※本作品には、見方によっては百合と思われる表現があります。
それでも構わないという方は、本文へどうぞ。
「いっ、痛い痛い、痛いって! もうちょっと優しくしてくれよ」
「うるさいわね。消毒してるんだから染みるのは当たり前でしょ」
「だからって、お前のは遠慮がなさすぎ――――――いたたたたた!」
騒ぐ魔理沙を押さえつけ、消毒液を含ませたガーゼをピンセットでつまみ、アリスは手馴れた手つきで患部にちょんちょんと当てていく。
その度に悲鳴じみた声が響き渡るのだが、アリスはまったく意に介さずに手を動かし続けている。
「あら、この傷はかなり染みそうね。ちょっと我慢なさい」
「ちょっ、待っ――――――ッッッ!!」
なんでもないような声で告げ、容赦なくガーゼを押し当てる。
たまらず魔理沙が声にならない悲鳴を上げた。が、それすらも無反応。無情である。
しばらくして。
痛みの波が引いた魔理沙は、恨みがましく上目遣いになってアリスを見つめた。
「………………なあ」
「なによ」
「前々から思っていたんだがな」
「だから、なに」
「お前、Sだろ」
二人の間に落ちた一瞬の沈黙の後。
アリスは無言のまま、既に消毒が終わっているはずの傷口にガーゼを押し当てた。それも、ぎゅうっと。擬音が出るぐらいに、強く。
「はぅああああああああああああああああああああ!」
「黙んなさい。近所迷惑よ」
断末魔の悲鳴を鉄壁の無表情で聞き流しながら、やれやれとばかりに溜め息を漏らす。
人に傷の手当てをさせておいて、何を言い出すかと思えば。
無論、アリスとて、このひねくれ者に素直な感謝の言葉なぞ期待するほどお人好しではない。
それにしたって、他に言うことがあるだろうに。
「自業自得、ね」
呆れの混じった呟きは、軽く白目を剥いて痙攣している魔理沙には届かなかった。
『White night』
「はい、これでおしまい」
背中の傷の治療を終え、ぱたん、と音を立てて薬箱を閉じる。
数は多かったが、軽い傷ばかりだったのが幸いしてそれほど手間取らずに済んだ。
そもそも、スペルカードルールに基づいた弾幕勝負で重傷を負うことは滅多にない。
互いに見知った相手ならば、尚更のことだ。
ここ数日の間に随分と軽くなってしまった薬箱を見下ろし、アリスは溜め息を吐いた。
「あんたも懲りないわね。負けるのが趣味なわけ? M?」
「ふざけんな、私はいつだって全力で勝ちを狙ってる。今日はちょっと………………そう、調子が悪かっただけだ」
「一昨日も同じ台詞を聞いた気がするんだけど。ついでに、その三日前も」
「気のせいだぜ」
服を着直しながらいつものように軽口を叩く魔理沙を尻目に、アリスは大儀そうに立ち上がった。
人形を呼び、薬箱を片付けさせた後、肩越しに魔理沙を見遣る。
「ミルクティーとストレート。どっちがいい?」
「レモンティー」
「ああそう。じゃ、たっぷりと酸性の毒を入れてあげるわ」
「砂糖は多めで頼む」
ソファの上でひらひらと手を振る魔理沙には答えず、キッチンへと向かう。
廊下を歩くアリスの顔には、ある種の諦観が漂っていた。
魔理沙の冗談に付き合っていたら、それこそ夜が明けかねない。
温めたポットにいつもよりやや多めの茶葉をいれ、熱湯を注いで蓋をする。
ミルクティーを淹れる時は、蒸らし時間を長めにとるのが定石だ。
何もせずにボーっと待っているのも芸がないので、並行してできる準備をしておくことにする。
二人分のカップとソーサー、それと砂糖を用意。スプーンも忘れずに。ついでにお茶請けとしてクッキーを皿に出す。
アリスは別にクッキーなぞ食べなくてもいいのだが、何かしらつまめるものがないと魔理沙がうるさいのである。
最後に、既にお湯を入れて温めてあったミルクピッチャーにミルクを注ぎ、準備完了。
時計を見ると、蒸らし始めてからまだ一分程度しか経っていなかった。
手際がよすぎるのも考えものだ。結局、ボーっと待たなければならない時間ができてしまった。
気だるげに吐息を漏らし、腕を組んで壁に寄りかかる。
翠玉のような双眸に映り込む、ゆらゆらと明滅するランプの灯り。
炎が揺らめく様をうつろな瞳で見つめながら。
アリスはふと、自分が置かれている状況を顧みる。
今日という日付が終わるか否かという、いいかげん夜も更けた時間帯。
少し前までは、この時間帯は窓際に据えた安楽椅子に座って読書をするのが日課だった。
ちょっと甘めのミルクティーを飲みながら、眠気を催すまでひたすら読書に没頭するための一時。
しかし、最近は毎日のように魔理沙がやってくる。
霊夢と弾幕勝負をした後に、何故かアリスの家にやってきて、勝手にくつろいでいく。
傷の手当てをさせられたり、夕食を作らされたり、果ては寝床を提供したり。
魔理沙は相変わらず自分勝手で、他人の都合というものを全然考えていない。
読書というのは静かな環境でするものだ。
魔理沙と一緒の部屋にいて、優雅に読書などできるはずがない。
おかげで数日前に読みかけだった魔導書の内容を綺麗さっぱり忘れてしまった。
「本当、子供よね。魔理沙って」
ぽつりと、平坦な声で呟く。
いつも興味本位で行動して、気まぐれで、平気で嘘を吐いて。
周りにいる人間や妖怪は振り回されっぱなしだ。
でも。
こうして同じ時間を過ごすことは、不思議と嫌じゃなかった。
初対面からずっと、こいつとは一生相容れることがないとお互いに感じていた、犬猿の仲だったはずなのに。
気付けば、魔理沙が傍にいることに違和感を感じなくなっていた。
きっかけは永遠亭の住人が起こした異変。
月がおかしくなってしまったあの異変で、二人は嫌々ながら手を組んだ。
話を持ちかけたのはアリス。報酬として数冊の魔導書をちらつかせると、魔理沙はすぐに喰いついてきた。
他にも数組の人妖や亡霊が異変解決のために動いていたようだが、おそらく最も打算的な結合をしたのはアリスたちだろう。
七色の人形遣いと、白黒の魔法使い。
彼女たちはお互いの利益のために、お互いの力を貸し合い。
禁止事項はただ一つ。裏切らないこと。たったそれだけの、一夜限りの契約。
思えば、既にあの時に誤算が生じていた。
弾幕を張るという共同作業において、嫌っていたはずの魔理沙と殊のほか息が合ってしまったのだ。
もともと魔法使い同士ということもあり、戦闘のパートナーとしては極めて相性が良く。
互いの性格や弾幕の性質も、それぞれの不得手な面をカバーするように上手く補い合っていて。
あの夜、胸に去来した奇妙な昂揚感を、今もはっきりと思い出せる。
普段は弾幕勝負の勝敗などに執着しないのに。
負けたくなかった。いや、負ける気がしなかった、というほうが正しい。
最大の誤算は、行きがかり上弾幕勝負をすることになった異変解決の第一人者、博麗霊夢を倒した時。
最後のスペルカードを破られ満身創痍の霊夢を前にして、不覚にも思ってしまった。
魔理沙と一緒にいる時間が『楽しい』――――――と。
それ以来、互いの家に遊びに行ったりすることがぽつぽつと増え始めて。
少なくとも犬猿の仲というほど険悪な間柄ではなくなったように思う。
とはいっても根本的な価値観の違いはどうしようもなく、時々くだらないことで衝突したりもする。
つい先日、緑茶と紅茶どっちが美味しいかという議題で、一晩中議論を交わした時のことが脳裏をよぎる。
互いに唾を飛ばさんばかりの剣幕で、途中から紅茶や緑茶は関係なく、半ば罵り合いの様相で。
結局、朝日が昇るとともに二人とも限界に達し、そのまま仲良く昼過ぎまで泥のように眠った。
子供なのは、魔理沙だけじゃないのかもね。心外だけれど。
柄にもなく熱い口調で紅茶の良さを滔々と説いた自分の姿を思い出し、失笑を漏らす。
だが、とアリスは思う。
こういう馴れ合いも、存外悪くない。
それどころか、魔理沙が隣にいることに居心地の良ささえ感じ始めている自分を、自覚している。
現に今だって、二人分の紅茶を淹れることを、さも当然のように受け入れているのだから。
程なくして、ティーカップを二つ、加えてお茶請けのクッキーをお盆に載せて客間に戻ってきたアリスは、眉をひそめた。
「………何してんのよ、あんた」
「ん? ああ。この魔導書、いつもお前が肌身離さず持ち歩いてるやつだろ。前から中身が気になってたんだ。
お前がいない間にちょっと読ませてもらおうと思ったんだが、くそ、鍵が開かないな。いったいいくつ施錠魔法をかけたんだ、お前」
アリスには目もくれず、ああでもないこうでもないとぶつぶつ独り言を呟きながら開錠作業に没頭している白黒の魔法使い。もとい、泥棒。
盗人猛々しいとはこのことか。アリスは頬の筋肉を引きつらせた。
まず、お盆をテーブルに置き、ティーカップとクッキーの皿をテーブルの上へと避難させる。
空になったお盆を手に、アリスは落ち着いた足取りでソファに歩み寄った。
胡坐をかき、魔導書を抱えて悪戦苦闘している魔理沙の頭へと視線を定める。
次の瞬間。
無防備な魔理沙の後頭部めがけて、アリスは容赦なくお盆を一閃した。
ぱこーん、と小気味よい音が鳴り響く。
往生際の悪い泥棒が何やら喚いていたが、もう一発、今度は脳天にお盆をくれてやったところ、静かになったので気にしないことにする。
「まったく、油断も隙もないわね」
取り返した魔導書を両手で胸に抱き、セキュリティを確認。
万が一の場合(主に魔理沙に盗まれた場合)を考えて、魔法で七重にロックを掛けてあるのだが、どうやら破られたのは一番外側だけのようだ。
ふう、と安堵の息を漏らす。いかに魔理沙といえど、あの短い時間で全てのロックを解除するのは不可能ということか。
「………そんなに大事なものなら、ちゃんとしまっておけよ」
破られた錠を再度掛けなおしていると、背後からふてくされたような声が聞こえてきた。
ばつが悪そうにそっぽを向いている魔理沙の姿を想像しながら、振り返らずに答える。
「ええ、今度からそうさせてもらうつもりよ。最近、手癖の悪い人間がよく家に来るし」
「私は自分の気持ちに正直に生きてるだけなんだがな」
「物は言いようね」
「本心を言っているまでだ。他意はないぜ」
ちら、と。首を捻って背後の様子を窺うと、案の定魔理沙はふくれっ面をしていた。
それはまるで悪戯を咎められた子供のようで。
怒りや呆れよりも、微笑ましさが胸に湧いてきてしまう。
素直じゃないわね。
視線を魔導書に戻し、肩をすくめるアリスの頬には苦笑が滲んでいた。
ようやく日付が変わり、静かに夜は更けていく。
窓際に据えた安楽椅子に座ったアリスと、ソファの上で胡坐をかいている魔理沙。
二人の魔法使いは温かい紅茶を飲みながら、他愛のない話にただ時を費やす。
珍しいキノコを見つけたとか、霊夢に勝つために新しいスペルカードを考案中だとか。
身振り手振りを交えて話す魔理沙に対し、アリスは微笑を浮かべて聞き役に徹する。
時折相槌を打ったり、突っ込みをいれたりもするが、あくまで聞く側のスタンスは変わらない。
「そういや、こないだパチュリーから面白い本借りてきたんだ。ちょっと特殊な魔法について書いてあるみたいなんだが、
文字も特殊でさっぱり解読できん。うちにある魔導書を片っ端から確認してみたが、同じ文字を使ってるのは一冊もなくてな」
「読めないのにどうして面白いってわかるのよ」
「読めるようになるまでの過程が面白そうだってことさ。宴よりも、宴の準備のほうが好きなやつっているだろ。
あれと似たようなもんだな。ま、内容も面白いに越したことはないが」
「今更だけど、あんたって変人よね」
「褒め言葉として受け取っておくぜ」
別に話し下手というわけではない。魔理沙との共通の話題なんて、掃いて捨てるほどある。
アリスが微笑んで相槌を打ち続けるのは、ごく単純な理由からだ。
自らのこと、友達のこと、その他自分の周りで起こった些細な日常の出来事。
取るに足りないエピソードを、次から次へと披露する魔理沙は、とてもとても楽しそうで。
「今度、神社で宴会やるらしいから、お前も来いよ。最近顔出してないだろ」
「んー。行くのは構わないけれど」
「霊夢が言ってたぜ。アリスが来てくれないと困るって」
「………霊夢が? 冗談でしょ?」
「嘘じゃない。お前がいないと、霊夢が一人で後片付けをすることになるんだ。他の奴らは皆、騒ぐだけ騒いで潰れちまうからな。
羽目を外しすぎずに最後まで正気を保ってられる奴って、霊夢を除けばお前ぐらいだし」
「遠回しにノリが悪いって言われてるような気がするんだけど。考えすぎかしら」
「ああ。ノリ悪いよな、お前」
「そこは嘘でもいいからフォローしときなさい」
わざわざこちらから話題を振って話を遮るような、無粋な真似はしたくない。
それだけの理由で、今夜も聞き役に甘んじている。
だが、微笑を浮かべるアリスの表情に苦痛の色は微塵もなく。
かすかに安楽椅子を揺らして、とりとめのない話に耳を傾けながら。
うん。やっぱり、こういうのも悪くない。
少し冷めてしまったミルクティーを口に含む。
ほどよい甘さが舌の上に広がった。
「それじゃ、消すわよ」
「ああ。おやすみ」
返事を確認してから、ランプの灯りを消す。
暖かなオレンジ色に染まっていた部屋は、瞬く間に暗い闇へと塗り替えられた。
結局、魔理沙は泊まっていくことになった。
草木も眠る丑三つ時に「帰れ」と言って家から叩き出すほど、アリスも人でなしではない。
今日が初めてというわけではないので、互いに気を遣うこともなく、順番に風呂を済ませてすんなりと就寝の準備は終わった。
ちなみに、魔理沙が泊まる時は代わりばんこでベッドを使うことにしている。
この間はアリスがベッドで寝たので、今夜は魔理沙の番だった。
そう。本来なら、おやすみと言って灯りを消した後、アリスは客間のソファで眠るのだが。
「………ねえ、本当に一緒に寝るわけ?」
「なんだよ。私は寝相悪くないから安心していいぞ」
「いや、そういうことを言ってるんじゃなくて」
窓から頼りなげな月光が射し込む寝室で。
既に布団にもぐり込んで寝る準備完了の魔理沙を前にして、アリスはどうしたものかと言わんばかりに溜め息を吐いた。
――――――今日は一緒に寝ないか。お前のベッドなら、詰めれば二人ぐらい寝れるだろ。
風呂から上がった魔理沙が急にそんなことを言い出した時は、思わず「はあ?」と聞き返してしまった。
一緒に寝る。ベッドで。当然、ダブルベッドではないので、お互いにある程度密着しなければならなくなる。
女同士なんだし、一緒に寝たってどうということはないのだが。
窮屈な思いをしてまで、同じベッドで寝る必要があるのだろうか。
ひょっとしてこいつそっち側の趣味なのかと思って警戒したが、そういう素振りもなく、本当にただ一緒に寝ようと誘っているだけのようだった。
その事実が、よりいっそうアリスを混乱させる。
無駄だとは思いつつも、一応抵抗を試みることにした。
「私は別にソファでも構わないわよ。今までだって何度か寝てるし」
「ソファで寝るよりベッドで寝たほうが気持ちいいだろ。そもそもこれはお前のベッドなんだから、遠慮する必要はないぜ」
「そりゃそうだけど。今日はあなたがベッドを使う番でしょう」
「その私が一緒に寝ようと言ってるんだ。逆ならともかく。素直に頷けばいいじゃないか」
「いや、だからね………」
「――――――アリスは」
なおも反論しようとして、すんでのところで口を噤んだ。
「アリスは、私と一緒に寝るの、嫌なのか?」
ぐ、と言葉に詰まる。
それは反則だ、と思った。
毛布をかぶり、頭だけちょこんと出した格好で。
ちょっと切なげな上目遣いの視線で、そんな風に言われたら。
断れるわけ、ないじゃない――――――
「………はぁ。もういいわよ、諦めたわ。一緒に寝ましょ」
言いながら、私も甘いなあ………などと他人事のように考える自分が可笑しくて、声は出さずに苦笑を浮かべるアリスだった。
そっと毛布の中に滑り込む。魔理沙に背を向ける形で、ベッドに横になった。
自分ではない他の誰かの体温によって既に温められている寝床というのは、何だかとっても新鮮で。
枕に頭を落ち着けてからも、妙に気分がふわふわして仕方がなかった。
目をつぶって必死に眠気を呼び起こそうとするのだが、どうにも寝付けない。
何気なく寝返りを打とうと思って、咄嗟に思い止まった。
背後には魔理沙がいる。寝返りを打てば自然と向き合う形になってしまう。
これ以上寝付きにくい状況を作り出してどうする。落ち着け私。
誰かと一緒に寝る。
ただそれだけのことで、こんなにも動揺している自分に腹が立つ。
やり場のない苛立ち紛れに、吐息を漏らした。
「………………アリス?」
明らかに寝息とは違う嘆息を聞き咎められたのか。
不意に、背中の向こうから声がした。
魔理沙が起きていたことに多少驚きを覚えながら、言葉を返す。
「ごめんなさい。起こしちゃった?」
「いや、私もなかなか寝付けなくてな」
「そう。ちょっと紅茶を飲みすぎたのかしらね。私も眠れないの」
そうか、という声が聞こえたあと、何やらごそごそと動く気配がした。
魔理沙が寝返りを打った音だとわかったのは、次に聞こえてきた声が若干聞き取りやすくなっていたからだ。
「アリス」
「ん」
はっきりと、名前を呼ばれた。
依然としてアリスは背を向けたままだが、それでもわかる。
きっと、魔理沙はこっちを向いて喋っている。
「あの、さ」
背中越しに感じる魔理沙の息遣い。体温。
油断すると早鐘を打とうとする心臓を抑えつけ、かろうじて平静を保ちながら次の言葉を待つ。
逡巡しているのだろうか。互いの息遣いだけが闇の中に響く時間がしばらく続いた。
やがて、意を決したように大きく息を吸い込む音が聞こえて。
「さっきは、ごめん」
「――――――え?」
一瞬、頭の中が真っ白になった。
普段とは違うしおらしい口調も、ごめんという謝罪の言葉も、あまりにも予想外で。
何に対しての「ごめん」なのか。
いや、そもそも私は魔理沙に謝られるようなことをされただろうか――――――?
先程までとは別の意味で動揺して反応できないアリスに向かって、魔理沙は続ける。
「あの魔導書。どういう謂れがあるのか知らないけど、お前にとってすごく大切な本なんだろう?
知らなかったとはいえ、興味本位で弄られたら、いい気分じゃないよな。本当に、ごめん」
そこまで言われて、やっと合点がいった。
アリスが肌身離さず持ち歩いている魔導書。あれを読もうとしたことを謝っているのだ、と。
ああ。一緒に寝ようなどと妙なことを言い始めたのも、全てはこのためだったのか。
頭の中でこんがらがっていた糸がするすると解けるように、アリスは急速に普段の冷静さを取り戻しつつあった。
顔を突き合わせた状況じゃ、切り出しにくいから。
こうして灯りを消した暗闇の中なら、仮に向き合っていたとしても、互いの顔色は解かりづらい。
種さえわかってしまえば、なんのことはなかった。
根は真っ直ぐなくせに、わざとひねくれ者みたいに振舞って、周囲の人妖を振り回す。
いつもの霧雨魔理沙と何処に違いがあるだろう。
「………呆れた。魔理沙、あなたそんなこと気にしてたの」
目を閉じ、穏やかな笑みを浮かべて、溜め息混じりに呟く。
アリスの表情を窺い知ることができない魔理沙は、う、と呻き声のようなものを漏らした。
「普段から他人の本をかっぱらったりしてるくせに、意外と律儀なんだ」
「………うるさいな。前にも言っただろ。私は自分の気持ちに正直に生きてるんだ。謝りたいと思ったから、謝った。それだけだ」
「相変わらず可愛くないわね」
くすくすと笑う。
こんな時ぐらい、素直になればいいのに。
でも。
そこが魔理沙らしいといえば、らしいのかも。
「と、とにかく、私はちゃんと謝ったからな!」
「はいはい」
乱暴に毛布をかぶり直す気配がして、いくらも経たないうちに寝息が聞こえてくる。
言わなきゃならないことを言って、安心したのだろう。
本当、こういうところは子供だと思う。
暢気な寝息を背中ごしに聞きながら、アリスもようやく睡魔が訪れるのを感じた。
あれだけ浮ついていた心が、落ち着きを取り戻していて。
目を瞑れば、すぐにでも眠りに落ちることができそうだった。
おやすみ。魔理沙。
心地よい気だるさに身を任せ、目を閉じる。
意識が徐々にシャットダウンされていく中、ふと思った。
今度は私のほうから、一緒に寝ようって誘ってみようかしら。
魔理沙は、いったいどんな顔をするだろう。
驚くだろうか。それとも顔を真っ赤にしてくれるだろうか。
その時の魔理沙の顔を想像して、アリスは少しだけ楽しい気分になって夢の世界へと落ちていった。
何となく文全体に違和感があるのでこの点数で勘弁。
上手く指摘できなくてごめん。
地霊殿で魔理沙が好かれてないとか書かれちゃいましたけど
会話を見る限り二人とも楽しそうですよね
この作品のような気軽なマリアリは結構近いんじゃないかなぁと思ったりしました
確かにこれは少し仲良すぎな気もしますがw
>>20様
むしろ謝るのはこちらのほうですねw
読者に違和感を持たせない文章を書くのは、書き手の基本だと思いますので。
今後、よりいっそう精進したいと思います。
>>21様
だだ甘な話を書こうとすると、パソコンの前で身悶えしてしまうので無理なのです。
ガチ百合な話も一度書いてみたいとは思うのですが。
>>24様
地霊殿の二人は確かに仲良さげですよね。
EXの会話はどこか微笑ましいものがありました。