ある紅魔館のメイドに聞いた。
「さぁ。私が仕えた時にはもうあんな感じだったわ」
ある知識と日陰の少女に聞いた。
「初めて会ったときからあんな感じだった」
ある華人小娘に聞いた。
「うーん、私が仕えるようになった時はもうあんな感じでしたよ」
ある悪魔の妹に聞いた。
「昔はとっても優しかったよ。本を読んでくれたこともあったし。でもいつからかあんな感じになってた」
永遠に紅い幼き月はいつから夜の王となったのだろうか。
「あら、咲夜。そのカボチャはどうしたのかしら」
「次の満月にハロウィンという催し物があるらしいのでその準備です。お嬢様」
咲夜の手元をレミリアは見る。そこにあるのは中ぐらいの大きさのカボチャ。
カボチャ、ただのカボチャ。なんの変哲もないカボチャである。
しかしレミリアはそのカボチャに懐かしさを感じた。いや、懐かしさを幻視した。
今は昔、レミリアがレミリア・スカーレットとなり、夜の王となった時の出来事をそのカボチャは思い出させた。
ある幼き吸血鬼は悩んでいた。自分の身の回りのことについて悩んでいた。
もうすぐ父が倒れる。それはもう決定してしまった運命。変えることはできない運命。
新たな世代として自分が生まれた、そして妹も。つまり前の世代、古い世代は淘汰される。望もうと望まざると。
幼き吸血鬼はそれが嫌だった。優しく厳しかった父がいなくなってしまう。血を飲むのが苦手で、飲もうとするたびに零して服を真っ赤にしてしまう自分を笑いながら嗜めていた父がいなくなってしまう。仕方がないやつだ、と優しい目で見てくれていた父がいなくなってしまう。
幼き吸血鬼はそれが嫌で嫌で仕方がなく、またどうしようもなく、そしてこれからどうしていけばいいのか分からなかった。悩んでいた。
大勢いた部下も現当主が倒れると聞いて、残る、館を去る、その時まで分からない等の立場をとった。しかし、幼き吸血鬼にはその者たちにどう対応していいのかが分からない。このことを誰に相談していいのかも分からない。
それに妹のこともある。幼き吸血鬼には妹がいる。凄まじい潜在能力を持ち、それ故に情緒が不安定になってしまった妹がいる。幼き吸血鬼は妹が大好きだ。だが自分が当主、吸血鬼、夜の王となった時にどう接すればいいのか分からない。今までのように姉妹として、姉として接するわけにはいかない。部下の一人は危険因子は排除するべきだとまでいってくる。しかし幼き吸血鬼は妹が大好きである。そんなことを出来るわけがない。だが当主としてそのような判断をしなければいけない運命も視える。
幼き吸血鬼は悩んでいた。自分は次期当主、弱い部分を見せるわけにはいかない。だが自分では答えを見つけられそうにない。
気分転換に夜の森を特に目的もなく歩く。館にいては気も休まらないし、落ち着いて考えられそうな気がしない。
幼き吸血鬼は悩みながら森を行き、不思議な場所に出た。
「あら、ここは」
いつのまにか木々は消え、小さな広場が目の前にある。月の光が照らすその広場の真ん中には何故かカボチャ。
何の変哲もないカボチャ。しかし、違和感のあるカボチャ。
「ちょっと、そこのカボチャ」
声をかけてみる。常識で考えれば、カボチャが言葉を返すはずがない。
「はいはい。どうもこんにちは。私は月光浴をしていますが、貴方は何か御用ですかな」
幼き吸血鬼の直感どおり、そのカボチャは普通ではなかった。流暢に喋ったのである。
幼き吸血鬼と喋るカボチャのおかしな関係が今このときから始まることになった。
「ねぇカボチャ、貴方は一体何なのかしら。喋るカボチャなんて聞いたことがないわ」
「そうですね。強いていうなら成りそこない、できそこないといったところでしょうか。私、このままいけたとしたら吸血鬼になれるのですよ」
カボチャはいった。自分が同属であると。
幼き吸血鬼はその言葉を聞いて、内心の興奮を抑えながらも会話を続ける。
「あら、同属とは珍しいわね。私も吸血鬼よ」
「おぉおぉ、先輩にあたる方とは失礼しました。我が身は未だ途中、動けぬことをお許しください」
「えぇ、許してあげるわ。私の名はレミリア・スカーレット。貴方の名前はなんというのかしら」
「名はありません。そうですね、パンプキンとでもお呼びください」
二人とも同じ吸血鬼。しかし一方はまだまだ幼く、もう一方は成りかけ。
レミリアはこの出会いに感謝した。今の今まで出会ったことの無い同属に出会う。身近にいなかった、ある意味において未熟な自分と同じような存在に出会えた、ただそれだけのことが何故か嬉しく感じられたから。
それからレミリアは毎日カボチャの元を訪れた。カボチャはいつも決まった位置で、いつもの調子でレミリアを迎える。
「パンプキン、調子はどうかしら」
「おやおや。こんばんは、レミリア様。そうですね、歌でも歌えそうなくらい元気ですよ」
「あら、一曲お願いできるかしら。世にも奇妙なカボチャの歌を」
「いやいや、私のようなものの歌など聞いても仕方がないでしょう。ここはレミリア様のような美しい方が歌うべきです。そちらの方が草木や虫も喜びます」
「私の歌を聞くなんて十年早いわ。いいから歌ってみなさい、ただし面白おかしくね」
「なんとハードルを上げなさるとは。それでは暫し時間を頂きたい。私の全力を持って歌を歌いましょう」
「では楽しみにしておきましょうか。私に待てというんだから、それはそれは素晴らしい歌になるだろうし」
「レミリア様は鬼ですな」
「えぇ、私は吸血鬼よ。貴方もね」
「できそこないのパンプキン
王に見惚れて 心を捧ぐ」
「あら、それが例の歌かしら」
「あらら。こういうのは聞かないお約束でしょう、レミリア様」
「そんな約束してないじゃない。だからいいの」
「それもそうですね。それで、今日は何の御用で」
「そうね。ある、そう、ある吸血鬼の話があるのよ。それを聞きなさい」
「分かりました。その吸血鬼のお話を聞きましょう」
レミリアはパンプキンに今の自分の状況を話した。一応ある吸血鬼の話だ、とはいっておいたが分かっているだろう。でも話さずにもいられなかった。パンプキンと出会ってからある程度時間が経っている。つまり残り時間も少ない。レミリアの父が死に、レミリアが当主の座につくまでの時間が。
館の誰にも話せなかった話。そんな話を部外者の、しかもカボチャに話すなんて少し前の自分には考えられなかったが、今の自分はそれをよしと思える、感じている。
だからレミリアはパンプキンに話した。父のこと、部下のこと、最愛の妹のことを。
「その吸血鬼はどうすればいいのかしら」
「そうですね、難しい問題です。なので、考える時間を頂けませんかレミリア様」
「また時間、ね。いいでしょう。その吸血鬼も長い間悩んでいるんだし、そう簡単に答えは出ないでしょうから」
「ありがとうございます。次に会うときまでに私なりの答えを出しておきますよ。なのでその間にレミリア様も考えておいてくださいね」
「ある吸血鬼の話よ」
「これは失礼」
館の自室でレミリアは考える。といっても自分で考えられるところは全て網羅した気もしているが。
一体どうすればいいのか。次にあのパンプキンと会えば答えが出るのか。
自分の能力を発動させてみる。この特に取り上げられるべきでもない、客観的に見ればただの世代交代でしかない運命を視る。
自分が当主となり、妹と溝を作る運命。
当主となった後も妹と同じ関係を築こうとして部下が離れていく運命。
いつのことかは分からないが、力に飲まれた妹が暴走し、人間に討たれる運命まで視えた。
どの運命に向かっているのか分からない。向かえばいいのか分からない。
運命は容易に変化する。今視た運命を選択してもそのとおりになるかどうかは運次第。不確定にしてあやふや。
運命を操る能力などでなければこんなに悩まなかったのかもしれない。運命を操れるからこそ運命に弄ばれる。
「お姉様、起きてる?」
レミリアが今の自分に苦笑していると、部屋の外から妹の声が聞こえた。
「えぇ、起きているわ。どうしたの」
「あのね、爺やが新しい本を買ってきてくれたの。だからお姉様、一緒に見よう?」
新しい玩具や本を手に入れると妹はいつもレミリアのところにやってくる。一番に見せたいといって。
「いいわ、入ってきなさい。一緒に読みましょう」
「わーい。お姉様大好きー」
嬉しそうに扉を開けて入ってくる妹。その姿を見てレミリアは思う。この子に辛い思いをさせたくないと。切に思う。
この子はまだ何も知らないし分かっていない。今何が起きているのか、自分がどうなるのか。
『同じ血を引き、そして力も強い妹様はレミリア様にとって危険です。貴方が当主として最初にすべきことは妹様の処遇を決めることでございます』
父の一番の忠臣の言葉が脳裏に過ぎる。今日のように本を与えたりまたは一緒に遊んだり、常に妹と普通に接していた執事の言葉が。
暗に殺せ、または監禁しろなどとはいってはいない。しかし、どうにかしなければならない問題だ、とレミリアに現実をつきつける。
目の前でベッドに横になり、早く読んでとせがむ妹を見てレミリアは改めて決意する。
この子の為にも自分は決断しなければならない。
そしてこの子の為であるのなら私は、
「できそこないのパンプキン
王を諭して 二人で笑う」
「こんばんは、パンプキン。いい夜ね」
「こんばんは、レミリア様。いい夜ですね」
あの日から少し間を空けた夜。月が優しく広場を照らす。
レミリアは考えた。今まで考えていた全てのことを、再度一から考えた。
父のこと。部下のこと。妹のこと。
そうして自分なりの答えを見出し、今日この場へとやってきた。
「どうです、レミリア様。その吸血鬼さんは答えを出せましたか」
「えぇ、自分なりの答えを出したみたいよ」
レミリアの考えは、自分が当主の座を継がないというものであった。
レミリアはふと考えたのだ。自分ではなく妹が当主になればどうなるのだろうか、と。
確かに妹は危うい。しかしその危うさを自分がカバーをしてやれれば、自分が何とかできれば処分した方がいいなどと部下にいわれることもないだろう。それに館を去る者の中には強き当主に仕えたいという者もいる。今はまだレミリアの方が強いが、暫くすれば妹の方が必ず強くなる。そのことは部下たちも分かっている。ならば妹が当主となればその者たちも館に残ることになるし、元より当主とは強き者が継ぐべきであろう。
そして何より、妹が当主になれば邪魔者扱いも危険因子扱いもされない。いや、させない。
父は何も言わないが妹のことを気にしている。レミリアに妹のことは任せるといってはいるがやはり自分の子、処分やら監禁やらの単語が出るとき、父が静かに拳を握っている姿をレミリアは何度か見ている。
自分が補佐につき、才気ある妹が当主となる。そうすればうまくいくとレミリアは考えた。そうすることで妹と今と変わらぬ関係でいられるという思いもあったが、レミリアはこの案が一番いいものではないかと、パンプキンも賛同してくれるものだと思っていた。
「成程。レミリア様のお考えも分かります。ですが、私は賛同できませんな」
だが、パンプキンは静かにレミリアの案を否定した。
「どうしてかしら。理由を、理由をいいなさい」
「レミリア様。まずお聞きしたいのですが、家・部下・妹のどれが一番大切でしょうか」
「何をいっているのかしら。どれも大切に決まっているわ」
「レミリア様。物事にはそれぞれ優先順位というものがあります。それは人それぞれ違ってくるので一概にはいえませんが、この場合のレミリア様にとって一番優先順位が高いのはどれなのでしょうか」
パンプキンは静かに語る。
「今のレミリア様の意見、大変結構だと私は思います。しかし、全てを得るというその考えは如何なものでしょうか。選択とは、必ず何かを得、また失います。レミリア様の案は選択をしていません。それは目の前にあった、折衷案とも呼べる安直なものだと私は思います」
「ならばどうしろというの。他にどんな答えが」
「選ぶことです。選んだ先に答えがあります、さぁ、どれを選ぶのですか」
考える。レミリアは考える。
父が頼むといった家、多くの部下、そして妹。
この中で一つ。たった一つを選ばなくてはならないとすれば、どれを選ぶか。
レミリアは答えを出す。
「……部下にも父にも悪く思うけど、その中なら私は妹を選ぶわ。最愛の妹を選ぶ。あぁ、笑いたければ笑っていいわよ」
「いいえ笑いません。よくぞ選択してくださいました。ならばその妹様のことを第一に考えるべきでございます」
「なら、やはり妹が当主になるべきじゃない」
「それは違いますレミリア様。妹様のことを考えるのならば、尚更レミリア様は当主となるべきなのです」
「それは何故」
「レミリア様は妹様の壁となるべきです。それは部下の方々から守る壁ではございません。外敵から守る壁でもございません。父が子の壁になるようにレミリア様が妹様の壁となり立ちはだかるべきなのです」
パンプキンは懸命に訴えかける。
「今ここで妹様を当主にして補佐をしていけば、確かにうまくいくかもしれません。しかし、妹様は未熟なままということになります。いくらレミリア様の補佐があろうと本人が未熟であればいつか綻びが生じます。何か起きた時、未来にて襲い掛かってくるだろう危機に、レミリア様は妹様を未熟なまま向かわせるというのですか」
「だったら、どうしろっていうの」
「当主になるのですレミリア様。そして、その全ての力を持って妹様の成長を促すべきでしょう」
「でも妹は不安定な存在。それを育てるとすれば部下たちにどれだけの苦労を」
「レミリア様。先程貴方はいいました、部下よりも妹様の方が大切だといいました。選択したのです。失ったものを見ることは構いません。しかし悔やんではいけない。王は常に民のために。ならばレミリア様は常に妹様のために」
月光の元、喋るカボチャは幼き吸血鬼にただ語る。
「館内で無理だというのなら、部下の方がいったようにどこかに監禁してでもゆっくりと成長を促すべきです。そのようなことをすればレミリア様は妹様に嫌われるでしょう。もしかしたらいつか妹様に討たれることになるかもしれません。しかし、そのレミリア様を討った妹様は未熟な存在でしょうか。いいえ、違います。レミリア・スカーレットという吸血鬼、夜の王を倒した者が未熟なはずがない。その妹様は、やはり吸血鬼であり夜の王となっているでしょう」
「もし私を討った妹が未熟なままだったらどうするっていうの。パンプキン」
「馬鹿なことをおっしゃらないで下さい。レミリア様が力だけの未熟者に後れを取るはずがありません」
レミリアは笑った。腹のそこから、大声を上げて笑った。
その声は大きく、まるで月まで届くのではないかと思うほど。
紅く光る月に向かって、レミリアは笑いこういった。
「いいだろう。なろう、なってやろう。妹だけの王に。他の全てを投げ打って、妹のためだけの夜の王になろう。鬼といわれても、悪魔と蔑まれても。ただただ妹のために夜の王となろう」
月光に照らされながら、吸血鬼は幼さを捨てた。
レミリアはレミリア・スカーレットとなり、赤い悪魔となり、夜の王となった。
レミリアはまたパンプキンの元へと足を運んだ。
「パンプキン。歌の方はまだかしら」
「こんばんは。三番まではできたのですが、どうもこれ以上は」
パンプキンが弱弱しい声で答える。違和感。
少し違う。今まで感じていた違和感が薄くなってきている。
「どうしたの、パンプキン。調子が悪そうに見えるけど」
「あら。やはり分かりますか。そうですね、簡潔にいえば私はもうすぐ消えます」
パンプキンは溜息混じりにそう答える。
レミリアは驚いた。何故消えるのか。パンプキンは自分と同じ吸血鬼ではなかったのか。血を吸う不死の鬼になるのではなったのか。
「どうして」
「まぁなんでしょうか。これも運命というものですよ」
運命を視る。幾つか枝分かれた運命、その全ての結末がパンプキンの死。また変えられない運命。
「何故、どうして。貴方は同属でしょう。私と同じ吸血鬼ではなかったの」
「何故か、ですか。まぁ理由は分かっているのですがね」
「いいなさい。貴方は何が原因で死ぬのか」
「あなたの所為ですよ。レミリア・スカーレット」
パンプキンはあの時のように、あの夜のように、静かな声で答える。
「私のような、別の存在になりかけているようなものに、貴方のような強い影響力のある存在が近づけばどうなるか分かりますよね。つまり、貴方がここに来た。いえ、貴方が私を見つけた瞬間に私の死は決定していたのですよ」
「そんな」
「そんなもこんなもありません。貴方が私を殺すのです。私という個を消すのです。ただそれだけの話ですよ」
そしてパンプキンは声高々に、歌うように続ける。
「今、貴方は私と出会わなければ良かった、なんて思っていますか。思っていないでしょう。それはそうです、だって貴方が望んだのですから。自分の悩みを打ち明けられる存在を望んだのですから。意識か無意識か、貴方は操った。運命を操った。自分のために運命を操って、そして私の運命を破壊したのですよ。レミリア・スカーレット」
パンプキンは捲くし立てる。今までのような冷静な声でなく、激しい感情の篭った声で。
「どうでしたか、私はお役に立てましたか。貴方を助けるために私は死にます。私は消えます。良かったですね、悩みが解決して。その為に一つの個を破壊して。よかった、これはよかった。めでたい。めでたいことだ。レミリア・スカーレットの悩みを解決するために私は運命を破壊された。それで解決していないなんて笑えない。許せない。しかし、よかった。解決できたようで、よかったよかった」
そして最後に、
「貴方は自分のために私を殺すのです。この鬼、悪魔」
そういってカボチャは動かなくなった。
レミリアはもう動かないカボチャに触れる。
するとカボチャはすぐに崩れた。中身はからっぽ。
まるで、誰かに食べられたかのように、中身がない。
そんなカボチャを見ながらレミリアは笑った。
そして言った。
「だって、私は夜の王だもの」
「お嬢様。どうかしましたか」
咲夜の声で意識が戻る。目の前には自分に仕える完全で瀟洒なメイド。
どうやらかなり懐かしいものを見たようだ、とレミリアは苦笑する。
その姿に首をかしげる咲夜を見ながらレミリアは新たに出来た用事を伝える。
「咲夜。どれでもいいわ、カボチャを一つ。あと一番いいワインを部屋に運んでおいて頂戴」
「カボチャを、ですか。分かりました、すぐにお持ちします」
「あぁ、暫くは誰も部屋に入れないようにね」
「かしこまりました。お嬢様」
できそこないのパンプキン
王に見惚れて 心を捧ぐ
できそこないのパンプキン
王を諭して 二人で笑う
レミリアはカボチャを見ながら考える。あの月夜にあった出会いと別れを。
あの後父が死んで色々なことが起きた。部下が去り、人間と戦い、また新たな従者や友人を迎え、そして妹との衝突。
今となってはいい思い出である。ワインを傾けながらレミリアはそう思う。
フランは今日も美鈴と一緒に外で遊びまわっていたそうだ。以前のような不安定さは毛ほども見せない。
「なんだか、貴方のいった通りね。パンプキン。なんだか悔しいわ」
全てでは勿論ないが、あのカボチャと出会ったからこそ今の自分があるとレミリアは思う。
カボチャから吸血鬼が生まれる。これは案外本当なのかもしれない。
「そういえば、三番まであるっていってたのに聞きそびれてしまったわね。一体どんな歌だったのかしら、ねぇパンプキン」
できそこないのパンプキン
王に見惚れて 心を捧ぐ
できそこないのパンプキン
王を諭して 二人で笑う
できそこないのパンプキン
王に託して ただただ眠る――――
「さぁ。私が仕えた時にはもうあんな感じだったわ」
ある知識と日陰の少女に聞いた。
「初めて会ったときからあんな感じだった」
ある華人小娘に聞いた。
「うーん、私が仕えるようになった時はもうあんな感じでしたよ」
ある悪魔の妹に聞いた。
「昔はとっても優しかったよ。本を読んでくれたこともあったし。でもいつからかあんな感じになってた」
永遠に紅い幼き月はいつから夜の王となったのだろうか。
「あら、咲夜。そのカボチャはどうしたのかしら」
「次の満月にハロウィンという催し物があるらしいのでその準備です。お嬢様」
咲夜の手元をレミリアは見る。そこにあるのは中ぐらいの大きさのカボチャ。
カボチャ、ただのカボチャ。なんの変哲もないカボチャである。
しかしレミリアはそのカボチャに懐かしさを感じた。いや、懐かしさを幻視した。
今は昔、レミリアがレミリア・スカーレットとなり、夜の王となった時の出来事をそのカボチャは思い出させた。
ある幼き吸血鬼は悩んでいた。自分の身の回りのことについて悩んでいた。
もうすぐ父が倒れる。それはもう決定してしまった運命。変えることはできない運命。
新たな世代として自分が生まれた、そして妹も。つまり前の世代、古い世代は淘汰される。望もうと望まざると。
幼き吸血鬼はそれが嫌だった。優しく厳しかった父がいなくなってしまう。血を飲むのが苦手で、飲もうとするたびに零して服を真っ赤にしてしまう自分を笑いながら嗜めていた父がいなくなってしまう。仕方がないやつだ、と優しい目で見てくれていた父がいなくなってしまう。
幼き吸血鬼はそれが嫌で嫌で仕方がなく、またどうしようもなく、そしてこれからどうしていけばいいのか分からなかった。悩んでいた。
大勢いた部下も現当主が倒れると聞いて、残る、館を去る、その時まで分からない等の立場をとった。しかし、幼き吸血鬼にはその者たちにどう対応していいのかが分からない。このことを誰に相談していいのかも分からない。
それに妹のこともある。幼き吸血鬼には妹がいる。凄まじい潜在能力を持ち、それ故に情緒が不安定になってしまった妹がいる。幼き吸血鬼は妹が大好きだ。だが自分が当主、吸血鬼、夜の王となった時にどう接すればいいのか分からない。今までのように姉妹として、姉として接するわけにはいかない。部下の一人は危険因子は排除するべきだとまでいってくる。しかし幼き吸血鬼は妹が大好きである。そんなことを出来るわけがない。だが当主としてそのような判断をしなければいけない運命も視える。
幼き吸血鬼は悩んでいた。自分は次期当主、弱い部分を見せるわけにはいかない。だが自分では答えを見つけられそうにない。
気分転換に夜の森を特に目的もなく歩く。館にいては気も休まらないし、落ち着いて考えられそうな気がしない。
幼き吸血鬼は悩みながら森を行き、不思議な場所に出た。
「あら、ここは」
いつのまにか木々は消え、小さな広場が目の前にある。月の光が照らすその広場の真ん中には何故かカボチャ。
何の変哲もないカボチャ。しかし、違和感のあるカボチャ。
「ちょっと、そこのカボチャ」
声をかけてみる。常識で考えれば、カボチャが言葉を返すはずがない。
「はいはい。どうもこんにちは。私は月光浴をしていますが、貴方は何か御用ですかな」
幼き吸血鬼の直感どおり、そのカボチャは普通ではなかった。流暢に喋ったのである。
幼き吸血鬼と喋るカボチャのおかしな関係が今このときから始まることになった。
「ねぇカボチャ、貴方は一体何なのかしら。喋るカボチャなんて聞いたことがないわ」
「そうですね。強いていうなら成りそこない、できそこないといったところでしょうか。私、このままいけたとしたら吸血鬼になれるのですよ」
カボチャはいった。自分が同属であると。
幼き吸血鬼はその言葉を聞いて、内心の興奮を抑えながらも会話を続ける。
「あら、同属とは珍しいわね。私も吸血鬼よ」
「おぉおぉ、先輩にあたる方とは失礼しました。我が身は未だ途中、動けぬことをお許しください」
「えぇ、許してあげるわ。私の名はレミリア・スカーレット。貴方の名前はなんというのかしら」
「名はありません。そうですね、パンプキンとでもお呼びください」
二人とも同じ吸血鬼。しかし一方はまだまだ幼く、もう一方は成りかけ。
レミリアはこの出会いに感謝した。今の今まで出会ったことの無い同属に出会う。身近にいなかった、ある意味において未熟な自分と同じような存在に出会えた、ただそれだけのことが何故か嬉しく感じられたから。
それからレミリアは毎日カボチャの元を訪れた。カボチャはいつも決まった位置で、いつもの調子でレミリアを迎える。
「パンプキン、調子はどうかしら」
「おやおや。こんばんは、レミリア様。そうですね、歌でも歌えそうなくらい元気ですよ」
「あら、一曲お願いできるかしら。世にも奇妙なカボチャの歌を」
「いやいや、私のようなものの歌など聞いても仕方がないでしょう。ここはレミリア様のような美しい方が歌うべきです。そちらの方が草木や虫も喜びます」
「私の歌を聞くなんて十年早いわ。いいから歌ってみなさい、ただし面白おかしくね」
「なんとハードルを上げなさるとは。それでは暫し時間を頂きたい。私の全力を持って歌を歌いましょう」
「では楽しみにしておきましょうか。私に待てというんだから、それはそれは素晴らしい歌になるだろうし」
「レミリア様は鬼ですな」
「えぇ、私は吸血鬼よ。貴方もね」
「できそこないのパンプキン
王に見惚れて 心を捧ぐ」
「あら、それが例の歌かしら」
「あらら。こういうのは聞かないお約束でしょう、レミリア様」
「そんな約束してないじゃない。だからいいの」
「それもそうですね。それで、今日は何の御用で」
「そうね。ある、そう、ある吸血鬼の話があるのよ。それを聞きなさい」
「分かりました。その吸血鬼のお話を聞きましょう」
レミリアはパンプキンに今の自分の状況を話した。一応ある吸血鬼の話だ、とはいっておいたが分かっているだろう。でも話さずにもいられなかった。パンプキンと出会ってからある程度時間が経っている。つまり残り時間も少ない。レミリアの父が死に、レミリアが当主の座につくまでの時間が。
館の誰にも話せなかった話。そんな話を部外者の、しかもカボチャに話すなんて少し前の自分には考えられなかったが、今の自分はそれをよしと思える、感じている。
だからレミリアはパンプキンに話した。父のこと、部下のこと、最愛の妹のことを。
「その吸血鬼はどうすればいいのかしら」
「そうですね、難しい問題です。なので、考える時間を頂けませんかレミリア様」
「また時間、ね。いいでしょう。その吸血鬼も長い間悩んでいるんだし、そう簡単に答えは出ないでしょうから」
「ありがとうございます。次に会うときまでに私なりの答えを出しておきますよ。なのでその間にレミリア様も考えておいてくださいね」
「ある吸血鬼の話よ」
「これは失礼」
館の自室でレミリアは考える。といっても自分で考えられるところは全て網羅した気もしているが。
一体どうすればいいのか。次にあのパンプキンと会えば答えが出るのか。
自分の能力を発動させてみる。この特に取り上げられるべきでもない、客観的に見ればただの世代交代でしかない運命を視る。
自分が当主となり、妹と溝を作る運命。
当主となった後も妹と同じ関係を築こうとして部下が離れていく運命。
いつのことかは分からないが、力に飲まれた妹が暴走し、人間に討たれる運命まで視えた。
どの運命に向かっているのか分からない。向かえばいいのか分からない。
運命は容易に変化する。今視た運命を選択してもそのとおりになるかどうかは運次第。不確定にしてあやふや。
運命を操る能力などでなければこんなに悩まなかったのかもしれない。運命を操れるからこそ運命に弄ばれる。
「お姉様、起きてる?」
レミリアが今の自分に苦笑していると、部屋の外から妹の声が聞こえた。
「えぇ、起きているわ。どうしたの」
「あのね、爺やが新しい本を買ってきてくれたの。だからお姉様、一緒に見よう?」
新しい玩具や本を手に入れると妹はいつもレミリアのところにやってくる。一番に見せたいといって。
「いいわ、入ってきなさい。一緒に読みましょう」
「わーい。お姉様大好きー」
嬉しそうに扉を開けて入ってくる妹。その姿を見てレミリアは思う。この子に辛い思いをさせたくないと。切に思う。
この子はまだ何も知らないし分かっていない。今何が起きているのか、自分がどうなるのか。
『同じ血を引き、そして力も強い妹様はレミリア様にとって危険です。貴方が当主として最初にすべきことは妹様の処遇を決めることでございます』
父の一番の忠臣の言葉が脳裏に過ぎる。今日のように本を与えたりまたは一緒に遊んだり、常に妹と普通に接していた執事の言葉が。
暗に殺せ、または監禁しろなどとはいってはいない。しかし、どうにかしなければならない問題だ、とレミリアに現実をつきつける。
目の前でベッドに横になり、早く読んでとせがむ妹を見てレミリアは改めて決意する。
この子の為にも自分は決断しなければならない。
そしてこの子の為であるのなら私は、
「できそこないのパンプキン
王を諭して 二人で笑う」
「こんばんは、パンプキン。いい夜ね」
「こんばんは、レミリア様。いい夜ですね」
あの日から少し間を空けた夜。月が優しく広場を照らす。
レミリアは考えた。今まで考えていた全てのことを、再度一から考えた。
父のこと。部下のこと。妹のこと。
そうして自分なりの答えを見出し、今日この場へとやってきた。
「どうです、レミリア様。その吸血鬼さんは答えを出せましたか」
「えぇ、自分なりの答えを出したみたいよ」
レミリアの考えは、自分が当主の座を継がないというものであった。
レミリアはふと考えたのだ。自分ではなく妹が当主になればどうなるのだろうか、と。
確かに妹は危うい。しかしその危うさを自分がカバーをしてやれれば、自分が何とかできれば処分した方がいいなどと部下にいわれることもないだろう。それに館を去る者の中には強き当主に仕えたいという者もいる。今はまだレミリアの方が強いが、暫くすれば妹の方が必ず強くなる。そのことは部下たちも分かっている。ならば妹が当主となればその者たちも館に残ることになるし、元より当主とは強き者が継ぐべきであろう。
そして何より、妹が当主になれば邪魔者扱いも危険因子扱いもされない。いや、させない。
父は何も言わないが妹のことを気にしている。レミリアに妹のことは任せるといってはいるがやはり自分の子、処分やら監禁やらの単語が出るとき、父が静かに拳を握っている姿をレミリアは何度か見ている。
自分が補佐につき、才気ある妹が当主となる。そうすればうまくいくとレミリアは考えた。そうすることで妹と今と変わらぬ関係でいられるという思いもあったが、レミリアはこの案が一番いいものではないかと、パンプキンも賛同してくれるものだと思っていた。
「成程。レミリア様のお考えも分かります。ですが、私は賛同できませんな」
だが、パンプキンは静かにレミリアの案を否定した。
「どうしてかしら。理由を、理由をいいなさい」
「レミリア様。まずお聞きしたいのですが、家・部下・妹のどれが一番大切でしょうか」
「何をいっているのかしら。どれも大切に決まっているわ」
「レミリア様。物事にはそれぞれ優先順位というものがあります。それは人それぞれ違ってくるので一概にはいえませんが、この場合のレミリア様にとって一番優先順位が高いのはどれなのでしょうか」
パンプキンは静かに語る。
「今のレミリア様の意見、大変結構だと私は思います。しかし、全てを得るというその考えは如何なものでしょうか。選択とは、必ず何かを得、また失います。レミリア様の案は選択をしていません。それは目の前にあった、折衷案とも呼べる安直なものだと私は思います」
「ならばどうしろというの。他にどんな答えが」
「選ぶことです。選んだ先に答えがあります、さぁ、どれを選ぶのですか」
考える。レミリアは考える。
父が頼むといった家、多くの部下、そして妹。
この中で一つ。たった一つを選ばなくてはならないとすれば、どれを選ぶか。
レミリアは答えを出す。
「……部下にも父にも悪く思うけど、その中なら私は妹を選ぶわ。最愛の妹を選ぶ。あぁ、笑いたければ笑っていいわよ」
「いいえ笑いません。よくぞ選択してくださいました。ならばその妹様のことを第一に考えるべきでございます」
「なら、やはり妹が当主になるべきじゃない」
「それは違いますレミリア様。妹様のことを考えるのならば、尚更レミリア様は当主となるべきなのです」
「それは何故」
「レミリア様は妹様の壁となるべきです。それは部下の方々から守る壁ではございません。外敵から守る壁でもございません。父が子の壁になるようにレミリア様が妹様の壁となり立ちはだかるべきなのです」
パンプキンは懸命に訴えかける。
「今ここで妹様を当主にして補佐をしていけば、確かにうまくいくかもしれません。しかし、妹様は未熟なままということになります。いくらレミリア様の補佐があろうと本人が未熟であればいつか綻びが生じます。何か起きた時、未来にて襲い掛かってくるだろう危機に、レミリア様は妹様を未熟なまま向かわせるというのですか」
「だったら、どうしろっていうの」
「当主になるのですレミリア様。そして、その全ての力を持って妹様の成長を促すべきでしょう」
「でも妹は不安定な存在。それを育てるとすれば部下たちにどれだけの苦労を」
「レミリア様。先程貴方はいいました、部下よりも妹様の方が大切だといいました。選択したのです。失ったものを見ることは構いません。しかし悔やんではいけない。王は常に民のために。ならばレミリア様は常に妹様のために」
月光の元、喋るカボチャは幼き吸血鬼にただ語る。
「館内で無理だというのなら、部下の方がいったようにどこかに監禁してでもゆっくりと成長を促すべきです。そのようなことをすればレミリア様は妹様に嫌われるでしょう。もしかしたらいつか妹様に討たれることになるかもしれません。しかし、そのレミリア様を討った妹様は未熟な存在でしょうか。いいえ、違います。レミリア・スカーレットという吸血鬼、夜の王を倒した者が未熟なはずがない。その妹様は、やはり吸血鬼であり夜の王となっているでしょう」
「もし私を討った妹が未熟なままだったらどうするっていうの。パンプキン」
「馬鹿なことをおっしゃらないで下さい。レミリア様が力だけの未熟者に後れを取るはずがありません」
レミリアは笑った。腹のそこから、大声を上げて笑った。
その声は大きく、まるで月まで届くのではないかと思うほど。
紅く光る月に向かって、レミリアは笑いこういった。
「いいだろう。なろう、なってやろう。妹だけの王に。他の全てを投げ打って、妹のためだけの夜の王になろう。鬼といわれても、悪魔と蔑まれても。ただただ妹のために夜の王となろう」
月光に照らされながら、吸血鬼は幼さを捨てた。
レミリアはレミリア・スカーレットとなり、赤い悪魔となり、夜の王となった。
レミリアはまたパンプキンの元へと足を運んだ。
「パンプキン。歌の方はまだかしら」
「こんばんは。三番まではできたのですが、どうもこれ以上は」
パンプキンが弱弱しい声で答える。違和感。
少し違う。今まで感じていた違和感が薄くなってきている。
「どうしたの、パンプキン。調子が悪そうに見えるけど」
「あら。やはり分かりますか。そうですね、簡潔にいえば私はもうすぐ消えます」
パンプキンは溜息混じりにそう答える。
レミリアは驚いた。何故消えるのか。パンプキンは自分と同じ吸血鬼ではなかったのか。血を吸う不死の鬼になるのではなったのか。
「どうして」
「まぁなんでしょうか。これも運命というものですよ」
運命を視る。幾つか枝分かれた運命、その全ての結末がパンプキンの死。また変えられない運命。
「何故、どうして。貴方は同属でしょう。私と同じ吸血鬼ではなかったの」
「何故か、ですか。まぁ理由は分かっているのですがね」
「いいなさい。貴方は何が原因で死ぬのか」
「あなたの所為ですよ。レミリア・スカーレット」
パンプキンはあの時のように、あの夜のように、静かな声で答える。
「私のような、別の存在になりかけているようなものに、貴方のような強い影響力のある存在が近づけばどうなるか分かりますよね。つまり、貴方がここに来た。いえ、貴方が私を見つけた瞬間に私の死は決定していたのですよ」
「そんな」
「そんなもこんなもありません。貴方が私を殺すのです。私という個を消すのです。ただそれだけの話ですよ」
そしてパンプキンは声高々に、歌うように続ける。
「今、貴方は私と出会わなければ良かった、なんて思っていますか。思っていないでしょう。それはそうです、だって貴方が望んだのですから。自分の悩みを打ち明けられる存在を望んだのですから。意識か無意識か、貴方は操った。運命を操った。自分のために運命を操って、そして私の運命を破壊したのですよ。レミリア・スカーレット」
パンプキンは捲くし立てる。今までのような冷静な声でなく、激しい感情の篭った声で。
「どうでしたか、私はお役に立てましたか。貴方を助けるために私は死にます。私は消えます。良かったですね、悩みが解決して。その為に一つの個を破壊して。よかった、これはよかった。めでたい。めでたいことだ。レミリア・スカーレットの悩みを解決するために私は運命を破壊された。それで解決していないなんて笑えない。許せない。しかし、よかった。解決できたようで、よかったよかった」
そして最後に、
「貴方は自分のために私を殺すのです。この鬼、悪魔」
そういってカボチャは動かなくなった。
レミリアはもう動かないカボチャに触れる。
するとカボチャはすぐに崩れた。中身はからっぽ。
まるで、誰かに食べられたかのように、中身がない。
そんなカボチャを見ながらレミリアは笑った。
そして言った。
「だって、私は夜の王だもの」
「お嬢様。どうかしましたか」
咲夜の声で意識が戻る。目の前には自分に仕える完全で瀟洒なメイド。
どうやらかなり懐かしいものを見たようだ、とレミリアは苦笑する。
その姿に首をかしげる咲夜を見ながらレミリアは新たに出来た用事を伝える。
「咲夜。どれでもいいわ、カボチャを一つ。あと一番いいワインを部屋に運んでおいて頂戴」
「カボチャを、ですか。分かりました、すぐにお持ちします」
「あぁ、暫くは誰も部屋に入れないようにね」
「かしこまりました。お嬢様」
できそこないのパンプキン
王に見惚れて 心を捧ぐ
できそこないのパンプキン
王を諭して 二人で笑う
レミリアはカボチャを見ながら考える。あの月夜にあった出会いと別れを。
あの後父が死んで色々なことが起きた。部下が去り、人間と戦い、また新たな従者や友人を迎え、そして妹との衝突。
今となってはいい思い出である。ワインを傾けながらレミリアはそう思う。
フランは今日も美鈴と一緒に外で遊びまわっていたそうだ。以前のような不安定さは毛ほども見せない。
「なんだか、貴方のいった通りね。パンプキン。なんだか悔しいわ」
全てでは勿論ないが、あのカボチャと出会ったからこそ今の自分があるとレミリアは思う。
カボチャから吸血鬼が生まれる。これは案外本当なのかもしれない。
「そういえば、三番まであるっていってたのに聞きそびれてしまったわね。一体どんな歌だったのかしら、ねぇパンプキン」
できそこないのパンプキン
王に見惚れて 心を捧ぐ
できそこないのパンプキン
王を諭して 二人で笑う
できそこないのパンプキン
王に託して ただただ眠る――――
良いなあ
そう思いました。
ギャグだと思ったのにこのセンス。素晴らしい
レミリアの覚悟が成った瞬間と、カボチャの運命に殉じた誇り高さに感動を覚えました
文句なく100点です
調べてみたら、カボチャの妖怪
ジャック・オ・ランタンは旅人の道案内などもするそうです。
そういった所までも考えていたのだとしたら、脱帽です。
「鬼、悪魔」という最後のセリフにはビリビリ痺れました。
文句無しに100点を入れさせて頂きます。
夜の王だもの、と呟くお嬢様がまた切ない。
歌の三番が読後感をなんともさわやかに。ああ、よかった。
とにもかくにも素晴らしいと言わざるを得ない作品だと思えます。お見事です。
このお話の何ともいえない良い雰囲気を作っていますね。
パンプキンが成長したらどうなっていたか、実は生まれ変わってお嬢様と会っていたら?
色々と想像するのも楽しいです
タイトルを見たときはクエスチョンマークが浮かびましたが、
パンプキンがいたからこそ悩んでいたレミリアが「レミリア・スカーレット」になれたということを理解した瞬間みすちー肌。
歌も綺麗に終わり、全体を通してとてもよかったです。
心が動きましたね、このパンプキンには。
読了感がとっても良いので、上手いなぁ、と。
かっこいいレミリア様も良い感じ~♪
久々に感想書こうって気にさせてもらいました。
うまく言えないけど、大好きです、この話。
こう、お嬢様やパンプキンの言葉に惹かれてドンドン読んでしまって…極めつけはパンプキンの最後の言葉。
…読み終わった後もみすちー肌がまだ収まんないです。
ハロウィンとカボチャの伝承からこの物語をつくるセンスに脱帽です。
パンプキンの台詞と最後。良かったです。
ごく短い間ながら「夜の王」に仕えた賢者の遺言として、これ以上のものはきっとないでしょう
そんな名言を思いついた作者様のセンスレベルに脱帽
個人的な意見として、これほどのかぼちゃ賢人ならもう少し比喩や暗喩を駆使して、私のような凡人には解りづらく、しかしその道を示すような語りでレミリアを諭していただきたかった!
っとまぁこんな身勝手な感想を持ってしまうくらいこの作品に惹かれました。
このかぼちゃは、レミリア個人に最初に仕えた存在なのかもしれません。
鬼、悪魔。その通り。
願わくば、このかぼちゃがレミリアの中に残した運命の選択が多幸の光に溢れん事を。
ギャグかと思いきやシリアスで、驚きましたがとても面白かった。
「貴方は自分のために私を殺すのです。この鬼、悪魔」
びりびりきました。
「だって、私は夜の王だもの」
この返しもいいと思うんだ
文句無しに100点です。
思わず溜息が漏れました。
実にいい
てかタイトルでギャグだと思って読んだからカウンターで読了完5割増でしたわ
それでも100点だけどさ
こんなカボチャに出会ったら、そりゃ夜の王になりますとも。カリスマバリバリですとも。
パンプキンの最期の台詞は、レミリアの意志を後押しする為だったのかな。