※注意
オリキャラがいます。
一昨日まで受験生であった私は、ようやく晴れて勉強漬けの日々から解放された。
やりきった自分へのご褒美にと、此の度、京都への一人旅を決行した。
時違えのホトトギス
地元から適当に電車を乗り継ぐこと二時間ぐらい。かくして私はJR京都駅に降り立った。
老若男女で溢れかえる構内を身軽にショルダーバッグひとつで潜り抜ける。
ふと、果てしないざわめきが織り成す喧噪の中で、鋭く響く鳥の鳴き声を聞いた気がした。
この特徴的な鳴き声は聞いた事がある。そう……確か時鳥(ホトトギス)だ。
でもあの鳥は夏の季語だ。こんな寒さを感じる時期に聞くハズ無い。何かの雑音の聞き間違いだろう。
私はさして気にもせず、出入り口を通ってようやく京都の地面を踏んだ。
……つもりだった。
はて、ここは一体どこだろう。いくら京都が旧都と呼ばれ昔ながらの町並みが残っているとはいえ、明らかにオカシな風景。
そもそも私の目には古めかしい町並みどころか現代的な町並みも見えてこない。
後ろを振り返るも、当然ながら京都駅は無い。駅どころか、人の気配すら無い。
何かの間違いで私は駅の秘密の抜け道でも通ってしまったのだろうか? とすると、ここは魔法学校? そんな馬鹿な。
魔法学校らしきお城なんて見えないし、そもそもアレはイギリスのお話だったはず。
見ず知らずの田舎の風景は、とりあえず日本っぽい空気だ。
どうしたものか、と私は頭を悩ませる。
別に焦ってはいないが、落ち着いて辺りを見回すと、どうやら私が立っているのは山道の途中のようだ。
普通なら下っていく所なんだろうけど、私は敢えて上を目指す事にした。
……例えば幽霊。例えば魔法。例えば超能力。例えば宇宙人。
そういったモノを私は信じている。
証拠は無いけど根拠はある。
その根拠とは、世界中の人が『幽霊』や『魔法』といった言葉を知っているという事。
確かに現代においては空想上の話だと笑って済まされてしまうかもしれない。
だけど、過去においてそれらは確実にその存在を認められていたハズなのだ。
だからこそ、『幽霊』だけでなく『ghost』という言葉が存在している。
『幽霊』という言葉が生まれたのは、実際に幽霊が居て見た人がいるから。
『魔法』という言葉があるのは、実際に魔法が存在して使える人がいるから。
まぁつまりはそんな考えを持っているわけで。
そして、私は今、実際にそれに類する現象に巻き込まれた。
京都駅に居たハズなのに、どこともしれない山の中だなんて、人生で一度でも体験できるだろうか。
いやできない。確かに今後の不安は尽きないが、それでも元気な内にこの状況を楽しむべきだろう。
そんなわけで、私は特に取り乱したりせずにいた。
周りは私の事を不思議ちゃんなんて言うけど……ま、否定はしない。
三十分ほどせっせと山道を登って、ようやく拓けた場所に着いた。
そこは……神社だった。
大きくて真っ赤に塗られた鳥居。理路整然と敷き詰められた石畳と玉砂利。
山の上にこんな立派な神社があるなんて、完全に予想の斜め上だ。
まぁ、折角ここまで来たんだからとりあえずお参りでもしていきましょうかね。
冷たい色をした石畳の上を何となく足音を立てないように歩く。
何故かというと、この神社に満ちる空気が凛としていたから。
そう、シンと静まり返ったこの場所は、生き物の気配を感じさせなかった。
神々しい、という言葉が何となく脳裏に思い浮かぶ。
この神社は、もしかしたら最近になって捨てられた神社なのかもしれない。
こんな山の上じゃ人は来ないだろうし、まるでバブルが弾けて取り残されたビルみたいだ。
やがて私は拝殿にたどり着く。財布から百円玉を取り出して、賽銭箱に投げいれる。
小さめに鈴を鳴らして、両手を合わせた。
―――どうか、無事に家へ帰れますように。
さて。参拝も済んだし、そろそろ楽しんでいる場合じゃないのかもしれない。
どことも知れない山の中で野垂れ死になんて……やっぱ初めから山を降りてればよかったかな。
とりま、はやいとこ現在地が解る場所ぐらいは見つけないと……。
そうして、石畳の道を引き返そうとした所で―――、
「ようこそ守矢神社へ……って、あれ?」
完全に誰も居無いと思いこんでいたので、声をかけられて背筋がブレた。
おそるおそる声のした方へ振り向くと、そこには寒そうな恰好の巫女さんが居た。
って、あれ?
「早苗……?」
「え、えぇ」
そこに立っていた巫女は、私の友達だった。
「……と、まぁ大体の説明はこんな所ですけど」
事の経緯を説明した所、早苗が色々と教えてくれると言うので私は社務所にお邪魔していた。
いわく、この田舎みたいな所は『幻想郷』という土地であるという事。
『幻想郷』というのは、有体に言えば異世界のようなもので普通は来れないという事。
帰るためにはここではない別の神社へ行かなければならないという事。
「正直、信じ難い話かと思いますけど、あんまり動じてませんね?」
「こういうのは信じないよりも信じる方が楽しいと私は思うのよ。
だからまぁ、早苗が言う事は嘘じゃないって思うよ。それに帰れるっていうなら慌てる必要も無いしね」
私だって何も心の底から、あの根拠を信じていたわけじゃない。ただ『そうだったらいいな』程度のもの。
だったけど、根拠に証拠が出来てしまった。私自身が瞬間移動(早苗が言うには神隠し)を体験してしまったわけだし。
見ず知らずの土地で不安だったのも、早苗という友達に会えた事で消え去ってしまった。
「でもまさか、二年の終わりに引っ越していった早苗が、こんなトコにいるなんてねぇ」
「みんなには『遠い所に行く』としか言いませんでしたからねぇ」
そんな感じでしばらく私たちは、昔話に花を咲かせていた。
時には、今の近況なんかも。
「私は一昨日に、大学の入試が終わったばかり。ま、それでストレス解消も兼ねて京都旅行に来たんだけどね」
「来年には大学生なんですね」
「合格してたら、だけどさ」
「大学ですか……」
早苗の表情がわずかばかり曇るのに私は気付いてしまった。
「早苗は……、大学行きたかった?」
だから、そんな事を聞いてしまっていた。
「……私は、行きたくなかったわけじゃないんですけど。
でも、生まれがこんなだからとか、巫女をやってるからとか、そういう『私より外の』理由をつけて幻想郷に来たわけじゃないんです。私は私の考えと気持ちでこの神社で巫女として生きてるし、この幻想郷に移り住む決心をしました。
だから、『行けなかった』んじゃなくて、『行かなかった』って事で」
「そっか。早苗は自分の生きる道をちゃんと自分で決めてたんだね」
思えば、高校に入学し早苗と知り合ってすぐの頃は、彼女はここまで芯のある人じゃなかった気がする。
時々、家が神社だからどうこうという愚痴を聞いた事もあったし、
それであまり自由な時間が無く付き合いが悪いとクラスで疎まれていた時期もあった。
私が早苗の事情を色々聞けたのは、私も早苗も帰宅部で、帰り道が近かったからというそれだけの理由だ。
そして、二年生に進級したぐらいから、早苗は変わった。と私は気付いた。
それまでは疎まれていた事もあって早苗の方からも距離を取っている風だったのが、
まるで人が変わったみたいに、自らクラス委員長に立候補したかと思えば率先してクラスメイト達を引っ張り、
次第に早苗を疎ましく思う人はいなくなった。
それどころか、男子からも女子からも人気があり、異性同性関係なく週に三回はラブレターや告白を受けていた、らしい。
早苗に何があったのかは知らないが、多分それは早苗が自分の生きる道を見つけたからなんだ。と今になって思う。
と、私が勝手にそんな事を思い出し分析していたら、社務所の戸が勢いよく開かれた。
「早苗ー、晩御飯なんだけど……って、あら?」
現れたのは、赤い服を着た女の人だった。
「あ、えっと、えっと、えっと、……こ、この人は、私のお母さんです……!」
早苗があたふたしながら、そう紹介してくれた。
……お母さん? 早苗の?
まぁ、早苗がそう言うなら、そうなんだろうけど。
「はじめまして、早苗のお母さん。私、高校の時の早苗の友達でして」
「ふむ…………」
早苗のお母さんは、視線を何度か私と早苗を行き来させ……。
「はじめまして。早苗の母の神奈子よ。早苗のお友達が来てるのに、お持て成しできずに申し訳ないね。
もう遅いし、よかったら今夜はウチに泊って行ったらどうかしら?」
丁寧な挨拶を返してくれた。
「そ、そうですよ。もっとお話もしたいですし、晩御飯もうんと頑張って作っちゃいますから!」
「……それじゃあお世話になってもいいですか?
えっと、確か幻想郷……だっけ? から帰るには山を降りて別の神社に行かないとダメなんだよね?」
「そうです! 夜の山道は危険ですから、明日陽が昇ってから山を降りましょう!
そうと決まれば、さっそく御飯の用意にしましょう! 八坂さ……じゃない、お母さんは居間で休んでいてください!」
ぐいぐい、と早苗がお母さんを外に押し出していく。
いやなんで、さっきからそんなに必死なのさ、早苗? そんなにお母さんを見られるのが恥ずかしいのかなぁ。
美人だし、早苗のお母さんというには若いぐらいのお肌だし、なんていうか神の如きオーラが……ってそれはちょっと言い過ぎか。「早苗、御飯作るの私も手伝うよ。先払いになるけど一宿一飯の恩義ってね。お世話になるなら、お手伝いぐらいはしないと」
結局、三人で社務所を出たのだが、早苗のお母さんはいつの間にか居無くなっていた。
早苗が言うには、ちょっと本殿の方に用があってそっちに行ったとの事。
そんなわけで、二人で台所へ向かった。
「あなた誰?」
……住居の方へとお邪魔した所で、小さい女の子に出会った。何だか不思議な帽子を被っている。
一見コミカル。よーく見るとグロテスク一歩手前な帽子。やめて、そのつぶらな瞳を向けないで。
「あ、どうもはじめまして。……早苗の子供……なわけないよね」
「そそそそそそ、そう! 諏訪子さま……違ッ、諏訪子ち、ちゃんは私の妹なの!」
「「妹?」」
私と、不気味帽子の子の声が被った。
言われてみればどことなく早苗と顔立ちが似ていない事も無い、かな?
「……ね、ねー諏訪子……ちゃ、ん。居間に神奈子お母さんが居ますので、晩御飯まであっちで待ってて下さい!」
「ねぇ、早苗。何か顔が青いし、冷汗も出てるっぽいよ? 気分悪いなら休んでなよ。私でよければ皆さんの分の御飯作るよ」
「い、いやですねぇ。わ、私はいつだって程々に元気百倍ですよっ」
そう答える早苗の声は若干震えている。が、本人が元気というならしょうがないか。
「早苗……………………じゃ、居間にいるね」
ジーッと、私と早苗の顔を見続けた後、早苗の妹の諏訪子ちゃんは廊下の奥へと消えていった。
諏訪子ちゃんが居無くなると、早苗ははぁ~と大きく息を吐き、平静を取り戻していた。
「それじゃ、晩御飯作りましょうか」
「そうだね。早苗がそれでいいなら、まぁいっか」
一波乱(?)を乗り越え、私たちはようやく台所に立てたのであった。
「へぇー、じゃあこの守矢神社は早苗と早苗のお母さんと諏訪子ちゃんの三人で経営してるんだね」
「うん。そう。早苗”お・ね・え・ちゃ・ん”が、いつも頑張ってるお陰で境内はぴっかぴかなんだよ」
「ウチの”む・す・め”はホントに出来た子でねぇ。って、これじゃ親バカかしらね」
私という来客もあって、晩御飯のメニューはお鍋となった。
居間で鍋を囲み、早苗のお母さんと妹さんも交えて、頂いているわけです。
食べながら、私が学校に居た頃の早苗の話をすると、
早苗のお母さんや諏訪子ちゃんが、神社での早苗の話をしてくれたりして、終始、笑いが絶えなかった。
「針のムシロ……」
「何か言った? 早苗”お姉ちゃん”?」
「い、いえ何でもないですよっ、すっ、諏訪子ちゃん!」
「そう、ならいいけどね」
「いやー、ウチの”娘たち”は仲が良くて母さん時々寂しいわー」
「そ、そんな事ないですよ。かっ……神奈子お母さん!」
こんな感じに、当の本人は自分の名前が出る度に顔を赤くしてしぼんでいたが、
まぁ不可抗力って事で早苗には納得してもらうほかない。
に、しても早苗のお母さんも、妹の諏訪子ちゃんも、本当に早苗の事が好きなんだなぁ。
と思わせてくれる程の持ち上げっぷりだった。
「あぁ、片づけは私たちがやるから二人は休んでなさい。諏訪子、手伝ってくれる?」
「解ったよ、神奈子”お・か・あ・さ・ん”」
なんでさっきから諏訪子ちゃんは、”お姉ちゃん”やら”お母さん”やらを強調して喋るのだろう。
小さい子には小さい子なりの流行や遊びがあるから、その類なのかな。
「そ、それじゃお部屋に布団を運ぶので、手伝ってもらえます?」
「了解」
「あー、いいお湯だった」
「山の上ですから、星がよく見えたでしょう?」
「うん。冬場の露天風呂ってのも乙なものでいいね。ロケーションも絶好だし、大自然は凄いね」
ホント、夜空一杯に輝く無数の星を見ながらお風呂だなんて、素晴らしいにも程がある。
「ありがとうね、早苗。何だか色々お世話になっちゃって」
「気にしなくていいですよ。困った時はお互い様ですし、神隠しに遭ったんですから、しょうがない事です」
「ん、ありがと」
早苗の部屋に運んだ布団に寝転がる。早苗も同じように、隣に敷いてある布団に寝転がる。
私は、早苗の顔を見ず、天井だけを見ながら、言う。
「……明日、私が帰ったら、早苗にはもう会えなくなるんだね」
「そうですね……。今日、こうして会えたのもすごい偶然みたいなものですから」
「んー、そっか。でもこうして早苗に会って話が出来て良かった。
実の所、私は大学進むって言ってもやりたい事なんて特に決まってなくて、
高卒で働くよりは時間があっていいかなぁっていう凄くだらけた理由でさ。
早苗みたいに、生きる道が決められなくて……」
社務所での早苗の話を聞いて、私は自分がいかに流されて生きてきたかを思い知った。
いや、本当は気付いてたんだけど、気付かないフリをしてたんだ。
だって、流されたままでも生きていく事だけは出来るから。
「私は……、神社に生まれて、それだけでもう殆ど生きる道が決まってて、最初は嫌だったんです。
他の子たちは皆、学校が終われば遊びに出かけるのに、
私だけはすぐに家に帰って、修行を受けなければいけない。
本当は、皆で駅前に繰り出したり、お買い物に行ったり、遊びに行ったり…………デートとかしてみたり……。
そんな事が出来なくて、本当に家の事が嫌になって、……一度だけ、家出した事があるんです」
「早苗が家出? ……ちょっと信じられないね」
「自分でもそう思うけど、あの時の東風谷早苗は、そうするしかないぐらい何もかもが嫌になっていたんです。
修行の最中に、ちょっと出来が悪くて怒られたのがキッカケだったかなぁ……。
その勢いで闇雲に飛び出して、巫女服のままでしたから人に会わないように暗い道ばかり選んで。
ひたすら目的地も無く、遠くへ遠くへ、家から逃げるようにひたすら歩いて……。なんでこんな惨めなんだろうって。
折角、逃げ出したのに光を浴びれず一人ぼっちで路地裏ばかりを歩いて。
それで泣き出しちゃったんです。何も無くて、誰も居無い。ただひたすら暗いだけの路地裏で。
……そんな誰も見向きもしない場所に居た私を見つけてくれたのが、……神奈子お母さんでした。
何やってるの、って。何で泣いてるの、って。優しく私を抱きしめて、暗闇から救い出してくれたんです。
それから、家に戻った時に迎えてくれたのが、……諏訪子ちゃんでした。
おかえり、って。無事でよかったよ、って。優しく私を迎えて、光を照らしてくれたんです。
それから私は、巫女として生きていく事を決意しました。
それまでは、『神社の生まれだから』なんて自分で言い訳を作って誤魔化していたんですけど、
結局言い訳は言い訳でしかなくて、私は自分で考え自分で選んで巫女になる事にしたんです。
私を見つけてくれた人と、私を迎えてくれた人のためにも」
私と早苗。お互い、視線を交えず、ただ同じ天井だけを見続けて、語られた早苗の話はそれで終わりだった。
いい話だね、と茶化す事はしない。いい人だね、と羨む事もしない。
ただ純粋に、早苗の話は……私の迷いを肯定してくれた気がした。
「本当に、早苗に会えて良かったと思うよ」
「話終えてから言うのもなんですけど、すごく恥ずかしいです……」
程無くして、どちらともなく眠りに就いた。
「どうもお世話になりました」
鳥居の下、見送ってくれた早苗のお母さんと諏訪子ちゃんにお礼を言う。
「いやいや、こちらも早苗がお世話になったからね、これでお相子さ」
「それじゃあね、ばいばい~」
諏訪子ちゃんが手を振ってくれたので、私も手を振って返す。
「ね、最後ですから……一つ、貴重な経験をしてみませんか?」
「何?」
聞き返すが、早苗は答えてくれず、かわりに手を差し出してきた。
握手……? ではない気がする。
早苗が差し出した手は左手。しかも掌が上に向けられている。
私は一考し、多分これが正解だろう、と右手を重ねた。
早苗はにこりと笑い、そして……次の瞬間、地面の感触が無くなった。
「わ、わ、わ、わ!?」
「麓の神社まで一っ飛び、ですよ。手を離さないでくださいね」
私が何かを言う前に、すでに体は鳥居の高さを飛び越えていた。
その高さから見た景色を私は一生忘れないだろう。
空の青さ、雲の白さ、木々の緑、山の赤。それらが見事に調和した、まさしく絶対の景色。
これが……幻想郷。
「はい、到着です」
およそ十分ほどの飛行を終え、早苗の神社とはまた別の神社の境内に降り立った。
こういっちゃなんだが、早苗の神社より若干ボロい。
神社の建物自体は小奇麗なんだけど、鳥居や境内の隅っこが薄汚れていて、何だかミスマッチだ。
まるで最近になって神社だけ建て直したみたい。
「ちょっと待っててください。こっちの巫女を呼んできますね」
そう言って早苗は神社の裏に回っていった。
待つ間、とりあえずこっちの神社でもお参りしておこう。
百円玉を賽銭箱に入れて、鈴を鳴らし、両手を合わせる。
さて、何を祈ろう?
最初、早苗の神社で祈ったのは無事の帰還だったが、それは恐らくもう達せられる。
早苗の幸せ……を願うのは無粋というものだろう。
自分の決めた道を生きる彼女はもうまったく幸せなのだから。
さりとて、私は自身の今後を祈るほど神に頼るつもりはない。
私の生きる道は早苗のように自分で決めなくてはならない。例え神が決めた道でも私はお断りだ。
なら、あと祈るのは……。
―――またいつか、早苗に会えますように。
そういえば、私の論の無い根拠によると、神でさえも存在しうる事になるのか。
ふむ。巫女というのは神に仕える人間だというから、もしかしたら早苗は神に会った事があるのかもしれない。
それはまぁ、いつか次に会えた時に聞くとしようかな。
「お待たせしました」
と、早苗が戻ってきた。後ろには早苗のよりもよっぽど巫女らしい巫女服を着た女の子が居た。
にしても、色はそれっぽくとも、意匠が早苗と似通っているのは、それがこの『幻想郷』の巫女のスタイルなんだろうか?
「ったく、紫のヤツ、また連れ込むだけ連れ込んで私任せなんだからもう……」
紅白の巫女は、何だか不機嫌なようでブツクサ言っている。……大丈夫かな。
「えっと、もしかして神様にお祈りとかしないとダメなんでしょうか? 何なら、もう一回お参りした方がいいですか?」
「んん。ウチの神様はいるかいないか解んないから、別に祈らなくてもいいわよ」
「はぁ、そうですか……」
紅白の巫女さんは、お札を何枚か石畳の上に並べている。何だかいかにもって感じ。
さて、それじゃあ先に早苗にお別れを言っておきましょうか。
「早苗。本当にお世話になりました。ありがとうね。会えて良かったわ、って何回も言ってる気がするけど」
「私も、色々話が出来て楽しかったです。ありがとう、会えて良かったです」
私たちはお互いに笑っていた。泣いたりはしない。だって悲しくなんてないのだから。
「準備出来たわよ」
紅白の巫女さんが、居心地悪そうに言う。どうもすいませんね。
「あの、一つだけお願いできますか? ここのボタンを押すだけでいいんで……」
私はショルダーバッグに入れていた使い捨てカメラを紅白の巫女さんに渡してお願いをする。
しまったな。どうせなら、早苗の神社で撮れば良かった。けど、まぁいっか。
私はさっき空を飛んだ時みたいに、早苗の手を取って二人で並んだ。
「じゃ、お願いします」
いくわよー、とやる気なさげな声で合図を送られ、私と早苗は普通の笑顔でフラッシュの光を浴びた。
「それじゃ、ばいばい。早苗」
お札で囲われた中に入り、振り返ると早苗が笑顔で見送ってくれた。
「ばいばい、です」
「あれ、何してたんだっけ。あ、これから帰る所か」
私は京都駅の眼前に立っていた。
まだ朝早いせいか、来た時とは違い疎らに人影が見えるだけだ。
行き交うバスやタクシーの排気音だけがやたら耳に響く。
もう少しすれば始発も出て、発車ベルやレールを走る音が混ざるのだろう。
試験お疲れ一人旅と銘打ったこの小旅行も、結局は一泊したにも関わらず、
何処にあるかも覚えていない神社を二つ巡っただけに終わってしまった。
まぁでも、量より質って事で納得しよう。
そういえば、いつもはカメラで色々撮りまくるのに、今回はたったの一回しか使わなかったなぁ……。
思い出したようにショルダーバッグから使い捨てカメラを取り出す。
残数は二十三枚分。一枚だけ消費されている。
どういう経緯で撮ったのかはすっかり思い出せないけど、何を撮ったのかはハッキリ覚えている。
そこに映っているのは、間違いなく私の友達だ。
瞬間、不意に鳥の鳴き声が聞こえた。
この特徴的な鳴き声は聞いた事がある。そう……季節外れの時鳥(ホトトギス)だ。
そういえば、あの鳥の別名は……。
さて。それじゃあ帰りましょうか。
この体に浮遊感がまだ残っている間は色々と思い出せそうだから、電車を待ちながら想いを馳せよう。
忘れる事の無い、あの絶景と一緒に。
とりあえず、早苗お姉ちゃんに悶えました。
もすこし、詳しい絡みが欲しかったですが
一部分を強調してるのは嫌味なのかそれとも早苗をからかうためなのか。
オリキャラがでしゃばるというか、私としてはそれは気になりませんでしたね。
スッキリと読むことができて面白かったです。
いい意味で脇役というか、引き立て役になってる感じで読みやすかったです。
頑張って無理してる守矢一家が頭に浮かんでにやっとさせられましたw
なんで二柱のことは誤魔化して紹介したのかがわかりませんでした。
> いやなんで、さっきからそんなに必至なのさ、早苗?
私も上の方と同じ疑問を感じました。
神奈子と諏訪子のことをきちんと説明しても問題無さそうですから。
後書きにある1、2番が理由なのでしょうけど、やはり無理があります。
京都駅に居たのが、幻想郷に来て一本道的に守矢神社にたどり着いてしまう辺りも、
ご都合主義かと。
でも、主人公のオリキャラは世界観に溶け込んでいましたし、終始良い雰囲気の作品
だったと思います。
文章も解り易く、安心して読めました。
神奈子は実はお姉ちゃんと呼ばれたかったに違いない
オリキャラが男だったら、もっと凄い事になってそうだ
具体的にはいぢり具合g(オンバシラ