『今からはるか昔の西の国にひとりの吸血鬼が居ました
自由気ままに人を狙い
自由気ままに血を啜り
自由気ままに空をかけ
自由気ままにあざ笑う
小食で青みがかった髪を持つ小さな吸血鬼
丘の上の大きな屋敷に住む小さな吸血鬼
唯一の友人が魔女な小さな吸血鬼
我侭で気ままな小さな吸血鬼
そんな吸血鬼がいました
麓の街では彼女の事をこう呼びました。
『丘の紅い悪魔』
彼女は自由に空を駆け
今夜のディナーを品定めします
ある日は美しい女性を
ある日はみすぼらしい男性を
ある日は小さな子供を
ある日は年老いた老人を
自分の食卓へと運びました
彼女の被害を恐れる住民は
彼女に契約を結ばせ
彼女の自由気ままな略奪を
彼女にやめさせました
彼女は有る条件を飲むならと
街を襲わない契約を結びました
その契約の条件とは
『生贄を差し出すこと』
ある満月の日は小さな少年が
ある上り月の日はやせ衰えた男性が
ある新月の日は年老いた女性が
ある降り月の日は空腹に苦しむ少女が
彼女の目の前で殺され
彼女の前へ差し出されました
やがて彼女の瞳は
自己の利益だけしか頭にない
狂った人々を椅子から見続けるうちに
不思議な力を持つようになりました
ある紅い月の夜
自分の愛娘を差し出しに来た
顔の青ざめた男性に
豪華な椅子に座っていた
凛とした笑顔の悪魔は
背中の小さな羽を
少し羽ばたかせて彼に寄り
もたれかかるようにして
こう囁きます
『あなた、その娘に刺し殺されるわよ』
恐ろしくなった彼は娘に手を下す事を放棄し
家に閉じこもり誰とも関わろうとしなくなりました
ある日を境に静かになった彼の家を訪れた彼の友人は
彼の部屋が一面の赤色が広がっていることに気付きました
それからというもの
彼女は蝶のように自由に空を舞い
彼女は道化師のように気まぐれに
彼女は自分の夜を謳歌しました
ある夜は恋人同士に悲恋を告げ
ある夜は老夫婦に永遠の同伴を約束し
ある夜は孤児に生き別れの親を教え
ある夜は人に悲劇の死を告げました
街の人は紅い悪魔自身が契約を破っていないため
手出しができませんでした
あの少女との出会いも
紅い悪魔の気まぐれが生みました
その金髪の少女は彼女の前に
小さな銀のナイフを持ち
涙を流しながら立ちはだかりました
紅い悪魔は知っていました
街の人々が自分を邪魔だと感じている事に
紅い悪魔は知っていました
年端もいかないこの少女が勅命を受けている事に
紅い悪魔は知っていました
少女が今どんな環境に居るのか
紅い悪魔は知っていました
少女がどんな運命を辿る事になるのか
彼女が成功したとしても失敗したとしても
彼女が生きていようと死んでいようと
彼女が笑っていようと泣いていようと
彼女の体は炎で焼き尽くされる事を
悪魔と関わった忌まわしい人間として
その少女はそのことを理解していました
いじらしく立ち続ける少女の足は
最早立っていられないほど震えていました
いじらしく立ち続ける少女の手は
ナイフを持っていられないほど震えていました
いじらしく立ち続ける少女の顔は
一杯の涙に溢れていました
いじらしく立ち続ける少女の髪は
土と砂埃で色褪せていました
だから
彼女は少女を悪魔にする事を選びました
それから悪魔は『運命を操る紅い悪魔』と呼ばれるようになったのです
そして
悪魔は少女に自分とお揃いの服を着せ
悪魔は友人に頼んで少女の羽を作らせ
悪魔は少女に美しい髪を取り戻させ
悪魔は少女の心の支えとなりました
彼女達はまるで幼い姉妹のように
日々を楽しく自由に謳歌しました
少女はいつしか人々から
『悪魔の妹』と呼ばれるようになりました
ゼンマイ仕掛けの懐中時計は歯車がずれた時
時がたつほど実際の時間との差が大きくなる
悪魔はある日そのような歯車の狂いに気付きます
妹の運命が
明るく活発な妹の運命が
次第に黒く紅く狂ったものに変わって行く事を
さらに悪魔は気付きます
妹の運命が些細な事でさらに黒ずむ事に
悪魔自身との会話はおろか
食事するたびに
外出するたびに
笑うたびに
泣くたびに
妹の運命は狂い続けるのです
そうしていつからか
悪魔は妹を館に閉じ込め
悪魔自身も館から出ないようになり
1日でも長く彼女の運命が白く穏やかであることを望みました
次第に狂っていく運命の歯車
外因ではじけ飛ぶ運命の歯車
悪魔の運命さえ変えた運命の歯車
真に運命を変えることは叶わなかった『運命を操る紅い悪魔』
いくら時間が流れたでしょうか
館から出なくなった悪魔は人々から忘れられ
流れ着くようにここに辿り着きました
その中長い日々で悪魔は気付きました
妹の運命が黒く染まりきった事を
妹の運命が紅く染まりきった事を
妹の運命が狂いきった事を
ある日
彼女は妹と共に心中する決意をしました
共に忘れられた友人に教わり
自らの霧で二人朽ち果てる事を
紅い霧は彼女の決意の現れでした
人々が忘れた館に人間が3人
1人は銀のナイフを手に持ったメイド
1人は紅白の衣装を身にまとった巫女
1人は黒い服に身を包んだ魔法使い
1人は主人の願いを見届けるため
2人は赤い霧の真相を突き止めるため
この館に居ました
2人は1人を倒し
2人は悪魔の下へと
悪魔は2人に倒され
残ったのは1人の妹
妹は2人と戦い
2人に倒され
悪魔も妹もメイドも命を保ち続けた
さて
歯車が狂った懐中時計はどうなるのでしょうか
私が持つ懐中時計は12時間を境に
狂い続けながら現実の時間へと近付きます』
『―咲夜、紅茶を入れて頂戴』
『はい、只今向かいます』
願わくば
今、運命の懐中時計が12時間差であることを
自由気ままに人を狙い
自由気ままに血を啜り
自由気ままに空をかけ
自由気ままにあざ笑う
小食で青みがかった髪を持つ小さな吸血鬼
丘の上の大きな屋敷に住む小さな吸血鬼
唯一の友人が魔女な小さな吸血鬼
我侭で気ままな小さな吸血鬼
そんな吸血鬼がいました
麓の街では彼女の事をこう呼びました。
『丘の紅い悪魔』
彼女は自由に空を駆け
今夜のディナーを品定めします
ある日は美しい女性を
ある日はみすぼらしい男性を
ある日は小さな子供を
ある日は年老いた老人を
自分の食卓へと運びました
彼女の被害を恐れる住民は
彼女に契約を結ばせ
彼女の自由気ままな略奪を
彼女にやめさせました
彼女は有る条件を飲むならと
街を襲わない契約を結びました
その契約の条件とは
『生贄を差し出すこと』
ある満月の日は小さな少年が
ある上り月の日はやせ衰えた男性が
ある新月の日は年老いた女性が
ある降り月の日は空腹に苦しむ少女が
彼女の目の前で殺され
彼女の前へ差し出されました
やがて彼女の瞳は
自己の利益だけしか頭にない
狂った人々を椅子から見続けるうちに
不思議な力を持つようになりました
ある紅い月の夜
自分の愛娘を差し出しに来た
顔の青ざめた男性に
豪華な椅子に座っていた
凛とした笑顔の悪魔は
背中の小さな羽を
少し羽ばたかせて彼に寄り
もたれかかるようにして
こう囁きます
『あなた、その娘に刺し殺されるわよ』
恐ろしくなった彼は娘に手を下す事を放棄し
家に閉じこもり誰とも関わろうとしなくなりました
ある日を境に静かになった彼の家を訪れた彼の友人は
彼の部屋が一面の赤色が広がっていることに気付きました
それからというもの
彼女は蝶のように自由に空を舞い
彼女は道化師のように気まぐれに
彼女は自分の夜を謳歌しました
ある夜は恋人同士に悲恋を告げ
ある夜は老夫婦に永遠の同伴を約束し
ある夜は孤児に生き別れの親を教え
ある夜は人に悲劇の死を告げました
街の人は紅い悪魔自身が契約を破っていないため
手出しができませんでした
あの少女との出会いも
紅い悪魔の気まぐれが生みました
その金髪の少女は彼女の前に
小さな銀のナイフを持ち
涙を流しながら立ちはだかりました
紅い悪魔は知っていました
街の人々が自分を邪魔だと感じている事に
紅い悪魔は知っていました
年端もいかないこの少女が勅命を受けている事に
紅い悪魔は知っていました
少女が今どんな環境に居るのか
紅い悪魔は知っていました
少女がどんな運命を辿る事になるのか
彼女が成功したとしても失敗したとしても
彼女が生きていようと死んでいようと
彼女が笑っていようと泣いていようと
彼女の体は炎で焼き尽くされる事を
悪魔と関わった忌まわしい人間として
その少女はそのことを理解していました
いじらしく立ち続ける少女の足は
最早立っていられないほど震えていました
いじらしく立ち続ける少女の手は
ナイフを持っていられないほど震えていました
いじらしく立ち続ける少女の顔は
一杯の涙に溢れていました
いじらしく立ち続ける少女の髪は
土と砂埃で色褪せていました
だから
彼女は少女を悪魔にする事を選びました
それから悪魔は『運命を操る紅い悪魔』と呼ばれるようになったのです
そして
悪魔は少女に自分とお揃いの服を着せ
悪魔は友人に頼んで少女の羽を作らせ
悪魔は少女に美しい髪を取り戻させ
悪魔は少女の心の支えとなりました
彼女達はまるで幼い姉妹のように
日々を楽しく自由に謳歌しました
少女はいつしか人々から
『悪魔の妹』と呼ばれるようになりました
ゼンマイ仕掛けの懐中時計は歯車がずれた時
時がたつほど実際の時間との差が大きくなる
悪魔はある日そのような歯車の狂いに気付きます
妹の運命が
明るく活発な妹の運命が
次第に黒く紅く狂ったものに変わって行く事を
さらに悪魔は気付きます
妹の運命が些細な事でさらに黒ずむ事に
悪魔自身との会話はおろか
食事するたびに
外出するたびに
笑うたびに
泣くたびに
妹の運命は狂い続けるのです
そうしていつからか
悪魔は妹を館に閉じ込め
悪魔自身も館から出ないようになり
1日でも長く彼女の運命が白く穏やかであることを望みました
次第に狂っていく運命の歯車
外因ではじけ飛ぶ運命の歯車
悪魔の運命さえ変えた運命の歯車
真に運命を変えることは叶わなかった『運命を操る紅い悪魔』
いくら時間が流れたでしょうか
館から出なくなった悪魔は人々から忘れられ
流れ着くようにここに辿り着きました
その中長い日々で悪魔は気付きました
妹の運命が黒く染まりきった事を
妹の運命が紅く染まりきった事を
妹の運命が狂いきった事を
ある日
彼女は妹と共に心中する決意をしました
共に忘れられた友人に教わり
自らの霧で二人朽ち果てる事を
紅い霧は彼女の決意の現れでした
人々が忘れた館に人間が3人
1人は銀のナイフを手に持ったメイド
1人は紅白の衣装を身にまとった巫女
1人は黒い服に身を包んだ魔法使い
1人は主人の願いを見届けるため
2人は赤い霧の真相を突き止めるため
この館に居ました
2人は1人を倒し
2人は悪魔の下へと
悪魔は2人に倒され
残ったのは1人の妹
妹は2人と戦い
2人に倒され
悪魔も妹もメイドも命を保ち続けた
さて
歯車が狂った懐中時計はどうなるのでしょうか
私が持つ懐中時計は12時間を境に
狂い続けながら現実の時間へと近付きます』
『―咲夜、紅茶を入れて頂戴』
『はい、只今向かいます』
願わくば
今、運命の懐中時計が12時間差であることを
つまらん