※キャラ崩壊起こしている(個人主観)ので、そういうのが苦手な方はお戻りください。そして少々百合っぽいです。
※慧音先生ファンの方は尚更ご注意ください。
※視点がコロコロ変わりますのでご注意を。一応目印として『 * * * * * *』の度に視点が変わります。
※上記を了承していただけた方のみ、下へスクロールしてください。
「ふぅ、こんな物かな…。」
今日は満月、妖怪たちの妖力が最も強くなる日。
私、上白沢慧音も、今日は頭に二本の角が生えて、尻尾も生えている。
「半獣」と言う名の妖怪である以上、私も満月の日は妖怪の姿になってしまう。
尤も、今更こんな事は里の誰もが知っている事だし、特に気になる事でもないが。
「幻想郷縁起」に記述されていたからなぁ…。…何故私の危険度は妖精よりも上なんだ…。
まあ、御阿礼の子の判断ならば仕方がない。記録されてしまった物に文句をつけてもどうしようもないし。
そんな事は如何でもいい。
私は筆を置き、身体の力を抜く。
今日のように妖怪化している時に、私は里の事やら寺子屋の事やらで溜まった仕事を全て片付ける事にしている。
ただ、何時もは日付が変わるくらいまで掛かる仕事が、珍しく早く片付いてしまった。
まだ戌亥の刻の少し前だ。こうも早く仕事が終わるとは…。
これから夕食を取るにしても、寝るにもまだ早いし、さて何をすればよいのやら…。
幾らハクタク時の素性が知れているとは言え、あまりこの姿で外を出歩きたくはない。
里に住んでいるとは言え、私も一応妖怪なのだ。満月でもあるし、いたずらに里の者たちに不信感を与えるわけにもいかない。
ふむ、仕方が無い、たまにはゆっくりと読書でも…。
「おっす、けーね。今日も元気にキモってるか?」
…ああ、どうも神は妖怪の私には休息を与えてくれないようだ。
「妹紅、何故こんな時間に…。…そしてキモってるとは何だ。」
「ん、細かい事気にしてるとはげるぞ。」
突然の訪問者、藤原妹紅は私の質問をさらりと流す。
…最近人里で、この姿の私を「きもけーね」とか言う者たちが増えているのだが…。…何故だ…。
「…まあいい。で、何をしに来たんだ?」
今日はたまたま仕事が早く終わったが、いつもならば私は、この日は仕事に熱中している。
妹紅もそれは判っているだろうに、何故わざわざ満月の日に…。
「いやぁ、実は家が燃えちゃってさ、今日泊めてくれない?」
何故そんな事を「ごみ出し忘れちゃった」程度の軽い口調で言えるのだろうか?
うーん、妹紅の精神は良く判らん。
「とりあえず、何故家が燃えたのか話せ。」
まあ、何となく想像はつくけれど。
と言うか妹紅が家を燃やすような理由なぞ、あいつ絡み以外に何があろうか…。
「ん、輝夜と殺りあってたら飛び火して…。
…その分ムカついたからボコボコにしてあげたけど。」
ああ、今日は勝ったのか。これで何勝何敗なのだろうか。
そんな事はどうでもでもいい、飛び火したってことは、燃やしたのは妹紅自身じゃないか。
…不死鳥を宿す妹紅と月の姫、どっちが家を燃やす可能性があるかなんて、最初から考えるまでもないが…。
「…全く、何時も殺しあってばかりで…。
今更だが、もう少し仲良くしようという気は起きんのか…。」
幾ら死なない身体だとは言え、幾ら輝夜に晴らしても晴れぬ恨みがあるとは言え、好き好んで殺しあう事もないだろうに…。
…あれか?ひょっとして妹紅は傷付く事に快感でも覚えているのか?Mなのか?
うん、いい事を知った。これは将来色々と役に立つかもしれない…。…妹紅のMはMのM…。
…はぁ、はぁ、Mな妹紅…。…ああ、可愛いぞもこたん…。
「…慧音、顔が不気味だぞ。何でそんな急ににやけてんの?」
…はっ!!わ、私は何をしていたのだ!?
ハ、ハクタク時だから少し精神が高ぶっているのかもしれん…。
余計な事を考えると妹紅に不信がられてしまう…。…お、落ち着け私…。
「あー、こほん。なんでもない、気にするな。
とにかく、流石に野宿させるのも気が引けるから、今日は泊めてやるが…。
明日ちゃんと建て直すんだぞ。それと輝夜と喧嘩も少しは控えろ。」
「家は建て直すけど、輝夜と仲良くするのは無理。」
ええいあっさりと切り捨ておって!!
…まあ、妹紅がこの頼みを聞いた覚えはないから、今更言っても無駄だというのは判っているのだが…。
「…まあいい。言って聞くようならばこんな事は今言わないだろうからな…。
丁度これから夕食だったところだ。今から用意するから少し待っていろ。」
私はゆっくりと腰を浮かす。
今まで輝夜と殺り合っていたのならば、妹紅も夕食はまだなのだろう。
さて、折角妹紅が来たのだから、少し力を入れて料理をするか。
…も、勿論来客者としての意味だ!!べ、別に邪な意味があってこんな事をするわけでは…!!
「んあ、いいよ、折角泊めてもらうんだから、私が作るよ。」
…はい?もこ、今なんと…?
「慧音は別に嫌いなものないよね?んじゃ勝手に食材は使わせてもらうよ。」
な、なんですと?妹紅が私の家で料理を作るですとな?
も、妹紅の手料理ですと?それを私は自分の家で食べられると言うのか?
な、なんと言う妹紅は私の嫁か!!私の家で料理を作ってくれるとか、最高だ妹紅!!
「…また変な顔するー…。…別に自分で作りたいなら構わないけど…。」
「いやいやいや!!ぜ、是非頼むぞ!!
そうだな!!たまには他の者が作った料理というのも食べてみたいものだ!!」
そんな一大イベントを逃してたまるものか!!
妹紅の手料理を食べた事が無いわけではない!だが、私の家でそれを食べる事に意味がある!!
ああ妹紅!!おまえならば何時でも嫁にもらってやるぞ!!
「…まあいいけど…。…ハクタク時の慧音は家にいるとこうなるのかな…?」
…はっと、妹紅が台所の方へ消えたところで私は正気に帰る。
あああああ!!私は今まで何を考えていたんだ!!なんだかおかしいぞ今日の私は!!
別に妹紅が家に来るのは初めてではないというのに…!!
た、確かにハクタク時に妹紅が私の家にいるというシチュエーションは初めてだが…。
落ち着け上白沢慧音!!冷静になるんだ!!
落ち着いてないと妹紅に変な印象を与えてしまう!!妹紅に嫌われるのだけは勘弁だ!!
すーはーすーはー、落ち着け私の獣の血よ…。
…よし、妹紅が料理している間は、ゆっくり本でも読むとしよう。落ち着いて…。
「けーね、醤油が無いんだけど、何処かに置いてない?」
そこにはえぷろんすがたのもこうがいました。
ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
妹紅!!お前は私を殺す気か!!何処からそれを引っ張り出してきた!!
それは確か以前、私が何処かの店で買ってきた物で…!!
買ったはいいが、何時かお前が嫁に来たときに着せ
買ったはいいが、私には似合わないと思ったし、別に割烹着とかでも事足りるからと使わなかったのだが…!!
そこまで似合っているわけでもないというのに、妹紅が着るだけで何故此処まで破壊力があるのだ!!反則だ!!
折角落ち着いたのにまた私の獣の血がフジヤマヴォルケイノオオォォォォ!!!!
「…けーね、醤油は…。」
のた打ち回る私に、妹紅の冷ややかな声が突き刺さる。
あああっ!!また私の獣の血が暴れておかしな事を!!
「あ、ああ、すまない、醤油なら奥の棚の上から三番目の引き出しの前から二列目の左から四番目の砂糖瓶とエ○ラのタレの間にある。」
「何でそんなに正確に覚えてるんだ…。」
それだけ言って、妹紅はまた台所の奥へと消える。
…ああ妹紅、もうお前の手料理はいいからお前が食b
私は何を言っているんだ。
「あー、早く人間に戻らない物かな…。」
この精神の高ぶり方は危険だ。何をしでかすか判った物ではない。
今日という満月の夜が終わるまでは、私はハクタクでいないといけなから…。
ああもう!!しかも今日は妹紅と屋根の一つ下!!
輝夜よくやった!!グッジョブだ!!…って、違う!!
は、早く今日が終わってくれ…。…でないと本気で私は妹紅に手を出してしまうかも…。
* * * * * *
目の前の鍋でぐつぐつと煮える肉じゃが。
長生きしている私には、最早馴染みすぎてそろそろ飽きるだろうというのに、不思議と飽きない家庭の味。
1人暮らしが長い私には、一番の得意料理と言っても過言ではないと思う。
…まあ、肉じゃがが出来たのって、結構最近の話なんだけどね。
…て言うか牛肉入れてて「共食いさせるな」とか言われないだろうか。…大丈夫だよね?
「…それにしても…。」
うーん、今日の慧音はどうしたんだろう…。
ハクタクの時に逢うのは、生きてきた年数で考えれば結構珍しい事だけど…。
…おかしいなぁ、以前の肝試しの時はこんなおかしな事にはなっていなかったはず…。
満月の時は、妖怪の力が強くなると言うし、それで精神が高ぶるって言うのも良く判るんだけど…。
私も既に妖怪みたいなものって気もするけど、やっぱりホントの妖怪の事はよく判らない。
…今度、慧音に借りた「幻想郷縁起」をちゃんと読み直してみようかな…。
ちょっと前に借りたのはいいんだけど、色々とあって結局まだ読んでないからなぁ…。
そもそも家が燃えちゃったから、燃え残っているかがちょっと気になるけど。
「…っと、そろそろかな。」
丁度よく煮詰まってきたので、火力を弱める。勿論炎は自家製(?)。
不死鳥の炎で煮る肉じゃがってのも珍しいだろうなぁ。
あとは野菜を適当に切り分けて、米をよそって、味噌汁も…。
…なんだか夕飯のメニューと言うよりは朝食のメニューだけど、まあいいか。
人の家の食材で、無理に豪華な食事を作る必要も無いだろうし…。
…とりあえず、今日の慧音には少しだけ警戒しておこう…。
* * * * * *
「お待たせ慧音。」
出来た料理を盆乗せて持ってくる妹紅。
…ああ、もう出来たのか。結局読書も全く集中できなかったじゃないか…。
妹紅の料理姿を想像するだけで、血を噴出しそうな思いだ。
全く、妹紅は罪な子だ。
「…そうか。とりあえずエプロンを取ったらどうだ。」
でないと私の理性がどうにかなってしまう。
もう少しその姿を見ていたいという気もするが、これ以上見せられたら確実に私は死ぬ。主に大量出血によって。
…鼻血を意識的に堪えるって、結構辛いんだぞ?て言うか人間時では多分無理だろう。
「んー。まあ、食事してる時に来てるのも変か…。」
そう言って背中の紐を外して、はいすぐにいつもの妹紅へと戻りました。
…うん、ある程度見慣れた姿だから、とりあえずは私の精神も落ち着くだろう。
「よし、それじゃ…。…いただきます。」
「いただきます。」
精神を落ち着かせる意味でも、私はさっさと食事を開始する。
メニューは…。…白米、肉じゃが、レタスとトマトのサラダ、豆腐とワカメの味噌汁か…。
…サラダだけ妙に不釣合いな気がするが、まあいいか。妹紅の料理が不味いはずがない。
私ならばシュー○ス○レミングでも、妹紅が作ったならば喜んで食べてやろう。
…ああいかんいかん。また妙に精神が高ぶってくる…。
1年に12回もハクタクの姿になると言うのに、未だに私はこの状態をコントロールできてないのか?
…妹紅がいるからか?いやしかし、以前の肝試しの時には…。
…まあ、結構我慢していたけれど。精神の高ぶりを誤魔化すために先に霊夢達と戦いに行ったわけだし。
本当ならば、夜の竹林で妹紅と…。…ふふふ、ふふふふふ…。
「…慧音、頼むからメシの時にそんな不気味に笑うのは止めて…。」
正気に返ってみると、ジト目で私を睨む妹紅。
ああああああ!!私はまた無意識におかしな事を!!
こ、これじゃ妹紅に悪い印象を与えるだけじゃないか!!それだけは嫌だ!!
「す、すまない…。…精神安定剤でもあればいいんだが…。」
今度永遠亭の薬師にでも貰ってこようかな…。
「それなら。はい。」
「何故持ってる。」
私の独り言に、ポケットから薬を出して答える妹紅。そして私は反射的に突っ込む。
…ま、まさか私は普段からこう、精神が高ぶってると思われているのか!?
あああああっ!!!!は、ハクタクの時だけならともかく、人間の時まで今の私はそーなのかー!!
「いや、慧音が何時も、満月の日は仕事で大変そうだからさぁ…。」
…えっ?
「…本当はあいつの所に行くなんて嫌だったんだけど、あの薬屋に頼んで作ってもらったんだよ。
「客として来るなら、ちゃんと対応はするわよ。」とか言ってたけど、あの嫌そうな顔を見るとどうだかなぁ、って気も…。
まあとにかく、今日来たのはそれを渡すためでもあるんだよ。」
…いやいや、私にとってはそんな事は如何でもいいんだ。
つまり妹紅。お前はまさか、私のために大嫌いな輝夜のところへ行って来たというのか?
私のために、最も恨んでいる奴のところへ?私のために、その従者に頭を下げて?
「も、妹紅…。」
妹紅の優しさに涙が出そうになる。
ああ、妹紅、お前はなんと素晴らしい人間なんだ。
「ああ、ありがたく使わせてもらおう…。…ありがとう…。」
ぽたぽたと、服に何かが落ちる音が聞こえる。
ああ、駄目だ、こんな姿見られたくない。私は咄嗟に俯く。
ありがとう妹紅。やっぱりお前は最高だ。
お前ならば何時でも嫁に貰ってやろう。て言うか、もういっその事歴史を改変して男になろうか?
私は妹紅のためならばなんだってしよう。
この服に落ちるものこそが、私の妹紅への思いの表れ…。
「…慧音、とりあえず鼻血拭いたら?」
…えっ?鼻血…?
…えっ?涙じゃなくて、鼻血?えっ?えっ?えっ…?
…いや、確かに妹紅への思いである事に間違いはないけど…。
…あれ…?
* * * * * *
うーん、やっぱり今日の慧音はなんか変だなぁ…。
夕食の片付けをしながら、今日の慧音の奇行を振り返ってみる。
ああ、因みに作ったからには片付けるのが基本だと思うから、今は自ら食器洗い中。
それにしても、変に顔赤くしたり不気味に笑ったり急に鼻血噴いたり…。
何だろう、幾ら今日が満月で、慧音が完全に妖怪になってるからって、流石におかしい。
いやまあ、こんな慧音を見れる機会なんて滅多にないから、何となく得した気分にはなるけど…。
「人間と妖怪って、やっぱり差が大きいのかなぁ…。」
独り言が勝手に口から漏れる。
…そう言えば、慧音は人間から半獣になった、後天性の妖怪なんだっけ…。
最初から妖怪だったわけではなく、何かの理由があって妖怪になってしまった存在。
…そう考えると、人間から妖怪になった時の慧音は、一体どんな気持ちだったんだろう。
それまでは普通に人間として暮らしていただろうに…。
偶発的なのか、それとも何か理由があって自ら妖怪になったのか…。
その辺は慧音にしか判らないんだろうけど…。
…どっちにしたって、あまり望ましい事ではなかったんだろうな…。
「…でも…。」
…少しだけ、笑みが零れた。
こう思うのは不謹慎だと思う。慧音にも、凄く悪いと思う。
だけど、そうやって人間から妖怪になった慧音だからこそ、私は心を許せるのかもしれない。
私も、人間から蓬莱人になった化け物、妖怪みたいな物だ。
人間から妖怪になった慧音、死ぬ事の出来なくなった私。
…結構、似た者同士なのかもしれない。
だから、私は慧音にだけは、本当に心を許せるのだろう。
「…よし、いっちょやってやるか。」
皿を洗う手に力が入る。
こんな小さな事でも、私は慧音に何か返してあげなくちゃいけない。
死ななくなって、人でありながら人に忌み嫌われ、人ですらなくなった私。
そんな私を、慧音という存在は孤独から救ってくれた。
慧音は私を、もう一度人間にしてくれた気がする。
感謝なんて、そんな生ぬるい言葉では言い表せないほどに、私は慧音を…。
…まあ、だからって今日一日慧音を警戒する事に変わりはないけどね。
* * * * * *
「んじゃけーね、私はもう寝るよ。寺子達の教室使っていい?」
現在夜11時頃。…よ、良く此処まで耐えた私よ。明日自分に褒美でも買ってこようか…。
妹紅が風呂に入ってる時とか、何度理性が飛びそうになった事か…。
…ああ、末恐ろしいぞ妹紅…。…お前の可愛さは反則だ…。
「何を言う、客人にそんな事はさせられるか。私の布団を使っていいぞ。」
寧ろ使ってくれ。
「いいよいいよ、私がいいって言ってるんだからさ。
それに、もし寝ぼけて布団燃やしちゃったら悪いじゃん?」
…妹紅、まさかお前はそういう経験があるのか?
寝ぼけて布団を燃やすとはなかなかハイレベルな事をやってくれる。
…そう言えば、毎度毎度気になってるんだが、どうして妹紅の服は不死鳥の炎で燃えないんだ?
耐火性が高いのか…、…ああ、実は火鼠の皮衣で出来てるとか?
だとしたら相当可愛そうだな阿倍御主人は。わりと身近に火鼠の皮衣を持ってるものがいたのだから。
まあ、そんなはずはないだろうし、仮にそうだとしても妹紅の父が譲ったとも思えないが。
別にそんな事はどうでもいいのだが。
「うーむ、しかしだなぁ…。」
頭を捻る。
これが博麗の巫女とかならば、ああそうかで済ませられるのだが…。
如何せん相手は妹紅だ。妹紅にそんな教室で寝させるなんて…。
「んじゃ慧音の布団で2人で寝る?」
…What?
「別に女同士だし、慧音がいいならそれでも「No!!Noだ!!I don’t want to do!!」
妹紅のあまりの爆弾発言に、咄嗟に千切れんばかりに首を振る。
逃したくない一世一代イベントではあるが、そんな事したら私は確実に理性の糸が切れる。
いやもう、いっそ嫌われるの覚悟で妹紅に手を…いやいやいや!!それだけはいかん!!
私は何のために今日一日頑張ってきた!!最後の最後で踏み外してはいかん!!
「ああもう!!ならばこれで大丈夫だろう!!」
私は懐から巻物を取り出し、そこに一筆書きで文字を綴る。
『妹紅は今日私の布団で寝る』
…歴史を創る程度の能力、強制発動。新史「新幻想史 -ネクストヒストリー-」。
私の能力はこうやって、何かに歴史を記す事で発動する。
…なんと言う能力の無駄使いだ。
「…判ったよ、じゃあありがたく使わせてもらうよ。お休み。」
しかしまあ、どうやら効果はあったらしく、あっさりと妹紅は私の部屋の方へと歩いていった。
…はぁ、とため息を吐いてへたり込む。
うーん、色々と勿体無かったが、これでいいんだ。
どうも今日の私は色々と変だ。精神が異様に高ぶりすぎている。
これ以上妹紅と一緒にいたら、色々と危険な気がする。
今日の夜が明ければ、私は人間に戻る。そうすれば、流石にこの高ぶった精神も元に戻るだろう。
「…さて、私もさっさと眠ってしまおうか。」
今日は何時もの満月の時以上に疲れた。
もう一秒でも起きていたくない。早く布団に潜って眠ってしまいたい。
ああそうだ、妹紅に貰った精神安定剤はちゃんと飲んでおこう。
妹紅が嫌な思いまでして持ってきてくれた物だ。ちゃんと有効活用しないとバチが当たる。
粉状の薬のようなので、私はとりあえず3袋ほど開けて、さっと口に流し込む。
まあ1袋が少量だし、このくらいが丁度いいかな?今日は色々と疲れたからな。
…っと、意外と甘いな。まあ、精神を安定させる物なのだから、苦いより甘い方が効果的だろうな。
よし、寝る。とにかく寝る。そして目覚めた時には全てが元通りで万々歳だ。
「よし、そうと決まれば…。」
即座に着替えて、予め用意しておいた布団を広げ、私は早々にその上に寝転がる。
ああ、この疲れが布団に吸収されていくような感じが堪らない。
此処まで疲れていれば、流石に無意識に妹紅を襲いに行くような事も無いだろう。
…ああ…ほら…。…もう…意識…が…。
…翌日、私に悲劇…いや、ある意味喜劇が待っているとは知らずに、私は深い眠りについた…。
* * * * * *
「ふあ…ぁ…。」
私は窓から差し込む光で眼を覚ます。
うん、何だか結構よく眠れた。慧音の布団って寝心地いいなぁ。
朝の爽やかな日差しが、慧音の部屋を明るく染める。
うーん、なんだか今日はいい日になりそうだぁ、と柄にもなく思ってしまう。
「…っと、そう言えば…。」
何となく慧音が起こしに来るんじゃないかな、と思っていたのだが、そう言えば独りでに目が覚めたなぁ。
…ひょっとして、まだ寝てるのかな?堅物の慧音にしては珍しい。
よし、此処はたまには私が起こしに行くか。
慧音の寝顔に落書きとかしてやったら、なかなか面白そうだし。
「よし。」
私はパパッと着替えを済まし、慧音の机に置いてあった筆と墨を持つ。
人様の物を勝手に使うのもどうかと思うが、まあ面白そうだからいいか。
なんだかテンションが上がってきたので、私は早足で慧音が寝ているはずの教室へと足を運ぶ。
…そして、気付かれないようにそっと扉を開けた…。
「…ん、やっぱりまだ寝てるみたいだ…。」
教室の真ん中あたりにある布団。
此処からは良く見えないけど、明らかにその中には誰かがいる。
時々もぞもぞと動くし、何より…。
「う~ん…。…もこ~…。」
…その寝言らしき物が、慧音の声だった。
…何の夢を見ているんだ。私と輝夜が殺り合ってる時の夢かな?
夢の中まですまないね、慧音。お礼に面白い落書きしてあげるから。
「…よし…。」
そろりそろりと、物音を立てないように布団に近付く。
ああ、どんな落書きがいいかなぁ。フツーのじゃ駄目だなぁ、もっと面白くしないと。
これが輝夜とかだったら、一生外に出れないような恥ずかしいのを描いてやりたいけど…。
相手は慧音だ。人間の里の評判にも関わるし、なるべく考え抜かないと…。
…っと、そんな事を考えている間に、布団のところまで到着。
「さて、まずは慧音の寝顔でも…。」
なんだかドッキリカメラの撮影をしている気分だなぁ。
なんと言うか、スリルがあって結構面白い。癖になりそうだ。
…と、そんな事を考えながら、右手で布団を少しめくり…。
「さぁ、寺子屋の先生は一体どんな寝が…。」
…慧音の顔を見た瞬間、固まってしまう。
…あれ?何、これ…。…私は、実はまだ夢を見ているのか?
空いた左手で頬をつねってみる。痛い、夢じゃない。
…じゃあ、これは…?
…どゆこと?
「…え…えええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!?」
私の大絶叫が、朝の静かな人間の里に響き渡った…。
* * * * * *
「な、何だ何事だ妹紅!!」
耳元で聞こえた妹紅の絶叫に、私は飛び起きる。
なんだなんだ!?そもそもなんで耳元から妹紅の声が!?まさか本当に寝ぼけて妹紅の寝てるところまで…?
…いや、辺りを見回して、此処が教室である事を確認。それはない。
「も、妹紅!?一体何があった!?」
私の布団の横で、身体を小刻みに震わせながら、大きく口を開けて固まる妹紅。
「け、慧音…?…そ、それは…!?」
妹紅はゆっくりと私の頭を指差す。
…頭?頭に何かついてるのか?手で探ってみる事にする。
まさか寝ている間に某Gにでも乗られたのかな?だとしたら確かに一大事…。
コツンッ!
…と、小さな音と共に、私の手が何か硬い物にぶつかる。
…あれ?…これは…?
「………、…えっ!?!?」
手に当たった物が何かを把握する。こ、これは一体どういうことだ!?
改めて見てみると、私の髪が少しだけ緑掛かっている。
そしてもう一つ、私は腰の辺りに手をやってみると…。
もふっ
と柔らかい感触が…。…ま、間違いない…!!
「な、何で!?」
あまりの出来事に、私は焦りを隠せない。
こんな事、私の人生で一度だって起こらなかった事だぞ!?
今の状態になった時から、何時かはこうなるんじゃないか、と考えた事はあったのだが…!!
「ハ、ハクタクのまま!?」
そう、私は今現在、絶賛キモり中である。
おかしい、今は間違いなく朝。もう満月の夜は終わっているはず。
だと言うのに、私の頭には角が生えているし、髪の毛は若干緑色だし、尻尾も生えている。
こ、これは一体どういうことなんだ…!?
「け、慧音…?」
妹紅も唖然としている。無理もない、私にだって意味が判らない。
何で?私は遂に完全に妖怪化してしまったのか!?
いやいや、落ち着け。多分そんな事は無い。
私はあくまで「半獣」、既に完全な妖怪だ。妖怪の特性が、そんな突然変わるはずもない。
私が完全に妖怪化したというより、何らかの原因で妖怪化が解けなくなってしまったと考えるのが合理的だ。
つまりまあ、その原因を突き止めれば、人間に戻れるのだろうが…。
「ど、どうすれば…。」
色々な意味で、本当にどうすればいいのだ…。
とりあえず、永遠亭の永琳殿にでも相談した方がいいな。
ただ、もし治るのに時間が掛かってしまうとなったら、その間どうすればいいのか…?
再三だが、里の物の殆どが、この姿の事については知っているはず。幻想郷縁起にも書いてあるのだから。
ただ、同じく昨日も言ったが、私はあまりこの姿で里を歩きたくない。
うーむ、治るまで寺子屋の方は休みにするべきか?
尤も、最初から寺子屋の授業を真面目に聞いてくれる子供は少数なのだが。
…うん、とりあえず妹紅とも色々相談しよう、そう思った時に…。
「…慧音、一緒に逃げよう!!」
…急にそんな事言うものだから、私の思考は一気に遥か彼方へと吹っ飛ばされてしまった。
* * * * * *
目の前の慧音が固まっている。
流石に突拍子もなかったかもしれないが、今はそんな事言っている場合でもない。
きっと慧音は、この姿を里の人間には見られたくないはずだ。
だから満月の夜は、家の外に出ないといっていたし。
…うん、きっと、里の人間たちは慧音が妖怪だと言う事を知らないんだ。
まだ幻想郷縁起も読んでないけど、そうだろうと思う。そんな事書くとも思えないし…。
…この慧音の事を里の者に知られる前に、何処か山奥にでも逃がさないと…!
そこでとにかく、人間に戻る方法を考えて…!!
「も、ももももももも妹紅!?おおおおお前はなななナニヲ言ってイる!?!?」
急に顔を真っ赤にする慧音。
…うん、この反応はおかしいと突っ込みたかったけど、今はそんな事言っている暇もない。
「いいから!!とにかく早く荷物を纏めてきて!!」
私は必死にそう促すが、慧音はただわたわたと慌てるだけで、行動を起こそうとしてくれない。
「い、いや、そのだな、妹紅!!私はそれは一向に構わない!!
だ、だが、そのだな!!私は別に駆け落ちしなくても断る相手なぞ最初から居はしないと言うか…!!」
…駆け落ち?…ああ、まあ、確かに逃げるんだから間違いではないか。
どうも慌てているようだし、言葉の選択に一々突っ込んでもいられない。
それに、そもそも誰かに知られるわけにもいかないんだし。
「誰かに断りなんか入れたら駄目だ!!
とにかく誰かに知られないうちに逃げて(人間に戻るまでの間)2人で過ごそう!!」
私の言葉に、何故か鼻血を噴出す慧音。
なんだろう、慌てすぎて頭に血が上ったのかな?
昨日もそうだったけど、意外と慧音の血管は切れやすいのかもしれない。
頭が堅物だから血管も固くて、ちょっとの衝撃で血が噴き出るのかな。
って、そんな事は如何でもいい。
「しししししししかし!!わ、私とて一応里の守護者だったりするわけでございましてててて!!
急にそんな家を空けたりしたら、里の者たちに迷惑がかかると言うか…!!」
ええい!!まだそんな事を言うのか慧音!!しかも今ちょっと言葉使いも変だったぞ!!
自分の非常事態を、いつもみたいに冷静に判断して!!
「里の人たちには私から後で伝えておくから!!」
とりあえず、ちょっと体調崩して暫く永遠亭に入院するとでも言っておこうか。別に言うだけならタダだし。
幾ら慧音が人望厚いとは言え、里の者も、流石に永遠亭まで見舞いに行こうという気も起きないだろう。
「し、しかし!!こ、これでは私の方が女性みたいでは…!!」
こいつは何を言っているんだ。
「慧音は最初から女だから!!錯乱しているみたいだけどちょっと落ち着いて!!」
相変わらず慧音の顔はトマトみたいに赤い。
これはこれで珍しい光景だから、もう少し眺めていたいんだけど…。
「こ、この状況で落ち着けるか!!私は今人生最大の分かれ道に立っているのだぞ!?」
…ああ、そうかもしれない。確かに人に見られたら結構拙いだろうからね。
慧音は人間の里の守護者なんだし、下手すればこれからの幻想郷にも大きく関わってしまうかもしれない。
人間を護っている者が、実は妖怪でしたなんて事、里の人達にはまだ早いと思う。
「とにかく!!早く必要なものだけ纏めて!!
こんな事里の人に知られたら、それこそ一大事だから!!」
ボワンッ!と慧音の頭から煙が出たような錯覚を見た。
うん、錯覚だろうきっと。炎を扱う私みたいな能力持っている訳じゃなかったはずだし。
「…くっ…!!妹紅、お前はそこまで私の事を…!!」
ようやく納得してくれたか…。
顔色も徐々に落ち着いていき、終いには何故か涙を流し始める。
…うーん、別にそんな感動するほどの事でもないと思うんだけどなぁ…。
「判った!!妹紅!!私は何処までもお前と共に行こう!!例え地の果てまでも!!
ああすまない寺子達よ!!先生は!!先生は愛に生きるぞおおぉぉぉぉ!!!!」
訳の判らない事を叫びつつ、慧音は鴉天狗もびっくりの速さで自分の部屋へと駆け込んでいった。
うーん、どうも精神の高ぶり方まで昨日のままだなぁ。
…これは完全にハクタクモードだなぁ。とりあえず逃げるという選択肢を取って正解だったと思う。
「さあ妹紅!!何処に住居を構える!?住民票は!?引越しの手続きは!?表札は『藤原』だけでいいからな!!」
おお、はやいはやい。
冗談はともかく、これまた驚くような速さで荷物をまとめて、序に着替えまで済ませてくる慧音。
もうなんだか色々と早い。住民票ってなんだろう。引越し手続きって何処に出すの?
て言うか一時的な非難だから、別にそんなの出さなくても良いと思うんだけど…。
「と、とりあえず私の家の跡地に行こう。そこをベースに家を建てれば…。」
「そうか判った!!では今すぐに行こう!!」
と、私がまだ言葉を言い終わらないうちに、慧音が私の腕を掴んで猛スピードで飛ぶ。
ちょ…!!は、早い早い!!早すぎてこわいこわい!!呼吸がキツい!!
な、なんなんだ今日の慧音は。昨日と同じなんてレベルじゃないよ!?
私はまだまだ慧音の事を知っていないということか!?慧音のこんな一面のことを知らなかったと言う事か!?
…鴉天狗に記事売り込んだら、結構いい話題になりそうだなぁ…。
…まあ、やらないけど。
* * * * * *
ものの数分飛んだだけで、私と妹紅は迷いの竹林内、焼け焦げた妹紅の家の跡地へとたどり着く。
うむ、まさしく愛は偉大だ。
「さて妹紅、まずは家をどうやって改築する?」
先ほどから私の心が爆発し続けている。まさしくフジヤマヴォルケイノ。
ああ、妹紅!まさか駆け落ちするほどに私のことを思っていてくれたとは!!
なんだって今日の妹紅はこうも積極的なのか!いや、寧ろ喜ばしい事ではあるが!!
もう私が嫁入りでもなんでもいい!私は妹紅一筋で生きるぞ!!
「いや、改築以前にまずは家建て直さないと…。」
そう言って、妹紅は焼け焦げた我が家の残骸をちらりと見る。
うむ、これからは私も暮らすのだから「我が家」で間違いない。
「何を言う妹紅。私はお前のためならば、この力を使う事は惜しまないぞ。」
そして私は、また例の巻物を取り出す。
『なかった事に』。歴史が始まってから、こうやってハクタクは色々となかった事にしてきたのだ。
愛のためならば、こうして能力を使う事も許されるはず。と言うか無理矢理許す。
そういうわけで、昨日の「妹紅の家が焼けた」という歴史をなかった事に。
「…おー、流石慧音。便利な能力だなぁ。」
一瞬にして完璧に戻った我が家を見て、妹紅がそう声を上げる。
…もっと…もっと褒めてくれ…!!
「さ、慧音。上がってよ。とりあえず、まずは人間に戻る方法を考えようか。」
おお妹紅!私が言わなくても、その話を切り出してくれるとは!
ああ、優しいし容姿もいいし強いし、お前は何処まで素晴らしい人間なんだ!!
やはり私の目に狂いは無かった!やはりお前こそが、私の生涯の伴侶だ!!
「も、妹紅!不束者ですがよろしくお願いします!」
「…まあ、(暫くは)一緒に暮らすわけだからね。こっちこそよろしく。」
一瞬冷ややかな目線を送られた気がしたが、まあ気のせいだろう。
夫婦初の共同作業は、まずは人間に戻る手段を考える事か!まあそれもいいだろう!
そうして、私は新しき我が家へと足を踏み入れる。
ああ、通い慣れた妹紅の家も、こうして自分の家として意識するだけで、こうも違うものなのか!!
「ああ、御茶淹れるからそこで待ってて。麦茶で大丈夫?」
「も、もぉちろんさぁ!!」
妹紅の問に、私は即答する。
ああ、やはり精神が高ぶっているせいか、舌が上手く回らなくなっている。
い、いかんいかん。折角妹紅が私と暮らしたいと言ってくれたのだ。悪い印象を与えてはいけない。
…後であの精神安定剤飲んでおこう…。
…それにしても、あの精神安定剤が本当に効いてるのかが判らない。
まあ、昨日と今日で素晴らしきイベントがありすぎて、興奮が冷めないだけなのだが。
「はい、どうぞ。」
麦茶を持って戻ってくる妹紅。
妹紅の淹れた物ならばなんだって美味いがな。
「うむ、ありがとう。」
早速少し傾けてみる。ああ、やっぱり美味いぞ。
「さて、慧音。…どうしてそうなったのか、心当たりはある?」
真剣な眼をしてそういう妹紅。
ああ、そうまで真剣に考えてくれる妹紅はやはり優しいなぁ…。
「そうだなぁ、心当たりといわれても…。」
別に昨日は、仕事が早く終わった以外は、特に変わったこともなかった。
うーむ、まさか仕事が早く終わった事に原因があるとも思えないし…。
「そっか…。…となると、やっぱりあの医者にでも見てもらわないとだめかなぁ…。」
露骨に嫌そうな表情を浮かべる。
まあ、誰の事を考えてるかなんて事は聞くまでもないか。
「妹紅、嫌なら私一人で行くから大丈夫だ。
別に私は永琳殿に個人的恨みがあるわけではないからな。」
寧ろ永琳殿には、里に薬を配ってくれたりで感謝しているところすらある。
まあ、妹紅を毎度毎度殺しに来るという恨みは別だがな。
今までは妹紅自身がある程度望んでいる節が有ったからともかく、これからは話は別だ。
妹紅と夫婦になった以上、私は妹紅を護るためならば、どんな戦場にだって降り立とう。
「…まあ、私も基本的に殺したいのは輝夜のほうだから…。」
う~ん、こんな血腥い話題をするために此処に来たわけではないのだが…。
何とか話題を変えようか…。
「そ、そうだ妹紅。すぐに此処に来たから、朝食がまだだろう。
これからは食事は私が作ろう。何か食べたいものはあるか?」
料理は妻が作るのが基本だろう。
それに、妹紅のためならばどんな料理だって私は作ってやろう。
「ん、そだね。ありがとう。メニューは任せるよ。」
ああ、妹紅にありがとうと言われるだけで今は至福だ。
頑張ってしまうぞ、ああ私は頑張ってしまうぞ!
「そ、そうか。では少し待っていてくれ!」
私は台所へと駆けていく。待っていてくれ、最高の朝食を用意しよう!
ああ、こうして妹紅と一種に暮らせる日が来るとは!!
私は今、初めて此処まで神に感謝した!!
これは新しく山に来た神奈子殿の神徳か!?
否!!これは愛の力だ!!愛が起こした奇跡だ!!
普段だったら恥ずかしくて考えすらしない事が、今はポンポンと頭の中に咲いていく。
ああ!私はなんと言う幸せ者だ!!
* * * * * *
慧音が持ってきた朝食は、どれも素晴らしいほどの出来栄えだった。
…慧音の料理を食べた事がないわけじゃないけれど、この料理は今までで最高に美味しかった。
メニュー的には白米、目玉焼き、味噌汁と別に普通なのだが…。
…一体何がこうまで味を底上げしているのかが判らない…。
美味しすぎて文句が言いたくなるというのも、珍しいなぁ…。
「ど、如何だ妹紅?く、口に合わなかったか…?」
頬を赤らめて聞いて来るのだから判らない。
…まあ、あれか。確かに自分が作った料理の味って気になるよね。
序に私が不気味に感じているものだから、多分口に合わないと勘違いされたのだろう。
「大丈夫、美味しいよ慧音。どうやったら此処まで美味しいものが作れるのかが聞きたいくらいさ。」
本当に聞いてみたい。まあ今は別に聞かなくてもいいけど。
「ほ、本当か!?そ、それは良かった!!おかわりなら好きなだけあるから、何時でも言ってくれ!!」
どれだけ作ったんだよ慧音。朝食2人分でしょ?
まあ、これだけ美味しければ、どれだけ食べても大丈夫な気はするけど…。
「いや、後は昼食用にでも残しておいて。そうすれば昼は楽でしょ?
それに、私は一応里の方に、今日の事伝えてこないといけないから。」
一応、慧音が暫くは人間の里に顔を出せない事を伝えておかなくてはいけない。
「ああ、それなら私が自分で伝えてこようか?」
と、慧音が素晴らしき爆弾発言。
おーい、何のために此処まで逃げてきたんだと思ってるんだー。
慧音がその姿で人里行ったら、何の意味も無いだろうがー。
「大丈夫大丈夫。慧音はそれまで永遠亭に行ってれば、時間も無駄にならないでしょ?」
パッと思いつき発言だったが、合理的な意見だと思う。
そうすれば、私はあのニートの顔を見に行かなくて済むしね。
慧音一人にあそこに行かせるのはちょっと不安だけど…。
まあ、別にあっちは慧音に何かあるわけじゃないし、永琳は客にはちゃんとした対応を取る。
客として永遠亭に行くなら、何も問題はないか。
「そ、そうか。日にちとか段取りはちゃんと決めてあるのか?」
日にち?段取り?何の事…?
…あ、ああ、人間に戻ったら人里に帰るって事ね。
日にちまでは流石に判らないけど、その段取り事態はちゃんと決まっている。
「ああ、ある程度はね。ちゃんと伝えておくから安心して。」
…何故か慧音の顔がまた赤くなる。
うーん、ひょっとして熱でもあるのかな。それが影響して人間に戻れなくなったとか?
まあ、それも含めて永遠亭で診てもらえば大丈夫か。
「わ、判った。流石妹紅だ!では食べ終わったら先に行っててくれていいぞ。
こういう事は早く伝えた方がいいだろうからな!私は食器を片付けてから永遠亭に行こう!」
何故か張り切っている慧音。
…まあ、早く伝えておくに越した事は無いか。今日は寺子屋の授業もあったんだろうし。
「ん、判った。じゃあまたお昼に此処で。」
「ああ、心得た!お昼の用意をして待っているぞ!!」
昼の用意と言っても、基本的にはさっき言ったとおり今の余り物なんだろうけどね。
それに、完全に慧音のほうが早く帰ってくる前提だけど…。
…まあ、人間の里全体に伝えなくちゃいけないだろうし、私のほうが時間は掛かりそう、か…。
これは出来るだけ早く済ませたほうがいいな。慧音を待たせるわけにも行かないし。
そういうわけで、私は早々に朝食を済ませて、人間の里へとまた戻る事にした。
…うーん、それにしても、何でさっきから慧音の言動と表情が一致しないんだろう。
…まあ、慧音も人間に戻れなくてショックだろうし、深く考えない方がいいか…。
* * * * * *
ああ、此処まで気分上々で永遠亭に来たのは初めてかもしれない。
永遠亭側としても、笑顔で診察を受けに来る患者なんて見た事ないだろうな。
だけど、あまりの至福に如何しても顔が笑ってしまう。
ああ、早く診察を済ませて、早く私と妹紅の家へと帰ろう。
「…よし。」
永遠亭の玄関の前で深呼吸。
本気で笑ったまま診察を受けるわけにも行かないし、せめて顔だけでも元に戻さなくては…。
「ごめんくださーい。」
扉を開けつつ、中に誰か居ないか呼びかけてみて…。
「たっ、タスケテーッ!!!!」
ドスンッ!!っと、悲鳴と共に中から飛び出してきたものと正面衝突。
あまりの不意打ちに流石に対処が出来ず、私も彼女…まあ、誰かなんて考えるまでもないか…も、尻餅ををつく。
「い、いたたたた…、す、すみません!!お客様になんと…うえぇっ!?」
真面目な性格ゆえか、パッと起き上がって謝罪しようとする、永遠亭の住人、鈴仙・優曇華院・イナバ。
しかし、一回頭を下げてから私の姿を見た後、また悲鳴を上げて固まってしまった。
うん、何て失礼な奴だ。人の姿を見ただけで…。
…あー、そうですね。今の私は確かに見ただけでも驚くな。
「鈴仙、丁度良かった。永琳殿は…。」
鈴仙にそれを訊ねようとして…。
「ウドンゲー。逃げてないで早く私とフュージョンしま…。…あら?」
謎の言葉を発しながら永遠亭の奥から出てくる、月の頭脳、八意永琳。
いや、とりあえずそれはお前の言葉じゃない。
そう突っ込みたかったが、待ち人があちらから来てくれたので良しとしよう。
流石に永琳殿は、私のこの姿を見てもさほど驚いていないようだ。
「…これは珍しい客ね。そして此処までどんな要件で来たかが判りやすい患者も。」
そうだろうな。半獣なんて存在は、今の所は私くらいしかいないし。
永琳殿も私のハクタクの姿については知っているから、どうして此処に来たのかも、まあ判りやすいだろう。
「用件は言わなくても判っていただけたか。とりあえず、貴公にこの事を相談しに来たのだが…。」
「…まあ、そういう事なら診察はするわ。カウンセリングになるかもしれないけど。」
ああ良かった。
妹紅絡みの事で断られるとは最初から思っていないが、他に客がいたらどうしようとは少し思っていた。
「ウドンゲ、長くなるかもしれないからお茶を淹れて来なさい。」
「は、はいっ!!」
と、今まで私の後ろに隠れて震えていた鈴仙が、慌てて永遠亭内に戻っていく。
「…終わったらフュージョンしましょ?」
…すれ違い様に永琳殿がそう呟くと、鈴仙は2秒ほどその場で停止する。
そしてその後、さらにスピードを上げて永遠亭の中に消えていった。号泣しながら。
「…永琳殿、今まで鈴仙と何を…?」
恐る恐る訊いてみる。訊いちゃいけない内容だったかもしれないが…。
「…ウドンゲが可愛いから、つい…。」
少しだけ頬を赤くして、それ以上は語らない永琳殿。全ては愛故か。
…うむ、今ならばその気持ち判るぞ。物凄く良く判る。
愛は偉大だ。この世に愛に勝るものなの何もありはしない。
私は何度も、何も語らずに強く頷いた。
「…あら、意外な反応ね、嬉しいわ。診察料は少しまけてあげるから、あがりなさいな。」
おっと、それはありがたい一言。
今までの私なら何かと断りそうだが、今は妹紅の嫁となったこの身。
これからの生活の事もあるし、そう言うところで少しでも得が出来るのであれば喜ばしい事だ。
「それでは、失礼する…。」
そうして、私は永遠亭に足を踏み入れた。
永遠亭に来たのは初めてではないが、相変わらず静かな場所だと思う。
うさぎ達の数はかなりのはずだが…。…防音の魔法でも掛けてあるのだろうか?
「…で、元に戻れなくなった原因に心当たりはないの?」
…っと、今はそっちに集中しよう。
こっちの用事も早く済ませなくてはいけないのだし。
「妹紅にも同じ事を聞かれたんだが、それと言った心当たりが…。
昨日の変わった事と言ったら、仕事がかなり早く片付いたのと、珍しく妹紅が来たくらいか…。」
こればかりはやはり判らない。
とりあえず、少しでも変わった事は永琳殿に話してみるが、反応は苦しいものだった。
「…うーん…、あなたが日ごろ、その原因になうような行動をとってるとは思えないし…。
今まで起きなかった事が突然起きたんだから、原因は昨日の何かにあるハズなんだけど…。」
永琳殿がこうして首を捻る様と言うのも、なかなか珍しい光景だと思う。
月の頭脳を持ってしても、やはりこの症状は難解な物なのか…。
「…昨日は満月の光が何か違ったわけでもない…。勿論姫や私も何もしていないし…。
…本当に、他に心当たりは無い?どんな小さな事でもいいわ。」
難しい顔をしながらそう訊ねてくる永琳殿。
そう聞き返されても、思い当たる事は…。…まあ、とにかく昨日一日を思い返してみる。
私は基本、満月の日は寺子屋を休みにしている。
ハクタクになるのは夜だけだが、仕事をするのは人間時の朝と昼も同じだ。
朝と昼の人間時は、恐ろしいくらいに何時も通りだった。
仕事をし、食事を作り、息抜きにちょっと里に出たりと、変わった事は何も無かった。
夜になってハクタク化しても、基本的にはずっと仕事をしていたので、他に何か変わった事が有ったはずもない。
…となると、やはりその後、妹紅が来てからか…。
「うーむ、確かに昨日はやたらと気分が高揚していたが…。」
妹紅が珍しくハクタクの時に家に来たせいか、昨日はかなりハイテンションだった。
…ただ…。
「…それが直接の原因とは思えないわね。ハクタク時にあなたと妹紅が一緒にいるのは、初めてじゃないでしょう?」
うむ、私も同感だ。
少しくらいは関係があるかもしれない。ハクタクの時の興奮が収まりきらなかったとかで、この姿のままになったとか。
ただし、別にそれも今回が初めてではない。ハクタクの時でなくとも、妹紅と一緒にいれば始終ハイテンションだ。
…別に変な意味で言ってるわけではないぞ。全ては愛故だ。
それは置いておいて、つまりそうして気分が高揚していた事も、今回が初めてなわけではない。
多少の要因はあるかもしれないが、直接的な原因と言うには少し弱いか…。
「そうなると…。」
いよいよ本格的に苦しくなってきた。
それ以外に特に変わった行動をした記憶はないし、変な物を食べたわけでもない。
そもそも昨日の夕食を作ったのは妹紅だ。妹紅の料理が原因なハズはない。断じてない。
…あれ?夕食?
…何か引っ掛かる。そう言えば、夕食の時に何か一つだけ変わった事があった気が…。
「…あら、何か思い出したかしら?」
そう言って、私の顔を覗き込む永琳殿。
…その永琳殿の顔を見て、私はある事を思い出した。
「…そう言えば、妹紅から貴公が作った精神安定剤を貰ったな…。」
今までこの事を忘れていた自分を恥ずかしく思う。
ああ、許してくれ妹紅!私はなんと愚かだった!お前の優しさの篭った薬のことを忘れてしまうなんて!!
「ああ、あの薬ね。…だけど、強力に作ってはあるけど…。
…なんだろう、今の永琳殿の言葉が胸に突き刺さった。
容量、用法…?
「…永琳殿、一つ聞いてもいいか?」
「あら、なにか…。…あれ?顔色が悪いわよ?」
そうかもしれない。血の気の引く思いとはこんな感じなのか…。
「…精神安定剤に、容量と用法なんてものがあるのか…?」
私はてっきり、薬ではないからそんな物もないと思っていたのだが…。
…だけど、そう言えば永琳殿はさっき、はっきりと「薬」と…。
「当然じゃない。精神安定剤も薬である事に変わりないのよ?
あの薬は私の作った中でも結構強力だから、しっかりと袋に『1日1袋厳守』と書いてあるはずよ?
もう少し言うと、あれはストレスを取るというよりはストレスが溜まらないようにする薬だから、朝食後に服用するように、とも。」
…耳を塞ぎたくなった。
妹紅が持ってきてくれた物と浮かれて、その辺の確認を怠っていた気がする…。
「…永琳殿。もし万が一、その薬を容量を超えて使ってしまった場合は、どうなるんだ…?」
…ああ、もう既に私が人間に戻れなくなった原因が判った気がする。
もしこれが原因だとすると、完全に私の落ち度だ。かなり恥ずかしい。
「…私は、あなたは常識人だと思ってたから、あの薬でも大丈夫だと思ったのに…。」
今までの真剣な表情から一転、完全に呆れ果てた表情を浮かべる永琳殿。
…確かに、普段の私だったら確認は怠らなかったと思う…。
「…正確な事までは判らないけど、何か副作用が出るのは当然ね…。
あなたの場合、もしハクタクの時に薬を飲んだのなら、身体に変調を来たして、元に戻らなくなるとかね…。」
グサリグサリと、永琳殿の言葉が容赦なく私を襲う。
あの薬は朝に服用する物だった。朝ならば私はほぼ確実に人間であるとの予想から、永琳殿はあの薬が最適だと思ったのだろう。
しかし、私はその予想をぶち壊して夜に服用。しかも3袋。
しかもひょっとしたら、朝に飲むというのが前提なのだから、人間用に作っていた物だったのかもしれない。
人間と妖怪では多少だが代謝も変わるから…。
…これで副作用が出なかったら、逆に奇跡としか言いようがなかったかもしれない…。
「…面目ない、永琳殿。完全に私の責任だ。」
自分の積を認めて、素直に頭を下げる。
「…まあ、やってしまったものは仕方ないわ。
薬の効果が切れれば副作用も消えると思うから、それまでその姿で我慢しなさい。
流石に精神安定剤の解毒剤なんて作れないからね。」
はぁ、と大きくため息をつく永琳殿。
…ううっ、これでは呆れられても仕方がないか…。
「…永琳殿、効果が切れるまでの時間はどのくらい掛かるか判らないか?」
話題を変える意味でも、私はその話を振ってみる事にする。
「そうね、あなたがどれくらい許容量をオーバーしたのかは知らないけど…。
…あの薬の効果が1日ピッタリだから、同時に飲んだ場合は大体倍時間続くと考えて…。
まあ「超えた分=効果が切れるまでの日数」と考えていいでしょうね。勿論多少誤差は出るだろうけど…。」
…そうやって時間ピッタリに切れるように作れる永琳殿が恐ろしい。流石は蓬莱の薬を作るほどの薬剤師だ。
ただ、同時に服用したからって、効果時間がそうやって倍々になる物なのかな…。
…まあ、永琳殿が言うんだから間違いないか。
「そうすると、明後日の夜までか…。」
「…幾ら知らなかったからって、3袋も一気に飲むとは思わなかったわ…。」
…しまった、言わない心算だったのにばれてしまった…。
ああ、かなり恥ずかしい。顔から火が出そうだ。
確かに普通ならば2袋くらいだよなぁ常識的に考えて…。
「…永琳殿、本当にすまない。」
色々と感情を誤魔化すために、もう一度頭を下げる。
…とは言っても、最初から恥ずかしさのあまり、頭を上げていなかったけれど。
「全くよ。まさかあなたがそんなミスをするとはね…。」
またまた永琳殿の言葉が突き刺さる。ああ痛い…。
ううっ、医者とかそういう職業の人は、こういう事でもズバズバ言ってくるからなぁ。
そういう仕事なのだから仕方ないが、やっぱり痛いものは痛い。
しかもミスした原因が、妹紅と屋根の下の状況に浮かれていたからだと言うのだから…。
…いや、待て、それはOKだろう常識的に考えて。
相手が妹紅で浮かれない人間なぞ居るはずはない。私は妖怪だが。
「まあ、私も完璧ではない。ミスする事くらいはあるさ。」
とりあえずもっともらしい理由をつけておいた。
人間でも妖怪でも何でも、ミスなんて誰でもするさ。
「…常識力の問題って気もするけどね…。」
ザックリ。素晴らしきトドメの一撃。
…さ、流石永琳殿…。…一番突かれたくないポイントを軽々と…。
「…永琳殿、診察感謝する…。」
これ以上永琳殿の診察を受けていると、精神的に色々とやられる気がする。
永琳殿としては普通に診察している心算なのだろうが…。
「あらそう?まだウドンゲも…。…そう言えば、遅いわねウドンゲ…。」
そう言われて、私は鈴仙の事を思い出す。
話し始めてから結構時間が経った気がするが、お茶を淹れにいったはずの鈴仙がまだ来ていないのだ。
お茶を淹れるだけならば、そう時間は掛からないはずなのだが…。
「…まさか…。…逃げたかしら…?」
言ってる事は結構重大(?)なのに、わりと平気そうな表情の永琳殿。
まあ、永遠亭に来た時の鈴仙の様子を考えれば、逃げたくなる気持ちも判るが。
何が有ったのかは知らないが、やたらと怯えていた事だし…。
「随分落ち着いてるな、永琳殿。」
話題を変える意味でも、そう言ってみる。
鈴仙は確か、狂気を操る月兎。幻覚を見せたりするのはお手の物だ。
その彼女が本気で逃げようとしたら、簡単に捕まえられるとは思えないが…。
「問題ないわ。ウドンゲの服には発信機を仕込んであるから。
まあ、そんな事しなくても愛の力だけで探す自身はあるけれどね。
それに、逃げてもらった方がお仕置きする口実が増えて寧ろ好都合よ。」
恐るべき月の頭脳。完全に鈴仙を手玉に取っているな。
もしかして永琳殿は此処まで見越して、鈴仙にお茶を淹れさせたのだろうか?
だとしたら、もう永琳殿に勝てる気がしない。色々な意味で。
「そうか。まあ、そっちの事情はそっちで片付けてくれ。
私は妹紅の昼食の準備をしなくちゃいけないから、これで失礼させてもらう。」
すまないな鈴仙。私には永琳殿を止める事など出来ない。
まあ、永琳殿にそれだけ愛されてると思って諦めてくれ。愛は偉大だ。
「そう?なら、効果が切れるまでは安定剤は飲まないようにしなさい。
今以上にハクタク状態を長引かせたいと言うなら、話は別だけどね。」
「使用は控えさせてもらうよ。今日は本当に助かった。」
最後にそれだけ言葉を交わして、私は永遠亭を後にした。ああ、勿論診察料は払って。
余談だが、この後1ヶ月ほど、私は鈴仙の姿を一度も見る事はなかった。
* * * * * *
「あー、すっかり遅くなっちゃった。」
もう日も沈み始めた頃、私はようやく迷いの竹林へと帰って来た。
人里で慧音の事を伝えていたら、予想以上に慧音はどうしたのかとか、大丈夫なのかとか色々質問し返された。
里の人たちを安心させるのに本当に疲れた…。お陰でこんなに時間が掛かってしまった。
だけど、流石は慧音だなぁ。里の人たちから信頼があるからこそ、あれだけ心配されてるんだろうし…。
…少しだけ、それが羨ましいなぁ。私は慧音に出会うまで、そうして人の輪に加わる事が出来なかったのだから…。
…っと、辛気臭い事考えるのは止めよう。
昼には帰ると言ったのに、こんな時間になってしまったんだ。
ひょっとしたら慧音も心配してるかもしれないし、今は一秒でも早く帰ろう。
私は家まで出来る限りのスピードで飛ぶ。
そして、素早く玄関の扉に手を掛けて…。
「ごめん慧音、遅れ「もこおおおおおおおぉおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
「ごふぁっ!!!!」
ドアを開けた瞬間、慧音のハリ○ーンミ○サーの直撃を受けた。
「妹紅!!何処行ってたんだ!!心配したんだぞ私は!!
ああもう!!妹紅の可愛さに誰かが誘拐を企てたのかと!!私は心配で夜も眠れなかったぞ!!」
慧音が何かを叫んでいるのは聞こえたのだが、残念ながら内容までは聞き取れない。
寧ろ慧音の殺人角タックルを喰らって、生きていた事に驚いていた。
「…あ、ああ、ごめん慧音…。思いのほか里中に知らせるのに時間掛かっちゃって…。」
一応真実だけを伝えておく。
慧音に心配を掛けたのは間違いないし、反省しなくちゃいけないなそこは…。
…だけど、だからっていきなりハリケ○ンミキ○ーはないだろ。
「妹紅…!!今度からちゃんと遅れる時は連絡するんだぞ!!
お前にもしもの事があったら、私は、私は…!!」
涙ながらに訴える慧音。うーん、そこまで心配を掛けてしまっていたのか…。
私は何があっても死なないのに…。
「うん、判ったよ。ごめんね慧音。」
ただ、連絡を取るってどうやってやればいいんだろう。
そんな自分の声を一瞬にして伝える方法、まだ幻想郷にはないからなぁ…。
「こーりんどー」とかいう場所に、そういう機能がある「けーたい」とか言うのが売ってるらしいけど、誰も(1スキマ除く)使い方を知らないし…。
「判ってくれればいいんだ…。さあ、遅くなってしまったが食事にしよう。
なに、私の能力を使えば、出来立ての頃の状態に戻せるから安心してくれ!」
…ホントに便利だな慧音の能力は。時間を操る能力の一種であるのだから、不思議ではないけれど。
そー考えると、紅魔館のメイドも本当に適材適所だなぁ。
時間を操るメイドとか、便利でしょうがない。一家に一人欲しいくらいだ。
「…妹紅、今別の誰かの事を考えなかったか?」
…そんな事を考えていると、何故か慧音の冷たい目線が…。
「えっ?べ、別になんでも…。」
反射的にそう言ってしまった。
長年生きてきた勘が言っている。此処で肯定したら、私は大変な目に遭うと。
「…そうか、なら良いんだ。さあ、冷めないうちに早く食べてしまおう。」
そう言って、慧音の表情は何時もの物に戻る。
…何だったんだろう。今の一瞬の、恐怖にも似たような感覚は…。
死を忘れた私が、まさか慧音相手に、こんな感情を覚えるとは思わなかった。
しかも、何故別の誰か(咲夜)の事を考えてると判ったんだろう…。
知らない間に心を読む能力でも身に付けたのかな。
だとしたら凄いな、慧音は。私が知っているよりも、ずっと凄い存在なのかもしれない。
うーん、やっぱりまだまだ私は知らない事が多いんだな。
こうやって新しい事を知っていくのは、死ぬ事の叶わない私の数少ない楽しみでもある。
時代が変わり、一人それに取り残されていく感覚は、確かに寂しい物だけれど…。
新たの時代で、新たな物を知っていく。その楽しみだけは、どれだけ時が経っても変わらない。
そして、そうやって新しい事を知っていく事で、私は「生きている」という事を実感出来るのだ。
さて、確かに昼食を抜いて、腹も減っていた事だし…。
慧音の作ってくれた、きっと美味しいであろうご飯を、心行くまで楽しむとしようか。
* * * * * *
ふぅ、妹紅との新婚生活初日も、ようやく終わりを告げようとしている。
風呂で濡れた髪をタオルで拭きながら、私は今日一日の事を思い返してみた。
「…ああ、本当に素晴らしいな、こういう生活は…。」
妹紅と一緒に暮らせると考えるだけで、私は出血多量で死ねそうだ。何処から噴き出る血かは言わないでおこう。
ああ、これからずっと妹紅と屋根の下、これからずっと…。
…ヤバい、風呂で火照った頭がさらにヒートしそうだ。
このままでは夜中に熱中症で倒れるという事になりそうなので、この辺で思考を止めておこう。
…如何でもいいが、頭を拭いている最中はこの角が邪魔でしょうがないな…。…今更だが…。
さて、そろそろ寝る支度もしなくてはな。
「妹紅。」
妹紅の部屋の戸を開けて、中の妹紅に呼びかける。
中の妹紅は既に白の寝巻きに着替えていて、完全に後は寝るだけという状態だった。
「ああ、慧音。如何だった風呂の方は。」
「上々だったぞ。妹紅が焚いた風呂が悪いわけが無いだろう。」
妹紅は一瞬首を捻る。…いや、当たり前の事ではないか?
「…あ、そうそう、そう言えば永遠亭の方は如何だった?結局それは治るの?」
うっ…!!永琳殿に言われた様々な言葉が、一気に蘇る。
出来れば思い出したくなかったから、自然に元に戻るまで話さない心算だったのに…。
「ああ、一応暫くすれば治るとは言われてある。それより妹紅、私は何処で寝ればいいのだ?」
話題を変える意味でも、気になっていた事を訊ねてみる。
妹紅が私の家に泊まりに来る事は何度かあるが、私が妹紅の家に泊まるのはこれが初めてだからな。
「あー、私一人暮らしだから、布団一枚しか持ってないんだよ。」
ああ、そうか。まあ、一人暮らしだからしょうがないか。
誰かが泊まりに来る事も基本的にはないし、仮にあってもお前は…。
…って、ちょっと待て。一つしか無いだと?
「ああ、じゃあ慧音が使っていいよ。どうせ私は布団なくても寒くないしね。」
そうかもしれないが、少しくらい自分の身体を労わってくれ。
同じ寝るのでも、布団が有るのと無いのとではまるで違うぞ?
「いや、妹紅、流石に人様の家でそれは出来ない。」
「じゃあ同じ布団で寝る?って、昨日も言った気がするけど…。」
…妹紅、お前は本当に凄いな。平気でそんな事を言っているのだから。
「あっ、でも昨日は嫌って「妹紅!!私は風呂に入ってくる!!それまでに布団で待っていてくれ!!!!」
私は風呂場に再び舞い戻る。妹紅が「えっ!?二回目!?」とか言っていたのが僅かに耳に届いた。
そうだ、確かに昨日は断ったな。私の人生トップクラスの悩ましい決断だったぞ。
妹紅!!昨日とは事情が違うんだ!!私とお前はもう夫婦だ!!
もう私は躊躇わないぞ!!妹紅と一緒に同じ布団で寝てやる!!
夜中寝ぼけて何かしてしまっても、もう夫婦なのだから問題ない!!
私は本能の赴くままに生きる!!私の身体を流れる獣の血よ!!今日だけは私と共にあれ!!
「よしっ!!終わり!!」
恐らく私の人生最速のスピード行水。移動時間まで全て含めて、その間僅か3分。
まあ、元々2回目の風呂なのだから、そこまで頑張って身体洗う必要もないしな。
今はそれより、妹紅を待たせてはいけない。と言うより、私自身が早く妹紅と寝たい。
ああ、夢にまで見たシチュエーション。寝る前に最後に見るのが妹紅、目覚めた瞬間初めて見るのも妹紅。
うっ…。…また鼻血が出そうだ…。…こ、堪えろ…!!
そして少し落ち着くんだ私よ。こんな慌てていたら、はしたない女だと思われてしまう。
すー、はー、すー、はー。…よし、落ち着いた…。
「さ、さあ妹紅。今夜は…。…あれ?」
妹紅の部屋の扉を静かに開けると、既に明かりの火は消えていた。
そして、部屋の中央には布団が敷かれていて、その中の妹紅も…。
「…すー…。…すー…。」
…小さく、静かに寝息を立てていた。
…ああ、そうか、妹紅。お前は今日、人里で頑張っていたのだからな。
私と妹紅の事を、人里全体に伝えていたんだからな…。…疲れていて、当然か…。
「…ふふっ…。」
…ああ、なんだかさっきまでの興奮が、すっかりと収まってしまった。
私は部屋に入り、妹紅の布団の脇に、そっと腰を下ろす。
小さく寝息を立てる妹紅の寝顔は、本当にただの少女そのもので…。
「…こうしてみると、本当に蓬莱人だなんて事が信じられないな…。」
何の力も持っていなさそうな、本当にただの少女にしか見えない。
この子が1000年以上も、私よりも遥かに長く生きているなんて事は、本当に想像出来ない。
…妹紅、私はお前の事が本当に大好きだ。
お前の優しい心や容姿も、全てが大好きだ。
…そして、私は何より…。…お前が、私に近い存在であるところに、一番惹かれているのかもしれない。
お前は人から蓬莱人になった。私は人から妖怪になった…。
…とても、似ていると思わないか…?
…だけど、似ているとは言っても、一つだけ大きく違うところがあるがな。
妹紅、お前は自分の事をあまり、人間だと思っていないみたいだが…。
「…妹紅、お前は人間だ。だからこそ、私はお前に憧れ、お前を愛するんだ…。」
私は寝ている妹紅の頭を、そっと撫でる。
歳を取らない。死なない。そんな事は、お前が人で無い証拠にはならないさ。
…私のような者でない限り、人間は最後まで人間だ。心が有り続ける限り、お前は人間だ…。
完全に人間ではなくなってしまった私とは違って、お前は…。
…ふふっ、さっきまでの私は何処に行ってしまったのだろうな。まあ、悪くはないか…。
これからは、ずっと傍にいられるのだからな…。なに、焦る必要は無いさ…。
「…さて、私は空いている部屋を使わせてもらうか…。」
此処にいては、寝ている妹紅に何をしてしまうかが判った物ではない。
妹紅の眠りを邪魔して、印象を悪くしてはいけない。今日は一緒に寝るべきではないだろうな。
まあ、一日くらい布団なしで寝ても大丈夫か…。
…私は腰を上げて、静かに妹紅の部屋を歩く。
…ただ、私が部屋を出ようとした時…。
「…ありがとう、慧音…。」
…多分、ただの寝言だったのだろう。
私の独り言を、聞いていたわけではないだろう。
だけど、そのとてもタイミングが良かった寝言に…。
…私の胸は、なんだかとても温かくなった…。
「…お休み。…ありがとう、妹紅…。」
* * * * * *
「ふああぁぁ…。」
ああ、よく寝た。今日もいい朝だ。
…なんだか、昨日はいい夢を見たような気がする。よく覚えてはいないけれど…。
うん、今日もいい日になりそうだ。
「…っと、そう言えば慧音は…。」
結局、慧音がお風呂行ってる間に寝ちゃったからなぁ…。
今この場にいないところを見ると、もう起きてるのかな…?
…と、パパッと着替えて台所に行ってみると、案の定そこには慧音が朝食の準備をしていた。
「おお、おはよう妹紅。今起こしに行こうと思ってたところだ。」
昨日に引き続き、やっぱりシンプルな朝食風景。
今日のメニューは白米に豆腐とワカメの味噌汁、冷奴とゴボウとレタスのサラダ、それと海苔佃煮か…。
…さて、今日はどれだけ美味しいのだろうか…。
「…っと、まだ戻ってはないのね…。」
こっちも相変わらず、慧音の頭には角が生えているし、もふもふの尻尾も生えている。
「まあ、時間経過以外の治療法が無いみたいだからな。
そう長くなるわけでもないらしいし、治るまで気長に待つさ。」
そーですか。まあ、私は慧音が治るまで一緒に生活する分には全然構わない。
ただ、あまり長く一緒にいると、慧音にばかり色々苦労を掛けてしまいそうだから、治るまでにしたいけれど。
「さ、妹紅。朝食にしよう。席に着いてくれ。」
まあ、米が冷めては美味しくないし、早く食べてしまうに越した事はないか。
…そうして、私が席に着こうと、椅子に手を掛けた時…。
「ごめんくださいな。」
…と、出来れば朝から訊きたくない声が、玄関先から聞こえた。
…い、今の声は…。
「…今の声は、永琳殿?」
確かに、今の声は間違いなく八意永琳。
こ、こんな朝早く…いや、今は巳の半刻ほどだが…にあの薬屋がなんの用だよ…。
「私が出てくるよ。慧音は先に食べてて。」
「…喧嘩するんじゃないぞ。」
はいはい、判ってますよ。輝夜が相手だったらともかく、永琳にいきなり攻撃をしかける気は無い。
…まあ、相手が攻撃してきた時は話は別だけどね。
私が玄関の扉を開けると、やはりそこには永琳の姿が…。
「おはよう妹紅。乳酸菌取ってる?」
いきなり意味が判らない台詞を…。
「…何の用?用が無いならさっさと帰ってほしいね。」
「あら、そう邪険にしないで欲しいわね。要件ならちゃんと有るわよ。」
有るならさっさとしてくれ。
…と、永琳は後ろを振り向いて、誰かに向けて手招きをする。
…すると…。
「もこ-ねーちゃーん!!」
何となく聞き覚えの有る声と共に、5~6人の少年少女たちが、竹林の奥から駆けて来る。
あれは…、…確か慧音の寺子屋の子供た…ちぃ!?
「ちょッ!!お前たちなんでこんな所に!!」
一瞬にして私の頭はパニック状態に。
慧音の寺子屋には何度も顔を出した事はあるし、寺子達とも面識がある。
勿論、今目の前にいる子供たちとも、全員面識が…。
「えっとね、永琳先生に「慧音先生は大丈夫なんですか?」って訊いたら…。」
「今は妹紅のお姉ちゃんのところにいるって言うから、みんなでお見舞いに来たの。」
…開いた口が塞がらない。
し、しまった…!!昨日慧音は永遠亭で永琳に診察してもらってたんだ…!!
「昨日、慧音が「妹紅の昼食の準備を…」って言ってたからね。
人里に戻ってないなら、此処以外場所はありえないから。」
ああああッ!!やっぱり慧音がその事を話していたのか!!
チクショウこのヤブ医者め!!何のために慧音が此処で暮らしてると思ってるんだ!!
昨日の慧音の姿を見てるんだったら、そのぐらい気付け!!空気読め!!
「ねーねー、もこーねーちゃん。先生は?」
「中にいるの?お見舞いしてもいい?」
そして中に入ろうとする子供たち。ああ子供の純粋な心は恐ろしい!!
「わーっ!!待て待て待て!!」
急いで家の扉を閉めて、その前に立ちふさがる。
こ、此処で子供たちに入られたら、今までのことが全て無意味に…!!
「えー?なんで?永琳先生も、別に逢えないような病気じゃないって…。」
ああもう!!何処までも余計な真似を!!このヤブ医者は!!
「何か悪い事した?」と首を傾げているところがまたムカつく!!
「あ、あのねみんな、慧音は今まだ寝込んでてね。
ど、どういう症状かまだ判らないから、今はまだ逢わない方が…。」
必死に言葉を紡ぎだす。
絶対に不信感を抱かれるだろうが、とにかく何かと理由をつけて、此処は帰ってもらわないと…。
…そうして、私が努力している時に…。
「おーい、妹紅。何をやっているんだ。ご飯が冷めてしまうぞ。」
…全てを無駄にする声が…。
ちょっ!!けーね駄目ー!!!!
…そんな私の心の声をあっさりと無視し、家の中からハクタクモードの慧音が…。
「全く、なんなら永琳殿も…。…って、おや?」
ハクタク慧音と寺子達、バッチリ目が逢っちゃいました。
…ああ、終わった。私の苦労はなんだったんだ…。
ごめんよ慧音。私は慧音を守る事が出来なかった…。
…い、いや、まだ方法はある。
此処は心を鬼にして、子供たちと永琳を私の炎で…。
「あれ?先生なんでハクタクになってるの?満月の夜だけじゃなかったっけ?」
…炎で…。…あれっ…?
「…お前達、こんな朝にどうしたんだ?」
「えっとね、妹紅姉ちゃんが「先生が病気で暫く寺子屋に来れない」って言うから…。」
「みんなで先生のお見舞いに来たの。」
「ほらせんせー。私達みんなで鶴織ってきたよー。」
…なんだか、全員フツーに会話してるんですけど?
あれ?慧音?これはどういう事?
あれっ?あれあれあれあれ?
「…妹紅、あなたひょっとして、知らなかったの?」
慧音と子供たちが和気藹々と話している中、永琳が私に静かにそう言う。
「し、知らないって、何を…?」
…いや、もう、何となく予想は出来いるのだが…。
「…慧音がハクタクだって事、もう里の全員が知ってるわよ?」
…私の中で、何かがポキリと折れたような気がした…。
えっと、子供たちもみんな知ってたわけですか?秘密の事どころか、衆知の事実だったと言う事ですか?
私は今まで、無意味だったのにわざわざ慧音を人里から隔離していたと言う事…?
…慧音、本当ですか?みんな知ってたんですか…。
…ああ、もう泣きたくなってきた…。
なんだかもう、凄く如何でも良くなってきた…。
あー、じゃあ、もう、どうでもいいな。知ってるんだったら、もう隠さなくてもいいか…。
「あー、慧音…。…その、ごめん。」
私は慧音に頭を下げる。
今まで慧音を、無意味に人里から遠ざけていたわけだし…。
「えっ?何を言っているんだ妹紅。お前は何も悪くないぞ。」
しかし、あっけらかんとそう言い返す慧音。
ああ、やっぱり慧音は優しいなぁ。こんな私の勘違いを、こうやってあっさりと許して…。
「…それよりみんな、私はまだちょっと暫く帰れないんだ。」
…えっ?慧音?
「…何で?みんな知ってるんだったら帰って大丈夫じゃん。」
…私がそう言うと、今まで上機嫌に子供たちと話していた慧音が、急に固まる。
「…も、もこう…?」
カタカタと、まるで壊れたブリキの玩具みたいにゆっくりと振り返る慧音。
…その慧音の顔は、今までの調子の良さが全く見えず、青を通り越して、少し黒いようにすら見えた。
「…えっ?だって、別にその姿を隠しておく必要もないんでしょ?
だったら、別に人里でも大丈夫でしょ?此処にいなくても…。」
…慧音の目に涙が溜まっていくのが見えて、私の言葉が止まってしまう。
…えっ?慧音?何でそんな反応を?
私は正論を言ってるだけだと思うんだけど…?
えっと、なんだか子供たちと永琳からの視線も痛いよ?何でみんなこんなに冷たいの?
何でこんなに痛い視線が?何でこんなに心に突き刺さるような目を?
何で?何でこんな事になってるの?
「…妹紅…。…お前…昨日なんで、私に「逃げよう」って言ったんだ…?」
「えっ…?だって私、里のみんなが慧音のその姿のこと知らないと思ってたから…。」
「…私が貸した幻想郷縁起、お前は読んだか…?」
「ん、ちょっと最近色々急がして読んでないんだ。…ひょっとして、幻想郷縁起に書いてあるの?」
「…昨日今日で私が食事を作ってた事、どう思ってた…?」
「いや、慧音の事だから、暫く泊めてもらうから…って。」
「昨日の夜、私と一緒の布団で寝ようと言ってくれたのは…?」
「えっ?それはだから、布団が一個しかないからだって。」
「…お前は昨日、どういう心算で私を此処に連れてきたんだ…?」
「えっと、慧音が人間に戻るまで、人間の里から遠ざけた方がいいと思って…。」
「…私が人間に戻ったら、どうする心算だった…?」
「勿論、寺子屋の事もあるだろうし、人間に戻れたら安心して里で暮らせるだろうから…。」
「………。」
そこまで言って、慧音は黙り込む。
えっと、私は思うとおりに正直に回答した心算だけど…。
…その、なんと言うか、何でこんなに気まずいの…?
さっきよりも全員の視線が痛いよ?死なない私にとってはこういう精神攻撃の方が辛いよ?
…と、慧音の目に溜まっていた涙が、一気に溢れ出して…。
「うわああああぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!こんな歴史なかった事にしてやるううううぅぅぅぅぅぅ!!!!!!」
滝のように涙を流しながら、竹林の方へと走っていってしまった。
慧音を追いかけるべきだったのかもしれないけど、私はあまりの出来事に頭が混乱していた。
あれ?何で?何でこうなってるの?
慧音は判ってたんじゃないの?私が慧音をここに連れて来た理由。
だからご飯作ってくれてたりしたんじゃないの?
だからあんなに帰りが遅いだけで心配してくれてたんじゃないの?
あれっ?あれっ?あれっ?
「あー、妹紅ねーちゃん先生泣かせたー。」
「お姉ちゃんひどーい。」
「ちゃんと先生に謝ってよー。」
…子供たちの言葉が胸に突き刺さる。
えっと、そう言われても、私なにを間違えたの?子供たちよ、判ってるなら私に教えて。
「…鈍感って罪ね。これは私の薬でも治せないわ…。」
永琳もよく判らない一言を。
えっと、鈍感だとか言われても判らない物は判らないんだけど。
「さ、みんな帰りましょう。お父さんやお母さんが待ってるからね。」
「「「「「はーい。」」」」」
子供たちを引き連れて、永琳も竹林の奥へと去っていく。
自分の家の前、此処には何時も私一人しかいないはずなのに…。
…何故か、この孤独が物凄く痛かった。
何で?何で何で何で?何でこんな事になってるの?
「なに!?なんなの!?なにこの状況!!誰か、誰か教えてえええぇぇぇぇ!!!!」
私の叫びは、虚しく竹林の奥で僅かに響いて、大気の中へと散っていった…。
もうすこしこう・・・慧音と仲が進展するとか。
慧音の壊れっぷりというか妹紅への愛情が強烈でしたね。
いやいや、面白かった。
フヒヒwww
タイトルからこの慧音は予想済みでしたが、楽しめました。
勘違い…というか思い込みって怖いですねw
暴走慧音→鈍感妹紅もいいなぁ…。
壊れた慧音って良いよね・・・
続き超絶熱望。
これはこれで良い
後、途中の他の物は→者だよな?
あと往診はたぶん出前診察みたいなものなのでこのばあいふさわしくないと思いました。
でもhktkするけいねは最高だと思いました。
ラブリーけーねは、むっちゃ可愛いです。
ただ話が少し終わりの方でだれちゃっているのがもったいなかったなーと。
ずっとニヨニヨしながら読ませてもらいました。
無理に変態にしている感じではなく、勘違いが積み重なり、なるべくしてなったhktk化。
ニヤニヤさせて頂きました。