外は夕暮れ時だった。早苗は暗くなりかけた自分の部屋に入り、電気もつけずベッドに顔をうつぶせた。ぼふっ、と柔らかい弾力が体を受け止めてくれた。
外では巣に帰るカラスたちがないていた。早苗は帰れる場所がある彼らがうらやましかった。
帰ろう。帰ろう。カラスがないていた。早苗もないていた。誰にも聞こえないようにひっそりと、顔をうずめて涙で布団を濡らしながら、一人ぼっちで泣いていた。
誰を憎むわけでもなく、自分の境遇を呪うわけでもなく、ただただ悲しくて泣いていた。
ここにはもう友人も知り合いも家族もいない。早苗にとって世界はさながら巨大な牢獄だった。
帰りたい。帰りたい。楽しかったあの頃に帰りたい。
『いつか見たどこかの場所で』
注:きっと鬱展開注意
1
夢を見た。いつもと同じ夢を。
夢の中の私はいつも楽しそうに笑っていた。
家族のようにいつも一緒だった八坂様たち。霊夢さんと魔理沙さん、他にもたくさんの、幻想郷に来てから知り合った友人たちがいた。
私はいつも引っ込み思案で、いつも輪から少し離れた所にいた。
それでも楽しかった。
みんなの笑顔を見ているだけで楽しかった。
何でもない話をしているだけで幸せだった。
ただ一緒にいるだけで、もう他には欲しい物なんて何も無かった。
だから、この時間がずっと続けばいいと思った。
ずっと。
永遠じゃなくてもよかった。ほんの私が消えてしまうまで、儚い人間の一生分の『ずっと』、それだけでよかった。
それなのに、あれから流れた月日はあまりにも膨大だった。
もう、彼女たちの顔もよく思い出せない。
彼女たちの声も、姿も、思い出せない。
だから夢の中の風景はひどく曖昧模糊としていた。楽しそうに笑っているはずなのに、みんなの顔はよく見えない。姿も声もわからない。はっきりと覚えてるのは名前だけ。
でも、きっと、いつかこんなぼやけきった夢ですら見られなくなる日が来る。大切な思い出が、私がまだ私として生きていた頃の記憶全てが消えてしまう日が必ずやって来る。
この世に確かに存在した、私のあらゆる意思の忘却。それこそが、東風谷早苗にとっての本当の死。
しかし、それでも私はここにあり続ける。
じゃあ私は一体誰? それすらも、いつか思い出せなくなる。
気が付けば、外はすっかり日が落ちていた。部屋の中も真っ暗だった。
頭を起こして時計を見る。どうやら、少し眠ってしまっていたらしい。
目の周りに涙の跡がカサついた。涙腺の枯れた赤い目を腕でこする。もう涙は出てきていない。
あ、そういえば家の掃除をしてしまわないといけないんだった。そう思い早苗は立ち上がった。
暗く静かな家の中、一人で暮らすにはあまりに大きな家を、早苗は一人で掃除した。
格子や棚の埃を落とし、掃除機を掛け、ぞうきんで床を拭いた。
誰もいないのに。
全ての部屋を、水回りを、細かい家具の間を、誰もいない、誰も住んでいない、誰も訪れることのない家を、早苗は手を抜くことなく完璧に清掃した。
そして、夕食には少し遅い時間になってしまったが、早苗は一人分の食事を作って一人で食べた。
早苗は毎日、同じ事を同じように繰り返していた。あの頃と同じ、いつも通りの日々を送り続けた。
そうしないと、何か自分にとって、東風谷早苗にとってとても大事なものが消えてしまいそうな、そんな気がしたからだ。『たぶん、私は思い出を守ろうとしているんだろう』そう早苗は思っていた。
だが、実際はそんな生易しいものではなかった。彼女は強く縛り付けられていたのだ。あまりにも暖かい思い出が残るこの場所に。
もう神社ですらない守矢神社。そこに一人ただいつも同じ生活をひたすら繰り返す少女。
人間はもとより、妖怪たちですら不気味がった。
「あの神社には幽霊が住み着いている」
いつ行っても誰もいないのに、さびれることなくいつも綺麗に掃除が行き届いているのは、そこに住み着いている幽霊の仕業だ。地縛霊の少女がいるのだ。そう噂されるようになった。見えない何かがそこには住んでいる、と。
2
もう数十年前、あるいは百年程前のことだったか。早苗一人になった守矢神社へ、天狗の新聞記者が取材に来たことがあった。
「あやややや……」
早苗を見るなり射命丸は目を丸くした。
「射命丸さん。おひさしぶりですね」
にこやかに、あの頃と変わらない表情で挨拶をする早苗。射命丸は驚いたというよりは、体の中心に冷たいものが走る感触を覚えた。無意識が小さく悲鳴を上げていた。射命丸の第六感は、彼女自身に対して必死に危機を訴えていた。
「…………ええ、本当にまあ……、お久しぶりですよね。…………こんな事聞いていいかどうか知りませんが……、一体どうしたんですか?」
常に図々しい鉄面皮の彼女が珍しく、差し控えながら聞いた。
どうしたんですか、とは、そこに存在する全てに対する質問だった。
どうして生きてるんです? いや、死んでるんですか? じゃあどうしてここにいるんです? 確か二人の神様がいましたよね? あの人たちはどうして急にいなくなったんですか?
……え? 私ですか。私はほら、最近このあたりでお化けが出るって聞いたモンですから、取材に来たんですよ。
ええ。まあ知り合いの幽霊に会ったのは、長いこと鴉天狗やってましたがさすがに初めてですよ。
…………え? 『何を言ってるのか全く分からない』って……?
ゆ、『幽霊なんてどこにもいませんよ』……? いや、だから……、ほら……、そこにいるあなたが…………、いえ冗談とかじゃなくて。
………………………分かりました。もういいです。
去り際、早苗は笑顔でこう尋ねた。
「また来ますか?」
それを聞いて再び射命丸の背筋を氷柱が貫いた。笑顔で別れを告げる早苗の顔は、『もう来るな』と言っているようにしか見えなかった。
射命丸は何の取材もすることなく去って行った。そして、二度と訪れることはなかった。早苗の名前が記事に載ることもなかった。
恐らく、早苗が無意識のうちに彼女に対して危機感を持っていたのだろう。
『ここにいる自分の事が彼女によって新聞記事にされたら、きっとたくさんの人が訪れる』
『そうなれば、私にとって大事な大事なこの場所が穢されることになるかもしれない』
『それはいけない。なんとしても止めないと』
そのせいで射命丸はあれからひどく体調を崩した。早苗に会って、里に帰ると同時にぶっ倒れ、普通の妖怪なら確実に死んでいたであろう程の疾病を次々と発症させた。
ひどい憑き物にあっていたのだ。全て早苗が知らず知らずのうちに連れていた幽霊達だ。どんな薬でも取り除くことは出来なかった。
程なくして神社にはもう誰も訪れなくなった。
というより、近づくことが出来なくなったと言った方が正しい。早苗の念が『この場所』に誰も近づけたくないと思っていたのだ。
神社の回りは幽霊で溢れかえった。それも、――幽霊に良い幽霊と良くない幽霊がいるとしたら――、間違いなく良くない方の幽霊ばかりだった。
誰にも救われることのない霊が、自然と守矢神社に、いや、早苗の周りに集まっていたのだ。
そして、早苗は今日も明日も、一人でただ毎日を繰り返す。
本当は、本人も気づいている。終わってしまったはずの毎日を、早苗はただ繰り返す。
3
永遠に続くものなど、現実には有り得ない。
だから、幻想郷には永遠に続く物がある。
いつまでも変わらないものなどない。
だから、幻想郷はいつも変わらない。
常識が非常識に、非常識が常識になる世界。それが幻想郷。
そんな非常識に満ちた幻想郷の中にあって、最も外の世界の常識に近しい場所がこの人間の里だろう。早苗は久しぶりに人間の里へと降りてきていた。
買い物の用事だった。もうお米の蓄えがだいぶ少なくなっていた。他にも食料品などの買いだめをした。
あらかたの買い物を終え、早苗は茶屋で五平餅を食べていた。
早苗の方を見る人間は一人もいなかった。
早苗は確かに質量を持ってそこに存在していた。しかし、気配がまるで死んでいるのだ。
買い物は普通に出来る。早苗の渡したお金を店の人は受け取る、お釣りも差し出す。通行人は早苗が道を尋ねれば答えてくれるし、歩いていて肩がぶつかればお互いに謝る。
だが、そのことを覚えてる人間はいない。人は存在の消えかけた存在との記憶が残らない。だから早苗を見る人間はいない。早苗と会話したこと、接触したことを誰も覚えていないし、また進んでしようとする者もいない。
そんな風に誰にも気に留められないでいると、早苗は嫌でも思い出してしまう。
自分が、もうとっくに『生きていない』ことを。
射命丸文は早苗を幽霊と呼んだ。かなり近い表現であるし、事実今の早苗は身に纏うように死者の霊魂を連れている。――――里の人間が、早苗の存在を感じないどころか無意識的に彼女に近づかないようにしているのはそのせいだろう――――、よく見ればいつの間にか、茶屋の中に客は自分一人となっていた。
店の人間まで奥に引っ込んでしまっている。お金を支払わず帰ってしまっても何の問題もなかっただろうが、早苗は茶代分の代金をちゃんと置いて行った。
里からの帰り、雲ひとつ無い空からは暖かい日が差していた。その空の下、一人山道を歩きながら早苗は思う。今の自分は一体何物なのだろうか、と。
東風谷早苗は一度たりとも『死んで』はいない。
ただし、生きてもいない。今の自分は生き人でも死人でもない。この上無く不安定な存在。
それこそ何かのきっかけで、あるとき突然消えてしまうかもしれない。ろうそくが燃え尽きて無くなるように、あるいは風に吹かれて火が掻き消えるように、あとかたも無く消え失せることになるかもしれない。
死ですらない、ただの消滅。それが早苗にはたまらなく不安だった。
「…………なんで、こんなことになっちゃったんだろ?」
早苗はぽつりと一人ごちた。誰にも聴こえない、たとえ街中であっても、声をあげて泣き叫んでも、今の早苗の声を聞くことのできる人間はいない。
家に帰ってからはいつも通り境内の掃き掃除をしようと早苗は思っていた。
木々は生きているから毎日葉を落とす。それを生きていない自分が毎日掃除する。少しヘンな気がした。
だが、いつもの日課の掃き掃除を今日はしなかった。ひどく眠たかったのだ。
里まで歩いて買い物に行ってきたせいで疲れていたのだろうか? それとも、昨日夕方に寝てしまったせいで睡眠時間がおかしくなっているのだろうか?
結局、まだ日は高かったが、早苗は家に帰ると同時に布団に倒れこんで、すぐに眠ってしまった。
4
「なあ早苗、考え直してくれていいんだぞ? 私達は消えてしまうけれど、早苗まで一緒になって消えることは無いんだから」
いいんです八坂様。私は守矢の風祝。この命はお二人と共にしかないものなのですから。
「…………早苗……」
諏訪子様、そんな顔しないで下さい。大丈夫です。何もまだ絶対に消えると決まったわけじゃないです。
信じましょう。奇跡は必ず起きます。私が起こしてみせます。
「…………早苗、すまない」
そんな、八坂様、私こそ、私の力不足のために――――
「早苗のせいじゃない! 早苗はよくやってくれた。それこそ、私たちのためにこの上ない程尽力してくれた。……仕方の無いことだったんだよ…………」
…………私、嬉しかったです。感謝しています。最後の最後まで、こんな私を信じてくれたお二人に。
「礼を言うのはこちらの方だよ。本当にありがとう、早苗」
……こんな事を言うとおかしいかもしれませんが、私、お二人と一緒にいられてとても楽しかったです。
だから、もう十分です。
もし失敗したら、一緒に消えてしまいましょう。でも成功したら、今まで通り一緒に過ごしましょう、また家族のように、これからもずっと――――
「ずっと……、一緒に居てください…………。八坂様……、諏訪子様…………」
返事は返って来なかった。
目を開けた早苗が見たのは、自分の部屋の暗い天井だった。
時計を見ると、とっくに深夜であった。自分でも驚くほど長く眠っていたらしい。
起きようか、とも思ったが、起きてすることも特になかった。
だから、またそのまま眠った。
このまま眠って、永遠に夢の中にいられたらいいなと思った。
しかし、もう夢は見なかった。
5
次の日、さすがに朝早く目を覚ました。
やる事が何も無いからと言って、いくらなんでも寝すぎだと早苗は思った。
いや、やる事が無い訳じゃない。境内の掃除をしないといけない。庭の草むしりだって最近してない。やる事はいくらでもある。
特に、昨日しなかった分、しっかり掃除をしないと。
「さて、今日は少し…………頑張ら……ないと……」
あれ? どうしたんだろう?
「…………ふぁぁ……」
あれ? 今、私、何をした?
あくび?
え? 眠い?
そう、眠い。それもすごく、眠い。
目をこする。まぶたがひどく重い。
おかしい。昨日の昼過ぎからずっと眠りっぱなしだったはずだ。12時間以上たっぷり寝たじゃないか。
そういえば最近、眠たくなることが多かった。
なぜ?
気のせい? 眠りすぎたせいで、まだ目が覚めてないだけ?
「…………そうよ。ちょっと寝すぎただけ。掃除してるうちに目も覚めてくるわ」
自分に聞かせるように言って、早苗は外に出た。日はまだ昇りきっていない時間、いつもこの時間に起きて掃除をすることが日課だった。
早苗は玄関先に立てかけられていたホウキを手に取った。
手に取った。はずだった。
カラン、軽い音を立ててホウキが石畳の地面に力なく倒れた。
確かに早苗がその手で握ったはずの竹の柄が、まるで早苗の手をするりと抜けたかのように、地面を転がった。
「…………え? どうして?」
気のせいだ。そう思って、早苗は地面に転がったホウキをもう一度手で掴んだ。
ほら、ちゃんと持てた。手には朝露で冷たく湿った竹箒の感触が伝わってくる。
さっきのは気のせいだったんだ。
でも、どうも少し体調が悪いみたいだった。
きっと風邪か何かをひいてしまったに違いない。眠いのもそのせいだろう。
しかたない。今日の掃除はひとまず中止だ。
何をするにしても、まずは体の調子を整えないと、そう思って、早苗はホウキを置いて部屋に戻った。
そして、また眠った。次に目が覚めたのは、翌日の夕方だった。
6
部屋の時計が日付の表示されるデジタル式の時計でなかったら、まさか自分が40時間近く眠り続けていたなどとは気づかなかっただろう。
どうして?
一体、私はどうしたの?
病院に行ったほうがいい? 馬鹿な。どこの世界に生きていないものを見る病院があるものか。
そう、分かりきっていたこと。誰も私を助けられない。私を助けてくれる人なんて、もうどこにもいない。
とにかく、いつも通りに掃除をしよう。
いつも通りの毎日を繰り返すこと。それが、いつもの私でいるために必要なことなんだから。
そう、何も変わらない。私はあの頃と同じだ。同じようにこの場所にいる。いつも通りの私でいる限り、私はいつも通りの私でいられるんだ。
だが、またしてもホウキが掴めなかった。
カラン、とホウキが地面に転がる。
もう一度持つ、カラン、と力なくホウキは地面を転がった。
何度やっても同じだった。
もしかして、物が持てなくなっている?
じゃあ、玄関の扉はどうなのだ? 私は今、家の中からそれを開けて外に出てきたではないか。
玄関の扉は閉まっていた。閉めた、のではない、最初から一度として開いていなかったのだ。
扉に触れようとすると、わずかの感触もなく手がすり抜けた。そのまま扉に近づくと、手だけでなく足が、体全体が、簡単に透過した。気づかなかった、さっき私はこうやって家から出てきたのだ。
物が持てない。体の質量が失われている。世界に干渉する力が弱くなっている。
私……、消えかけてるの…………?
7
気が付けば部屋のベッドの上だった。
あの後、結局何も触ることができないで、しかも重い眠気がいつまで経っても取れなくて、結局またすぐ部屋に戻って寝てしまったのだ。
そして、ずっと眠っていたのだ。今度はあれから5日もの間、ずっと。
鉛のように重いまぶたを必死で開きながら、早苗は体を起こした。
いくら寝ても全く眠気が取れる気配は無かった。だから、もう我慢してそのまま起きることにした。
境内にはかなりの落ち葉が積もっていた。だが掃除をしようにも、もうそれは出来ない。何も触ることができないから。
もう早苗には、ただ境内に落葉が積もっていくのを見ていることしかできなかった。
月日が経つにつれて境内の石畳は落葉に埋め尽くされていった。冬には雪も積もった。
早苗はずっとそこにいた。自分を置いて流れ始めた時を、ただただ眺めていた。
8
ある日、早苗は人里に下りた。
用事は特に無い。食事なら随分前から取らなくても平気になっていた。最後に里から買って帰ったお米や食品は、手付かずのまま家に残っている。
道行く人は相変わらず早苗の方を見ようとはしない。
――分かってる。誰の目にも、私の姿は映っていない。
早苗は傍らを歩いていた人間の肩に、そっと手を置いた。
音も感触も無く、早苗の手は人間の体を透き通った。
とうとうこの時が来た。私は、消えてしまった。
9
存在を失い、程なくして早苗は全てを忘れ始めた。
楽しかった思い出、大切な友人たち、今まで早苗が関わってきた全てに関する記憶を少しずつ失っていった。やがて自分の姿も、名前も、何もかも忘れてしまった。
人はそうして生前の記憶を失う。だから、霊魂はみなただの玉のような簡単な姿になる。
魂は自分が『何か』であることしか知らない。何であったか、何があったか、一切を覚えていない。
そうして早苗の意思も消える。体はもう消えた。もうどこにも、早苗はいなくなる。
死ですらない、ただの消滅。その恐怖に、早苗は誰にも聴こえない声で泣き叫んだ。
消えたくない。助けて。誰か、私を助けて。
0
何もかもが駄目だったのだ。
外の世界に見切りを付け、私と八坂様たちは幻想郷で信仰を集めて、神としての力を取り戻そうとしていた。
だが、それは結局出来なかった。
全ては私の力不足が原因だった。八坂様たちは幻想郷での信仰をも失い、徐々にその存在が薄れていった。このままでは、いずれ神としての死を迎えてしまうことは明らかだった。
だから、私は最後の賭けに出た。
私自ら、守矢の一柱となることで、つまり名実共に本物の神となることで信仰の力を回復させようとしたのだ。
だが、その儀式も結局は失敗に終わった。
八坂様たちは消え、私は現人神としての奇跡を起こす力も、人としての存在も、何もかもを失って、人でも神でもない宙ぶらりんの状態になってこの世に残された。
―
この世に一人取り残された。そして、とうとう消えて無くなった。
そのはずだった。
なのに、私は、いつか見たどこかの場所で、いつも通りに生きていた。
私は家の掃除をする。三人分の食事を作る。それを一緒に食べる。一緒に話をする。
私はただ生きていた。
なんて素晴らしい光景だろう、私は思った。
私が生きている、そこに存在している、これ以上に幸せなことなんて無いように思えた。
もう一度あの場所に帰りたかった。あの時に戻りたかった。
それが消え行く私の最期の願い。
帰りたい。帰りたい。楽しかったあの頃に帰りたい。
もう涙は出てこなかった。
終
タイトルに含めた注意書が常に頭にありましたから、最後も鬱な終わり方をするんだろうな
と思っていたのですが、本当に救われませんでしたね(苦笑)。
確かに鬱展開ではありましたけど、嫌悪感は無かったです。
でも、「早苗、かわいそう」とも感じなかったなぁ。
自分でも、それが不思議。
なんだけど
霊夢を題材とした似た作品が前にあったんだ…
だからどうしても100点は入れられないの
なんか不思議と自然に読めてました。
鬱な話なんだけど心に残らないのは独特かもしれませんね。
読みやすいのは鬱SSとしては評価は分かれるところかもしれませんが私は好きです
中々良い味を堪能させて頂きましたよ、もし次の貴会があるのなら、又ジックリト味あわせて頂きます
物語としては、これが最適の表現方法なのだと思いますが、どうしても抑揚の無い、悪く言うと退屈な作品になってしまっていると感じます。
ただ、鬱々とした雰囲気はひしひしと伝わってきたので、そして、そのような小説を僕は求めていたので、ごちそうさまでした。