前編を見ることを強く推奨します。
旅行から帰ったら、期末試験まで大きなイベントはない。
束の間の退屈な日々を、みんなはダラダラと過ごしていた。
今頃、博も食堂で他のやつらと昼食をとっているだろう。
俺は売店で買ったサンドウィッチの袋をぶら下げて階段を上った。
初夏の風は涼しい。6月だというのに、この晴れ具合は最高だ。
学校の屋上とはなんと素晴らしいものなのだろうか。
「ここを立ち入り禁止にするなんてどうかしてるよな」
空気を肺いっぱいに吸い込み、吐き出す。退屈な日々もどこか遠くへ行ってしまいそうだ。
「なあ、望月、お前の昼食はどうしてるんだ」
「買ってないわ」
「お金が無いわけじゃないだろ」
「そうね、別に貧乏というわけではないわ」
「それならいいか。ほら、この卵サンド食べるか」
望月は卵サンドを受け取り、「ありがとう」とお礼を言いつつ頬張った。
俺もカツサンドを頬張る。カツがなんとも言えぬ湿り気を帯びていた。
望月と二人、立ち入り禁止の屋上のフェンス際に座っている。
それは少なくとも俺にとっては平和で大切なひとときなんだろうな、と思う。
望月がどう思っているかは知らないけれども。
「いつも一緒にいる白銀君はどうしたの」
「あいつなら他のやつと食堂だ」
「彼を放っておいていいの?」
「昼食の時くらいは大丈夫だ。学校の行き帰りもあいつと一緒だしな」
それに。
―お前、望月が好きなんだな―
別に俺がいなくても、あいつは俺が何をしているのか、大体想像がついてるだろう。
ついていないかもしれない、頭を使わないから。
サンドウィッチを食べ終わるまでは二人して無言だった。
向こうも口を開かないし、俺も話しかけない。それでも、居心地は悪くない。
食べ終わってから望月が先に口を開いた。
「これからも毎日来るつもり?」
そう言った望月の顔には、「迷惑だわ」という表情が見えなかった。純粋に訊いたつもりなのだろう。
俺がここに来たのはもちろん、望月を探した結果だ。
望月は昼休みになると、教室からいなくなり、食堂にも姿を見せない。
誰もいない場所をあたった結果、ここに辿り着いた。
望月と昼食を食べたかった。それで望月のことを知りたかった。
それが動機だった。一緒にいたいだけだった。
「雨が降らなきゃ、毎日来る。雨の時は・・・そうだな。望月が食堂に来ればいい」
「それは無理な相談ね」
「だな」
仰向けに倒れた。雲ひとつない空とはまさにこのことだ。
あの時のことを訊こうかと思った。望月、お前は旅行で寝ぼけて他の部屋に行ったことあるか?
その考えはすぐに打ち消された。アホか、そんなことを訊くのは大馬鹿だろう。
チャイムが鳴った。今日は来たのが遅かった。
まともな会話を交わしていない気がする。
「そろそろ、教室に戻ろうか」
「そうね」
日の光が俺の背中を焼いた。
目が覚めたら、そこは広い野原だった。空は青く、青く、どこまでも青く。
風が吹き抜けて髪を揺らす。ああ、なんて気持ちがいいんだろう。
これが自分の望んだ平穏だったのに。
だった「のに」。
「行こう?咲」
「うん、お母さん!」
「旻!旻!」
博の呼び声で俺は目を覚ました。
「なんだよ、せっかく人が気持ちよく寝てたのに」
「気持ちよく寝すぎだぜ、お前は」
夕日が差し込む教室の中。博の部活が終わるまで俺は教室で待っていたが、いつの間にか、寝ていたらしい。
バッグを肩にかけて博が立っている。ああ、帰るのか。
急いで準備をした。
「そんなに部活で疲れてたのか」
「別にそういうわけじゃない、暇だったんだよ」
夕日が射す帰り際。暑い。
いくら日が出ている時間が長くなったとはいえ、7時くらいではもう日が沈みかかっている。
「悪いな、お前をずいぶん待たせちまった」
「別にいいよ。俺も博を待たせる時もあるしな」
帰り道が同じだし、部活も大体同じくらいの時間に終わるので、
俺と博の中では、早く終わったら教室で待っている、という約束事があった。
「お前さ、やっぱり望月が好きなんだな」
博がぽつりと呟く。やっぱり博には見抜かれていたか。
俺は何も言わない。それは否定の沈黙ではなく、肯定の無言だ。
「まあ、お前が好きなら何も言わないさ。
むしろ、なんだ、その・・・、まあ、なんだろうな、うん、いいことじゃないのか、そう俺は思うね」
何をあたふたしているのやら。俺はそんな博の挙動が少し可笑しくなって吹き出しそうになった。
博だって、本当は彼女を作りたいのだろう。
ところが、俺に先を越されそうになっているんだから、普通なら妬んでもいい。
それでも、こうやってわざわざ応援しているような素振りを見せるのは、博だから、だと思う。
「何ニヤニヤしてんだよ」
「博もいいところあるんだな」
「・・・お前はほんっとうに優しいやつだな。ったく、羨ましいぜ」
蝙蝠が空を横切って行った。
またある日の昼休み。
「あれ、どうしてそんな中途半端なところにいるんだ」
望月が立っていたのは、フェンス際でもなく、入口のそばでもなく、ちょうど屋上の真ん中辺りだった。
「なんとなくよ」
「なんとなくって便利だな」
「ええ、とても便利な言葉。それですべてが説明できるの、素晴らしいわ」
なんとなくって、そんなにいい言葉だっけ。
「ほら、卵サンド」
毎日、いろんなサンドウィッチを試してみたが、どうやら最初に貰った卵サンドが一番気に入っているようだ。
その時の顔が、少しだけ柔らかいように見える。
「ありがとう」
「毎日卵サンドにしたら飽きないか?」
「いいえ、そんなことないわ」
「そうか。まあ時々サラダサンドとかにしておくよ。飽きられたら困るもんな」
正直、毎日サンドウィッチでは飽きると思うのだが、他にいいパンが売店に売っていないのでしょうがない。
こうして望月が毎日食べてくれるだけでも良しとするべきだ。
「こうして屋上にいるといろんな人が見えるわね」
「そうだな」
「時々、思うの。私はこういう場所にしかいられないんじゃないか、って」
「こういう場所って、屋上ってことか」
「そう。こうして、いろんな人たちを見てる。そして、私は一人。誰も私を気にかけない、私もただ見てるだけ」
何を言おうとしているのか、今の俺はよくわかる。
「誰も、気にかけないことはないさ」
「あら、どうしてそれがわかるの?」
「今、俺がここにいて、望月と話してるだろ。それだけの話だ」
「随分単純ね」
「単純さ。単純って素晴らしいことだよ。それですべてがわかるんだからな」
望月の言葉をちょっと変えて返した。
望月は微笑んで、フェンス際に行って遠くを眺めていた。
「本当に、不思議な人」
風に乗って望月の声が流れてきた。
また別の日の昼休み。雨が降っていた。
「やっぱりいるんだな」
「やっぱりいるのよ」
傘を二つ持ってくる必要はさすがに無かったようだ。
望月は自分の傘をさして、入口の近くで立っていた。
「ほら、卵サンド」
「ありがとう」
もうこのやり取りにもだいぶ慣れてきた。昨日はサラダサンドだった。
雨の中、傘をさしながらサンドウィッチを食べるのは楽じゃない。
それでも、屋上に来るのはどうしてだろう、と考えてみるがその思考をすぐに破棄する。
わかりきっていることじゃないか。
食べ終わってからも、雨の音だけが響く。
俺は傘の下から望月を覗く。すると、望月と目が合った。俺も望月も目をそらさない。
瞬きをしたら、負けるような気がする、いや、なんとなく。
結局、先に目をそらしたのは俺だった。そんな、好きな人の目をじっと見ていられるか。
望月がふふっ、と笑った。
「雨の中でも来るなんて思わなかった」
「来るさ。お前がここにいる限り、俺は必ずここに来る。嵐の中でも」
「それ、自分で言ってて恥ずかしくない?」
言われれば恥ずかしいセリフばっかり言っている。
傍から見たら、もうただの大馬鹿キザ野郎なんだろうな。
「今気付いたみたいね」
今気付いたよ。
「でも、来るさ。だって、お前はここで待っててくれてたんだろ?」
「あら、何を根拠にそんなことを言うのかしら」
「望月が傘をさして入口の近くで待ってたんだ」
もう一度、望月の目を見て、さらりと言った。望月は少し、驚いたような顔を見せた。
雨の日が続いた。部活が終わって帰宅する夜まで雨がしとしとと降り続ける。
博はうんざりした顔をした。
「もうすぐ試験も始まるっていうのに、なんだ、この天気は。試験勉強する気にならん」
「図書館にでも行けばいいだろ。いつもしてないくせに、よく言うよ。」
「いつもしていないがな、今回はよく勉強しているんだ」
「はいはい、いつもの無限倍やっているよな。いつも0分だから」
「おおよ・・・・・・・・・・馬鹿にすんな!」
博が追っかけてくるのをひらりとかわす。
「雨の日も、か。お前、今日も望月のところに行ったのか」
「ああ。もう雨にも慣れてきた」
「それはずいぶんご苦労なこって」
博は水たまりの水面を足で切る。水の鞭が伸びた。
「なあ、旻」
博は意外な問いを投げかけた。
「いつまで望月のところに行くつもりなんだ」
「え?」
博は真剣な顔をしている。前にも同じような話があったと思う。
「卒業するまでだ。まさか、また止めろ、と言うんじゃないだろうな」
「いいや、さすがにもう言わないぜ。俺も学習してるんだよ。お前に何言ってもどうせ意味ないってな」
それでも、博は心配そうな顔をしている。
「俺が心配してんのは周りのことじゃない。お前自身のことだ」
どうも博の言っていることが飲み込めない。
前にも、周りから白い目で見られる、というような忠告は聞いたが、今回はまた違うようだ。
「なんだよ、はっきり言ってくれ」
「はっきり言えたらいいさ。でもな、言えないんだよ」
なんなんだ。
「お前は筋道立てて言わないと納得してくれないだろ。でもな、今回はそんな理由とかないんだよ」
「わかった。じゃあ理由は聞かない。何が問題なんだ」
それは博にしては珍しいことだった。
こんなに博が物事をはっきり言わないのは初めてかもしれない。
雨の音がうるさい。雨なんか降らなければいい。初めてそう思った。
博は一呼吸置いた。そして、言葉をひねり出した。
「いつか、悪いことが起こるんじゃないかってな」
目覚めると、そこは病院のベッドだった。
でも、今度は冷たい白で囲まれているわけではない。
どこか、温かみのある白と、祝福するかのような日の光。
今、幸せだった。
隣には小さな赤ん坊が小さな寝息をたてていた。この赤ん坊が誰か、自分は知っている。
この子は咲だ。お腹を痛めて、この世に生を授かった子。大切な自分の子。
いつまでも、あなたを見守っていたかったのに。
見守っていたかった「のに」。
そっと涙を流した。
期末試験も終わり、成績も返されて、もう夏休みになった。
夏休みとは言っても、部活がある日が多いので、あまり普段の生活スタイルを変えられない。
それは博も同じだった。行きも二人、帰りも二人というスタイルもあまり変わらなかった。
今年は猛暑らしい。8月15日。終戦記念日だ。
俺と博は住んでいるところから少し離れた、小さな山にいた。
「うああ、山の中でもこの暑さじゃ、やってられないな!」
博が唸る。俺も博も、汗だくになっている。
「まあ、こんな日に野球やってる場合じゃないな。サボって正解だ」
「いいのか、それで。俺は今日部活が無かったから良かったものの」
「甲子園にも行けずに練習してもしょうがないぜ」
博たちは地方大会の決勝で負けた。大差だったらしい。
「惜しかったな、あれは」
「いいんだよ。相手のピッチャーが強すぎた」
山頂に達した。小さな山だから、全然疲れない。
少し涼しい風が吹き抜ける。ああ、山の良さってこれだよな。
「そういえば旻」
「なんだ」
「お前、しばらく望月に会ってないな。寂しくないのかー?」
博がニヤニヤしながら頬をつんつん突いてくる。止めろ、気色悪い。
「いいんだよ。俺は望月のことを信頼しているからな」
博は呆れたように溜息をついた。
「バカップルだな」
「バカップルとは失礼だな。別に付き合っているわけでもないし」
「どう見ても付き合っているとしか思えないけどな」
やれやれ、これだから変り者の旻は、と呟く博。変わり者で悪かったな。
「さっさと告白しちまえよ」
「は?」
蝉の声がうるさい。きっと今の博の言葉は錯覚だ。蝉が言っていたんじゃないのか。
「付き合えばいいじゃないかよ。今のような中途半端な状態じゃ、むこうもいらいらするぜ」
やっぱり博が言っていたらしい。
「あのなぁ・・・なんか展開が速すぎないか」
「そういうもんだと思うな。それに、望月もお前とは楽しそうに話してるぜ」
教室で会話を交わすことなんてほとんどないけどな。
「こっそりお前をつけて屋上に行ったんだよ」
「お前・・・性質が悪すぎる」
「悪い。どうしても心配でな」
博は本当に申し訳なさそうにしていた。とりあえず、頭を軽く叩いておいた。
悪気が無いので仕方ない。まあ、今度からは背後に気をつけることにしよう。
博がいたらとりあえずぶっとばしておくのが無難だろう。
しかし、告白なんて。いきなり言われたが、そんなことあまり考えてなかった。
ああいう日常があまりにも心地よく、変化するなんてこと考えてもなかった。
「いや、旻、そんなに考え込むことないと思うが」
「なぜ」
「別に付き合ってもさ、今と同じ生活が続くだけだろ。多分な」
「うん」
「要するに、気持ちの確認なんだよ。お前が望月のことが好きだ、一緒にいたいって言うだろ。
それで、望月も同じ気持ちだと言うとする。良かったじゃないか。お互いの気持ちを知ることができた。
告白っていうのはそれだけの話なんだよな」
博にしてはずいぶん深い話だ。なるほど、確かに筋道が立ってる。
「だから今から告白しようぜ」
「いや、それは無理というものだ」
でも、いつかは自分の気持ちをはっきり伝えなければならないんだ。
二学期、望月と屋上にいる時に告白しよう。
決心して山からの風景を見てみると、なんだか解放感にあふれていた。
俺たちが住む街は決して大きくはない。
それでも、そこでいろんな人たちがいろんなことをしているんだ。
そこにあるのは希望なんじゃないか。
風が流れ、青々とした夏草を揺らした。
その時、突然、寂しさが胸に満ちた。なんだ、この感じは。
今まで感じていた希望が一気に消え失せた。
残るのは喪失感。
何かが、自分の夢となって消えてしまうのではないか。
そういう予感がした。
「夏草や 兵どもが 夢の跡」
ふと、この句が口を突いて出た。博が不思議そうな顔をして俺を見る。
俺も自分で驚いた。なんだ?
松尾芭蕉の句。どうして、俺はこの句を詠んだのだろう。
蝉はいつの間にか鳴き止んでいた。
もしかしたら、永遠に鳴くことはないかもしれない。
目覚めると、また病院にいた。今度は病室ではなく、診療室のようだ。
医者と向き合って椅子に座っている。かなり高齢の医者だ。
もう、これが夢だということは気付いていた。誰の夢かも、自分が誰なのかも。
「残念ながら」
医者は重々しく切り出した。
「白血病です。それも、慢性骨髄性白血病です」
白血病は知っていたが、複雑な名前の白血病だな、と思った。
あまりにも大きいショックなのか、それとも、もう先を知っているから何とも思わないのか。
体がぴくりとも動かなかった。
「しかし、最近では治療法が進歩しまして、5年後でも生存率が90%を上回るようになっています」
そういう医者の顔はまだ曇ったままだ。
「効果的な治療薬があります。
最近投与を認められまして、非常に高価ではありますが、治療に大きく貢献しているようです」
驚いた。白血病は不治の病だと思っていたのに、最近の科学の進歩は素晴らしい。
それでも、医者の顔が晴れない理由はわかる。
この子だ。
「ただ、その治療薬は妊娠中、および授乳中の母親に投与できないのです。
投与できるとしたら、どんなに早くしても出産後になるでしょう」
当然だ。この子を死なせるわけにはいかない。
「しかし、その場合」
また医者は言葉を切った。
「急性白血病に転嫁する恐れがあります。そうなった場合、治療することは困難です。
・・・いえ、はっきり言ってしまえば、ほぼ死に至ります。その時には、長くても余命半年です」
学校が始まった。
「また望月のところへ行くのか?」
昼休みになり、屋上へ行こうとする俺を博が呼び止めた。
「そうだけど、どうかした?」
「告白するんだろ」
「ああ、はっきり言ってくる」
「がんばれや。成立したら、あとで牛丼でもおごってやるよ」
また牛丼か。くすり、と笑いが漏れた。
博が親指を立てて、ウインクする。うん、気色悪い。
「牛丼、楽しみにしてる」
屋上を駆けあがった。あの日からずっと不安だった。
階段の一段一段が大きい。足が重い。息が切れる。
どうして行かせてくれないんだ。
どうして行かせてしまうんだ。
屋上に、望月はいた。
コンクリートの地面に太陽の光が照りつけ、そしてたった一人の少女がそこにいるという光景。
見慣れた光景のはずだった。何も変わらないと思っていた。
それは幻想。
望月が立っていたのは入口の近くでもなく、フェンスのそばでもなく、屋上の真ん中でもなかった。
本当に中途半端な位置。どちらに引き寄せていいかもわからない。
頭が、痛い。
セカイガグルグルマワル。コレハユメデモゲンジツデモナイセカイ。
ワタシハキテハイケナイバショニキテシマッタ。
セイヲムサボルノモシノフチヘトビコムノモコワイ。
タダコノイマワシイセカイカラキエテシマイタイ。
「望月!」
思わず叫んだ。望月は俺をちらりと見た。
「お前の好きな卵サンド買ってきたんだよ。 夏休みの間、ずっと食べられなかっただろ。
だから、今日は2つ買ってきたんだ。多かったら俺が食べるから。
だから・・・だから・・・
そんな顔、すんなよ・・・」
望月の顔には生気が無かった。
ずっと望月はふさぎ込んでいた。
卵サンドも半分くらいしか食べなかった。俺が話しかけても反応が薄くなった。
9月16日。その日も俺は屋上に行った。
屋上への扉を開く直前で手が止まった。ドアノブに手をかけたまま、動けない。
開けるものはこの扉。開けないものは望月の心。
俺はただ扉に寄りかかって泣くだけの子どもなんじゃないか。
「どうかしたのか」
「どうも、してない」
あの日の帰り道、口数の少なかった俺に博が問いかけてきた。
「ウソつけ。お前がそこまで落ち込んでるのは初めてだ」
「落ち込んでいたのは運動会の時もだろ」
「それとは違う。今回は、ネガティブなんだよ。大体、告白しなかったみたいだしな」
どうしてそれがわかったのだろう。少し驚いた。
「望月を見たらわかる」
博が望月の様子を見ていたのか。
「博」
俺は博の肩をつかんだ。
「俺はどうすればいいんだ」
博は俺から目をそらさなかった。
博は、いざという時には絶対に諦めようとしない。一年前から、あの運動会のときだって。
だから、俺はそんな博を頼りにしているんだ。
しかし、そんな博から出てきたものは、俺にとってショッキングな言葉だった。
「お前次第だ」
自分で何とかしようとする博、のはずなのに。
「別に投げ出したわけじゃない。これが俺の答えだ。
望月を救い出すのはお前しかいない。 望月と一緒にいられるのもお前だけだ。
お前しかできない、だろ」
俺、次第。博の言葉は力強かった。
俺にしかできない。
運動会の博を思い出した。望月を思い出した。
そして、俺を、思い出した。
走っても走っても追いつけない。
むしろ、遠ざかっていくような気がした。
たった50センチなのに、その距離を飛び越えられない気がした。
息が切れる。呼吸ができない。暗闇が俺の視界を覆い始めた。
「旻!お前の肩には俺らの思いが乗ってんだよ!」
重すぎる。重すぎて、俺は潰されそうだった。
ついに、暗闇が俺の視界を覆い尽くした。
小さな言葉が聞こえてきた。
「私はあなたたちのために頑張ったわけじゃないわ」
その時、俺ははっきりと目を開けた。1メートルくらい離されていた、だけど。
なんだよ、たった1メートルじゃないか。さっさと抜いてやる。
脚が急に軽くなった。
日の射さない薄暗い踊り場で、ようやく俺は気づいた。
あの言葉は、望月の言葉だ。
ゆっくり扉を開けた。
いつも通り、望月はそこにいた。そして、今日も生きていないかのようだ。
「望月、ほら、卵サンド」
望月の隣に座り、サンドウィッチを手渡す。のろのろと、望月の手が卵サンドをつまんだ。
食べるスピードもひどく遅い。
あれから博の言葉を信じ、いろいろ話しかけてみた。
望月は全く聞こえていないようだった。上滑り、そんな感じ。
言葉とはなんと無力なものなんだろう。
どんなに情熱的に語りかけても、聞こえなければ何も意味をなさない。
あのキング牧師の演説も、聴く人がいたからこそ力を持ったのだ。
でも、人間の力は言葉だけじゃない。
そっと腕を伸ばし、望月の腕を引き寄せ、手を握った。
「・・・っ」
望月が小さく息をのむ。
ひんやりとした、冷たい手。それでも、不思議と心は落ち着き、安らぐ。
あの時の、夢と同じだ。
望月も、俺の手を握り返してきた。
これだけでいいんだと、思う。
言葉で伝わらないものは、触れ合うことだけで伝わる。
わずかな間なのに、それが永遠に感じられた。
時が止まるというのは、こういうことなんじゃないか。
ずっと、こうしていたかった。
「旭君」
望月が俺の名前を呼んだ。
「旻でいい」
「旻」
望月は繋いでいた手を離し、フェンス際に行った。
「私は私に近づきたいわ。でも、それは決して叶わぬ願いなの」
望月はそう言って、振り返った。その目に悲しみと別の何かが満ちていた。
「完璧な人間なんていないわ。そう、私は人間なの。
それでも、私は完璧であることを望み、手を伸ばそうとする。あなたが知る、もっとも完璧に近い場所で。
その時、あなたも一緒にいてくれるかしら。その一瞬に、あなたはいてくれるのかしら」
望月は俺に微笑んだ。夢のような、優しい頬笑みだった。
「一緒にいる。それが望月の願いなんだろ」
望月は何も答えず、ただ微笑んでいるだけだった。
俺は、その時、望月が消えることを悟った。
家に帰って、夕食をとり、風呂に入り、歯を磨き、ベッドに横たわる。
もう寝てもいい時間だ。11時半。他にやることもないのだから、寝るべきだ。
でも、眠りにつけなかった。
今までの望月との思い出を振り返る。
始業式の日の儚げな姿、運動会での華麗な走り、学年旅行での抱擁、屋上での会話。
短い間だったのに、どうしてこんなに大切な時間になっているんだろうな。
望月はいなくなる。必ず。このままだと誰の手も届かないところに消えてしまう。
だけど、いつ、どこで。それがわかれば、望月を引き留めることだってできる。
最後に望月は何を言ってたっけ。
―私は私に近づきたいわ―
―私は完璧であることを望み、手を伸ばそうとする―
―あなたが知る、もっとも完璧に近い場所で―
ふと、窓に目を向ければ中秋の名月が空のてっぺんに差し掛かっているところだった。
そう言えば、今年は今日の夜がお月見に最適な日だとニュースでも言っていた。
月。
ああ。そういうことだったのか。だったら、望月、今、行く。
寝巻きから、制服に着替えた。親の制止も振り切って家から出た。
不思議と心は落ち着いている。
夜の住宅街を駆けていく。
外を歩く人はなく、物音もせず、ただ、俺の足音だけが静かに響く。
街灯の明かりが等間隔に照らす道を、ただ、駆けていく。
今日は、中秋の名月だ。満月の別名は、望月、だろ。
そして、俺と望月が知る、最も満月に近い場所は
屋上なんだろ。
9月17日。12時になった。満月は一番高いところまで上りきった。
屋上には俺と、望月が立っていた。
望月は月の光に照らされて、美しく見えた。
それはあの桜が散り始めた日と同じようで、違う姿だった。
望月が先に口を開いた。
「来たのね」
「来るさ。それがお前の願いなんだろ」
俺は望月のそばへと歩み寄った。月の光だけが、夜の闇を照らしていた。
「昼にあんなことを言ったのも、俺が来ることを期待していたから、だろ」
望月はその問いにも答えなかった。
胸が詰まる。欠けた月の光と、寂しそうな望月の姿を見るだけで、涙が出そうになる。
「勝手に・・・消えないでくれよ」
それしか言えなかった。もっと言いたいことはあった。
どうして勝手に消えるんだよ。大好きな卵サンドはどうするんだよ。
屋上でまた二人で話そう。博もお前と話したがってたよ。今度三人で昼食を食べよう。
俺は、お前のことが好きなんだよ。
言葉が出ない。
「旭君・・・いえ、旻。私は消えるべきだわ」
望月の長い物語。
「あなたはもしかしたら気付いていたかもしれないけれど、私は魔法使いよ」
それは遺伝だった。望月の母親はわずかながら魔力を宿していた。
しかし、それは周囲の人間に影響を及ぼさなかった。
だから、彼女は「普通の人間」と同じ生活を送ることができた。
ところが、その娘、つまり望月咲は生まれながらにして強力な魔力を有していた。
魔力を持つ人間は「普通の人間」に疎まれる。
それは理由などなく、感覚的に異端を避ける人間の習性だった。
望月が生まれて2年後、父親が母親のもとから去った。
幸い、彼は望月と母親が一生困らない分の財産を残した。
残された母親は一人で望月を育てようと決心した。それから二人は静かに暮らしていた。
しかし。
「私が13歳の時、母は突然入院したの」
望月は声を詰まらせた。
俺が見た夢はその母親の記憶だったのだ。
望月の魔力が何らかの作用を俺に引き起こし、見せた夢だったのだろう。
望月はたった一人取り残された。
自分の周りには誰も来なかった。母親だけが自分を受け入れてくれていたのに。
外でも除け者にされ、家に戻っても誰もいない。
いつしか、望月は心を閉ざすようになっていった。
ただ、母親がいつか戻ってくることを祈って、できる限り母親の病院に通った。
「今年の冬に、母は余命3カ月と伝えられたわ」
「3か月・・・」
あまりに短い期間だった。
母親の病気は、望月が生まれたあとではすでに手遅れの状態だった。
薬は確かに効果的だったが、完治には至らなかった。所詮は病気の進行を遅らせるもの。
そして、病態が急変したのが今年の冬だった。
「いつかは私一人だけになる。その時、私は本当の孤独になる。
私と世界が切り離される。そうなったら、私が消えるだけだと思っていたわ」
でも。
そこで現れたのが旻だった。
「あなたは私を決して遠ざけようとしなかった。いえ、むしろ私に自ら近づいてきてくれたのよ」
今まで疎まれていた望月。
それなのに、自分に接近しようとする俺は望月にとって異質な存在として映ったのだろう。
「だから、私は疑ったわ。何か下心でもあるのかしらって」
旅行の時の望月の行動は、ある意味では俺を試し、ある意味では自分の欲望だったのだ。
「私は誰かに受け入れてもらいたかった」
望月は少しずつ、俺に希望を見出すようになった。
「私を本当に受け入れてくれる存在がいるなんて、夢のようだった。
毎日、卵サンドを買って一緒に屋上にいてくれた。少しでも私を楽しませようとしてくれた。
それは夢のようで、やっぱり夢だった」
8月15日、望月の母親は逝去した。
「現実になったの。私は本当に、世界でたった独り」
望月の長く、短い物語は終わろうとしていた。
たった17年間。それでも、たった二人での17年間。
重すぎる。口を開けない。心臓がひもで縛られているように重い。
小説の世界でもこんなことがあるとは思えない。
彼女の母親以外、誰も望月という存在を認めなかった。
母親以外で受け入れようとしたのが俺だけだったのか。
こんなこと、あっていいのか。
やっとの思いで、言葉を絞り出した。
「望月。俺じゃ、だめなのか」
望月は首を横に振る。否定。なら、なぜ。
「旻、あなたは優しすぎる」
意外な言葉が返ってきた。
「あなたは人のためなら、自分が傷つくことを全く恐れずに尽くす、そういう人。
それが普通の人のためならばまだいいわ。
でも、私のような異端な人のためにだったら、いくらあなただっていつかはぽきりと折れてしまう。
それが私は怖いの。母親を失い、それに私のせいであなたを失ってしまう」
「そんなこと、気にするか」
「それ、よ」
望月に指摘された。ぐさりと胸に刺さった。
俺は無力なのか。
ふと、「全世界を敵に回してもいい」という言葉を思い出した。
できるはずがない。ここに全世界を敵に回した少女がいる。
その少女は完璧なのに、それでも17年間苦しみ続けた。
俺に何ができるというんだ。
夜風が俺と望月の間を流れていった。
「私は時を操ることができる。それが私の魔法」
「操るって、時を止めるっていうことか?」
「止めるだけじゃないわ。進みを早くしたり、遅くしたり、時には巻き戻すこともできるのよ」
「どうして母親の病気を巻き戻さなかったんだ」
望月は少し、ためらった。
「母の病気は私が知った時にはかなり進行していた。
記憶を巻き戻すよりも、病気を巻き戻すのは相当の力が要るし、成功率も下がるのよ。
それに・・・」
ふと、望月の目から涙がこぼれた。
「お母さんが、やらなくていいって言ったわ。
『どうせ私は消える運命なの。それが今でも、後でもあなたにとっては同じことよ』
それがどういうことか、私は理解するまで時間がかかったけど、最近悟った。
お母さんは、私が、辛いって知っていて、あんなこと、言ったんだって・・・」
そんなこと、あるかよ。
自分の娘が死んでいいなんて、そんなこと、あっていいものか。
「望月」
俺は望月を抱きしめた。離すものか。
望月は俺の胸の中で嗚咽を漏らした。
だけど。
もう俺には何もできない。望月は独りでずっと生きてきた。
死ぬのがいいことではない。
だけど、本当に未来がない17歳の少女に「生きろ」とは言えなかった。
俺ができるのは、こうして泣いている望月を抱きしめることだけだ。
なんて情けないんだろう。
愛しいと思う望月にこれしかできない自分の不甲斐なさに、
望月が今まで生きてきた苦しみに、
俺も泣きたくなった。
それでも、今は涙を見せられなかった。
「私、この世界から離れようと思うの。別の世界で、生きるわ」
涙が収まった後、望月が言った。
「いえ、死なない。旻という存在がいたから。
あなたがいなかったら、母が死んだ日にとっくに命を絶っていたわ。
あなたのために、生きるって決めた」
だからこそ、望月はこの世界を離れることを決心したんだろう。俺のために。
哀しいすれ違いだと、俺は思う。
だけど、俺が苦しむ姿を見て望月が苦しむだけだったら?
俺には自信がない。
「明日、私はいなかったことになるわ。全ての人の記憶は、私に関する部分だけ巻き戻る。
白銀君も、あなたも、私も。
記憶だけが巻き戻って、感情は残るみたいだけど」
それが正しいのか間違っているのか、俺には分からなかった。
記憶がなくなるということは、それは俺の中で望月が死んだということと同等、あるいはそれ以上だ。
でも、本当に望月が死ぬのも、また辛かった。
「望月」
「なにかしら」
たとえ望月が消えるとしても。二度と思いだせなくても。変わらないことがある。
「言いたいことがあったんだ」
それはこの気持ち。
「お前が好きだ」
「私もよ」
これが告白だった。本当にあっさりしていた。儚い告白、この記憶も巻き戻るんだと思うと切ない。
それでも、記憶が巻き戻っても、望月がここにいて、俺が望月に恋をした。
この事実だけは永遠に変わらない。
本当の時は変えられない。
だから、俺が望月を好きだという証は残しておきたかったんだ。
そっと、望月の唇に自分の唇を重ねる。
目をつむったから、望月がどんな表情をしているかはわからない。
それでも、望月は俺を受けて入れていると思った。
望月が俺を強く抱きしめたから。
「明日、もう一度、この時間にここに来て。
それが私とあなたの最後の日よ」
明日、望月は本当にいなくなる。
9月18日。俺と望月は再び、夜の学校の屋上にいた。
十六夜の月が昨日より弱々しく、望月を照らす。望月と別れる月の日だった。
「行くんだよな」
「ええ」
学校では博にこの話はしなかった。あいつは望月がいなくても大丈夫だ。
屋上に行って、望月といつものように昼食を食べて教室に帰って。
「ほんと、羨ましいぜ」と、博の愚痴を聞きながら授業が始まる。
いつもの日常を繰り返しただけだった。
「じゃあな」
「さようなら」
別れの言葉は短かった。
日常も、非日常も、全ては夢の中で消えてしまう。
それでも、それは決して悲しい夢ではなかった。
美しい夢を見れば、覚えていなくても。
それだけで幸せだろう?
望月、お前の夢はどんな夢だった?
その答えを訊くこともできないけど。
決して悪い夢じゃないと思う。
俺のために生きてくれると言ったのだから。
何かが止まった音がして、また動き出した音がした。
望月は俺の前から消えていた。
そして。
俺の記憶は巻き戻された。
―エピローグ―
柔らかい草の上で私は目覚めた。体のあちこちが痛い。
そして、目の前には私の顔を覗き込む少女がいた。
「あら、お目覚め?」
私は上半身を起こした。洋風の建物の裏にいるみたいだ。
そして、私の傍には羽をはやした小さな女の子と、ネグリジェらしき服を着た少女がいた。
二人目の少女は本を片手に、目を本から離さない。
「ここ、どこかしら」
羽をはやした女の子が答えた。
「紅魔館よ」
「紅魔館、素敵な名前。誰の館かご存知なのかしら」
ネグリジェらしき服を着た少女が少し震えた。何を驚くことがあるのかしらね。
「私よ」
今度も羽をはやした少女が答えた。
「それにしても、吸血鬼を見てたじろがない人間なんて、初めてだわ」
「そう。それはいい記念になるわ。そんな人間の血を吸うとよくないことが起こるかもしれないわね」
「それに、吸血鬼にこんなことを言う人間も初めてだわ」
「褒めているのね。嬉しいわ」
さてと、これからどうしようか。
その時、女の子が私の胸倉をつかんだ。見た目に似合わず、ものすごい力。
彼女は私を睨みつけた。私も彼女から目を離さない。
「吸血鬼の恐ろしさを知らないのね。面白い人間」
「知っていてこうしているのよ」
「ふふ、だったらなおさら面白いわ
「パチェ、この人間をメイドにしようかと思うのだけど、どうかしら」
もう一人の少女はようやく、本から目を上げた。
「いいと思うわ。少し、うちの館もメイドを増やす必要があると思っていたころよ」
「決まりね」
羽をはやした少女はぐいと私を引き寄せた。
「あなたはこれから私のメイドよ。拒否したら、どうなるかわかるわよね?」
「わかってもわからなくても、メイドになれと言われたらなるわ」
彼女は突然手を放した。どさり、と私の身体が地面に戻る。少し乱暴な子。
「さて、メイドになるんだから、名前くらい教えてくれないかしらね」
そうね、名前。
名前なんて思いだせない。
「一種の記憶障害かしら。あんな所から落ちたら衝撃でそうなるかもしれない」
本読みの少女が呟いた。あまり育ちが良くないように見える。
「そう、それは困ったわね。名前をつけなくちゃ、これから困るわ」
「『人間』でもいいと思うけど、レミィ。どうせ一人しかいないんだし」
「それだと誰かと交換されたときに混乱するじゃない?」
そんなことは起こらないと思う。
「そうね、あなたは・・・そう、十六夜 咲夜、なんてどう?」
「いざよい、さくや」
「今日は十六夜、それにほら、そこに彼岸花が咲いているわ」
懐かしい花だった。
11月16日。
「旻、遅いぞー」
「焦るなって」
博と俺は映画を見て、夕食を食べて帰るところだった。
さすがに秋も終わりに近づき、夜は冷え込む。
「それにしても、なんだよ、あの映画は。男二人で見るもんじゃないぜ、ったく」
「文句言うな。見ようって言ったのはお前だろ」
「そうだけどな、そこはうっかりしてた」
俺達が見たのは恋愛ものの映画。女子には大ウケだとは思うが、博は気に入らなかったらしい。
「それにしても寒いな、ほれ、空を見てみろ。雲一つないだろ。なんか、こう寒々しいな」
博に言われて空を見てみる。そこには十六夜の月。
不意に月が歪んで、滲んだ。冷たいものが頬を伝っていった。
「お、おい、旻?」
十六夜の月は別れの日に昇るんだろう。
俺は叶わぬ恋をしていた。
それなのに、どうして何も思い出せないんだ。
胸の中にある切なさを抱えて、俺の涙は止まらなかった。
机の中には一枚の写真。
それは望月欠ける日。
淡い月の光が射すは銀の時。
旅行から帰ったら、期末試験まで大きなイベントはない。
束の間の退屈な日々を、みんなはダラダラと過ごしていた。
今頃、博も食堂で他のやつらと昼食をとっているだろう。
俺は売店で買ったサンドウィッチの袋をぶら下げて階段を上った。
初夏の風は涼しい。6月だというのに、この晴れ具合は最高だ。
学校の屋上とはなんと素晴らしいものなのだろうか。
「ここを立ち入り禁止にするなんてどうかしてるよな」
空気を肺いっぱいに吸い込み、吐き出す。退屈な日々もどこか遠くへ行ってしまいそうだ。
「なあ、望月、お前の昼食はどうしてるんだ」
「買ってないわ」
「お金が無いわけじゃないだろ」
「そうね、別に貧乏というわけではないわ」
「それならいいか。ほら、この卵サンド食べるか」
望月は卵サンドを受け取り、「ありがとう」とお礼を言いつつ頬張った。
俺もカツサンドを頬張る。カツがなんとも言えぬ湿り気を帯びていた。
望月と二人、立ち入り禁止の屋上のフェンス際に座っている。
それは少なくとも俺にとっては平和で大切なひとときなんだろうな、と思う。
望月がどう思っているかは知らないけれども。
「いつも一緒にいる白銀君はどうしたの」
「あいつなら他のやつと食堂だ」
「彼を放っておいていいの?」
「昼食の時くらいは大丈夫だ。学校の行き帰りもあいつと一緒だしな」
それに。
―お前、望月が好きなんだな―
別に俺がいなくても、あいつは俺が何をしているのか、大体想像がついてるだろう。
ついていないかもしれない、頭を使わないから。
サンドウィッチを食べ終わるまでは二人して無言だった。
向こうも口を開かないし、俺も話しかけない。それでも、居心地は悪くない。
食べ終わってから望月が先に口を開いた。
「これからも毎日来るつもり?」
そう言った望月の顔には、「迷惑だわ」という表情が見えなかった。純粋に訊いたつもりなのだろう。
俺がここに来たのはもちろん、望月を探した結果だ。
望月は昼休みになると、教室からいなくなり、食堂にも姿を見せない。
誰もいない場所をあたった結果、ここに辿り着いた。
望月と昼食を食べたかった。それで望月のことを知りたかった。
それが動機だった。一緒にいたいだけだった。
「雨が降らなきゃ、毎日来る。雨の時は・・・そうだな。望月が食堂に来ればいい」
「それは無理な相談ね」
「だな」
仰向けに倒れた。雲ひとつない空とはまさにこのことだ。
あの時のことを訊こうかと思った。望月、お前は旅行で寝ぼけて他の部屋に行ったことあるか?
その考えはすぐに打ち消された。アホか、そんなことを訊くのは大馬鹿だろう。
チャイムが鳴った。今日は来たのが遅かった。
まともな会話を交わしていない気がする。
「そろそろ、教室に戻ろうか」
「そうね」
日の光が俺の背中を焼いた。
目が覚めたら、そこは広い野原だった。空は青く、青く、どこまでも青く。
風が吹き抜けて髪を揺らす。ああ、なんて気持ちがいいんだろう。
これが自分の望んだ平穏だったのに。
だった「のに」。
「行こう?咲」
「うん、お母さん!」
「旻!旻!」
博の呼び声で俺は目を覚ました。
「なんだよ、せっかく人が気持ちよく寝てたのに」
「気持ちよく寝すぎだぜ、お前は」
夕日が差し込む教室の中。博の部活が終わるまで俺は教室で待っていたが、いつの間にか、寝ていたらしい。
バッグを肩にかけて博が立っている。ああ、帰るのか。
急いで準備をした。
「そんなに部活で疲れてたのか」
「別にそういうわけじゃない、暇だったんだよ」
夕日が射す帰り際。暑い。
いくら日が出ている時間が長くなったとはいえ、7時くらいではもう日が沈みかかっている。
「悪いな、お前をずいぶん待たせちまった」
「別にいいよ。俺も博を待たせる時もあるしな」
帰り道が同じだし、部活も大体同じくらいの時間に終わるので、
俺と博の中では、早く終わったら教室で待っている、という約束事があった。
「お前さ、やっぱり望月が好きなんだな」
博がぽつりと呟く。やっぱり博には見抜かれていたか。
俺は何も言わない。それは否定の沈黙ではなく、肯定の無言だ。
「まあ、お前が好きなら何も言わないさ。
むしろ、なんだ、その・・・、まあ、なんだろうな、うん、いいことじゃないのか、そう俺は思うね」
何をあたふたしているのやら。俺はそんな博の挙動が少し可笑しくなって吹き出しそうになった。
博だって、本当は彼女を作りたいのだろう。
ところが、俺に先を越されそうになっているんだから、普通なら妬んでもいい。
それでも、こうやってわざわざ応援しているような素振りを見せるのは、博だから、だと思う。
「何ニヤニヤしてんだよ」
「博もいいところあるんだな」
「・・・お前はほんっとうに優しいやつだな。ったく、羨ましいぜ」
蝙蝠が空を横切って行った。
またある日の昼休み。
「あれ、どうしてそんな中途半端なところにいるんだ」
望月が立っていたのは、フェンス際でもなく、入口のそばでもなく、ちょうど屋上の真ん中辺りだった。
「なんとなくよ」
「なんとなくって便利だな」
「ええ、とても便利な言葉。それですべてが説明できるの、素晴らしいわ」
なんとなくって、そんなにいい言葉だっけ。
「ほら、卵サンド」
毎日、いろんなサンドウィッチを試してみたが、どうやら最初に貰った卵サンドが一番気に入っているようだ。
その時の顔が、少しだけ柔らかいように見える。
「ありがとう」
「毎日卵サンドにしたら飽きないか?」
「いいえ、そんなことないわ」
「そうか。まあ時々サラダサンドとかにしておくよ。飽きられたら困るもんな」
正直、毎日サンドウィッチでは飽きると思うのだが、他にいいパンが売店に売っていないのでしょうがない。
こうして望月が毎日食べてくれるだけでも良しとするべきだ。
「こうして屋上にいるといろんな人が見えるわね」
「そうだな」
「時々、思うの。私はこういう場所にしかいられないんじゃないか、って」
「こういう場所って、屋上ってことか」
「そう。こうして、いろんな人たちを見てる。そして、私は一人。誰も私を気にかけない、私もただ見てるだけ」
何を言おうとしているのか、今の俺はよくわかる。
「誰も、気にかけないことはないさ」
「あら、どうしてそれがわかるの?」
「今、俺がここにいて、望月と話してるだろ。それだけの話だ」
「随分単純ね」
「単純さ。単純って素晴らしいことだよ。それですべてがわかるんだからな」
望月の言葉をちょっと変えて返した。
望月は微笑んで、フェンス際に行って遠くを眺めていた。
「本当に、不思議な人」
風に乗って望月の声が流れてきた。
また別の日の昼休み。雨が降っていた。
「やっぱりいるんだな」
「やっぱりいるのよ」
傘を二つ持ってくる必要はさすがに無かったようだ。
望月は自分の傘をさして、入口の近くで立っていた。
「ほら、卵サンド」
「ありがとう」
もうこのやり取りにもだいぶ慣れてきた。昨日はサラダサンドだった。
雨の中、傘をさしながらサンドウィッチを食べるのは楽じゃない。
それでも、屋上に来るのはどうしてだろう、と考えてみるがその思考をすぐに破棄する。
わかりきっていることじゃないか。
食べ終わってからも、雨の音だけが響く。
俺は傘の下から望月を覗く。すると、望月と目が合った。俺も望月も目をそらさない。
瞬きをしたら、負けるような気がする、いや、なんとなく。
結局、先に目をそらしたのは俺だった。そんな、好きな人の目をじっと見ていられるか。
望月がふふっ、と笑った。
「雨の中でも来るなんて思わなかった」
「来るさ。お前がここにいる限り、俺は必ずここに来る。嵐の中でも」
「それ、自分で言ってて恥ずかしくない?」
言われれば恥ずかしいセリフばっかり言っている。
傍から見たら、もうただの大馬鹿キザ野郎なんだろうな。
「今気付いたみたいね」
今気付いたよ。
「でも、来るさ。だって、お前はここで待っててくれてたんだろ?」
「あら、何を根拠にそんなことを言うのかしら」
「望月が傘をさして入口の近くで待ってたんだ」
もう一度、望月の目を見て、さらりと言った。望月は少し、驚いたような顔を見せた。
雨の日が続いた。部活が終わって帰宅する夜まで雨がしとしとと降り続ける。
博はうんざりした顔をした。
「もうすぐ試験も始まるっていうのに、なんだ、この天気は。試験勉強する気にならん」
「図書館にでも行けばいいだろ。いつもしてないくせに、よく言うよ。」
「いつもしていないがな、今回はよく勉強しているんだ」
「はいはい、いつもの無限倍やっているよな。いつも0分だから」
「おおよ・・・・・・・・・・馬鹿にすんな!」
博が追っかけてくるのをひらりとかわす。
「雨の日も、か。お前、今日も望月のところに行ったのか」
「ああ。もう雨にも慣れてきた」
「それはずいぶんご苦労なこって」
博は水たまりの水面を足で切る。水の鞭が伸びた。
「なあ、旻」
博は意外な問いを投げかけた。
「いつまで望月のところに行くつもりなんだ」
「え?」
博は真剣な顔をしている。前にも同じような話があったと思う。
「卒業するまでだ。まさか、また止めろ、と言うんじゃないだろうな」
「いいや、さすがにもう言わないぜ。俺も学習してるんだよ。お前に何言ってもどうせ意味ないってな」
それでも、博は心配そうな顔をしている。
「俺が心配してんのは周りのことじゃない。お前自身のことだ」
どうも博の言っていることが飲み込めない。
前にも、周りから白い目で見られる、というような忠告は聞いたが、今回はまた違うようだ。
「なんだよ、はっきり言ってくれ」
「はっきり言えたらいいさ。でもな、言えないんだよ」
なんなんだ。
「お前は筋道立てて言わないと納得してくれないだろ。でもな、今回はそんな理由とかないんだよ」
「わかった。じゃあ理由は聞かない。何が問題なんだ」
それは博にしては珍しいことだった。
こんなに博が物事をはっきり言わないのは初めてかもしれない。
雨の音がうるさい。雨なんか降らなければいい。初めてそう思った。
博は一呼吸置いた。そして、言葉をひねり出した。
「いつか、悪いことが起こるんじゃないかってな」
目覚めると、そこは病院のベッドだった。
でも、今度は冷たい白で囲まれているわけではない。
どこか、温かみのある白と、祝福するかのような日の光。
今、幸せだった。
隣には小さな赤ん坊が小さな寝息をたてていた。この赤ん坊が誰か、自分は知っている。
この子は咲だ。お腹を痛めて、この世に生を授かった子。大切な自分の子。
いつまでも、あなたを見守っていたかったのに。
見守っていたかった「のに」。
そっと涙を流した。
期末試験も終わり、成績も返されて、もう夏休みになった。
夏休みとは言っても、部活がある日が多いので、あまり普段の生活スタイルを変えられない。
それは博も同じだった。行きも二人、帰りも二人というスタイルもあまり変わらなかった。
今年は猛暑らしい。8月15日。終戦記念日だ。
俺と博は住んでいるところから少し離れた、小さな山にいた。
「うああ、山の中でもこの暑さじゃ、やってられないな!」
博が唸る。俺も博も、汗だくになっている。
「まあ、こんな日に野球やってる場合じゃないな。サボって正解だ」
「いいのか、それで。俺は今日部活が無かったから良かったものの」
「甲子園にも行けずに練習してもしょうがないぜ」
博たちは地方大会の決勝で負けた。大差だったらしい。
「惜しかったな、あれは」
「いいんだよ。相手のピッチャーが強すぎた」
山頂に達した。小さな山だから、全然疲れない。
少し涼しい風が吹き抜ける。ああ、山の良さってこれだよな。
「そういえば旻」
「なんだ」
「お前、しばらく望月に会ってないな。寂しくないのかー?」
博がニヤニヤしながら頬をつんつん突いてくる。止めろ、気色悪い。
「いいんだよ。俺は望月のことを信頼しているからな」
博は呆れたように溜息をついた。
「バカップルだな」
「バカップルとは失礼だな。別に付き合っているわけでもないし」
「どう見ても付き合っているとしか思えないけどな」
やれやれ、これだから変り者の旻は、と呟く博。変わり者で悪かったな。
「さっさと告白しちまえよ」
「は?」
蝉の声がうるさい。きっと今の博の言葉は錯覚だ。蝉が言っていたんじゃないのか。
「付き合えばいいじゃないかよ。今のような中途半端な状態じゃ、むこうもいらいらするぜ」
やっぱり博が言っていたらしい。
「あのなぁ・・・なんか展開が速すぎないか」
「そういうもんだと思うな。それに、望月もお前とは楽しそうに話してるぜ」
教室で会話を交わすことなんてほとんどないけどな。
「こっそりお前をつけて屋上に行ったんだよ」
「お前・・・性質が悪すぎる」
「悪い。どうしても心配でな」
博は本当に申し訳なさそうにしていた。とりあえず、頭を軽く叩いておいた。
悪気が無いので仕方ない。まあ、今度からは背後に気をつけることにしよう。
博がいたらとりあえずぶっとばしておくのが無難だろう。
しかし、告白なんて。いきなり言われたが、そんなことあまり考えてなかった。
ああいう日常があまりにも心地よく、変化するなんてこと考えてもなかった。
「いや、旻、そんなに考え込むことないと思うが」
「なぜ」
「別に付き合ってもさ、今と同じ生活が続くだけだろ。多分な」
「うん」
「要するに、気持ちの確認なんだよ。お前が望月のことが好きだ、一緒にいたいって言うだろ。
それで、望月も同じ気持ちだと言うとする。良かったじゃないか。お互いの気持ちを知ることができた。
告白っていうのはそれだけの話なんだよな」
博にしてはずいぶん深い話だ。なるほど、確かに筋道が立ってる。
「だから今から告白しようぜ」
「いや、それは無理というものだ」
でも、いつかは自分の気持ちをはっきり伝えなければならないんだ。
二学期、望月と屋上にいる時に告白しよう。
決心して山からの風景を見てみると、なんだか解放感にあふれていた。
俺たちが住む街は決して大きくはない。
それでも、そこでいろんな人たちがいろんなことをしているんだ。
そこにあるのは希望なんじゃないか。
風が流れ、青々とした夏草を揺らした。
その時、突然、寂しさが胸に満ちた。なんだ、この感じは。
今まで感じていた希望が一気に消え失せた。
残るのは喪失感。
何かが、自分の夢となって消えてしまうのではないか。
そういう予感がした。
「夏草や 兵どもが 夢の跡」
ふと、この句が口を突いて出た。博が不思議そうな顔をして俺を見る。
俺も自分で驚いた。なんだ?
松尾芭蕉の句。どうして、俺はこの句を詠んだのだろう。
蝉はいつの間にか鳴き止んでいた。
もしかしたら、永遠に鳴くことはないかもしれない。
目覚めると、また病院にいた。今度は病室ではなく、診療室のようだ。
医者と向き合って椅子に座っている。かなり高齢の医者だ。
もう、これが夢だということは気付いていた。誰の夢かも、自分が誰なのかも。
「残念ながら」
医者は重々しく切り出した。
「白血病です。それも、慢性骨髄性白血病です」
白血病は知っていたが、複雑な名前の白血病だな、と思った。
あまりにも大きいショックなのか、それとも、もう先を知っているから何とも思わないのか。
体がぴくりとも動かなかった。
「しかし、最近では治療法が進歩しまして、5年後でも生存率が90%を上回るようになっています」
そういう医者の顔はまだ曇ったままだ。
「効果的な治療薬があります。
最近投与を認められまして、非常に高価ではありますが、治療に大きく貢献しているようです」
驚いた。白血病は不治の病だと思っていたのに、最近の科学の進歩は素晴らしい。
それでも、医者の顔が晴れない理由はわかる。
この子だ。
「ただ、その治療薬は妊娠中、および授乳中の母親に投与できないのです。
投与できるとしたら、どんなに早くしても出産後になるでしょう」
当然だ。この子を死なせるわけにはいかない。
「しかし、その場合」
また医者は言葉を切った。
「急性白血病に転嫁する恐れがあります。そうなった場合、治療することは困難です。
・・・いえ、はっきり言ってしまえば、ほぼ死に至ります。その時には、長くても余命半年です」
学校が始まった。
「また望月のところへ行くのか?」
昼休みになり、屋上へ行こうとする俺を博が呼び止めた。
「そうだけど、どうかした?」
「告白するんだろ」
「ああ、はっきり言ってくる」
「がんばれや。成立したら、あとで牛丼でもおごってやるよ」
また牛丼か。くすり、と笑いが漏れた。
博が親指を立てて、ウインクする。うん、気色悪い。
「牛丼、楽しみにしてる」
屋上を駆けあがった。あの日からずっと不安だった。
階段の一段一段が大きい。足が重い。息が切れる。
どうして行かせてくれないんだ。
どうして行かせてしまうんだ。
屋上に、望月はいた。
コンクリートの地面に太陽の光が照りつけ、そしてたった一人の少女がそこにいるという光景。
見慣れた光景のはずだった。何も変わらないと思っていた。
それは幻想。
望月が立っていたのは入口の近くでもなく、フェンスのそばでもなく、屋上の真ん中でもなかった。
本当に中途半端な位置。どちらに引き寄せていいかもわからない。
頭が、痛い。
セカイガグルグルマワル。コレハユメデモゲンジツデモナイセカイ。
ワタシハキテハイケナイバショニキテシマッタ。
セイヲムサボルノモシノフチヘトビコムノモコワイ。
タダコノイマワシイセカイカラキエテシマイタイ。
「望月!」
思わず叫んだ。望月は俺をちらりと見た。
「お前の好きな卵サンド買ってきたんだよ。 夏休みの間、ずっと食べられなかっただろ。
だから、今日は2つ買ってきたんだ。多かったら俺が食べるから。
だから・・・だから・・・
そんな顔、すんなよ・・・」
望月の顔には生気が無かった。
ずっと望月はふさぎ込んでいた。
卵サンドも半分くらいしか食べなかった。俺が話しかけても反応が薄くなった。
9月16日。その日も俺は屋上に行った。
屋上への扉を開く直前で手が止まった。ドアノブに手をかけたまま、動けない。
開けるものはこの扉。開けないものは望月の心。
俺はただ扉に寄りかかって泣くだけの子どもなんじゃないか。
「どうかしたのか」
「どうも、してない」
あの日の帰り道、口数の少なかった俺に博が問いかけてきた。
「ウソつけ。お前がそこまで落ち込んでるのは初めてだ」
「落ち込んでいたのは運動会の時もだろ」
「それとは違う。今回は、ネガティブなんだよ。大体、告白しなかったみたいだしな」
どうしてそれがわかったのだろう。少し驚いた。
「望月を見たらわかる」
博が望月の様子を見ていたのか。
「博」
俺は博の肩をつかんだ。
「俺はどうすればいいんだ」
博は俺から目をそらさなかった。
博は、いざという時には絶対に諦めようとしない。一年前から、あの運動会のときだって。
だから、俺はそんな博を頼りにしているんだ。
しかし、そんな博から出てきたものは、俺にとってショッキングな言葉だった。
「お前次第だ」
自分で何とかしようとする博、のはずなのに。
「別に投げ出したわけじゃない。これが俺の答えだ。
望月を救い出すのはお前しかいない。 望月と一緒にいられるのもお前だけだ。
お前しかできない、だろ」
俺、次第。博の言葉は力強かった。
俺にしかできない。
運動会の博を思い出した。望月を思い出した。
そして、俺を、思い出した。
走っても走っても追いつけない。
むしろ、遠ざかっていくような気がした。
たった50センチなのに、その距離を飛び越えられない気がした。
息が切れる。呼吸ができない。暗闇が俺の視界を覆い始めた。
「旻!お前の肩には俺らの思いが乗ってんだよ!」
重すぎる。重すぎて、俺は潰されそうだった。
ついに、暗闇が俺の視界を覆い尽くした。
小さな言葉が聞こえてきた。
「私はあなたたちのために頑張ったわけじゃないわ」
その時、俺ははっきりと目を開けた。1メートルくらい離されていた、だけど。
なんだよ、たった1メートルじゃないか。さっさと抜いてやる。
脚が急に軽くなった。
日の射さない薄暗い踊り場で、ようやく俺は気づいた。
あの言葉は、望月の言葉だ。
ゆっくり扉を開けた。
いつも通り、望月はそこにいた。そして、今日も生きていないかのようだ。
「望月、ほら、卵サンド」
望月の隣に座り、サンドウィッチを手渡す。のろのろと、望月の手が卵サンドをつまんだ。
食べるスピードもひどく遅い。
あれから博の言葉を信じ、いろいろ話しかけてみた。
望月は全く聞こえていないようだった。上滑り、そんな感じ。
言葉とはなんと無力なものなんだろう。
どんなに情熱的に語りかけても、聞こえなければ何も意味をなさない。
あのキング牧師の演説も、聴く人がいたからこそ力を持ったのだ。
でも、人間の力は言葉だけじゃない。
そっと腕を伸ばし、望月の腕を引き寄せ、手を握った。
「・・・っ」
望月が小さく息をのむ。
ひんやりとした、冷たい手。それでも、不思議と心は落ち着き、安らぐ。
あの時の、夢と同じだ。
望月も、俺の手を握り返してきた。
これだけでいいんだと、思う。
言葉で伝わらないものは、触れ合うことだけで伝わる。
わずかな間なのに、それが永遠に感じられた。
時が止まるというのは、こういうことなんじゃないか。
ずっと、こうしていたかった。
「旭君」
望月が俺の名前を呼んだ。
「旻でいい」
「旻」
望月は繋いでいた手を離し、フェンス際に行った。
「私は私に近づきたいわ。でも、それは決して叶わぬ願いなの」
望月はそう言って、振り返った。その目に悲しみと別の何かが満ちていた。
「完璧な人間なんていないわ。そう、私は人間なの。
それでも、私は完璧であることを望み、手を伸ばそうとする。あなたが知る、もっとも完璧に近い場所で。
その時、あなたも一緒にいてくれるかしら。その一瞬に、あなたはいてくれるのかしら」
望月は俺に微笑んだ。夢のような、優しい頬笑みだった。
「一緒にいる。それが望月の願いなんだろ」
望月は何も答えず、ただ微笑んでいるだけだった。
俺は、その時、望月が消えることを悟った。
家に帰って、夕食をとり、風呂に入り、歯を磨き、ベッドに横たわる。
もう寝てもいい時間だ。11時半。他にやることもないのだから、寝るべきだ。
でも、眠りにつけなかった。
今までの望月との思い出を振り返る。
始業式の日の儚げな姿、運動会での華麗な走り、学年旅行での抱擁、屋上での会話。
短い間だったのに、どうしてこんなに大切な時間になっているんだろうな。
望月はいなくなる。必ず。このままだと誰の手も届かないところに消えてしまう。
だけど、いつ、どこで。それがわかれば、望月を引き留めることだってできる。
最後に望月は何を言ってたっけ。
―私は私に近づきたいわ―
―私は完璧であることを望み、手を伸ばそうとする―
―あなたが知る、もっとも完璧に近い場所で―
ふと、窓に目を向ければ中秋の名月が空のてっぺんに差し掛かっているところだった。
そう言えば、今年は今日の夜がお月見に最適な日だとニュースでも言っていた。
月。
ああ。そういうことだったのか。だったら、望月、今、行く。
寝巻きから、制服に着替えた。親の制止も振り切って家から出た。
不思議と心は落ち着いている。
夜の住宅街を駆けていく。
外を歩く人はなく、物音もせず、ただ、俺の足音だけが静かに響く。
街灯の明かりが等間隔に照らす道を、ただ、駆けていく。
今日は、中秋の名月だ。満月の別名は、望月、だろ。
そして、俺と望月が知る、最も満月に近い場所は
屋上なんだろ。
9月17日。12時になった。満月は一番高いところまで上りきった。
屋上には俺と、望月が立っていた。
望月は月の光に照らされて、美しく見えた。
それはあの桜が散り始めた日と同じようで、違う姿だった。
望月が先に口を開いた。
「来たのね」
「来るさ。それがお前の願いなんだろ」
俺は望月のそばへと歩み寄った。月の光だけが、夜の闇を照らしていた。
「昼にあんなことを言ったのも、俺が来ることを期待していたから、だろ」
望月はその問いにも答えなかった。
胸が詰まる。欠けた月の光と、寂しそうな望月の姿を見るだけで、涙が出そうになる。
「勝手に・・・消えないでくれよ」
それしか言えなかった。もっと言いたいことはあった。
どうして勝手に消えるんだよ。大好きな卵サンドはどうするんだよ。
屋上でまた二人で話そう。博もお前と話したがってたよ。今度三人で昼食を食べよう。
俺は、お前のことが好きなんだよ。
言葉が出ない。
「旭君・・・いえ、旻。私は消えるべきだわ」
望月の長い物語。
「あなたはもしかしたら気付いていたかもしれないけれど、私は魔法使いよ」
それは遺伝だった。望月の母親はわずかながら魔力を宿していた。
しかし、それは周囲の人間に影響を及ぼさなかった。
だから、彼女は「普通の人間」と同じ生活を送ることができた。
ところが、その娘、つまり望月咲は生まれながらにして強力な魔力を有していた。
魔力を持つ人間は「普通の人間」に疎まれる。
それは理由などなく、感覚的に異端を避ける人間の習性だった。
望月が生まれて2年後、父親が母親のもとから去った。
幸い、彼は望月と母親が一生困らない分の財産を残した。
残された母親は一人で望月を育てようと決心した。それから二人は静かに暮らしていた。
しかし。
「私が13歳の時、母は突然入院したの」
望月は声を詰まらせた。
俺が見た夢はその母親の記憶だったのだ。
望月の魔力が何らかの作用を俺に引き起こし、見せた夢だったのだろう。
望月はたった一人取り残された。
自分の周りには誰も来なかった。母親だけが自分を受け入れてくれていたのに。
外でも除け者にされ、家に戻っても誰もいない。
いつしか、望月は心を閉ざすようになっていった。
ただ、母親がいつか戻ってくることを祈って、できる限り母親の病院に通った。
「今年の冬に、母は余命3カ月と伝えられたわ」
「3か月・・・」
あまりに短い期間だった。
母親の病気は、望月が生まれたあとではすでに手遅れの状態だった。
薬は確かに効果的だったが、完治には至らなかった。所詮は病気の進行を遅らせるもの。
そして、病態が急変したのが今年の冬だった。
「いつかは私一人だけになる。その時、私は本当の孤独になる。
私と世界が切り離される。そうなったら、私が消えるだけだと思っていたわ」
でも。
そこで現れたのが旻だった。
「あなたは私を決して遠ざけようとしなかった。いえ、むしろ私に自ら近づいてきてくれたのよ」
今まで疎まれていた望月。
それなのに、自分に接近しようとする俺は望月にとって異質な存在として映ったのだろう。
「だから、私は疑ったわ。何か下心でもあるのかしらって」
旅行の時の望月の行動は、ある意味では俺を試し、ある意味では自分の欲望だったのだ。
「私は誰かに受け入れてもらいたかった」
望月は少しずつ、俺に希望を見出すようになった。
「私を本当に受け入れてくれる存在がいるなんて、夢のようだった。
毎日、卵サンドを買って一緒に屋上にいてくれた。少しでも私を楽しませようとしてくれた。
それは夢のようで、やっぱり夢だった」
8月15日、望月の母親は逝去した。
「現実になったの。私は本当に、世界でたった独り」
望月の長く、短い物語は終わろうとしていた。
たった17年間。それでも、たった二人での17年間。
重すぎる。口を開けない。心臓がひもで縛られているように重い。
小説の世界でもこんなことがあるとは思えない。
彼女の母親以外、誰も望月という存在を認めなかった。
母親以外で受け入れようとしたのが俺だけだったのか。
こんなこと、あっていいのか。
やっとの思いで、言葉を絞り出した。
「望月。俺じゃ、だめなのか」
望月は首を横に振る。否定。なら、なぜ。
「旻、あなたは優しすぎる」
意外な言葉が返ってきた。
「あなたは人のためなら、自分が傷つくことを全く恐れずに尽くす、そういう人。
それが普通の人のためならばまだいいわ。
でも、私のような異端な人のためにだったら、いくらあなただっていつかはぽきりと折れてしまう。
それが私は怖いの。母親を失い、それに私のせいであなたを失ってしまう」
「そんなこと、気にするか」
「それ、よ」
望月に指摘された。ぐさりと胸に刺さった。
俺は無力なのか。
ふと、「全世界を敵に回してもいい」という言葉を思い出した。
できるはずがない。ここに全世界を敵に回した少女がいる。
その少女は完璧なのに、それでも17年間苦しみ続けた。
俺に何ができるというんだ。
夜風が俺と望月の間を流れていった。
「私は時を操ることができる。それが私の魔法」
「操るって、時を止めるっていうことか?」
「止めるだけじゃないわ。進みを早くしたり、遅くしたり、時には巻き戻すこともできるのよ」
「どうして母親の病気を巻き戻さなかったんだ」
望月は少し、ためらった。
「母の病気は私が知った時にはかなり進行していた。
記憶を巻き戻すよりも、病気を巻き戻すのは相当の力が要るし、成功率も下がるのよ。
それに・・・」
ふと、望月の目から涙がこぼれた。
「お母さんが、やらなくていいって言ったわ。
『どうせ私は消える運命なの。それが今でも、後でもあなたにとっては同じことよ』
それがどういうことか、私は理解するまで時間がかかったけど、最近悟った。
お母さんは、私が、辛いって知っていて、あんなこと、言ったんだって・・・」
そんなこと、あるかよ。
自分の娘が死んでいいなんて、そんなこと、あっていいものか。
「望月」
俺は望月を抱きしめた。離すものか。
望月は俺の胸の中で嗚咽を漏らした。
だけど。
もう俺には何もできない。望月は独りでずっと生きてきた。
死ぬのがいいことではない。
だけど、本当に未来がない17歳の少女に「生きろ」とは言えなかった。
俺ができるのは、こうして泣いている望月を抱きしめることだけだ。
なんて情けないんだろう。
愛しいと思う望月にこれしかできない自分の不甲斐なさに、
望月が今まで生きてきた苦しみに、
俺も泣きたくなった。
それでも、今は涙を見せられなかった。
「私、この世界から離れようと思うの。別の世界で、生きるわ」
涙が収まった後、望月が言った。
「いえ、死なない。旻という存在がいたから。
あなたがいなかったら、母が死んだ日にとっくに命を絶っていたわ。
あなたのために、生きるって決めた」
だからこそ、望月はこの世界を離れることを決心したんだろう。俺のために。
哀しいすれ違いだと、俺は思う。
だけど、俺が苦しむ姿を見て望月が苦しむだけだったら?
俺には自信がない。
「明日、私はいなかったことになるわ。全ての人の記憶は、私に関する部分だけ巻き戻る。
白銀君も、あなたも、私も。
記憶だけが巻き戻って、感情は残るみたいだけど」
それが正しいのか間違っているのか、俺には分からなかった。
記憶がなくなるということは、それは俺の中で望月が死んだということと同等、あるいはそれ以上だ。
でも、本当に望月が死ぬのも、また辛かった。
「望月」
「なにかしら」
たとえ望月が消えるとしても。二度と思いだせなくても。変わらないことがある。
「言いたいことがあったんだ」
それはこの気持ち。
「お前が好きだ」
「私もよ」
これが告白だった。本当にあっさりしていた。儚い告白、この記憶も巻き戻るんだと思うと切ない。
それでも、記憶が巻き戻っても、望月がここにいて、俺が望月に恋をした。
この事実だけは永遠に変わらない。
本当の時は変えられない。
だから、俺が望月を好きだという証は残しておきたかったんだ。
そっと、望月の唇に自分の唇を重ねる。
目をつむったから、望月がどんな表情をしているかはわからない。
それでも、望月は俺を受けて入れていると思った。
望月が俺を強く抱きしめたから。
「明日、もう一度、この時間にここに来て。
それが私とあなたの最後の日よ」
明日、望月は本当にいなくなる。
9月18日。俺と望月は再び、夜の学校の屋上にいた。
十六夜の月が昨日より弱々しく、望月を照らす。望月と別れる月の日だった。
「行くんだよな」
「ええ」
学校では博にこの話はしなかった。あいつは望月がいなくても大丈夫だ。
屋上に行って、望月といつものように昼食を食べて教室に帰って。
「ほんと、羨ましいぜ」と、博の愚痴を聞きながら授業が始まる。
いつもの日常を繰り返しただけだった。
「じゃあな」
「さようなら」
別れの言葉は短かった。
日常も、非日常も、全ては夢の中で消えてしまう。
それでも、それは決して悲しい夢ではなかった。
美しい夢を見れば、覚えていなくても。
それだけで幸せだろう?
望月、お前の夢はどんな夢だった?
その答えを訊くこともできないけど。
決して悪い夢じゃないと思う。
俺のために生きてくれると言ったのだから。
何かが止まった音がして、また動き出した音がした。
望月は俺の前から消えていた。
そして。
俺の記憶は巻き戻された。
―エピローグ―
柔らかい草の上で私は目覚めた。体のあちこちが痛い。
そして、目の前には私の顔を覗き込む少女がいた。
「あら、お目覚め?」
私は上半身を起こした。洋風の建物の裏にいるみたいだ。
そして、私の傍には羽をはやした小さな女の子と、ネグリジェらしき服を着た少女がいた。
二人目の少女は本を片手に、目を本から離さない。
「ここ、どこかしら」
羽をはやした女の子が答えた。
「紅魔館よ」
「紅魔館、素敵な名前。誰の館かご存知なのかしら」
ネグリジェらしき服を着た少女が少し震えた。何を驚くことがあるのかしらね。
「私よ」
今度も羽をはやした少女が答えた。
「それにしても、吸血鬼を見てたじろがない人間なんて、初めてだわ」
「そう。それはいい記念になるわ。そんな人間の血を吸うとよくないことが起こるかもしれないわね」
「それに、吸血鬼にこんなことを言う人間も初めてだわ」
「褒めているのね。嬉しいわ」
さてと、これからどうしようか。
その時、女の子が私の胸倉をつかんだ。見た目に似合わず、ものすごい力。
彼女は私を睨みつけた。私も彼女から目を離さない。
「吸血鬼の恐ろしさを知らないのね。面白い人間」
「知っていてこうしているのよ」
「ふふ、だったらなおさら面白いわ
「パチェ、この人間をメイドにしようかと思うのだけど、どうかしら」
もう一人の少女はようやく、本から目を上げた。
「いいと思うわ。少し、うちの館もメイドを増やす必要があると思っていたころよ」
「決まりね」
羽をはやした少女はぐいと私を引き寄せた。
「あなたはこれから私のメイドよ。拒否したら、どうなるかわかるわよね?」
「わかってもわからなくても、メイドになれと言われたらなるわ」
彼女は突然手を放した。どさり、と私の身体が地面に戻る。少し乱暴な子。
「さて、メイドになるんだから、名前くらい教えてくれないかしらね」
そうね、名前。
名前なんて思いだせない。
「一種の記憶障害かしら。あんな所から落ちたら衝撃でそうなるかもしれない」
本読みの少女が呟いた。あまり育ちが良くないように見える。
「そう、それは困ったわね。名前をつけなくちゃ、これから困るわ」
「『人間』でもいいと思うけど、レミィ。どうせ一人しかいないんだし」
「それだと誰かと交換されたときに混乱するじゃない?」
そんなことは起こらないと思う。
「そうね、あなたは・・・そう、十六夜 咲夜、なんてどう?」
「いざよい、さくや」
「今日は十六夜、それにほら、そこに彼岸花が咲いているわ」
懐かしい花だった。
11月16日。
「旻、遅いぞー」
「焦るなって」
博と俺は映画を見て、夕食を食べて帰るところだった。
さすがに秋も終わりに近づき、夜は冷え込む。
「それにしても、なんだよ、あの映画は。男二人で見るもんじゃないぜ、ったく」
「文句言うな。見ようって言ったのはお前だろ」
「そうだけどな、そこはうっかりしてた」
俺達が見たのは恋愛ものの映画。女子には大ウケだとは思うが、博は気に入らなかったらしい。
「それにしても寒いな、ほれ、空を見てみろ。雲一つないだろ。なんか、こう寒々しいな」
博に言われて空を見てみる。そこには十六夜の月。
不意に月が歪んで、滲んだ。冷たいものが頬を伝っていった。
「お、おい、旻?」
十六夜の月は別れの日に昇るんだろう。
俺は叶わぬ恋をしていた。
それなのに、どうして何も思い出せないんだ。
胸の中にある切なさを抱えて、俺の涙は止まらなかった。
机の中には一枚の写真。
それは望月欠ける日。
淡い月の光が射すは銀の時。
その好きな人というのが過去の咲夜さんだと・・・。
面白かった・・・かな?ちょっとコメントし辛いですね。
悪くはなかったと思います。ええ。
ただ、見る人によっては違うでしょうけど。
これならヒロインは誰でもいいんじゃね?つまりは東方でやる意味なくね?
一番最後にぽっと出で付け足しました程度で東方SSです、なんていっても……ねぇ。
自分はこれを東方のSSとは考えられないので評価は無しということで。
これが東方のSSかと言えば、今は「否」と答えると思います。
ただ、キャラクターの「設定」を借りただけの自己満。傲慢。
そして、一回削除してまた内容をほとんど変えずにアップしたのは、軽率すぎました。
なんとお詫びしてよいかもわかりません。
本当に申し訳ありません。
これから先、これが記憶に埋もれるころまでは修正も削除もしません。
その日になったら、以前のコメントを含めて、すべてのコメントを記録に残して、削除します。
>1
コメントしづらいのは、多分、今まで書いた私の文という文すべてに当てはまると思います。
>21
ありがとうございます。
今度は堂々と胸を張れるようなものが書けたらいいのですが。
し辛いというのはどう評価していいかが解らなかっただけで。(苦笑)
作品事態は悪いものではありませんでしたよ。
東方という設定を抜きにしたらかなり良い作品だとは思っています。
しかし、ここは東方の二次創作などを投稿したりする場なので、
今回、こういう言葉を使った次第です。
もう一度言います。
悪い話では決してありませんでした。
次回、これを踏まえたうえで東方の設定を使った作品を
楽しみにしたいです。
では、失礼します。