宇佐見蓮子はいつも光に包まれていた。
他人と合わせようとしないわがままな性格も、持前の陽気さと親しみやすさ、そして時折垣間見せる知性とで、かえって彼女を魅力的にしていた。ちょっと変わったところがあるが頭がよく、絶世の美人というわけではないが陽気な美しさを持っている。
そして何より、一緒に話していて楽しい。
クラスメイトも教師も、彼女のことが好きだった。
薫もそうだった。
蓮子が友達と話しながら廊下を歩いていると、遠くからかすかに姿を見つけた時でさえ、すぐに道を譲った。といっても、誰も薫が道を譲ったとは思わない。ただ、無意味に廊下の壁際に、何かから逃げるように移動していった、と思うだけだった。
薫は、他人の目線が大嫌いだった。そんな大嫌いなものは、存在しないということと同意義であると考えた。無視することにした。
暗い。何を考えているかわからない。
周囲の薫に対する評価はいつも決まっていた。
成績は優秀だったが、学年でトップテンに入るほどではない。彼女より優秀な頭脳を持った生徒は多くいた。ましてや、蓮子のように入学当初から常に学年トップ争い、悪くても三位という成績に比べれば、何ほどのことでもなかった。
蓮子は語りの名人だった。古今東西の物語を、みんなに話して聞かせた。たいてい、元ネタがあるようだった。小説だったり、映画だったり、演劇だったりした。みんなは、物語の筋よりも、むしろ蓮子自身の語り口に陶酔した。まるで自分ひとりだけのために物語ってくれるような、そんな錯覚を抱かせる語り口だった。誰もが進んで、快く騙された。
薫は蓮子が休み時間や授業中に物語ると、家に帰ってすぐに出典を調べた。辞書やネットを駆使して、少しでも蓮子が見ている世界を共有しようとした。
色んな文学者や映画監督、ミュージシャンの名前は、そうして知っていった。
蓮子はよく人から相談事を受けた。
「宇佐見さん、これ、ここの問題わからないんだけど」
「ああ、これは簡単よ。なんだ、こんなのもわからないの」
「宇佐見さん、これすっごい感動したの。私泣いたわ」
「くだらな過ぎて泣けるわね。それよりもこっちを見た方がいいわ。とてもいい」
「宇佐見さん、好きな人ができたんだけど」
「知ったことじゃないわ」
蓮子の受け答えは冷たいというよりは、配慮を欠いていた。それでも彼女が酷薄な人物だと思われなかったのは、ひとえに性格によるものだった。
蓮子は孤独が好きだ。そしてそれがわかるのは自分だけだ。薫はそう思う。蓮子の数々の物語に触発され、薫もまた、何かを物語るためにキーボードに向かった。
小説を書いた。頭脳明晰、みんなからも好かれている優等生が、実は孤独に苛まれているという小説だった。薫は、自分と蓮子を投影し、混同し、キーボードを打っていった。
印刷用紙にして十枚ほどになった。薫は興奮冷めやらぬまま、翌日、蓮子の席に向かった。
「宇佐見さん」
「ん?」
蓮子と直接言葉を返すのは、これで三度目だった。一度目は入学間もない頃、トイレの場所を聞いた。二度目は、蓮子が病欠の時、宿題とプリントを届けてやった。
「私の小説、見て欲しいの」
それだけ言って、蓮子の胸に押し付けるようにして原稿を渡すと、自分の席へ逃げるように戻っていった。蓮子が声をかけたような気もしたが、頭に血が上って、何も考えられなかった。
薫は三日間寝込んでしまった。自分が妄想のありったけを注ぎ込んだ小説を、事もあろうに、憧れの対象である蓮子に見せてしまったことが、恥ずかしかった。思い出しただけで身悶えする。渡さなければよかった、自分だけの中で秘めておけばよかった、何度もそう思った。
四日目には、体調は完全に回復してしまい、親の目もごまかしきれなくなったので、追い立てられるように学校へ行った。
クラスメイトや教師の対応は、今までと変わらなかった。
今までと同じように、腫れものに接するように対応した。
今までと変わらぬ日々に、暗い充実感を得ながら、放課後を迎える。教室を出ようとする薫の肩に、手がかかった。薫は、たちまち動悸が激しくなるのを感じた。振り向くと、そこには、焦がれてやまない宇佐見蓮子が立っている。
「ああ、これ、読んだよ。今渡しとかないと、忘れると思って」
クリアファイルに閉じられた、薫の妄想の集積を、まるで一週間前の新聞か何かのような気軽さで、差し出す。薫はうつむき、表情を殺し、それを受け取る。指が震える。
「なかなか面白かった。正直、あんまり理解できないところの方が多かったけど。いいんじゃない? 他の人には見せた?」
とんでもない話だった。これを他の人間に見せるぐらいだったら、死んだ方がましだった。
そして薫は、蓮子のあっけらかんとした態度が理解できなかった。
気づいていないのか? 自分がモデルとなっていることに。
それとも、気づいてなお、この態度をとっているというのか?
「いえ、見せていないわ」
「あら、そう。こういうのはね、色んな人の意見を聞くことも大事だよ。物書き、目指しているの?」
そんなことはどうでもよかった。
ただ、今の薫の気持ちをたたきつけるのに、手近にあったキーボードが利用されただけだった。
「うん」
「へえ、いいわね。興味あるなあ、どうして小説書こうなんて思ったの。誰かの本を読んだから? それとも、気づいていたら書き始めていた感じ?」
相手に合わせようとしてついた嘘で、勝手に相手が盛り上がっている。
薫は居心地悪かった。
だが同時に、目眩のような幸福も感じていた。蓮子と一対一でこれほど多くの言葉を交わす日が来るとは思っていなかった。夢にはいつも見ていた。
「う、うん。夏目漱石の、前に読んで」
読んだことのある中で、一番偉そうな名前を出してみた。蓮子の目が、らんらんと輝きを帯びる。
「へえ、漱石読んだの。どれ、どれ。私、夢十夜だなあ。それか坑夫」
蓮子は、多数に向けて話す時は落ち着いて、冷静さを保っているが、いったん好奇心に火がつくと、辺り構わず突き進む。
蓮子のスイッチをオンにしてしまったのが、自分の妄想混じりの小説だと考えると、薫は、とても気持ちがよくなった。だが、それはそれとして、目の前の、好奇心に猛った蓮子を何とかしなくてはならなかった。どうせ、取り繕いはすぐにバレる。蓮子が本格的に夏目漱石やその周辺作家の話をし出す前に、切り上げなければならない。
「うん、でも、そんなにたくさん、読んでないから」
「そうなの? 残念だなあ」
急に蓮子が遠くに行ってしまいそうな気がして、薫は慌てて付け加える。でまかせを。
「あ、でも、芥川龍之介は読んでるよ。河童とか。宇佐見さん、こ、今度よかったら、その話でもしない。今日は、その、用事があるから……」
「いいよ。駅前の喫茶店にしようよ。いつならいい?」
「来週……」
その日から、薫は図書館に通い詰めた。学校だと蓮子に見つかるので、市の図書館を利用した。
喫茶店での蓮子と二人きりの食事は、薫が思い描いていたような、甘ったるい雰囲気からはかけ離れていた。ただ、会って、食べて、飲んで、話して、二時間ほどでお開きになる。薫は蓮子と別れて帰路につく時、いつも寂しさとやるせなさで悶え苦しむ。
蓮子に近づけた気がまったくしない。
学校ですれ違う時は、やはり今までと同じように、すぐに道を譲った。蓮子は目で見たり、直接声に出して薫に挨拶したりもしたが、そこに薫が期待するような、仲間通しの密やかな、甘い雰囲気はかけらもなかった。
何となく水曜の放課後に開かれることになった二人のお茶会は、それでも、薫の最後の頼みの綱だった。お茶会の終わり際、蓮子が、次はこういうことを話そうと言ってくる。話題を切らさないため、薫は可能な限りそれに関する本を読んだり映画を見たりした。
端から、蓮子の専門分野である物理学には手をつける気はなかった。聞くところによると、蓮子は近隣の大学の教授とも、世間話をするように物理学の話ができるらしい。その会話の様子は、まったく見知らぬ異国の言葉で話しているかのようであるという。まだ日本語で書かれた書物の方が、薫にはどうにかなりそうだった。
だが、読めば読むほど、蓮子との絶望的な隔たりを感じる。
読むのが速いとか、もの憶えがいいとか、そういったものだけではなかった。
蓮子は既に、自分の目を持っていた。他人の目を右往左往しながら使っている薫にとって、その差は圧倒的だった。
「宇佐見さんは、どうしてそんなに自由なの?」
一度、そう聞いてみたことがある。蓮子は紅茶をすすりながら、薫の目を見つめ返す。薫はそれだけで頭に血が上って、どぎまぎする。
「自由かな? 別にそうでもないよ。まあ、あまり考えては行動していないわね」
蓮子の世界。開かれているようで、閉じ切ったその世界。
「私は、私の目でしかものを見れないから。それは自由とは言わないと思う」
こともなげに言う。薫が憧れるその目を、なんでもない存在であるかのように、言い捨てる。
薫は、胸にちくりと何かが刺さるのを感じた。
苛立ちとか、妬みとか、そういった負の感情を。薫にとって、それらは、憧れの感情と表裏一体だった。
何ものにも束縛されず、己の行く道をひた走る、そんな蓮子が、嘆き、悲しむところを、見てみたいと思った。できることならば、自分の手で、彼女をそんな状況に追い込めたら、もっといいだろう、薫はそう思った。
自分が憧れている人に対してそう思うことに、後ろめたさも感じたが、蓮子の顔が恐怖や悲しみで歪むところを想像する誘惑には、逆らえなかった。
ひとり、部屋でナイフを弄ぶ。なんの変哲もない、折り畳み式の果物ナイフだ。ホームセンターで買った。他の雑多な品々に混じって置いていたのだが、一目見てなぜか気に入った。デザインがシンプルだったからか、単にその時ちょうどナイフを買いたい気分だったのか、薫自身にもわからない。
今、薫にとってこの果物ナイフは、聖職者の持つ十字架のように大切なものだった。家でも学校でも、食事時も寝る時も、肌身離さず持っている。
電気スタンドの光を照らし、それは白く輝く。
どんなに人よりすぐれていたとしても、蓮子も人間だ。
この光るナイフを突き立てたら、きっと悲鳴をあげて、血を流すだろう。紅茶のような、赤い、赤いものを見られるだろう。その光景を幻視する。赤い奔流は、蓮子の痛みでもあり、薫の欲望でもある。蓮子の血に身を浸し、溺れ、溶けてしまえば、新しい自分になれそうな気がした。
新しい薫、新しい蓮子に。
蓮子との三ヶ月は、夢のように過ぎていった。
永遠のようだったのに、気づけば、もう終わっていた。
きっかけはクラス替えだった。蓮子は進学クラスに行った。薫も、そのワンランク下の進学クラスに入った。教室は近かった。課目によっては一緒になった。しかし、今までとは何かが違っていた。まわりの空気も、蓮子も、そして自分自身も、違っていた。
単純に、毎日学校で夜遅くまで受験対策の課外授業が行なわれるため、のんびりと喫茶店で話す余裕がなくなった、というのはあった。
薫は根拠もなく、蓮子ならたいして努力をしなくてもレベルの高い大学に通るだろうから、他の連中に付き合って遅くまで残ることはないと信じていた。そして、その夢想につられて、自分もまた、あくせくと受験勉強などしなくていいのだと思い込んでいた。
現実には、ピリピリと張り詰めた教室の中で、薫も、そして蓮子も、孤独な戦いを強いられていた。
夏が過ぎた頃、台風警報が出た。警報と言っても、実際彼女らの住む地域に直撃する可能性はほとんどなかった。それでも学校側としては用心して、生徒を帰さなければならなかった。窓の外を人の叫び声のような音を立てて風が走り抜け、空の雲が不穏な墨色に染められていくさまは、なんとはなしに人の心の不安を煽り立てる。
クラスメイトは、誰しもおのれ自身の内に抱える不安から逃れるように、ひと時、外界の自然現象に目を向けた。それは、彼らにとっての精神的休養になった。その日、途中下校が決まると、クラス全体が弛緩した雰囲気に包まれた。
「蓮子さん」
薫は、教室を出ようとする蓮子の背中に呼びかける。蓮子は、最初、怪訝そうに振りむいた。この教室で、彼女を下の名で呼ぶ人間は今までいなかった。薫も例外ではない。今、初めて下の名前で呼ぶ。
「最近、話せてなかったね」
「ああ、うん、そうね」
「一緒に帰らない?」
薫は笑う。久しぶりに笑ったせいで、ぎこちないものになっているのが、自分でわかる。蓮子も笑みを返すが、同様に、ぎこちなかった。
校門を出ると、辺りは閑散としていた。風が木の葉を散らすばかりで、誰もいなかった。
会話は弾まなかった。蓮子が食いつきそうな小説や演劇を口に出してみたが、うまく盛り上がらなかった。
こんなはずではない。薫は強く思う。
蓮子は受験勉強程度で疲弊するはずがないし、薫と蓮子の関係は、少し環境が変化したくらいで揺らいでしまうようなものではないはずだった。
「蓮子さん。私の家、近いの」
蓮子の袖をつかむ。力の限りに握りしめる。蓮子が逃げ出さないように。
「よかったら、来ない?」
蓮子は、驚いたような目で薫を見た。薫は自分の表情がこわばっているのを感じる。だが、自分で自分が止められなかった。
「来てくれるよね」
声はかすれている。蓮子はうなずく。
自分の部屋で、蓮子と二人きりだった。この状況を、今までに何度夢見たか知れなかった。しかし、実際には味気なかった。会話は弾まず、用意したお菓子もパサパサとして、喉が渇くばかりだった。コーヒーをわかそうとも思ったが、その間に蓮子に逃げられそうな気がして、部屋から離れられなかった。お気に入りのDVDもつけた。かつて喫茶店で、蓮子に熱をこめて語った作品だ。蓮子も楽しそうに聞いてくれた。彼女独特の感想も言ってくれた。だがこの空間では、退屈な映像、退屈な音を流すばかりだった。あれほど快楽を与えてくれたはずの作品から、こんな仕打ちを受け、薫は、その作品に裏切られた気がした。
今、この瞬間にも、退屈に耐えかねた蓮子が部屋を出て行きそうで、薫は生きた心地がしなかった。
「辻さん」
蓮子は、薫を呼んだ。
「あなた、無理してる。疲れているのよ」
「待って」
まだ立ち上がったわけではなかったが、薫は恐怖に駆られ、蓮子の膝にすがりついた。
「待って、待って、蓮子」
「私も、帰って、することがあるし」
「待って。今のあなたに、ここにいる以上に大切なことって、ないわ」
「辻さん……」
「上の名で、呼ばないで」
薫は蓮子の両手首を、両手で捉えた。噛みつくようにして、蓮子の唇を吸った。これも毎晩毎晩夢想していたことだが、実感はまったく違っていた。唇や舌から、蓮子の感情が伝わってくる。
それは、悦びでも嫌悪でもなかった。
ただの戸惑いだった。
薫は悔しかった。せめて蓮子が自分に対して憎悪を抱いてくれれば、まだ救いがあった。唇を離した後も、蓮子はきょとんとしていた。
「私は」
薫は、それから先が出てこなかった。手を床について、うなだれた。蓮子はそっと薫の肩に手を置いた。
「ごめんね。私、帰るね」
そうして、去っていった。
薫は短大に入った。卒業後は、不動産の会社に就職した。客を連れて、一緒に物件を見て回る仕事だった。つまらなかったし、しばしば体力的に無理をすることもあった。毎月給料が払われ、毎月一定の休みがあるということが、彼女を今の仕事に留めていた。そもそも、やめたからといって他に勤めるあてもなかった。
夏も終わりに近づいた頃、また一件、仕事が入った。
今まで二人暮らしだったのが、片方が他に引っ越してしまうので、ひとり暮らし用の部屋を選びたいとのことだった。
客の名はマエリベリー・ハーン。店に現れた彼女には、連れがいた。今まで一緒に暮らしていた相方だ。
一目見て、薫は立ちつくした。
ブレザー姿しか知らなかった。だが、黒帽子に白のブラウス、黒のマントをはおった彼女は、まぎれもなく、宇佐見蓮子その人だった。
「あ、辻さん」
蓮子もまた、一目見て薫の名を呼んだ。薫は名字で呼ばれた失望と、蓮子が自分の名を覚えていた喜びを同時に感じる。だが、思いなおす。蓮子の記憶力は尋常ではなかった。おそらく小学、中学、高校のクラスメイト全員の顔と名前を覚えておくことぐらい、造作もないことだろう。
「宇佐見さん。お久しぶり」
「あら、蓮子。知り合い?」
「うん。高校の時、同じクラスで、よく本や映画の話をしていたわ」
「へえ、楽しそう。いいわね、放課後、学校帰りに趣味の話を延々とする、なんて。憧れるわ。私は高校の時、ずっと寄宿舎に籠りきりだったから」
「今、存分にしているからいいじゃない。というか、それしかしてないでしょう」
「趣味の話をすること以外、この世に何か価値のあるものがあるかしら」
「ないかもねえ。あるかもしれないけど」
「ないと思うわ」
学生特有のおっとりした会話に、薫は妬ましさを覚える。さらに、自分の学生時代を思い出し、それがおっとりしてもいなければ知的でも、趣味の話ばかりしていたわけでもないことを再確認し、ますます苛立つ。
短大では、すぐにサークルに入り、飲み会や男女の付き合いなど、ひと通りの儀礼を通過した後は、スーツを着込んで企業説明会に入り浸り、気づけば卒業だった。
高校で蓮子と味わっていた、広がっているのに収束していくような、閉じていくのに開いていくような物語の快楽など、持ちようがなかった。それを、この二人は持ち続けている。妬ましかった。
何よりも、メリーの、その言葉使いだった。
「ねえ、蓮子」
まただ。
薫は唇を噛む。
下の名で呼ぶな。
「なに、メリー」
応えるな。
「この部屋なんかどうかしら。駅からは遠いけど、建物が少ないから、夜、寝るとき静かでよさそうだわ。二人でゆっくり音楽が聴けるよ」
「住むのはあなたひとりでしょう」
「蓮子が、研究科生活が嫌になって、逃げ出して来た時の話をしているのよ」
「やめてよね、人が行く前からそんなネガティブな話」
「歩いて十五分でコンビニ。道の両脇は畑。ああ、この微妙な距離感、微妙な僻地感、素敵ね。夏の夜、歩いたら気持ちよさそう。散歩にぴったり」
二人は、睦まじく部屋の相談をした。その会話から、これまでいかに二人が二人の時間を長く過ごしてきたか、たやすくうかがうことができた。
薫は体内を荒れ狂う負の感情を抑え込むので精一杯だった。
「辻さん、ねえ、辻さん」
蓮子から声をかけられ、我にかえる。
「この子、この部屋にするんだって。お願いします」
薫は、今までの会社勤めで培ってきた忍耐力を総動員して、営業スマイルを作った。
「はい、それではご案内いたします」
マエリベリー・ハーンの新しい住まいは、駅から自転車で三十分かかるところだった。もちろん、歩けばその三倍はかかる。免許を持たず、持つつもりもないらしいメリーにとって、自転車は必需品となった。
近所というにはやや遠めのところにコンビニがある他は、店らしい店もない。スーパーも駅の横にあるだけだ。食事のすべてをコンビニで済ます気でないならば、買い出しはそこまで行く必要がある。喫茶店やカフェと名のつくものもほとんどなく、駅の真向かいに海外のコーヒーチェーン店が一軒あるきりだった。
引越の初日、蓮子と一度足を運んだが、あまりに人が多く、ごみごみとしていてゆっくりできなかった。
メリーは、蓮子とは違うやり方でモラトリアムの延長に成功している。
週に三、四日は大学に顔を出している。何かしらゼミで発表したり、論文を書いたり、後輩を指導したりしている。
しかし生活は規則正しいとは言い難く、朝六時から家を出ることもあれば、昼も二時を回ってようやく布団から這い出ることもあった。
スーパーで、大のペットボトルの水と、サラダをしょっちゅう買っている。たまに食パンも買う。炊飯器で白飯だけ炊いて、サラダと水でそれを黙々と胃に流し込む。かといって、清貧をモットーとしているわけでは、まったくない。突然ひとりで外食に行ったり、コンビニで大量にお菓子を買いこんで、一息に食べてしまうこともある。
食べ物以外でも、わりと金を使っている。大学の帰りに、よく雑貨屋に寄っている。本はあまり買っている風ではない。立ち読みは時々している。
越して十日経つと、部屋の中にはどこで手に入れたのか、得体のしれない木彫りの人形や、数珠に似た首飾りや、面妖な模様の施された絨毯や、独特の匂いを放つ線香やらで、早くもあふれ返っていた。
テレビはない。カレンダーもない。新聞も取らない。
部屋にいる時はほとんどつけっ放しのパソコンに、寝そべって向かい合う。パンの耳をかじりながら、お気に入りのCDをオートリバースで流し、論文の道筋を追う。
化粧品の数はやたらとあるが、まだほとんど使ったところを見ない。
蓮子に会う時だけ化粧するのだろうと、薫は考えた。
アパートに越して十一日目、二度目の日曜日、朝からメリーは念入りに化粧していた。今日、蓮子がこの部屋に来るのだと、薫は信じた。屋根裏に這いつくばり、錐で空けた穴から、浮ついたメリーの様子を見ると、歯ぎしりが止まらなかった。
屋根裏を伝って、四つ隣の部屋に戻る。
メリーの部屋と間取りは同じ1LDKだが、何ひとつ飾り物のない、殺風景な部屋だった。流しも冷蔵庫もない。寝袋と、食べ散らかした弁当の箱やお菓子の袋、ペットボトル、コンビニのビニール袋が散乱している。
メリーには、近くに空き部屋がある部屋をあてがった。このアパートだと、その部屋しかないと、嘘をついた。資料は捏造した。空き部屋も、借り手がつかないように細工した。この会社に勤めて、これほど頭を使い、必死で物事に取り組んだのは、初めてだった。
薫の意に反し、この日メリーは外出先で誰とも会わなかった。電車に乗って街へ行き、ひとりで服を見て回り、ひとりで食事をし、ひとりで帰った。拍子抜けした薫は、メリーが部屋に入るのを確認してから、アパートの階段を上り、部屋に戻った。それから寝袋を担いで、屋根裏に行く。最近は、屋根裏で観察を続けるうちに眠りこんでしまうことが多くなり、体の節々が痛くなっていた。いっそ直接寝袋を持ち込んで、屋根裏で寝た方が早いと思った。
メリーはシャワーを浴び終わったらしく、下着だけの姿でベッドに横になっていた。薫が思うに、メリーはなかなか蓮子に会えないのがもどかしく、気晴らしに着飾って出かけたのだ。そしてひとりで買い物して、ひとりで食事をして、寂しさを噛みしめて帰ってきたに違いない。
メリーの孤独を想像し、満たされた気分になりながら、薫は眠りについた。
ドアが開閉する音で、目が覚めた。薄ぼんやりした頭で、まず時間を確認しようと、携帯を開く。メリーは時間を気にせず行動しているが、メリーの行動を気にする薫自身は、時間を常に把握しておかねばならない。携帯の刺さるような光が、屋根裏の暗闇に浮かび上がる。それとほぼ同時に、下で灯りがついた。
「二時十八分十一秒」
聞き覚えのある声、というより決して忘れられない声がした。薫は目を見開いた。眠気が吹っ飛んだ。
「蓮子、遅いわ」
メリーは目をこすりながら、上半身を起こす。蓮子はメリーのすぐ横に腰を下ろす。ベッドのスプリングが軋む。指がメリーの髪に絡みつく。その一連の動きが、薫にとって、気持ち悪いほど自然な動きだった。何度も何度も、二人で繰り返している所作だということが、痛いほどわかる。
「ごめんね、今日やっと休みがもらえると思ったら、急に用事が入っちゃって。すっぽかそうとも思ったけどね、私の専門分野では第一人者と言われている先生がいたの。私も舞い上がって。貴重な話を聞けたわ。メリー、観測物理学はまだ終わらないわ」
「どうして? この前までは、物理学は突き詰めて考えると、何も動かなくなってしまうから、もう駄目だって言ってなかったっけ」
「駄目だなんて言っていないわ。物体を分離するのにかかるエネルギーは、物体が小さければ小さいほど膨大なものになる。分子より原子、原子より核子、核子よりクオーク。クオークより小さなものも存在する。そうすると、宇宙に存在しうる最大のエネルギーを使っても分離できない物体があるということになる」
「そうそう、確かそんな話だったわよね」
「覚えてる? 本当に?」
「本当よ。そうなると、すべてが固定されきった世界が現れる、ということよね。分かたれない、動かない、過ぎない、経ない、古びない、永久に止まったままの世界が」
「それはメリーの解釈ね」
「でも世界はそうじゃない。じゃあ、蓮子の言っていることが間違っているのよ。まあひょっとしたら真相は逆で、本当は世界はそうあるんだけど、私が間違って見てしまっているのかもしれないけど」
「そう、そこよ。今日、その人の話を聞いて、私も目から鱗が落ちるみたいだった。ぼろぼろと」
興奮した口調で、蓮子は話し続ける。しばしば専門的な科学用語や、数式が出てきた。言っていることは、薫にはさっぱりだった。だが、薫から見て、メリーもそれほどわかっているようには見えなかった。おそらく、内心では焦りながら、無理やり話を合わせているに違いない。
二人の話は長かった。
話題は自由自在に飛び回った。物理学の話は既に彼方にあった。かと思うと、急に顔を出したりした。メリーは、今日、街で寄ったブティックとレストランの出来事を詳細に話していた。自分がどんな化粧をして、どんな服を着たかも。それによって、そこにいなかったはずの蓮子に、捏造された記憶を植え込み、共通の記憶として共有しようとするかのように。
「蓮子、明日も研究室?」
「そうよ。八時にはスタンバイして、教授を迎え撃たないといけないわ」
「今、何時?」
蓮子が窓を開く。薫は手元の携帯に目を落とす。
「三時五十九分ごじゅ……」
空を見上げながら時刻を言いかけた蓮子の声が途切れる。背中からメリーに両腕を回され、そのまま後方に投げ出される。スプリングが、大きく軋む。
「うえっ?」
「蓮子」
メリーは、仰向けになった蓮子の顔の両側に両手をついて、おおいかぶさる。
「蓮子、まだ夜でいるうちに、眠りたいわ」
「そうね、もう眠らないと。明日、私は早いの」
「まだ夜よ」
「だから眠るんでしょう?」
「まだ夜よ」
「もうすぐ朝」
「時間はあと少しあるわ」
メリーは蓮子の唇を舐めた。舌にのっていた唾液が糸を引く。蓮子もそれに応じて、メリーの唇を軽く噛む。二人の腕はざわざわと音を立て、絡み合う。メリーが蓮子の腰に軽く触り、そこからブラウスの内側へ手を入れる。腰、腹、胸、とのぼっていく。ブラウスをたくしあげていく。蓮子は身をよじり、小さく声をあげながら、メリーの背中に腕を伸ばし、下着を外す。暗闇に包まれた部屋の中、次第に肌色の面積が広がっていく。
薫は、血の味を知る。噛みしめた自分の唇から、血が流れていた。天井の穴から見える二人の姿から目が離せなかった。血走った目で、貪るように見た。手は、折り畳み式の果物ナイフをずっと握りしめていた。
やがて、部屋から物音は途絶える。二人は眠ったのか、動かなくなった。薫は時刻を確認する。四時半だった。ずっと同じ姿勢を取っていたために固くこわばった体を引きずるようにして、自分の空き部屋に戻る。
窓の外は、白んでいた。右手が握りしめられたまま、動かなかった。左手で、指を一本一本引き剥がす。血液が偏って真っ白になった手のひらに、ナイフがあった。
蓮子はいつも光り輝いていた。
薫は、蓮子になりたかった。
その蓮子が、ひとりの少女の前では無防備になっていた。
薫には決して見せない顔を、声を、その少女の前ではあらわにしていた。
自分の思いがすべて無駄だったと知り、薫は放心した状態で、部屋を出た。朝日が昇っていた。なんとなく、職場に足を運んだ。およそひと月ぶりだった。
だが、自分のタイムカードがなかった。机もなかった。同僚の女が、パソコンのディスプレイから視線をあげ、見知らぬ者を見るような目で薫を見た。何人かの同僚や上司がそれに気づいた。何か言おうとして、諦めたような顔で口を閉じる者。あからさまにため息をついて見せる者。肩に力を入れて、こちらに歩み寄ってくる者もいる。職場で最も口うるさかった男だ。男の表情、唇、縮れた髪の毛、歩く様子、それらを見るだけで薫は怖気が走った。
ああ嫌だ。ああ嫌だ。こんな現実は嫌だ。
手近な机にあったペン立てを男に向かって投げつけた。
固い音がして、男は思わず両手で顔を覆う。その時には薫は身を翻して駈け出していた。背後から怒声を浴びながら、こぶぐらいは作ってやれたかな、と思った。
薫は、空き部屋に戻って考える。
深く考える。自分と、蓮子のことを。
どうすれば彼女と一緒になれるのか。彼女になれるのか。
蓮子はメリーしか見ていない。その感情を妨げることはできない。蓮子は一度思い立ったら止まらないのだから。だから、強制的に蓮子を動かないようにするしかない。薫以外の誰も見ないように。
果物ナイフの刃先を出し、じっと見入る。
「落ち着いて、考えなさい」
薫は、声に出して、自分に言い聞かせる。
「この狂った世界から抜け出すのは、とても難しいわ。私は限りなく正常だけれど、この狂った世界に生まれ落ちてしまったがために、多少なりとも体に滓が残っている」
自分の喉、胸、腹、と手のひらで触れていく。どこも穢れている気がした。
それに比べて、蓮子の肌はどこをとっても綺麗で、穢れのない、美しいものであるに違いない。
触れるだけで電流のように、指先に痺れが走るような。
その肌から赤い滴りがあふれるさまを想像し、薫は三日月のように唇を広げ、ほほえんだ。
二週間経つと、メリーの部屋にまた蓮子がやってきた。二人は二週間前と同じように再会を悦んだ。会話し、食事し、一緒に寝た。
早朝、蓮子が部屋を出ると、薫も屋根裏を伝って空き部屋に戻り、外に飛び出した。裏から回り、蓮子がアパートの敷地を出て、バス停に向かおうとするところで声をかける。
「蓮子さん」
薫は高鳴る動悸を抑えながら、声をかけた。
「あ、辻さん」
蓮子は振り向く。声の調子は至って普通だ。驚きもしなければ、悦びもしない。今の蓮子にとって、自分はその他大勢の中の一人に過ぎないのだということを、まざまざと感じさせられる。
「どうしたの」
「話があって。相談なの。ちょっと時間、いいかしら」
蓮子は、困ったような顔をした。ちらりと空を見上げる。それで何がわかるのか、薫にはわからない。少なくとも空に時計は浮いていない。ただ、朝の空気に侵され、消えかかっている白い月があるだけだ。
「マエリベリー・ハーンさんのことについてなんだけど。友達であるあなたにも相談しておこうと思って」
「メリーの?」
今まで渋っていたのが、メリーの問題と感じた途端に踏み入ってくる。薫は、自分の目論見が当たれば当たるほど、自らを貶めている気がした。
「家賃の問題でね。あまり本人に直接言いたくないの。私も、上から、無理やりさせられているからあんまり言いたくないんだけど」
「メリーの生活に関わりそうだね」
「ここじゃなんだから、部屋で」
蓮子は薫のあとをついて、今来た道を戻っていく。メリーの部屋の前を横切り、空き部屋の前に来る。扉を開ける。
「入ってくれる?」
「いいけど……わざわざ部屋の中でしなければいけない話? メリーはいなくていいの? だからこっちに来たんじゃ」
「ハーンさんも連れてくるわ」
蓮子の背中を押す。蓮子が部屋に入る。扉を閉める。鍵をかける。背中にナイフを突き立てる。
初めて蓮子を見た時のことを、なぜだか思い出した。入学式の日、季節外れの雪が降った。まわりが騒いでいる中、自分と同じブレザーを着た少女は、群衆から離れて、ひとり、空を見上げて、白いかけらを手のひらで受け止めていた。
〈あの子、空と会話している〉
薫がそう思ったとほぼ同時、彼女は空に向かって笑った。その笑みを自分に向けてくれたらどれほど幸せだろう、薫はそう思った。
ナイフは、あまり深くいかなかった。骨に阻まれたようだ。
痛い?
薫は聞いてみたかった。
あの日、学校を一緒に出て、喫茶店についても、蓮子は浮かぬ顔のままだった。
「お腹が痛い」
それでも蓮子はケーキをスプーンで崩しにかかる。
「生理痛なのよ」
蓮子の口からその言葉を聞くと、薫は嬉しいような恥ずかしいような気分になった。尻から腿にかけて汗ばみ、合成皮のシートにスカートが張りつく気がする。
「宇佐見さんも、女の体なのね」
蓮子は乾いた笑い声を立てる。紅茶を一口すする。
「変なこと言うね、辻さん。しかもそんな、湿っぽい目をして。何? 自分の女として成熟していく体が嫌なの」
ドアが開き、外の冷たい空気と、暖房で暖められた中の空気が混ざりあう。薫は、鏡の前で自分の裸体をしげしげと眺めたことがあるのを思い出す。男という種の人間が時折見せる、ねばついた視線を思い出す。
「ううん、成熟が嫌とか、そんなんじゃないけど。でも、腹痛は嫌だわ」
「同感。子種なんて、いらないのにね」
「誰の子でも?」
「さあ、たぶん、ね。育むってことが、よくわからない。なんでそんなことするんだろう」
「そうしないと、私たち人間が途絶えてしまうからじゃないかしら」
「そりゃ、途絶えるかもしれないけど。でも、死んだらその人自身はやっぱり、途絶えてしまうんだよ」
「そう考えない人もいるってことだと思う」
「ふうん。辻さんと話してたら、腹痛が治まった。いい気分転換になるね、こうして、話していると」
コーヒーに乗ったクリームをスプーンですくう。蓮子は、クリームをまぜない。
「今日、辻さんと会えてよかった」
……記憶か願望か、もう曖昧だ。
そのまま体重をかけて、蓮子を押し倒す。蓮子はうつぶせに倒れる。ホームセンターで用意したロープで、蓮子の両手を後ろ手で縛る。蓮子の服が、一部、赤く染まり出した。
「え、なに、つ……じ」
ガムテープを口に貼る。二重、三重に貼る。
「上の名で、呼ぶな!」
先の方だけ刺さったナイフを握り、ぐりぐりと押し込む。
「ぐむぅぅっ!」
蓮子はくぐもった悲鳴をあげる。薫の腰から背筋、脳天へかけて、痺れるような快感が走り抜ける。
「ああっ!」
愉悦の声をあげる。暴れる蓮子の足にすがりつき、足首もロープできつく縛る。それから背中に刺さったナイフを抜き、蓮子を仰向けにすると、ガムテープを引きはがした。蓮子が叫ぼうとするより早く、口にナイフを三分の一ほど入れた。蓮子の動きが、止まる。
「叫んだり暴れたりすると、口が切れるわよ。ああ、もう切れているわね。もっと奥まで行ってしまうかも」
切れた唇から、血が流れ出る。薫はナイフを蓮子の口の中にそえたまま、蓮子の頬をなでる。
「よかった、ようやく、私の言うことを聞いてくれた。こんな形でしか、こんなに近づけなかったなんて、不本意だけど、はじめは仕方ないわ」
蓮子は震えていた。目は見開かれていた。呼吸は荒い。
「怖い? 痛い? 高校時代、誰も及ばないスターだったあなたも、こうなったら形無しね。あなたもただの人間だったってことよ」
真っ赤な夕日が廊下に差し込み、別世界のようだった。光は、粘液のように廊下を侵していた。三者面談を前にして、薫はひどく緊張していた。職員室に入ろうとすると、ちょうど、そこから出てきた女性とすれ違った。蓮子だった。悄然と肩を落としていた。こちらに気づいた様子はなかった。いつもの凛々しい少女の姿はどこにもなかった。後ろ姿を見ながら、薫は失望を感じた。あれは蓮子でない、と思いたかった。あんな弱気な蓮子は、薫の知る蓮子ではない。よく似た別の存在だ。宇佐見蓮子は、平凡な人間であってはならない。平凡な弱さや平凡な悩みなど、持ってはならないのだ。
二つの荒い呼吸が重なる。ひとつは興奮で、ひとつは痛みで。
コンクリートの床に、少しずつ血が広がっていく。
「いけないわ、手当てしてあげる。この日のために、本屋で医学の本を買ったのよ。一家に一冊、家庭医学事典よ。刺し傷の応急措置の方法も乗っているわ。待っててね。その背中の傷、放っておいたら、きっとあなた、死んでしまうわ」
ナイフをそえたまま、顔を近づける。血に染まった蓮子の唇を舐める。次に、軽く噛む。次に、強く噛む。
「ああ、蓮子、すき、だいすき。すき」
もう一度ガムテープで蓮子の口を閉ざす。さらに包帯で口元をぐるぐる巻きにする。背中に手を当てる。流れる血の温かさが、心地よかった。
「治してあげるね、蓮子。私がいないと、あなた死んじゃうのよ。私が、必要でしょう? ねえ。学校でも職場でも、家でも、こんなことってなかったわ。私はいつもいらない子だったの」
蓮子をうつ伏せにして、床に転がっている本を開く。
二人だった。刺された蓮子と、刺した薫だけの、二人きりの、濃密な時間だった。自分がいなければ、蓮子は死ぬだろう。あの蓮子の生殺与奪の権を、自分が握っている。そのことは薫を激しく興奮させた。生まれて初めてだった。これほど、自分が必要とされていると感じたことは。
本に書いてあったことをひと通り終えた頃には、外は日が暮れようとしていた。治療よりは、蓮子と二人きりの時間を過ごすことが薫の目的だったので、作業は極めてゆっくりしたものだった。床は赤くなった。蓮子は青ざめ、ぐったりとして、薫が何か言ってもほとんど反応を返さなかった。つまらないなと思い、指先にナイフの刃先で傷をつけたりすると、ぴくりと反応したりはした。それでもやはりつまらなかった。
薫は蓮子を抱きかかえた。耳元に、長年降り積もった思慕の念を囁き続けた。
囁くほどに、薫は何か引っかかるものを感じる。
夢にまで見た状況にいながら、薫は、自分の興奮が少しずつ覚めていくのを、自覚しないわけにはいかなかった。目をそらそうとしても、冷えていくスピードは弱まるどころか、むしろ加速していく。
「ねえ、命乞いをしてよ、蓮子。そうしたら、助けてあげるから」
蓮子の目は生気がなかった。唇の隙間から、血の泡とともに小さな息が漏れる。
赤くふくれる泡を見ていると、不意に、薫の胸を虚しさが吹き抜けた。
それは、あまりに唐突にやってきて、薫の中をめちゃくちゃにした。
こんなのは、私が求めていることじゃない。
そう思ったが、口には別の言葉を出した。
「跪いて、私の足を舐めて。ねえ、やってみてよ。私そんなことされたら、嬉しくて死んでしまうかもしれないわ」
蓮子は、言われた通りにした。
胸を吹き抜ける虚しさはますます強く、重くなり、薫は吐きそうになった。自分の足の親指に、血の泡がついている。
蓮子はひどく緩慢に、薫を見上げる。
「たぶん、こういうことじゃないよね。あなたがしたいことって」
蓮子の言葉は、薫を壊した。
薫は後ずさりをして、蓮子から離れる。立っていられず、膝をついた。それでも自分を支えることができなかった。前のめりに倒れ込み、両手をつく。
同じような蓮子の目を、一度だけ見たことがある。喫茶店で、ひとりの男が騒いでいた。理屈や言葉の通じない、権力や暴力、金でしか世界を捉えることの出来ない男だった。ある程度年を重ね、それなりの地位を得ている風ではあったが、愚かさと年齢や地位は、あまり関係がなかった。男は、ウェイトレスに罵詈雑言を浴びせていた。頭から人間扱いしていなかった。次に出てきた店長に対しては少し言葉遣いが変わっていたが、おおむね似たような行動を繰り返していた。店長とウェイトレスは土下座をした。蓮子は、喚き散らす男の横顔に、コーヒーをかけた。男は顔を押さえながら、蓮子に喰ってかかった。蓮子は、虫を見るような目で男を見た。男は一瞬言葉に詰まり、それから蓮子の鼻を指でつまんで引っ張り上げた。蓮子は手に持ったカップを、男の顔にしたたかに打ちつけた。すぐに、その場から駆け出した。薫の手は空を切った。
〈私の手を、とってくれなかった〉
蓮子はひとりで立ち向かい、ひとりで走った。そこに薫が手を出す余地はなかった。
ただ、あの目でだけは見られたくないと思った。あんな目で見られては、自分の全人生を否定された気がするだろう。
その目が、今、自分を捉えたことを、薫は理解する。
「どこで、間違えたのかな」
薫は呟く。応える者はいない。
「私はただ、誰かと、楽しい話がしたかっただけなのに」
同じ時間を過ごして、同じ楽しみを分かち合う。そういう人が、傍に欲しかった。井戸の底にひとりでいる気分だった。あの暗い、湿った場所は、あれはあれで居心地が良かった。というより、外に出たくなかった。誰も自分を見てくれなかったし、自分も他の誰かを見たくなどなかった。
蓮子は颯爽としていて、他の誰とも違っていた。あんな人が自分を見てくれたら、自分は井戸の底から出られるだろう、温かい光を浴びて、新鮮な空気を吸って、生まれ変わるだろう。居心地のいい、井戸の暗さを残したまま。
「あなたが、私に興味を示してくれたり、私の言葉に笑ってくれたりしたら、それで十分だった」
「ごめんね」
かすれた声で、蓮子は言った。薫は弾かれたように、うつむけた顔をあげる。蓮子はぐったりと四肢を伸ばして床に伏せている。もうあの目で自分を見ていないことに、心の底から安堵する。蓮子は口の端から血の泡を垂らしながら、話す。
「ごめんね、薫。私、ただ、ちょっとした優越感が欲しかっただけだった。あの頃、意味もなく、苛々したり、もやもやしたもので頭がどうにかなりそうだったりしていた。あなたが、私を見ていると、私は自分がヒーローになったみたいに感じた。けれど、それはただの錯覚だった。他人の視線を自分に都合のいいように作り上げて、ありもしない自分の鏡像に見とれていただけだった。ゲームのからくりに気づいてしまえば、気持ちよくも何ともない。気づいてしまうと、あなたにも申し訳なかった。そこでクラス替えがあって、みんな受験でピリピリし始めて……私は、あなたとのゲームは終わったと思っていた」
「ゲーム……」
「終わってなんか、なかったんだね。家に連れていかれた時、私は何が何だかわからなかった。あなたが何を考えているのかもわからなかった。女の子が好きなのかな、そういう趣味なのかなっても思ったけど、私と……キスした時は、何かに無理やりさせられているみたいだった。好きでやっているんじゃなくて、儀式として、急かされて、やってるみたいだった。全然嬉しそうじゃなかったの。私は、あなたがわからなかった」
「ゲームなんかじゃない。いや、ゲームだったのかも。とてもとても楽しい」
「ごめん」
「私はそれをずっと続けたかった」
ナイフを振り回す。蓮子の体は赤い粉となって床に散らばった。
ナイフが手からこぼれおちる。そのナイフを、すっと伸びた手が拾う。薫は振り向く。
メリーがいた。頬や額に青痣がある。スカートとソックスの間からのぞく足にも、赤くにじんだ傷がついている。
「そんな、ここは施錠しているはずなのに」
「そういう境界は、私にはあまり意味がないわ」
薫はメリーの言うことが理解できなかった。理解できたのは、これで自分の人生が終わったということだった。
「もう、警察とか呼んだ?」
「救急車呼んだわ。そうね、警察も呼んだ方がいいかも」
「ごめんなさい、あなたの大切な人を、殺してしまった」
メリーは薫の肩越しにそれを見る。目を見開き、息を呑む。
「そんな、あなた」
「ごめんなさいごめんなさい、本当にごめんなさい。蓮子は死んだの。私がしたの。ほら、血がこんなに」
メリーは首を振る。
「あなたは何もしていない」
「ごめん、ごめん、ごめん」
「あなたは誰も殺していない。あなたは何も見ていない。何も理解していない」
「何も言わないで。警察を呼んで。私を裁いて」
メリーのナイフを指差す。
「あなたが今、それをしてもいい」
「そんなことはしないわ。私は、蓮子が無事だったのならそれでいいの」
「だって!」
薫は振り向く。床に散らばった粉を。そこに漂う、宇佐見蓮子の残像を。
「これは、私の記憶に過ぎないもの」
「幻だっていうの? 蓮子はそこにいるわ」
「いるけれど、いないの。私の蓮子はもう死んでしまった。私が殺した。取り返しのつかないことをした」
蓮子の残像にすがりつく。頬には、固く冷たい床の感触がするばかりだ。
「そう、見えて、いないのね」
メリーは寂しそうに呟いた。
薫は自分がどれだけの間、うずくまっていたかわからなかった。気づいた時には、サイレンの音が近づいてきていた。音の大きさと近づき方からして、今、国道から路地に入ったところだろう。人の気を急き立てる音が、近づいてくる。
***
事情聴取を終えた男が立ち去ると、病室は急に静かになった。
メリーはリンゴを切り分けると、ひと切れ爪楊枝で刺して、蓮子の口元に持っていく。
「はい、あーんして」
「あーん……ていうと思った?」
「あら、そんなこというとあげないわよ」
蓮子の口の前で、リンゴをひっこめる。蓮子は体を起こそうとして、顔をしかめる。
「痛た……ちょっと、怪我人はもっと労わりなさいよ」
「生きているからいいじゃないの」
「結構この状態、辛いのよ」
「変わってあげましょうか?」
「結構です」
蓮子は口に押し込まれたリンゴを咀嚼する。
「あの子」
メリーがぽつりと呟く。蓮子はリンゴを噛み続ける。口の中が汁であふれる。
「蓮子が、見えていないみたいだった」
果汁を飲み込む。警察が踏み込んできて、薫を連れていくまでの間のことを、蓮子もメリーも思い出している。
「私にばかり話しかけていた。蓮子を殺してごめんなさい、ごめんなさい、仕方がなかったの、許してね、って……」
「死んだんでしょうね。辻薫の中の、宇佐見蓮子は」
「だからって、現実のあなたまで見えなくなるの」
「わからない。けど、現にあの子がそう言っているなら、そういうもんなんでしょう」
メリーがまた爪楊枝でリンゴを刺し、蓮子に差し出す。蓮子は口を開ける。メリーは顔を近づける。蓮子は口を開けたまま、至近距離でメリーと見つめ合う。蓮子が何かしゃべろうとした途端、口にリンゴをつっこむ。
「なんなのよ」
口をもぐもぐとさせながら、蓮子が言う。
「蓮子、なんだか冷たいわね」
「そりゃ、そうよ。刺されたんだから。メリー、刺されたことある? 痛ったいわよぉ」
「怪我はまあ、痛いものと相場は決まっているわね。でも、怒っているようにも見えないわ。やっぱり、冷たい」
「冷たくもなるわよ。あんな、理解できないもの」
「理解できるわ。ストーカーよ。それか、ファン。単純な話よ」
「メリー、わざと言っているでしょ。そんなに話を簡単にして、どうするつもり」
「蓮子が難しく考えすぎなのよ」
「ねえメリー、あの時、いつ頃からいたの?」
「あなたがいなくなって、物凄く慌てた」
「頬っぺたや肩や肘に、痣を作るぐらいね。ずいぶん無意味に慌てたものね」
「階段から転げ落ちたのよ。絶望のあまり、ね。で、そのうち日が暮れたわ。日が暮れると、あなたの目を使ってあなたの場所がわかるでしょう? 灯台下暗しね。それからすぐに駆けつけたわ」
「救急車とか警察は?」
「辻薫がおかしくなってから呼んだわ」
「じゃあやっぱりあの時点では何も呼んでなかったのね」
「そりゃあ、ね。だってあなたが血まみれて倒れているのが見えてしまったんだもの。思考停止もするわよ」
「あの子ってやっぱり、おかしくなったのかな」
「そうね。気になる? 狂気のストーカーの頭の中」
「またそんな言い方。メリーの方がずっと冷たい」
「私は冷たいんじゃなくて本当に怒っているの。監禁して刃物振り回すなんて、物騒だわ」
「あの子の宇佐見蓮子って、どんな人だったのかなあって、気になる」
「高校の時、蓮子はどんなだったの? 全校生徒の憧れの的?」
「まさか。あの年頃ってさ、身近な人間でちょっと他より優れていたら、それだけでもう世界の誰よりも価値があるように見えてしまうじゃない。ちょっと勉強ができたり、ちょっと体が動いたり、ちょっと顔が綺麗だったり、ちょっと言葉遣いが滑らかだったり……」
「そのちょっとに、あの子は反応したの? 本当にそれだけ?」
「多分。私、受験勉強が嫌で嫌で仕方がなかっただけの、なんの変哲もない女子高生だったんだけどね。物語は好きだったけど。まあ、これは今でもか」
「そうね、今もね」
メリーは三つ目のリンゴに爪楊枝を刺す。
「メリー、あなたに私って、どう見えている?」
「蓮子は、蓮子ね」
「そういう面白みのない答えじゃなくて」
「あら、面白さを求めるような問いじゃないわ、今のは。真面目な問いよ。らしくないわ」
「むう」
リンゴを頬張る。
「そんなに気になるなら、会って聞いてみたら?」
窓の外側には鉄格子がかかっている。部屋の中に、尖った部分はない。テーブルの角も柔らかい綿で覆われている。この部屋では身を傷つけることはない。意図しようと、しなかろうと。
薫は、窓から外を眺める。外付けの鉄格子が視界を遮るが、それでも病院の敷地内に入ってくる、女の姿を目にとめることができた。金髪の少女が、車椅子を押している。マエリベリー・ハーンだ。すぐにわかった。車椅子には、誰もいない。空の車椅子を、メリーは押している。だが、そこに宇佐見蓮子の存在をまざまざと感じる。メリーもまた、自分と同じく、蓮子の存在をひきずっているのだと、薫は確信する。
この個室に入れられてからというもの、薫は毎晩蓮子の夢を見た。短大や、勤めていた頃は、蓮子を夢に見ることなど滅多になかった。心にはいつもとめていたけれども、現実的に彼女の思考を占めていたのは、翌週締切のレポートだったり、合コンの日取りだったり、上司の癇癪への恐怖だったり、自身の振るわない営業成績だったりした。夢に見たくても夢に出てこないため、蓮子への思いはその程度だったのかと、自分で情けなくなることもしばしばだった。
だが、今は違う。いつもいつも蓮子を見る。それは幸福だった。蓮子は時に血にまみれた痛々しい姿をしていたが、たいていは、五体満足な姿で、薫に話しかけた。何を話したのかは、夢の中なのでたいして覚えていない。昔、話したように、小説や音楽のことなのだろう。つい意識が朦朧として、会話が噛み合わない時がある。夢だから仕方がない、と薫が諦めると、蓮子は、やりきれない表情を見せた。
そんな時、薫は、ひょっとして目の前にいる蓮子は現実の蓮子なのではないか。こうして自分に会いに来てくれたのではないかと夢想する。
「入るわ、辻さん」
回想を断ち切るように、ノックの音がする。
「どうぞ」
薫が言うと、空の車椅子を押すメリーが現れた。車椅子をじっと見つめる薫を見て、メリーはため息をつく。
「やっぱり見えていないのね」
「あなたこそ、見えないはずのものが見えているのよ」
「そうね。他の人には見えないものが、確かに私にはよく見えるけれど。でも、今日はそういう話で来たんじゃないわ」
「じゃあどういう話なの。その車椅子の思い出話でもしようっていうの? そりゃあ、あなたにとって私はどれだけ裁いても裁ききれないほど、重い罪を背負っているでしょうけれども」
メリーはつかつかと薫に歩み寄り、胸倉をつかんだ。そうして、右の拳で頬を殴った。きょとんとする薫の前で、メリーは痛そうに右手を振る。
「人を殴る時って、自分も痛いっていうのは、言葉通りだったのね」
次に、左手を握り締めて、また薫を殴った。
「あなたの身勝手な妄想で、蓮子を独占しないで。物凄く不愉快だから」
薫は、両頬の痛みを感じながら、何も言い返せないでいた。あまりに明確な少女の意思表示に、面食らっていた。
怒り。
苛立ち。
「それじゃあ、お元気で。もしまた会うことがあれば、その時会いましょう」
「もう帰るの? いったい何をしに来たの」
「私の役目は車椅子を置く、それだけ」
メリーは去っていった。薫は、熱を持った両頬を両手で押さえる。車椅子を見る。メリーに言われずとも、薫にもはっきりと見えている。
だが、それは残像なのだ。薫の記憶の残滓に過ぎない。そう思う。
残り滓に向かって自分の思い出を語るのも悪くはないと考える。
「蓮子、また私の前に来てくれたのね。それともこれも夢かしら? いつまで夢で、どこから夢かしら。妄想とか想像とか予測とかは、夢って言わないのかしら。なんでもいいわ。現実に価値なんて一切ないわ。ただあなたがいるというその一点さえあれば、あとはどうでもいいことばかりよ。本当にくだらない、狂ったこの現実。でもね、その現実から目をそむけ続けることはできないのよ、蓮子。どうしたって現実はやってくるわ。ひたひたと密やかに、あるいはどたどたと騒々しく。私は逃げたりしないし、かといって立ち向かったりもしないわ。無視するの。それが一番労力がかからない。蓮子、こっちを見て。私は、そんな狂った世界で、あなたと一緒にいれば、まっとうに、笑って、楽しく、日々を過ごせると思っているの。今でもよ。だから、ここに来てくれて嬉しい。触って、この頬。あの子に殴られてしまったわ。だって私、あなたを消してしまったから、むしろこれぐらいで済んでいいのかなっていうくらい。ああ、感じる。蓮子、あなたの手触りを感じる。なんという目で私を見るの? まるで亡霊みたいに実在感があるわ」
蓮子は、やさしく薫の頬をなでる。
「大丈夫。見えるようになるまで、一緒にいてあげるから。薫さん」
「やさしいのね、蓮子さん。怒っていないの?」
「そうね、あなたに刺された痛みは決して忘れないわ」
頬をなでる手が止まる。薫は、殴られるかと思い、思わず身を縮める。だが、何も襲ってこない。
「あなたと喫茶店で話していた時間は、楽しかった」
言葉だけでなく、紅茶の匂いが、店内と店外を行き来する空気の流れが、安っぽい合成皮シートの触り心地が、薫によみがえる。あの頃の喫茶店に、二人はいる。
「あなたって、ひとつのことに関わり出すと他に何も見えなくなるんだけど、その時の集中力は、錐のようで、魅力的だった。そうね、美しい、と言ってもいいわ。そこは、変わってないの。こんな、人一人を消してしまうような狂気に身を委ねるくらいだから」
「蓮子、ねえ蓮子、もしかして」
薫の声は悦楽にうわずる。最大の期待を込めて、次の蓮子の言葉を待つ。
信者が、信じる者の下す言葉を、敬虔な気持ちで聞くように。
「そうよ、私、あなたに興味があるの」
薫は歓喜の炎に包まれた。腹の底からわきあがる感謝の思いにこらえきれず、蓮子の手を取り、手の甲に額をつけた。その興味がたとえ、小説や、映画や、モノに対する興味と大差なくても構わない。立ち入った付き合いなど、あの金髪の少女にくれてやる。蓮子がこんな自分に興味を持った。そのことをわざわざ教えてくれた。それだけで十分だ。涙を流しながら、祈った。
ここにいてくれてありがとう。
私と出会ってくれてありがとう。
どうかこれからも私といてください。
次回作も期待してます。
頑張ってください!!
ただセリフが連続する時に、誰が喋ってるのか分りづらくなる時があるかも
メリーの目の話は前作とつながってるのかな。
と言うことはあの空間から戻ってきたのか?
だとしたらメリー・・・せっかく願いがかなったのにね・・・
こうなったら結婚するしかないな
そうすれば一生秘風倶楽部を続けられるね!
しかし前作といい今作といい蓮子は大変な目にばっかり会うなぁ。
できれば一度あなたのまったりゆっくりな秘風倶楽部を見てみたいです。
……当然ちゅっちゅアリで。
でもそのおかげでもっと先があってもいいという状態になりました。いやっほう!!
……コメントの4と7が両方とも秘「風」になってることには突っ込みをいれるべきだろうか……
個人的には、中盤の女性性についての生々しい会話の部分がよくある鬱系小説に使われる光景の常套表現だと思えてしまったので、
できれば前半後半の、人間同士の間のひずみからくる恐怖や戦慄をうまく生かした雰囲気で統一していただきたかったなと。
なにはともあれ、秘封倶楽部のお二方は前作のあの場所からのご生還おめでとうございます。
〉2さん
これからもどんどん書いていく所存です。
〉4さん
すんません、これは私の技術不足です。
読み返してたら、蓮子とメリーの口調が一緒ですもんね。
次回作では少しでも解消できたらと思います。
>7さん
まったりゆっくりちゅっちゅ需要アリですか!?
そうですかそれはもう書くしかありませんねえ。
>8さん
気になってました、実は気になってました。
あなたが言ってくれたので大声で言います。
秘”封”倶楽部だと!
>9さん
女性性、っつーと生理痛云々の下りですか?
そうか、わりと多用されてる手法なのですか……
そこは無自覚に書いてました。
無自覚に書きやすい方に流れてたのかも。
できればもうちょいと話してもらえるとうれしいです。
具体的な作品名も、ある程度有名であれば私も知ってるかもしれないので。
〉帰還
皆さん触れられてたので。
これは、なんというか、書いた本人がいうとすげえ女々しく聞こえるかもしれませんが
今も迷ってるんです。
前回のラストは自分が考えられる限りもっとも幸せなものにしたと思っているのですが
今回で現実に戻しちゃいました。
蓮メリをもっと書きたかったからなんですけど、だったら時間軸戻せばいいじゃんという話になりますもんね
あのラストの幸福をとどめておきたいなら。
ただ、書いている私自身の時間は進んでいるので、蓮メリの時間にも進んでもらった方が
書きやすいのは確かでした。
でも本当に恐ろしいのは蓮子のカリスマ性だったりする
こんな以前の作品に、わざわざどうもです。
ファーストキスからの誘導でしょうかw
薫は好きです。難点といえばオリキャラであることです。
夜伽から来たのですが、野田さんの文章は何か惹き込まれるものがあります。
そして蓮メリはあれですね、なんか生活感があって生々しくてエロスですね!
「夜伽から」というパターンがあるとは思ってませんでした。
やっぱり向こうにも書いてよかった。
こっちにも蓮メリ含め色々書いてるのでよかったらどうぞ。
たぶん、そろそろあっちに投下すると思います。
そろそろというか、3月いっぱいまでには(汗
読んでて背中が痛くなりました。
辻さんこええ
げに恐ろしきは妄想力ですね。
前作の終わりはアレはアレでハッピーエンドですよね
とりあえず前作と今作は別モノとして読みましたが・・・さて。
幽々子様といい蓮子といいメリーといい、野田さんの書くキャラって魅力的ですよね。
上の三人は私が特に好きってだけですけどww
素敵ね
得点的に不肖の子っぽいこの作品が、
じわじわ評価していただいてるのみてると、なんというか幸福です。
辻薫は好きなキャラです。
一途なところが。
一途なひとは魅力的ですよね。はた迷惑ですが。
今度の例大祭に小説出すので、よかったら読んでください♪
……と宣伝、宣伝w
他人から見ればどうという事のない些細なものも、ある人からすれば金銀財宝よりも価値があるわけで。
狂気というよりは単に思いこみが激しいだけの気もしますが、なまじ目的が達成されてしまっただけに薫さんがこの後に自殺をするのではないかと心配になったり。
それはそれで満足いった人生なんでしょうけど。心が温まるお話でした。
ありがとうございます。
チト痛いですがね……幻想郷の連中ならいざ知らず、生身の人間に刺し傷や打撲はつらかろう。
あと、キスしたのに拒否られたりとかも。
この作品は四週間後、京都にて活字化されます。
つか十一ヶ月前の作者コメもイベントの宣伝とは……
学生時代の描写がとても好きです。文章を読み進めていくと、あの時期特有の湿ったような、甘酸っぱい記憶が浮かんできて、私も切なくなりました。
>「まさか。あの年頃ってさ、身近な人間でちょっと他より優れていたら、それだけでもう世界の誰よりも価値があるように見えてしまうじゃない。ちょっと 勉強ができたり、ちょっと体が動いたり、ちょっと顔が綺麗だったり、ちょっと言葉遣いが滑らかだったり……」
という蓮子のセリフに、彼女の成長が凝縮されているような気がします。
圧巻だったのは、中盤の現実と回想が入り乱れる場面です。ぐいぐいと引き込む力を感じました。
そしてラストの場面には、胸の熱くなる思いがしました。本当にいい話で、魅力を語りつくせません。
そして、終盤。最後のシーンで一気に引き込まれました。
素晴らしい。これからも野田さんの作品を楽しみにさせていただきます。
この二人を書くときに必要な要素の様に思えました。
六年前に読んだのが忘れられずまた読みにきてしまった。