか事前の打ち合わせで援護の妖怪を出すとの事だった。だが遅すぎる。
そして、そいつはごっこではない、殺意のこもった弾幕を飛ばした。私に向けて。
付近の人家がとばっちりを喰らい、砂煙が上がる。
「なぜだ?」
「お互いに妖怪だ、余計な詮索は無しといこう」
ああ、そういう事か。すべてこのルーミアという妖怪が一匹でやりました、と人間たちに説明するつもりなのだろう。いちおう人間との取引で生活しているそうだから、そんなまどろっこしいやり方を選んだのだろうが。
「面白い、後悔させてやる」
男の背後に回り、ムーンライトレイを発動させ、翼を狙った、だが、男は素早く反応して別のスペルカードを宣言した。
「妖鳥・不死鳥の叫び!」
鳥をかたどった炎属性の弾丸が私を包み込む。
だが弾幕で振り払い、炎が途切れたところを一発お見舞いし、奴に命中させた。
「ぐっ……」
不死鳥を冠した割にはその程度か、竹林の不死人が聞いたら怒るなきっと。
「まだまだ、妖鳥・ガルーダの舞」
男の背後から二羽の鳥型使い魔が飛び出した。男がどれほど飛び回ろうとも、その使い魔はぴったり男の真上にとどまり、ビームを撃ってくる。
私はビームを喰らいながら男に接近し、剣を男の胸につきたて、引き抜いた。
血しぶきが私の体を染めていく。
「つ、強い」
男は血を噴き出しながら森に落ちていった。
しばらくしたら復活するかも知れないし、そのまま知性の低い妖怪に食われるかも知れない。
だがそんな事はもうどうでも良い。
「さてと、次は人間の依頼でも受けるとするか」
水浴びでもして返り血を落とそう、
鉄の匂いは嫌いではないがこのままにするわけにもいかない。
いちおう身なりに気を使う感覚はなくもないからだ。
次の日、ご丁寧に報酬が家のポストに届けられていた。
口封じに失敗した以上、敵に回すのもまずいと思ったのだろう。
しかし、私は奴らを恨んではいない。
奴らも奴らなりの生存戦略があるのだろう。
僕が彼女の死を知ったのは、収穫も近い日の朝だった。
彼女は村一番の弾幕少女で、この村の守護者だった。妖怪に殺されたらしい。
遺体はなかったので、最初のうちは信じられなかった。
最後の日、僕は彼女に今晩建造中の橋の前で会わないかと誘った。
しかし、今夜は妖怪が出そうだから、とはにかんだ笑顔で断られた。
まだまだ僕には男としての器が足りないんだな、それで断ったんだろう、
とその時は思った。
彼女の両親は泣き崩れていた。
両親から聞かされた話によると、妖怪が橋を襲うとの知らせに出向き、そのまま喰われたらしい
また、僕と会えないことをとても残念がっていたと言う。
一瞬、何のことか分からなかった。
平凡な日常、彼女の笑顔、彼女を慕う村人たち。そして、彼女に思いを寄せていた僕。
それが昨日を境に変わってしまった。永遠に。
ルーミアというたった一体の妖怪によって。
復讐心がこみ上げてくる。また、新たな村の守りも必要だった。
だが力が足りなかった。
僕は紅魔館の存在を知り、村人の反対を押し切り、苦労して湖を渡り、その門を叩く。
館の主に自分の思いをありったけぶちまける。
僕の大切な人が殺された。
その人は村の守り神的な存在だった。
殺した妖怪に仕返ししたい。
村を守りたい。
でも力が足りない。
力が欲しい。
二度とこんなことを起こさせないための力が欲しいと。
少女の姿をした館の主は、僕の話を無表情で聞き終えた後、こう言った。
『Wanna be a DANMAKUMASTER?』
(弾幕使いになりたいのか)
僕はただ首を縦に振った。
朝目を覚まし、井戸の水で顔を洗い、歯を磨く。
別にこんな事をしなくとも、妖怪は体が汚れたりしない。ただ、人間がするのを見てマネしているだけだ。
しかしこういう日課をこなすことで、一日にメリハリをつけることができる。前に烏天狗に言われたことがあったが、ただだらだら生きているだけでは面白くない。
最後に力を封印するリボンを手に取り、髪に結び付けた。
このリボンはある者に付けられて以来、自分では取り外すことができなかったのだが、最近急に自由に外せるようになった。それ以来、夜のうちだけ外し、日中はリボンをつけて普通の女の子として暮らしている。力もそれなりになってしまうけれど。
人妖間の殺し合いはこの時代、かなり少なくなっている。
それでも、人間と妖怪の間に適度な緊張感がないと困るので、ときたま妖怪が形式的な異変を起こし、人間がそれを形式的に解決しに行く。という風習がこの幻想郷にある。
あくまで形式的な闘いだから、双方相手を殺すのは厳禁すると言う暗黙のルールがあり、わたしもこのルールに従って異変に参加したことがある。
だが、よりリアルに利害がからみ、かつ小規模な争いの場合、血で血を争う事態になることがある。ちょうど昨日のように。
妖怪の賢者達も、よほど幻想郷の根幹にかかわる事態にならない限り、こうした争いにいちいち介入はしない。
すべての妖怪や人間がそうした争いを好むわけではないが、私にはこの殺伐とした空気が嫌いではないのだ。
「今日は人里の依頼、ようは、喧嘩の仲裁ね」
子供の姿をした昼間の私、大人の姿をした真夜中の私。
デュアルフェイス(二つの顔)をもつ妖怪。どちらも本当の私だと思う。
子供の姿の私は、荒っぽい依頼は受けないことにしている。
力が足りないからではなく、せめてこの時ぐらい、外見にふさわしいふるまいをしていたいのだ。
「がおー食べちゃうぞ」
「うわあ妖怪だー逃げろー」
いつも喧嘩ばかりしている子供たちがいるので、妖怪である事を利用して仲裁する。
ようは、共通の敵になってやると言う事だ。
子供たちを追いかけまわす、逃げ遅れた子供を取り押さえ、取って喰うふりをしたところ、その子と喧嘩ばかりしていた別の子供が柊の枝を振り回して助けに来る。
私はその魔除けの柊を嫌がるふりをして退散した。
その後、村の大人たちから報酬の食料を受け取った。
その場で餡子のたくさん入った大福にかぶり付く。
「ありがとうございます、憎まれ役になっていただいて御免なさい」
「ううん、これも妖怪の本来の役目だからいいよ」
和解した子供たちが楽しそうに遊んでいる。無論その中に私は入れない。
何かが私の頬をつたう。涙だ、何故だ?
不意にチルノやリグルたちが恋しくなった。
「弾幕使いになること自体は簡単よ」
ピンクの服を着た館の主、レミリア=スカーレットは僕にそう言った。
「でも、妖怪と殺しあうのは危険極まること。それに、復讐なんて割に合う生き方ではないわ。仮にそれを達成しても、トラウマがきれいに晴れ、残りの人生をさわやかに生きられると言う保証はない」
「構いません、そうでなくても、僕たちの村には力が必要なんです」
レミリアはやれやれといった様子で首を振った。
「わかったわ、ではあなたに試験を課しましょう」
僕は銀髪のメイド長に案内され、暗い地下通路へ連れて行かれた。
メイド長の持つランプの光に照らされた毛玉が逃げていく。
「あなたには、この地下通路の妖怪を退治していただきます、失敗したら、その時は死ぬだけです。手助けは一切しません、辞退するなら五体満足の今のうちですよ」
「行きます、行かせてください」
「人間の匂いを嗅ぎつけてきたみたいね、それでは、あなたの意思を見せてください」
不意にメイド長の姿が消え、僕の手にはショット用の護符が握られていた。
~廊下の妖怪を掃討してください~ メイド長の声がした。
毛玉たちや、妖怪が僕の匂いを嗅ぎつけ、襲ってくる。
「これに生き残れば」
護符を握り、念じると、緑色に輝く弾幕が妖怪たちに降り注ぐ。
意外と難しくない、そんな僕の油断を悟ったかのように、足元の床を敵の魔力弾が耕した。
攻撃を一時止め、敵の弾幕パターンを読まなければ。
今だ!
左に飛ぶ。同時に護符のショットを敵に浴びせ、その妖怪は消滅した。
通路の奥が見えた。頑丈そうな木の扉で塞がれている。
そこにボスがいるのか?
扉のかんぬきは……、ない。
重いはずの扉が、大きな音とともに勢いよく開け放たれ、異様な羽の生えた何者かがこっちを見た。
「あなたが、新しい遊び相手?」
求聞史紀でみた、フランドールだった。
~リーダー格の妖怪がそちらに向かった、任せるぞ~
「ちょっ、冗談じゃ」
~そういう弱気ゼリフ言ってると死ぬわよお~
「さ、さらりと言ってくれるぜ」
僕は精一杯の虚勢を張った。
フランドールの目が真っ赤に輝いた。
この日は散々だった。
暴走した人形を止めるのを手伝ってくれとアリスに依頼された。
人形たちは統一のとれた動きはしていないので楽勝だと言われたが、
流れ弾がマジックアイテムやら魔法薬やらにあたり、次々と誘爆しくさった。
結果、大赤字。
「ねえルーミア、どうしたの、巫女になんかされたの?」
とぼとぼと家路を歩く私に、リグルが心配そう声をかける。
「うん、似たようなもんだよ」
「あのね、今日仲間たちがいっぱい羽化するから見に来なよ、いつもの川でさ」
「リグル、ありがとう、着替えたら見に行くよ」
リグルやチルノ、ミスティアと私は結構仲がいい、みんな弱い妖怪と言われているが、決してそんな事はなく、ただ全力を出す機会がないだけだ。
妖怪は必要以上に争ったり怨恨を継続させたりはしない。
だが甘く見ていると、取り返しのつかない目にあうだろう。そういうものだ。
途中幻想郷に迷い込んだ外来人がいた、すでに獣か妖怪に襲われて深手を負っていた。楽に死なせてやり、その報酬として肉を美味しく頂いた。無論、魂も。
「ごちそうさまでした」
骨はどこか景色の良い所に埋めてやるため持ち帰る。
自己満足に過ぎぬと言う気もしたが、糧となった者への最低限の感謝の気持ちは忘れるべきではない。
さあ、着替えてリグルの蛍の舞を見に行こう。
「正直、怯えて逃げ出してくれればいいと思ったのに」
客間で、レミリアが擦り傷だらけの僕に言った。
「怖かったですよ。あの子が作ったがれきの中にずっと隠れていました、撃たれるか窒息するかの瀬戸際でした」
「言っとくけど、弾幕使いになるのに資格なんてないの、あの試験はあなたにあきらめてもらうために課したものなのよ」
「なぜですか?」
「復讐は割に合わない、たとえ敵の妖怪を殺したところで、あなたの心の傷は癒されないと思う」
僕は少しムッとなってレミリアに言ってやる。
「あなたに何がわかるんですか? そんな事、もうさんざん村のみんなに言われて聞き飽きました」
「ちょっと、お嬢様に対して何を……」
「いいのよ咲夜」
「それだけじゃない、仇打ちには自己責任が伴うもの。万が一、力及ばず返り討ちにあえば、あなたの家族はもっと悲しむわ」
「近頃は、吸血鬼様も人道主義ですか? ええ?」
レミリアの眉がかすかに歪んだ。
「……お前と同じくらいの強い意志を持ちながら、初陣であっさり喰われた奴もいる。戦いとはそういうものだ」
「少なくとも初陣では生き残りましたよ」
「がれきに隠れてな」
「最初から上手にやれるヤツはいない」
「試験のとき、死の恐怖を感じたか?」
「はい」
「やめたいと思わなかったのか?」
「思いません。覚悟の上です」
「そこまで言うのなら仕方がない、認めるわ、それなりの力はあるようだから。今この瞬間から、お前は弾幕少女よ」
「お嬢様、彼は少年です」
「カッコ良く決めようと思ったのに、最後でトチった……」
頭を抱えてうずくまる吸血鬼が、ちょっとだけ愛らしく感じた。
それはそうと、待っていろよ、ルーミア。
見晴らしの良い丘に行き倒れになった者の骨を埋め、遺品をお供えした。
遠くの空で、白玉楼の少女剣士が迷う霊魂を誘導しようと骨を折っていた。
「こらこら、そっちで自縛ってないで早く来なさい」
「そこの霊魂、家族が心配なのは分かるけど会いに行っちゃダメ。お盆まで我慢しなさい」
まるで子供をしかる母親のようで微笑ましい。
しばらく眺めた後、手を振って彼女を呼ぶ。
「おーい」
「あっ、ルーミア」
少女剣士、妖夢は私のもとにふわふわと、ではなく高速で飛来し、降り立った。
もう何度も会っているが、いつも警戒態勢を解いてくれないのが少し残念と言えば残念である。
「また今日もですか?」
「うん、そうだよ、この子たちをお願いね」
私は口をあけ、最近食べた者たちの霊魂を解放してやった。
その中に、橋を防衛していた少女と外来人のものも含まれている。
「悪い人の魂じゃなきゃ、こうして噛み砕かずにしておくのよ。時々噛んじゃいたくなるけど、私なりのルールは守るわ。プライドに掛けて」
「わかりました、私が責任もって冥界に連れて行きます」
霊魂たちを連れ、一礼して彼女は飛び去った。途中で思い出したようにこちらを振り向き、彼女は尋ねた。
「人を食べるのにも、矜持が必要なんですか」
思わず私の口調が夜のものになる。
「当たり前だろう、でなければ、誰が人を喰う宿命なんて背負える?」
妖夢は少し驚いた表情で、しばらくその場に凍りついていた。
私は人を食う妖怪、でも無差別食人鬼じゃない。
解ったような言葉を吐いていますが、実際どうなるのか。
これからの少年の考え方などが気になるところですね。
ここのTUKAIの部分をMASTER(←スペル違うかもしれないんですが)マスターの方にしたほうがいいと
思ったのですが・・勝手な意見すみません!