Coolier - 新生・東方創想話

それは望月欠ける日(前)

2008/10/15 23:29:02
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オリジナルキャラクターが登場します。主人公です。
原作とは多少設定が異なります。

誰かの過去話です。
それでも構わないという方のみお読みください。







一言。ごめんなさい。










































―プロローグ―

 それは望月欠ける日。淡い月の光が射すは銀の時。

 二匹の蝙蝠が木々の間をすり抜ける。

 赤い鈴は窓辺で揺れる。

 私の机に一冊の本。

 それが私の世界。



――――――――――――――――――――――――――――



「おい、そ~ら~、早くしないと置いてくぜ」

 博(はく)の声が響く。近所迷惑なんじゃないかと、内心ひやひやする。
 午前8時に住宅街を高校生二人が大騒ぎして歩いているなんて、やっぱり近所迷惑としか思えない。
 それに加えて、俺の名前を呼ぶのはまずいだろう。誰が犯人か、ここの住人に告発しているようなものだ。
 まったく。博は周りのことなんて気にしない。

「別に早く学校に行く必要はないじゃないか」

 俺がそう言うと、博が詰め寄ってきた。

「何言ってんだ、新しいクラスの支配者になるにはな、最初に教室に行くことが大切なんだよ。

 去年の俺はばっちり押さえてただろうが。」

 真顔で支配者、と言われてもどう反応すればいいんだ。どこのガキ大将だ、って突っ込むべきか?

「それはいいけど、俺まで早く行く必要はないだろ」
「事のついで、だ。お前も支配者層になれば楽しいぜ」

 博は早足で学校に向かっていった。
 何が事のついで、だよ。内心呆れながらも、博を走って追いかける。

 4月8日。快晴。新しい1年間にはふさわしい天気と言えるだろう。
 空も真っ青で雲ひとつなし。見ているこちらの気分も清々しくなってくる。
 今日は始業式だ。俺たちは無事に進級し、晴れて高校2年生になる。
 博の成績が進級すれすれで担任に呼び出しを食らったのも、もう過去の話だ。

「支配者はいいけどさ。勉強しないと、カッコ悪い支配者になるぞ」
「カリスマは!成績とは関係ないものなのだ!て誰かが言ってた」
「そんな迷い言、初めて聞いた」
「迷い言って言うな。俺が今考えただけだ」

 白銀 博(しろがね はく)はそう言って、意気揚々と学校の校門をくぐり抜けた。

 クラス発表の掲示板。この高校は毎年クラス替えが行われていて、外の掲示板にクラスが発表されている。
 朝早いので、掲示板の前に立っているのは俺と博だけだった。寂しい。

 博は丹念に自分の名前を探している。俺の名前はすぐに見つかった。
 やがて、博も自分の名前を見つけたようだ。

「俺は5組だったぜ。お前はどうだ」
「だったら、おれも5組だってことがわかってるだろ」

 博はため息をついて、大げさに肩をすくめた。

「バレたか。旭 旻(あさひ そら)って名前は大体最初に出てくるからなあ。嫌でも目につくんだよ」
「嫌でもってなあ。俺はまたお前と同じクラスであんまり新鮮な気分がしないんだよ」
「そりゃこっちのセリフだ。ま、いいか。何かあったらお前にノートコピらせて貰えるし」
「お前は何かなくてもコピーしてるだろうが!」

 そうして二人は顔を見合わせて、吹き出した。
 去年、博にいきなり話しかけられて、いろいろなところに連れ回された。
 最初は、なんてチャラチャラしたやつに絡まれたんだろう、と半ば嫌々ではあった。
 それでも、それ以来、こいつとは毎日のように生活を共にしている。
 親友、と呼んでもいいと思う。
 チャラチャラしているのは相変わらず、だけど。

「ま、確認も終わったし、さっさと新しい教室に行こうぜ」
「あれ、博、気になった女子はいなかったのか」

 博は新しいクラスになって、可愛い女の子をチェックしてやる、と前から豪語していたのだ。
 そのくせ、自分からその話題を出してこない。なんとなく、理由はわかるが、一応訊いてみた。

「ああ、とっくにチェックしてるぜ。ぱっと見では目立ったのはいなかったな」

 やっぱりな。


 新しい教室は寂しいような、開放感があるような、4月最初の独特の雰囲気がある。
 博はうっかり教室を間違えた。これも4月最初独特のイベントだ。
 同じ学校で、博とは同じクラスとはいえ、誰でも期待を抱くものだ。
 なんだか新しいことが始まるんじゃないかと、つい誰でも思ってしまう。
 クラスのメンバーも変わり、担任も変わり、ついでに自分まで変わりそうな雰囲気が満ち溢れる。

 そうは言っても、今までに特に新しいことが起きた記憶はないけど。
 新しい恋だとか、新しい青春だとか、学園ドラマ的事件が起きないなんてことは、
 中学生の時から何度も体験してきた。
 それでも期待を抱かずにはいられないのが人間の性、というやつか。

「な~、そ~ら~。暇~」

 早く来すぎてやることがない博とそれをどうとも思わない俺。
 期待を抱いていたのがあほらしくなってきた。


 そうして1時間くらいが過ぎたころには大体クラスのメンバーは揃った。
 博はすでに男子グループを形成したり、女子に話しかけたりして、かなり支配者的に積極的だ。
 女子で目立ったのはいないと言いつつも、なんとか誘おうとしているのは傍目からでもわかる。
 見た感じでは、女子グループに引かれているような気がするが。

 それからさらに数分して、担任がやってきた。皆が席に着く。
 30代後半に見えるが、いまひとつ覇気が無いというか、ぱっとしない担任だ。やる気があるのか、ないのか。
 担任は特徴もない平坦な声で出席を取り始めた。

「旭 旻」
「はい」

 出席番号1番。

「朝比奈 由紀子」
「はい」

・・・

「白銀 博」
「うい~っすう!」

 両手をあげて返事をする。ウケ狙いなのにすごく周りの視線が冷たい。というか、博はこっち見んな!

・・・

 そして、最後に呼ばれたのは、

「望月 咲(もちづき さき)」
「はい」

 え。

 目を疑った。念のためにこすってみた。それでも、多分、見間違いではない。
 教室の一番左後ろに座っていたのは、銀髪の少女だった。
 日本人、だよな。銀髪?老けているのだろうか。
 しかし、少女は見た感じ、普通の高校生で、綺麗な顔をしていた。
 銀髪ということを除けば、完全に美少女だ。美少女というより、美女だ。

 ああ、言葉が足りない。とにかく、博が言うところの「目立った女子」である。
 俺の席は一番右前。少女、望月とは一番離れているのに、その存在感は感じられた。
 ただ綺麗というだけじゃない。もっと、何か俺を惹きつけるものがある。

 ふと、自分が望月を見つめているという事実に気がついて、望月から目をそらした。
 俺は変態じゃない、博のように女狂いしているわけじゃない、って女狂いは酷いな。
 とにかく、女子に異常な関心を示してどうするんだよ。

 そう自分に言い聞かせ、女狂い・・・もとい、女性に興味津々の博をちらりと見る。あれ。
 博は望月を全く見ていない。退屈そうに頬杖をついている。
 おかしい、博なら間違いなく声を掛けていそうなんだが。

 出席を取り終わり、担任が連絡事項を淡々と読み上げ始めた。
 当たり前の連絡事項に退屈になって、窓の外を見てみる。桜が散り始めていた。
 そして、もう一度、望月を見てみる。望月の席は窓際にあるから、桜も自然と目に入る。

 散っていく桜と望月の姿は、美しく、儚げだった。


 始業式も終わり、11時くらいに解散になった。
 さっきのことが気にかかる。博の目は節穴になってしまったのか?
 もともと頭が良いやつではなかったが、これはいくらなんでもおかしい。とりあえず、本人に訊くしかない。

「なあ、博」

 博はすでに帰る準備を済ませていた。遊びに行くつもりだろう。

「なんだよ、旻。これから遊びにでも行くか」
「いや、まあ、それは行こうか。それよりも訊いていいか」
「あん、珍しく真剣だな」
「お前、望月を見てなんか思わなかったか」

 博は後ろを振り返り、望月の姿を確認した。

「あ、望月?ああ、いたなぁ」
「いたなぁ、って。お前にしては消極的だな」
「消極的っていうかさ、まあそうなんだけどよ。・・・お前、知らない?」
「何を」

「あいつの噂。俺もかわいい女子はしっかりチェックしてるけどよ」

 そう言って、博は声を落とした。

「あいつの評判は酷いもんだぜ。去年からかなり聞いてはいたけど、関わらないほうがいいかもな」

 博の口から信じられない言葉が出た。
 女子とはとにかく関係を築こうとする博なのに、関わらないほうがいいとは。

「まあ、詳しい話はあとでだ。とりあえず、カラオケにでも行くか。おーい、他に行くやついるかー!」

 そうして博に連れられて、クラスの何人かとカラオケボックスに特攻させられた。
 遊ぶことに関しては、博は労力を惜しまない。それに付き合わされる俺も俺、だけど。




「お前が言ってた望月の話だけどよ」

 カラオケからの帰り、突然博が切り出した。夕焼けに町が赤く染まる時間になっていた。
 クラスの友人と別れ、博と二人だけだ。喉がガラガラだ。帰ったらうがいの必要があるな。
 博と俺の家は、何の因果か、歩いて30メートルほどの距離だった。
 だから朝も帰りもほとんど博と一緒になる。

「まず、見た目から普通じゃないだろ、あの銀髪」
「普通じゃないのはあの銀髪だけだと思うけど」

銀髪、は確かに目立つけれども、それだけが問題じゃないと思う。
そう博に言ったら、うんうんとうなずいた。

「まあ、そうだな。確かにあいつは可愛い。でもな、あいつには何と言うか、近寄りがたい雰囲気があるだろ」
「そうかな。独特ではあるけど、近寄れないのか」
「・・・はあ、お前はとことんお人好しだな」

 博は俺の肩をパンパンと叩いた。同情しているつもりなんだか、馬鹿にしているつもりなんだか。

「あと、何人かの女子が見たっていうんだけどよ、
あいつが鉛筆を落としかけた時、その鉛筆が瞬間移動して机の上に戻ったって話がある」

 いやいや、そんなことはありえないだろう。

「ありえないって顔してるぜ。まあ、俺もありえないとは思うけどな」
「ただの見間違いだろう。それと望月の異常さに何の因果もないだろう」
「男はそういうのを気にしないんだよ。ところが、女子はそうじゃないのさ」

 博が突然カッコつけだす。今までに女子と付き合ったこともないのに、よく言うよ。

「とにかく女の間では怪しけりゃ、すぐにハブだ。特に、望月は前から独りでいることが多かったらしい。
その事件をきっかけに悪い噂が立ってきたってことだ。ああ、女は怖いな」

 その女に積極的に話しかけているお前はなんだ。と言おうとして止めた。

 意外、と言えば意外だったが、わからないでもない、と言えばわからないでもない。
 望月の独特の雰囲気。その存在感。人を寄せ付けない魅力、なのだろうか。

 博が考え込む俺を見る。眼鏡の奥に心配の色がうかがえる。

「お前が何考えてるか知らないが、あいつには関わるなって。これは忠告だぜ」
「ん、ありがたく受け取っておくよ」

 博は本気で俺のことを心配しているのだろう。
 こいつは俺を振り回すくせに、時々本気で俺のことを心配してくれる。
 もしかしたら、そういうところに惹かれて、俺は博といるのかもしれない。
 まったく、その優しさをもうちょっと他の人にも振り向ければいいのに、と思う。

 でも、博からの忠告をそのまま受け入れようとしない俺がそこにいた。


 それからしばらくは何事もない日常が過ぎていった。



「ああ、毎日毎日食堂じゃ、飽きてくるぜ」
「親に弁当作ってくれって頼めばいいじゃないか」
「弁当は冷えるからうまいと思わないんだよ」

 4月も過ぎ、5月の食堂。博と二人でラーメンを食べている。
 高2という生活にも慣れ始め、大体クラスのメンバーの状況もわかってきた。
 普通ならそろそろ退屈になってくる時期だが、俺たちはそんなことを言っていられない。

 運動会が10日にあるのだ。

「そう言えば、うちのクラスのリレーは誰が出るんだ」
「ああ、そんなものあったな。博ははほぼ確実に選ばれるんじゃないのか」
「面倒くせ・・・。別に俺じゃなくてもいいだろ。勝ち負けとか気にしないし」
「今日のホームルームで決まるだろうな。とりあえず、俺はお前を推薦しておく」
「おおい、旻、それは俺に対する嫌がらせなのかよ」
「冗談だよ」

 博は野球部にいて、俊足の一番バッターらしい。
 体力テストでもクラス一、二を争うタイムを出していた。
 こいつが選ばれないということはないだろう。

「じゃ、俺は旻を推薦するからな」
「おおい、博、それは俺に対する嫌がらせなのか」

 博の真似をしてやると、博はニヤニヤと怪しい笑みを浮かべた。
 実は、博とタイムを競っていたのは他でもない、俺だった。
 結果は、俺の勝ち。100分の1秒差だったが。計測ミスじゃないのか、と思う。
 博が地団太踏むほど悔しがっていたのは記憶の中にひっそりとしまってある。

 食べ終わった食器のトレーを片づけに行くとき、博はこう言い残した。

「期待してるぜ、足だけ速いテニス部員の旻さん」

 ホームルームが始まり、予想通り議題はクラス対抗リレーがメインだった。
 200メートルを四人ずつが走り、計800メートルでのリレーだ。
 走者は、女子、男子、女子、男子と交互になっている。運動会の最後のプログラムなので、観客受けは良い。
 しかし、生徒は運動会に積極的ではないので、この議題ではクラスが盛り上がることもない。
 と、思っていたが。

「はい!とりあえずアンカーは旻がいいと思いまーす!」

 いきなりの博の発言。おいおいおいおいおいおいおい。

「なにしろ、このクラスで、一番、足が、速いからです」

 語尾を上げるその口調は明らかに嫌がらせだ。
 博がこっちを見て、「してやったり!」と言わんばかりの顔を見せた。眼鏡が眩しい。
 こいつ、本気で俺にアンカーやらせるつもりか。さっきの笑いはそういうことか。

 だったら、こっちもやってやろうじゃないか。俺は思いっきり立ち上がり、大声を張り上げた。

「わかりました!僕がアンカーやります!」

 おおお、という歓声と拍手。ただ博だけが焦りの表情を見せた。「え?」とでも言いたそうだな。
 そして俺は続けた。

「そうだったら、白銀君が第2走者をやるといいと思います。
なにしろ、彼はこのクラスで二番目に足が速いからです」

 博を見てみると、「してやられたり!」と言わんばかりの顔をしていた。
 理屈は通っているはずだし、博がこうして俺を推薦したということはつまり、「博はやる気があるんだなぁ」とクラスに思わせることであり、常々支配者になりたいと言っていた博のことだ、断れるはずがないだろう。
 転んでもただでは起きない、起きられない。沈黙が漂う中、クラス中の視線が博に集中する。
 さあ、言え!

 観念したように博は叫んだ。

「わかりました!俺もリレーでマス!」

 やった。博の口調が少しおかしいが、とにかく、リレーに出させることには成功だ。
 クラス全員が割れんばかりの拍手を送っている。特に男子。
 そのほとんどが「俺はやらなくてもいいんだ!」という安堵から出たものだろうけど。
 俺に頭脳戦を持ち込んだ時点で、博、お前は勝てない、ということをそろそろ自覚してもいいと思う。

 そうして男子のほうは開始3分であっさり決まった。ところが女子がなかなか決まらない。
 陸上部に所属している朝比奈は本人の希望もあり、すぐに決まったのだが、最後の一人でもめているのだ。
 やはり、グループの確執とか何かあるのだろうか。博が「女はこわいな」と言うのも嘘ではないかもしれない。
 グループになって女子が話し合っている中、どこのグループにも所属していないのが望月だった。
 ただ一人、黙って窓の外を見ていた。

 10分後、一見何も進んでいないように見えていたが、その水面下では大きく流れが動いていたのを察した。
 ついに、ある女子が手を挙げた。

「私は望月さんが出るべきだと思います」

 望月は不意を突かれて驚いていた。当たり前だ。そんな話を聞いていなかったのだから。

 男子が戸惑う一方、女子はみんな納得しているように見えた。もちろん、望月を除いて。
 酷いことをするな。どう考えてもこれは謀略だ。博が俺に仕向けたのとはわけが違う。

「望月さんのタイムはかなり良かったはずです。どうせなら、クラスの総力を集めましょう」

 もっともらしい理屈をつけて、その女子は望月を見た。
 望月はただ黙って、その女子を睨みつける。恐ろしいほどに鋭い視線だ。

 どうするんだ、望月。本人の同意なしでは勝手には決められない。
 でも、もし、今拒否したら、望月は完全にクラスの中で孤立する。

 見てられない。

 俺は椅子から立ち上がった。視線が俺に集中する。

「望月の同意なしで勝手に決めるのは良くないと思うんですけど」

 提案した女子はいきなりの発言に少し戸惑ったようだが、すぐに俺を睨みつけ反論した。

「それを今から聞こうとしているんじゃない。勝手に決めているわけじゃないでしょ」

 それくらいの反論は来ると思ってたよ。
 俺が狙っているのは、どう転んでも望月が不利益をこうむらない形になることだ。

「ああ、ごめんなさい。だったら、望月が拒否すれば誰か、また別の人がやるってことですよね?」

 わかっているとは思うが、敢えて確認させる。

 こうしてはっきり言葉にしておくことで、望月が拒否したとしてもそれが正しいことを皆に確認させる。
 女子はともかく、男子は望月が正しいと思うはずだ。
 それに、誰か別の人がやる、ということでまた女子の間ではひと悶着が起こるはずだ。
 それは互いの不信を生みだし、望月だけがハブられる可能性が減る。

 女子は苦々しげに答えた。

「そう、そうですね」

 さて、これで望月の意見は確実に通る。あとはお前の好きなようにすればいいさ。
 望月は俺を見ている。俺はそっと微笑んで席に着いた。

 望月に視線が集中する。1分ほどの重い沈黙。そして、

「やります」

 望月が出した答えが正しかったのか、俺には知る由もない。
 ただ、望月と俺の視線が合った時、彼女は目をそらさなかった。


「旻、お前、なんてことしやがる!」

 ホームルームが終わり、体育の授業に行く時に廊下で博に捕まった。

「あ、悪いな。だけど、あれはどっちもどっちだろ?お前も俺を推薦したんだから」
「俺が言ってんのはその話じゃねえ!」

 博が怒鳴った。かなり本気で怒っているようだ。

「お前、クラスからハブられたいのか?」

 やはり、さっきのホームルームのことらしい。

「ちゃんと計算してやったんだ。第一、正しいこと言ってるだろ」
「あのなあ、お前の耳はふさがってるのか?望月に関わるなっての!」

 博にかなり本気で迫られた。それでも、俺は正しいことをしたと思う。

「なんだよ、ちょっと肩を持っただけじゃないか。それが大問題か?」

 そう言い捨てて、グラウンドへ向かった。最後に博が言ったのは耳の錯覚だと思った。

「お前、本当に怖くないのかよ」


 10日になり、運動会が始まった。
 一学年6組あり、1年、2年、3年と同じクラスで合計得点を競う。
 つまり、俺たちは1年5組、2年5組、3年5組で仲間となり、他の組と競う。
 競うとは言っても、全く緊張会が無い運動会だけど。

 騎馬戦で博が大活躍をし、俺はというとあっけなく崩された。

「お前、ぜんっぜんパワー無いのな」
「・・・うるさい」

 そうして最後のリレーがやってきた。
 なんて嫌な雰囲気、なんて周囲の期待。これは新手のイジメか。
 フィールドの真ん中に他の選手と突っ立って周りを見回してみる。
 うちの親も来てるだろうな。どうせ後でいろいろ言われるんだ。やっぱりあの時つっぱねとくべきだった。

 さっきまで朝比奈と話していた博が俺に話しかけてきた。

「おい、旻。腹くくれ」
「お前のせいだからな。とりあえず、一位になったらなんかおごってもらうぞ」
「無理無理。周りのやつ見てみ。全員陸上部だからよ」
「なんでうちのクラスには陸上部の男子がいないんだよ」
「諦めろ、これも運命なのさ」

 そんな運命など要らん。っていうか、安っぽい運命だな。
 望月は凛としたいつもの顔だった。

 スタートラインに朝比奈がつく。とりあえず、朝比奈は真面目に走るだろうな。
 そうしたら一位も夢じゃない。博に思いっきり後悔させてやる。

 「よーい・・・・・」

 号砲が鳴った。

 驚いた。朝比奈がぎりぎりではあるが、一位だ。
 他の人も陸上部だというが、これは朝比奈が陸上部トップということか。さすが。
 一位のままでバトンタッチに来るのがベストだ。
 バトンタッチの時に大きく邪魔されないので逃げ切りやすい。

 そんなことを考えていたらもう博にバトンが回ってきた。

「まかせろや、朝比奈。一番バッターの意地見せてやんよ!」

 そんなこと言っている暇があったら走れよ。

 バトントスも成功。博もぎりぎり一位を維持している。
 なんだかんだ言ってあいつも速いのな、と見直しているその時、

「うお!」

 コーナーで博が思いっきり転んだ。地面に体をしたたかに打ちつけ、ゴロゴロと転がった。
 眼鏡が宙に浮き、地面に叩きつけられた。
 思わず、博のほうに走り寄った。その間にも他の選手に抜かれているが、今はそれどころじゃない。
 眼鏡が誰かに踏まれた。

「博!大丈夫か、今起こしてやるから」
「大丈夫だ!」

 博がゆっくりと起き上った。体のあちこちがすりむけてる。

「無理するなよ」
「無理じゃねえ。今、逆転してやるからよ・・・」

 無理だ。もう一番後ろからでも100メートルは離されてる。

 それでも博は走り始めた。それも猛ダッシュで。
 馬鹿野郎、このリレーに本気にならなくてもいいんだよ。

 結局、差は縮められないままに博は望月にバトンを渡した。
 俺がトラックに入る時、博がポツリと漏らした。

「すまねぇ・・・」

 気にするな、そう博に言おうとした瞬間、大きな歓声が沸き起こった。なんだ。振り返る。

 望月だった。


 俺は夢を見ているんじゃないか。


 望月の一歩一歩が力強く、望月を前に進ませる。
 それでも、望月の身体は羽のように軽々と、跳躍する。
 躍動する望月は美しく、そして綺麗だった。白い肌から離れた汗は日光に煌めいた。

 完璧な走り。空を駆けるような走り。見る者全てを魅了する走り。
 時が止まっているかのようだった。


 あっという間に最後尾に追い付いた。どんどん順位を上げていく。
 観客の目は望月だけを見ていた。ペースだけなら一位を完全に上回っていた。

 何を考えていたのだろう、俺は。
 望月が、この勝負のために全力をささげている。それに、博だってボロボロになりながら。
 どうして逃げようとしていたんだ。人の思いを踏みにじることができるか?

 できない。

 だったら、俺が皆の想いにこたえないわけにはいかない、よな。

 望月は先頭にまで迫った。もうすぐバトンタッチだ。俺はスタートを切った。決して後ろを振り返らずに。
 後ろに手を差し出した。その手にしっかりとバトンが渡り。そのバトンを思いっきり握りしめた。

「任せろ。」

 その後のことは実はよく覚えていない。無我夢中で走って、二位のままに終わった、ということ以外は。
 そして、がっくりと崩れ落ちて博に支えられながら教室に戻った、らしい。


「あの時のお前はできすぎだった」と博は言った。
「神がかってたぜ。あの3年ですら勝てない陸上部最速の男と互角だったんだ。もう俺の中では伝説だよ。」

 運動会の日の夜、博は牛丼をおごってくれた。
 牛丼、というのがいかにも博らしくてなんだか笑えてしまった。
 それでも、その優しさが辛くなって、どうしても堪え切れず、泣いた。





 5月27日。博の大嫌いな中間試験も終わったある日のホームルーム。
 早速、理科の試験答案が返ってくるらしい。ぎゃー!と博が悲鳴を上げる。
 そんなに焦るなら勉強すればいいのに、といつも思う。
 しかし、言ってもやらないことがわかっているので言わない。

 俺の試験答案には87の数字。予想通り、というところだ。
 博がガッツポーズしている。何が起きたかは大体予想できる。

「赤点回避だぜ!」

 やっぱりな。

 理科の教師が全ての答案を返し終わった、わけではないらしい。

「おーい、この答案誰のだー。100点取っているのに勿体ないぞー」

 突然教室が騒がしくなる。このテストで100点取れる猛者がいるのか。
 なにしろ、最後の問題は完全に範囲外であり、大学生でもこんなのできるか、というほどの難問。
 多分、相対性理論の話なんだろう、としか推測できない。
 いたずら好きの理科教師のいたずら。本人も「満点は95点だから」と言い切ってしまった。

 すっ、と手が挙がった。望月だ。
 そう言えば、望月だけ答案が帰っていなかった。まさか。

 望月が理科教師のもとへ行く間、教室が沈黙に包まれる。
 望月は黙って教師の手から答案用紙を取って、確認した。
 そして、小さく「すみません」とだけ言って、席に戻った。誰も、何もしゃべらない。
 ただ、望月はその頬を薄い桃色に染めていた。

 そのまま、テストの解説が始まった。でも俺の耳に教師の言葉は入ってこない。
 あんなに走るのも速くて、テストの成績も完璧、それで容姿も完璧。才色兼備だよ。
 それなのに、あんなところでうっかりミスをするなんて、なんだか、可愛らしいじゃないか。
 周りが冷めているのに、俺だけはなんだか微笑ましい気持ちになった。



 6月4日。俺たちは出雲大社にいる。これが学年旅行ってなかなか信じられない。
 場所のチョイスが絶妙、っていうか微妙すぎる。出雲大社って。
 確かに有名だが、なんでこう、地味なところにしてしまうかな。

 それに。
「おい、旻!あのしめ縄見たか?」

 こいつがいると雰囲気ぶち壊しじゃないか。

「あのなあ、ちょっとくらい大人しくするということができないのか」
「あ、俺が大人しい時なんてないぜ」
「授業中を除いてな」

 俺と博は同じ班なのだ。去年も確か同じ班だったはずだ。腐れ縁もいいところにしてくれよ。

「おおお、あそこに巫女さんがいるじゃないか。ちょっと俺、話してくる」
「ああああおい!博!」

 博はそこにいた巫女のほうへ突進していってしまった。ここまで来て女狂・・・ナンパか。

「あいつには困ったもんだな、望月?ま、それがあいつのいいところなんだけどな」
「そうね」

 そして、望月とも同じ班。3人で一つの班だ。
 俺と望月は呆れながら、巫女に話しかけている博のもとへ行く。

「写真撮っていいすか?」

 なんでそこまで話が進んでるんだよ、おい。

 そして、3人と巫女で俺のカメラで写真を撮った。
 記念と言えば記念なので、これは大事にとっておこう。帰ったら印刷しなくちゃな。

「いやー、実にいい女性だな。大人の色気と神社の神秘さのハーモニーってところだ」
「何わけのわからんことを言ってるんだよ。ほんと、恥さらしだ」
「恥さらしとはずいぶん失礼だな!こう見えても女性には優しいんだぜ?」
「だってさ、望月。どう思う?」
「・・・恥さらし?」
「なんだってー!望月までそんなこと言うか!」

 3人でしめ縄の真下に来た。
 このしめ縄にお賽銭を投げてうまく硬貨がさされば願い事が叶うらしい。
 そんなめちゃくちゃなお賽銭ってありかよ。さっきも普通のお賽銭箱があったのに。

「おい、旻、やるか?」
「やらん。お前だけやってみたらどうだ」
「何ビビってんだよ。だったら、俺が一発でやってやるからな」

 博は500円玉を取り出した。ずいぶん思い切った額だな。

「いくぜ?」
「待て待て。お前の願い事はなんだ」
「『彼女ができますように』!」

 ちゃりーん。地面に落ちた。

「どうやらお前には一生彼女ができないらしいな」
「これは何かの間違いだ、間違いない!」

 博がわたわたと小銭を拾い、もう一度投げる。やっぱりささらない。

「さてと、望月、博はほっといて別のところ行こう」
「おおおおい、てめ、俺を恋と友情の板挟みにする気か」
「何あほなこと言ってんだ。集合時間まであんまり時間無いし、早く行くぞ」

 それに、それくらい言わないと見てるだけの望月が可哀そうだろうが。


 同じ班になって俺と望月は多少の会話を交わすようになった。
 望月も話さない、というわけではなく、俺から話題を振ればちゃんと反応してくれる。
 問題なのは博で、望月に一切話しかけようとしないのだ。
 あの時の会話はなんだったんだ。


「望月が同じ班だと?旻、何考えてやがる!」
「何って、これは不可抗力だろうが。くじ引きで決まったんだ」
「そりゃそうだけどよ、いいのかよ、こんなんで」
「問題ないだろ。気にしすぎだ」
「俺は嫌だぜ」
「それでもいい。俺がお前を軽蔑するだけだ」
「何言ってるんだよ」
「望月がどうしようもなく性格が曲がっているやつだったら俺も嫌だ。だけど、リレーの時はどうだった。お前も見てただろうが」
「・・・」
「噂だけだ。望月は悪いやつじゃない。むしろ、いいやつじゃないか」
「・・・前にも忠告したのに、お前ってやつはほんとになあ・・・」
「お人好しで結構。俺は悪くもないやつを切り捨てられないんだよ」
「まあ、俺は望月のこと、嫌いじゃないぜ」
「それが言い訳じゃなければ最高なんだけどな」
「ああ、まあ、仲良くしてやろうか」
「上から目線!」
「おいおい、いつになく厳しいな」



 お土産売り場に来た。

「うへ、こんなにお守りがあってもなあ」
「さっき、お賽銭投げてたやつは誰だっけ。しかも500円」

 色々な種類のお守りがあって見ているだけでも飽きない。
 恋の縁結びに始まり、安全祈願、受験祈願、無病息災、なんでもありそうな勢いだ。

 望月が家内安全のお守りを手に取った。

「美しい鈴・・・」

 ここのお守りは鈴、だそうだ。望月が鈴に魅入られている。
 こうして改めて近くで見てみると、やっぱり望月は可愛い、と思う。
 女の子らしいところもあるし、ミスすることもあるし、望月は普通の人間なんだ。

「これ、下さい」

 望月はその鈴を買った。


「将棋も飽きたな」

 博が布団に大の字で倒れこむ。ついさっき、俺は詰んだ。
 博は将棋がなぜか強い。将棋だけではない。
 頭は悪い、と自分でも認めるくせに、なぜかボードゲームやカードゲームの類は異常に強い。
 遊びに頭を使っているのだろう。それを勉強に振り向けないだけで。

「二人部屋っていうのはつまらないな」
「何言ってんだ、旻。これから俺とお前の語り合いが始まるんだぜ」
「かなり嫌だ。っていうか、お前はどうせ彼女欲しいとか言うんだろ」
「甘いな。今日は俺のことじゃない。お前のことを聞き出してやる!」
「やれるもんならやってみろ!」

 消灯時間の10時を過ぎている。消灯時間が早すぎると思う。
 当然、高校生が消灯時間を守るはずもなく、今もこっそりと部屋から部屋へ移動する人もいる。
 しかし、俺たちの部屋は二人部屋なので狭く、人が来るということはない。
 それに、一番端の部屋という、立地条件まで悪いと。

「まあ、お前に頭脳戦を持ち込んでも勝てないことはわかってるから直球勝負だ」
「なるほど、博にしては頭を使ったな」
「失礼な野郎だな!どうせお前には勝てないんだ、ふん!」

 博が布団から起き上がり、俺に顔を寄せる。近いっつーの!

「じゃ、まあ、訊こうか」

 博は一呼吸置いた。大したことでもなさそうだけど。

「お前、望月が好きなんだな」
「あああええええ!?」

 驚いた。

「ごまかしても無駄だぜ。俺は確信した」
「ちょっと待ってくれ。その推理を聞かせてもらおうか」
「推理っていうか、見てりゃあ誰でもわかる。
 出雲大社でのお前が望月を見る目、あからさまに好きな人をうっとり見ちゃいました!
 って言っているような目だったな」
「マジか、俺、そんな目してたか」
「望月に気づかれてもおかしくないぜ」

 意外だ。心外だ。

「まあ、前々からお前が望月を見ていたのは気付いてたけどよ。今回はわかりやすかった、うん」

 博が一人頷いている。うんうん、お前も男になったな、ってなんだ、そのセリフは。

 何か博は勘違いしているようだ。

「博よ、ちょっと落ち着け餅つけ」
「お前が落ち着け」
「確かに俺が望月を見ていたのは事実だよ。しかし、それと恋とでは少し趣が違うのだ」
「え、違うのか?」
「要するに、俺は望月が可愛いと思うだけであって、恋しているかどうかはまた別問題なんだよ」

 博が疑いの眼差しを向けてくる。
 しかし、これは事実であって、これ以上何か言おうとしても無理だ。
 そもそも、俺が望月を気にしていることに気づいたのも、博に言われたときだ。

「俺もよくわからない。もしかしたら、そうなのかもな」
「おいおい、男ならはっきりさせろ!もてないぜ!」
「もてたくない」
「なんなんだよ、お前は・・・」


 夜12時。そろそろ眠くなってきた。

「っておい、旻。寝るにはちょっと早いぜ」
「いいんだよ、お前はこれからどっか行くのか」
「ああ、まあな。お前は来ないのか?」

 面倒事には巻き込まれたくない。俺は布団をかぶった。

「いいや。何かあったら起こしてくれ」
「ち。まあいいか。旻の寝顔でも撮っておこう」
「おおおいいい!」

 博は部屋から出て行った。

 博に言われたことをもう一度考えてみる。俺は望月のことが気になる程度だ。
 だけど、あんなにはっきりと博に言いきられたら、よくわからなくなってきた。
 よくわからないが、考えてもますます混乱するだけだ。
 好き、なのか?布団にもぐって考えてみてもよくわからない。

 頭の中が渦巻いて、段々とそれが混沌となって、ゆっくりと落ち着き始めた。
 だんだん、意識が遠くなっていくのが感じられた。



 目が覚めたら、そこは病室のベッドだった。
 上も下も右も左も白い壁、床、天井。無機質な世界に閉じ込められている。
 どうしてこんなところにいるのだろう。こんなところにはいたくない。
 なんだかひどく体が疲れていて重い。もう一度、ゆっくり眠りにつきたい。
 再び目を閉じた。

 病室の扉が開く音がする。看護師か、医者が来たのだろう。
 何か用があったら起こしてくれる。それまでは寝ていよう。
 足音はベッドのそばまでやってきた。

 なにも、言わない。突然、左手を握られた。握った手は少し、冷たい。
 ただ、この手に握られているだけで、不思議と気持ちは落ち着いて、安らぎが体を包み込む。
 懐かしい、いつまでもこうしていたかったのに。

 こうしていたかった「のに」?

 目を開けた。手を握っているのは少女だった。銀髪の。

「お母さん」

 その瞬間、頭の中を針が突き抜けるような感触を覚えた。



 突然目が覚めた。夢、を見ていたのか。そこは旅館の布団の中だった。ああ、夢だったのか。
 少し体を動かそうとしたら、違和感があった。何かが体にひっついているらしい。
 なんだろうと横を見ると、

 望月が俺の身体を抱き枕代わりにして寝ていた。


 とりあえず、わけがわからない。何が起きた。すごくおかしいだろう。

 博の陰謀かと考えた。これならありえなくはない。いや、でも、とすぐに否定する。
 博が望月にこんなこと頼めるか?ああ、ないな。ないない。
 いくら寝る前にあんな会話をしたからってそれはない。
 結局、一番妥当な「寝ぼけてこうなってしまった」説に落ち着いた。いや、妥当じゃないが。

 次に、今何時で誰がいるかを見てみた。
 時計を見ると午前1時、俺と望月以外に部屋には誰もいないようだ。
 ああ、良かった。いや、ちっとも良くない。

 さて、他に確認することはなかったか。もう大丈夫か。そして改めて望月を見る。

 ・・・やばい。

 それが正直な感想。やばい、可愛い。望月が無防備な寝顔を俺に見せているのだ。
 顔をじっくり見れば見るほど、望月が愛おしくてたまらなくなった。
 自然に、手が、望月の頭を撫でていた。銀色の髪は指をすり抜けるようにさらさらと流れた。

 小さな鼓動、小さな寝息。ここにいるのは孤独な望月ではなく、無防備な少女だ。
 だから、俺はそれを守りたくなる。こんなにも壊れやすいものを大切にしたくなる。

 罪悪感にちくりと胸が痛む。


―元々、望月は独りでいることが多かったらしいからな―

―関わるな―

―そいつはハブだ―

―お母さん―

 ふと、どこかで聞いたような言葉が浮かんでは消えてゆく。

 気になるんだよ。恋なんかじゃない。

 だけど、どうして、こんなに切ないんだよ。

 どうして、こんなに望月が愛おしいんだよ。

 俺は望月をそっと抱きしめた。

 望月も、少し強く、俺を抱きしめた。

 いつまでもこうしていたかった。

 やっぱり、夢だったのか。




 やっぱり、恋なんだよな。




 窓から日の光が容赦なく顔を照り付ける。そろそろ起きなきゃな。
 起きると、博があられもない姿で布団を蹴っ飛ばした状態でもうそれはカオスなんだなという状態で寝ていた。

「おい、博。そろそろ朝食の時間だ」
「眠いんだよ・・・もうちょい」
「実は朝食3分前」

 がばっと博が起き上がる。

「お前!そういうことは先に言っておくんだよ!」
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ここでの評価は前編についてのみ、ということにさせてください。
コメッド
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