Coolier - 新生・東方創想話

メイド喫茶・紅魔館

2008/09/28 18:29:53
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この作品は「苦労人同盟」の続編に当たります。
見ていない方の為に端折ってあらすじを説明しますと。
紅魔館の金策の為に咲夜が「メイド喫茶・紅魔館」を発案し、
妖夢、鈴仙、橙、早苗、小町が不本意ながら、主、もしくは主の主から勝手に許可を出されて手伝う事になった。
そんな感じです。
















「お帰りなさいませ、御主人さま~!」


人の里の外れにオープンしたメイド喫茶・紅魔館。
建築時こそ訝(いぶかし)しげな目で見られていたものの、完成してオープンしてみればとんでもない大盛況であった。
連日長蛇の列で、最後尾のプラカードまで出回る始末だ。
「早苗ちゃ~ん!こっち~!!」
「おい、早苗ちゃんはこっちが先に呼んだんだぞ!!」
「待てよ!こっちのが先だっての!!」
お気に入りのメイドの取り合いが始まる。
と言ってもまぁ、メイド、つまり店員が行うのはオーダーを取り、料理を運ぶだけだが。
「ちょっ、ちょっと待って下さ~い!!」
呼ばれて順次対応をしていく早苗。
何故、メイド喫茶・「紅魔館」に山の巫女、東風谷早苗が居るのかというと、それは以前にこのメイド喫茶の話が持ち上がった時の事だ。
早苗の主とも言える神様方がこのメイド喫茶の実質的な店長、十六夜咲夜に店に出る許可を出してしまったのだ。
早苗だけでは無い。
今日こそ出て無いものの、妖夢、鈴仙、橙、そして小町までもが時折この店で働いている。
しかも、それぞれが大人気と来るのだから、咲夜としても手放しがたい。
「美鈴さ~ん!こっちお願いしま~す!」
「いや、こっちが先だぞ!!」
「ふざけないでよ!こっちよ!!」
「はいはいは~い!今行きますからお待ち下さいね~!!」
紅魔館の門番、紅美鈴も今やこのメイド喫茶の看板とも言える働きをしていた。
もともと美鈴は美人と言っても全く問題無い。
その上、スタイルも良く、性格も明るい。
客層で言うなら、早苗や妖夢、鈴仙などは若い男性から。
小町や美鈴も男性からの人気はあるが、女性の人気も凄い。
メイド喫茶と言うと男の客ばかりかと思われがちだが、この女性受けする二人のお陰で女性客も多かったりする。
「霊夢~!こっち来て~!!」
「こっちが先よ!霊夢!!」
「霊夢、私が先よね!?」
「はいはいはいはい!順番に行くから待ってなさい!!」
霊夢もこのメイド喫茶で働いていた。
理由は勿論、金だ。
好い加減、賽銭の方も厳しくなってきた所だったので、渡りに船と咲夜の勧誘に飛び付いた。
神社の方はどうなっているのか?
元々参拝客など来ない上、掃除は萃香に任せていたりする。
当然、報酬は払う事になっているが。
そして、霊夢はどの客層に人気が有るかと言うと…………
それは妖怪だったりする。
元々そのさっぱりとした性格から人間妖怪問わず好かれる性質、いや妖怪に好かれやすい性質である。
故に、妖怪の客に呼ばれる事が多い。
咲夜が態々人里の外れなんかに店を構えた理由はこれである。
こういう騒がしい事になれば、自然妖怪は寄ってくる。
咲夜としても人妖を問わず客として招きたいと考えた。
が、人間は普通妖怪を恐れ、妖怪が店に訪れれば人が来ないかもしれない。
しかし、里の中なら幻想郷のルールとして人は妖怪に襲われる心配がない。
それでも、妖怪が人の里の中をうろつくのは色々と店の方に文句が来る可能性が有る。
故、人の里の端。
これなら、用が済んだ妖怪も直ぐに里の外に出れるので、里の中まで入ってくる心配はない。
因みに、店のルールには初期のルールにいくつか改訂及び追加がなされていた。
ざっとこんな感じである。

お触り、撮影、ナンパ行為の禁止。
2回までは警告、3回目は強制退出。
が、行為が悪質であった場合は一発退場もあり。
例:3回目で強制退出だからと2回までは触って良いなどと言う考えで行動した場合は一発退場。
警告の頻度が多い者はブラックリストに載り、その状態で警告行為を行った場合も一発退場。
なお、強制退場の際には肉体的及び精神的に傷を負う事が有る。
混雑時のコーヒー一杯などの注文は却下。
混雑時は一組1時間までとする。

これを丁寧な言葉に書いた物が店の前に掲げられている。
警告2回と言う事で2回までなら何しても良いと言う不埒な者が居たためだ。
初日はその件(くだり)が書いてなかった為、お咎めなしとするしかなかった。
最も、その調子に乗った者達はその日の夜に凄まじく痛い目を見る羽目になったのだが。
「きゃあっ!!」
店員の一人が悲鳴を上げた。
「おっと、ごめんごめん。財布を拾おうとしたら手が当たっちゃったよ」
その店員の近くに居た人間の若者がそう言う。
どうやら、店員はお尻を触られたようだ。
ああは言っているが、ほぼ間違いなくわざとだろう。
最も、そう言う行為は現行犯でなければただの警告になる。
青年も解っていてやっているのだ。
ただ、その青年は少しばかり運がなかった。



ヒュンッ!!



「へ?」
青年の顔面の前を何かが通り過ぎた。
何が通り過ぎたのかは青年には解らなかったが。
「見てましたよ?貴方が財布を取る振りをしてわざと触ったのを」
青年が声のした方を向くと、そこには笑顔の美鈴が立っていた。
「な、何を………」
青年は弁解しようとする。
「財布を取れば当然、財布を掴んでるわけですから、指の腹がお尻に触れる訳有りませんよね?」
美鈴の言うとおり、よほど意図的なつかみ方をしない限り、物をつかんだ場合、指は内側に折れ曲がってる筈だ。
「初犯でしょうから警告2にしておいてあげます。本当なら警告3で「当てて」ましたよ?」
美鈴はそう言って、警告を指し示す黄色い札、イエローカードを二枚置いて立ち去る。
何を?と青年は思ったが…………



ツツーッ……



「………へ?」
突如両方の鼻から血が流れ出た。
「え?な?」
何事かと思ったが
「運が良かったわね。下手すりゃ死んでたわよ?あんた」
トレイを肩に担ぎながら霊夢が現れてそう言った。
「え?」
「見えなかったでしょう?それはあいつがあんたの顔面すれすれに蹴りを放ったからそうなったのよ」
蹴りを放つ際の衝撃。
それだけで鼻血を出させた。
「気をつけなさいよ。ああ見えてもあいつ妖怪なんだから。あいつがその気で蹴ったら人間の首なんて簡単に飛んでくわよ?」
流れ出る鼻血を押さえながら青年は顔を青くさせていた。
が、反面、女性客の方は熱の篭った瞳で美鈴を見て居た。
余談だが、メイド喫茶・紅魔館のメイド服は個人個人によって違っている。
たとえば、美鈴はロングスカートにスリットが入っている。
今の様に不埒者に蹴りを喰らわせやすくする為だ。
ついでに美脚効果も狙っているのかもしれない。
早苗と霊夢は巫女服の様に肩口の部分が無く、腋が見えるようになっている。
小町と美鈴以外はスカートの丈もかなり短い。
更に、胸の大きい小町や美鈴は他と違って胸部のみで服のずれを抑える形になっている。
「ふむ………………」
一連の騒動を見て居た咲夜は何かを思いつく。
「おかえりなさいませ奥様~!って、なんだ。慧音か」
新たに入って来た客に霊夢は接客すると同時にそう言う。
因みに相手によって呼称が変わる。
男性は全部ご主人様。
女性は若いのはお嬢様。
見た目、年が有る程度言っている人には奥様と言う風にしている。
判断基準は各々の観点だ。
「ああ、私だ。が、客にその態度はないだろう?」
「別に知らない仲じゃないし、良いじゃない」
「良くない」


スパンッ!


「いたっ!!」
咲夜が後ろからトレイで殴った。
「知り合いでもちゃんとお客様として接しなさいと言ってるでしょう」
「解ったわよ………では、奥様方、禁煙席と喫煙席、どちらになさいますか?」
「喫煙席で。ところで、私も奥様なのか?」
慧音と一緒に来た妹紅が聞く。
「あら?お嬢様が良かった?」
「いや………他に言い方ないもんかと思ってね」
「だそうよ?咲夜」
「考えておくわ。それから、業務中はメイド長と呼びなさい」
咲夜はそうとだけ返した。
「はいはい。それでは席の方にご案内いたします~」
霊夢は適当に返事を返してからそう言って、慧音と妹紅を席へと案内した。
「……………」
慧音と妹紅の後ろ姿を見送りながら咲夜は何かを考えて居た。



その夜

「あ~!!終わった~!!!」
店から出て霊夢が叫ぶ。
「疲れましたね~」
早苗も出て来てそう言う。
「くったくたよ。ったく、こんな忙しいとは思わなかったわ」
「いや~、私もですよ」
続いて美鈴も出来てた。
「それにしても、あんた意外に出来るのね」
霊夢が美鈴に向かって言う。
「意外ですか?」
「ドジっ娘かと思ってたから」
「失礼な」
美鈴の返事に、三人とも笑い声を上げる。
「…あれ?咲夜さんは?」
ふと、早苗が尋ねる。
「なんでも行く所が有るから先に上がっててくれって」
「ふ~ん………ま、それなら上がりましょう。帰って寝たいわ」
「私もです。まぁ、私は明日休みですが」
「いいな~………私も霊夢さんも明日も仕事ですよ」
「明日は確か橙だっけ?」
「ええ、そうですよ。橙ちゃんも意外に働いてくれますよね」
早苗の言うとおり、最初は皆橙が不安だった。
どう見ても子供だし、危なっかしかったが、初めてみれば存外そうでもなかった。
注文は周りより時間がかかるが、しっかりと聞いて来る為に間違いがなく、妖獣故に力も有り、バランス感覚も人の比ではないので注文の出し下げをひょいひょいとこなせる。
何より必死に働くその姿は客のみならず店員達すら魅了する。
「それじゃ、美鈴はまた明日。早苗はまた今度ね~」
「はい、お疲れ様でした」
「お疲れ様です、また明日~」
3人はそれぞれの帰路に付いた。



所変わって慧音宅

「まったく、何しに来たかと思えば…………」
慧音の家だが、当然のように居座っている妹紅がそうこぼす。
「失礼ね。真面目に言ってるのよ?」
そう言うのは咲夜。
咲夜のいく所とはここだったようだ。
「だが、正直私も妹紅にああ言う店はどうかと思うぞ?」
慧音は咲夜にそう言う。
「私だって解ってるわよ」
「じゃあなんでさ?」
「人の話をちゃんと聞きなさい」
咲夜はそう言って紙を取り出した。
「私が言いたいのはコレよ」
「む………コレは…………」
それを見て反対的だった慧音が態度を変えた。
「いや、そりゃまぁ、これなら確かに………けどさぁ」
「どう?上白沢慧音。行けると思わない?」
咲夜はここで敢えて妹紅で無く、妹紅の親友の慧音に尋ねた。
将を射んとすればまず馬から、の心構えだ。
「私もこれなら賛成できるな」
「ちょっ!?慧音!?」
まさかの親友の裏切りに驚く妹紅。
「でしょう?それに、お互いの為になると思わない?」
「言えてるな」
頷く慧音。
「な、何二人で決めてるのさ!!私は嫌だからね!!」
妹紅は尚も反対する。
「なぁ、妹紅」
「なにさ。言っておくけど、里の人間と仲良くするためだとか言ったって無駄だからね!?」
妹紅は慧音の出鼻をくじかんとそう言った。
が、それはまるで的外れだった。
「お前、私に大分貸しが有るよな?」
「………………………え”?」
思わず声が濁る妹紅。
「飯を馳走する事数百回。泊める事数十回。お前は返す返すと言っていたが、どれだけ返してくれたかな?」
「え?いや、それは…………そ、それとこれとは関係……」
「ある」
キッパリと言い切られる妹紅。
「親しき仲にも礼儀あり。借りた物はしっかりと返さないとな?妹紅」
「え?ちょ………慧音?」
慧音は妹紅の肩をガシッ!と掴む。
「拒否権はないぞ?」
「ちょ……ま、待ってってば慧音…………」
「じゃあ、明日を楽しみにしてるわ」
「ちょっ!?待てメイド!!私は良いとは………」
「良いとは?」
慧音が目が笑ってない笑顔で聞き返す。
「け、慧音……目が怖いって」
「良いとは?なんだ?妹紅?」
「う………わ、解ったよ!やれば良いんだろう!?やれば!!」
「流石妹紅だ。解ってくれると思っていたよ」
肩から手を離して慧音は言う。
「脅した癖に良く言うよ………」
ボソッと呟く妹紅。
「何か言ったか?」
「い、いや!?何にも!?」
慌ててごまかす妹紅。
「それじゃ、明日そこに書いてある時間までに来て頂戴。遅刻は許さないわよ」
咲夜はそう言うと帰って行った。
「うぅぅ…………なんだってこんな事に………………」
「まぁ、永く生きるんだ。こんな事もあるさ」
「人事だと思ってぇぇ!!」
「ああ、人事だ」
「慧音の鬼ぃぃぃぃ!!!」
「いいえ、ハクタクです」
慧音はサラッと妹紅を流すと、そのまま寝る支度をした。
妹紅も諦めて寝る事にした。



翌日

「おはよ~って妹紅?」
出勤してきた霊夢が意外な人物を見つけて驚く。
「ああ、おはようさん。色々と訳ありでな。私も働く事になった」
「うそ。あんたじゃ似合わなくない?」
「お前失礼な奴だな。まぁ、否定はせんが」
妹紅も自分で霊夢達のような服が似合っているとは思っていないようだ。
「おはようございま~すって、あれ?妹紅さん?」
「よう中国」
次いで出勤してきた美鈴に妹紅が挨拶をする。
「美鈴です。紅美鈴」
「まぁ、良いじゃないか」
「全然良くありません」
因みに、このメイド喫茶だが、人間も結構な数が働いていたりする。
理由は服だ。
可愛い服を着てみたいと言う女性が多く、募集してみたところ、かなりの数が来た。
咲夜としても、人間のアルバイトが増える=余ったメイドを紅魔館に回せる、なので、助かる所だった。
まぁ、メイド妖精が紅魔館に戻った所で咲夜の仕事が楽になるのかは甚だ疑問であるが。
喫茶店の仕事振りもドジの多い妖精メイドよりも人間の方がはるかに良い。
「おはようございま~っす!!」
一際元気な挨拶で入ってくる者。
店員なら既に誰でもわかる。
橙である。
「おはよう、橙」
「おはよう、橙ちゃん」
その見た目と性格から店内でも可愛がられて居る橙だった。
「さて、着替えないと」
思い出したように美鈴が言う。
「ああ、そうだ。中……じゃなかった、美鈴」
「はい?」
妹紅に呼びかけられて服を脱ぎかける所で止まる美鈴。
「咲夜が呼んでたから私と一緒にいくぞ」
「今からですか?」
「ああ」
「ん~……解りました」
開店準備などもある今の状況で何の用だろうか?
美鈴は疑問には思いはしたものの、咲夜の呼び出しとあらば出向かねばならない。
ひとまず、妹紅と共に咲夜の元へ向かう事にした。



開店間際

「結局美鈴さん戻ってきませんでしたね~」
橙が霊夢に言う。
「そうね。何やってるのかしら?」
開店準備を終え、今からなだれ込んでくるであろう客を見ながら霊夢はそう返す。
「っと、開店時間だわ」
そう言って「本日閉店」の札をひっくり返し、「開店中」にする。
同時になだれ込む客。
「お帰りなさいませご主人様~」
「おかえりにゃさいませご主人様~!」
橙は慣れないせいか、出迎えの挨拶を噛むが、それが逆に人気の秘訣だったりする。


開店から数十分ほどして

「ちょっと!咲夜!フロアの人数少ないわよ!?」
霊夢が奥に居るであろう咲夜に向かって叫ぶ。
同時に、奥への扉が開いて咲夜が出てくる。
それだけで男性客の声が上がる。
咲夜も当然接客に出る事もある訳で、その人気はやはり高い。
「お待たせいたしました。今日から少し趣向を追加いたしますわ」
そして、霊夢にではなく、店内に向けてそう言った。
「さ、出て来なさい」
咲夜は振り向いて、自分の後ろに居るであろう人物に言う。
「やれやれ…………しょうがない、割り切ってやるとするよ」
「まぁ、こう言う格好も嫌いじゃありませんけど…………」
出て来たのは妹紅と美鈴。
二人が姿を見せたとたん




『キャアアアアァァァァァァァァァァッ!!!!!』




「うるさっ!!」
物凄い黄色い声援が上がり、思わず霊夢は耳を抑える。
橙はビクッ!となって尻尾をピーンッ!と立てている。
何ゆえの黄色い声援か?
その理由は二人の服装。
二人は従来のメイド服で無く、なんと執事服を着ていた。
そう、男装だ。
美鈴は普段下ろしてるだけの髪を後ろで縛っており、妹紅は普段付けて居るリボンをすべて外してポニーテールにしている。
見れば見るほど見事に男装がハマっている二人だった。
「美鈴様~!!こっちに来て下さい~!!」
「こっちが先よ!!」
「何言ってるのよ!!こっちよ!!」
「妹紅様~!!こっちにいらして~!!」
「いいえ、私達の所ですわ!!」
「こっちが先に決まってるでしょ!?」
早くも女性客の間で妹紅と美鈴の取り合いが始まった。
「はいはい、今行くよ。お嬢様方」
妹紅は普通に言っただけだが、今の格好でのその言い方がこれまたハマっている。
再び上がる黄色い声援。
「なんか、ちょっと複雑ですね」
困った笑顔を浮かべながら美鈴は言い、そしてフロアに入って行った。
「さて、私も行こうかしら」
そして咲夜もフロアへと向かう。
同時に、いつのまに作成したのか、美鈴と妹紅の執事服姿の等身大看板が表に出され、それを見た女性客が凄まじい長蛇を成した。
因みに看板作製は天狗と河童の協力を得ていたりする。
「でもさ、咲夜?」
「何かしら?霊夢。それから何度も言うけどメイド長と呼びなさい」
「はいはい。で、ここって「メイド」喫茶じゃないの?」
霊夢が素朴な突っ込みを入れる。
「そうね…………今度から「従者喫茶」に改名しようかしら?」
「あ、その程度で済んじゃうんだ」
メイドに深いこだわりはないらしい。
「ほら、そんな事より次のお客が来たわよ」
一組客が帰り、変わりに次の客が店内に入ってくる。
「はいは~い」
そして霊夢はその客を迎え入れ、笑顔で




「お帰り下さいませ、奥様♪」




そう言った。
「ちょっとメイド長。どういう教育してるのかしら?」
入って来た客、八雲紫は咲夜に尋ねる。
「霊夢」
咲夜が責めるように名を呼ぶ。
「だってこいつ、前に来た時嫌がらせのオンパレードしてくれたのよ?」
霊夢が口を尖らせて言う。
確かに、紫は以前来た時は霊夢に規約に反しないレベルで嫌がらせを、と言うか、霊夢で遊んだ。
「規約には反して無い以上お客様よ。しっかり出迎えなさい」
咲夜はピシャリと返す。
「解ったわよ…………お帰りなさいませ、奥様」
霊夢は言い直した。
「あら?笑顔が無いわよ?それに私はお嬢様で良いわ」
「うっさい、黙れヴァヴァア」
「ちょっと、メイドty」
「お帰りなさいませ、お嬢様♪」
再び咲夜を呼ぼうとしたので、慌てて霊夢は笑顔で訂正した。
「よろしい」
「ぐ……………」
霊夢はぐっと耐える。
「紫様、そろそろ入らないと他のお客に迷惑です」
後ろに居た藍が紫に言う。
「ま、これくらいにしておこうかしら。今日は霊夢で遊びに来た訳じゃないし」
(やっぱりお帰り下さいませで良いと思うわ、こいつ…………)
霊夢は心で強くそう思った。
しかし、これ以上咲夜のお小言を喰らいたくないので何とか言葉を飲み込んだ。
「只今喫煙席しか空いてませんが、宜しいでしょうか?」
「いやよ」
ビキッ!
霊夢の額に青筋が一本浮かぶ。
「でしたら、禁煙席が空くまでお待ちいただく事になりますが…………?」
「他の喫煙席で構わない客を移動させて私達の席を用意なさい」
紫は取り合わない。
ビキビキッ!!
霊夢の額に青筋が二本浮かんだ。
「そう言う訳にも参りませんので…………」
「あら?流石に店員全員完全で瀟洒とはいかないのかしら?使えないメイドも居るのね♪」
ビキビキビキッ!!!
楽しそうに口元に扇子を当てて言う紫に、そろそろ霊夢がキレそうになる。
と言うか、キレる5秒前だ。
既に袖口に仕舞い込んでいる札に手を掛けて居る。
「紫様。お戯れはその辺で」
「あら、そうだったわね」
が、藍のお陰で紫が止まったので、霊夢も渋々札から指を離す。
「霊夢があんまりにも可愛いものだからついついイジメちゃったわ♪」
「それ、褒めてるつもり?」
霊夢が血管を浮かび上がらせた笑顔で尋ねる。
態度が悪い接客をすると、後で咲夜のお小言をくらってしまうからだ。
「勿論♪」
「済まないな、霊夢。喫煙席で構わないから、案内してくれ」
「畏まりました、お嬢様」
霊夢は一礼すると、紫と藍を席へ案内した。
「メニューが決まりましたら及び下さい。くれぐれもメニューにある注文をお願いいたします」
霊夢は満面の作り笑顔でそう言うと、自分を呼んでいる次の客の所に向かった。
因みに、最後に霊夢があんな事を言った理由は前回にある。
前回、紫は霊夢に
「霊夢1人前、ツユダクでお願いね」
などとのたまったからだ。
その後、「私はメニューじゃない!」とか「ツユダクってなんだ!!」と言って霊夢が暴れ出し
紫は「メニューに書いてある物を選べとは言われてないわ」とか「口の悪いメイドね?」などと言って更に霊夢に火をつけた。
そして、暴れた霊夢は後でこっぴどく咲夜に叱られたのだった。
「まったく……程々にして下さいよ、紫様」
藍は紫に言う。
「あら?したじゃないの」
「霊夢、札に手を掛けてましたよ?」
「馬鹿ね、藍。こういうお店じゃお客様は神様よ?余程の事をしない限り、こちらは好き放題できるのよ。それで向こうが何かしたらこっちが訴えれるのよ」
「こちらの肩身が狭くなるので止めて頂きたいのですが?」
「そんな事は知らないわ」
「は~………………」
藍は深くため息を吐いた。
「そんな事より、あの子の様子を見に来たんでしょう?」
紫はそう言う。
あの子とは言わずもがな。
橙の事だ。
「まったく、本当に親馬鹿だこと…………楽しそうに帰って来たあの子の顔見れば心配ないでしょうに」
今度は紫が溜息を吐く。
「それはそうかも知れませんが………って、そもそも紫様が勝手に橙を貸し出すからじゃないですか!!橙は私の式ですよ!?」
「私の物は私の物。貴女の物も私の物」
「ジャイアニズムですか!?と言うか、否定出来ないんですが!?」
式である以上、紫の言う通りかもしれない。
「後ろ、うっせぇぞ!!」
紫と藍が言い合いをしていると、紫の背後の席の男が振り向いてそう怒鳴った。
「あら、ごめんなさい♪」
「うるさい。貴様が黙れ」
藍はちょっと機嫌が悪かったようだ。
片や素敵な笑顔。
片や最強の妖獣のガン飛ばし。
「す、すみませんでした!!」
男が謝るのは必然だった。
因みに男は藍より紫の笑顔が怖かったと後に語る。
「あ!藍様に紫様!」
橙が通路を通る際に藍と紫に気づく。
「頑張ってるようね、橙」
紫が橙に言う。
「はい!」
「橙、注文は頼めるかな?」
藍が尋ねた。
「あ、え~っと………」
「橙ちゃ~ん!次こっちだよ~!!」
「その次こっちね~!!」
「あ、は、はい!!えっと………手が空いたら来ます!!」
そう言って橙は客の方へと向かって行った。
因みに、藍が店内に現れた瞬間、密かに店内には戒厳令NTが敷かれて居た。
戒厳令NT
それは、特定の来客に対する他の客への戒厳令である。
NTとはNoTouch
つまり、間違ってもお触り行為はするなと言う命令だ。
特定の来客とは、藍と幽々子、神奈子に諏訪子だ。
そしてNTの対象になるのは、藍なら橙、幽々子なら妖夢、神奈子と諏訪子なら早苗といった具合だ。
もし、その戒厳令を破った場合は最悪命の保証すらしかねる。
何せ、客同士のいざこざになるので、店側が容易に止められないと言うか、実力的に止めるのは厳しい。
何より、暴れられて店に被害が出るのは堪ったものではない。
故に、そう言う戒厳令が敷かれて居るのだった。
「楽しそうにしてるじゃない」
橙を見ながら紫は藍に言う。
「…………そうですね」
藍もそう言う。
「ああ、そこのメイド。コーヒー一つ頂戴。他は後で注文するわ。コーヒーの一つくらいなら問題無いでしょう?」
メイドの方を見向きもせずに紫は言う。
「混雑していますので少々お時間が掛かりますわ」
メイドの方はそう言って礼をしてから通り過ぎた。
「相変わらず瀟洒な事だ」
藍はそのメイド、咲夜を見送りながら言う。
「本当、霊夢もあれくらいにならないとね~」
「無理じゃないですか?」
「かもね~」
そんなこんなと会話しながら、紫と藍は過ごしていた。



その夜

「終わった~!!」
店を出て、再び霊夢の咆哮。
「あ~………疲れたわ」
次いで妹紅が現れる。
「本当に………まさか、あんな事になるとは」
困ったような笑顔で美鈴も出てくる。
「二人とも凄い人気だったね~」
美鈴と一緒に出てきた橙が言う。
「お陰で今日は女性客も多かったわね」
霊夢が今までの客層を思い浮かべながら言う。
「そうなのか?私は初めてだから解らないけど」
「そうですね。前は男女比が8:2くらいでしたからね。制服を見たいと言う女性が来てた程度ですかね」
「今日は半分くらい女の人だったもんね~」
3人も今日の事を振り返りながら言った。
「さってと、明日は休みだからのんびりするとしましょ」
「私は後二日は連勤だよ」
「私は明日行ったら休みですね」
「私は今日から4連勤だな~」
各々が明日からの予定を思い浮かべる。
「じゃ、がんばってね~」
そう言って霊夢は帰って行った。
「がんばりますか」
「だねぇ」
「うん!」
美鈴に言われて二人も頷き、そして帰って行った。



翌日

「おかえりなさいませ、御主人さま!」
妖夢が元気良く客を迎え入れる。
恥ずかしくはあるが、仕事は仕事としてしっかりやっているようだ。
が、まだ照れが有るのは否めないが。
「妖夢ちゃんこっち~!!」
「その次こっちね~!!」
「は、はい~!!」
咲夜の思惑通り、他勢力から借りて居る人員はすべからく大人気だった。
今日こそいないが鈴仙も小町も凄い人気だ。
今日も美鈴と妹紅が出て居る為、店内の男女比は半々と言った所だ。
時間は昼を過ぎ、少し、ほんの少しだけ空いて来たかと思った頃合い。
そんな時に「奴」は来た。
「おかえりなさいませ、お嬢様!」
店員の一人がその客を迎え入れる。
「只今禁煙席しかありませんが、宜しいでしょうか?」
「構わないわ」
「では、こちらへどうぞ」
店員に案内されてその客は席に着く。
「メニューが決まりましたら…」
「もう決まってるわ」
「え?」
席に着いたばかりでそう言われると思ってなかったので、その店員は思わず固まる。
「注文、良いかしら?」
「え?あ、はい」
その店員は他の客からも指名の声が上がっていたが、眼の前の客に何故か逆らえずにいた。
そして






「メニューの端から端まで3セットお願い」






その客、西行寺幽々子はそう言った。
「はい?」
店員は思わず聞き返した。
(今この人なんて………?端から端まで……3セット?)
「聞こえなかったのかしら?端から端まで3セットよ」
「え、えっと………どのページのでしょう?」
店員は聞き返した。
「何言ってるの。ここに載ってる全てのメニューを3セットって言ってるのよ」
幽々子はメニューをペシペシと叩きながらそう言い放つ。
あまりの事に呆気にとられる店員。
「お嬢様。食材が不足して他のご主人様方のご迷惑になりますので、1セットを制限とさせて頂きますわ」
そこへ咲夜がヘルプに現れた。
「あら?そうなの?じゃあ仕方ないわね。1セットお願い」
「畏まりました。ほら、貴女は別のご主人様の所へ向かいなさい」
「あ、は、はい」
咲夜に言われて店員は他の客の所へ向かった。
「幽々子か…………」
妹紅がその様子を見ながら呟いた。
「うちのブラックリストと言うかお得意さんと言うか………」
隣で美鈴が呟く。
食ってくれるので儲けは出る。
が、食いまくるので食材が切れる。
なんとも良いのか悪いのか解らない相手だった。
「ついでに、戒厳令のお客でもありますしね」
「あ~………妖夢か」
妹紅も戒厳令の話は聞いている。
妖夢が働いている時の幽々子の来客は戒厳令発動だ。
因みに、他の客への戒厳令は、その客が来た瞬間に紙で渡される。

中にはそれをちゃんと読まない愚か者も居る訳で。


「ひゃあっ!!」


妖夢から悲鳴が上がった。
「おっと、ごめんごめん。ちょっと手が滑っちゃったよ」
中年くらいの親父がそう言った。
瞬間、店の中が静まりかえる。
戒厳令NTを破ったのだから当然だ。
下手すれば周りにも被害が来る。


シュンッ!!


「っ!?」
妖夢は腰に差していた白楼剣を抜き放って客の眼前に切っ先を向ける。
思わず客は息を呑む。
「どう手を滑らせれば私のお尻に触れられるんですか?あまりふざけていると斬りますよ?」
妖夢が脅しを込めて言う。
「ひぃっ!!す、すみません!!!」
男は顔を真っ青にして謝った。
妖夢は刀を納めると、警告のイエローカードを1枚置いてその場を去った。
(それにしても、あんなに怖がるほど怖かったかな?)
妖夢はそんな事を考えていた。
そして、その考えは正解である。
確かに、妖夢は迫力があった。
人間をはるかに上回る技量をもった剣士に刀を向けられて脅されれば、人間なら誰だって怯える。
が、真の理由はその背後。



ゴーストバタフライを展開させて目が笑ってない笑顔の幽々子が立っていたからだった。



しかも、幽々子は妖夢が刀を納めると同時に天狗もびっくりの速さで席に戻り、何食わぬ顔をしていた。
その場に居たすべての者が
(はやっ!!)
と感心したそうな。



「お帰りなさいませ、お嬢様~」
閉店近くなったころ、再び問題視されそうな者が訪れた。
「現在禁煙席しかありませんが、よろしいでしょうか?」
「ええ、構わないわ」
その客は素直に店員に付いていき、席に着く。
そして、メニューを暫く眺めてから
「橙ちゃん、いらっしゃい」
橙を指名した。
「ん?……………げ!?風見幽香じゃないか!!」
妹紅が橙の指名相手を見て驚く。
「ああ、本当だ」
「いや、本当だって………大丈夫なのか?」
あっけらかんとしている美鈴に妹紅は尋ねる。
「ああ、橙ちゃんなら問題ありませんよ。妖夢さんあたりだと弄られますけど」
そう言って美鈴は自分を指名した客の所へ向かう。
(本当かねぇ…………)
何かと問題を起こしがちな幽香を見ながらも、自分も指名されているのでそちらに向かう妹紅。
「お待たせしました~」
橙が幽香の元に着く。
「良いかしら?」
「ど、どうぞ!」
ちょっと緊張しながら橙は返事をする。


「チキンドリアにトマトのリゾット、カルボナーラにサラダ、それから鮎定食にイチゴパフェ、それからコーヒー一つ。以上よ」


スラスラスラ~と一気に読み上げる幽香。
「え、え~っと…………」
必死に描き上げる橙。
「ご、ご注文を繰り返します。チキンドリアにトマトと鶏肉のリゾット………カルボナーラと鮎定食、イチゴパフェとコーヒー。以上で宜しいでしょうか?」
「残念。サラダが抜けたわね」
「ひゃう!?」
慌てて書き足す橙。
「も、もう一度………チキンドリアにトマトと鶏肉のリゾット、カルボナーラとサラダに鮎定食、イチゴパフェとコーヒー。以上で宜しいでしょうか?」
「はい、良く出来ました」
そう言って幽香は微笑みながら橙の頭を撫でる。
「えへへへ…………」
橙も嬉しそうにしている。
「じゃあ、お願いね」
「はい!」
橙は元気良く返事をして厨房へと向かう。
「…………なぁ、中国」
「紅美鈴」
妹紅の呼びかけにピシャッと訂正を促す美鈴。
「ああ、悪い、美鈴。あれ、風見幽香だよな?」
「そうですよ」
「あいつ、なんか悪い物でも食ったのか?」
「どうしてですか?」
美鈴が不思議そうな顔で聞き返す。
「だって、あの風見幽香だろ?スーパードSの風見幽香だろう?いじめっ子マスターの風見幽香だろう?」
「酷い言い様ですが、まぁ、そうですね」
「なんであんな微笑みなんて見せるんだ?」
「ああ、あの人子供好きみたいですよ?」
「何!?」
意外な情報に妹紅が驚く。
「理由は知りませんけどね」
以前、橙に帰り道を変える際に、水を思いっきり掛けてしまった事があったが、あの時は実は本当は気付いていなかった。
その後、藍に言われて知ったが、その場で「藍に」謝るのは幽香は嫌だった。
だから、敢えて嘘を吐いて誤魔化した。
そして、実は、後日橙にしっかりと謝りに行っていた。
無論、その事自体は藍には言わないように釘を刺して。
花畑を荒らす者に容赦はしないが、その相手が子供だと優しく諭したりもする。
因みに、てゐは範囲外だ。
曰く、長生きしている上に腹黒いから好きではない、だそうだ。
「はぁ~…………まぁ、珍しい物見れたから良しとするか」
別段実害もなさそうなので、妹紅は幽香の事は気にせずに仕事をする事にした。



翌日

「お帰りなさいませ、ご主人様!」
今日もメイド喫茶改め従者喫茶・紅魔館は大盛況だ。
今日の主だった面子は、妖夢、橙、鈴仙、小町、妹紅だ。
「なぁ、十六夜咲夜」
注文を厨房に知らせる為に戻って来た小町は、帰りに咲夜に呼びかける。
「メイド長」
咲夜は訂正を促す。
「はいはい。メイド長」
「何かしら?」
「あたいは蓬莱人みたいな服装じゃダメなのかい?」
小町は咲夜にそう尋ねた。
恐らく、今のメイド服よりは男装の方が良いのだろう。
「ダメね」
が、咲夜はあっさりと斬って捨てた。
「なんでさ?」
「ニーズの問題よ」
「何の?」
「主に男性の欲望の、かしら?」
「やれやれだねぇ…………そいつら全員、死んだら三途の川で船から落としてやろうかね」
「あら?公私混同は良くないわよ?死神」
「四季様みたいな事を………ま、言っても変えてくれないならこのままやるしかないかねぇ」
「そう言う事よ。人気はあるんだから、頑張って頂戴」
「程々に、ね」
「サボったらコール閻魔様よ」
「勘弁しとくれよ」
困ったような笑い顔を浮かべながら小町はフロアーに戻る。
事の外、小町はまじめに働いていた。
元々忙しすぎてサボッてる暇はない。
その上、サボれば咲夜なら本当に映姫を呼びかねない。
何より、死神の仕事と違って、自分がサボれば他の物におおいにシワ寄せが行く。
流石にそれは気が咎めたようで、小町はまともに働いていた。


「しかし、私達は偶のヘルプではなかったんですかね………?」
休憩時間になって妖夢が小町に言う。
「何時の間にやら主戦力にされちまったね~」
「まぁ、私は屋敷の幽霊が色々やってくれるから良いですけど、小町さんの方はお仕事大丈夫なんですか?」
何せ魂を運ぶ死神だ。
おいそれと代役が出来るとは思えない。
「あ~…………あたいは休日こっちに出されてるんだよ」
「休みなし、ですか」
「今まで散々サボってた分を考えればこれでも優しい方ですよ?と四季様に言われたよ」
「自業自得、でしたか」
「手厳しいね~」
小町は笑いながらそう言う。

ガチャッ

扉を開けて鈴仙が入って来た。
「妖夢~休憩交代よ~」
「解りました。では、行ってきます」
「はいはい、行っといで~」
休憩を終える妖夢を手をヒラヒラさせながら見送る小町。
「あら、貴女も休憩?サボりじゃないわよね?」
「流石に自分のサボりが直に他人の仕事量に影響する状況じゃサボれないよ」
「サボ「ら」ない、じゃなくてサボ「れ」ない、なのね」
「余裕があったらそりゃサボりたいさ」
「貴女って根本的にどうにかしないとダメそうね」
「何事も程々が一番なのさ」
「否定はしないけど、仕事は真面目にするものよ」
「程々さね」
「やれやれ………ああ、そうだ。はい、差し入れ」
鈴仙は厨房から取って来たジュースを小町に渡した。
「お、悪いね。本当は酒が良いんだけど」
「仕事中に何言ってるのよ。そもそも、ここお酒無いでしょう」
酒を出すと色々騒ぎを起こされるのが目に見えているので、この店でお酒は扱っていない。
「は~………しかし、本当に大変だねぇ」
「本当、妹紅と美鈴が男装してから女性客まで増えて、てんてこ舞いよ」
「まったくだ」
「貴女はああ言う格好しないの?」
「ああ、あたいもそれ言ったんだけどね、ニーズがどうとか言われて却下されちまったよ」
「あ~」
鈴仙は小町の格好を見ながら納得した。
小町は文句無しにスタイルが良い。
そのスタイルでややきつめな感のある服に、極端にではないまでも短いスカート。
見た目だけなら文句無しだ。
美鈴も似たような物だが、スタイルが良い女性と言うのは幻想郷ではレアだ。
美鈴の場合は新たな客の呼び込みとしてしかたなくとして、これ以上そのレアな者を削りたくないのだろう。
事実、人気もある事だし。
「っと、そろそろ休憩終わりか。行って来るよ」
「いってらっしゃい」
そう言って鈴仙は小町を見送った。
「普段の仕事もあれくらいなら閻魔様の小言も苦労もないでしょうに」
そして、一人そんな事を呟いていた。



その夜

仕事が終わって咲夜が一人残った仕事をしていると。
「邪魔するわよ~」
「あら、お嬢様」
主のレミリアがやって来た。
「邪魔するわよ~♪」
一緒に妹のフランドールも来ていた。
「繁盛しているようね」
そして、パチュリーと司書の小悪魔まで来ていた。
「あら?勢ぞろいでどうかなされましたか?」
因みに美鈴は今日は門番中だ。
「いえ、ちょっと様子を見に来ただけよ」
レミリアはそう言う。
「もう店は閉まっておりますが…………」
「ま、間違えた。様子を聞きに来ただけよ」
慌てた様子でそう訂正した。
「レミィが咲夜が居なくて寂しいって言うから来たのよ」
「ちょっ!?パチェ!!何勝手な事言ってるのよ!!」
レミリアが真っ赤になって反論する。
「レミィったら四六時中「咲夜はまだ帰らないの?」って五月蠅いのよ?まだこっちは落ち着かないのかしら?」
「パチェ!!」
パチュリーの言葉にレミリアは真っ赤になりながら叫ぶ。
「申し訳ございません。今暫くは………しかし、これも紅魔館、ひいてはお嬢様の為。今暫くお許しください」
紅魔館の財政は結構逼迫(ひっぱく)していたようだ。
「ま、まぁ、そう言う事なら仕方がないけど…………」
レミリアが渋々了解する。
「ねぇ、咲夜!私もここで働いてみたい!!」
突如、フランがそう言った。
「ダ、ダメよフラン!!」
即レミリアが止めた。
「え~?どうして?」
「フランが働くのは………そ、そう!危ないのよ!色々と!!」
確かに危ない。
修羅場染みてる現場で注文をしっかり聞けるのか?
料理をこぼさず運べるのか?
妙な趣味の客は来ないか?
馬鹿な真似をした客にレミリアがキレないか、等々、数え上げればかなりある。
「え~?」
フランは不満そうな顔になる。
「妹様がもう少し大人になられましたら、その時はお願いいたしますわ」
咲夜はそう言った。
「ん~………解った」
フランも渋々了解した。
「そう言う事でしたらパチュリー様はオッケーですね!」
突如、小悪魔がそんな事を言った。
「何馬鹿な事言ってるの。大体、制服が無いし、今から私用に作るにも費用が勿体ないじゃないの」
パチュリーは色々と理由を付けて断った。
「え~?じゃあ、制服有ればやってくれてたんですか~?」
小悪魔が不満そうに言う。
「あれば、ね」
無い事を解っててパチュリーはそんな事を言う。
無論、あってもやる気などないのだが。
「咲夜さん」
「何かしら?小悪魔。パチュリー様が仰ったように、今からパチュリー様のを追加で作る訳にはいかないわよ?」
作るとしたら当然一着だけでは無い。
変えように何着か作らなければいけない。
しかも、ここの制服は作りが凝っている為、制服の作成代金が結構掛かる。
そもそも、パチュリーが働くとしても、体力的にどれだけ出れるであろうか?
大した時間就労出来ないパチュリーの為に高い制服代を払うのはデメリットの方が大きい。
「はい、それは解ってます。聞きましたよね?今のパチュリー様の言葉」
「え?ええ」
咲夜はそれがどうしたの?と言わんばかりに返事をする。
「お嬢様も聞かれましたよね!?」
「え?ええ、聞いたけど………それが?」
「妹様も聞かれましたよね!?」
「うん!聞いたよ!」
「好い加減になさい、小悪魔。私がそう言ったからなんだと言うのかしら?今更作ってももう遅いわよ?」
パチュリーが小悪魔にそう言う。
「今更?いえいえいえいえ、何を言ってるんですかパチュリー様!!」
小悪魔はそう言うと、いつの間に仕舞っておいたのか、店のロッカーから紙袋を取り出す。
「ま、まさか………!?」
それを見てパチュリーの顔がサァッと青ざめる。
「ジャジャンッ!!こんな事もあろうかとパチュリー様専用の制服を作っていたんですよ!!サイズ!?合ってるに決まってるじゃないですか!!パチュリー様の3サイズを知る事なんて紅茶を作るよりもたやすい事!!私の目をなめて貰っては困りますよ!?さぁさぁ!パチュリー様!!どうぞご試着を!!!」
取り出すと同時に得意のマシンガントークが炸裂。
「ちょちょちょ……ちょっと!待ちなさい小悪魔!!」
パチュリーがそれを拒む。
「何がですか?いやだなぁ、さっき仰ったじゃないですか。制服があったらやってくれるって。皆さんも聞いてますよ?先ほど確認取りましたもんね?さぁ、もう逃げられませんよパチュリー様!是非是非この渾身の一品に袖を通して下さいませ!!きっと似合う事請け合い、否!私のパチュリー様に対する見立てが似合わない筈がございません!!さぁさぁさぁ!!!」
「さ、さっきのは冗談………」
「でも言っちゃったわよねぇ、パチェ」
「レミィ!?」
まさかの親友の裏切り。
どうやら、先程咲夜の事で暴露された事を少なからず恨んでいたようだ。
「そうですね。仰りましたね」
咲夜も素敵な笑顔で言う。
内心は
(新たな看板娘ゲット!!)
であった。
何やら商売人としての何かが目覚めつつあるようだ。
「言った言った~!」
フランは無邪気にそう言う。
「う………ぐぅ……………」
だが、パチェは受け入れない。
「もう、何が不満だと言うんですか?まさか条件を出すつもりじゃありませんよね?」
小悪魔は言う。
「条件………そう、条件よ!まだあるわ!!」
パチュリーはそんな事を言った。
「え~?卑怯ですよ~!!」
「お、お黙りなさい!!そ、そもそも貴女は私の使い魔兼司書としての役割は果たしてないわ!!」
「果たしてるじゃないですか~!!」
「それは、司書として、でしょう?使い魔の役割は果たしていないわよ?」
「ず、ずるいですよ!!どうすれば良いって言うんですか!?」
小悪魔は言う。
「簡単よ。私の使い魔なら私の本を取り返してらっしゃい」
「無理に決まってるじゃないの、パチェ」
レミリアがそう言う。
パチュリーの取り返せ、と言っている相手は言わずもがな。
霧雨魔理沙だ。
小悪魔ではどうひっくり返っても取り戻せる相手ではない。
「じゃあ、この話は無しね。使い魔の本分を果たしていない貴女の要求は飲めないわ」
パチュリーはそう言いきった。
「じゃあ、取り返したら良いんですね?」
「一冊じゃダメよ。最低10冊は取り返さないとね」
一冊だけならなんとか気付かれないように持って行く事が可能かもしれないからだ。
が、10冊となるとそうもいかない。
「しかも今日中ね。留守の間狙うとかしたら可能ですものね」
「そこまでやりたくないのね、パチェ」
無理難題を言うパチュリーにレミリアが呟く。
「あ、当り前じゃないの!!レミィは…………普段とそれほど変わらないから良いかもしれないけどね」
レミリアの格好を見ながらパチュリーはそう言った。
「失礼ね!あそこまで過激じゃないわよ!!」
レミリアはそう叫んだ。
「仕方ありません………千載一遇のチャンス、ここを逃せば二度とパチュリー様は着てくれないでしょう」
「当然じゃないの」
「ならばこの小悪魔!!命を賭けて霧雨魔理沙から本を奪還してまいります!!成功の暁にはそれを着て働いて頂きますからね!!」
言うが早いか、小悪魔は店を飛び出して魔理沙の家へと向かって言った。
「そんなに着て欲しいのかしら?」
レミリアが飛び去った小悪魔を見ながら呟く。
「着て欲しいんじゃないんですか?態々自作するくらいですから」
咲夜が服を見、そしてパチュリーを見ながら言う。
「し、知らないわよ………あの子が勝手に作ったんでしょう」
少しバツが悪そうにパチュリーは言う。
(………今度、あの子以外に誰も居ない時になら着てあげようかしら)
そしてそう思っていた。


数十分後

「遅いわね………まぁ、魔理沙ならそこまで酷い事する訳無いけど」
レミリアが呟く。
「様子を見に行ってきますわ。魔理沙が大丈夫でも、傷ついて戻る途中に他の妖怪に襲われる危険性もありますので」
咲夜がそう言った。
「それは否定出来ないわね。咲夜、お願いするわ」
パチュリーがそう頼む。
「畏まりまし…」
「その必要はございません!!!」
扉をバンッ!!と開けて小悪魔が帰って来た。
「あら、お帰りなさい小悪魔………そ、その袋は、まさか?」
咲夜が小悪魔の背負っている袋を見ながら尋ねる。
「んふふふふ~♪」
楽しそうに笑いながら小悪魔は本を広げる。
「どうですか!?本20冊です!!」
「ぶっ!?倍!?」
レミリアが驚きのあまり吹いた。
「じょ、冗談でしょ!?………はっ!?そうか……貴女、図書館から持って来たわね!?」
パチュリーが狼狽しながら尋ねる。
「んっふっふ~………これを見てもそう言えますか?」
が、小悪魔は自信たっぷりに数冊の本を見せる。
「これは………死海文書!ゴエティア!エミグレ文書!!ネクロノミコン!?」
どれも伝説級の魔道書で、全て魔理沙に奪われていった物だ。
流石に盗まれた全部は覚えて無くても、ここまで有名な物ならパチュリーとて忘れようはずがない。
「まさか………そんな、まさか…………」
「幾ら魔理沙さんでも交渉でこれらを手放してはくれませんよね?」
小悪魔は先にパチュリーの反撃の糸口を潰す。
こんな伝説級のをあの魔理沙がおいそれと手放す訳はない。
パチュリーもそう考えていた。
「ふふふふふ………さぁ!パチュリー様!!今こそパチュリー様の魅力を全世界にとどろかせる時です!!!」
やや大袈裟な事を言いながら小悪魔はパチュリーに例の制服を付きつける。
「ううぅぅぅぅぅぅ………………!!」
パチュリーは唸る。
が、余りにも分が悪い。
フランはともかく、咲夜とレミリアにしっかりと自分の言葉を聞かれてしまっていたのだから。
「わ、解ったわよ!着るわよ!!着れば良いんでしょう!?」
「いやっほぉぉぅぃ!!」
小悪魔は両手を上げて跳ねながら喜んだ。



数分後

カチャッ…………
ドアが開いて恥ずかしそうにパチュリーが出てきた。
「こ、これで良いんでしょう?」
スカートの丈が短いためか、スカートを押さえながら出てくるパチュリー!!
「いやっほぉぉぉぅ!!さすがパチュリー様!!完璧です!!最高です!!!ディモールト(とても)!ディモールト!!」
さっそく喜ぶ小悪魔。
「う”…………パ、パチェって実はスタイル良いのね………」
レミリアが負けた、と言う表情で言う。
「し、知らないわよそんな事」
恥ずかしそうに答えるパチュリー。
レミリアの言うとおり、パチュリーはスタイルが良い。
かなり良い。
あの普段着の下にこれほどの物が隠れて居たのか?と誰もが思った。
制服のタイプは小町と同様で、色はイメージカラーとも取れる薄い紫。
小町と同じと言う事は、つまり、胸がかなり無いとずれ落ちるタイプ。
が、むしろ少し窮屈じゃないかと思われる感じすら見てとれる。
そしてスカートはかなりのミニ。
が、見えそうで見えない、ギリギリのラインを保っている。
間違いなく匠の技だ。
そしてオーバーニーソックス。
絶対領域だ。
無論、頭は普段の帽子で無く、フリルカチューシャを付けている。
「小悪魔……これ、少し胸がきついわよ?」
「いえ、それはそれで良いんです。少しくらいきつめじゃないと簡単に落ちちゃいますから」
「そ、そう………」
「と言うか………パチュリー様、3サイズどうなってるんですか?」
流石の咲夜も驚いて尋ねる。
「わ、私が知る訳無いでしょう!」
じゃあ、誰が知ってるんだろうか?
と、みんな思ったが、直ぐに思い出した。
ああ、こいつが知ってる、と。
「パチュリー様の3サイズですか!?聞いて驚いて下さい!!なんと上から9…」
「お待ちなさい!!!」
パチュリーが慌てて小悪魔の口を止める。
「9!?上の10の位が9なの!?」
レミリアが驚いて声を上げる。
「まぁ、それくらいはありますよね」
咲夜は解っていたように言う。
「おっきーねぇ………良いなぁ」
フランが羨ましそうに見る。
「い、妹様、重いのよ?これ。それに動くのに邪魔だし」
「わお、パチュリー様。それは全世界の貧乳の皆さんに喧嘩を売ってる台詞ですよ」
小悪魔が突っ込む。
「っと、そう言えば途中でしたね。真ん中はなんと6…」
「小悪魔!!」
再び止めるパチュリー。
「良いじゃないですかぁ。で、下は8…」
「好い加減になさい!!」
「何その反則的な数値は………」
レミリアが恨めしそうに見る。
「わ、私だって知らないわよ」
「大体、何でそんなに腕細いのにそっちの方向にばかり肉が行く訳?」
「はいはいはいはい!説明いたしましょう!!」
またも出てくる小悪魔。
「それはですね、私の作りました特製薬!「BCBVerP」の効果のお陰です!!」
「BCBVerP?」
咲夜が聞き返す。
「ボンッ!キュッ!ボンッ!バージョンパチュリー様です!」
「何処の親父よ、貴女は」
レミリアが突っ込んだ。
「で、効果は?」
咲夜が尋ねた。
「それを服用しますと、普段カロリーオーバーで色々な場所に行く筈の脂肪分を胸とお尻に集約させる事が出来るんです!!!」
「貴女……いつの間にそんな物を………と言うか、何時服用させたの?」
パチュリーが尋ねる。
「え?やだなぁ、いっつも飲んでる紅茶ですよ」
「まさか、普段悪戯を仕掛けてたのは…………!?」
「んっふっふ~……いたずらを仕掛けた後にまともな紅茶を出し、それに異常がなければ疑いませんよね?無味無臭の薬ですし、パチュリー様にしか効果ないように作ってありますし♪」
「お、恐ろしい子………!!」
パチュリーは戦慄を覚えた。
「お茶請けにケーキの様なカロリーの高い物を出せば、動かないパチュリー様は脂肪が溜まる一方!しかし、それが逆に今のパチュリー様を作り上げたのです!!!」
「なんて奴よ」
レミリアが半ば呆れて居る。
「時に小悪魔、それはパチュリー様にしか効果ないの?」
「はい。製薬時にパチュリー様の髪の毛やら血液やらを使用してますから。対象者のそれらが無いと無理です」
「そう、残念ね」
「咲夜さんも欲しかったですか?良ければ作りますよ?」
「結構よ。胸が大きくなりすぎて動きにくくなっても困るわ。ただ、万人に効果があるなら売りに出そうかと思っただけよ」
「でも、咲夜はもうちょっと胸欲しくないの?」
フランが問いかける。
「人並みにはありますから問題ありませんわ」
「え?それって人並み?」
レミリアが咲夜の胸を凝視しながら言う。
見た目はどう見てもペッタンコだ。
「咲夜さんサラシ巻いて締めてますもんね~」
「ええ、そうなんです………って何で貴女がその事を知ってるのかしら?」
咲夜がナイフを取り出しながら尋ねた。
「ちょっ!ストップ!別に覗いたりしてたんじゃないんですって!!私の目のお陰なんですよ!!」
「目?」
「そう、私の目です。リトルデビルアイは透視力!!3サイズを一瞬にして測れるんです!!たとえサラシを巻いていようが!!PADを付けていようが!!!」
「かなり無駄な能力ね」
「便利ですよ~。咲夜さんの3サイズだって判明してますよ!上から8…すみません」
笑顔でナイフを突き付けられて黙る小悪魔。
「え?咲夜80以上なの?」
レミリアが意外そうに聞く。
「言ったじゃないですか。人並みにはある、と」
咲夜はそう返す。
「おっと、ちょっと暑くなって来ましたね~」
「あんたが温度上げてるんでしょうに」
レミリアが小悪魔に突っ込んだ。
そして、小悪魔はガラッと窓を開ける。
「いや~涼しいですね~。おや?」
小悪魔は窓を開けて何かに気づく。
「どうかしたの?」
咲夜がそう言った瞬間。


ビュオンッ!!


突然、強い風が窓から入り込んできた。
いや、入り込んだのは風ではなく





「どうも~!清く正しく射命丸です!!」





新聞記者の鴉天狗、射命丸文だった。


パシャパシャパシャパシャッ!!!


「え?な!?」
一瞬にして今の自分の姿を写真に撮られて驚くパチュリー。
「それでは明日の朝刊を楽しみにして下さいね~!!」
言うが早いか、文は入って来た窓から猛スピードで出て行った。
「ちょっ!待ちなさい!!カメラよこしなさい天狗!!!」
窓からパチュリーが叫ぶ。
「焼き増し!!焼き増し忘れないで下さいね~!!!」
隣で小悪魔がそう叫ぶ。
「お前の差し金か~!!!」
パチュリーが小悪魔の胸倉を掴んでガクガク揺する。
「良いじゃないですか、どうせ新聞出さなくても人集まるんですから~」
小悪魔の言うとおり、新聞を配らなくとも客はいつも通りくるだろう。
だが、新聞を配ればなお一層来るであろう。
「それもそうね。それでは、パチュリー様。明日はよろしくお願いいたしますわ」
「なんだってこんな事に…………」
パチュリーはがっくりとうなだれるしかなかった。



翌日

新聞効果のお陰か、開店前からかなりの人数が集まっていた。
「また凄い数ねぇ…………」
霊夢は開店前の店の状況を眺めながらそう言った。
「本当に………パチュリー様効果ですかね?」
美鈴が呟く。
「パチュリー?あいつがどうかしたの?」
「あれ?知らないんですか?今日はパチュリー様が特別に出るんですよ」
「初耳ね。なんだってあいつが?絶対にやりたがらないと思ったけど」
「そこはまぁ、色々あったみたいです。詳しく聞かせて貰えませんでしたが」
「ふ~ん………」
「おはようございま~す!」
霊夢が美鈴と話していると、早苗が出勤してきた。
「おはよう、早苗」
霊夢が挨拶を返す。
「凄い人だかりですね………宣伝効果ですか?」
「だと思いますよ」
困ったような笑顔で返す美鈴。
「っと、美鈴さん男装になったんでしたっけ。似合ってますよ」
「う~ん………複雑です」
「あははははは」
早苗は笑う。
「さ、そろそろ開店ですよ」
美鈴が時計を見ながら言う。
「あれ?パチュリーは?」
霊夢が周りを見ながら尋ねた。
「多分、後でサプライズ的に出てくるのでは?」
早苗がそう言う。
「でしょうね。さ、開けますよ」
そう言って美鈴が店を開けた。
同時になだれ込む客。
今日も忙しい一日が幕を開けた。


「お帰りなさいませ、奥様」


「お嬢様で良いわよ、早苗」
「元人妻が何言ってるんですか」
「まったくだね。冗談も程々にしときな、諏訪子」
今日は諏訪子と神奈子がやって来た。
「喫煙席で宜しいでしょうか?」
「どっちでも良いよ~」
「右に同じ」
「畏まりました。では、こちらへ」
早苗は二人を案内する。
「で、何しに来たんですか?」
二人を座らせてから早苗は尋ねる。
「早苗を見に」
「同じく」
その返答に早苗は頭を抱える。
「くれぐれも、他のお客様のご迷惑になる事はなさらないで下さいね」
「解ってるって」
「大丈夫大丈夫」
二人とも返答の通り、特に何も騒ぎと起こす事無く、静かにしていた。
が、早苗が居る時のこの二人の来訪なので、当然戒厳令NTは発動している。
そして、再び馬鹿な客が現れた。
NT、つまりノータッチであれば問題はないと考える愚か者が。
その愚か者は何をしたのか?
答えは覗きだ。
勿論、普通に覗こうとしたら不自然な体勢になる為にやる馬鹿は居ない。
故、その者は手鏡を使って覗いたのだ。
人間相手なら気付かれなかったかもしれない。
が、相手は神である。
そんな小細工は通じない。
「神奈子~」
「オッケ~」



ズドンッ!!!



「ひっ!?」
その客のテーブルに上からオンバシラが突き立った。
一応加減はしたのだろう、テーブルに損害は出ていない。
「僕~?ちょ~っと表出ようか?」
笑顔の神奈子がその客の横に現れ、親指を外に向けてそう言う。
僕、なんて言っているが、相手はそれなりの年齢だ。
まぁ、神の神奈子から見れば子供扱いにもなろう。
「手鏡使って早苗のスカート覗くなんて言い度胸してるじゃん?」
諏訪子も笑顔で現れてそう言った。
諏訪子の発言で周りの客が刺すような視線をその愚か者に向ける。
その者は何か言おうとしたが、
「言い訳は」
「認めない」
「命乞いは」
「聞こえない」
「ただひたすらに」
「泣き叫べ」
神奈子と諏訪子は交互にそう言い、その客の首根っこを掴んで店の外へと向かった。
「あ、これお愛想。こいつの分も入れてあるから。じゃ、こう言う馬鹿に気をつけなね、早苗」
「さ~ってウチの早苗に妙な真似をしてくれた礼はたっぷりしてあげないとねぇ?」
口をパクパクさせているその者を引きずって二人は去って行った。
「過保護ねぇ、あんたん所」
「否定出来ません…………」
霊夢の言葉に少し恥ずかしそうに俯く早苗だった。


それから数分ほどして。

店内がざわめく。
「さ、パチュリー様。お出で下さい」
「わ、解ったわよ…………」
今回のメインとも言える、パチュリーが登場した。
その瞬間





『うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!』





「やかましっ!!」
巻き起こった男の歓声に霊夢は耳を塞ぐ。
「て、店内の温度が上昇したような…………」
「間違いなく上昇しましたね。5度ほど」
「5…………」
美鈴の返答に言葉を失う早苗。
ただでさえ魅力的なパチュリーが、更にもじもじとしているので、野郎連中はかなり刺激されたらしい。
「パチュリーちゃん!こっちこっち!!」
「馬鹿!こっちが先だ!!」
「いや、こっちだって!!」
「俺のとこ!俺のとこ!!」
「今呼んでも無駄だから少し待てって!」
「いいや、限界だ!呼ぶね!!」
物凄い指名数である。
「では、パチュリー様、お願いいたします」
「わ、解ったわよ…………」
パチュリーは渋々仕事に入った。


「お帰りなさいませ、奥様~♪」


「ちょっ!?私はそんな年じゃないですよ!!」
霊夢に迎え入れられた客はそう返す。
「年齢不詳の妖怪なんて全部奥様で十分よ」
霊夢はそう言う。
「酷いですね~クレーム出しますよ?」
「お帰りなさいませ、お嬢様♪」
すかさず霊夢は対応を変えた。
指名されてのクレーム=咲夜のお小言だからだ。
「で、取材?忙しくてたぶん無理よ?」
霊夢が対応した客は、文々。新聞の記者、射命丸文だった。
口調が丁寧なのは、一応記者の仕事として来たからだ。
「それは解ってますよ。今日は店の様子を中から見ようと思いまして」
「なるほどね~。ま、案内するわ。禁煙席で良いでしょ?」
「お願いします」
マニュアルから外れ、普通に対応をする霊夢。
まぁ、文も気にしていないので、特に問題はなさそうだった。
「では、メニューが決まりましたらお呼び下さい」
最後だけ思い出したようにマニュアル通りに対応し、下がる霊夢。
「さて…………良いネタが見つかると良いんですが………」
文は手帳を出しながらそう呟いた。


それから少しして

「よう、パチュリー」
「ま、魔理沙…………それにアリスも」
「こんにちわ。お邪魔してるわ」
通路を通りかかると、いつの間に入店したのか、魔理沙とアリスが席に居た。
「まさかお前がそんな恰好をするとはな~」
ニヤニヤしながら魔理沙が言う。
「う、うるさいわね………そうだ。聞きたい事が有ったわ」
パチュリーが思い出したように言う。
「何だ?」
「貴女、昨日小悪魔に本取り返されたでしょう?何が有ったの?」
パチュリーとて実力で取って来たとは思っていない。
そんな実力のある者を使い魔として使役出来る訳がないからだ。
「ああ、返せばお前のその姿が見れると聞いたから返したぞ」
「なぁっ!?」
呆気に取られるパチュリー。
「伝説級の魔道書を、そんな理由で手放したの!?」
「ん?あれらはまだ私には解読できないしな。力が付いたらまた借りに行けばいいだけさ。あいつもそう言ってたしな」
(小悪魔ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!)
まさに獅子身中の虫。
貸す事を前提に取り返すとは。
しかし、今さら何を言っても始まらない。
「パチュリー?さっきから向こうの客が呼んでるけど行かなくて良いの?」
アリスが問いかける。
「あ…っと、は、早く帰りなさいよ」
そう言ってパチュリーは呼ばれた所へ向かった。
「普通ゆっくりしていきなさいよ、じゃないか?」
「それだけ恥ずかしいんでしょう?」
「なるほどな」
そう言って魔理沙はソファー型の椅子に深く腰掛けた。
「さて、メニュー決めちゃわない?」
「そうだな」
アリスに言われて魔理沙もメニューを見始めた。
その時

「え~?聞こえないなぁ?」

パチュリーが向かった方からそんな声が聞こえてきた。
魔理沙とアリスが何事かとそちらを見る。
「で、ですからご注文の方は以上で……」
「ええ?注文の読み上げが聞こえなかったって」
確かにパチュリーは喘息故に声が小さい。
が、それでも店内がうるさくても、パチュリーは聞こえるように声を何とか出している。
相手はそれをからかっているのだ。
「で、ですから………ゴホッ!」
ついに咳き込むパチュリー。
「ほらほら、聞こえないって」
調子に乗るもう一人の客。
見かねた美鈴が動こうとしたが、止まった。
行く必要がなくなったからだ。

「よう、こいつ喘息持ちであんまりデカい声出せないんだ。イジメないでやってくれないか?」

魔理沙が現れて、パチュリーの肩に手を掛けながらそう言った。
因みに肩に掛けた手は客の方に向けられ、その手には八卦炉が握られ、相手に向けられている。
客の方も青くなる。
魔理沙のマスタースパークと言えばかなり有名だからだ。
「お止めなさい、魔理沙」
が、それを席に座ったままのアリスが止めた。
「あんたがマスタースパーク使ったら店が吹っ飛ぶでしょう」
「それはそうだがな……」
「そちらの方々は耳が悪いのよ。だから…………」
アリスは微動だにしない。




ザザザザザザザザッ!!!!



客の周りに人形が一斉に現れた。
「私が耳掃除してあげるわ。きっと「風通り」が良くなるわよ?」
人形達が持っているのはいわゆるランス。
耳の掃除どころか鼓膜を突き破る気満々だ。
「はは、そいつは良いな」
魔理沙が楽しそうに笑う。
「それともその喧(やかま)しい口を縫い付けてあげましょうか?物理的に。安心していいわ。私、お裁縫得意だから」
素敵な笑顔でアリスがそう言う。
男達は顔を青くして黙ってしまった。
「さて、今呼ばれてる客の対応が終わったら私達の所に来てくれ。注文をしたい」
そう言って魔理沙は去って行った。
アリスも人形を仕舞って水を静かに飲んでいる。
パチュリーは再度注文の確認を取ってその場を離れた。
「何気にパチュリー様も愛されてるのねぇ」
一連の騒動を奥で見ていた咲夜が呟く。
「そうですね~」
隣で雑用兼、パチュリーの様子を見ている小悪魔が相槌を打つ。
「それはそうとして、小悪魔?」
「なんでしょう?」
「貴女、「ソレ」で何するつもりだったのかしら?」
小悪魔が持っている物を見ながら咲夜は尋ねる。
「いや、ほら、お客様は神様だって言うじゃないですか」
「ええ、そうね」
「で、神様と言ったらやっぱりコレじゃないですか」
「店内でスプラッタは止めて欲しいんだけど?」
「その辺りの文句はパチュリー様を苛めた身の程知らずさん達に言ってください♪」
そう言う小悪魔の手にしていた物。
その名はチェーンソー。
どうやら相手をバラバラにする気だったようだ。
(パチュリー様の時も戒厳令必要そうね………)
そんな事を考える咲夜だった。


それから少しして。

「お待たせいたしました」
パチュリーが魔理沙達の席に来た。
「遅いぜ」
開口一番文句を言う魔理沙。
「お客が多いんだからしょうがないでしょう。嫌なら他の人に頼めば良いじゃないの」
「いや~、折角だからお前に頼まないとな」
「何その嫌がらせ」
「はいはい、喧嘩しないの。注文良い?」
アリスが二人をなだめて言う。
「ええ、どうぞ」
「私はこれとこれと………」
アリスと魔理沙がパチュリーに注文をする。
「今混んでるから時間かかるわよ」
「はいよ」
「事前情報で知ってるから問題ないわ」
「そう……………それからさっきはありがとう」
パチュリーが二人に礼を言う。
「気にすんなって」
「そうそう。ああ言うの見てるだけで腹立つし」
魔理沙もアリスもそう言う。
「ま、それに魔法使い仲間だからな」
「厳密に言うと私達は違うんだけどね」
アリスが魔理沙の言葉に突っ込みを入れる。
「細かい奴だな~」
「照れてないで素直に友達だからって言えばいいでしょうに」
「ばっ!誰が照れてるって言うんだ!!」
そうは言うが、魔理沙の顔は赤い。
「あんたよあんた」
「普段から人の本を盗んで置いて友達も何もないでしょう」
パチュリーが溜息を吐きながらそう言う。
「うぐ………」
魔理沙が言葉を詰まらせる。
「それでもさっきは助かったわ。ありがとう」
もう一度、今度は微笑みながらパチュリーはそう言った。




「ああぁぁぁぁぁ!!!その顔!!!撮りたい!!絵にしたい!!!何故に写真撮影が不可なのか!!!」




行き成り文が現れて叫んだ。
「行き成りなんだ?天狗」
「なんだ?じゃありませんよ!!今のパチュリーさんのごく自然な笑顔!!あんなもの滅多にお目にかかれませんよ!?嗚呼(ああ)!!何ゆえに写真を撮るのが不可能なのか!!!」
文は悶える。
確かに、文の言うとおり、パチュリーの自然な笑顔などそうそう見れるものではない。
「と、とにかく、厨房に伝えてくるわ」
逃げるようにパチュリーは去って行った。
「ほら、天狗。邪魔だから帰れ」
魔理沙は犬でも追い払うように、シッシッとやった。
「酷い言い様ですね~………まぁ、もう注文した物も食べ終えましたし、あらかた調査も終わったので帰りますが」
文はそう言うと、勘定を払って帰って行った。
「まったく、騒々しい天狗だぜ」
魔理沙は文の後ろ姿を見ながらそう呟いた。
その後は特に問題も起こる事なく、無事一日が終了した。



翌日

「おはようございま~す」
鈴仙が出勤して挨拶をする。
「おはようさん」
「おはよう」
「おはようございます」
「………おはよう」
妹紅と霊夢に早苗、そしてパチュリーが返事をした。
「あれ?貴女、昨日一日だけじゃなかったんだ」
鈴仙がパチュリーに尋ねる。
「不本意ながら、手伝う事になったわ」
理由は紅魔館の修繕費用を稼ぐため。
なんだかんだと言って、魔理沙に館内をぶっ壊されてるので、一番の関係者のパチュリーに矛先が向かってしまった。
そして、都合よく、昨日パチュリーは店を手伝った。
そこで咲夜がそのまま館内の修繕費の話を出し、押し切ってしまった。
「私、とばっちりじゃないの………」
呟くパチュリー。
「ご愁傷様」
霊夢がそう言う。
「ま、まぁ、がんばっていきましょう!」
早苗がパチュリーを元気づける。
「まぁ、人気はあるようだし、直ぐに何とかなるんじゃないか?」
妹紅もそう言って励ます。
「まぁ、やるしかないのならやるだけだけど」
パチュリーも渋々ながら参加する事となった。
そして、また店が開く。


昼を過ぎた頃。

「お帰りなさいませ、お嬢……げ」
客を出迎えた妹紅は固まる。
「げ?しっつれいな執事ね。ちょっとメイド長?教育どうなってるの?」
「ぐ………お、お帰りなさいませ、お嬢様」
精一杯の作り笑いで客を出迎える妹紅。
無理してるのがありありだ。
それもそのはず、なんせ相手があの蓬莱山輝夜とその御一行なのだから。
「あれ?姫?私が変わりましょうか?妹紅」
通りすがった鈴仙がそう言う。
「結構よイナバ。案内はこっちの執事さんにして貰うから良いわ」
が、輝夜がその提案を蹴った。
「こ、こちらです」
妹紅は何とか自分を抑えながら輝夜達を案内した。
「では、メニューが決まりましたらお呼び下さい」
妹紅はそう言って逃げるように去って行った。
「イナバの様子見に来たんだけど………妹紅弄ろうかしら♪」
楽しそうに言う輝夜。
「程々にして下さいね、姫。向こうがキレて本気の喧嘩になったら被害請求こっちにも来るんですから」
永琳が輝夜にそう進言する。
「言われなくても解ってるわよ。さて、とりあえず注文くらい考えましょうか。貴女も好きなの選んでいいわよ」
輝夜がてゐにそう言う。
「は~い」
言われててゐもメニューを眺め始める。
暫くして注文が決まり、
「さて、呼びましょうか」
永琳が店員を呼ぼうとする。
「ああ、待って。妹紅を呼びましょう」
「妹紅を?」
永琳が聞き返す。
「ええ」
「構いませんが………待ちますよ?」
「え?」
輝夜は言われて店の状況を見た。


「妹紅様~!!こっちに来てくださ~い!!」
「早苗ちゃ~ん!こっち~!!」
「霊夢ちゃん、こっちこっち!!」
「鈴仙ちゃんこっち来てくれ~!!」
「妹紅様~!!次はこちらよ~!!」
「鈴仙ちゃん、次こっち~!!」
「早苗ちゃんこっち来て~!!」
「妹紅様~!!終わったらいらして~!!」
「霊夢~!!こっちこっち~!!」


人気メイドor執事は次々に呼び声が掛かる。
他のメイド達に頼んだ方が確かに早そうである。
「いえ、妹紅で良いわ」
が、輝夜は譲らなかった。
「承知しました」
「妹紅、終わったらこっち来なさい」
輝夜が通りかかった妹紅に言う。
「暫くお待ち下さい、お嬢様」
妹紅はそうとだけ言うと次の客の所へと向かった。
「大変そうね~」
永琳が店内を眺めながら言う。
「本当、修羅場って奴ですかね」
「そうね」
てゐの言葉に永琳が頷く。
あれから暫くしたが、まだ妹紅は来ない。
嫌がらせでも何でもない、単純に先約が凄まじく多かったのだ。
「ちょっと、妹紅。まだなの?」
輝夜が通りかかった妹紅に尋ねる。
「申し訳ございませんお嬢様、当方、忙しいものでして」
妹紅はそう返した。
が、その目は
「お前と違って暇じゃないんだよ蓬莱ニート」
と、言っていた。
「何かしら?その「暇人とは違うんだよ」って眼は?」
輝夜が言う。
「誤解ですお嬢様。自覚があるからそう思うのでは?おっと」
妹紅がわざとらしく口を塞ぐ。
「妹紅の分際で言ってくれるじゃない……………十六夜咲夜!!」
輝夜の何かに火が付いたらしく、輝夜は奥に居る咲夜を呼んだ。
「なんでしょうか?お嬢様」
「私もここで働かせなさい。妹紅と同じ恰好で」
「姫様?」
永琳が尋ねるように名を呼ぶ。
「あいつに見下されてるなんて屈辱以外の何物でもないわ。私の方が優れてると証明するのよ」
輝夜はそう返した。
「構わないけど、服あったかしら?」
バイト志望と言う事で、咲夜の口調が戻る。
「小悪魔~」
「はいは~い」
呼ばれて小悪魔がやってくる。
「このお姫様が執事服で働きたいそうなんだけど、服ある?」
輝夜のゆったりとした服では3サイズなど普通は見ても解らない。
「リトルデビルアイは透視力!!!」
が、小悪魔の眼力ならばそれも見抜ける。
「むむむむむ…………む!大丈夫です、ピッタリのが有ります」
「あらそう?じゃあお願いしようかしら、お姫様」
「なら、今すぐにでもやるわ」
「大丈夫なの?」
「1000年生きてるのは伊達じゃないと言うのを見せてあげるわよ」
心配そうな咲夜に輝夜はそう返す。
因みに執事服は、もう一人良さそうな逸材が現れた時様に既に作ってあったのだ。
「じゃあ、こちらにいらして下さい」
小悪魔に言われて輝夜は付いて行った。
「よ、宜しいんですか?師匠」
一連のを見ていた鈴仙が寄って来て尋ねる。
「姫が言い出したんだから良いでしょう。それに、これで脱ニートになりそうだし」
「それもそうですね~」
同意するてゐ。
「あ、あはははは………」
そして、乾いた笑いをする鈴仙。
(やっぱ師匠も気にしてたんだ)
そう思った鈴仙だった。


暫くして

ドアが開いて輝夜が姿を現す。
その姿に店内がどよめく。
輝夜は美鈴と同じように髪を後ろで縛っている状態だ。
白いシャツに黒いベストに黒いズボン。
それに黒い髪がよく映える。
加えて輝夜も顔立ちは整っている。





『キャアアアアァァァァァァァァッ!!!!』





黄色い声援が上がるのは必然だった。
「今回は防げたわ」
霊夢は耳を塞いで黄色い声援を防いだ。
「す、凄い反響ですね………」
早苗が驚きながら言う。
「結構似合ってるじゃない」
パチュリーはそう言った。
「ふん………姿がよけりゃ良いってもんじゃないだろう?」
妹紅がそう呟く。
それに呼応するかのように
「この紅茶、今から入れて持って行くのよね?」
輝夜は近くに居たメイドに尋ねた。
「え?あ、はい。あちらの席の方へ」
その客はちょうど女性客だった。
「持って行かせて貰うわよ」
輝夜はそう言うと、返事を聞かずにティーポットとコースターに乗っているカップをトレイに載せて持って行った。
「あ、まだ紅茶を入れて………」
ない、と言おうとしたが、既に輝夜は歩いて行ってしまった。
そして、その客の前に立つと、トレイを少し下げ、ティーポットを高く掲げ


トトトトト…………


高い位置から紅茶を注ぎ、しかし、跳ねも零しもせずに綺麗にティーカップに注いだ。
その技術に思わず店内から歓声が上がる。
1000年生きている間に暇潰しに身につけた技術だ。
「お待たせいたしました、お嬢様方」
輝夜は笑顔でそう言うと、注いだティーカップを机に並べ、一礼をして去って行った。
女性客は一連の動作をうっとりとした目で見ていた。
そして輝夜は、戻り際に妹紅と視線を合わせると、勝ち誇ったような目をして鼻で笑った。
(やっろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!)
妹紅の競争心に火が付いた。
とは言え、輝夜の真似は出来ないのは解っているので、違う形で見返してやると心に誓いながら。
その後、当然の様に輝夜の指名も嵐の様に起きる。
(対抗心が良い方向に働きそうね…………これは儲けたかも)
そう思っている咲夜だった。



その夜

咲夜は一人机に向かっていた。
「ん~………戦力増加は良いけど、人件費がかさむわね……………」
会計帳を見ながら呟く昨夜。
「どんなに客寄せしても一度に入れる客足は限られてるし、相変わらず客足は衰えず、か」
咲夜は考え込む。
「二号店…………考えても良いかもしれないわね。ああ、でもレンタルの時期って何時までなのかしら?」
レンタル、とは妖夢、鈴仙、早苗、橙、小町の事だ。
彼女らは間違いなく主戦力だ。
抜けられたら客足が落ちるかもしれない。
二号店を作ってからそれをやられると最悪倒産すらあり得る。
「今度相談してみるしかないわね」
彼女らの主に。
そんな事を考えながら、咲夜は店の電気を消し、紅魔館へと帰った。



メイド喫茶改め従者喫茶・紅魔館
まだまだ客足は止みそうにない。






-了-
お読みいただき有難うございます、華月です。
とりあえず、好き勝手やってみました(オイ
出来れば絵付きで載せたいもんですが………絵が下手すぎて描けない○| ̄|_
誰か描いて~(ぁ
あ、因みに咲夜があまり出てないのは、主にバックアップに集中してるからです。

それでは、好評不評問わず、待ってます。
華月
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コメント



0.3910簡易評価
6.100名前が無い程度の能力削除
>2回までなら何しても良いと言う不埒な者
前回のコメントでそんなこと言った不埒な者でサーセンwwwwwww

そりゃ逸材が揃えば常連も付くよなぁ。輝夜がかっこいいのは新鮮だ…。
次もお待ちしてます
10.80名前が無い程度の能力削除
>二重黒死蝶を展開させて目が笑ってない笑顔の幽々子が立っていたからだった
二重黒死蝶は妖怪スキマバ…紫のスペルですぜ旦那
それはそうと小悪魔の壊れっぷりがステキすぎるw
11.90名前が無い程度の能力削除
幻想郷の男はガラ悪いのばっかかよwww

まあでも、気持ちは痛いほどわかります
俺なら死を恐れず妹紅に飛び込めるからな
12.無評価華月削除
>二重黒死蝶は妖怪スキマバ…紫のスペルですぜ旦那
ぎゃーっす!やっちまったい!!
地霊殿で久々に見た時に弾幕が蝶だったんで
「ああ、幽々子が使ってたスペルか~」
って録に調べる事もせずに書いてしまいました。
本当すみません。
ゴーストバタフライに書き換えました。
18.100名前が無い程度の能力削除
こあ自重w
21.100時空や空間を翔る程度の能力削除
輝夜=るーこ??。

そっか~「アノ」技は1000年物か~。

何気に続きが読みたいな~っと。
23.100名前が無い程度の能力削除
>2回までなら何しても良いと言う不埒な者
前回同じこと言ってましたwwwwwww
でもメイド長にやられるなら本望(ry
25.100名前が無い程度の能力削除
姫さま素敵!
姫さま最高!
姫さま瀟洒!
あぁ御指名させて頂きたい……!
破廉恥な輩は一時の至福と引き換えに豪華絢爛なボディーガードさん達に生涯心に残る傷を刻まれるのですね。
あぁ男の性に逆らえぬ悲しき宿命……。
28.80煉獄削除
げふん、げふん!
これはなんという素晴らしき従者喫茶なんでしょう。
私はもちろん咲夜さんをご指名いたしますよ!
それはそうと、続編があるなら新しい展開を用意しないと
グダグダになってしまう感じがするのですが・・・気のせい?
続きがあるなら楽しみですね。
29.100名前が無い程度の能力削除
ケロちゃんと神奈子様に連れて行かれた男に黙祷。あの台詞に痺れました。流石神代の神様。
今後続くのならどんな客と店員が入ってくるのかとても楽しみです
34.80名前が無い程度の能力削除
こんな喫茶があればマジで行きたいw
というかメンバー豪華過ぎ。100席あっても足りなさそうですね。
色々なキャラの話が見れて面白かったです。
しかし中国名前ネタとNEET姫ネタがちょっとひっかかって-20という事で。
ここまで多用されれば王道と言えなくも無いかもしれませんが、
個人的にはネガティブなキャラネタはアレかな~っと。
そのネタを使わなくても十分面白かった事を考えると、ちょっと残念ではあります。
35.70名前が無い程度の能力削除
この面子相手にセクハラを実行することができる
幻想郷の漢達に敬礼っ!
38.80名前が無い程度の能力削除
なんという小悪魔w

>NoTatch
Touchですね
40.無評価華月削除
>NoTatch
>Touchですね
ご指摘有難うございます、修正いたしました。
ちゃんと調べてから載せないとダメですね。
頭の⑨加減がバレてしまう………
42.100名前が無い程度の能力削除
クリスマス編から片鱗は見えていましたが…
いいぞ小悪魔もっとやれ。もっとパチュリーに色々な服w…(ピチューン)

もしかして、紫の『幻想郷メイド化計画』ってこの事ですか?
49.90名前が無い程度の能力削除
とても楽しく読ませていただきました。
続きがあるでしょうか?
あってもなくても次回作も楽しみに待っていたいと思います。

あと、輝夜が来たあたりから
お嬢様の嬢の字が譲に変わっているところが三箇所ほどありました。

P.S.なぜメイド姿のパチュリーに会えないのか  超見てえ
51.無評価華月削除
>お嬢様の嬢の字が譲に変わっているところが三箇所ほどありました。
修正いたしました。
ご指摘有難うございます。
53.80名前が無い程度の能力削除
仕事が終わった後に、
貸しをつくるのを嫌がるようになった妹紅が飯の馳走を断ったり泊まるの止めたりして、
慧音が涙目になったりしてw
54.90奈々樹削除
妹紅と美鈴の執事服……イイ!!
明記されるまで袴かな~と思ってたのは内緒ですよ?(何という和洋折衷w

続きがあるなら期待してます♪
55.100名前が無い程度の能力削除
いいねー。何か想像できて、ニヤニヤしてたZEww
58.無評価華月削除
>ALL
総じて高めの評価、ありがとうございます^^

>そりゃ逸材が揃えば常連も付くよなぁ。輝夜がかっこいいのは新鮮だ…。
輝夜はニーと扱いさえされなければかっこいいんじゃないかなと思ってます^^

>それはそうと小悪魔の壊れっぷりがステキすぎるw
>こあ自重w
>なんという小悪魔w
>いいぞ小悪魔もっとやれ。もっとパチュリーに色々な服w…(ピチューン)
なんというか、思いっきり暴走させちゃいましたw
多分、まだ暴走は止まりません。

>幻想郷の男はガラ悪いのばっかかよwww
まぁ、あれらはガラの悪い客をピックアップしただけですので、他の方々は普通ですよ^^
多分

>輝夜=るーこ??。
ん~……あれは偶々本屋で目に付いた「黒執事」の表紙を見て思いつきました。
本自体は見てないんですが^^;

>でもメイド長にやられるなら本望(ry
漢ですね(´・ω・`)

>あぁ男の性に逆らえぬ悲しき宿命……。
だが後悔は無い筈!!
多分ね

>私はもちろん咲夜さんをご指名いたしますよ!
自分は………悩みます(´・ω・`)

>今後続くのならどんな客と店員が入ってくるのかとても楽しみです
店員は2~3人増える予定ですね。
それ以上増えると収拾付かなくなりそうなんで止めますが。

>しかし中国名前ネタとNEET姫ネタがちょっとひっかかって-20という事で。
ふむぅ………個人的には言い直せたり姫はちゃんとスキル持ってたりで、そのあたりを否定しているようにしてるんですが………
引用の際には気をつけます。

>この面子相手にセクハラを実行することができる幻想郷の漢達に敬礼っ!
(`・ω・´)ゝヾ

>もしかして、紫の『幻想郷メイド化計画』ってこの事ですか?
いえ、これとは別物です。
紫は単に面白そうだから便乗しただけですね。
いずれ書きたいと思ってますが……ネタがまとまらない○| ̄|_

>P.S.なぜメイド姿のパチュリーに会えないのか  超見てえ
俺も見てぇ!!!

>明記されるまで袴かな~と思ってたのは内緒ですよ?(何という和洋折衷w
袴か………それもありでしたね~

>いいねー。何か想像できて、ニヤニヤしてたZEww
すみません、ニヤニヤしながら書いてました(´・ω・`)
俺キモス○| ̄|_

一話完結にしようかと思ったのですが、なにやら続編を望まれてますので、書いてみようと思います。
コメでも書かれてますが、ちゃんと練らないとグダグダになりそうなので、ちゃんと構成練ってから書こうと思います。
後、次は多分別の作品をアップするかと思います。
それでは、期待を裏切らぬよう、がんばります!
59.100名前が無い程度の能力削除
ああ、こんな喫茶店なら毎日行きたいです。
次回作にも期待してます。

しかし美鈴、妹紅、輝夜の男装で女性客を虜にしてますが、
ここで霖之助さんの出番はどうでしょうか?
銀髪で眼鏡の執事ともなればかなりポイント高いですし、
咲夜さんは香霖堂の数少ない常連ですしね。
咲夜さん自体は”メイド”自体にこだわりはなさそうですし、
wktkが止まりません!
60.90名前が無い程度の能力削除
小悪魔の眼力マジすげー
この手のニヤニヤできる話、嫌いじゃないぜ!
62.100名前が無い程度の能力削除
久々にニヨニヨしながら読ませて頂きました。

しかしここのこぁはコガラシかw
65.90名前が無い程度の能力削除
面白かったんですが、前半がわりと「霊夢と女中喫茶」とネタが被ってるのが気になりました。

小悪魔……恐ろしい子!!
77.100名前が無い程度の能力削除
いやー面白かった!!
小悪魔すげぇw
81.100名前が無い程度の能力削除
うはwニヤニヤしてる俺きめぇww

いいぞ、もっとやってくれw
82.100名前が無い程度の能力削除
これはよい従者喫茶www
92.80名前が無い程度の能力削除
行きてぇ!
97.100名前が無い程度の能力削除
パーフェクトだ
98.100名前が無い程度の能力削除
霊夢が、及び下さい と言ってましたが、お呼び下さい だと思います。

ヤバいな、もこたんヤバい。
俺の鼻から忠誠心がダダ漏れに。
113.100名前が無い程度の能力削除
お願いします!慧音を定員に!寺子屋が休みだったら、できると思います!
○T\_ (土下座)