「お燐。お燐、お燐お燐お燐ー」
地底深くに存在する地霊殿のその更にまた下。在りし日には多くの罪人を苦しめ、数ある地獄の中でも尤も恐れ嫌われた火焔地獄の跡。まるで炎によって形作られた腐海の様なそこに興奮気味の、けれども何処か能天気な声が鳴り響く。声の主は地獄鴉、霊烏路空。
「お燐、お燐ってばあ。
お燐燐リ燐、燐リリリ燐。お燐燐リ燐、燐リリリ燐。お燐燐リ燐、燐リリリ燐♪」
「明日は卒業式だからー♪
って人をテレフォンナンバーっぽく呼ぶなっ」
ノリツッコミで姿を現す火車の猫、空の親友であるお燐。息の合った友人同士ならではの見事な連携。
「あ、居た。ハロー、オー燐」
「だからそれはもう良いってば。ってか語呂悪いし。何の用さぁ」
「ええと、ねえ」
何故か頬を赤らめて視線を外す空。
「ドキドキときめいて言えない」
「これが最後のチャンスだよ♪
ってだあからそのネタはもう良いって。って言うかもうそろそろ会話として成立する会話を始めて欲しいねえ」
「うにゅう」
それじゃあ改めて。空は小さく咳払い一つ、少し真面目な顔をして。
そしてそれから暫くの沈黙。
「何さ」
怪訝な顔で訊いてくる友人に。
「ええと。何だっけ」
少し真面目だった顔を本気で真面目な顔にして聞き返す。
「冗談言ってる内に、あれ、ええと」
「おおいおい。この鳥頭、鳥頭っ」
「いやあ面目ない。暗記するのは下手だから」
照れた笑顔を前に、はあっと一つ溜息を吐くお燐。この子、昔はもうちょっと難しくて格好のつく言葉も喋っていた気がするのだが、と。
「巫女のお姉さんにやられた時、頭でも打ったかねぇ」
「巫女っ」
その言葉にぱっと顔を上げる空。想起の鍵を差し込まれ、ようやく頭の中身が本来の会話内容を持ち出してきた。
「そうそうそうよ。巫女。彼女に聞いたのよ、さっき、神社に遊び行った時、大変な話」
そうだそうだ、こうしちゃいられない。身体を上下に揺らして息を荒立て、興奮しながら一気に捲くし立てる。
「そっか。おくう今日、一人で地上まで遊び行ってたんだっけ。
て言うか最近地上に行き過ぎじゃないかねえ。もうちょっとこっちでの仕事も頑張らないとさとり様だって」
「そんな事よりっ。大変なのよ、大変。地震なのよ、地震っ」
「地震って。起きるの、これから」
「そうじゃなくって。ほら、起きたじゃない、変な地震。神様がヤタガラス様を私に下さったそのちょっと前」
「ああ。あれかい」
あれは確か夏の頃。お燐は思い出す。小規模で尚且つ大規模という、そんな奇妙な地震があったのは。その範囲は非常に小さく、けれども震度自体はかなりに大きく。長く地底に住んでいるお燐達も未だ経験した事の無い不思議な地震。そんなものが確かにあったのだ。
「あれがどうしたの」
「実はあれね、聞いた話だとね、天人が起こしたらしいのよ」
「天人、って。そりゃまた」
天人と言えば空の彼方、天界でごろごろと食っちゃ寝食っちゃ寝している不老不死の変人達。旧地獄で働いているお燐達とは正反対の位置に立っている奴等。
「天に居る奴等が地面なんか揺らして何が楽しいのやら。解脱した変人の考える事は判らないねえ」
「何でも緋想の剣ってのを使って、それで地震を起こしたらしいの」
死体にならない人間には興味なし。そんな風で話を聞き流すお燐とは対照的に、鼻息荒く腕を組み、にかりと大きく端を吊り上げた口から健康な白い歯を覗かせ、そうして空は宣言した。
「これはもう、倒すしかないわね、その天人」
「はあ?」
「そうしてその緋想の剣とやらを手に入れるっ」
「はい?」
要領を得ない顔を見せる友人に対し、判っちゃないなと人差し指を振って言う。
「何だかその天人ね、単に地震を起こしただけじゃ飽き足らず、その後に神社の侵略までしようとしたらしいのよ。
遥か空の彼方からやって来た侵略者。そんな奴はね、超常の存在から力を貰って変身した太陽の光を受けて戦う正義の味方に倒されるっていうのが昔っからのお決まりじゃないっ」
「何そのいやに条件の限定された正義の味方。って言うか侵略云々言ったらおくうだって」
「それにさあ。地震を起こせる道具だなんて、そんな物を悪者に持たせたままじゃ私達地底で安心して暮らせないよ」
「そりゃまあ、そうかも知れないけどねえ」
「て言うかさて言うかさ。核の力に加えて地震を操る道具まで手に入れちゃったら、私ってば本当に絶対無敵で元気爆発で熱血最強じゃない?」
「本音はそこかい」
何とかに刃物。お燐の頭の中でそんな言葉が顔を出す。それでも刃物ならまだ良い。けれども何とかに核、その上地震まで追加されたら本気で手に負えなくなってしまう。おくう本人としては邪気も無く、ただ新しい玩具を知って興奮しているだけなのだろうが、その玩具の破壊力が街の一つや二つ軽く壊滅させられる様なものなのだから洒落にもならない。
「やめときな、やめときな。こないだだって調子乗って痛い目見たばっかじゃないのさ」
「だいじょぶだいじょぶ。地震の力まで手に入れたらもう、今度こそはあっと言う間に地上を侵略して見せるわ。ついでに天界だって。
凄いじゃない。私達地霊殿が地底地上天界、三界を制するのよ」
何が大丈夫なものか、根拠なんて何もない癖に。て言うかそもそも話の焦点がずれている気がする。一応の説得を思った通りあっさりと弾かれて頭に手を当てるお燐。
参ったなあ、どうしよう。今回は素直にさとり様に相談するか。でもこれでおくうの暴走は二度目。今度はさとり様も本気で怒るかも知れない。ならばその前にまず、打てる手は打っておくべきか。
「頼るとしたら、やっぱり」
そう呟いてからお燐は、胸を張って馬鹿笑いをしている友人に目を遣る。
本当に困った奴。とは言え放っておく訳にはいかない。
◆
◆
幻想郷の境に存在する古めかしい屋敷。歴史を感じさせるその佇まい、何故だか存在する人間界の道具と思われるもの。
そうした中で彼女は溜息混じりに呟いた。
「責任は、取ってもらわなくてはね」
◆
◆
空が地震の力を持った天人の事を知ってからはや数日。天人を倒し地震の力を手に入れるという彼女の計画は未だ実行には移されていなかった。
友人の説得が功を奏した、という訳でもない。ただ、地底を出て天界に向かう為の、その良いタイミングが掴めないのである。
先の異変以来、地底の者が地上にでる事は容易になった。空もお燐もちょくちょくと地上に行っては博麗の神社で温泉卵を食べたり他愛も無いお喋りをしたりしていた。なので地底を出るというそのこと自体には問題も無い。
問題は主である古明地さとりの存在だった。
いくら地底と地上の行き来が容易になったとは言え、さとりのペットであり火焔熱地獄跡の管理を任されているという立場上、何も言わず黙って地上にと、そういう訳にもいかない。行ってきますと挨拶一つ、その位は当然の礼儀である。と言うよりさとりが見逃してくれない。どうもここ最近、誰かに言われたのかペットに対する干渉が多くなってきていた。
そうしてさとりは、心の中を読む力を持つ。
「ちょっと地上に行ってきます」
「あら。何をしに」
「ええと、遊びに」
「成る程。核に加えて地震の力まで手に入れて地上征服、と」
と言う訳でさとりが地霊殿に居る以上、計画は実行に移せない。取り敢えずは何とかなったか。そう安堵もしたお燐。
だが面白い玩具の存在を知りながら手を出せずにお預けを喰らっている状態の友人は、日に日に欲求不満をその身に募らせていく。元々が獣、性格も余り大人びているとは言えず、しかも無駄に大きな力を持っている。このままだとその内、溜まりに溜まった鬱憤が抑え切れずに暴発してしまうのではないか。お燐の苦悩は尽きなかった。
そんなある日、二人は地霊殿のさとりに呼び出された。心を読めるという自身の能力もあってか、能力の高い、人型に近いペットほど距離を取られてしまうが故、自然と放任主義になってしまった飼い主。そんな主から珍しくお声がかかった。幾ら最近はペットへの干渉が多くなってきたとは言え、それでも名指しでわざわざ呼び出しというのは流石にそうそう無い。一体なんだろう。空は特に何も考えずに、お燐は友人の企みがばれてしまったのではとびくびくしながら、揃ってさとりの前に現れた。
「貴方達にちょっと、頼みたい事があるのです」
さとりの一言に、ほっと胸を撫で下ろすお燐。用事って何ですか、屈託なく訊ねる空。
「一週間後に出かける用が出来たの。それでその日は火焔地獄跡の運転はお休みにして、一日地霊殿の留守番をして欲しいのよ」
出かける。さとり様が。
予想外の言葉に目を丸くしてお燐は固まった。その能力その立場、そうしたもののせいもあってさとりが地霊殿から離れる事などまず滅多に無い。それなのに何故。やっぱり友人の企みがばれていて、もしやその始末を鬼に依頼しにでも行くのかも。
「出かけるって珍しいですね。一体何処に」
あれこれ考えて黙り込んでしまったお燐を余所に、何も考えていない空は素直に疑問を主にぶつける。
「まあちょっと、慰安旅行、みたいなものです」
「いわん旅行? 露西亜にでも行くんですか」
「言わんとしている事は判りますが、もっと近場です。朝に出て、夜には戻って来ます。だから一日だけ、留守番をお願いしたいの」
「はーい。判りました」
元気に手を挙げて応える空を見て何故か困った様な笑いを見せながら、一つだけ言っておきますが、そうさとりは続けた。
「私が居ない間、くれぐれも、くれぐれも悪戯をしてはいけませんよ」
それを聞いてお燐の全身の毛が逆立った。まずい、今の言葉はまずい。そんな事を言われたらおくうの頭の中に浮かび上がるのは。
「良い子で留守番をしてくれたら、お土産を買って来てあげるから」
「わあ。楽しみですっ」
嬉しそうに笑う空。それを細めた目で見つめるさとり。
「まあ一応、地上に出る穴には結界を張っておきましょう。それほど丈夫ではありませんが、誰かが破ればすぐに私に伝わる、そうした仕組みの結界を」
そこで話は終わりだった。もう良いですよ、そう告げるさとり。それでは、と、元気良く頭を下げる空。
これはバレなかった、そう考えて良いのだろうか。絶対気付かれると思ったのに。まあでも兎に角、何とかはなった様だ。一人綱渡りを終えた気分のお燐は、盛大に疲れた息を吐き出した。
◆
「衣玖。衣玖、衣玖衣玖衣玖ー」
天高くにそびえる妖怪の山のその更にまた上。悟りを得て輪廻の輪から解脱した者のみが逝ける天界。まるで昔話に聞く桃源郷の様なそこに興奮気味の、そうして少々の苛立ちの色を含んだ声が鳴り響く。声の主は不良天人、比那名居天子。
「衣玖、衣玖ってば。
衣玖、衣玖、ああっもう、衣玖衣玖衣玖衣玖衣っ玖うぅ」
「実年齢はともかく胸周りを除いた外見は年頃の女の子がそんな事を口走りながら顔を上気させないで下さい」
疲れた顔で姿を現す一人の女性、竜宮の使いである永江衣玖。ちょくちょくと天界に顔を出す事があるとは言え別に天子の部下でも何でもない彼女ではあったのだが、どうも以前あった騒ぎの際にちょっとお仕置きをした事が原因か、何か変に懐かれてしまっていた。
「で、何の御用です」
「いやいやそれがちょっと、とある筋から仕入れた情報なんだけどね」
そう言ってわざとらしく辺りを見回し、それから衣玖の耳に口を当てて小さな声で話し始めた。
「核なのよ、核」
「核、とは、どういう」
聞き返してくる竜宮の使いに、これだから妖怪は学が無い、と、鼻を高くして笑う天子。
単語の意味は判る、文の流れが理解できないだけで。言いたい事は有れども口には出さない衣玖。この御方の場合、こうした事を言ったところで意味も無い。
「何でもね、地底に住んでる地獄鴉が八咫烏を食べてその力を手に入れたらしいのよ」
「八咫烏。それは、また」
どうせ大した話でもないのだろう。そう思っていた衣玖であったが、八咫烏、この言葉を聞いて眉間に皺を寄せる。
霊鳥ヤタガラス。太陽の力を持つという神の鳥。太陽の力、核。そこから導かれる答えは一つ。核融合。地獄の妖獣がそんな大それた力を手に入れた、と言うのであれば。
「成る程それは、確かに大変な話かも知れませんね」
「でしょ。だから私、そいつ退治してくるわ」
「は?」
要領を得ない顔を見せる竜宮の使いに対し、判っちゃないなと人差し指を振って言う。
「地底に住んでウランなんか食ってる怪しい獣は、空の彼方から飛んで来た正義の味方によって退治されるのが基本でしょうに」
「ウラン食べるんですか、その鴉。核融合が能力なら、多分ウランは食べないと思うのですが。て言うかそれ以前、退屈しのぎで異変起こそうとした地震源Xが正義の味方って」
「やぁねえ。あれはちょっとしたお茶目な冗談と言うか、止められること前提で実際に起こす気は無かったんだし」
「潰れましたよね。貧相な神社が一つ」
「人的被害が零なんだから問題なし」
無い胸を叩いて鼻を鳴らす天子。
「って言うかさあ、核の力、太陽の力なんてそんなもの、地底の鴉なんかよりも天に住む私にこそ相応しいとは思わない?」
「本音はそこですか」
思った通りではあったが、実際口にされるとやはり疲れる。これはまた面倒になるな。空気を読み、流れの先を読み、頭を痛くする衣玖。
「天に浮かぶ大地、そこに備わった核の力。素晴らしい事じゃないの、これは。
今後もし地上に諍いが起これば、天界からそこに核を叩き込む。今後は地上の者達全てが、天井から細い糸で吊るされた剣の真下で暮らす事になるのよ。ちょっとでもおかしな真似をすれば糸はぷつりと切れる。
素敵。これで地上はとても平和な世界になるわっ」
「そんな、力と恐怖による支配などっ」
「あらあら衣玖ってば、この状況でそんな台詞、言っても良いものなのかしら。そんなんじゃあ背後からいきなり撃たれても文句は言えないわよ? もう少し、空気を読んだ発言をしなさいな」
空気を読んだからこその発言なんですけどね。ここで適当にあしらったら、ノリが悪くてつまらない、そう言って頬を膨らませるくせに。
「あら、何か言ったかしら」
「いえ別に。
それにしても地底怪獣を退治って、地上に降りて、それから更に地面の底まで潜る心算なんですか」
衣玖の問いに、その必要は無い、そう言って天子は首を振る。
「Xデーはもう決まってるわ。楽しみに待ってなさい」
◆
◆
木で出来た建物。時季外れの蛙の鳴き声。夥しい数の蛇の抜け殻。
そうした中で彼女は笑った。
「責任ね。取るわよ、勿論。成るたけ美味しい形で」
◆
◆
「では行って来ます。くれぐれも、悪さはしない様に」
そう言い残して地霊殿を離れたさとり。その背中が見えなくなったと同時。
「じゃ、ちょっくら天人退治に行ってくるわね」
そう言って、異常に大きく細長い風呂敷包み一つを背負い屋敷を出ようとする空。慌てて止めるお燐。
「ちょいとおくう。本気で行く気かい」
「当たり前じゃない。さとり様が出かけるなんて滅多に無い機会。みすみす逃す訳にはいかないでしょ」
「でもほらさあ。結界が張ってあるって言ってたじゃないか。それを破ったらすぐさとり様に伝わるって」
「ふふふふ。それがね、実は在るのよ。秘密の抜け道が」
主が出かける事を知り、その日を決行日にと定めた空。とは言え地上に出る穴には結界が張られている。力技で壊すのなら容易でも、気付かれぬ様に解除となると空には到底出来はしない。
さてどうしたものか。余り良くはない頭を必死に回していた空だったが、意外と簡単あっさり、問題は解決してしまった。偶然に見付けたのだ。博麗神社傍に通ずるものとは別の、地上に繋がる抜け道を。
「実際通って確認済みよ。近くに建物も何も無い、やけにだだっ広い原っぱみたいな所に出たけど、確かに地上へと通じてたわ」
「いや、でも、それにしたってさあ。やっぱよしといた方が良いって。さとり様に知られたら」
「大丈夫よ。地上への道は確保できたんだし、後はもう、一日あれば余裕で天界行って天人倒して地震の力を手に入れて、そうして地上と天界を支配できるわ。私の力はお燐だってよく知ってるでしょう」
友人の力がどれほど強大なものか、それは確かにお燐もよく知っている。けれどもその力を以って、ホームグラウンドである火焔地獄跡で戦って、その上で敗北したのがついこの間なのだ。
それに例え首尾良く事が運び地上天界を制覇したとして、そこ迄の事態になればもう絶対確実に主の知る所となってしまう。何をどう考えても、お燐の頭の中にはろくでもない結末しか浮かんでは来なかった。
「そうだ。そんな事よりお燐。あれ、用意しておいてくれたかしら」
「え。あ、うん」
空に催促されて懐から取り出す。小さな箱一つ。
「お気に入りのやつから選りすぐった部分を、小さく細かく切って詰めといたから」
「ん。ありがとう、お燐。気が利くわね。良いお嫁さんになるわよ、きっと」
「馬鹿言ってないで」
唐突に変な事を言い出した友人から、慌てて目を逸らすお燐。真正面から素直に褒められると流石に照れる。少々頬が熱い。
「ねえ、本当に行くのかい」
「うん。
ああ、そうだ。お燐。この戦いが終わったら」
「終わったら、何さ」
「う、ううん。何でもない。後で言うわ、後で。
それじゃ、ね」
「うん。気を付けて」
そうして空はお燐を残し、一人地上に向けて飛び立った。
「て言うか別に、後で言う事なんて何も無いんだけど」
ただ何と無く、あの場の雰囲気に合わせた格好の良い台詞を言いたかっただけだった。良い感じに決まった。お燐の切なげな表情を思い出し、空は確信していた。
「て言うか別に、後で言う事なんて何も無いんだろうねえ」
それ以前にあれ、明らかに死亡フラグ。どうしてこう不安要素ばっかりを無駄に積み上げてくれるんだろうか。出来れば一瞬でこてんぱんにされて地底まで送り返されて欲しい。そう願うお燐だった。
「思い留まってくれれば、まあ、それが一番だったのだけれど」
意気揚々と飛んで行くペットを遠くに見ながら、育て方を間違えたかしら、そう飼い主は溜息を漏らした。
◆
「それじゃあまあちょっと、怪鳥を退治して核を手に入れてくるわね」
気楽な顔と声で手を振る天子を見ながら、もう諦めの表情しか出せない衣玖。
「どうせ無駄でしょうけどね。一応言っておきます。やめておいた方が良いと思いますよ」
「大丈夫、大丈夫」
予想通りの返答。けれどもまあ良いか。衣玖にとって今の行為は、一応は止めた、その事実を作ったというだけでも意味はある。これでもう負い目は無い。自身の心の平静は保てる。
「でも地底じゃないとして、一体何処に行く心算です」
「何処も何も、正義の味方の行く所にはいつも何故か怪獣が出てくる、そういうもんでしょう」
「また変な事を」
「ま、冗談はさておき。
実はとある筋からの情報でね。怪獣が地上に出てくるその日その場所、実は既に入手してあったりするのよ」
「とある筋、ですか。随分とその、とある筋さんを信用している様ですが、それが例えば偽りの情報だとか罠ではないのか、とか、そう少しは警戒もした方が宜しいのではないでしょうか」
「大丈夫よ」
嘘って事は絶対あり得ないから。何の根拠があってか自信たっぷりに天子は言う。
「じゃあね衣玖。お父様達には巧く誤魔化しておいてねえ」
そう言って地上に降りていった天子を見送って後。
「さて、と。止めましたからね、一応」
そう言って何処からともなく一枚の紙と筆を取り出した。
「ふむ」
約五秒ほど。思考の為に動きを止める。
「まあ、文面はどうでも」
そうして書く。僅か一秒もかけずに。
「偶にはこういうのも良いでしょう。あの御方にとっては。
それに私も。のんびり出来ますし」
折り畳んだ手紙を懐に仕舞い。
「悪い奴等ぁは~てんしの顔をしぃてぇ、心で爪ぇを~研ぉいでるものっさあ~♪」
鼻歌交じりに衣玖は天界を後にした。
“怪鳥対 対天界人”
原子怪鳥ウツホ
緋想天人テンシ 登場
その日幻想郷では名の有る者達が一同に萃められた集会が行われていたのだが、射命丸文は一人、その会場から離れ山の中をさ迷い歩いていた。
「本来は集会をスクープする心算だったんですけどねえ。あすこには他の天狗少女達も沢山萃まってましたし、皆と同じ事をしていても特ダネは取れませんから」
他には誰一人認識も出来ない山の中で、やけに大きな声で文は独り言を口にした。
「おや?」
ぴたりと彼女の足が止まる。そうして耳に手を当て、ゆうっくりと、大きな動作で周囲をうかがう。
「何でしょう。何か聞こえます。鈴の音、でしょうか。でもこんな山奥で何故」
またもや大声で独り言。腕を組み、うんうんと頭を左右に揺らして後、文は音のする方へと歩き出した。
目的の場所はすぐだった。小さな神社。参道脇には無数の大きな御柱が立ち並んでいる。
「こんな山奥に神社が在るなんて。って、おや」
唐突にしゃがみ込み、足元に向けて手を伸ばす。
「こんな所に何だか判らないけれど紙切れが。特に理由も有りませんが拾っておきましょう。後々、役に立つ事もあるやも知れませんし」
そうして紙切れを懐にしまって立ち上がる。
「おおっと、あれは。あれが音の正体でしたか」
参道の先、境内の中央、本殿前に目を向ける文。彼女の視線の先で、一人の少女が舞っていた。手には鈴。
「冷たく清らかな山の空気、木々に囲まれた静寂の中、そこに鳴り響く鈴の音、一人舞い続ける巫女の少女。何と美しく、何と幻想的な光景である事か。一体ここは何処なのか、彼女は一体何者なのかっ」
大袈裟な仕草で両手を広げ声を上げる。それと同時、鈴の音が消えた。文の声に気付いたのだろう。巫女の少女が舞を止め、文の居る方に向かって歩み寄って来た。
「何とっ。謎の神社の謎の巫女が、こ、こちらにやって来ます」
慌てふためいた様子で後じさる文に向かって、不思議そうな顔で首を傾げながら巫女の少女が声をかけてきた。
「こんにちは、文さん。何か御用ですか。
って言うか、謎の神社とか謎の巫女って何ですか」
守矢神社の風祝、東風谷早苗は首を傾げた。
今目の前に居るのは天狗の少女、清く正しい事でお馴染みの射命丸文である。文と早苗は互いに顔見知りであるし、天狗の住むこの妖怪の山、そこに在る守矢の神社に文が来たのも一度や二度ではない。それなのにこの反応。謎の神社とか謎の巫女とか。これではまるで秘境に迷い込んだ一般人か何かの様ではないか。しかも何故だか背中を向け、何も無い空間に向けて声を上げているし。
「あ、その、私、新聞記者で、仕事でここの近くに来てて、道に迷って、それで」
「は、あ」
何を言ってるのかさっぱり判らない。道に迷うも何もこの山は妖怪の山、天狗である文にとっては庭の様なもの。仕事でここらにと、その表現もおかしい。怪訝な顔を見せる早苗の前で、しどろもどろの風体で文は続けた。
「そ、その。良かったら今の踊り、あれ、取材させてもらえないでしょうか」
「あ、あれですか。良いですけど、でもあれ、別にわざわざ取材するほどのものでも」
早苗が舞っていたのは守矢の神社に代々伝わる神聖なる巫女神楽。
と言う訳でも何でもなかった。
今日の朝早くに突然、彼女の使える二柱の内一柱である八坂神奈子が、今日は境内で神楽でも舞ってなさい、そう言って鈴を渡してきた。何も判らぬままに早苗がそれを受け取ると、ちゃんとやっといてちょうだいね、と、それだけを言ってもう一柱の神、諏訪子と共に姿を消してしまった。
さてどうしよう。早苗は困り果てた。
普通の神社、普通の巫女ならば兎も角、直接に神様との対話ができ、秘術で実際的な奇跡を起こせる彼女にとって神楽なんてものは全く必要が無く、実際先代からも教わってはいなかった。強いて言うならば宴会の席で神様から、よっしゃ早苗いっちょ踊りでもー、と、そう言われて即興で作った様なものが、神様に奉納する舞と、そういう意味では神楽であったかもしれなかった。
だから今回も、言われたのだから仕方が無いと、手渡された鈴を見つつ適当に考え出したのが先程の舞であった。わざわざ取材を受ける程の大層なものではない。
まあそれでも、取材したいというのであれば断る理由も無い。そう考えて早苗が再び神楽を舞おうとしたその瞬間。
「きゃっ」
「なわわわわ」
突然に地面が揺れた。それと同時に空気を揺るがす爆音。女の子らしい小さな叫びを上げて倒れ込んだ早苗と、何かいやに情けない声で走り回る文。
音が聞こえたのは遠かった。取り敢えず神社の近くではない。山の中か、それとも外か。状況を確かめようと早苗は宙に浮く。
「ま、待って下さい」
遅れて文も飛び上がる。
木々を超え360度の視界を確保できる高さまで昇り、そうして二人は音のした方向に目を向けた。
山からは少し離れた所、何か異常に広い平原のそのど真ん中に、もうもうと土煙を上げて大きな穴が一つ、出来上がっているのが確認できた。
「あ、あそこに何者かが居ますっ」
「えっ」
叫び声を上げる文。それに反応して早苗も目を凝らすが、どうにも距離が遠い。その何者とやらは全く見えない。
「流石。天狗は目が良いんですね」
「あ。いえ別に、実際私にも見えてる訳ではないんですが。
って。じゃなくて」
「え。今、何か」
「あああ、あっ、あれは」
不思議な事を言う。そう思った早苗の言葉を遮り、今度は天を指して文が叫んだ。
「あれ、は?」
今度は早苗にも見えた。天に浮かぶ大きな雲、まるでその雲の中から出て来たかの様、無数の小さな物体と、そうしてそれらに囲まれて大きな岩の塊の様な物が一つ、ゆっくりと地上に向けて降りて来ていた。物体がこのままの向きで進むのならば、その到達する場所は平原に空いた大穴。
これはまずい。何が何だか判らないが、けれども多分、何かまずい事が起きる。確信めいた予感が早苗の中を走った。
「でも、まぁ、だけど」
突然の異状の中で、それでも事態は最悪と、そこ迄の事には至ってはいなかった。物体が降り行く先、大穴が空いた場所。その周囲には建物の何一つも存在しない。里からも遠く離れている。これならあそこで何かが起きても、巻き込まれて負傷する者が出る様な事態は避けられそうだった。早苗はほんの僅か、安堵の息を漏らす。
「って言うか、あれ? そもそも、あんな所にあんな大きな」
「た、たたたたたたたた大変です」
ふいと頭に浮かんだちょっとした疑問。それを口にしようとしたその矢先、もう何だか面白可笑しい位の勢いで文が口を回す。よく舌を噛まないなあ。素直に感心する早苗。
「あの近くには大勢の人間達が」
「へ」
思わず間の抜けた声が漏れた。そんな馬鹿な。里はもっと遠くに在る筈。それなのに、偶々通りがかった者が少数と言うならまだしも、大勢の人間が居るなんて事が。
あり得ない。でも。
「ああもう。こういう時に限って神奈子様も諏訪子様もいらっしゃらないしっ」
こうした異変は本来、博麗の巫女達が出向くべき事態なのだろう。守矢の神社は基本、山の為にしか行動を成さない。とは言えこうしてはっきりとした異変を目前にし、しかも多くの人間が危機に晒されていると言う以上、このまま黙って見過ごす事など早苗には到底できもしなかった。
二柱には後で勝手な行動を詫びよう。早苗は大穴の空いた平原に向けて飛び立った。
「あ、巫女さん。私が案内しますよーっ」
何故か早苗の飛んで行った方向とは正反対、自身の背中、何者も認識できない空間に向き直って声を出し、それから文も飛び出した。
◆
「よっし。ふふふ、中々に格好良く決まったわね」
明るい日の光に包まれた地上の世界。その中で空は一仕事終えた満足げな笑顔を見せ、ふうと一息、それから右腕で額の汗を拭う。
彼女が今通って出てきた穴は博麗神社近くに繋がるそれとは違い、壁が岩肌ではなく何か変にふやふやとしている奇妙な穴だった。道程も非常に短く、何の苦労も無く地上に出られる。
ただ、それはそれで面白味も無い。そこで空は一つ、穴から出る直前で大きな爆発を起こしてみた。その方が格好良いから。
さて地上は取り敢えずの通過地点。後はここから空に飛んで天界に。そう天に向けて顔を上げた彼女の視界に、幾つもの気妙な物体が群れを成して降りて来るのが見えた。
「あれは何?」
一瞬の戸惑い。だが、獣の本能は瞬時に結論を下す。
「あれは敵!」
理屈ではない。感覚で判る。あの天人だ。あの天人が地上まで降りて来ているのだ。だが。
「あれは何だ!?」
次第に近く、大きくなるその物体群。それらは全て同じ形、注連縄を巻かれた石。中央に構える異常に大きな物も形は同じ。あれが地震を起こす緋想の何たらと言うやつか、はたまた天界の秘密兵器か。
「謎を秘め襲い来る侵略者っ」
奴を倒す力が欲しい。そう空が願ったその時、胸の紅珠が輝いて。
「ヤタガラーッス!」
腕を高く掲げて勇ましい叫び声を上げた。瞬間、彼女の身体は眩しい光に包まれ。
包まれている内に、背負った風呂敷包みから大急ぎで第三の足を取り出して右腕に装着。唐草文様の風呂敷、裏を返せば大宇宙の神秘。ラスボスって言ったらやっぱり背景に宇宙が無くては。そんな発想から作ったお手製自慢のマント、それを背中に羽織る。これで準備完了。左手は腰に当て、異様に大きくなった右手を力強く上方に突き出し。
「でゅわっ」
ウツホが飛び立つ。ウツホが戦う!
◆
「来たわね。ふふふ、予想通り」
遥かな高みから見下ろす地上の世界、そこで起きた大爆発と、その少し後に見えた小さな輝き。それを見て天子は嬉しそうに口の端を吊り上げた。彼女が立つのは超巨大な要石の上。周囲には無数の小型要石円盤軍団を従える。
雲より高くに存在する天界。そこから遠く離れて地上に一人。怪鳥退治に使命を懸けて、燃える核にあと僅か。
『でゅわっ』
轟く叫びを耳にして、そうして天子は思う。
地上に降りるのも久し振り。前回の、自身で起こした異変以来。あの時は自分の考えた設定の上で、倒されるべき悪者として地上に現れた。だが今回は違う。感謝なさい、地上の者達よ。
今回は、凶悪怪鳥倒す為。正義と平和を護る為。
「帰えってきたぞ、帰えってきたぞお」
◆
「これ、って」
もし今の自分を鏡で見たならば、きっと頭の上に漫画みたくに大きな疑問符が浮かんでいるに違いない。そんな変な事をつい考えてしまう程、目の前の光景は早苗にとって訳の判らないものだった
「お祭り、なのかしら。でも」
文が彼女を連れてきたのは異変の舞台である平原のすぐ近く、眺めの良い丘の上だった。そうしてそこでは、本来ここから離れた里に居る筈の人間達の殆どが集まっていた。何かを焼いている良い匂いが鼻をくすぐる。屋台が何軒か出ていて随分と賑やかである。
祭りでも開いていたか。だが、それにしては少々おかしい。何故にわざわざ、こんな里から離れた何も無い場所で。それに子供達、特に五つかそこら位の小さな子供達の何人かは不安そうな、泣きそうな顔をしていて、実際、泣き出してしまって母親に宥められている子も居る。ただの祭りにしては変だ。大人達は皆、一様に楽しそうにしているのだが。
「それにこれ。こんな強力な」
早苗は周囲を見渡す。不思議なのは場の雰囲気だけではなかった。
現人神である早苗が思わず感嘆の息を漏らす、それ程の高度な結界が、それも一枚だけでなく、二重にも三重にも四重にも、何重にもなって張られていた。これ程のものが用意されているという点だけを見ても、ここが普通のお祭り会場では無いという事が容易に想像がつく。
一体ここで、何が行われていたのか。これから何が行われるのか。
「はーい会場に集まってくれた皆、こーんにーちはー」
早苗の思考を一瞬で吹き飛ばす突然の大音声。見てると文が、にこやかな顔で河童特製のマイクを手にしていた。
『こんにちはー』
子供達は揃って文の言葉に声を返す。
「うーん。ちょっと声が小さいかな。もう一度、今度はもっと元気良く。はい、こーんにーちはー!」
『こーんにーちはー!』
「うわあ、とおっても大きな声」
場の雰囲気とか異常に高度な結界とか、そんなあれこれは早苗にとって一瞬でどうでも良くなった。なぜなら今目の前で起こっている事の方が遥かに意味不明なのだから。
「あの、ちょっと、文さん」
歩み寄って小声で話しかける。が。
「皆ももう見たよね。地底から突然現れた大怪鳥。天からやって来た謎の大円盤軍団」
早苗の方には見向きもせず子供達に向かって声を張り上げている。
「これからここで二大怪獣が大激突!
でもその前に皆、お姉さんと約束して欲しい事があります」
どうやらここは話しかけても無駄の様だ。そう悟って大人しく身を引く早苗。
「まず一つ。二大怪獣はどっちも強くて、戦いはとおっても激しくなります。危ないから皆は、絶対に結界から外に出ないで下さいね」
それにしても。早苗は思う。今のこの光景、何だか何処かで見た様な気がする。
「二つ目。大怪獣によって幻想郷が危なくなったら、皆が大好き、正義の味方がきっと助けに来てくれます」
正義の味方。その単語に反応して俄かに色めき立つ子供達。
「でもね、怪獣は強いから正義の味方ももしかしたらピンチになってしまうかもしれません。そうなった時は皆、大っきな声で正義の味方を応援してあげてねっ」
何処で見たのか、いつ見たか。早苗には思い出せない。でもきっと、多分、ずっと昔の話。今ここで目を輝かせている子供達と同じ位、自分が小さかった頃の話だった気がする。
「今言った二つ、お姉さんと約束できるっていう子は元気良く手を挙げてー」
文の言葉を受けて、ただの一人の例外も無く子供達は皆、はーいと応えながら手を挙げた。
「はーい、ありがとう!
それじゃあ、おおっと、皆見て。二大怪獣の戦いが、どうやら始まるみたいよ」
◆
「はじめまして。核の力で調子に乗った地底の大怪鳥さん」
巨大要石の上に仁王立ちし、上からの目線を地底から登って来た怪鳥に突き刺す天子。
「こちらこそ。道具を使わなきゃまともに勝負も出来ない親の七光り侵略者さん」
空の向こうからやって来た侵略者の言葉に一歩も引かず、真っ向から睨み付ける空。
二人の少女が宙の真ん中で相対する。
「余り調子に乗り過ぎる様だと、その内力尽きて溶岩の上にでも落ちる事になるかも知れませんよ」
「どうもご心配いただいて。でも貴方の方こそ、勝負はまだ一回の表だー、なんて言いながら逃げ出しそうな顔してますわね。その際には後ろから撃たれない様に、どうぞお気をつけ下さいな」
互いの間で言葉の火花を散らす。そうして互いに思う。何言ってるんだこいつは、訳の判らない。
問答もはや無用。
「地震の力は私が貰うわ」
先に動き出したのは空だった。小細工はしない。真正面から巨大要石に向かって飛び出して行く。
「落ち着きの無い動物」
呟いて天子は片手を軽く回す。それを合図に小型の要石達が一斉に動き出した。高速で散開、瞬時に向かってくる怪鳥を包囲する。
「落ちろカトンボ」
侵略者の声と共に光線を放ちながら突撃してくる石の群れ。
「弾幕薄いよ、何やってんの」
空は動じない。前後左右上下、全方位から迫り来る光の矢の中で、けれどもその速力を全くに落とさず、それでいて冷静に一つずつ避けて行く。ただの一撃もかすらせはしない。この程度ならお燐と遊んでる方が遥かに。友人の殺人的弾幕を頭に浮かべながら目標に向かって突き進む。
「へえ。鳥なだけあって、成るほど速さは」
要石軍団を物ともせず近づいて来る怪鳥を前に、けれども天子は余裕を崩さない。速さだけは大したもの、見事な回避能力。だが、力勝負ならどうか。楽しそうに目を細め、手の上でカードを躍らせる。
「天地開闢の重み、獣である貴方に受け止めきれるかしら」
途端、彼女を乗せて宙に静止していた巨大要石が、まるで支えていた目に見えぬ糸がぷつりと切れたかの様、突撃して来る怪鳥の頭上に落下して行った。
「天地開闢プレスだッ!」
「ちょ」
ちょこまか鬱陶しい小石に気を取られていたせいで完全に虚を付かれた。しかも相手は進行方向真正面から高速で迫って来る。脇に逃げる暇も無くその両手で巨大な岩の塊を受け止める空。
だが質量が違い過ぎる。速さもある。空の小さな身体で到底抑え切れる筈も無い。
「もうおそい! 脱出不可能よッ! 無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ――――ッ」
天子が吼える。空の身体を巨岩の底部に貼り付けにしたまま。
「ぶっつぶれよォォッ」
要石は大地に突き刺さった。その上で足から伝わる振動と空気を揺らす轟音とを感じ、天子は己の勝利を確信した。終わったのだ。笑いがこみ上げる。所詮は地底の獣、勝負にもならなかった。いや、自分が強すぎるせいか。これで核の力も自分の物。そう思うともう、本当にどうしようもなく笑いが止まらない。
「不死身ッ!! 不老不死ッ! 緋想の剣ッ!
これで何者もこの天子を超える者はいないことが証明されたッ!
とるにたらぬ地上の者どもよ! 支配してやるわッ!! 我が『知』と『力』のもとにひれ伏すがいいわッ!」
後は地獄鴉の死体を確認して八咫烏の力を吸い取るだけ。尤も、吸い取るだけの力が残っていればの話だが。
これは少々やり過ぎたか。そう思って軽く手に頭を当て。
「っえ」
次の瞬間、天子の身体は要石を離れ宙に飛び退いていた。何かに押し出された訳でもない。ただ身体が勝手に。
自分自身の行動をすぐには理解できなかった。けれども少し遅れて、彼女の頭もその理由をはっきりとした言葉として表した。
ここは危険だ。何かがまずい。
本能からの警告を天子が認識したのと同時。
「う、っそ」
天子の目の前でそれまで足場にしていた巨岩が一瞬にして消えて失せた。信じられない光景だった。思わず声も漏れる。
力で砕かれ訳ではなかった。要石が紅く染まった。そう思った刹那、それは一瞬にして液体へ、そして気体へと変わっていった。天の力で創られ地を治める巨大要石。それが瞬時にメルトダウン。
「これはまた、ちょっと」
身をかわすのが僅かでも遅れていたのら危なかったかも。一瞬で蒸発した巨大要石の落下跡を見下ろしながら天子は背中に冷たい汗を感じていた。なるほどこれは、普通の炎とは桁が違う。流石は神の火というところか。
感嘆の息を漏らし、そうして視界に入れる。神の火をその身に宿した少女の姿。
「意外。天人って結構、面白い事してくるのね」
熱で歪んだ空気の中、腕を組んで空は笑う。上に圧し掛かっていた要石と同様、彼女の足元の大地も超高温に晒され小さなクレーターにも似た有様を見せていた。
「うーん。これだったらもっと、遊んでも良いかも、だけど」
目の前の敵は話に聞く普通の天人とは違う。随分と攻撃的、しかもやる事が豪快で面白い。このままこの天人との戦いを楽しむのも悪くは無いかもしれない。そうも思う空。だが。
「残念。今日は時間が無いのよね。さとり様が地霊殿に帰ってくる前に全部終わらせないと」
目の前の天人を倒し緋想の何とやらを手に入れ、そうして核と地震の力を以って地上更には天界をも征服する。主が帰って来る今日の夜までにそれらを全てやらねばならない。第一歩であるここで無闇に時間もかけられない。
「ご免なさいね。一瞬で決めさせてもらうから」
そう言って懐から取り出す。朝、友人から手渡された小さな箱。
何が出て来るか。間合いを離し身構える天子の前で。
「って、しまったーっ!」
突然に狼狽した大声を上げる空。
「第三の足を着けてたらお箸使えないじゃないっ」
「お箸?」
いきなり何言ってるんだ、こいつ。そんな天子からの視線はまるで気にもせず、どうしよう、どうしようと頭を捻る。
「人型の時はちゃんとお箸使えって言われてるし、でも、うう」
暫くうんうん唸りながら頭を左右に振っていたが、仕方ない、そう叫んで決心を決める。
「さとり様見てないし、良いよね」
そう呟いてから左手に載せてある小箱の紐を解き、包装を破り、蓋を外す。全て口で。
「いただきまーす」
そのまま開け放たれた箱の上に顔を付け、ブヂュブヂュル音を立てながら中身を貪る。そんな様子を見て天子は眉をひそめた。これだから獣は。手を使いなさい、手を。
「って言うかそれ以前、戦闘中に食事とは豪儀なものねえ」
もしかして馬鹿にされてるのか。見事に隙だらけ。今なら簡単に倒せる。
そうは思いながらそれでも敢えて天子は手を出さない。そんな勝ち方をしても面白くない。どうせならこの馬鹿にやりたい事の全てをしっかりとやらせてやろう。その上で叩き潰した方がすっきりするというもの。空中で腕を組みながら眼下の敵が食事を終えるのを待つ。
「ご馳走様でしたっ」
元気良く食後の挨拶。そしてこれで準備も完了。
「それじゃ改めて」
懐から取り出す。今度はカード一枚。
「見せてあげる、霊烏路空最大の奥義」
ふわりと宙に浮く空。
「お代は要らないよ。見終わったら後は、貴方にはお燐へのお土産になってもらうから」
ゆっくりと上昇を続けていく身体は、天子とその高さを同じくした所で動きを止めた。両目を閉じ小さく息を吸う。そうして左手に持ったカードを胸の紅珠にそっと当てる。紅珠が光を放った。光は見る見る内に大きく、眩しくなってゆき。
「嘘。ちょっと待ってこれ、話が違う!」
けっこう呑気してた筈の天子が慌てて口を手で押さえた。周辺の空気の温度が急激に、異常に上昇した。下手に吸い込めば肺がやられる。目を細める。熱風でもうまともに開いている事も出来ない。視界が赤く歪む。直接攻撃を受けた訳でもないのに髪や服の端が焦げ縮れていく。
鴉の姿は光の中に完全に消えていた。天子の目の前にあるのは二つ目の太陽だった。地上の人工太陽。
何て事。聞いていた話と違う。
彼女が予めとある筋から得ていた情報では、八咫烏の力、核融合の能力を使いこなすには火焔地獄の超高温、超高圧が条件と、そういう話であった。だが目の前では実際に、地上の大気中で核融合が起きている。あり得ない。理屈で考えれば絶対に。
「こんな筈じゃなかったって目ね。でもこれが現実よ」
光の中から鴉の高笑いが響いてきた。
「地上で人工太陽が作れる筈が無い。そう思ってたんでしょう」
天子の思惑を言い当て、でも残念、そう空は告げる。
「さっき食べたあれ、あれはお燐のコレクションの選りすぐりから切り出したお肉を火焔地獄の炎で焼いた物。あれを食べる事で私は体内で一時的に火焔地獄を再現できるっ。そう、判り易く言うと焼肉食ってパワーアップッ!」
ってそんな訳があるかっ。
思わず開きそうになった口をすんでのところで留め、心中でツッコミを入れる天子。理屈で考えて明らかにおかしい。火焔地獄の炎で焼いた肉を食べたから火焔地獄の条件を再現できるなどと。馬鹿げている。そんなものは単なる思い込みに過ぎない。
けれども。
軟骨がうめえんだよ軟骨が。そんな事を喚き散らしている人口太陽を前に、けれども、と、そう天子は考える。
思い込みの力という物は存外に侮れない。
生身の人間が、体重百キロの蟷螂と戦っている、そう思い込む事で一人で吹っ飛んだり出血したり出来る様になる。
生身の人間が、全身の骨格が多重関節になっている、そう思い込む事で自らの手の肉が削ぎ落ちる程の超音速打撃が放てる様になる。
思い込みの力とはそこまでのものなのだ。
それにそもそも、神霊力の行使なんてものは物理的な理屈と言うより精神の作用に拠る部分が大きい。よって思い込みの力が影響する余地も増える。
更に言ってしまえば、目の前の敵は人ではなく獣。鴉。鳥頭。頭からっぽの方が夢詰め込める、等と昔の人は言ったが、それと同じく端から理屈なんてものを持ち合わせていない空っぽの頭は、その分妄想、思い込みを多く強く持つ事が出来る。
こうして考えれば、成るほど目の前の馬鹿げた光景は天子の頭にも理解のできるものだった。
尤も納得が出来ただけで事態は何も好転はしていない。人工太陽はその大きさを、輝きを、熱を、更に強く増していく。それも異常な速さで。
そう、余りにも速すぎる。これは、そう、これは、ただ太陽が膨張しているだけと言うより。
「しまっ」
思わず口を開けた。だが言葉は途中で途切れる。熱された空気が口中に侵入した為だ。
何て間の抜けた。胸を焼く空気の熱さをぐっと堪え、口を固く閉じたまま、心の中で天子は舌を打った。気付いたのだ。自分の身体が少しずつ太陽に引き寄せられている事に。予想外の出来事に理解を合わせようとだらだら頭を回している内に、気付けば太陽の重力圏に捉われていた。
太陽に近付き過ぎて、逃げる事が出来なくなってそのまま焼け死ぬ。そんな最期、天からやって来た者として余りに惨め。もう完全に笑い話。しかし今の状況、もはや天人である天子でも自力での重力圏脱出は不可能だった。ならばどうするか。
答え①美少女の天子は突如反撃のアイデアがひらめく
答え②竜宮の使いがきて助けてくれる
答え③助からない。現実は非情である。
天子が○(マル)を付けたいのは答え②だが期待は出来ない。雲の中に住んでいる衣玖がここに都合よく現れて、『黒い海に紅く』と共に間一髪助けてくれその上空気を読んで必殺の新アイテムまで持って来てくれるという訳にはいかない。そもそも天子が思うにあの竜宮の使い、余りやる気が無い上にどうも自分の事を軽んじている節がある。今のこの状況を見たら、むしろ良いお灸と養豚場の豚を見る目で言い出しかねない。
やはり答えは①しかないようだ。一体どうやって太陽の重力から逃れるか。
いいや、逆だねッ。天子の心が叫ぶ。
普通に考えて誰もが逃げを探るこの状況、しかし天子は、何と太陽に向かって真っ直ぐ飛び出した。そうして加速に乗ったままカードを掲げる。最大の奥義には最大の奥義を以って応えるのみ。敵が太陽を地上に降ろしたと言うのならば。
「こっちは全人類を緋想天に押し上げてやるわっ」
もはや口を押さえる事もしない。天子の身体が光の玉に飲み込まれ、その姿が完全に掻き消え。
直後。
膨張を続けていた太陽がぴたりと動きを止めた。そうして光が溢れる。それは太陽の輝きとは全くの別物、真っ赤な光の線が、太陽の内側から、まるで切り裂くかの様に長く真っ直ぐに伸びていく。
太陽の輝きと赤の光線。二つの光は鬩ぎ合い、混じり合い、極限の上を照らす程に膨れ。
けれども。
振動はなかった。音さえもしなかった。本当にあっさりとしたものだった。
光は一瞬にして完全に消え去った。
同時にあれだけの広さを持った平原も跡形もなく消えていた。土煙の一つすら残さず、大地は巨大な半球の窪みへと変わっていた。
そして、その真ん中で倒れ付す二人の少女。
「無、茶苦茶をっ」
先に立ち上がったのは空だった。そうして吐き捨てる。何て言う無茶苦茶な天人か。
確かに今の状況、下手に逃げを選んでジリ貧となる前に一気に相手を潰す、そうした手もありではあったかも知れない。火焔地獄跡で使ったのならば相手の霊撃を半分以下の力に抑える、そんな人工太陽を、いくら友人の力を借りたとは言えやはり地上、完全な再現は出来ていなかったという点も相手の作戦にとっては有利に働いた。
それにしても。太陽のど真ん中に突っ込むなどと言う狂った考え、一体どういう頭なら思い付くものなのだろうか。そうして力技に力技を叩き付けて無理矢理に相殺させた。いくら身体が頑丈だからとは言え。本当に信じられない天人である。
背中の羽が重い。今の爆発でかなりのダメージを負った。暫くは飛ぶ事も出来はしまい。そこまでの状況に陥りながら、しかし空はその顔に笑みを浮かべた。
「余、裕。この、程度。全っ然」
遅れて立ち上がる天人。口では何とか強がりも言う。だが、手にした剣を杖代わりで震えの来ている足を何とか支えているその様相。服のあちらこちらが焼け焦げ両の肩で大きく息をする。
ダメージは敵の方が上。思った以上に手間取ったがそれもこれで終わり。空は天人に止めを刺そうと、そうして一歩目、右足を上げて。
瞬間、天子は小さく息を吸う。
空の右足が地に付く。
天子は鋭く息を吐く。
空の左足が宙を離れる。
同時。
「へ」
空の口から小さく声が漏れた。一瞬だった。一瞬にしてすぐ目の前、下段に剣を構え踏み込んで来た天人の姿。
何処にそんな力が。飛んで逃げる。そう思って羽に力を入れ、けれど鈍い痛みがそれを遮る。後方に跳び退く。その為には左足を下ろしてから両足で地を蹴って。
精神的な油断、肉体的なダメージ。そうしたものが空の反応を遅らせた。時間にすれば一秒の半分にも満たない、けれども天子にとってはそれで充分。裂帛の気合と共に剣先を地に摺らせ一気に斬り上げる。
何とか間合いを離す空ではあったが、避け切れず右の上腕に深く斬撃を受けた。傷口に手を当てる。しまった、これでもう右腕は。
「って、あれ」
手を当てた箇所からは僅かの痛みも感じない。訝しんで手を離して見てみる。どうした事かかすり傷の一つもついてはいない。
翻って天人の方。今の一撃で最後の力も尽きたか、両手両膝を地に付けて顔も上げない。
「とんだなまくらね」
空は笑った。何と言う幸運。飛ぶ力を失い、その上右腕まで。そう思ったところがダメージは皆無、相手は力尽きて見事に自爆とは。
「燕雀、安(いずく)んぞ」
天子が呟いた。
「いや、あんたは鴉だったか」
そうして身体を起こす。まるで油の切れた機械の様、重くゆっくりと、ぎこちないその動き。
「ま、どっちでも同じね」
ぼろぼろの身体で不敵な笑みを浮かべる天人。まだ立ち上がる力が残っていたか。けれども今度は、空は油断をしない。下手に近付きはしない。念には念を入れ、このまま、間合いを離したままフレアで完全なるとどめを刺す。
「無傷で済んだ。攻撃は失敗した。そう思ってるのかも知れないけど」
「その通りじゃない。痛くなかったよ、今の。全然」
何と浅はかな、これだから小人は。鴉の戯言を天子は鼻で笑う。
「よおく見てみなさい。今、貴方が斬られた所」
敵の妄言に耳を貸す必要は無い。そうは思いながら空は、それでも、と、自身の右上腕を視界の端に入れた。
何だこれ。空の顔に僅かの驚愕が奔った。いつの間にやら真っ赤に染まった彼女の右腕。遅れて血が噴き出したのか。最初はそうも思ったがどうやら違う。血ではない。煙。緋色の煙、そんな物が斬られた右腕から立ち上っている。
「緋想の剣は心を斬る」
天人の言葉に顔を上げる。緋色の煙は彼女の持つ剣に吸い込まれていく。緋想の剣。空は思い出す。それは地上の巫女が話していた地震を起こす天界の宝具。
「流石は神霊の力、一太刀でこれだけの気質が萃まるとは。て言うか、貴方の制御能力が不完全なだけかしら。力がだだ漏れ」
緋色の煙は止まる事なく緋想の剣に流れていく。傷口を左手で抑える空。けれどもまるで意味が無い。
「後の憂いとなるものは先手を打って潰す」
天子は空の翼を指差す。先の攻撃はただ闇雲に撃った訳ではない。己の身体を信じ飛び込んだ敵の懐。超高温超高圧の只中をそれでも一切の想念を無として耐え、敵の両翼に狙いを絞って全力を叩き込んだ。
結果、単純なダメージ総量では天子は空を上回る事になったが、敵の機動力は封じた。お蔭で今の一太刀も浴びせる事が出来た。
その一太刀を鴉は笑った。なまくらと。全然痛くないと。だが構わない。
「私は貴方より後で笑わせてもらうから」
先憂後楽。獣の頭では理解も出来ないだろうが。これで勝利の為の条件は全てクリアした。飛ぶ力を失った以上、もはや鴉に逃げ場は無い。
「正体不明の地底都市、か。そんな物は有無を言わさず破壊する。これ、昔からのお約束よね」
生まれ故郷と一緒に潰れるが良い。天子は口の両端を大きく吊り上げる。
空の全身の毛が逆立った。この天人、何て事を思いつくんだ。これは、やばい。
「これで地底も我々天人の物だ!」
剣先を大地に向けて天人が吼えた。
「そっちがその気、ならっ」
巫山戯るな。やらせてなるものか。山の神様がいないこの場、反応させる原子には限りがある。その全てを空は右足に集め、超高密度で圧縮、融合させる。大地震を起こして地底都市を潰すと言うのならばその前に、崩れ落ちる天井そのものを消し飛ばしてしまえば良い。
「この大地と共にフュージョンし尽くすが良いわ!」
◆
「大変です、このままじゃ幻想郷が消えて無くなってしまいますっ」
マイクによって拡張された文の声が響き渡る。子供達は皆不安顔、泣き出す子も増えてきた。大人達も流石に顔に動揺の色が浮かび始めている。
「どうしましょう、巫女さん」
「ふぇっ」
突然に話を振られ早苗の口から甲高い声が漏れ落ちた。
どうしましょう、と言われても。
対峙する天人と地獄鴉。ここまでの戦いを見た上ではそのどちらもが、例え単体であっても早苗一人で抑えきれるかどうかと言う程の力を持っている。とは言え共に力の大分を消費した今の状況、これなら何とか出来るのでは。そう、思えなくもないのだが。
「でも、下手に手を出せば」
大地震、核爆発。今はお互いがお互いを牽制して動きが止まっている。下手な手出しは均衡を破り、それこそ最悪の事態を引き起こしかねない。
「神奈子様が居ればあるいは」
地獄鴉に八咫烏の力を与えた張本人。彼女が居れば核爆発の方は完全に抑える事も可能かも知れない。片側さえ抑え切れれば残る一方も何とか止まらせる事も出来るだろう。だが。
「ああもう。こんな時に限って」
神奈子は諏訪子と共に朝早く神社を出て行ったっきり。早苗は何度も心中で二柱の名を呼ぶが、普段ならそうすればすぐに顔を出すというのに、今この場に於いては何の返事一つも感じられない。
「ああ、そう言えばっ」
突然に文が大声を上げた。そうして胸ポケットに手を入れ、小さな紙切れ一枚、取り出して早苗に見せてきた。
「これ、さっき神社で拾ったのですが」
神様の呼び方。紙切れの一番上にはそんな文字が書かれていた。
守矢の神社で拾い、その上で神様の呼び方。と言う事はこれ、神奈子達を呼び出す方法、そういう事なのだろうか。しかし神社の風祝である早苗も、こんな物を見るのも聞くのも初めてだった。
「て言うか、ちょっと、これって」
早苗の顔が紅く染まった。神様の呼び方と題されたその下、文章として書かれたのは立ったの一行。
清純なる巫女の願いが天に届きし時、大地に奇跡が舞い降りる(以下図説参照)
早苗が頬を染めたのはその下に描かれた図を見ての事だった。
描かれているのは所謂ハリガネ人間。それがガニ股になり、上体を僅かに後方へ反らし、そうして両腕は下に向けて逆三角の形、その先端は股のすぐ脇にラインを取る。
絵は非常に稚拙なもの。それでも早苗は一目で理解した。外の世界に居た頃、このポーズを何度かテレビで見た事がある。
「もしかしてこのポーズを」
「神奈子様ー、諏訪子様ーっ!」
何かを言いかけた文を遮って声を張り上げる。大体判る。流石に判る。文が何を言おうとしたのか、何を期待しているのか。
無理。いくらなんでもこれは無理。こんなポーズ、しかもこんな大勢の人が見てる前で。
二柱が出て来てさえくれればそれで問題は無い筈。そう思って何度も名を呼ぶ早苗だが、現実は非常、何の奇跡も起きはしない。
「あのう、巫女さん」
「お願いですから、お願いですからっ」
半分泣き顔になって叫び続けるも事態は何も変わらず。突然の巫女の奇行、周囲の人々も次第に不安でざわめき始めた。
ねえお母さん、私達どうなるの。
大丈夫、神様がきっと助けて下さるわ。
でも神様来ないよ。
大丈夫、あの巫女さんがきっと。
でもあのお姉ちゃん泣いちゃってるよ。
人々の不安げな声が早苗の背中に無形の圧力を投げてくる。何をどうしろと。いや、やるべき事は判ってはいるのだが。
「巫女さん、お願いします。今、この世界を救えるのは貴方しか居ません」
わくわく。
「ってちょっと文さん、今何か」
「我等無辜で無力な民をどうかお救い下さいい」
どうするどうするどうする。平和を壊す者達を前にして、今ここで事をなせるのは自分一人のみ。
こうなったら。もうこうなったら。早苗は目を閉じた。そうして思い浮かべる。人と妖怪が共存する、暢気で平和な幻想郷での日々。それが今はどうか。暗闇の中、早苗の耳に文の泣き叫ぶ声が聞こえる。幻想郷の最期が来ると言う。ならば、そう、今は。今こそが。
誰かが立たねばならぬ時、誰かが行かねばならぬ時。今この平和を壊しちゃいけない、皆の未来を壊しちゃいけない。
意を決して両目を開く。紙切れに描かれていた針金人間。そのポーズを寸分の狂いも無く再現し。
「ネ」
巫女の瞳が輝いて。
「ネチコマーッ!」
◆
奇跡は起こった。
晴天の空が瞬く間に分厚い雲に覆われる。周囲の景色が全て暗く沈む中、雲上に光が満ちた。やがて光は柱となり地へと降り立つ。
対峙する天人と地獄鴉の中央、屹立する虹色の柱。次第に光が弱まるそこに、立ち尽くすは二人の少女。
「そそり立つたくましき御柱、スワヤサカ!」
一人は巨大な注連縄を背に掲げ。
「首もたぐご立派なミシャグジさま、スワモリヤ!」
一人は目玉の様な飾りを付けた大きな帽子を被り。
「ふたりでミナカタっ!」
二人揃ってポーズを決める。
「幻想の調和を乱す者よ」
帽子を被った小さな少女が右の人差し指を。
「あこぎはやめて帰りなさいっ」
もう一人は左の掌を開き、勢い良く前方に突き出す。
「神奈子様、諏訪子様っ」
早苗が叫んだ。
直後、彼女の背中から大歓声が湧き上がった。集まった子供達、ある子は手を叩き、ある子は立ち上がって叫び出し、そうして皆が皆、正義の味方の登場に興奮していた。大人達もその顔に安堵の色を戻す。
そんな中で一人、文だけは天を見上げ僅かに眉をひそめた。日没の早まるこの季節、しかもここは山里。天にある太陽は既にその輪郭の下部を山々の頂に接しかけていた。
「ちょっとまずい。おしてる」
マイクから口を離して小声で呟く。
「え。文さん、今何か」
すぐ脇に居る早苗の耳には文の小声も届く。疑問を口にした彼女に、けれども文は応えずマイクを足元に置いて急に飛び上がった。そうして充分な高さまで登った後、離れた場所に居る神様二人に向かってまるで糸を巻くかの様、ぐるぐると腕を回して見せた。
途端。
「ああ、しまった」
「ち、力が」
神奈子と諏訪子、華麗に参上した正義の味方二人が、何を成した訳でもないのに突然情けない声を上げてその場にへたれ込んだ。
その有様を見て突然の闖入者に固まっていた天子と空、二人の頭が同時に回り出し、そうしてすぐに同様の結論へと辿り着く。この場は先ず。
「消えなさい、何処の誰かも判らない邪魔者っ」
空が飛び出した。
「こらこの鳥頭、恩人の顔を忘れぽはっ」
空の右足が綺麗に弧を描き、何かを言いかけた大きい方の闖入者、その顎をはたいた。
打撃は速い。けれども軽い。少し涙目になりながらも顎に手を当て恩知らずの鴉を睨み付ける神奈子。
「ってうおわちゃちゃちゃちゃちゃ!?」
そんな彼女の頭が突然火に包まれた。空の蹴撃、大事な原子の力を無駄遣いも出来ない、よって最低限の少量を右足の先端に付加して打撃を叩き込んだと同時に直接爆発させた。
「あっははは。凄いわ神奈子ってば怪鳥相手に助太刀来た心算が即行頭だけ火達磨とかちょとそれ本気で笑えばおっ」
顔面炎に包まれながら走り回る神奈子を手を叩き涙を流しながら笑って見ていた諏訪子。そんな彼女の頭上で鈍い音一つ、そうして頭を手で押さえてしゃがみ込む。
背後には人の頭よりも大きな要石を両手で抱えた天子の姿。無駄な力はもう何一つ使えない。ぼろぼろの服装で、息を荒げ、そうして無言のまま手にした鈍器を何度も何度も幼女の後頭部に叩き付ける。
「ちょ、ストップこれ絵面的にちょっと本気でやばいって子供泣くってって言うか頭はやめて帽子が壊れる帽子が壊れるうう!」
勇ましく登場したは良いが手も足も出ぬまま蹂躙される二柱の姿。これはどうした事か。早苗はうろたえる。敵は確かに強い。けれども既に大きく力を消耗したこの状況、しかも二柱揃っているのにこうまで一方的になど。あり得ない。何故こんな。
「何とした事でしょうっ」
早苗の耳に大きな音声が入る。いつの間にか地上に降りてきた文、彼女が置いておいたマイクを拾い子供達に向かって声を張り上げていた。
「山の神様である二人は、妖怪の山から離れた場所ではその信仰パワーを急激に消耗してしまうのです。そうして信仰パワーを使い切ったが最後、二度と再び立ち上がる力を失ってしまう。頑張れスワヤサカ、頑張れスワモリヤっ」
「はい?」
初耳だった、そんな話。風祝である早苗だってそんなのはついぞ耳にした事が無い。疑問の意を隠さず首を傾げる早苗。
けれども確かに、現実、二柱はこうして危機に陥っている。一体どうすれば良いのか。信仰パワーとやらを消耗して力を出せないでいる二柱を救うには。
「信、仰」
ぽんと一つ、早苗の頭に浮かび上がってくるものがあった。戦いの始まる前、文が子供達を前に話していた事。
怪獣は強い、正義の味方もピンチになるかも知れない。そうなった時は皆、大きな声で。
「皆さんっ」
文の手からマイクを奪い取り、そうして早苗は叫んだ。
「幻想郷を護る為、皆さんの力を貸して下さい」
信仰の力とは何か。それ即ち、人々が神を信じ、その存在を敬い、その神徳を願う事。人は想いを祈りとして神様に託し、それを力として神様は奇跡を起こす。それこそが人々と神々の在るべき姿。共生の形。
「皆さんの応援で神奈子様と諏訪子様を助けてあげて下さいっ」
正義の味方の大ピンチ。それを自分達の力で助けてあげる事が出来る。次々と子供達は立ち上がる。手を振り上げ、口を大きく開けて、そうして叫ぶ。がんばれスワヤサカ、がんばれスワモリヤ!
「お父様お母様方もどうか御一緒に」
神様に仕える巫女の言葉に、はじめは照れ臭そうに、けれどもやがては大きな声で、大人達も二柱に向けて声援を送る。
人々の願いを集め、それを神様に届ける事こそ風祝たる自分の使命。早苗の付けている髪飾り、蛇と蛙。それが人々の大声援を受けて黄金色の光を発した。
「今こそ! 奇跡を!」
◆
黄金の風が吹いた。そう思った瞬間、天子と空、二人の身体は見えない力に押し出される様にして弾き飛ばされた。
「何が」
「一体」
二人同時に体勢を建て直し、そうして顔を上げる。視線の先、黄金の光に包まれ立ち上がる神奈子と諏訪子。
奇跡、再び。
「有難う、皆」
「皆の応援、確かに受け取ったよ」
二人がそう言ったのが合図。何処からとも無く聞こえてくる勇ましい音楽。それに合わせて響き渡る子供達の歌声。
♪遠っくそ~びえるお~諏訪の山に、僕らの願いが届く時♪
何があったかは知らないが所詮くたばり損ない、何を恐れる必要があるものか。空と天子が二柱に向かって飛び掛かる。
♪八ぅヶ岳を遥かに越えて、奇ぃ跡と共ぉにやってくる♪
「神具」
動じずに諏訪子がカードを掲げて宣言する。頭上に掲げる人差し指の先、瞬時に形成される無数の鉄の輪。ゆっくりとしたスローイングの動作から放たれたそれが、正確に空と天子の位置を狙って飛んで行く。
♪今だっ! 変神っ! 神奈子と諏ぅ訪ぁ子ぉ♪
洩矢の鉄の輪が突進する二人の動きを止めたその隙、神奈子の背中から四本の御柱が生え出した。
「エクスパンデッド」
内の一本を手に取る。それは一瞬にして何倍、何十倍へと膨れ上がり。
「ゥオォンバッシラアアアァァ!!」
高速でぶん回される極大化した御柱。鬼神の形相を見せる神奈子。女性としてそれで良いのか。余りにも余りな光景が天人と地獄鴉の思考を強制停止。瞬間叩き込まれる激しい衝撃。真芯を捉えられた二人の身体が吹き飛ぶその様は正に助っ人外国人の場外ホームラン。子供は勿論、大人達からも大歓声が沸き起こる。
♪いざーゆけー、いざーゆけー、タケミナカ~タ~エース、僕らのエース♪
「いいっ加減」
羽は使えずとも何とか空中で身を回転させ両足から地に降りる空。今の一撃、完全に、二重の意味で頭に来た。もう容赦はしない。融合の力を持つ右足に持てる原子の全てを集中させる。もうただのフレアじゃ済まさない。百万倍、十億倍、いやもっと、もっともっと!
「来るか」
地獄鴉の足元に目を遣る神奈子。サッカーボール程の小さなオレンジ色の塊。拍子抜けする程に小さい。そして、それ故に恐ろしい。おそらくは気合と根性と思い込み、そんなものでもって無理矢理に超小型の力場を形成、そこに持てる限りの陽子を次々と送り込んでいる。異常な迄の超々高圧縮状況下で融合反応が続けられる。そのエネルギーはもはや本物の太陽と同等かそれ以上。
だが、それでも。背中の御柱一本を引き抜き、両手を当てて目を閉じる。
「何をしても無駄よ! すでに幻想郷どころか太陽系すべてが吹きとぶほどの核エネルギーが溜まっているわ!!!!」
神奈子には判る。一見ただの調子に乗った誇大妄想、けれどもあながち的外れでもない。そうしてそれだけのパワーを持ちながら、そのパワーが放たれた後を考えられない、よって容赦や躊躇が無い、そんな頭が一番恐ろしい。
地獄鴉がその右足を後ろに引く。高々と持ち上げる。それは決定打を放つストライカーの構え。
「喰らいなさい、千兆倍のフレアを!」
高速で振り抜かれる蹴り足。打ち出される恒星弾。
♪蛙を蹴ぇって素っ早いジャンプ、神ぁ奈子の柱が敵を裂く♪
「諏訪子、頭借りるわよっ」
「ほぎゃ!?」
文字通り踏み潰された蛙の鳴き声。御柱を右手に持ち宙を舞う神奈子。狙うは一点。神力を込めた御柱、それを握る手に力が篭る。
♪僕らの里に魔ぁの手が伸びて、地ぃ下から迫ぁる大怪鳥♪
「そこっ」
♪今だっ! 変神っ! 神風(あらし)を呼~ん~で~♪
投げ放たれた御柱。極めて正確にそれは光の中心へと吸い込まれる。ミリの誤差もコンマの秒ズレも無く。
「うなっ!?」
空の目が驚愕に見開かれる。柱を打ち込まれたその瞬間、恒星の光は音も無く収縮し、そうして消え失せた。その様を見届け彼女の両膝が地に付いた。漏れる唸り声。我が全身全霊、敗れたり。
♪戦えー、戦えー、タケミナカ~タ~エース、守矢のエース♪
「お疲れ鴉っ!」
地獄鴉が戦意を喪失したのと同時、天子は勝利を確信して叫んだ。今の間で気質は完全に溜まった。間合いも離せた。もはや誰が何をしようとも彼女の動きを止める事は出来ない。
「邪魔者もろとも地獄の底に帰るがいい!」
逆しまにした緋想の剣。その柄を両手に握る。
♪奇跡を呼んで眩い帽子、諏ぅ訪子の鉄輪(リング)が火っを放つ♪
「神奈子っ」
叫びながら膝を曲げて諏訪子がしゃがみ込む。そうして両足の間、大地に面を合わす両の掌。
「応よっ」
諏訪子の背中に神奈子が両手を乗せる。瞬間、淡い光に包まれる二柱の姿。一際強い輝きを放つ帽子の目玉。
♪天界人の魔ぁの手が伸びて、空から迫ぁる大震災♪
「目覚めろ、大地よ!」
♪今だっ! 変神っ! 正義のヒロイン♪
突き刺される緋想の剣。
気質を打ち込まれ強制的に覚醒させられる地脈。上下に激しく暴れる世界、大地に無数の線が奔る。線は瞬く間に割れ目となり、そこから噴き出す高温のマグマ。一瞬で真っ赤に染まる視界。しつこい地獄鴉も何処の馬の骨とも判らぬ乱入者達も、一緒くたになって地割れに飲み込まれ。
「って、あれ」
阿鼻叫喚の地獄絵図を描いた天子の脳裏。だが。
♪いざーゆけー、いざーゆけー、タケミナカ~タ~エース、僕らのエース♪
「へ、え、何、何が?」
彼女には理解できなかった。何が起きたのか。と言うより。
「八卦は極陰、坤を司るが我が力。坤とはそれ即ち地の事象」
何も起きてはいなかった。天子は何も理解できぬまま、立ち上がり見得を切る少女の方を向く。まさか、あんな小さな子供が。
「その私を前にして理に拠らぬ地震を起こそうなどと言う驕り、貴方の様な小娘にはまだ百年は早いと知りなさいっ」
嘘でしょ。天子は感じる。自身の身体から力が抜け落ちていくその感触。そうして理解した。目の前の二人が何者なのか。
♪戦えー、戦えー、タケミナカ~タ~エース、守矢のエース♪
子供達の歌声が終わり、勇壮な曲が終わり、そうして戦いも終わった。天人と地獄鴉、その両方が自身の負けを心で認めてしまった。
いつの間にやら天の太陽はその半身を山々の峰に隠し、辺りは夕暮れの橙色に包まれていた。そんな中で天子は理解した。空は思い出した。この二人が何者なのか。
「神の判決を言い渡す」
神奈子が空に、諏訪子が天子に、それぞれゆっくりと歩み寄る。もはやこれまで。迫り来る二柱に抗う力も残ってはいない。空と天子、二人ともが観念に至って目を閉じた。
「判決。
太陽が落ちるまで拳を握り殴り合いなさい」
何それ。一体どういう。意味の判らない突然の言葉に二人は目を開く。そうして気が付いた。無くなっている。
「そもそもねえ、喧嘩するのに他人から貰った力を当てにしててどうするのよ」
そう言う神奈子の手中に空の第三の足。
「喧嘩するなとは言わない。でもやるんならそれ、自分の力だけを頼りに、でしょ」
そう言う諏訪子の手中には緋想の剣。
「白黒つけたいんならさ、ほら、やりなさいよ。私等が立ち会ってあげるから」
そうしてどかりと座り込む神奈子を前に、空と天子、二人はようやく理解した。そうして二人同時にほくそ笑んだ。これならはっきり、自分の方に分が有る。神様の言う通り全霊力を使い果たし道具も取り上げられた今の状況、残る武器は自身の肉体のみ。それならば。
「逃げたいってんなら逃げても良いよ? 温室育ちのお嬢様にはきついでしょ、こういうの」
地獄の苛酷な環境で鍛えられた獣の力。空は自分の勝利を確信する。
「そっちこそ。鴉風情が人間様に力で適う訳が無いでしょうに」
ナイフも刺さらぬ不死身の肉体。天子は自分の勝利を確信する。
「そいじゃ、ま」
天を指し高く掲げられた神奈子の手が。
「レディー・ゴウッ!」
相対する二人の間を切って落とした。
◆
夕焼けが宵闇へと変わるのにそれ程の時間がかかる訳も無く。そうしてそもそも、二人に残された力ももう殆ど無いのだから。
「そ、そろそろあんた、今日はこれくらいにしといたるわー、とか、そんなこと言って逃げ出したらどうなのよ」
肩で息をしつつ天人を睨み付ける空。
「あ、あんたの方こそ、気味悪ぃこんなしつこい奴もう知らねーぜ、とか、そんな感じでそそくさ立ち去りなさいよ」
両足をがくがく震えさせながらも無理矢理余裕の顔を作る天子。
二人の勝負は早くも決着がつこうとしていた。
空が左拳を握る。天子は右拳を握る。共に残る力の全てを乗せて。
そうして。
「ドゥロウッゲイム」
やけに発音の良い諏訪子の声が夜の中に響く。直後、二人の身体が同時に倒れ込んだ。
「なか、なか、やるじゃない。あんた」
大の字になった空が小さな声を絞り出す。天界という恵まれた環境で歌や踊りばかり、そんな天人にここまでの根性があるとは。
「貴方の、方、こそ」
何度も大きく息を吐きながら天子が応える。この鴉、単なる畜生と思いきや想像以上の強い力と意思。
「あの」
「ねえ」
二人の声がぶつかった。僅かの沈黙の後、どうぞお先に、いえそっちこそ、そんな遣り取りが展開される。
暫く続いたその応酬、けれどもどちらも折れず話が進まない。こうなったら仕方ない。ここは二人、いっせいの、で。
いっせいの、せっ。
「似たもの同士かもね、私達」
二人の声がぴたりと重なった。空が笑う。天子も笑う。傷だらけのままで二人笑い合う。
「改めて。私、霊烏路空。皆はおくうって呼ぶわ」
「私は比那名居天子。天の子、と書いて天子。てんこって呼んだら怒るわよ」
背中に感じる大地の感触。見上げる星空。少し、ほんの少し滲んで見える。良い感じの拳骨が頬に決まったのだ、そりゃ涙も出る。でも。二人は思う。星空が滲んでいる理由は、きっとそれだけじゃない。
◆
「神奈子様、諏訪子様っ」
二大怪獣を見事調伏、意気揚々と人々の元へ舞い降りてきた正義の二柱。そこへ巫女が走り寄る。よくぞご無事で。そう安堵の顔で出迎えて来た巫女の手を突然に神奈子は、ぐいと握り自分の元へと引き寄せた。
「な、何を」
慌てる早苗の耳に口を当て、先にアドバイス、そう小さな声で囁いた。
「小さい子供ってのはね、落ち着きが無くってすぐうろちょろしようとするから。多少力を込めてでもしっかりと押さえ付ける様にね」
「え。ええと、その、神奈子様。それはどういう」
言っている意味がまるで理解できない。いきなり、いったい何を。そんな早苗の疑問の口には目もくれず、神奈子は諏訪子と共に集まった子供達に向けて笑顔で手を振っていた。
「はいっ皆様」
篝火に照らされる宵闇の集会、そこに文の元気の良い声が響く。脇にはいつの間にか大きな布袋一つ。
「これからこちらで神様との写真撮影会を開催します」
そう言って開く袋の口紐。そこから除く中身を見て、あっと小さく一声、早苗は声を漏らした。彼女には見覚えがあったのだ。
「あれ、うちの」
「今から守矢神社謹製のお守りを販売いたします。お一つ十銭。こちらお買い上げ一つにつき、一枚写真を撮らせていただきます。尚、お買い上げはご家族で一つで結構です。一つお買い上げいただければ、それでご家族全員写真に撮らせていただきます。人数分のお買い求めの必要は御座いません。
またこちらでは、一枚二銭でサイン色紙の販売も行っております。こちらを撮影の際にお持ちいただければ、その場で神様からサインを書いてもらえます。こちらは必要な枚数だけお求め下さい。勿論一枚だけのご購入でそこに三人分のサイン、と、そうした事でも大丈夫です」
お守りは早苗が毎日一つ一つ手作りで作っているものの、参拝客が殆ど居ないという現実のせいで在庫ばかりが溜まっていた物。色紙は外の世界に居た頃、何かしらの用途も在るかと百円ショップで購入、結局は使う事も無く押入れにしまわれていた物。
そんな物を高くに掲げながら文は声を張り上げている。早苗には訳が判らない。ただやはり、怪獣の戦いが始まる前に文の口上を見ていた時にも思った事、どこかでこんな光景、見知っている様な気もしていた。
それにしても、と思う。サイン。三人分の。三人というのは二柱と、それから。
「ほら早苗。いつまでも呆っとしてないで。スマイルスマイル」
視線は子供たちに向け笑顔を見せたまま、早苗の袖を引っ張り小声で諏訪子が言う。
「ってやっぱり、サインって私もですか!? 無理ですよ諏訪子様、私そんな、サインなんて書いた事」
「サインたって要は名前じゃない。小学生だって書けるわよ。ただちょっと、格好良く書く事を意識して」
「ですからその格好良くって言うのが。しかもやっぱりこれ、写真も、なんですよね?」
「当然。格好良く決めてよね」
小声で遣り取りする諏訪子と早苗の間に、お喋りはそこまで、これまた小声で神奈子が割って入る。
「ほら来たよ、最初のグループ」
言われて早苗が視線を文の方に向ければ、彼女からお守り一つと色紙一枚を受け取り、五人組の家族がこちらに歩いて来た。途端に早苗の心臓が早くなる。いきなりサインだ。どうしよう、もし自分の物も要求されたら。それ以前、写真だって。顔の引きつる早苗。そんな彼女に向けて、スマイルスマイル、小声で繰り返す二柱。
「モリヤさまー」
年の頃は六つか七つか、その位の少女が諏訪子に駆け寄って抱き付いて来た。両親に子供三人、女の子二人と男の子一人、そんな家族連れ。男の子は諏訪子に抱き付いている子と同じ位の背格好、神奈子の前に立って、ヤサカさまかっけぇー、そんな事を言いながら憧れの視線で見上げている。
「よし」
一声あげて神奈子は男の子の前で屈み込む。
「おっ。おっおっおー」
そうして両腕で男の子を抱えて立ち上がった。驚きの顔で、興奮した声を出す男の子。
「え、ええと」
困った顔で何も言えずにいる早苗。彼女の前には小さな女の子一人。三つかそこらか、辺りをきょろきょろ見回して落ち着きが無い。右にちょこっと走ったと思えば今度は左に走り、それから今度はその場でぐるぐる回り出す。
「ほら早苗」
神奈子の小さな声、それからこつんと、肘で小突かれた感触。それで早苗は思い出す。先程に聴いた言葉。小さい子供は落ち着きが無い、多少力を込めてでもしっかりと押さえ付ける様に。
その通りに、早苗は走り回る女の子を自分の前に引き寄せ、そうしてその両肩に手を乗せ少々の力を込める。掌がもぞもぞと動く肩の動きを感じる。痛がったりしないだろうか、泣き出したりしないだろうか。不安になる早苗だったが、意外にも女の子は嫌な顔の一つも見せない。
「お父様お母様も、宜しければご一緒に」
子供たちだけを前に出し自分達は下がっていた両親だったが、文の言葉に背中を押され、写真を撮ってもらえる機会なんてそう無いだろうし、と、そう言って少し照れ臭そうな顔で前に出てきた。
文がカメラを構える。五人家族と守矢の三人、併せて八人がフレームの中に収まる。
「ではいきますよ。
はいっ、チーズ!」
◆
「驚いたわ。こんな」
暗く単調な風穴を抜け、辿り着いたのは旧都と呼ばれる地底都市。その上を飛びながら思わず天子は声を漏らした。
地底の都市なのだと言うものだからてっきり、洞窟に横穴でも掘ってそこに扉を付けて棲家にして、と、そんなものを想像していたところが、眼下にはびっしりと軒を連ねる家々とそこから漏れる灯り。まるで夜の、街道沿いの宿場町。それもかなり大きな。宿か居酒屋だろうか、軒先に屋台を出しそこで妖怪達が一杯やっている、そんな光景があちらこちらで見えてとても賑やか。中には額に立派な角を持つ者も居た。萃香の知り合いだろうか。
「にしても。悪いわね、おくう」
「良いわよ。天子は友達なんだから」
前を飛ぶおくうが天子の言葉に笑顔で声を返す。
朝に天界を出た時は気が勢いに乗ってつい失念していたものの、冷静になって考え直してみれば今回の事態、流石に少々やり過ぎた。また勝手に緋想の剣を持ち出し、不発に終わったとは言え地震の災禍を引き起こす所だったのだ。父親も名居守も天子の事を笑って許してはくれないだろう。一応その辺り竜宮の使いに誤魔化しを頼んではあったものの、あの空気を読めない魚類がそうそう巧くも立ち回ってくれているとは思えない。それどころか寧ろ、良い薬だのなんだのと言って事の一から十を嬉々として報告さえしかねない。
そんな訳で天子は、ほとぼりが冷めるまでの間、おくうに頼んで地下の地霊殿で匿ってもらう事にした。天界の者が流石に地の底までは来もしないだろう。そう踏んでの事。
旧都の上を飛ぶ二人の前、やがて一つの大きな屋敷が見えてきた。
「ただいまー」
屋敷の入り口を潜っておくうが大きな声で元気に挨拶をする。
「あら、お帰りなさい」
一番最初に見えたのは主であるさとりの顔。自分の部屋ではなく、わざわざ玄関まで出迎えてくれたらしい。
「あ、さとり様もう帰ってたんですか」
「ええ先程。お土産もありますよ。温泉卵と温泉饅頭」
「やったあ!」
「ところで、おくう」
ぴょんこぴょんこ、飛び跳ねて全身で喜びを表すおくうの後ろ、見た事のない顔に視線を向けてさとりが訊ねる。
「そちらの方は」
「うにゅ?
あ、天子だよ。比那名居天子。天人でね、今日地上で友達になったの」
話を向けられ天子は、帽子を取ってぺこりと一つ、小さく頭を下げる。
「どうも、はじめまして。比那名居天子です」
「何だろう、この人生に疲れて動物に餌やる事しか趣味の無い年寄りみたいな顔した子供は」
ちょっと待て。天子が固まる。目の前の少女の口から出た言葉、それは正しく自分が頭の中に浮かべた少女の第一印象。
「はい、待ちますよ」
「って、ちょ」
まただ。また、心の中を見透かされたかの様な。そう言えばおくうは言っていた。さとり様、と。さとりというのは、もしや。
「そうですね。流石は天人の方。漢字もそれで合ってますよ。種族名としての方ですが」
もう間違い無かった。天子は頭に手を当てる。覚(さとり)だ、こいつ。心を読むという非常に厄介で鬱陶しい妖怪。
「よく言われます。今日の出先でも、周りの殆どがそう思っていて。まあ、仕方の無い事ですが」
「いや、あの、て言うか」
「ああはい。読んだ心を一々口に出すから余計に嫌われる。それは判ってはいるんですが、まあ、こればっかりは昔から代々伝わる癖と言うか、ポリシーみたいなものなので」
良かった、さとり様、天子のこと気に入ってくれたみたい、とっても楽しそう。二人の遣り取りを見ておくうはそう判断する。そうして主人から渡された温泉卵を頬張りながら、ふと気づいた。友人が頭を抱えてしゃがみ込んでいる。あーあーうんうん唸り声も上げている。
「どうしたの、お燐。頭でも痛いの」
心配になって声をかけたおくうの前で。
「なに考えてんのよあんたはあああっ!」
お燐は突然に立ち上がって大声を上げた。しかも何故か涙目。
「何って」
別に、特に何を考えてもいないけど。おくうは頭を捻る。お燐は一体、何を怒ってるんだろう。
「何平気な顔して普通に帰って来てるのよ!? あたいてっきり、ほとぼりが冷める迄は巫女のお姉さんとこでも匿ってもらうものだとばっかりっ」
そこまで言われて、それでもおくうには判らない。ほとぼり、匿って。何故に?
「何と言うか、ある意味すごいわね」
そんなおくうの様子を見て、その心中を読んで、さとりは感嘆と諦観の溜息をついた。
「本当に判ってない」
「さとり様まで。一体」
「ねえ、おくう。私今日の朝、言ったよね」
くれぐれも、悪さはしない様に。朝の言葉をもう一度、さとりはゆっくりと繰り返す。
それを聞いて、ここ迄きて、それでもすぐにはおくうの頭は事態の形が見えていなかった。それでもゆっくりと、主人の言葉と、それから今日一日の出来事とを思い返してみて。
「あっ」
ぽんと手を打った。
「あああああああああああ――ッ!!」
事態を飲み込んだ。ようやく理解した。まずい、これはまずい。どうしよう、どうすれば。
「どうしようもありませんよ。もう。
ついこの間だって知らない人から貰ったものを口にして、それで大騒ぎを起こしたばかりと言うのに」
さとりは頭を抱える。今日も出先で、自分のペットの面倒くらいしっかり見ろ、そんな事をあちらこちらから思われて肩身の狭い思いをしていた。これはやはり、育て方を間違っていた様だ。
「ああ、これはまた」
面倒臭そうな事に。天子は頭を掻く。そうしてくるりと身を翻し。
「どうも立て込んでる様なので、私これで」
「ちょ、天子!?」
おくうの涙声に背を向ける。屋敷に来る途中に見た町の様子を鑑みれば旅籠の一軒二件、在ってもおかしくはない。そうでないにしても適当な呑み屋にでも入って時間を潰せば良い。これでも一応良家のお嬢、手持ちは充分に有るし、それに萃香の知り合いと言えばある程度の融通も利くだろう。
「助けてよ、友達でしょ!?」
「や、いくら友達って言っても余所様の教育方針にまで口挟むって言うのは野暮に過ぎるんじゃあないかしら。
まあ、私はほら、あれよ。お空の彼方からおくうの事、ずっと見ててあげるから」
「ちょっとそれ一見感動的なこと言ってる様に見えるけど!
ごめん私さき家帰って寝るわーって、天子の場合そういう意味じゃない!?」
「あれ、ばれた?」
おどけて舌を見せる天子。実際は天に還る心算も無いのだが。
「悲しみにくれた時そっと手を差し伸べる、それが友ってものでしょうっ」
「いやだから、いつまでも私、おくうを見守ってあげるってば。いつか時代が変わっても、私は忘れないから」
そうして軽く手を振り地霊殿を出ようとした天子の。
「ん」
耳元でかちゃり、小さな音が聞こえた。
「何、こいつ」
いつの間にか天子の顔の少し下、そこに小さな妖精が居た。何故かやけに青白く、しかも頭に輪っかを乗せているという変な格好の妖精。それに首に感じる冷たい感触。そっと手を触れてみる。これって。
「まさか」
慌てて振り向く。視界に入るのは。
「ご免、ご免よ天人のお姉さん」
両手を合わせ頭を下げるお燐と呼ばれた少女と、その隣、猫みたいなにやけ顔でこちらを見てくるさとりの姿。手の中には紐。それが繋がっている先、それは天子の首に妖精が付けた小さな首輪。
「どうやら貴方にも、躾、必要みたいだから」
天子の顔が耳まで真っ赤に染まる。巫山戯るな、地底のお偉いさんだか何だか知らないが。
「躾ってあんた、余所様の人間にそんな事、いったい誰の」
「許可なら得てますよ」
天子の言葉の先を取り、そうしてさとりは一枚の封書を取り出して見せた。
「今日の出先で、使い、と仰る方から」
使い。その言葉だけで天子には判った。あの深海魚、よくもこんな人を売る様な真似。強く足を踏み鳴らしながらさとりに歩み寄り、その手の中から封書を奪って取る。中に書かれていたのは一言。
ぬそ。
「って何それえ――ッ!?」
「やかましいですね」
「いやだって何これ!? ぬそって! めそ、ならまだ判るわよ! いや、判らないけど許せるわよ、何となくっ。でもこれ、ぬそって、何これ何か凄い許せないぃっっ!!」
ぎゃあぎゃあと頭を抱えて吠え立てる天人に冷たい眼差しを送りながら、さとりは今日会った使いの事を思い出していた。
あの二人、さっきからずっと黙ったままでにこにこ見詰め合って。何だか怖い。
周りに居た者達はそんな事を思っていたが、さとりにとってはそれは中々に楽しい遣り取りだった。相手はさとりの能力を知り、空気を読み、余計な言葉の一切を廃して接してきた。彼女は一度、うちに招いてゆっくりと話をしてみたい。さとりはそんな事を思う。
それにしても。
「みとめたくない、ミトメタクナイッ!」
天人はまだ騒いでいる。手紙をびりびりと引き裂き紙吹雪として辺りに降らす。人の家でそんな事、掃除をするのは一体誰だと。確かにこれは躾の必要がありそうだ。
「まあ、良いんじゃないですか。貴方、天人という事は地獄の経験は無いんでしょう?
ここは元地獄の一区画ですからね。もう倉庫にしまい込んで長いこと使ってもいませんが、一通りの道具も揃っていますし退屈だけはしないと思いますよ」
尤も旧式なので偶に誤作動もあるかも知れませんが、天人ならばそれも大丈夫でしょう。ぼそりと漏らし、また猫の様なにやけ顔をさとりは見せる。
「はっ。何それ、脅しの心算?」
あの魚は後で三枚におろして蒲焼にでもしてやる、それより今はこいつが気に喰わない。天子はさとりを睨み付けた。今の言葉、ちょっと馬鹿にされた気がした。怖い話でも聞かせてやれば少しは大人しくもなるだろう、と。
「甘く見ない事ねっ。拷問なんて、そんなもの、無念無想の境地に至った」
無い胸張って天子は声を張り上げた。
「あなたの次のセリフは『無念無想の境地に至った私に死角は無かった』…………よ」
「私に死角は無かった。
ハッ」
「心の中で『無念、無想』って唱えてもねぇ。そもそも貴方のそれ、実際は単なるやせ我慢じゃない」
「うぐ」
「それにね。私の能力は心を読む。つまりは貴方の弱い所、されたくない事、全てが丸見えなの」
何て事、これは思った以上、洒落にならない事に。天子の背中を冷たい汗が流れた。弱点を読めるって、それじゃああんな事とかこんな事とか。
「ああ。なるほどなるほど。そういうのがお好みですか。
って言うかまた結構、すっごいこと考えるのね。私なんか思い付きもしなかった」
「ってうぇ!? いやちょっとタンマタンマ、無しっ、今の無しでっ!」
「おくうの頭を覗いても余り面白いものは在りませんしね。貴方が居てくれて助かります。バリエーションが一気に増える」
「いやちょっとお互いうら若き乙女なんだしそういう絵面的に完全アウトなプレイは無しの方向でっ。もっと健全にいきましょうよ!?」
「うら若き乙女だなんてそんな。年寄り臭い子供、じゃあなかったんですか。私は」
「根に持ってる!?」
「ま、安心して下さい。最初はもっと易しいものから始めます。次第に難易度は上がりますが、途中で改心した事が確認されればその時点で開放してあげますから」
そう言ってさとりが指差すその先、中に砂の敷き詰められた浅い箱。それを見ておくうは首を傾げる。天子は顔を真っ青にする。
「いいえ、違うわおくう。て言うか今の貴方の大きさじゃ、あそこでお砂遊びは無理でしょう。
あ、そうそう天子さん。貴方それ、大正解。基本中の基本よね、躾の」
大正解って。青く染まった顔を今度は赤くに変える天子。何が最初は易しいか。いきなりこんなアブノーマルなプレイ。
「あら。地底の基準からすればこの程度はノーマルの範囲ですが」
さとりは思い出す。そう言えばこの間地上から来た人達も言っていたが、どうも地底と地上とではノーマルという言葉の指す基準が違う様だ。
まあ、それはそれとして。ここは地底。郷に入ったのならば郷に従ってもらわねば。さとりは笑う。口元を猫の様にして。
「この程度で音を上げていては、ハードやルナティックではとてもじゃあないけれどもちませんよ?」
◆
「あら」
お釜の中、しゃもじを持って炊き上がったばかりのご飯を混ぜていた手を止める。何かが聞こえた気がした。
「どうしたの早苗」
「いえ。何だか地獄の底から亡者の叫び声が聞こえた様な」
「あははははー。何だかそれ、ホラー映画のエピローグっぽいわねえ」
早苗の返事を聞いて、けろけろ音を立てて諏訪子は笑った。まあ、気のせいでしょう。早苗もそう考えて後は気にしない。
「あ。それより諏訪子様、お茶碗とそれからお味噌汁用のお椀を」
「そう言うと思って」
諏訪子の右手には茶碗、左には漆塗りのお椀、それぞれが四つずつ重ねられていた。
「って」
早苗は首を傾げる。二柱と、自分と、それと。
「誰か、お客様でもいらっしゃるのですか」
そんな早苗の言葉に、いらっしゃると言うとそれは違う、それだけ返して諏訪子は、椀を置いて台所から出て行った。
意味は判らない。けれどもここは言われた通りに。四人分のご飯とお味噌汁とを大きな盆に載せ、そうして早苗は居間へと向かう。
「よっ早苗。サンキューね」
上機嫌な神奈子の声が出迎えた。食卓の真ん中には大きなお鍋。甘辛い良い匂いが部屋中に立ち込めている。大量に売れたお守りと色紙のお陰で、今日の守矢の食卓は豪華に牛鍋。
「そいじゃ皆、今日はお疲れー!」
既に酒の入った神奈子の音頭、それから四人揃って手を合わせ、いただきますと少し遅めの夕食が始まった。
「ちょっとこら神奈子」
「何よ」
始まって一分もしない内だった。生煮えの肉一枚、その両端を神奈子と諏訪子、それぞれの箸が掴んで引っ張り合っていた。また始まった。動じずに黙々と葱や白滝を口に入れていく早苗。
「あんたねえ、両生類の癖して、動物性蛋白質が欲しけりゃ蝿でも獲って食べてなさいよ。べろ伸ばして」
「神奈子こそ。動物性蛋白質は卵で摂取すれば良いじゃない。沢山あるから。殻ごといきなよ遠慮せず」
肉ならまだまだあるのに、しかも生煮え。そんな事を考えながら見ていた早苗の前で、第三の箸が渦中の肉を掻っ攫った。
「んー、美味しい」
生煮えの肉を口に入れ、嬉しそうに目を細めて口を動かすこいし。
「うちだと死体の肉って言ったら焼いてばかりだから。こうして調理したのって初めてで新鮮」
そう言って明るい笑顔を見せる。それを見て気勢を殺がれたか、二柱はそれぞれ自分の近い位置から静かに肉を取り始める。
「ああ、それにしても」
諏訪子が呟いた。
「早苗ほんと、大人気だったわね。ご先祖様として鼻が高いわ」
「え」
突然話を振られて一瞬何の事かと頭が追いつかない早苗であったが、落ち着いて考えれば恐らく。
「老若男女、関係なく人気だったしねえ。握手求められたの早苗が一番多かったでしょ」
今度は神奈子がそう言って感嘆の息を吐く。二柱が話しているのは、先程の撮影会の事。
「て言うかさ、大きなお友達だけのグループも結構いたわよね。あれも早苗目当てでしょ」
「色紙買っときながら、それじゃなくて自分の服にサイン要求したしね。ご先祖様としてあれは、まあ、鼻が高い、のかなあ?」
大量の肉を載せたご飯を掻き込みながら、驚いたのは、と、話を続ける諏訪子。
「神奈子が意外と人気があった事よね。小さい男の子に」
「意外って何よ意外って。私、一応武神よ? 男の子なら当然、憧れるに決まってるでしょ」
「ああ、確かに。神奈子って格好良いもんね。何だか凄く、ゴッドって感じがする」
「そ、そう?」
「主にプラモデル的な意味で」
「あっはっはっは。こんにゃろう、褒め言葉として受け取っておくわ」
肉ばかりを食べてご飯には余り手をつけず、諏訪子の方こそ、そう神奈子は言う。
「小さい女の子やお爺ちゃんお婆ちゃんに人気あったじゃない」
「まね。ほら私、可愛いし。誰かと違って」
「同年代の親近感とか、孫娘みたいで可愛いとか、そんな感じよね。
ぶっちゃけお子ちゃま扱い」
「そりゃ神奈子の場合だと、お母さんとか娘とか、そうなっちゃうしね。何だか名前を呼んだら明るい窓からにこにこ顔出しそうで怖い」
「待てコラこのヘアースタイルがお魚咥えたどら猫裸足で追いかける主婦みたいだとォ?」
睨み合う二柱。暫しの沈黙、それから二柱同時に箸を鍋の中央に突き入れ、そうしてまた肉の取り合いを開始した。
そんなほのぼのとした夜の一場面を前にしながら、それにしても、と、早苗は呟いた。食事の準備中、ずっと気になっていた疑問。
「今日、霊夢さんは一体、何をしていたんでしょう」
ひとたび幻想郷に異変が起きれば、例え呼んでいなくても飛んで来て事態を強引に解決する博麗の巫女。そんな彼女が今日は結局、一度も現れなかった。下手をすれば幻想郷そのものが消滅しかねない、それ程の大騒動であったにも関わらず。
霊夢だけではない。これまた呼ばれる呼ばれないに関係なくいつも首を突っ込む魔理沙も、その他の人間や妖怪も誰も、今日の騒ぎに顔を出さなかった。普段なら騒ぎに乗じて集まってきそうな、そんな妖精すら全くに見られなかった。
唯一姿を見せたのは天狗の文だったが、彼女も意味不明の言動を繰り返してばかり。
「霊夢、ねえ」
肉の取り合いにはもう飽きたか、箸を置いて杯を傾けながら神奈子が応えた。
「彼女なら今日はずっと、温泉入りながらお酒呑んでたわよ」
それは余りに無責任な。そう顔をしかめる早苗を余所に、神奈子と諏訪子、さっきまで喧嘩をしていた筈の二柱は楽しそうに話をしている。
「にしてもさあ、やっぱ鬼は凄いわねえ」
「あ、やっぱ神奈子も思った? もう外じゃ全然見られないし、あいつらの仕事見たのも久しぶりだけどやっぱ凄いわ」
「仮作りとは言え、本当に一週間で神社に温泉大浴場作ったしね」
「凄いっていや、ほら、永遠亭のお姫様も」
「ああ、ああ。彼女確か、ここ千年は里帰りしてないんでしょ。何であんなアポロ計画っぽい機械の類を所持してるのかという」
「お陰で助かったじゃない。あとほら、ええと、古道具屋の、確か」
「香霖堂、じゃなかったっけか諏訪子。あそこも驚いたわ。何か普通に、型古いとは言えパソコン置いてあるし」
「河童の技術はまだまだ未熟だけど、実物見せれば流石にあいつら、飲み込み早いしねえ。しかもタービンで発電くらいは普通にやるし」
「ま、足りない点は魔法だなんだで幾らでも補完できたしねえ」
「氷精だの七曜の魔女だののお陰で温泉の温度調節も楽だったし」
お酒を呑みながら笑い合う二柱。その話を聞いて、けれども早苗には全く内容が判らない。一体これは何の話なのか。
「こういう事よ、ほら」
早苗の表情からその心中を察したのだろう。隣に座っていたこいしが一枚の紙を懐から取り出して見せてきた。
「何ですか、これ」
写真。最初はそうも思ったが、ようく見ればちょっと違う気がする。非常に写実的だが、どうもこれは絵の様だ。
無数の円盤を背景に手にした剣から光線を放つ天子、そんなものが右側に、牙の生えた大きな口から青白い炎を吐き出す空、そんなものが左側に、それぞれ大きく描かれている。その下では文と早苗、二人が目口を大きく開いた恐慌の表情で天子と空を見上げている。一番上には白く大きな光。その中に小さく、シルエットのみではあるが、確かに神奈子と諏訪子、二柱の姿が在った。
イラストには更に縦書きで文字が被せられていた。中央やや上、早苗の目に一番最初に入った大きな文字。
「怪鳥対超神対天界人」
天から迫る侵略要石円盤軍団、核実験により目覚めた地獄の大怪鳥!
二大怪獣激突の時、幻想郷に滅亡の危機迫る!
空前絶後のスケールで送る一大アクション巨編(総天然色)
製作 守矢プロダクション
監督・脚本 八坂神奈子
原案協力 八雲紫
機材提供 蓬莱山コレクション・香霖堂・河童工房
音楽 プリズムリバー三姉妹
撮影 古明地こいし
配役
原子怪鳥ウツホ 霊烏路空
緋想天人テンシ 比那名居天子
スワヤサカ 八坂神奈子
スワモリヤ 洩矢諏訪子
女性新聞記者 射命丸文
謎の巫女 東風谷早苗
協賛 博麗神社・霧雨魔法店・紅魔館・白玉楼・永遠亭・是非曲直庁・妖怪の山・地霊殿
イラスト 稗田阿求
「これ、って」
紙を手に固まる早苗。裏側には歌詞が書かれている。神奈子と諏訪子が反撃を開始した時に流れ出したあの歌。
「よく出来てるでしょ、そのポスター」
苦労したんだから。そう言って諏訪子が親指を突き出す。
「ポスターって。それじゃまさか、里の人達が集まってたあれは」
「早苗だって小さい頃、近所のショッピングセンターとかで偶に見たでしょ。プリティーでキュアキュアな女の子達が満面の笑顔を固定したまま怪人とガチ肉弾戦やるのとか。
ま、あれと同じね」
神奈子に言われて、そうして早苗ははっきりと思い出した。先程のあの集まりの中、文の隣で感じていた既視感の正体。集まる子供達、マイクを手にした元気なお姉さん、恐ろしい怪人怪獣、現れる正義の味方、皆の応援、かかるテーマソング、そうして終了後の撮影会サイン会。
「事の始めはね、猫だったのよ」
神奈子は言う。
今から一週間と数日前、博麗神社に地底から猫が一匹でやって来た。猫は、友人が巫女から聞いた話で天人の持つと言う地震の力に興味を持ち、それを手に入れようとまた暴走を始めようとしている、そう霊夢に話し、何とかならないだろうか、そう相談を持ちかけた。
「それじゃあちょっくら退治に」
そう言って早速動き出そうとした霊夢だったが、猫は慌ててそれを押し留めた。それでは騒ぎが大きくなって事が主人の耳に入ってしまう。それを避けたくて内密に地上へ出て来たと言うのに。
そんな事を言われてしまえば、さて霊夢にはもう手も無かった。そもそも異変が起きたらその元をやっつける、それ以外の解決法など考えた事も無い巫女なのだ。悪いけれど力にはなれない、頑張って説得して。そう言って猫を地底へと返した。
そんな巫女と猫の遣り取りを、隙間から覗き見ていたのが八雲紫だった。
また霊夢を唆して地底に向かわせても良いし、或いは地底との行き来が比較的自由になった今、自身が秘密裏に出向いて始末を付けるのも手かも知れない。
いや、けれどもそれ以前、そもそもの元凶に責任を取らせるべきか。
「そんな訳でね。怒られちゃったのよ、私。管理人さんに。動物に餌をやったら最後まで面倒見ろって。
あと他にもついでって感じで、事を起こす時は事前に周りに知らせろ、とか、山の妖怪ばかりにサービスをするのは不公平だ、とか」
紫から話を聞いて神奈子は、どうせならなるべく美味しい形で、と、一つの案を考え出した。地獄鴉の野望を抑え、更には紫の言った他の苦言にも対応できる妙案。ただしそれには幻想郷全体の協力が必要であるし、また件の天人に少々痛い目を見てもらう事にもなるかも知れない。
それだけに紫の反対もあるかと懸念した神奈子であったが、意外にも案は二つ返事で了承、と言うより紫自身それは面白いと気に入った様子で積極的に協力してくれる事になった。
そうして始められた事の仕込み、先ずは地霊殿のさとりに話を持って行った。
「この間の事がありますからね。断る訳にもいかないでしょう」
そう首を縦に振ったさとり。それにおくうの性格と力を考えれば、下手に力で押さえ付けようとするより適度なガス抜きをさせるこの計画の方が都合が良い。そうも思えた。
彼女はおくうを呼び、わざと一週間後に屋敷を空ける事を告げ、また結界の存在も知らせた。同時に紫は火焔地獄跡の目に付き易い所、地上に繋がる隙間穴を設置した。
こうしておくう本人は何も知らぬままに誘導・決定された計画の実行日とその場所、それを今度は、紫の友人である伊吹萃香が天界の天子へと知らせた。釣り好きの天人の癖をして見事に餌に食いついた彼女。話は衣玖にも伝わり、そんな簡単に食いつく様ではどうも反省がなっていない、ならば少しお灸を、と、天界に於いて巧く都合を付ける役を担ってくれる事になった。当然、シナリオの最後には天子が地底に逃げる、その事まで読み切った上で。
「んでもってそれから一週間、大急ぎで会場だなんだの準備をした訳よ」
地獄鴉と天人を戦わせて適度なガス抜きをし、最後は正義の味方が現れて場を治める。そうしてその様を娯楽劇に見立てて博麗神社に作った温泉大浴場で楽しんでもらい、それを以って山の妖怪以外へのサービスとする。神奈子の考えた計画とはそういうものだった。
そこに里の人間も関わらせる、そう提案したのは意外にも紫だった。
「例え娯楽劇としてであっても、間近でその力を見れば人は妖怪に対する恐れを強める事でしょう」
正義の味方役も、神奈子としては霊夢か、或いは紫に譲っても良いと考えていたのだが、これまた紫の意見によって神奈子と諏訪子が二人で出る事になった。曰く、人間が異変を解決する、そういう事は毎度行われているのだから、今回は相手を神様という事にしてより妖怪の強大さを引き立てる。そういう事らしい。
話は幻想郷全土に伝えられ、名の有る人妖の殆どは博麗神社へ、里の人間達は決戦場所近くの丘へ、それぞれ招待される事となった。
博麗神社では鬼の力によって突貫工事が進められ、あっという間に急拵え物ではあるが大温泉浴場が作られた。それと平行して、永遠亭や香霖堂、それに守矢の神社に在る外の機械を河童達に分解、修復させ、そうして得た知識でもって大型のスクリーンを作らせた。当然、河童お得意の防水機能は標準装備。
さてもう一つの会場。こちらでは安全を確保する為、霊夢と紫の手によって強力な結界が張られた。結界は会場だけでなく、怪獣の激突場所である平原にも。
「って、あそこにも張ってあったんですか、結界」
「ありゃ。早苗、気付いてなかったんだ。て言うかさ、もし張ってなかったら私等、今ここでこうしてご飯、食べてらんないって。あの鴉、大気中で何の遮蔽物も無しに人工太陽を作ったのよ?」
「あ、確かに」
「それじゃあ早苗、あの平原についても気付いてなかったんだ」
「あ、いえ。それについてはちょっと違和感が。あんな所にあんな異様に広い平原なんて」
「無かったわよ。あれも作ったの。思う存分、怪獣達が暴れられる様に」
空間を弄れるメイドと距離を操る死神。両者の協力によって山里である幻想郷の真ん中に広大な平原が作られた。
準備は万端整い、そうして当日。地獄鴉の通る穴の長さを紫が微妙に調整し、そうして見事鉢合わせた二大怪獣。丘では屋台も出てちょっとしたお祭り騒ぎ。神社の方はまるで温泉旅館、お酒を呑んで湯に浸かって、のんびりしながら娯楽劇を楽しむ。
実際目の前で戦いを観賞できる丘とは違い、神社の方ではこいしが手にしたデジタルビデオ、そこから伸びるコードを隙間経由でモニターに繋いで観戦した。
「最初は河童に頼もうと思ったんだけどさ、どうにもちょっと頼りないし、それで今回はその子に頼んだ訳よ」
「頼まれた訳なのよ。ああ、今日は朝からずっと大忙しで、とってもお腹が空いたわ」
だからおかわり。そう言ってこいしは空になった茶碗を早苗の前に出した。
「あ、それはどうも、お疲れ様。ちょっと待ってて下さいね」
早苗は茶碗を受け取り、台所に行ってご飯を大盛りによそい、そうして居間に戻って来て。
「ってこいしちゃん、いつの間に!?」
大声を上げて思わず茶碗を手から落とす。
「っと。
だから、朝からって」
間一髪、滑り込んでキャッチするこいし。
「認識できる様にしたのは、いただきますの時だけど」
「ナイスナイス。良いよ早苗、今のリアクション」
けろけろけろ。声上げ手を叩きながら涙目で諏訪子が爆笑する。目の前にはいつの間にやら、空になった一升瓶が五本。
「それじゃまさか、文さんのあの行動って」
「ま、そういう事」
これまた目に涙を溜めて笑いながら神奈子が続ける。
山で道に迷った新聞記者、辿り着いたのは謎の神社、そして突如出現する大怪獣。そんな筋書きの上で文は動いていた。そうしてその背後には常にこいし。当然文にも認識は出来ていないが、事前に常に後ろにカメラが居る、そう聞いていたので問題は無い。
芝居を続け早苗を丘に案内した後は、今度はMCのお姉さんも兼ねて場を取り仕切る。
「芝居って事はそれじゃ、神奈子様達を呼ぶ為の方法とかいうあれも」
「そう、演出の一つ。勿論ちゃんと、ビデオに撮ってあるから」
「途中で文さんが空に飛んで、手をぐるぐると回していたあれは」
「巻いて巻いてーって意味。おしてるから、時間が無いから早くしろ、と、そういう。
テレビの公録なんかではよく見られるわよね。キャラショーでも、特に最後の写真撮影の時なんかで。
ほらさ、シナリオの最後が太陽が落ちるまで、だったでしょ。なのにその前に日が沈んだら困るから。それでちょっと途中を端折ったのよ。本当はあそこでもう一立ち回りあったんだけど」
「じゃああの、信仰パワーがどうのって」
「そういう設定を作ったのよ。正義の味方がピンチにならないと盛り上がらないし、それに子供達が参加できる場面って言うのは、ああいうショーでは絶対必要だし」
「わざわざピンチの場面を作った、そういう事ですか」
「そうね。そもそもあの地獄鴉に力を与えたのは私なんだから、万全の状態なら兎も角、潰し合いで大きく体力を消耗した後なら外部からでも簡単に八咫烏を制御できるわ。残る天人だって、あんなぼろぼろじゃ私と諏訪子、二人がかりで負ける筈も無い」
話はこれで全部。そう言って神奈子は、黙ったままで肩を震わせる早苗の顔を覗き込む。
「な」
早苗の口から声が漏れた。眼にはうっすら、涙が滲む。
「な?」
楽しそうに神奈子が聞き返す。
「な」
「な?」
「何って素晴らしいっ、流石です神奈子様!!」
神社の中心で巫女が叫んだ。感動歓喜の涙が両目から流れ落ちる。
「異変発生で責を問われる、そんな逆境を逆手に取り、事を治めつつ更に山の妖怪以外にも気を配り、その上里の人達からは大きな信仰を得る。余りに見事なその手腕、私、感動しましたっ! 私、守矢の風祝で本当に良かったですうっ!」
「あ、そう?」
そこまで褒められると流石に照れる。そう言って神奈子は頭を掻く。
「こいしちゃんも。今日は有難う御座います、手伝ってくれて」
「どういたしまして。こちらこそ美味しいご飯、ご馳走様でした」
手を合わせお辞儀をするこいしに、そう言えば、と、早苗が訊ねる。
「もう随分と遅くなってしまったけど、大丈夫? 家の人、心配してないかしら」
「大丈夫。こういうのよくある事だし、お姉ちゃんも下手な心配はしないから」
「そう。それじゃこいしちゃん、今日はここで泊まっていく?」
「いいの? 有難う、貴方優しいのね。あの巫女さんと同じで」
「巫女さんって、霊夢さんの」
「そう。今度一緒に殺掠をする約束もしてるの。
そうだ。その時は貴方も一緒にどうかしら」
「殺掠、ですか」
人差し指を口に当て、うーん、と小さく唸って、それから早苗は笑顔で返す。
「それよりもっと、面白いゲームがあるんだけど」
「ゲーム?」
「そう。
お目当ての相手に何度断られてもしつこく付きまとってお金やら宝玉やらを貢いで、そうしてゲットしたら合体までしちゃったりして。
でも用済みになったらもう、後は向こうから話しかけてきても無視して斬殺したり銃殺したりしてお金や宝玉を掠奪するゲーム」
「恋焦がれた果ての殺掠劇ね。とっても楽しそう!」
「それじゃあ先ずお風呂に入って、その後にやりましょうか」
そうして二人一緒、居間を出て廊下の奥に消えて行った。
SATSURYAKU、SATSURYAKUせよ♪
そんなこいしの歌声を後に残して。
◆
◆
「よ、神奈子」
守矢神社の屋根の上、片膝立てて座りながら杯手に夜空を見上げる、そんな神奈子の後ろから諏訪子が声をかけた。
「あの子らは」
顔も向けずに神奈子は言葉を返す。
「さっき迄は核熱継承のヤタガラスを作るんだーって、そう頑張ってたけど。流石に今日一日疲れたみたいで、今は二人仲良く眠ってるよ」
「あ、そう」
言葉はそれだけ。神奈子は黙って一人、酒の入った杯を傾ける。
「ね、神奈子」
そんな背中に、努めて優しい声で諏訪子が言う。
「今日の計画」
幻想郷全土を巻き込み、一週間以上の仕込をかけた今日の一大舞台。再び暴走した地獄鴉を、反省してない不良天人を調伏し、山以外の妖怪達にも娯楽を提供し、里の人間達を楽しませ、そうして沢山の収入と信仰を得た。
そんな神奈子の計画は。
「今日の計画、見事に」
神奈子の肩に、ぽんと、小さな諏訪子の手が乗せられた。
「見事に失敗しちゃったね」
神奈子は応えない。けれども諏訪子の手の下、僅かに震える肩の感触。
諏訪子も何も言わない。夜の冷たい空気の中、二人黙って月明かりの下、静かな時間を流れるままにする。
「なに」
ぽつりと、神奈子が呟いた。
「なにかんがえてんですかかなこさまー」
抑揚の無い声で小さくそう言って。
「何考えてんですか神奈子様ぁ~っ!?」
急に勢い良く立ち上がり夜空に向かって吼え声を上げた。
「全部芝居だ全部嘘だって、それが神様のやる事ですか!?
いいじゃない。八方全て丸く治まったわけだしい。
やり方が汚いですよ、潰し合いで消耗させた後に美味しい所だけ持って行くとか!
おいおい、そんなの戦術の基本中の基本でしょうが。卑怯とは言うまいね。
言います、卑怯ですっ! それに、その、神奈子様の変な台本のせいで、私、その、あんな。
ああ、良かったわね。ネチコマーって。
いやああ! 私、あんな大勢の人の見てる前でえぇ!
ビデオにも撮ってあるから後で見ようねー。
神様として良いんですか、その性格!?
良いのよ。この性格のお陰で、今日もこうしてほら、美味しいご飯が。
一歩間違えれば幻想郷が終わってましたけどねっ。
間違えてないんだから良いじゃない。もっと現実を見よう。
そんなこと言って、間違えたらどうする心算だったんですか。
うーん。まあ、丁度良い事に前鬼後鬼の使い手が近くにいる訳だし、異世界にでも避難させてもらって三十年位時間潰して、こっちに戻って来た後は、にっくき建御雷神をボコしたりアリスに気に入られて死にかけたり閻魔大王にイチャモン付けられて死にかけたりミシャグジさまに考え無しに殴りかかって死にかけたり、そんな素敵な大破壊後ライフを送るとか?
訳わからないですしっ! て言うか何か75%の確率で死にかけてるじゃないですかそれ!?
死ぬのが嫌なら、天使も悪魔も悉皆殺しルートを通って経験値ガッポガポでウッハウハ?
もう嫌! 助けて神様この人なんとかしてえっ!
おいおい。神様ってそりゃ私の事だって。
ギャフン」
息継ぎ一つせずに言い切った神奈子。流石に少々疲れたか、ぜえはあ息を荒げて肩を上下させる。
これが神奈子の計画だった。驚きうろたえ怒りツッコミを入れる早苗を愛い奴愛い奴と愛でる。そういう腹積もりだった。嗚呼、それなのに。
「何であんなあっさり納得しちゃうのよう!
しかもその後、殺掠なんて言葉使っちゃ駄目ぇガビ~ン、とかそういう事にもならず落ち着いて見事にあの子の衝動を非現実対象に転嫁させたりするしっ」
「まあまあ落ち着きなさいって。あとダウト一つ。当時のミシャグジさまは別に殴っても平気」
駄目になったのは御柱を手に入れてから。そう宥めにくる諏訪子に対し、これが落ち着いてられるかと食って掛かる。
「まあ確かに、あのアクションショーの時は辛かったけど」
「でしょ諏訪子?
何そのどうせお子様には判らないだろうからって遠慮一切無しの卑猥な登場文句!?
何でいきなりテーマソング!?
って言うかタケミナカタエースって、タケミナカタは兎も角エースって単語何処から来たんですか!? 何かもう、色々歌詞考えてたけどここまで来て面倒になったからもうテキトーでいいや~とかそんな感じ丸出しですよっ!?
それ違う! それ絶対エクスパンデッドオンバシラと違う技!
何そのアイトラストュフォレェバアー!?
こうした明らかなツッコミ所の数々を見事に全スルーされたし。お陰であのグダグダ感」
「あーうー」
「何て言うか、そう、客席は見事に子供で一杯、なのに何故か皆静かにお行儀良く座っているキャラショーとか、そんな感じかしら」
「一応子供にはウケてたから、それはちょっと違うんでない? むしろこれは文化祭での漫才舞台」
「何それ」
「まあまあ。ちょっと頭の中でやってみなって」
言われて神奈子は脳裏に浮かべる。学校の文化祭、場所は体育館、観客の殆どは生徒の保護者、互いに見知った顔ばかり。
「どうもこんにちは、八坂でーす」
「こんにちは、洩矢でーす」
「二人合わせて」
「ヤモリのかさぶたでーっす」
「ってちょっと洩矢さん。私等二人うら若き乙女が並んでユニット名がヤモリだかさぶただってのは幾らなんでも色気が無い。せめてこれ、お笑いなんだからタにするとか言うならまだしも」
「あらやだ。私だってヤモリなんかほんとは嫌いですよ。出来ればイモリにしたかった。両生類だし」
「いやだったら何でヤモリなんて」
「そこはほら、二人の名前を組み合わせて」
「ああ成る程。ヤサカ、モリヤ、で、ヤモリノカサブ……ってちょっと、ヤぁが一つどっかに」
「あらやだ。矢だけにどっか飛んで行っちゃったのかしら」
「あのねぇ洩矢さん。私等学生、ここは文化祭、だからって一応は漫才舞台なんだから親父ギャグはやめましょうや。ツッコミのしようも無い。て言うかね、ヤは兎も角、ノ、ブ、タ。これはどっから出て来たんです」
「ああ、それならこれここ」
「あらまあ可愛らしいコンパクト。蛙さんの形ね。って、これ以上は色々怖いから詳しくは言えないけど」
「大丈夫。キティちゃんは鼠の王国に比べればまだ優しいと良いなぁ」
「って人の配慮を即行で無駄にするな! しかもなんで断定じゃなくて希望的観測なのよ?」
「だって私、著作権とかさっぱりだし」
「なら余計な事は言わんといて! って話がずれたけど、そのコンパクトが一体」
「だからね。ノブタはほら、この中に」
「あらホント。とぉっても丸々として愛らしい野豚ちゃんがこっちを見詰めてぇ――って。
なんでやねんっ!」
ごいんと鈍い音一つ。野生の猪ですら一撃で絶命せしめる程の太く大きな御柱の一撃が諏訪子の脳天にめり込む。
「うあいたたた」
涙目で頭をさする諏訪子。
「ま、兎に角だ、神奈子。ここ迄やって、そうしてちらりと客席を見てもすっごい静か」
「そりゃそうでしょうよ。はっきりつまらないし。こんなんで誰が笑えるか」
「いやいやそれが。笑ってはいるのよ、皆」
「何それ、どういう」
「但しね、すっごい温かくて優しい笑顔」
頑張れ神奈子ちゃん、頑張れ諏訪子ちゃん、おばさん達が応援してるわよー。
「うわいたたた」
思わずその光景を想像して神奈子の心が軋む。確かにこれは本気で辛い。そしてこの感じこそ、今日のショーで味わったものと見事に合する。
「ところで神奈子」
へこんだ帽子もそのままに諏訪子が訊ねる。
「今の脳内シミュレーションでさあ、神奈子の格好ってどんなだった」
「十七歳現役女子高生ぴっちぴちのセーラー服」
間髪入れずに即答する神奈子。きらりと光る諏訪子の眼。と言うか帽子の。
「あっははははは何でや」
「嗚呼っ私はもっと早苗の可愛い所を見たかっただけなのに」
人の背丈を優に越える巨大で重い鉄の輪、そんな物を持って振り上げられた諏訪子の右手がやり場を失って留められる。
「おうこら神奈子、人にボケふっときながらツッコミ拒否するとか随分良いご身分じゃないの」
「五月蝿い。て言うか何でボケで確定なのよ」
「柱のぶん回し過ぎで頭が旧石器時代にまで戻ったか。鏡の使い方も判らないとは」
神奈子がもう一度巨大御柱を取り出す。諏訪子も巨大鉄の輪を。
「って、違う違う」
今はそうじゃない、そういう心算で顔を出した訳じゃあないのだから。諏訪子の手から鉄の輪が消える。それを見て神奈子も手にしていた御柱を投げ捨てる。
「ま、神奈子」
改めて諏訪子は話し始めた。
「良いじゃないのさ、これは。早苗が幻想郷に馴染んだ、成長したって事でさ」
「うう、でも」
神奈子は納得せずに口をへの字に結んでいる。諏訪子は溜息をつく。ああもう、仕方の無い奴。
「ならあれだ。今の早苗はほら、田舎から上京して大学入って二年目、同じく上京組の新入生相手に『今度SHIBUYAとかHARAJUKUとか案内してあげるよー』とか言いたくて仕方ないって感じの」
「あ、それ良い。そう考えると凄い和む」
ようやく機嫌を直してくれた、いい年をして手間のかかる。そんな事を考えながら軽く帽子に手を当てる諏訪子の前で、けれど神奈子は大仰な動作で腕を振り回しながらまだ不平を口にする。
「ああでも、あのスペル名は何とかして欲しいわよね。これもケロちゃんどうたらとか言い出すご先祖のせいかしら」
「そりゃご愁傷で。ところで私の知り合いにオンバシラをエクスパンデッドさせるのが趣味の奴が居るんだけどさあ。五穀豊穣ライスシャワーとか明らかにそっち系統よね」
神奈子の動きがぴたりと止まる。諏訪子の動きも同じく止まる。
「人様に文句付ける前に取り敢えず卵に殻つけて産めるようになりなさいよ。この変態生物」
「地霊殿のさとりちゃんだっけ、彼女のあの髪飾りさ、神奈子の髪形でつけたらもう完全にコスプレよね。鏡の前でパラリルパラリル叫んで、しかる後現実を思い出して絶望するが良い」
神奈子の背から四本の御柱が生え出す。諏訪子の背後に巨大な蛙の姿をしたオーラが立ち込める。
「よおーしよし、よっく判った。じゃあちょおっと表に出ようかー蛙娘」
「ここがとっくに表でしょうが大気圏外に逝くならどうぞお一人で蛇女」
◆
「全部、聞こえてるんですけどねぇ」
暗い部屋の中、天井の上から聞こえてくる爆発音の連続に苦笑いを見せる早苗。これではこの子が起きてしまう。そう、一緒の布団に入っているこいしの顔を見る。
「うぅん、お姉ちゃん……ワタシはこのターンで……カードを一枚――」
早苗の心配を余所に、こいしは幸せそうな顔で寝言を漏らしていた。
お姉ちゃん、か。
早苗は思う。聞いた話だと、彼女の姉も妹の事を随分と気にかけているようだった。仲の良い姉妹。それに比べてうちは。
天井を見詰める。音は次第に小さく、より正確には遠く高くなっていく。あの二柱だと本気で大気圏外にまで飛び出しかねないから怖い。
まあ、それでも。空と天子、あの二人の戦いと結末とを思い出し、そうして早苗は呟いた。
「喧嘩するほど仲が良い、って事なのかしら」
朝になればきっと、どちらもぼろぼろになって戻ってくる筈。それなら明日の朝食は少し気合を入れて元気の出る物を作ろう。
そんな事を考えながら、おやすみなさいと一言、こいしの頭を優しく撫でてからゆっくりと早苗は目を閉じた。
幻想一大スペクタクル!!楽しませて頂きました。
というか早苗さん馴染み過ぎwwwwワロスwwww
何ですかこの秋休みスーパー幻想郷ヒーロータイム。
細かいネタ仕込みが凄いです。一部元ネタ思い出せなくて悔しい点も含めて。
神奈子様はバトルヒロインからスーパーロボットまで何でもこなせる人だなぁ……(セーラー服姿から目を逸らしながら)
なんだかんだ青春のようなアツさになってホロリとしたらさらに裏の設定に驚愕させられてでも最後はやっぱギャグだった(笑)
いやースラスラと読めるのに、次から次へと変わる展開でオチがまったく予想できなかった、だから面白かったです!裏でさまざまなキャラが動いてたことにもどこか愛情を感じます。
ウ○ト○マ○エース・・・ああ、頭のなかであのメロディーがデフォに流れてきましたよ(懐)
そして天子南無www
>ウツホが飛び立つ。ウツホが戦う!
ウーツホッ♪ウーツホッ♪ウーツホー♪レーイウジウーツホー♪
お空ちゃん五代目!素敵!
>「帰えって来たぞ、帰えって来たぞお」
ひーななーいさーん♪
てっちんは三代目ですか!流石ですね!
あと神様方は「初代で黒白」ですかな?
好みとしては二代目OPで「スワスワスワスワスワミシャグジー♪二柱(ふたり)は二柱(ふたり)はミッナッカタ♪」(歌詞適当故に御注意下さいませ)とか歌って欲しい。
かにゃこたまに。かにゃこたまに。とてもとても大事なK(ry
それにしてもかにゃこたまは何という数のネタを仕込んでるんですか。流石に全部は分からないよ!
惚れ直したぜこんちくしょう。
あとは超個人的趣味ですが早苗さんに『アイトラストュフォレェバアー』ネタで「天に八坂!地に洩矢!御披露するは最終儀式!」とか。
この早苗さんならきっと演ってくれる筈……!
メジャーなネタしか知らないヤツですいません。
衣玖さんとさとりの言葉を発しない会話というのも中々・・・。
楽しく読めました。
面白かったです。
誤字というか一文字多い箇所を見つけたので報告です。
>青く染まった顔を今度は赤くに変える天子
と、ありますが正確には「青く染まった顔を今度は赤く変える天子」ですよね。
以上、報告でした。
いや、もうまさにその通り!wwww
そのままこの作品の感想になりますよ。
随所にちりばめられたパロディの数々がキラリと光る。
まさか東方で特撮、こんな発想があったとは!
そんな貴方を最大級の賛辞を込めて称えよう……
ネチコマーッ!
分かってたけど、蓮子の登場に期待してた
コレに馴染んでしまうってことは…なるほど。
常識に囚われなくなるわけだwww
とりあえずジョジョとガンダムとウルトラマンのネタはわかったw
個人的にはこれが一番ツボった。誰が上手いこt(ry
ちりばめられたネタの数々共々、楽しませてもらいました!
超監督に盛大な拍手を!
しかし空と天子の性格の愚鈍ぷりは地獄の温泉でもなおせそうにないな。
お空とてんてんが、おバカキャラじゃなかったら、成立しませんよね。子のお話w
しっかし、この神様たち本当においしいところ持って行きやがったな~。黒幕なのに
そして、ノーマルの基準の使い方がうまい!
楽しませていただきました!
・・・・・・・①②③の回答って元ネタなんでしたっけ・・・・;
幾らネタを使うにしても限度があるんじゃないんですか?
マイナス点が廃止されてしまいましたが、個人的には評価-30点としたいところですね
次回はネタに頼らない良い作品を御願いします
次回作があるなら次はチルノも入れて3界おバカ大決戦を・・・w
ネタが多すぎて突っ込みきれません!
誤字がどこかにあった気がするがどこにあるのか見失ったw
でも子供のケンカを煽っておいて漁夫の利を狙う神様は
あまり見ていて気持ちのいいものではないかなぁと。
わんだばだっわんだばだっ
わんだばだっわんだばだっ
あぁもう、おじさん懐かしくて目から汁が
>お燐のコレクションの選りすぐりから切り出したお肉
なんの肉だろう?
>・・・・・・・①②③の回答って元ネタなんでしたっけ・・・・
ポルナレフ対ヴァニラ・アイス戦
楽しめましたぜ。
そうよね、ペットのしつけはトイレからよね。ノーマルノーマル。……え?
ラストのメガテンに吹いたw
こいしちゃんかわいいようふふ。撮影:こいし は読んだときに超納得。
文の不審な動き伏線が見事に回収された快感。
ああ、マンガで読んでみてぇーw
東宝ならぬ東方チャンピオン映画祭で春でもよいがw
さとり今すぐその役目を俺に代われ!!!むしろ代わってくださいさとり様おねがいしますおねがいしますなんでもしますから一生下僕でもかまいませんからどうかこれだけはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
でも用済みになったらもう、後は向こうから話しかけてきても無視して斬殺したり銃殺したりしてお金や宝玉を掠奪するゲーム
なんという女神転生wwwwwww
特撮ネタも楽しませていただきました!
いやー楽しかったです
特撮系の人間なのでパロディ大いに楽しませて頂きました。
おくうと天子はちょーっと可哀想だったかな
ニコ動でウルトラマンのBGMを流しながら読みましたわw
…萃香なら、巨大ヒーローになれるんだな…(ボソ