「あら、釣りなんて珍しいわねにとり」
「あ、雛。おはよー」
「もう夕方だけど」
夕方、厄集めが一段楽したところで川に行くと、そこには釣り糸を下げたにとりがいた。岩の上に座っている彼女の左にはいつものリュックサックと、右には大量のキュウリの積んであるザルがあった。……私がここに来るまでにどれだけ消費したんだろう。
「いやぁ……待った甲斐があったよ。ようやく釣れた」
「? 何か釣れたの?」
「うん」
「何が?」
「雛」
「……え?」
今何て言った?
「だから雛が釣れたんだって」
「私は釣りでは釣れないわ! 今だって普通に来ただけじゃない!」
「釣られた事にも気付かないなんて……」
「だから釣られて無いから!」
まずなんで川で私が釣れるのよ!
私はとりあえず膝を折り、その場に座った。ここならばにとりに厄が付かないだろう。
「むー……やっぱりエサを付けなかったのがいけなかったのかな」
「エサ無しだった!? 私どころか魚も釣れないわ!」
「いや、雛だったら……」
「ないわよ!」
にとりは私を何だと思ってるのかしら。
「でも結果として来てくれたからいっか」
にとりはいつも持っている蒲の穂を振って言った。
「それとも今から釣られる?」
「何で!? 訳が分からないわ!」
「じゃあ普通に釣りするよ」
そう言ってにとりは釣り針の先にキュウリを付けた。……釣れる筈無いじゃないし普通でも無いわ!
「…………」
──ぽちゃん
竿を振り、川に針を入れるとにとりはこちらをじっと、期待しているような目で見た。
「な、何よ」
なんかキラキラ光ってる気もするわ。
「…………。…………ツッコミは?」
「ツッコミ待ちだった!? 何無意味なことやってるのよ!」
「無意味じゃないよ。ボケることこそ命だと思っている私の、まさに命を賭けた行動さ。……もしツッコミがこなかったら危うく命を落とすところだったね」
「知らないわよ! というかさっさと釣り針川から揚げなさいよ!」
「だが断る」
「何故!?」
もう私は突っ込んだじゃない!
「この河城にとりの好きなことは釣り針にキュウリを付けて釣りをしだす行動に対して突っ込まない奴にノーと言うことだ」
「えらくピンポイントね!」
「え? そんなにとりも大好き? ……照れるなぁ」
「耳大丈夫!?」
何でいきなり大好きとか言う必要があるのよ!
「まぁ私は僅かな確率を信じてこのまま釣りを続行するけどね」
「確率ゼロよ! 欠片も無いわ!」
「え? 前に釣れたよ?」
「嘘!」
「……木片が」
「やっぱり嘘じゃない!」
一瞬信じかけた私がバカだったわ。
「よっと!」
にとりはそう言って岩の上から降りた。手には二匹魚を持っている。
「どうしたのそれ」
見たところエサは無いし、釣ったわけじゃなさそうね。
「私には追尾機能付きのびーるアームという裏技があるんだ」
「……ズルいわね」
「さ、雛。食べよう」
「遠慮しておくわ。肉類魚類は嫌いなの」
「あー……そういやそうだったね」
野菜が一番なのよ野菜が。それに私の食べ物は信仰だし。
「たまには食べてみたら?」
「いいわ。……あ、そうそう。厄集めの後だから今私の近くで魚焼くと漏れなく河童の焼死体が一つ出来上がるわよ」
「……注意するよ」
にとりもあまり無理に食べさせるのは良くないと思ったのか、すぐに引き下がった。
私は川まで歩いていきブーツとソックスを脱ぐと、足だけを水の中に入れた。今日は秋にしては暑いので、冬用の服を着ている私は少し汗をかいていた。川の水は冷たく、そんな私に丁度良かった。
「夏が懐かしいわね……」
夏も、ここでにとりと二人してわいわいやってた記憶がある。真新しい記憶ではあるけど少しそれに懐かしさを感じた。
私は焚き火の用意をしたり魚を棒に刺してさらにそれを地面に刺したりしているにとりに言った。
「あー……そうだね。あの雛が酔って裸踊りした夜とか」
「してないわ! 何の話よ!」
「あとは雛の水死体を見つけたりとか……」
「だから何の話よ!」
「美しい夏の夢だよ……」
「夢!? どこも美しくないわ!」
夏の話だけどにとりにしか分からない話題じゃない!
「え? 雛美しかったよ?」
「そ、そそそっち!? にとりが夢の中で私をどれだけ美化してるかなんてし、知らないわ!」
「あ、雛が美しいで思い出したんだけど、あの夜も夏だったね……。……雛、優しかったよ」
「な、何の話!? 全く分からないわ!」
「また、ね……?」
「だ、だから何があったのー!」
にとりは両腕で自分の体を抱き締めながら熱い視線をこちらに注いでいる。
こ、これでも一応記憶力は良いって自負してるし、憶えて無いってことは……。
「な、何も無かったのね!?」
「うん」
「何よ! 冗談だったの!?」
「うん」
「少し本当に何かあったと思ったじゃない!」
「うん」
「うん」だけじゃなくて何か言いなさいよ!
「でも夏かぁ……確かに懐かしいね」
「……たとえば?」
「んー……七夕の時、雛が可愛かったこととかー」
「な、何の話よ!」
「…………願い事……」
「はぅ!」
そ、そう言えばそ、そんなことも……。
「に、にとりは何を言ってるのかしら? 全く憶えが無いわ」
「……えーと、短冊どこ行ったかなー」
そう言ってにとりは岩の上に飛んで上がり、リュックサックを漁り始めた。
「も、持ってるの!?」
「んー? 何がー? ……あ、あった『にとりとずっと一緒──』」
「わーっ! わーっ! お、落ち着いてにとり! 早まってはいけないわ!」
「何がー? 雛憶えてないんじゃないのー?」
「い、今思い出したわ。完全に、少しの狂いも無く」
この場ににとりと私──短冊の内容を知っている二人しかいないとしても声に出されると恥ずかしいわ……。あの時笹の処理をにとりに任せないで自分でやるんだった。……もしくは短冊だけ確保しておくとか……。
「うーん……」
「? どしたの雛」
「にとり……私の秘密のために死んでくれるかしら?」
「私秘密より格下!?」
「凶器……凶器……あ、にとり、その釣竿貸してくれる?」
「絶対、嫌だ!」
いい武器になると思ったのに……。
「そんなに短冊の内容を言われるのが嫌なの?」
「もちろんよ。恥ずかしいじゃない」
「よし、言おう」
「待ってにとり! 素数を数えて!」
何で恥ずかしいって聞いた途端に言おうとするのよ!
「まぁ短冊は置いておくとして、あとは夏といえば今年はすごく暑かったよね」
「……そうだったわね。……あ、そういえば結局暑さ対策ってしたの?」
「ううん。気合でどうにかした」
「死に掛けてたのに気合でどうにかなったのね……」
「不可能を水に流す河童だからね」
「いや、意味が分からないわ」
にとりはキュウリをザルから一つ取ると口にくわえ、岩から降りようとした。
「あ、火を点けるの? 私がやるわ」
「ひふぁふぁ?」
「幻想郷の標準言語って知ってるかしら?」
「……んくっ、雛が?」
キュウリまだ九割残ってたのによく飲み込めたわね。
「ええ……大鐘婆の火で」
「や、私がつけるよ。仕事帰りの雛には迷惑をかけられないしね」
にとりは焦った顔で言った。
「大丈夫よ。別にそこまで疲れてないし。魚も……ちょっと厄くなるだけだし、きっとにとりだったら少し死に掛けるくらいでしょうし」
「死に掛けるのは少しじゃないよ!」
「にとりだったら気合でどうにかできるわよ」
「出来ないと思うな!」
キュウリは飲み込めたのに……。まぁでも実際大鐘婆の火で焼いたら厄い魚──ヤックルフィッシュが出来上がるわね。人間が食べたら即死。自殺願望の方にはもってこい。今なら特製厄神様の厄いお守りも付けて無料でご奉仕させていただくわ。
私は懐から「大鐘婆の火」のスペルカードを取り出し、焚き火と魚の準備がされている場所へと動いた。
「わーっ! 待って待って!」
「待つのは苦手なの」
「くっ……のびろ! アーム!」
にとりがそう言うと、リュックサックから何本かのびーるアームが私に向かって飛び、うち二つは私の両腕を掴み、遅れてきた一つは火打石を持って火を付けようとした。
「待ってにとり、私は火を遠くまで飛ばせるわ」
「あっ! 急げアーム!」
「うふふ、私の勝ちよ」
いつの間に勝負になってたのかしら。まぁいいわ、
──悲運「大鐘婆……
「雛ー! 大好きだー! 結婚してー!」
「のぉっ!? なっ……ななななななぁ!?」
「そして火は灯りだす」
──ぼっ!
アームの付けていた火の方が先に点いた。……しかも火打石にしては非常識な量が一瞬で。見るとアームがもう一本出ていて、それの中には油の入ったビンがあった。
「けっけっけっこ……けっ」
け、結婚って言うのはあの好きな人と好きな人同士が永遠の愛を誓うあの儀式の話であって、それを今にとりが私に要求してきたってことは……で、でも私とにとりは友達な筈。で、でででもにとりが私と結婚したいって言ったってことは要するに私が私が……そ、そんなわけないじゃない! 何考えてるのよ私! ……で、でもさっきの台詞を聞く限りだとそう解釈することも出来ないことも無いし……で、でもでも私とにとりはずっと友達で通してきてるんだし……だ、だけど万が一ってことも考えると……はぅ。
「雛ー。大丈夫ー?」
「…………はぅ」
──ぽてん
「あ、倒れちゃった」
にとりは急いでアームで受け止めた。
「知恵熱って奴かな。……あれ?」
キュウリを付けた竿が揺れている。まるで何かに引っ張られているように。
「そぉい!」
にとりは竿をそっと手に取ると思い切り引いてみた。
「…………本当にキュウリで魚って釣れたんだね」
「あ、雛。おはよー」
「もう夕方だけど」
夕方、厄集めが一段楽したところで川に行くと、そこには釣り糸を下げたにとりがいた。岩の上に座っている彼女の左にはいつものリュックサックと、右には大量のキュウリの積んであるザルがあった。……私がここに来るまでにどれだけ消費したんだろう。
「いやぁ……待った甲斐があったよ。ようやく釣れた」
「? 何か釣れたの?」
「うん」
「何が?」
「雛」
「……え?」
今何て言った?
「だから雛が釣れたんだって」
「私は釣りでは釣れないわ! 今だって普通に来ただけじゃない!」
「釣られた事にも気付かないなんて……」
「だから釣られて無いから!」
まずなんで川で私が釣れるのよ!
私はとりあえず膝を折り、その場に座った。ここならばにとりに厄が付かないだろう。
「むー……やっぱりエサを付けなかったのがいけなかったのかな」
「エサ無しだった!? 私どころか魚も釣れないわ!」
「いや、雛だったら……」
「ないわよ!」
にとりは私を何だと思ってるのかしら。
「でも結果として来てくれたからいっか」
にとりはいつも持っている蒲の穂を振って言った。
「それとも今から釣られる?」
「何で!? 訳が分からないわ!」
「じゃあ普通に釣りするよ」
そう言ってにとりは釣り針の先にキュウリを付けた。……釣れる筈無いじゃないし普通でも無いわ!
「…………」
──ぽちゃん
竿を振り、川に針を入れるとにとりはこちらをじっと、期待しているような目で見た。
「な、何よ」
なんかキラキラ光ってる気もするわ。
「…………。…………ツッコミは?」
「ツッコミ待ちだった!? 何無意味なことやってるのよ!」
「無意味じゃないよ。ボケることこそ命だと思っている私の、まさに命を賭けた行動さ。……もしツッコミがこなかったら危うく命を落とすところだったね」
「知らないわよ! というかさっさと釣り針川から揚げなさいよ!」
「だが断る」
「何故!?」
もう私は突っ込んだじゃない!
「この河城にとりの好きなことは釣り針にキュウリを付けて釣りをしだす行動に対して突っ込まない奴にノーと言うことだ」
「えらくピンポイントね!」
「え? そんなにとりも大好き? ……照れるなぁ」
「耳大丈夫!?」
何でいきなり大好きとか言う必要があるのよ!
「まぁ私は僅かな確率を信じてこのまま釣りを続行するけどね」
「確率ゼロよ! 欠片も無いわ!」
「え? 前に釣れたよ?」
「嘘!」
「……木片が」
「やっぱり嘘じゃない!」
一瞬信じかけた私がバカだったわ。
「よっと!」
にとりはそう言って岩の上から降りた。手には二匹魚を持っている。
「どうしたのそれ」
見たところエサは無いし、釣ったわけじゃなさそうね。
「私には追尾機能付きのびーるアームという裏技があるんだ」
「……ズルいわね」
「さ、雛。食べよう」
「遠慮しておくわ。肉類魚類は嫌いなの」
「あー……そういやそうだったね」
野菜が一番なのよ野菜が。それに私の食べ物は信仰だし。
「たまには食べてみたら?」
「いいわ。……あ、そうそう。厄集めの後だから今私の近くで魚焼くと漏れなく河童の焼死体が一つ出来上がるわよ」
「……注意するよ」
にとりもあまり無理に食べさせるのは良くないと思ったのか、すぐに引き下がった。
私は川まで歩いていきブーツとソックスを脱ぐと、足だけを水の中に入れた。今日は秋にしては暑いので、冬用の服を着ている私は少し汗をかいていた。川の水は冷たく、そんな私に丁度良かった。
「夏が懐かしいわね……」
夏も、ここでにとりと二人してわいわいやってた記憶がある。真新しい記憶ではあるけど少しそれに懐かしさを感じた。
私は焚き火の用意をしたり魚を棒に刺してさらにそれを地面に刺したりしているにとりに言った。
「あー……そうだね。あの雛が酔って裸踊りした夜とか」
「してないわ! 何の話よ!」
「あとは雛の水死体を見つけたりとか……」
「だから何の話よ!」
「美しい夏の夢だよ……」
「夢!? どこも美しくないわ!」
夏の話だけどにとりにしか分からない話題じゃない!
「え? 雛美しかったよ?」
「そ、そそそっち!? にとりが夢の中で私をどれだけ美化してるかなんてし、知らないわ!」
「あ、雛が美しいで思い出したんだけど、あの夜も夏だったね……。……雛、優しかったよ」
「な、何の話!? 全く分からないわ!」
「また、ね……?」
「だ、だから何があったのー!」
にとりは両腕で自分の体を抱き締めながら熱い視線をこちらに注いでいる。
こ、これでも一応記憶力は良いって自負してるし、憶えて無いってことは……。
「な、何も無かったのね!?」
「うん」
「何よ! 冗談だったの!?」
「うん」
「少し本当に何かあったと思ったじゃない!」
「うん」
「うん」だけじゃなくて何か言いなさいよ!
「でも夏かぁ……確かに懐かしいね」
「……たとえば?」
「んー……七夕の時、雛が可愛かったこととかー」
「な、何の話よ!」
「…………願い事……」
「はぅ!」
そ、そう言えばそ、そんなことも……。
「に、にとりは何を言ってるのかしら? 全く憶えが無いわ」
「……えーと、短冊どこ行ったかなー」
そう言ってにとりは岩の上に飛んで上がり、リュックサックを漁り始めた。
「も、持ってるの!?」
「んー? 何がー? ……あ、あった『にとりとずっと一緒──』」
「わーっ! わーっ! お、落ち着いてにとり! 早まってはいけないわ!」
「何がー? 雛憶えてないんじゃないのー?」
「い、今思い出したわ。完全に、少しの狂いも無く」
この場ににとりと私──短冊の内容を知っている二人しかいないとしても声に出されると恥ずかしいわ……。あの時笹の処理をにとりに任せないで自分でやるんだった。……もしくは短冊だけ確保しておくとか……。
「うーん……」
「? どしたの雛」
「にとり……私の秘密のために死んでくれるかしら?」
「私秘密より格下!?」
「凶器……凶器……あ、にとり、その釣竿貸してくれる?」
「絶対、嫌だ!」
いい武器になると思ったのに……。
「そんなに短冊の内容を言われるのが嫌なの?」
「もちろんよ。恥ずかしいじゃない」
「よし、言おう」
「待ってにとり! 素数を数えて!」
何で恥ずかしいって聞いた途端に言おうとするのよ!
「まぁ短冊は置いておくとして、あとは夏といえば今年はすごく暑かったよね」
「……そうだったわね。……あ、そういえば結局暑さ対策ってしたの?」
「ううん。気合でどうにかした」
「死に掛けてたのに気合でどうにかなったのね……」
「不可能を水に流す河童だからね」
「いや、意味が分からないわ」
にとりはキュウリをザルから一つ取ると口にくわえ、岩から降りようとした。
「あ、火を点けるの? 私がやるわ」
「ひふぁふぁ?」
「幻想郷の標準言語って知ってるかしら?」
「……んくっ、雛が?」
キュウリまだ九割残ってたのによく飲み込めたわね。
「ええ……大鐘婆の火で」
「や、私がつけるよ。仕事帰りの雛には迷惑をかけられないしね」
にとりは焦った顔で言った。
「大丈夫よ。別にそこまで疲れてないし。魚も……ちょっと厄くなるだけだし、きっとにとりだったら少し死に掛けるくらいでしょうし」
「死に掛けるのは少しじゃないよ!」
「にとりだったら気合でどうにかできるわよ」
「出来ないと思うな!」
キュウリは飲み込めたのに……。まぁでも実際大鐘婆の火で焼いたら厄い魚──ヤックルフィッシュが出来上がるわね。人間が食べたら即死。自殺願望の方にはもってこい。今なら特製厄神様の厄いお守りも付けて無料でご奉仕させていただくわ。
私は懐から「大鐘婆の火」のスペルカードを取り出し、焚き火と魚の準備がされている場所へと動いた。
「わーっ! 待って待って!」
「待つのは苦手なの」
「くっ……のびろ! アーム!」
にとりがそう言うと、リュックサックから何本かのびーるアームが私に向かって飛び、うち二つは私の両腕を掴み、遅れてきた一つは火打石を持って火を付けようとした。
「待ってにとり、私は火を遠くまで飛ばせるわ」
「あっ! 急げアーム!」
「うふふ、私の勝ちよ」
いつの間に勝負になってたのかしら。まぁいいわ、
──悲運「大鐘婆……
「雛ー! 大好きだー! 結婚してー!」
「のぉっ!? なっ……ななななななぁ!?」
「そして火は灯りだす」
──ぼっ!
アームの付けていた火の方が先に点いた。……しかも火打石にしては非常識な量が一瞬で。見るとアームがもう一本出ていて、それの中には油の入ったビンがあった。
「けっけっけっこ……けっ」
け、結婚って言うのはあの好きな人と好きな人同士が永遠の愛を誓うあの儀式の話であって、それを今にとりが私に要求してきたってことは……で、でも私とにとりは友達な筈。で、でででもにとりが私と結婚したいって言ったってことは要するに私が私が……そ、そんなわけないじゃない! 何考えてるのよ私! ……で、でもさっきの台詞を聞く限りだとそう解釈することも出来ないことも無いし……で、でもでも私とにとりはずっと友達で通してきてるんだし……だ、だけど万が一ってことも考えると……はぅ。
「雛ー。大丈夫ー?」
「…………はぅ」
──ぽてん
「あ、倒れちゃった」
にとりは急いでアームで受け止めた。
「知恵熱って奴かな。……あれ?」
キュウリを付けた竿が揺れている。まるで何かに引っ張られているように。
「そぉい!」
にとりは竿をそっと手に取ると思い切り引いてみた。
「…………本当にキュウリで魚って釣れたんだね」