※本文章は「彼の想い」の続編に当たります……が、別物、かなぁ……。
「友達」とは別れない「恋人」のようなものだ、なんて誰かが言ってた。
付き合うこともないから、別れることも出来ない。そんな永遠。
これが恋なんだろうか。私は考える。
こんな「好き。」はどうにもこうにも初めてで、戸惑ってしまいます、私。
でも、こんな「好き。」は後にも先にも二度と来ない、そんな気がするんです。
「……でも、気持ち悪い、よね……」
きっかけなんてものは、よくわからない。
アイツとはよく一緒にいて、たまに異変なんか解決したりして、それも
「面白そうだったから」とか、「お賽銭」とか、そんな理由だったし。
こんな若さで思い出なんてどうしようもないけど、思い返せば、良い思い出も嫌な思い出も
色々あった。印象深い思い出を挙げてみれば、嫌な思い出のほうが順位を占めるけど、それは
別に嫌じゃなくて。自分で作ってみた順番も、結局のところ何の意味もないんだろうな、と
思ったりする。
あいつに「あの時のこと、覚えてる?」なんて聞けば、「心当たりが有り過ぎて
どれだったかわからないぜ」みたいな言葉が返ってきて、いつかの思い出に渋い顔を
したり、苦笑いしたりすると思う。そんな友達。
そんな友達が、好きなんです。そう、なってました。
女同士というのは、どうなのだろう。周りの人は、そんなことを許してくれない気がする。
女同士で、体を触りあって?誰かが見たら、あっという間に皆の間に広がって、
その輪っかからはじき出されそうな気がする。
だって、私が自分を「気持ち悪い」て思っているのだ。実のところ、考える必要さえない。
ヘンなのよ、私。
紫は、魔理沙は男になりたいんじゃないか、なんて言ってた。
もしそうなら、私にはその気持ちがよくわからない。
女に生まれて不便だなんて今のところ考えなかったし、力だってその辺の妖怪より
いくらでも強い。私が女というものをよくわかっていないからかもしれないけど。
でも、魔理沙は女に違いなくて、男なんかじゃない。
魔理沙がホントに男だったら良かったのに。
私が実は男だったら良かったのに。
あ、魔理沙の気持ちが少しわかった気がする。
男の魔理沙は、女の子が好きなんだろうか。そうであって欲しいし、それが私なら。
自分がヘンなのは変わらないけど、せめてもの高望み。
「ねぇ、アンタ男になりたいの?」
魔理沙は本当に男になりたいのだろうか。
紫が変なことを言ったせいで、多分どうでもいいはずのことが頭から離れなくなる。
いつものように博麗神社に来た魔理沙に、私は聞いてみた。
「あぁ?」
魔理沙は急須から勝手にお茶を出し、煎餅を齧っている。何が言いたいのか解らない、
といった感じで私の方へと顔を向ける。
「紫がそう言ってたのよ」
「ふーん」
紫のことを口に出しても、魔理沙は適当に頷くだけだった。
「……」
部屋に沈黙が訪れる。なんで?変に焦ってしまう。
魔理沙はそっぽを向いた。
「何で黙ってんのよ」
私がせっついてみる。しかし魔理沙は返事をしない。というよりも、段々とバツが悪そうな
表情に変わってきている。別にこんなの笑い飛ばすようなことじゃないの。何か部屋が気まずい。
ようやく、魔理沙が私の方を向く。何やら厳しい顔だ。
「……あのな、それは訊ね方が間違ってるぜ」
「何でよ?」
「私は、男だ」
はぁ?
コイツが、男?どうみても女にしか見えない。コイツが?
いっそう、わけがわからなくなった。
「男なんだよ。体は違うけどな」
またわからないことをいう。ひょっとしてどこかで頭を打って、何か勘違いを
しているのだろうか。とりあえず彼のいうこととやらを、尊重してみることにする。
机の側に座っている魔理沙の傍へと行き、おもむろに股間の辺りをまさぐる。
なにも付いていない。なんだやっぱり女じゃない、と思っていると、
魔理沙が乱暴に私の手を振り払った。
「女でしょう」
「触んな。こんなもん」
仏頂面である。どうやら自分のものが気に食わないらしい。
なんだろう、コイツの感覚に、私は全く追いつけていない。
何かこう、世界が違うような……。
私なりに理解しようとしているのに。
「……えっと、男の子に憧れるとか」
「憧れる必要なんかないぜ。ただ、私が女ってのが嫌なんだ」
「男の何が良いの?」
「わからないよ。敢えて言うなら、全部だな」
「……わからない」
「うるさい」
不機嫌そうな顔。多分、誰にも解って貰えないのだろう。
私だってわからない。本人が言うには、男で、でも体は女で……。
憧れる必要がないっていうのは、自分は既に男だとでも言いたいのだろうか。
女だとしか思えなかった。
「……」
部屋に沈黙が満ちる。
「……アンタ、男なのよね」
「あぁ」
私は俯いて、ポツリと呟いた。魔理沙にも聞こえたみたいで、いつもと変わらない
返事が返ってくる。いつもと変わらない。
わからないけど、こいつは、男、なんだと思う。じゃあ、男だからできること、
できるんじゃないかな。
「………………じゃ、女の子とか、好きになったりするの?」
「……」
私が気になってたこと。せめてもの高望み、訊きたくて仕方がないこと。
でも返ってくるのは無言。うんとも、いやとも取れない曖昧。
魔理沙は私と顔を合わせない。
「何で黙るのよ……」
「……」
何も言ってくれない。不安だ。嫌だ。もう話なんて終りにしたい。
言い辛いのかもしれない。女の私に伝えるのだから。だったらいいな。
「……何か言ってよ……」
「……私はな」
魔理沙が言葉を口にする。私は不安と期待に頭をないまぜにしながら、その声を待つ。
「私は……男が好きなんだ」
ああ。
ちょっと普通じゃないかもしれないけど、やっぱり魔理沙は女の子だった。
結局、男っぽいだけなんだ。どこか意固地になってるだけなんじゃないか、そう思った。
私の、だったらいいなは、やっぱり高望みでしかなかった。
……やっぱり、駄目なんだろうか。
「…………じゃあ、女の子じゃ「違う!!!!」
驚く。
魔理沙は叫んでいた。どうにもならならものを、振りほどくために。
「男に……香霖に、女の私なんか見て貰いたくない!
私は!あいつに抱かれたいんじゃない!あいつを抱きたいんだ!」
「……霖之助、さん……?」
魔理沙は、霖之助さんが、好き。
私は、魔理沙が、好き。
女と男。女と女。
私が間違ってる。私がおかしい。
自分の顔から血の気が引いているのがわかる。
私は、真っ青になっている。
「…あ……」
アイツも、戸惑ってる。はずみで出た、人の秘密。
部屋にまた、沈黙。もう、重苦しくって、仕方がない。
もうコイツのことなんかわからない。
ただ霖之助さんが好きで良いじゃない。
私なんか見てないだけじゃない。魔理沙は知りもしないだろうけど。
「……それって、主導権を握りたいってだけで……普通なんじゃないかしら」
「……違うんだ。アイツのものをそのまま受け入れるなんて無理だ。無理なんだよ。
悪寒が止まらない。私の忌々しいものなんて使いたくない……」
「……うぇ……」
コイツは、何を言っているのだろう。
私がそういうことを知らないってだけじゃない。
コイツは、私と、全然違う。
歪んでる。
普通じゃない。
コイツ、気持ち悪い。吐き気がする。……うえぇ。
「私は男なんだ……そんなんじゃない、女として扱われるのが、怖いんだ」
どこを見ているのだろう。私がえづいたことにも気づかず、魔理沙はブツブツと呟き続ける。
溢れてしまった何かが止まらないのだろう。
誰にも共感されず、汚物を見る目で見られる、世の中に拒絶される秘密。
アイツ自身がわかっててどうしようもない、自分の気持ち悪さ。
「女の私なんて、私じゃない……」
消え入りそうな魔理沙の声が、私の何かを溢れさせる。
今のコイツがそうであるように、溢れてしまえば言葉なんていくらでも出るモノで。
「……女の子は嫌い?」
「……なんていうか、無理だ。嫌いとかじゃない。
よくわからない。なんだ……怖い、怖いんだ」
「………………私は怖い?」
「なんで私が霊夢を怖がらなくちゃいけないんだ?」
「私が……魔理沙に好意を……好き、て言ったら、怖い?」
「……」
「ねぇ、アンタ男なんでしょう?あなたは自分の体で見慣れているかもしれないけど、
ここに異性の体があるの。なんでもしてあげるわよ。それじゃ興奮できない?」
「……わ…」
「私は男とか女とかの気持ちは分からなかった。でも私が、なんていうか、
好きになった人は、魔理沙。女の子だったの。私と同じ「私は男だ!」
私の言葉を遮る。魔理沙の顔が怒りに震えていた。
私は口を止めない。
「……私と同じ女の子だったの」
「だから私は「うるさい!!!!」
黙れ!!!!
「黙れ、黙れ!黙って……黙…て……」
ホントに、コイツは……私はなんなのだろうっ……!
「なんなのよ、なんでこんななのよ……。同じ女の癖に!自分が男だなんて言い張って!
挙げ句に男が好き!?アンタ一体なんなのよ!気持ち悪い!」
「うるさい!女が好きだなんて言ってるお前こそ本当に気持ち悪いぜ!」
「わかってるわよ!!!!」
魔理沙がはっとしたように口を噤む。私はコイツに何を言っているのだろう。
私はどうしようもなく気持ち悪い。魔理沙に「本当」なんて言われるほど。
私は魔理沙が、女が好き。
私がコイツに何を言えるのだろう。
コイツがホントに男だったら良かったのに。
むしろ男同士が好きな魔理沙に私は怒る?そんなの知らない!
コイツがホントに男だったら良かったのに!!
「……アンタが本当に男なら良かったのに」
「……それは私が心から願ってる事だよ」
疲れた声で魔理沙が言う。心から、願っている?
私はその言葉に逆上する。私の体中が熱くなる。
「……ウソツキ」
「なんでだよ」
「アンタなら魔法でなんとかするじゃない。今できなくても、
なんとかしようとするじゃない。研究を見せびらかす位のことするじゃない」
魔理沙が狼狽える。コイツ……!コイツの癖に……!
こんな情けないヤツを、霖之助さんなんかに取られるって!
私はただ怒りに任せて言い掛かりのような、みっともない言葉を口にする。
「アンタ、男のアンタが霖之助さんに拒まれるのが怖いんでしょう。
男の部分が駄目でも、女の部分なら受け入れて貰えるかもしれない。
どっかでそんな打算して、考えないようにしてるんだわ!」
「ふざけんな!!」
「根性無しのサイッアクの女ねぇ?あれ、男だっけ?」
「この……!!」
魔理沙が覆い被さってくる。抵抗させないためか、手首をとられ、私は動けなくなった。
殴られるのかもしれないけど、別に良い。怖いかもしれないけど、抱かれたって良い。
何もされないよりは、まだアンタのためにいられる気がする。私の気が済む。
「「……」」
私を組み敷いたまま、魔理沙は動かない。顔を見やれば、迷子の子供がそこにいた。
何もされなかったけど、結局、その顔は何をされるよりも私を安心させてくれた。
「……ねぇ、私、気持ち悪いかな」
アンタを好きになった私。子供も出来ない、世の中の皆から文句を言われて、
指を指されて、隅に追いやられそうな、そんな関係を望む私。声が震えていた。
「……私だって、気持ち悪いぜ。きっと」
「気持ち悪いアンタを好きになった分、私の方が気持ち悪いわね」
「香霖だって趣味悪いから、私も同じくらい気持ち悪いぜ」
魔理沙は話を合わせてくれるんじゃない、ホントにそう思ってるんだ。
魔理沙の潤んだ目が、なんとなくコイツを素直にさせてくれている気がした。
その内、私の視界も魔理沙の姿を滲ませる。
「……同じ、かな」
「……ああ、同じだ」
私たちは、同じ、なんだ。
「……ハハッ」
「……クッ…」
「アハハハハハハハハッハハ……!!」
「クハハハハハッハハハハハ……!!」
「ハハハハッ……!……ウッ………」
「ハハハッ……!……ヒッ……ク…」
人生は難しいモノだ、なんて、言ってしまえば短いモノだ。勿論、その短い言葉を
万感の想いを込めて紡ぐ人もなかにはいるだろうし、その言葉の重さを馬鹿になんて出来ない。
でも私は、多分私たちはそんな言葉をポツリと呟く位じゃとても収まりがつかなかった。もっと、
色んなものに文句を言いたくて、色んな事に言い訳をしたくて、でも全部的はずれなんだろう、
そんなごちゃごちゃしたものが心に溢れていた。
でも、そもそも私たちには色んなものなんてない。お互いしかなかった。
だから私たちはお互いにもつれ合って泣いた。お互いの胸で泣いたし、片っぽが
背中にしがみついて泣いて、片っぽが太股にすがって泣いた。お互いの汚い鼻水とかよだれとか
こすりつけあって、二人とも我に返って、お互いを見て、みっともなさを笑って、そしてまた泣いた。
何かから逃げたくて、お互いが疲れてただ眠りにつくために。
私たちは泣こうとして笑って、笑ったことに泣いた。
私が眠りから覚めた時、陽は高く昇っていて、側に魔理沙はいなかった。
魔理沙が私の側にいないことはとても悔しかった。でも、もし側にいたら、
また私は泣いていただろう。魔理沙が掛けてくれただろう毛布を押しのけて、身を起こす。
「よぅ、目が覚めたか」
縁側から魔理沙の声がした。
「おはよう」
「おはよう」
挨拶を交わす。魔理沙の顔は濡れていて、顔を洗っていたのだということを教えてくれる。
最も、その目はあんまり腫れていて、布で顔を拭っている魔理沙は小動物のような
可愛らしさを……言い過ぎか。まぁ、私もそんなものだろう。
「行くの?」
昨日はコイツにとっての良いきっかけだったと思う。今日白黒つけないと、またぐだぐだと
みっともないことをし続けるだろう。コイツも私も。
それはあんまり良い匂いがすることで、いつまでもそれに浸かっていたくなる。
「行きたくない……」
「またウジウジして」
「だって酷い顔なんだぜ!いくら顔洗ったって目の腫れがとれやしない」
「何女々しいこと言ってんのよ。男でしょ。そんな事言ってだらだらと話を延ばして!」
「……ああ、そうだな!男らしさに顔なんて関係ないぜ!」
今までウジウジしていた奴が急にシャンとすると、こっちはとても不安になる。
うーん。
「……やっぱ行くな」
「ああ?」
やっぱり魔理沙の顔は今ブサイクね。千年の恋も冷めるね。私は冷めてないけど。
こんなんじゃふられるね。決まったね。
「ほら酷い顔よ。あらあらなんてブサイク。後にしなさい、後に」
「何が言いたいんだよ」
魔理沙が呆れた顔をする。私はコイツが側にいるのに、寂しくなる。
――行かないで欲しい。
「……さっさと行ってふられちゃえ」
「あ?」
「ふられてしまえー」
「うっわムカつく!」
自分が持てる限りの小憎らしい顔をして、話を茶化す。
どこぞのヤマザナドゥが抜き取りやすいよう、舌なんか出して。
「男同士なんて気持ち悪ーい」
「女同士だってな」
魔理沙も負けじと返してくる。二人とも、今を楽しい、と感じる。ああ、
「「同じなんだ」」
私たちの声が重なる。それが一つの区切り。
魔理沙は箒を手に取る。その顔には決意が見えて、腫れた目から光が透き通っていた。
なんだ、十分格好いいじゃない。
「ふられたからって、ウチに来ないでよ」
「ありえないぜ」
「ごめんやっぱ来て。待ってる」
「……だから、ありえないって」
からかおうとしても、魔理沙はノってくれない。私の声が震えていたせいだろうか。
「……またいつか、来なさいよ」
「ああ」
箒を手に取ってから、魔理沙は私と顔を合わせなかった。そのまま飛び立った。
「ああ」は、魔理沙の背中から聞こえた。見えてるわけがないけど、私は強く頷いた。
魔理沙が、青い空へと消えていく。
さて。
もう一眠りしながら待とうと思ってたけど、魔理沙の鼻水なんかでドロドロになった服を見て、
洗濯しながら待つことにした。グチャグチャと洗い物をまとめる。
魔理沙が幸せになればいいな、なんて思いながら、私は待つことを固く心に決めていた。
幻想郷で同性愛が忌避されているイメージがないので読んでいて違和感しか感じませんでした。
ですがキャラの心理描写等はとても綺麗に書けているしテーマも巧く纏められている、
個人的嗜好を抜きにすればかなりいい作品だと思いました。
魔理沙も霊夢も母ちゃんと父ちゃんが愛し合って生まれてきた普通の人間ですからね。
人並み以上に悩んで迷って後悔してから答えにたどり着いて欲しいものです。
ちょっと特殊な2人ですが、恋に悩んでじたばたする姿がよく描けていました。
でも、魔理沙の要望、「霖之助に男として、更に恋愛対象として見てほしい」
というのはハードル高すぎ・・・。
まぁ『序』を読んだ限りでは、彼は霊夢に気があるみたいですけど。
ただ、今回はタイトルの通り霊夢にスポットが当たる話だったと思うのですが、
「平等」をモットーとする彼女が何故魔理沙を特別視するようになったのか?
ということの理由が明かされなかったのが残念でした。(続きで解明?)