Coolier - 新生・東方創想話

郷愁

2008/10/05 19:00:30
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 妖怪の山の木々が点々と色づき始めたのはつい最近のことなのだが、それは瞬く間に全体をおおうようになった。濃い緑色の葉は赤、黄、橙色に変化し、少しずつ地面に落ちるか、あるいは風に飛ばされてしまう。守矢神社の周辺も例外ではなく、境内には紅葉した葉が点々と散らばっていた。
 東風谷早苗の一日の始まりは境内の掃除から始まる。日の出とともに起床し、夜に散った葉を片付ける。その後、八坂神奈子と洩矢諏訪子のために朝食を作る。ふたりは早苗が台所で朝食を作り始めると、その匂いにつられて起きだす。今日、先に起きてきたのは諏訪子のほうであった。目をこすりながら台所に入ってくる。ひとつ大きなあくびをした後、
「早苗おはよう。今日の朝食は何?」と訊ねた。
「洩矢様おはようございます。今日は麓で取れた魚を塩焼きにしたものですよ。もうすぐ出来ますので、八坂様を起こしていただけないでしょうか?」
 うん、いいよと言いながら、諏訪子は台所を後にした。早苗はよい頃合になってきた味噌汁の味見をする。今日もいい感じに出来たと早苗は思った。出来た料理を次々とお盆のうえにのせていく。居間のほうから「早苗、まだ?」という声が聞こえてきた。
「出来ましたよ、今行きます」と言って、早苗はお盆を運ぶ。居間ではちゃぶ台を囲むようにして、ふたりが待っていた。神奈子は「おなか減った!」と言う。早苗はご飯と焼き魚と味噌汁をふたりの前に置いていく。ふたりはすぐにでも食べてしまいそうな雰囲気だった。
「それじゃあ、頂きます」
 早苗に続き、頂きますとふたりが一緒に言う。ふたりはものすごい勢いで朝食を平らげていく。「そんなに焦らなくてもおかわりはありますから」と早苗は言う。神奈子と諏訪子はほぼ同時に「おかわり!」と言って、お茶碗を早苗の前にさし出した。早苗は苦笑しながら、ふたりのお茶碗を受け取る。守矢神社の日常はいつもこのような感じだ。おかわりを持っていくとふたりは待ちわびたように目を光らせる。早苗はようやく朝食に手をつけ始めるが、味噌汁と焼き魚はもう冷めていた。
「もう、本格的に秋ですね」
 居間から見える外の景色に顔を向けながら、早苗は言う。「そうだね」と諏訪子は言う。「ここに来てもう一年ぐらい経つのかな」
「今年の冬はどうしましょうかね。今のうちに食べものを少しずつ貯めておきましょうか」
 早苗はそう言いながら、もう、ここに来て一年かと思った。信仰を集めるために幻想郷に来たものの、いくつかの出来事、麓の神社の巫女と魔法使いの訪問、天狗たちとの和解があった。あれから守矢神社に人間が来ることはほとんどない。信仰そのものは『外』の世界よりも得られつつあるものの、ほとんどは妖怪ばかりである。
 ずいぶんと生活のスタイルも変わった。幻想郷には『外』の世界にあったものは何もない。時計もないから今が何時かも正確にはわからない。太陽の位置もあてにならない。ただひとつあてになるのが、日が出れば朝で、日が沈めばそこから夜だということだ。こんなにむちゃくちゃな感覚でも生活できるぐらい幻想郷の日常はのんびりとしている。
 朝食が終われば、それぞれは思い思いの行動に移る。早苗は境内で参拝客を待つし、神奈子はいつのまにかどこかに行ってしまう。諏訪子もそうだ。でも、最近は守矢神社に残って、退屈している早苗の相手をすることが多い。
 賽銭箱の前に早苗と諏訪子は座りながら、鳥居の先から誰かが来るのを朝からずっと待っている。だが、来るのは新聞配達に来る天狗くらいで、麓の人間や妖怪が来ることはほとんどない。
 早苗はそれに慣れているので、適当な時間になれば昼食や夕食の支度を始めるし、神社内の掃除や洗濯があるならば、それをこなす。だが、どちらかと言えば時間をもてあましがちなことが多い。幻想郷に来る前は一日のほとんどを学校で過ごし、帰ってきてからも家事や勉強ばかりで、なかなかこういったように時間をもてあますことが少なかった。だから、こちらに来てからは一日がすごく長く早苗は感じていた。
 諏訪子は足をぷらぷらさせながら、鳥居のほうを見ている。ときどき、早苗に話しかけたり、境内を走り回ったりしている。早苗はそれを仮にも神様なのだからと思いながら、視線を向けている。
 ここ最近、早苗は『外』の世界について考えることが多くなった。もてあました時間のなかでものごとを考えているうちに、いつのまにかたどり着いてしまったのだ。
「早苗、早苗……」
 はっと早苗が顔をあげると、諏訪子が早苗の顔をのぞいていた。「早苗、どうしたの? 泣いてるよ」
 早苗が指で目じりをぬぐうと、涙が流れているのがわかった。いつの間に流れていたのか、早苗にはわからなかった。諏訪子はそっと早苗の背中をさする。早苗は「大丈夫、大丈夫です。ちょっと昔のことを考えていたらこうなっちゃだけですから」と言う。それでも諏訪子が優しく寄り添っているせいか、ぽろぽろと涙は流れ続ける。
「早苗……」と諏訪子が呟く。早苗は「洩矢様ごめんなさい。少しひとりにさせてくれませんか?」と言った。諏訪子はそっと立ち上がり、神社の裏に行く。そのあいだ、早苗が声をあげて泣いているのが、ほんの少しだけ聞こえた。
 神社の裏に来ると、諏訪子はやや鋭い目線であたりを見回す。「神奈子、いるんでしょ。出て来なさいよ」と普段の諏訪子からは考えられないくらい威圧的な声で言った。
「何よ諏訪子、そんなに怖い顔をして」
 神奈子は近くにあった木の枝のうえに立っていた。諏訪子は神奈子を見上げる。
「ねえ神奈子、本当に守矢神社がここに来る必要ってあったのかしら?」
「何を今さら。『外』の世界ではあれ以上の信仰を集めることが難しいのはあなただって知っていたじゃない。現にここでは『外』の世界以上に信仰が集まりつつある。それでもあなたは『外』の世界がよかったって言うの?」
「早苗は……早苗もここに来る必要はあったの?」
「愚問よ。私たち神がふたりいて、現人神がひとりいる。それが守矢神社の姿でしょう?」
 神奈子はあたりまえであるかのように語る。諏訪子もそれが正しいことを知っている。知っていてなお、早苗がこちらに来なければならなかった意味を神奈子に問いかけている。
「早苗には『外』の世界の生活があったはずよ。私たちみたいに誰ともかかわらなかったわけではない。早苗には早苗の交流関係があったはずなのに、それをすべて断ち切ってこちらに連れてくるのはよかったの?
 私は早苗が風祝ではなく、普通の女の子として生活していればと思ったことがある。私たちのために学校が終わったらすぐ帰ってくるのではなく、友達とどこかに遊びに行ったりしたかったと思う。私たちは早苗からたくさんのものを奪い続けたんじゃないの? 私はもうこれ以上、早苗から何も奪いたくない」
「だからと言って」と神奈子は口を開く。「私たちが早苗にしてあげられることなんてない。私たちはただ信仰によって力を蓄え、発揮できる神様だ。そのためには現人神を利用するしかない。それが私たちだ」
 諏訪子はとっさに鉄輪を構える。神奈子も諏訪子の姿を見て、御柱に手をそえる。「神奈子……」と諏訪子は呟く。
「こんなところで諏訪大戦の続きをやろうっていうのかい? 私は一向に構わないけれど。そんな錆びついた鉄でどうするのかしら?」
「神奈子……。私たちの家族ごっこがどうして成り立っているか知っている? 早苗がいるからよ。神奈子、忘れないでね。私、洩矢諏訪子は死ぬまで八坂神奈子を恨み続ける。私の神社を奪い、信仰を奪い、神社から私を隔離した。早苗からもあなたは隔離し続けたわ。私がいったい何百年のあいだ、本殿でひとりでいたか、そのとき何を考えていたか、あなたには一生わからないでしょうね。
 早苗は私たちが仲良くすることを望んでいる。だから、私はあなたに手を出さないのよ。家族ごっこをやっていけるのよ。すべては早苗のため。早苗のためなら、私はなんだってやることができる」
「信仰がなくなり、神という地位を追われたとしても?」
 諏訪子は力強く頷く。神奈子は「勝手にすればいいさ」と言って、どこかに言ってしまう。鉄輪をしまうと諏訪子はぐっと奥歯をかみ締めると、早苗のところにむかった。
 神奈子の言うことも間違いではない。それが理解できるからこそ、諏訪子は最後にああいうことを言ってしまったのだ。神社の正面に行くと、早苗はまだそこに腰掛けていた。諏訪子が遠くから早苗の様子をうかがう。早苗は泣き止んでいるようだが、以前として俯いている。諏訪子はそっと早苗に近づく。
 隣に座ると、早苗は諏訪子のほうを向いた。「洩矢様……」と言う。諏訪子は「気分はよくなった?」と言う。「だいぶよくなりました」と早苗は言った。
「あのね、早苗」と諏訪子は言う。「早苗が『外』の世界に帰りたいと思ったら、いつでも言っていいんだよ。早苗がそれを望むなら、神様である私はそれを叶えてあげなくちゃいけないから。だから、帰りたいと思ったら帰りたいって言って」

   ■

 神奈子はその後、守矢神社の屋根のうえに寝転んでいた。諏訪子との対話を思い出しながら、空を見ている。
 間違ったことを言ったつもりはなかった。ある一面ではそれは事実なのだから。だが、もう一面において諏訪子の言うことは正しい。守矢神社の神々は早苗からたくさんのものを奪ってきた。早苗はそれを自らが現人神であることを理由に受け容れた。
 神奈子はいつから間違ってしまったのだろうかと思った。守矢神社をここに移動させたときからか、あるいは早苗に諏訪子を見つけられたときか、それとも早苗が生まれたときか、それとももっと昔の諏訪大戦のときからなのだろうか。こんなはずではなかったという出来事がずっと続いている。
 諏訪子にあのような視線を向けられたのは、ひさしぶりだった。何百年と忘れ続けていたことだった。八坂神奈子は本来の神ではない。何百年ぶりに思い出した自らの異物感に神奈子は眩暈がした。土着神やそこで土着神を信仰していた人びとから見れば、神奈子は悪役でしかなかった。それは再び幻想郷でも繰り返されている。神奈子はいつだってどこからか現われ、その地を征服する悪役だった。幻想郷では和解が行われたものの、天狗たちは神奈子を避け続けている。
 下のほうから諏訪子の声が聞こえた。神奈子はその声に耳を向ける。その内容から早苗と一緒であるらしい。
「あのね、早苗。早苗が『外』の世界に帰りたいと思ったら、いつでも言っていいんだよ。早苗がそれを望むなら、神奈子は嫌がっても、私はそれを叶えてあげなくちゃいけないから。だから、帰りたいと思ったら帰りたいって言って」
 ずいぶんと憎まれたものだと神奈子は思った。早苗がもしも帰りたいと願うのなら、八坂神奈子だってそれに協力する。諏訪子の言ったことは正しい。早苗がいるからこそ、家族ごっこができるのだ。どんなに憎まれてもお互いの目的が一致しているなら、守矢神社の神々は力を合わせることができる。
「ううん、洩矢様、私はこのままでいいんです。確かに『外』の世界はときどき恋しくなるときもありますし、それがぎゅっと胸を締めつけるときもあります。それでも、私はここにつれてきてもらってよかったと思っています。だってほら、こんなにも眺めのいいところで、こんなにも綺麗な景色が見られるんですから」
 早苗が指差す先には、燃えるように真っ赤に紅葉した山があった。それが強風によって、ときどき紅葉が巻きあげられる。まるで山から火の粉が飛ぶように紅葉した葉が青く澄んだ空を踊る。
「だから、こんなにも素晴らしいところにつれてきたくれた洩矢様にも八坂様にも、とても感謝しています。洩矢様、だから、決して八坂様を悪く思わないでください。八坂様のやられたことは決してただ信仰をより多く集めるためだけではないんです。私のことだって考えてくれていますし、もちろん洩矢様のことだって考えています。だから、過去のことで八坂様を悪く思い続けないでください。これは風祝の私からのおこがましいお願いです」
 神奈子はそれを聞きながら、涙を流していることに気づいた。涙を流すのは何百年ぶりだろうか。ただ、ひたすらその土地で信仰を集めることだけを考えて生きてきた。そのあいだ、涙を流す暇なんてなかった。きっと幻想郷に来たからだろうと神奈子は思った。ここではあまりにも退屈すぎて、いろいろものを考えてしまう。
 神奈子は目を閉じた。早苗のことを思いながら。
 もう二度とこの現人神を泣かせないと心に決めて。
 はじめまして、豆腐と言います。
 東方の二次創作は初めて書きました。守矢一家が好きです。
 ディテール等々、おかしな点があると思われます。二次設定に毒されています。
 よろしくお願いします。
豆腐
http://touhuya.huuryuu.com/
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コメント



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2.50煉獄削除
かなり読みづらいです。
行間を空けたり、「。」をつけたら区切るようにしたほうが宜しいかと。
話は悪くありませんけどね。
次回はそういった点などを考慮してみてください。
6.60名前が無い程度の能力削除
話は悪くないと思いますが……
やはり改行を細かくすべきかと
非常に見ずらいです
8.70名前が無い程度の能力削除
話は悪くなかったけど、ちょっと疑問に思った事が
>過去のことで八坂様を悪く思い続けないでください
これって、昔々の事か幻想郷に来た事なのかが?

欲を言えば、諏訪子が長年本殿でひとりでいて、そのとき何を考えていたかもう少し触れて欲しかったかな