Coolier - 新生・東方創想話

私の隣に

2008/09/30 06:26:10
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※この作品は百合作品です。
 また一人の視点で話が進みます。
 それと原作の理解不足からキャラ崩壊や設定がおかしかったりするかもしれません。
 そういったことをご理解のうえよろしければお進みください。





 こんな気持ちを抱いたのはいつからかしら。
 気がついたらあなたのことを好きになっていた。あなたの姿が、声が、心が、その全てが愛しい。
 思えばあなたが幼い頃から私はあなたのことを見てきた。常に側に居続けたわけではない。でもあなたが成長していく様は見てきたわ。そしてあの異変で弾幕勝負をしてからはあなたと過ごす時間は格段に増えていったわ。
 そういえば共に月のない夜空を飛んだこともあったわね。だから私があなたに惹かれていったのはそのころなのかも。それとも初めて出会ったその瞬間から私の心はあなたに支配されてしまっていたのかしら?
 あなたのことを思い浮かべるだけで顔が熱くなって胸がドキドキして苦しいの。でも、それが心地いい。
 これはきっと”恋”と呼ばれるものなのでしょう。まさか大妖怪の私がたかが人間に恋をするなんて思いもしなかったわ。でも、これが現実。私の偽らざる気持ち。

 ━━私、八雲紫はあなたを、博麗霊夢を世界中の誰よりも愛しています。



 「こんにちわ~♪呼ばれて飛び出てジャジャジャ~ン♪」
 「別に呼んでないわよ。今日は何か用?」

 いつもどおりスキマから現れた私にいつもどおりそっけない言葉を返す霊夢。最近日常となりつつあるこんなやりとりが楽しい。

 「霊夢の顔が見たくて目が覚めてすぐに来ちゃったわ♪」
 「あ~はいはい、それはどうもありがとう。ちなみにもうお昼過ぎよ。このグータラ妖怪さん。」
 「妖怪は基本的に夜型なの。そんな中眠い目をこすりながらやってきた私に対してグータラとは酷い仕打ちだわ。よよよ。」
 「別に来なくてもかまわないわよ。それにほとんどの仕事は藍任せであんたはグータラじゃない。」

 そんな風に何だかんだ言いつつも霊夢はお茶の用意をしてくれる。来るもの拒まず。それが彼女の基本姿勢。彼女の中には人と妖怪の差別がなく、それが妖怪である私にとってはうれしいことだ。
 ・・・・・・本当は私だけが特別であってほしけれど。

 「はいどうぞ。出がらしだけどね。」
 「霊夢が入れてくれたものなら何でも極上の一品に変わるわよ。」
 「何馬鹿なこと言ってるのよ。」

 縁側に腰掛けた私にそう言って彼女はお茶を手渡してくれた。そのまま自分も隣に腰掛けお茶をすする。
 それを横目に私と彼女の隙間、長さを測る。

 (・・・・・・いつもより近いかしら?)

 私と霊夢の距離。人一人分の隙間。それは近いようで遠く、それが近づくにつれて私と彼女の心の距離も近づく。そんな気がする。
 だからいつもよりその隙間が狭いとトクンと胸が高鳴る。それは呆れるくらいに些細なこと。でも、今の私にとってはとってもうれしいこと。

 「・・・ふぅ、しかしあんたも暇よね。こうして毎日のようにここに来るなんて。」
 「霊夢に会うためですもの。たとえ雪が降ろうと槍が降ろうとあなたのもとにすっ飛んでくるわ。」
 「たとえ大地震が来ても?」
 「そのときはもちろん霊夢も手伝ってくれるわよね?」
 「うっ、まあ仕方がないわよね。そもそもその場合震源地ってここだし。」 

 先日あのバカ天人のせいで幻想郷はその危険性をはらんでしまった。もちろんいざとなったら私の全てをかけてでも幻想郷は守るくらいの覚悟と愛はあるけれど。
 ・・・・・ただそれくらいあなたに会いたいという想いも本物よ。

 「まああんたが何しようと異変さえ起こさなきゃ私はかまわないけどね。」
 「そんなことしないわよ。私はこの幻想郷を愛しているもの。」
 「本当かしらね?」

 そう、私は幻想郷を愛している。でも、それと同じくらいあなたのことも愛しているわ。



 「おーい、霊夢~。」

 そうして2人でのんびりお茶を飲んでいると空から声と共に一人の少女が降ってきた。

 「はぁ、あんたも暇なのかしら。少しは家で大人しくしててもバチは当たらないんじゃない。」
 「へへへっ、そう言うなって。お、紫もいたのか。」
 「どうもこんにちは。せっかく霊夢と2人の時間を楽しんでいたのに。」
 「いいじゃないか、私も仲間に入れてくれだぜ。」

 彼女、霧雨魔理沙も最近ここによく遊びに来ている。よく、と言うか私が来たときはほとんど顔をあわせることから彼女もほぼ毎日のようにここに来ているのだろう。
 別に私は彼女のことが嫌いではないし溢れんばかりの生命の輝きに満ちた彼女を見ているのはそれはそれで楽しいから一緒にいること自体は構わないけれど。

 「で、あんたは何か用でもあるの?」
 「そうそう見てくれよこのキノコ。アリスの家の近くで偶然見つけたんだけどさ・・・・・・。」

 どうやら魔理沙は新しいキノコを見つけたのでそれを霊夢に見せにきたらしい。楽しそうにキノコについて語る魔理沙とそれを面倒くさそうにしつつもちゃんと相槌をうってあげる霊夢。
 ・・・・・・正直うらやましい。霊夢の表情は無邪気に話す友に呆れているようで、でもどこか楽しげだ。彼女をそうさせる魔理沙に私は嫉妬してしまう。
 そしてまたそうやって霊夢と話す魔理沙の表情もとても楽しげだ。・・・・・・当然だろう。同じ想いを抱く私にはわかる。私と同じで魔理沙も霊夢に”恋をしている”。
 ・・・・・・だから、不安になる怖くなる。いつか彼女が霊夢を連れ去ってしまうのではないか。平等なこの子の”特別”になってしまうのではないか。
 そう考えてしまう弱い自分を私は何度も哂った。最強と名高いこの八雲紫が何を恐れている?博麗の巫女とはいえ所詮ただの人間。そんなものになぜそうも固執する必要があるのか、と。
 だがどれほどそう思おうとしても心の痛みは治まることはなかった。それどころか霊夢のことを意識するたびにどんどん彼女という存在が私の中で大きく膨らんでいった。
 そして同時に、彼女が誰かに取られるんじゃないかと不安に思うようになった。そう、この霧雨魔理沙のようなものが。



 その夜、私はいつものように霊夢へと想いをはせていた。この気持ちに気づいてからというものこうして霊夢のことを考えるのは日課になってしまっている。

 (霊夢はいったい誰のことが好きなのかしら?)

 だが今日考えていることはいつもと少しだけ違う。今まで意識しないようにしてきたこと。霊夢の想い人についてだ。

 (・・・・・・やっぱり魔理沙かしら。)

 いつもと同じく今日も何が起こるわけでもなく3人でお茶をすすりながら他愛もない一時を過ごしただけだった。
 側にいられるということは喜びではあるが、しかしこうして自分以外のものと霊夢が同じ時を過ごしているというのは私の中に不安を積み上げていく。

 (嫌いではないでしょうけど、でもだとしたら好きってことよね?そうするとどれくらい好きなのかしら?)

 魔理沙は霊夢の古くからの友人で、そのため私にとってもかなり旧知の人間だ。当然霊夢と一緒にいる時間も長く、2人が弾幕ごっこをしている姿をよく目にしたことがある。
 だがだからといって霊夢が魔理沙のことを特別視しているかというとそうでもないと思う。
 もちろんいくら私でも他人の心はわからないが、しかし彼女の魔理沙に対する態度はあの吸血鬼やメイドたちに対する態度と大して違わないように見える。彼女の姿勢が中立公平であるからというのもあるだろうけど。
 しかしそれがイコールそういった感情がないということには繋がらない。表面上はそう見えたとしても内心ではどう思っているかなど結局本人にしかわからない。
 現に魔理沙が来訪したときの彼女の表情は他のものたちが訪れたときとは微かに違うように見える。それは普段よりさらに力の抜けた、和らいだ表情に思える。無論気のせいかもしれないし、それは単に友に対する親愛の情の表れなのかもしれないが。
 だが、それが好意を寄せる相手が来てくれたことに対する喜びの表れでないと言い切れるだろうか?

 (ふふっ、こんな私を見たら幽々子は笑うかしらね。)

 まるで少女のようにたった一人に対してあれやこれやと思い悩む私の姿はきっと情けないものだろう。
 まあ笑いこそすれ卑下するようなことはないだろう。そんなに人、この場合は幽霊が悪いわけではないし。
 ・・・・・・ただからかわれはするだろうから黙っていようと思うけれど。

 (いっそ告白してしまえば楽になるかしら?)

 それも何度も考えた。だがそもそもが女同士、ましてや人間と妖怪の恋などそう簡単に実るはずがないのだ。
 確かに半妖がいる以上ありえないことではない。しかし私は霊夢に好かれている自信がこれっぽっちもないのだ。こんな普段からうさんくさいと言われるような、しかも実際にふざけた話し方しかしない女などよほどの変わり者でない限り好いてはくれないだろう。
 となれば告白したところで玉砕は必至だろう。しかも断られるだけならまだいいが、もしも嫌悪の目でも向けられたらどうだろう。きっと私は耐えられない。
 ・・・・・・だから私はこの積もりゆく不安が続くだけだとわかっていてもぬるま湯のような幸せにしがみついている。

 (・・・・・・今はまだこのままが一番なのよね?)

 そうして出た結論はいつもと同じ現状維持。魔理沙にしてもすぐにどうこうしてくることはないだろうし、霊夢にしてもそうだろう。他の要素も今のところ考えられないし、もうしばらくはこのままでいよう。
 たとえそれが逃げだとしても。

 (ふぁ~あ、もう寝ましょう。おやすみなさい、霊夢・・・・・・。)

 そうして私は眠りにつく。いつものように霊夢を想いながら。



 晴れわたる空の下、いつもと同じ博麗神社。
 しかし今日はいつもと志向を変えて登場することにしてみた。普段しているようにスキマから直接姿を現すのではなく、神社の裏手からこっそり出てくるのだ。
 あまり驚きの表情をしてくれない彼女だが、少しはそうした顔を見せてくれるだろうか?

 (あの子は勘がいいから気配に注意してと。・・・・・・ん、話し声が。誰かしら?)

 どうやら誰か来ているようだ。一人は霊夢としてもう一人は・・・・・・魔理沙?

 (一体何を話しているのかしら?いつもと調子が違うみたいだけど。)

 聴覚に意識を集中しつつ近づいていく。魔理沙がくること自体は珍しいことではないしどうせいつもの他愛のない話で
 「霊夢のことが好きだ!!私と付き合ってくれ!!」
 (・・・・・・え?)

 ちょっと待て。今魔理沙は何て言った?好きって言ったか?ということは告白?誰に対して?・・・決まっている霊夢に対してだ!!

 「ずっとずっと大好きで、もう気持ちを抑え切れなくて、だから!!」
 「・・・・・・魔理沙、私は、」
 (・・・あ。)

 駄目だ。聞くな。ここにいてはいけない。これを聞いてはいけない。これを聞いたら私が壊れてしまう。去れ。今すぐここから立ち去れ!!


 
 気がついたら私は自宅の庭に突っ立っていた。おそらく無意識の内にスキマに飛び込んだのだろう。ここに繋がったのはやはり自分の家だからだろうか。

 (・・・・・・さっきのは。)

 思い出す。そして理解する。あれは魔理沙から霊夢への愛の告白であると。とうとうこの日が来てしまったのだと。
 ・・・・・・そしてそれに対する霊夢の答えも私は予想してしまっている。聞く前に逃げてしまったが、答えはおそらく”はい”だろう。
 ここのところずっと霊夢の日常を見てきたが、彼女の魔理沙に対する態度はやはり他のに比べると違う気がするからだ。
 となればそこに存在する感情は好意。ならば断る理由などないだろう。

 (あれ?私泣いている?)

 いつから泣いていたのだろう、頬を湿らす感覚で気がついた。手を当ても涙は止め処もなく溢れてきた。一体なぜ私は泣いているのだろうか?

 「・・・・・・ああ、そうか。」

 それは恋が破れた悲しみ。自分が求めてやまなかったものが永遠に失われた喪失感。それが私の心を強く強く締め付ける。
 痛い、苦しい、哀しい、辛い。
 ああ、私はこんなにもこんなにも彼女のことを愛していたのだ。その想いが反転して私を苛む。
 だからこの苦しみは彼女への想いの大きさ。それは誇らしいけれど、でも耐えられないほど辛い。

 「ううっ、ひっぐ・・・うぇっ、ぐすっ・・・れいむ、れいむっ・・・・・・う、うわああああああああんっ!!」

 泣いた。泣いて泣いて泣いて泣いて泣いて泣いて泣いて泣いた。立ち尽くしたまま。ただひたすらに。



 「うぐっ、ひぐっ、・・・・・・はぁ。」

 涙も枯れ果てたかようやく落ち着いてきた。とは言っても心にまるで大きな空洞でもあるかのように空虚感に満ちているけど。

 「・・・・・・っ、誰!!」

 微かな物音に振り向く。まあ家にいるのは藍か橙くらいだからそのどちらかだろう。まったくこういうときくらい気を利かせてくれても・・・・・・って。

 「・・・れ、霊夢!?」

 そこにいたのは私の目がおかしくなってない限りまぎれもなく私の最愛の人、博麗霊夢だった。

 (なんでどうしてここに霊夢がいるの!?)

 私が混乱していると霊夢は少しばつが悪そうな顔をして手に持っていたものを掲げて見せた。あれは、私の愛用の傘?

 「あ~、あんた今日神社にきたでしょ。この傘だけ落ちていてあんたの姿が見えなかったから忘れてったのかと思って届けにきたんだけど。」

 どうやら気が動転していて傘を落としていたことに気づかなかったらしい。でもなんでわざわざ届けに?次に会うときまで預かってくれればよかったのに。
 ・・・・・・今は霊夢の顔を見るのが辛いんだから。

 「・・・・・・あと、ええっと、その、たぶん魔理沙との話を聞いてたんでしょ?」
 「・・・っ!!」

 ああ、そのことをわざわざ話しにきたのか。誰かに聞いてもらいたいくらいうれしいのだろう。当然だ。
 その真っ先に話したい相手として選ばれたのは光栄だが、そのことが余計に私を惨めにさせる。つまりそれは彼女の特別になれなかったということだから。

 「・・・・・・ふふっ、おめでとう霊夢。魔理沙となんて人間同士よくお似合いよ。まあ女同士というのが気になるかもしれないけれど、もしお望みなら私の能力でちょちょっとそのへんをいじってあげてもいいわよ?大丈夫よ2人の邪魔なんてしようと思わないから。」

 一気にまくし立てる。そうしないと再び涙がこぼれそうだから。八雲紫の誇りにかけて好きな人の前で情けない姿など見せられないから。

 「ああ、せっかくだからお祝いに宴会なんてのもいいんじゃないかしら。最近してないものね。もちろん主役の2人は豪華に着飾って。
 でも孫にも衣装かもしれないわね。そんな様子をあの天狗に記事にさせて・・・。」
 「断ったわ。」
 「幻想郷中に・・・・・・へ?」
 (今なんて?)
 「断ったわ。魔理沙からの告白。」
 「ちょ、ちょっと待ちなさい!!なんで断ったの?断る理由なんてないじゃない!?」

 魔理沙は勝手気ままなところはあるが根は真っ直ぐでいい子だ。それは霊夢もわかっているだろう。普段の様子から見てもとても断る理由なんてないはずなのに。

 「受ける理由だってないでしょ?それに断る理由ならちゃんとあるわ。」
 「・・・理由?」
 「私には好きな人がいるから。」
 「!?」
 (魔理沙以外で好きな人が!?だれ?吸血鬼のお嬢さま?人形遣い?ああそういえば最近やってきた山にある神社の巫女も同じ人間だったわ!?)
 「それはね・・・・・・。」
 (そういえば萃香も結構神社に入り浸ってたわね?あ、でも意外と永遠亭の誰かかも?いや、ここはこの前の異変を切っ掛けに知り合ったあの天人とか!?)
 「あんたよ、八雲紫。」

 そして私はぎゅっと抱きしめられた。

 「れ、霊夢・・・?」
 「いつからかなんてわからない。気がついたら八雲紫という存在が私の中で大きくなっていたわ。」
 「でもどうやら私は自分のことにも無頓着みたいでね、その気持ちがどんなものか魔理沙に告白されるまでわからなかったの。
 魔理沙に告白されてなぜかあんたの顔が浮かんできて。それでわかったの、私はあんたのことが好きだって。私の、特別な人だって。」

 私は身じろぎ一つできなかった。霊夢の言葉がうまく理解できない。・・・・・・もしかして私は今霊夢に告白されているの?

 「・・・・・・改めて言うわ、紫。」

 私の顔を見つめる霊夢の表情はどこまでも真剣で、その瞳の奥にはとてもとても強い想いが宿っているように見えた。

 「私はあんたのことが好き。愛しているわ、紫。」
 「・・・・・・れ、い、む。」 
 (・・・・・・ああ、こんなにも、こんなにもうれしいだなんて。)

 止まっていた涙が再び流れ出す。でも今度は痛みや苦しみは伴わない。ただひたすらにうれしいという想いが溢れてくる。

 「ねぇ、あんたは私のことをどう思っているの?」

 真剣な表情のまま、けれど今度は微かに不安をにじませた瞳で私を見つめてくる。・・・・・・霊夢は本気で想いを伝えてくれた。だから私も本気でその想いに応える。

 「愛してる、愛してるわ霊夢。この幻想郷中の、いえ全世界中の誰よりもあなたを愛してるわ。」

 強く強く、彼女が壊れてしまわないように丁寧に、けれどしっかりと抱きしめる。この想いを余すことなく届けるつもりで。

 「・・・・・・うん。うれしいわ、紫。」

 霊夢も私を力いっぱい抱きしめてくれる。ぎゅうっと身体を押し付けるように。苦しくなってしまうくらいに。

 「・・・・・・ねえ紫。私を愛してくれてるって言うんならその証を頂戴。」
 (証?)

 何のことを指しているのか、と思ってたら霊夢は目を閉じた。そしてあごを上げ唇を私のほうへと向けてきた。となれば一つしかないだろう。私も目を瞑りそっと顔を近づけていく。そして・・・・・・。

 「んっ・・・はぁ、れいむぅ。」
 「んちゅ・・・んんっ、んはぁっ・・・ゆかりぃ。」

 熱い、それは燃えるように熱い口付け。そんなキスを私たちは息を吸うのも忘れて夢中で続けた。


 
 「ふふふふ~ん、ふふ、ふふ~んっ♪」

 あのあと霊夢は家に泊まっていくことになった。提案したのは藍だったが、たぶん私たちのことをずっと見ていて気を利かせてくれたのだろう。さすが私の子だけあってよく気が回るわ。料理もおいしいし。
 
 (今ひとつ屋根の下に霊夢がいる。しかも両想い。うふふふっ、心がはずむわぁ。)

 浮かれに浮かれている自分を流石にどうかと思う冷静な自分もいるものの、バラ色な気分の所為でどうでもよくなってくる。単に風呂に入っているだけなのにそれすら楽しく思えるから不思議だ。
 これまでの苦しみや不安が嘘のようで、まるで世界が変わったようだ。

 (どうせなら一緒に入りたかったけど、まああんなに照れた霊夢を見られただけでよしとしましょ。機会はこれからいくらでもあるのだし。)

 調子に乗ってお風呂にまで誘ったけど「そんなことできるわけないでしょ!?」と顔を真っ赤にして怒られてしまった。陰陽玉を飛ばしてまで抵抗しなくてもいいのに。まあそれも照れ隠しなのだろう。顔を真っ赤にして怒る霊夢は可愛かったからそれはそれで満足だし。

 (でも恋が叶うとこんなにも幸せになれるなんて思わなかったわ。これだったら誰もが恋を求めるわけだわ。)

 そういえばそもそも私は恋をしたことがあっただろうか?・・・・・・記憶にはない。そもそも私ほど古参で力のある妖怪は少ないから大抵のものは私に対して畏怖の念をもっている。そのため親しみをもって私に接してくれるものなどほぼ皆無なのだ。ましてや人間なんてもってのほかだ。
 あとは藍は小さい頃から私が育てた娘みたいなものだし、生前から付き合いのある幽々子は亡霊となった今も変わらない友達だし。萃香にしても同じこと。
 そういえば人間の中では歴代の博麗の巫女が比較的友好的だったかしら。それでも霊夢のように本当の意味での人と妖怪との中立とは言い難くそれほど親しくはなれなかったけど。
 考えてみると友人と呼べる存在はいなくはないけど恋をするような相手はいないわね。

 「・・・・・・そっか、これって私の初恋だったのね。」

 まったくこれだけ生きていて今まで恋の一つもなかったとわどれだけ色のない生き方をしてきたのだろうか。
 ・・・・・・いや思い出すのはよそう。今はただこの実った初恋を謳歌しようではないか。

 「お風呂から上がったら何をしようかしら?あ、でも霊夢はそろそろ眠る時間だったかも。ふふふっ、それならそれで。」

 上がって身体を拭いている際、そういえば先に入った霊夢の残り湯だったな、と少し変態的なことを考えてしまった。まったく恋というのは恐ろしい。



 「霊夢おまたせ~。」

 藍から聞いた話だとなんと霊夢が私と同じ部屋で眠ると言ったらしい。そうと聞いたらはやる気持ちを抑えてなどいられず私は浮かれ足で自分の部屋に向かう。うれいしいと同時に風呂の反応からてっきり客間を使うのかと思っていただけに驚きでもあった。

 「私の隣で寝たいなんて光栄だわ。でもそんなことされたら今夜は寝かせられないわよ・・・って霊夢どうしたの?」

 明かりの消えた私の寝室。霊夢はその中で静かにたたずんでいた。
 月明かりに照らされたその表情は真剣で、それでいてどこか芸術品を思わせるような美しさがあり、不覚にもドクンと胸が激しくときめいてしまった。

 「ど、どうしたのよ真面目な顔をして?もしかして何か問題でもあったの?」

 異変が起きたような気配はない。ここで何か不満があればすでに私か藍に言っているだろう。

 (となると・・・いきなり「お別れしましょう」とか!?いやよそんなの!!まだ想いが通じて半日も経ってないじゃない!!)

 「・・・・・・紫。」

 スッと霊夢が近づいてくる。真剣な表情のままで。

 「ちょ、ちょっと待って霊夢。何か悪いところがあったら謝るし、今後直す努力をするから!!だから・・・ふぇ!?」

 なぜか私はぎゅっと霊夢に抱きしめられた。告白されたときと同じように。いや、それよりも強く。どこか必死さを感じさせる強さで。
 寝巻きの薄いの布越しに霊夢の柔らかい身体が感じられさらに心臓が一音高鳴った。

 「い、いったいどうしたの霊夢!?も、もしかして初日から恋人同士の甘い夜を!!」
 「隣にいるから。」
 「そ、そんなまだ心の準備が・・・・・・って、へ?」
 「私があんたの隣にいるから。あんたの隣で愛し続けるから。だから、安心して満たされてなさい。」
 「・・・・・・。」

 ・・・・・・まったく、彼女は何を言っているのだろうか?きっと私が入浴している間に藍にいらないことでも吹き込まれたのだろう。
 安心する?満たされる?この私にそんな欠落があるとでも?そんなことあるわけないではないか。・・・・・・ああ、だというのに、まったく。

 「・・・・・・うん。」

 なぜ、こんなにも安らげるのだろうか?なぜ、こんなにも涙が溢れてくるのだろうか?なぜ、なぜこんなにも満たされるのだろうか?

 「ずっと私の隣にいてね。霊夢。」

 月明かりの照らす中、私と霊夢は互いを抱きしめあった。強く強く、けして離さないように。



 「ねぇ霊夢。あなた一体藍になんて言われたの?」

 少々欠けた、だが美しい月を二人隣り合って見上げている。私の頭は霊夢の肩に。霊夢の方が小柄だから役割が逆なのだろうけど今はこうしていたい気分だった。

 「別に大したことじゃないわよ。ただ紫は寂しがりやだから一緒にいてあげてって感じのことを言われただけ。まったく、自分の式にまで心配されてちゃ世話ないわね。」
 「ふふっ、なんて言ったって私の自慢の子ですから。」
 「子ども、ねぇ。それじゃあ藍は私の子どもでもあるということかしら?」
 「そうね・・・・・・って、ちょ、れ、霊夢あなた何を言って!?」
 「冗談よ冗談。そんなに取り乱さないでよ。流石の私もそこまで思考を飛躍させたりしないから。・・・・・・今はまだ。」
 「そ、そう。びっくりしたわ~。」

 冗談にしても心臓に悪い。いや本当だったらそれはそれで心臓が止まりそうだけど。そんな日々を夢想したこともあるくらいだし。

 (ん?”今は”ということは未来にはその可能性も!?)

 ならばそれが現実になるよう努力せねば。とりあえず手始めとしてこのまま霊夢を押し倒したり!!

 「なにあんた百面相してるのよ?間近でやられるとちょっと気色悪いんだけど。」
 「はっ!?だだだ大丈夫よ、なんでもないわ!!ちょこっと考え事していただけよ!」
 「ならいいけど。・・・・・・ねぇ紫?この恋はあなたにとって幾つ目の恋なの?」
 「さあ、いくつでしょう?」
 「真面目に答えなさい。」
 「はぁ~い。と言っても記憶にある限りないのよね。だからこれが初恋みたいよ。うふふ、純情な乙女でしょ?」
 「純情ってのは置いておくとして、なるほどねぇ。だからか。」
 「だから、って?」
 「こっちの話。まあ人に聞いといてなんだけど私も初めてなのよね、恋って。しかもあんたと違って知識もろくにないし。」

 そう言って彼女は私の頭を撫ではじめた。まったく、子ども扱いして。・・・・・・うれしいけど。

 「だから恋人って言ってもどんなものなのかよくわからないんだけど。でも私があんたを愛している限り、私はあんたを幸せにすると約束してあげるわ。紫。」
 「あらあら、それはつまりこの恋が冷めたら私は捨てられてしまうのかしら?しくしく。」
 
 ちょっと泣き真似をしてみる。本当に捨てられたら真似じゃすまなさそうだけど。

 「そうならないように私を恋させ続けてみなさいよ。この熱がずっと消えないように。まさか大妖怪のあんたがそんなこともできないなんて言わないわよね?」
 「当たり前でしょ。私を誰だと思っているの?あなたのことを決して放さないから。だからあなたは私の隣にずっといるのよ。」

 けして放さない。自由に飛ばせてなどやらない。だから、だからずっと私の側に、私の隣にいて。

 「いいわよ。そしたら私はずっとあなたの隣にいてあげるわ。」

 そして霊夢は柔らかく幸せそうな満面の笑みを浮かべてくれた。



 次の日魔理沙が私のもとにやってきた。
 彼女は会うなり「いいか、霊夢のこと幸せにしなかったら承知しないからな!!」と言ってきた。
 彼女も未だに本気で霊夢のことが好きだろうに、それでも私が霊夢の隣にいることを認めてくれた。
 だから私は強く頷き返した。彼女の想いの分まで霊夢を幸せにすると。



 「今日もいい天気ね~。」
 「あんたもせっかく起きているなら結界の様子でも見に行ったら?いっつも藍任せじゃなくて。」

 そして今日も私は博麗神社に来ている。

 「大丈夫よ、そう簡単に綻びなんかできないから。それに藍に手が終えないようなことなんてよほどじゃない限りないわ。」
 「だからそうじゃなくて・・・はぁ~、まあいいわ。私もお茶にするわ。」

 そう言って霊夢は掃除のフリをしていた手を止め私の隣に腰掛けた。そしてあらかじめ二人分用意していたお茶を手に取り一口。ほぅ、と一息ついた。

 「しかしあれよね。私たち何も変わってないわよね。」
 「と言いますと?」
 「恋人同士ってもっと何かあるものだと思っていたわ。具体的にはよくわかんないけどね。」
 
 恋人同士になった私たちだが、だからといって特別何かをしているわけでもない。
 いつものように神社に来て、いつものようにお茶をして、いつものように軽口なおしゃべりをして。そんな風にいつものようにただ一緒にいるだけ。でも。

 「私は霊夢とこうしていられるのが幸せよ。」
 「ん・・・まあそれは私もだけど。」
 「だったらきっとそんな時間が”恋人の時間”なのよ。二人が幸せだと思えればそれが正しいのではないかしら?」

 そう、こうして霊夢と一緒にいられて私は今最高に幸せだ。何も特別なことなどない。けれどこの幸せだと感じられる一瞬一瞬が”特別”なんだと私は思う。

 「ふ~ん、じゃあこれでいいのかもね。」
 「そうそう。しいて言うなら直接愛してると言えるのが変化かしら?」

 そう言って私は霊夢に抱きつく。彼女はちょっとびっくりしたようだが特に抵抗はしない。仕方ないわね、といった顔をして私を受け止めてくれる。

 「愛してるわ。霊夢。」

 耳元でささやく。

 「私もよ。紫。」

 そしてささやき返される。

 そんないとおしく大切な日々を私たちは過ごしていく。



 あなたがいるとこんなにも心が温かい。
 いつから好きになったのかなんてもう関係ないわね。あなたの隣に私がいて、私の隣にあなたがいる。それが全て。
 今でもあなたのことを思うだけで顔が熱くなって胸がドキドキしてしまう。でも、もうそれは苦しいことではないわ。
 それはもう思い悩む必要がないから。好きと言いたければ言えばいい。触れたければ触れればいい。これはもう片道の恋ではないのだから。
 あなたを愛して、あなたに愛されて心からよかったと思うわ。私は今、最高に幸せよ。
 だから、改めてもう一度だけ言わせて頂戴。

 ━━私、八雲紫はあなたを、博麗霊夢を世界中の誰よりも愛しています。




 <了>
 初めまして。この作品が私の初投稿&初SSとなります。ここの方々の作品を読んでいて思わず自分でも書きたくなってしまい、無謀ながら書いてしまいました。文章を書くというのは難しいですね。特に改行がこんな感じでいいのかイマイチ自信がありません。読みづらかったらすみません。

 最近はじめたうえにEasyすらクリアできないへたれプレイヤーなので原作への理解度がかなり足りないと思います。ですから脳内イメージ強めですが、私の中で紫はこんな感じです。最強と言われるだけの力を持ちながら、心にはとても脆いところがあるのではないかと思っています。

 ご意見・ご感想・ご指摘などをいただけるとうれしいです。ここまでお読みくださり本当にありがとうございました。

 追記:冒頭注意文に加筆しました。
どらごん
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コメント



0.470簡易評価
1.80名前が無い程度の能力削除
とりあえず最初に百合って書いちゃえば百合嫌いの人はバックできるのでいいと思います。

ゆかれいむいいものですね。
大変よいゆかれいむでした。
どらごんさんがいつか妖々夢Ph・永夜抄EX・地霊殿EXをクリアしたあと、もう一度ゆかれいむを書いていただきたいものです。
そのときどらごんさんの中で霊夢と紫はどういったイメージ・どういった関係になるんでしょう。
今回とはまた変わっているのか、それとも2人の関係に対しては同じイメージを持ち続けるのか。
EX・Phクリア頑張ってください
2.無評価1削除
すみません。
説明不足でした。
一行目の文は
最初に「この作品は百合作品でその手の作品に嫌悪がある方はブラウザバックしてください」と
注意文を入れたらいいと思うってことです。
3.70煉獄削除
あっはっは、私なんて花しかExクリアしてないですよ! ・・・うう。
紫とかの性格?や口調などは創想話などからピックアップして脳内保管してるぐらいですし・・・。
うう・・・私はシューティングは好きだけど下手だからなぁ・・・。

霊夢と紫様のカップリング。
見たのは久しぶりなように感じます。
やはりこの二人のカップルも良いですねぇ。
面白かったです。
7.100名前が無い程度の能力削除
ユカレイ万歳
8.100名前が無い程度の能力削除
ゆかれい万歳。
このゆかりんはかわいいゆかりん。
10.無評価どらごん削除
 コメントありがとうございます。想像以上の高評価をいただき驚きつつも大変うれしく思います。

>1さん

 ご指摘ありがとうございます。配慮が足りませんでしたね。最初にそのような一文加えておきました。
 EX・Phはいつの日か必ずクリアしてみたいと思います。終えたとき私の中で二人のイメージがどうなっているのかわかりませんが、そのときには感じたままの二人を書ければと思います。それまでは今ある私の中の彼女たちと付き合っていこうと思います。

>3.煉獄さん

 東方はプレイしていて楽しいんですけど徐々にあの弾幕が目に追えなくなってくるんですよね。そしてピチューンと。私の現在の最高は紅魔郷のノーマルをフルコンテニューでレミリアお嬢様までです。もっと精進しないと。

>7さん

 ユカレイ万歳!!

>8さん

 も一つゆかれい万歳!!ゆかりんは実はとっても可愛らしいのではないかと私は思ってます。
14.90名前が無い程度の能力削除
ゆかれいむ素敵です。
個人的には霊夢側の心情なども知りたいので、霊夢編みたいなのも読んでみたいですね。