時計を見て、ようやく徹夜したことに気付いた。
はっきりしない頭を抱え、コーヒーを淹れて、それから顔を洗おうとしたオレは、目の周りの隈に驚いた。
しかし、後はメモ帳に打った文章をコピーして、サイトに投稿し、出勤するだけだ。会社で寝ればいい。
自分で打った文字の多さに目が痛くなった。元々は1つのSSを書く予定であったものを、あまりにも長過ぎるというので、前後編に分けた内の後編であるのだから無理もない。
本当に長かった。
これでしばらく枕を高くして眠れる。
オレがコーヒーの匂いを吸い込みながらマウスをドラッグし、文章をコピーすべくクリックしようとした時のことである。
何者かがオレの手を掴んだ。
オレが目を見開き、後ろを振り返るとそこには八雲 藍が立っていた。
「あ、あ」
オレは八雲一家の大ファンである。
彼女が万力のような力で、マウスの上からオレの手を締め付けたこともあり一気に覚醒した。
「あの」
オレは上手い言葉を思いつかずにどもった。
これも、男だらけの職場にいるせいである。女と話すのが苦手だからである。
本物の八雲 藍は、オレが想像していたよりよほど美しかった。
金色の尻尾が時折オレの背中へ触れる。
彼女は、オレの手を掴んだままマウスを「×」の所へ持って行きこれでもかという程クリックした。
「あっ、何を乱暴な」
当然バックアップなど取っていないからして、一晩の努力が水の泡と消える。
八雲 藍は、「よし」と呟くとオレの部屋の窓を開け、ベランダから飛び降りた。
「危ない、3階だぞ」
混乱したオレは、彼女が飛び降りた辺りから下をのぞき込んだが、もはや彼女の姿は無かった。
結局、会社には一時間ほど遅刻した。
着替えている間も、歯を磨いている間も、電車に揺られている間も、上司に叱られている間もオレは一向に集中出来なかった。
オレはどうにもSSの書きすぎで気が狂ったのかもしれない。
オレの友人にも、何人か東方好きはいる。中にはルナシューター、同人誌を書いている奴、SS作家らもいるが、そいつらに「今日八雲 藍に会っちゃって」などと言おうものなら、たちまちオレは病院に入れられてしまう。
席に着くと、同僚がオレを「彼女にでもふられたか」と茶化した。
こいつは、オレが女性恐怖症であることを知っているのだ。
嫌な奴だ。オレはいつか、こいつが極度のロリコンであることをばらしてやろうと思う。
仕事に取りかかったが、今ひとつ集中出来ない。
そこで、オレはわざとらしく周りに聞こえるように「しまった」と声を上げた。
「どうした」
「いや、な。この間、例の書類の途中まで資料室でやってたんだが、あっちにデータ置きっぱなしにした」
「ふうん」
オレは上司に断りを入れて、資料室で仕事をすることにした。
部屋を出ようとすると、後ろから「彼女によろしく」と聞こえた。
仕事なんかするか、馬鹿。
オレは普段から残業の魔の餌食になっているのだ。実はもうUSBスティックの中に報告書を書き上げてある。オレにはSSを書く権利があるのだ。ざま見ろ。
今回のSSは、前編が何となく尻切れトンボになっているため、後編も書かなければ投稿出来ないのである。
オレは自動販売機でミルクティーを買ってから、はしゃいで資料室へ向かう。
資料室には、案の定誰も居なかった。ここは、かび臭く、本や書類をかじるネズミ、ゴキブリが住んでいるため女子社員はおろか男性社員すら近づきたがらない。
部屋に一台しかないPCが使い放題である。
オレは鼻歌交じりにPCを立ち上げると、ミルクティーのプルタブを起こし、さっそくSSに着手した。
通勤中から考えていたが、どうやら今回書いた後編の中には「八雲一家を不快な気持ちにさせる表現」があったらしい。オレ自身、確かにあったと思う。
再び、PCに向かい書き始める。
一度、書いた文章というのは頭の中に残っているから存外に書きやすい。
点線をなぞるよりも容易い。
しかも、頭の中で冷静に評価しながら書けるから、推敲が出来るわけで、一度目の文章を遙かに上回るものが出来る。
今回がまさにそうであった。
出来上がった文章は今までになく整ったもので、オレ自身が唸る傑作だった。
しかも、丁寧に、「八雲一家を不快な気持ちにさせる表現」を削除していったからして、これならばあの狐も納得だろう、と頷き保存しようとしていた時のことである。
資料棚の辺りから橙が飛び出し、回転しながら、一直線にオレのPC目掛けて体当たりした。
「ちぇええん」
オレは叫び声を上げ、PCをかばったが、それがいけなかった。
橙は、オレの肩にぶつかりながらも確実に、ディスプレイを巻き込み、デスクトップパソコンの本体を貫いた。
「うわああっ」
まず、外枠がへこんで吹っ飛び、コンセントが引きちぎれ、それに伴うようにして、ディスプレイがブラックアウトし吹っ飛ぶ。
凄まじい勢いで宙に投げ出されたPC本体は壁にぶつかり、床に叩きつけられ、「ぴー」と断末魔を上げながら、内臓を撒き散らし事切れた。
オレは椅子ごと倒され、したたかに頭を打った。どうやら右腕の骨が折れた。
「何だ何だ」
上司である係長と課長(先ほど、オレを注意した男)と部長と受付の女が扉を開け、狭苦しい資料室になだれ込んできた。
上司連はPCを見るなり、女のような悲鳴を上げる。受付嬢は野太い声を出した。
もうこの時にはとっくに、橙がどこぞへと消えている。
「中島君、何だね。このPCは、何が起きたんだ。説明したまえ」
オレは、肘のやや下から蛇口のようにねじ曲がった右腕を見せて、必死に訴えた。
「無事です、私は無事です」
「あっ、パソコン、パソコンが。貴様、何をした」
「分かりません、何もかも分かりません。当たり屋です。当たり屋の仕業です。何とかこれだけは守りきりました」
機嫌を直してもらうべく、痛さとつらさに涙を流しながら報告書の入ったUSBスティックを差し出すと、課長は顔を真っ赤にしてひったくった。
「病院に行って、悪い所を全部取り替えてこい。何なら死ね」
結局、治療費は出なかった。
PCはオレが弁償するらしい。13万だそうだ。明日には、オレはきっと女子社員の話題に上がっているだろう。
麻酔の切れてきた腕を首から包帯でぶら下げながら、慣れない左手でバッグを担いでようやくアパートまで帰ってきた。
オレが、一体何をしたと言うのか。
PCを起動しても、片腕では東方シリーズをプレイできそうにない。
痛みが酷くなってきたので、鎮痛剤代わりに発泡酒を飲んだ。
そこで、ようやくオレは思い当たった。
今日、オレを襲ったのは八雲 藍と橙である。
もしかすると、オレは八雲 紫ではなく、あの二人に恨みを買っていたのかも知れない。
オレは彼女らを「狐」、「猫」呼ばわりすることが多々あり、今回のSSには修正後も「魔理沙、私は3日、稲荷寿司を食べないと死ぬ女なのだ。それでもいいのか」というセリフがあった。あれのせいだろうか。
オレはもう一度、PCを起動し、それらの表現をカットしつつ書き直し始めた。
今度はいつ襲われるものかと、びくびくしていたが、何も起きなかった。
やはりこの辺りに原因があったのだ。
3時間ほどで、後編を書き終え、今まさに投稿しようとした瞬間である。
ベランダ側の窓がノックされた。ここは3階である。
時計の針は丁度2時を指していた。
オレは怪談が苦手である。
灰色のカーテンの向こう側に釘付けになった。
そうしている間にも、ノックは続き、その間隔は次第に短くなる。
意を決してカーテンを開けると、そこには八雲 紫が立っていた。
しばし、腕の痛みを忘れる。
オレはきっと酔っぱらったのだ。
八雲 紫は、閉じた日傘で鍵の所を突いた。
オレは誰に命令される訳でもなく、鍵を開けてしまった。
八雲 紫は「ありがとう」と言うと軽やかな足取りで部屋に入って来た。彼女は靴を初めから履いていなかったようだが、きっと飛んできたのだろう。
女など上げたことの無い部屋の濁った空気に彼女の臭気が混じり、何とも言えない匂いがする。
やはり、オレは酔ったのだ。
八雲 紫は手袋を外さぬまま、オレのPCに触れた。
「今日はうちの二人がお邪魔したわね」
二匹だと心の中で思ったものの、口には出さなかった。
オレは、幼い頃通っていた英会話教室の、イギリス人教師を思い出した。
今思えば、あの美しい金髪女性こそがオレの女性恐怖症の発端のような気もするが、オレが唯一会話した外国人である。
それを思い出して、改めて八雲 紫を見た。
金髪が微かな空気の動きにも反応してなびいており、その下に見えた赤い口紅と相余って。オレは衝撃を受けた。
今まで見た金髪などは、金髪では無かったのだ。
八雲 紫はオレの投稿フォームを見て、頷いた。
「あなたが書いたのね」
オレは、立ったまま頷いた。
「これは駄目よ」
八雲 紫はマウスを操って、ページを戻し、進め、オレが以前書いた作品のコメント欄を示した。
そこには、「感動しました、死ぬ程面白い。おかげで上司が死んだ」と書かれていた。
「これ、あなた自演したわね。うちの二人に聞かなかった?」
「き、聞いてない」
「そう、残念」
彼女は、その幼い顔立ちに似合わず眉間に皺を寄せると、オレのPCを掴んだ。
オレは土下座する。
「それだけは、やめて。ごめんなさい」
彼女はしばらく、日傘の先でオレの頭を突き回していたが、PCから手を離した。
「これからは気をつけなさい」
オレは「ははあ」とさらに姿勢を低くした。
「PCは置いておくけど、しばらく投稿禁止よ。あなた、連投気味だから」
八雲 紫は、オレのPCの真上に隙間を開き、飛び込んでいった。
隙間の中の目にウィンクされて、オレは腰を抜かした。
オレはすぐさまPCの電源を落とすと冷蔵庫にもう1本酒を取りに行ったが、先ほど10本ほどあった発泡酒は全てその姿を消していた。
オレは脱力して、電気を消し、横になった。
もしかすると、SS作家達は皆このことを知っているのだろうか。
友人のSS作家がこの間足を折ったのを思い出した。
してみれば、オレはいつでも八雲一家に会えるのだ。今度こそ、殺されるかもしれないが、時間を置いたら、もう一回くらいは会ってみたいものだ。
オレは酔いが覚めない内に、眠ることにした。
はっきりしない頭を抱え、コーヒーを淹れて、それから顔を洗おうとしたオレは、目の周りの隈に驚いた。
しかし、後はメモ帳に打った文章をコピーして、サイトに投稿し、出勤するだけだ。会社で寝ればいい。
自分で打った文字の多さに目が痛くなった。元々は1つのSSを書く予定であったものを、あまりにも長過ぎるというので、前後編に分けた内の後編であるのだから無理もない。
本当に長かった。
これでしばらく枕を高くして眠れる。
オレがコーヒーの匂いを吸い込みながらマウスをドラッグし、文章をコピーすべくクリックしようとした時のことである。
何者かがオレの手を掴んだ。
オレが目を見開き、後ろを振り返るとそこには八雲 藍が立っていた。
「あ、あ」
オレは八雲一家の大ファンである。
彼女が万力のような力で、マウスの上からオレの手を締め付けたこともあり一気に覚醒した。
「あの」
オレは上手い言葉を思いつかずにどもった。
これも、男だらけの職場にいるせいである。女と話すのが苦手だからである。
本物の八雲 藍は、オレが想像していたよりよほど美しかった。
金色の尻尾が時折オレの背中へ触れる。
彼女は、オレの手を掴んだままマウスを「×」の所へ持って行きこれでもかという程クリックした。
「あっ、何を乱暴な」
当然バックアップなど取っていないからして、一晩の努力が水の泡と消える。
八雲 藍は、「よし」と呟くとオレの部屋の窓を開け、ベランダから飛び降りた。
「危ない、3階だぞ」
混乱したオレは、彼女が飛び降りた辺りから下をのぞき込んだが、もはや彼女の姿は無かった。
結局、会社には一時間ほど遅刻した。
着替えている間も、歯を磨いている間も、電車に揺られている間も、上司に叱られている間もオレは一向に集中出来なかった。
オレはどうにもSSの書きすぎで気が狂ったのかもしれない。
オレの友人にも、何人か東方好きはいる。中にはルナシューター、同人誌を書いている奴、SS作家らもいるが、そいつらに「今日八雲 藍に会っちゃって」などと言おうものなら、たちまちオレは病院に入れられてしまう。
席に着くと、同僚がオレを「彼女にでもふられたか」と茶化した。
こいつは、オレが女性恐怖症であることを知っているのだ。
嫌な奴だ。オレはいつか、こいつが極度のロリコンであることをばらしてやろうと思う。
仕事に取りかかったが、今ひとつ集中出来ない。
そこで、オレはわざとらしく周りに聞こえるように「しまった」と声を上げた。
「どうした」
「いや、な。この間、例の書類の途中まで資料室でやってたんだが、あっちにデータ置きっぱなしにした」
「ふうん」
オレは上司に断りを入れて、資料室で仕事をすることにした。
部屋を出ようとすると、後ろから「彼女によろしく」と聞こえた。
仕事なんかするか、馬鹿。
オレは普段から残業の魔の餌食になっているのだ。実はもうUSBスティックの中に報告書を書き上げてある。オレにはSSを書く権利があるのだ。ざま見ろ。
今回のSSは、前編が何となく尻切れトンボになっているため、後編も書かなければ投稿出来ないのである。
オレは自動販売機でミルクティーを買ってから、はしゃいで資料室へ向かう。
資料室には、案の定誰も居なかった。ここは、かび臭く、本や書類をかじるネズミ、ゴキブリが住んでいるため女子社員はおろか男性社員すら近づきたがらない。
部屋に一台しかないPCが使い放題である。
オレは鼻歌交じりにPCを立ち上げると、ミルクティーのプルタブを起こし、さっそくSSに着手した。
通勤中から考えていたが、どうやら今回書いた後編の中には「八雲一家を不快な気持ちにさせる表現」があったらしい。オレ自身、確かにあったと思う。
再び、PCに向かい書き始める。
一度、書いた文章というのは頭の中に残っているから存外に書きやすい。
点線をなぞるよりも容易い。
しかも、頭の中で冷静に評価しながら書けるから、推敲が出来るわけで、一度目の文章を遙かに上回るものが出来る。
今回がまさにそうであった。
出来上がった文章は今までになく整ったもので、オレ自身が唸る傑作だった。
しかも、丁寧に、「八雲一家を不快な気持ちにさせる表現」を削除していったからして、これならばあの狐も納得だろう、と頷き保存しようとしていた時のことである。
資料棚の辺りから橙が飛び出し、回転しながら、一直線にオレのPC目掛けて体当たりした。
「ちぇええん」
オレは叫び声を上げ、PCをかばったが、それがいけなかった。
橙は、オレの肩にぶつかりながらも確実に、ディスプレイを巻き込み、デスクトップパソコンの本体を貫いた。
「うわああっ」
まず、外枠がへこんで吹っ飛び、コンセントが引きちぎれ、それに伴うようにして、ディスプレイがブラックアウトし吹っ飛ぶ。
凄まじい勢いで宙に投げ出されたPC本体は壁にぶつかり、床に叩きつけられ、「ぴー」と断末魔を上げながら、内臓を撒き散らし事切れた。
オレは椅子ごと倒され、したたかに頭を打った。どうやら右腕の骨が折れた。
「何だ何だ」
上司である係長と課長(先ほど、オレを注意した男)と部長と受付の女が扉を開け、狭苦しい資料室になだれ込んできた。
上司連はPCを見るなり、女のような悲鳴を上げる。受付嬢は野太い声を出した。
もうこの時にはとっくに、橙がどこぞへと消えている。
「中島君、何だね。このPCは、何が起きたんだ。説明したまえ」
オレは、肘のやや下から蛇口のようにねじ曲がった右腕を見せて、必死に訴えた。
「無事です、私は無事です」
「あっ、パソコン、パソコンが。貴様、何をした」
「分かりません、何もかも分かりません。当たり屋です。当たり屋の仕業です。何とかこれだけは守りきりました」
機嫌を直してもらうべく、痛さとつらさに涙を流しながら報告書の入ったUSBスティックを差し出すと、課長は顔を真っ赤にしてひったくった。
「病院に行って、悪い所を全部取り替えてこい。何なら死ね」
結局、治療費は出なかった。
PCはオレが弁償するらしい。13万だそうだ。明日には、オレはきっと女子社員の話題に上がっているだろう。
麻酔の切れてきた腕を首から包帯でぶら下げながら、慣れない左手でバッグを担いでようやくアパートまで帰ってきた。
オレが、一体何をしたと言うのか。
PCを起動しても、片腕では東方シリーズをプレイできそうにない。
痛みが酷くなってきたので、鎮痛剤代わりに発泡酒を飲んだ。
そこで、ようやくオレは思い当たった。
今日、オレを襲ったのは八雲 藍と橙である。
もしかすると、オレは八雲 紫ではなく、あの二人に恨みを買っていたのかも知れない。
オレは彼女らを「狐」、「猫」呼ばわりすることが多々あり、今回のSSには修正後も「魔理沙、私は3日、稲荷寿司を食べないと死ぬ女なのだ。それでもいいのか」というセリフがあった。あれのせいだろうか。
オレはもう一度、PCを起動し、それらの表現をカットしつつ書き直し始めた。
今度はいつ襲われるものかと、びくびくしていたが、何も起きなかった。
やはりこの辺りに原因があったのだ。
3時間ほどで、後編を書き終え、今まさに投稿しようとした瞬間である。
ベランダ側の窓がノックされた。ここは3階である。
時計の針は丁度2時を指していた。
オレは怪談が苦手である。
灰色のカーテンの向こう側に釘付けになった。
そうしている間にも、ノックは続き、その間隔は次第に短くなる。
意を決してカーテンを開けると、そこには八雲 紫が立っていた。
しばし、腕の痛みを忘れる。
オレはきっと酔っぱらったのだ。
八雲 紫は、閉じた日傘で鍵の所を突いた。
オレは誰に命令される訳でもなく、鍵を開けてしまった。
八雲 紫は「ありがとう」と言うと軽やかな足取りで部屋に入って来た。彼女は靴を初めから履いていなかったようだが、きっと飛んできたのだろう。
女など上げたことの無い部屋の濁った空気に彼女の臭気が混じり、何とも言えない匂いがする。
やはり、オレは酔ったのだ。
八雲 紫は手袋を外さぬまま、オレのPCに触れた。
「今日はうちの二人がお邪魔したわね」
二匹だと心の中で思ったものの、口には出さなかった。
オレは、幼い頃通っていた英会話教室の、イギリス人教師を思い出した。
今思えば、あの美しい金髪女性こそがオレの女性恐怖症の発端のような気もするが、オレが唯一会話した外国人である。
それを思い出して、改めて八雲 紫を見た。
金髪が微かな空気の動きにも反応してなびいており、その下に見えた赤い口紅と相余って。オレは衝撃を受けた。
今まで見た金髪などは、金髪では無かったのだ。
八雲 紫はオレの投稿フォームを見て、頷いた。
「あなたが書いたのね」
オレは、立ったまま頷いた。
「これは駄目よ」
八雲 紫はマウスを操って、ページを戻し、進め、オレが以前書いた作品のコメント欄を示した。
そこには、「感動しました、死ぬ程面白い。おかげで上司が死んだ」と書かれていた。
「これ、あなた自演したわね。うちの二人に聞かなかった?」
「き、聞いてない」
「そう、残念」
彼女は、その幼い顔立ちに似合わず眉間に皺を寄せると、オレのPCを掴んだ。
オレは土下座する。
「それだけは、やめて。ごめんなさい」
彼女はしばらく、日傘の先でオレの頭を突き回していたが、PCから手を離した。
「これからは気をつけなさい」
オレは「ははあ」とさらに姿勢を低くした。
「PCは置いておくけど、しばらく投稿禁止よ。あなた、連投気味だから」
八雲 紫は、オレのPCの真上に隙間を開き、飛び込んでいった。
隙間の中の目にウィンクされて、オレは腰を抜かした。
オレはすぐさまPCの電源を落とすと冷蔵庫にもう1本酒を取りに行ったが、先ほど10本ほどあった発泡酒は全てその姿を消していた。
オレは脱力して、電気を消し、横になった。
もしかすると、SS作家達は皆このことを知っているのだろうか。
友人のSS作家がこの間足を折ったのを思い出した。
してみれば、オレはいつでも八雲一家に会えるのだ。今度こそ、殺されるかもしれないが、時間を置いたら、もう一回くらいは会ってみたいものだ。
オレは酔いが覚めない内に、眠ることにした。
何が言いたかったのか?貴方は何を思いこの話を書いたのか?
この手のネタに紫がよく使われるせいか(出来るのが紫に限られるから、というのもありますが)飽食気味で私がつまらなく感じたのかな……
八雲一家=読者もしくは、コメント
怪我=炎上
という風に解釈できました。
雰囲気や物語の視点は好きなのでこの点数ですが、
もしこの解釈が当たっているのなら少し残念です。
そのうえこの不条理な展開に、八雲一家が実に自然に溶け込んでてワロタ。
ぜひとも作者氏には、両手両足がヘシ折られるまで投稿を続けてもらいたいところです。
私は上から注連縄の巻かれた岩が降って来ましたが
やはり、萃香を書くか!? それとも射命丸を!? やはり紫様か!?