おや? チルノがあつまって……
キングチルノになりました!
「あたい、いず、すとろんぐ」
かしこい!
不吉な夢で目を覚ました。大妖精は顔にびっしりとこびりついた汗を拭い、近くの湖で顔を洗った。
身体を休める為に睡眠をとったはずなのに、何故か呼吸は荒い。
顔を冷やしていくうちに、ようやく気持ちが落ち着いてきた。ほっと胸を撫で下ろし、ふと自分はどうしてこんなにも汗を掻いていたのか考え込む。
何か悪夢を見ていたような気がするのだが、思い出すことは出来ない。
まあ、悪夢なんて好んで思い出すようなものでもないし。大妖精は頭を振って、悪夢を完全に頭から消し飛ばした。
一緒に黄色いリボンも飛びそうになる。慌てて押さえ、きつく結んでおいた。
空は快晴、青空満開。ちらほら雲も見えるけど、綿飴みたいでいとおかし。
一度、綿飴とお菓子とかけてみたんですよ、と説明したこともあるのだが回りの連中は理解してくれなかった。
「そーなのかー」
「ふーん」
「馬鹿みたい」
ちなみに、一番最後の台詞が親友だというこのやるせなさ。しかも、馬鹿に馬鹿と言われたものだから枕が涙で濡れたのも仕方のないことと言えよう。
嫌な記憶を呼び覚ましてしまった。良い記憶というのは早く忘れるけれど、嫌な記憶というのはなかなか忘れさせてくれない。
そういった意味では、悪夢というのは不思議である。嫌なものであるくせに、朝になったら忘れていることが多い。夢だからなのか。それとも、覚えていたら洒落にならないから忘れてしまっているのか。
「どっちでもいいけど、とりあえず綿飴食べたいなあ」
空を見上げ、木に背を預ける。人間ならばこれで癒されるのだが、大妖精は名の通り妖精。木々の声がたまに聞こえてきたりして、「ちっ、重えよ」とか言ってくるもんだから蹴りをいれたくなる。
同類で花も「こっちみんな」とよく言うけれど、こちらはバッグに大妖怪がついているので迂闊な対応はできない。植物の世界にも色々な派閥があるのだ。面倒くさい。
「あーあー、今日は何して遊ぼうかなあ?」
答えが空に書いてあるわけでもなし。しかし、こうして何をしようか考えている時間というのも貴重なものである。チルノがいると引っ張ってくれるから、ついつい何も考えずについていってしまう。それで大概は痛い目をみるのだが、退屈だけはしないので暇な時は一緒にいたいタイプである。
チルノを捜しに行こうかと思った。今こそがまさに退屈な時。チルノが必要とされる場面は、まさにここなのだから。
しかし、チルノがどこにいるのか。それは長年連れ添った大妖精にもわからない。
そもそも、思考がトレースできないのだ。相手の立場に立って考えるというのは重要なことだけれど、ことチルノが相手ではそれもままならない。
一度、たこ焼きが食べたいから鶏買ってくると言われた時は本当に同じ妖精なのかと頭を悩ませたほどだ。
会いたい時は、こうして湖の側でボーッとしているに限る。そうすれば、自ずと向こうからやってくるのだから。
「大ちゃーん!」
ほら、ごらん。鳥たちに優しく語りかける大妖精。
鳥は知らんがなと言い残し、まだ見ぬ大地へ向かって飛び立った。
「チルノちゃーん!」
こちらへ駆け寄るチルノの手には、何やら本が握られている。勿論、妖精が本を買えるわけはない。
大方、アリスのところで借りてきたのだろう。
さすがに小難しい本となれば話は別だが、童話ぐらいなら大妖精にだって読める。チルノも読めるうえに、意外と読書好きだったりするから世の中はわからない。
全速力で何故か走ってきたチルノは、開口一番で宣言した。
「あたい、決めた!」
嫌な予感がした。この出だしで良い目に遭ったことがない。
大妖精は唾を飲み込みながら、何を、と尋ねた。
「あたい、王様になる!」
びっくりキング発言だが、大妖精は肩すかしをくらったような感覚だった。
彼女の発言にしては、まだ大人しいレベルである。相も変わらず、具体的な道筋はわからないが。
「でも、どうやって王様になるの? というか、そもそもチルノちゃんなら女王様じゃない?」
「ふふふ、あたいは女王とかそんな器で収まるような妖精じゃないわ。王様こそ、最強のあたいに相応しい!」
器とか、そういう問題ではないのだが。やっぱりチルノは話を聞かない。
大方、読んだ童話に影響されたのだろう。影響されやすいところがチルノの欠点でもあり、長所でもあった。
しかし、童話の王様なんてのは大概騙されて終わりの人達ばかりなのだが。一体、どこにチルノをひきつけるだけの要素があったのだろう。
まあ、この調子だと訊いたところで「最強だから」という答えが返ってくるに決まってる。ここは大人しく成り行きを見守るのが賢い妖精の在り方である。
「とりあえず、井戸ね」
大人への階段を一歩上ったところで、早速チルノの発言に首を傾げる。理解者の階段は三段飛ばしぐらいで駆け上っていかないといけないようだ。
「井戸で何するの?」
「決まってるじゃない。叫ぶのよ」
「ああ……」
オチが読めた。
しかし、あれは王様が井戸に叫ぶ話だったろうか。大妖精の記憶が確かならば、床屋が井戸に叫んでいたような気がする。
「里の方に行けばあるかもしれないけど、チルノちゃん、何を叫ぶの?」
「王様の耳はロバの耳」
「チルノちゃん、ロバの耳じゃないじゃん」
「じゃあ、大ちゃんは穿いてない」
なんたる機密漏洩。大妖精は顔を赤らめながらチルノの口を押さえにかかった。
さすがにそれを叫ぶのは一大事なので、もっと他のことを叫んで貰うことにした。あと井戸も遠いから、湖に向かって。ちょっとした大声大会なのだが、それはまあ言わないことにした。
「アリスの友達はチャコペッカリー!」
たまたま湖の近くを通りかかったアリスが、血相を変えてやってきた。
「誰が言ったの!」
「リグル」
目を吊り上げながら、アリスはリグルを求めて飛び去っていく。捕まったリグルは何のことだかわからず、「それでもボクはやっていない」と弁明するのだが聞き入れられず。アリスの餌食となる。
ちなみに、この事件を元にした映画も作られたのだがリグルファンから一人称が違うと猛抗議を受け上映中止の運びとなった。
余談である。
「この王様は何か違う」
叫ぶだけ叫んだチルノは、ようやく己の誤りに気がついたようだ。不思議そうな顔をしながら、小石を蹴飛ばす。
「王様になるのは難しいわね。さすが王様」
言ってることに間違いはないのだが、過程を色々と間違っているので困る。
だが、チルノの辞書に諦めるという文字はない。
「今度はこの王様になるわ」
そう言って差し出されたのは、走れメロス。童話ではないのだけれど、タイトルが面白そうだからとアリスから借りて読んだことがある。
しかし、これの王様は大した活躍などしていない。そもそも、どちらかと言えば悪役だ。チルノが思うような王様ではないのだが。
「じゃあ、あたし走るわ」
「待って待って、チルノちゃん」
案の定、チルノは何か勘違いしていたらしい。走りだそうとするチルノを、必死に大妖精はくい止めた。
「走るのはメロスだから、王様が走ったら駄目だよ」
立ち止まるチルノ。わかってくれたのか。
不覚にも、大妖精の顔には安堵の色が見えた。
チルノは振り返り、極上の笑みで答える。
「でも、あたい王様だから」
「チ、チルノちゃーん!」
駆けだしたチルノを、最早止める者はいなかった。
チルノは走った。チルノの頭はからっぽだ。何一つ考えていない。
ただ、わけもわけらず走った。
五分ぐらい走って気づいた。
「ゴールはどこだ」
そういう話ではなかった。
ひとしきり走って満足したのか、チルノは汗を掻きながらとても良い笑顔で戻ってきた。
「王様はやっぱり良いわね」
良いのは王様ではなく、汗を掻いて動くことである。
でも、チルノが満足したのならそれに越したことはない。
「じゃあ、次の王様ね」
王様タイムはまだまだ終わらないようだ。大妖精は頭を抱える。
慣れると、この頭痛が癖になるらしい。狐や薬師がそう言っていた。
大妖精は、まだまだその域には達していない。
「大ちゃんはここにいて。あたいは一人で行ってくるから」
「私も行くよ」
「いいのよ。まずは里でお披露目して、その後で最後に大ちゃんへ見せてあげる。だから、待ってて!」
言うや否や、チルノは飛んでいった。
あの口振りから察するに、相当の自信があると見える。もっとも、チルノの自信と結果の酷さは見事に比例しているのだが。
ため息をついた大妖精の目の前に、一冊の本が落ちていた。
おそらく、チルノが飛んでいく際に落としたのだろう。
困ったものだ。大妖精は苦笑しながら本を拾い上げ、タイトルを見て顔色を変えた。
そして、慌ててチルノの後を追う。
『裸の王様』
本のタイトル部分には、そう書かれていたのだ。
「チルノちゃーん! 待ってー!」
澄み渡った青空に、大妖精の叫びが木霊した。
もっとはじけて欲しいくらい。
こうしてはいられない。俺も幻想郷に行く。
俺も今すぐ荷物をまとめなければ。
ブン屋「ええ、よくみえますよ」
狐「そうか、そうだよな!」
大ちゃん頑張れ。
貴方の弾けっぷりに乾杯。
さて、幻想郷に旅立つか……
裸にするやつか裸を眺めるやつか、チルノちゃんがどっちの行動をしたかがすっごい気になるw
はいてないについて詳しくっ!
>かしこい!
腹筋割れるわwwwwww
まったく、履いてないといい裸王といいさらりと重要なことを書くから困りますね!!
最初から最後まで一貫して高いテンションに笑わせてもらったw
GJ。
さてと、ちょっと幻想入りしないといけないんでこれで。
てか大ちゃん穿いてないの?!
裸の王様・・・
この2つから導き出される答えはひとつ!
観衆役になったチルノが裸の大ちゃんを見ているのだよ!!!
さて、幻想郷いってきますね。
めでたいことですが、八重結界様のSSが読めなくなるのは残念です。
大いに笑わせてもらいましたw