虚空に独り佇み考える。
望みはすでに果たされた。
夢は一時であり永遠ではない。
全ての望みが果たされたとき、後には何が残るのだろう…
余りある至福か、はたまた絶望か。
思い残すことなど既にない。
ただ、やり残してきたことが其処にあるだけ。
『一人と独り』
昏い暗い、星一つ顔を覗かしていない曇った幻想郷の空の下、更に冥い鬱蒼とした森の中にもっと暗い…
いや、まさに漆黒と呼ぶに相応しい闇がそこにいた。
その闇は風も吹かずにただ生温い空気が漂うその森の中で何かに勤しんでいる。
闇の正体はルーミアという名の少女だった。
短めに揃えられた金髪に映える大きな赤いリボン、自らを包む闇に似た漆黒の服。
整ってはいるがあどけない顔立ちに深紅の瞳の彼女は満面の笑みで…食事をしていた。
もぐもぐ、パクパクと幸せそうにゴハンを口に運ぶ彼女を見つめる一つの影。
「…おいしい?」
そう問いかける存在はルーミアを少し上から見守るような形でそこに浮んでいた。
正確に言うと空間のスキマのような物に優雅に腰掛けているようだった。
紫色の典雅なドレスを身に纏い、腰まである流れるような金髪の先には幾つものリボンが踊っている。
不自然なまでに美しい容姿に爛々と輝く金色の瞳。
そして、この闇黒の中で日傘をさしているという奇妙な出立ち。
名を八雲紫という。
古くからこの幻想郷に存在していて、妖怪の賢者とも讃えられる大妖である。
「うんっ!美味しい!!」
もぐもぐ、ごっくんと食べ物を飲み込んでから口に付いた食べカスも気にせずにその大妖に対してにっこりと微笑んで応える。
この漆黒の中、人の目には何もかもが無に映るだろう。
しかしそこには、まるで親子のように微笑み合う二人の姿が幻視できるのだった。
変わらず風は無いが幾分空気が和らいで感じる。
「お腹一杯食べたのはすごく久しぶりだな~。本当にありがとうっ!」
そう…と応える紫は相変わらず微笑を湛えており、あの胡散臭いといわれていた表情の欠片も見えない。
そんな様子を見てから、ルーミアは少し逡巡するような素振りを見せる。
「…でも…」
「でも?」
質問をしようか、しまいか少し迷っているようである。
そうな様子のルーミアに落ち着いて先を促す紫。
「…な、何でゆかりはわたしにこんなに良くしてくれるのかなって…わたしは、その…食いしん坊だから
すぐお腹がすいちゃってお友達にも迷惑掛けたりしてて…でも、ゆかりはゴハンをくれるしよくお話も
聞いてくれるし…」
その質問に少し意外そうな顔をする紫。
そして考え込むような仕草をする。
案外、本人にもその答えがしっかり自覚できていなかったのかも知れない。
「う~ん…単なる気まぐれっていう答えではダメなのかしら?」
「う~…」
その答えに不服そうな態度をとるルーミア。
そんな彼女の表情に苦笑してから少し真面目な顔をして答える紫。
「そうね…強いて言うならば懐かしかったから…かしら。」
「…?」
こうして顔を会わせているのに懐かしいという単語が出てきてよくわからないという顔をする。
そんな顔を横目に紫は構わず独白でもするかのように語り続ける。
「時が経ち、天狐は空孤へ猫又は猫魈へ…そんな妖すらも変わって行く位の悠久の時の流れの中で唯一変わらない
貴女を見ているとあの騒がしかった頃が思い起こされるのかしらね…」
「…そーなのかー……?」
と、答えては見るが相変わらずよく判らないといった顔をする。
ふわりと空中のスキマから優雅に降り立った紫は屈んでいる彼女の前に立ち、その小さな額に
ぽんっと手のひらを乗せる。
「貴女は今を楽しんでいるかしら?」
突然妙な質問をする紫。
その表情は微笑んでいるようにも憐れんでいるようにも見えるひどく曖昧なものだった。
ルーミアにはその質問の意図がよく判らなかったがとりあえず大きく頷く。
そしてその度に頭のリボンが愛嬌よくぴこぴこ動く。
「うんっ!友達と遊んだりゆかりとお話したり毎日が楽しいよ。…お腹がすぐ空かなかったらもっと
楽しいかなあ。」
「…」
その答えを聞いて紫は黙り込む。
沈黙を疑問に思って彼女は顔を見上げる。
見上げてみるがこの真っ暗闇の中ルーミアからは紫がどんな表情をしているのか窺い知る事は出来ない。
少し風が吹き始め朧月の明かりが辺りを照らす。
しかし、この森の、この暗闇の中を照らす程ではなかったようだ。
ただ、木々のざわめきだけが木霊している。
「…一人一種族の妖怪は種としての絶滅を防ぐ為に絶大な力をその身に宿すわ。私はこの能力に、貴女はその
存在に…ああ、朽ちし紅き館の門番は例外ね。アレは家族という存在と概念を得てしまった。最早一介の妖怪に過ぎない
…っと話が逸れたわね。そう、そして私達には生物の三大欲求における生理的欲求の中の性欲が欠如しているの、
一人一種族であるが故に必要が無いからね。そのぶん別の欲求が過剰になる。私なら睡眠欲、貴女なら食欲ってところね。」
因みに門番は両方だったのかしらと付け足している紫に向かってルーミアは不服そうな顔を向ける。
「む~…ゆかりの話はいつも難しくて判らないわ。」
そういう彼女の額を紫は優しくなで続ける。
何となく…そう、何となくだ。
見えていないのだが、ある感情が辺りを包んでいるように感じる。
これは悲しみ、いや哀しみ?
紫の感情なのだろうか、と漠然と彼女は思う。
でも何で紫が哀しんでいるのか、サッパリ理由が判らない。
やっぱり気のせいなのだろうか…
頭を撫でられながらそんな事をルーミアは考える。
不意に紫が口を開く。
「貴女は何故自分の周りが暗闇に包まれているのか考えた事はあるかしら?」
「…?そーなのか。私にはよく判らない。」
そう、彼女にとってこの状態が常であって当たり前なのだ。
暗闇に包まれている彼女にとって世界は常に闇であって他を知らないのである。
おそらくは声は聞こえるし形だってうっすらとシルエット程度には見えている。
そこまで苦労した事も無いのだろう。
「そう…そうあれば世界が美しい事を知らずにいられる。時の過ぎる矛盾に気付かずにいられる…
それは貴女の防衛本能なのかしら…」
「?」
ポツリと呟く紫に対して彼女は疑問の表情を呈する事しか出来ない。
突然ルーミアは柔らかな温もりに包まれる。
この暗闇の中紫に抱きしめられていると気付くのに数瞬の時間が必要だった。
「……ゆかり…?」
突然の事に少々戸惑いながらもそのまま身を任せる。
紫は親が子に子守唄を聞かせるかのように優しく語りかける。
「闇はいつだってそこに在る。貴女は変わらず存在し続ける。蓬莱人が風化し、神々が忘れ去られる程の
時の最果て、天も地も既に無く世界は闇に包まれる。その時貴女の封印は解け本来の役割に目覚めるのかしら…」
「本来の役割…?」
何を言われているかまったく判らなかったが、その一言に何か引っかかるものを感じてそう聞き返してしまう。
質問が聞こえたのか聞こえなかったのか、変わらず紫はルーミアを抱きしめたまま話を続ける。
しかし、変わってその口調は淡々としていて何を考えているのかをうかがい知る事は出来ない。
「世界の闇を引き連れて無に還すまで存在し続けなくてはならない…それは咎でも罰でもなく貴女の宿命。
次なる世界の礎、それが貴女の存在の意義。」
なにかすごく大事な事を言っているのかもしれない。
でも彼女にはその内容をちっとも理解できない。
だから、結局口から出る言葉はさっきと同じだ。
「やっぱり、ゆかりの話は難しくて判らないや。」
そう答えると紫は苦笑しながらルーミアを自らの腕から解放した。
そして、代わりに彼女の腕を掴み面と向き合わせる。
この暗い中、金色に揺れる紫の瞳だけが彼女の目に映る。
「…そうね。さっきのは私の独り言。忘れてもらって構わないわ。ただ、これだけは覚えておいて欲しい。
私は私と世界の境界が保たれる限り貴女を見守り続けてあげる。流石にずっとという訳にはいかないけれどね…
去り行く者より残される者の方が辛いものなのだから…貴女にはそんな感覚は無いのかしら?」
思わずルーミアは俯く。
だんだんといなくなってしまう友達。
彼女の中には浮んでは消えていくたくさんの顔が霞がかったように思い起こされる。
寂しくないと言えば嘘になる。
ただ、空腹になるとそのような事を思っている余裕もないのかもしれない。
「…みんながいなくなっていくのは寂しいよ。でもゆかりはまた会いに来てくれるんでしょ?」
暗闇の中深紅の瞳が紫を真っ直ぐと見据える。
対する金色の瞳は僅かに揺らぎ視線を返すことは無い。
「…私には自身の存在の意義を失いかけているの。人の形を保つことすら出来なくなってきている。
そう遠くない未来、私はこの世界に融けていくでしょう。だから私に出来るのは貴女を見守る事だけ…
でも忘れないで、貴女は決して独りではないわ。貴女を想う者が沢山いた事とここにいるコトを…」
そこまで言うと紫はうっすらと暗闇に溶け込むようにしていなくなってしまった。
まるで先程の出会いが束の間の夢だったのではないかと錯覚してしまいそうになるほど痕跡も無くくっきりと。
しかし、紫に抱きしめられたこの温かみだけが夢ではないと告げていた。
後にはルーミア一人残される。
再び月は雲に隠れ完全な闇が森を包んでいる。
風は止み再び辺りは静寂に包まれる。
そして訪れる急激な孤独感。
もう思い出せないが遥か昔はもっと多くの友達がいて周りはいつも騒がしかった。
いつの頃からだろう、この静寂が当たり前になってしまったのは。
「みんな…みんな、消えていく…ぐすっ…わっ忘れたぐなんて…ないのに…
…………っく………ひっく………うぅ…………ぐうぅ………あううぅぅぅう!」
彼女はいつの間にかいなくなっていった仲間達を想い一人涙を流す。
既に顔も思い出せなくなった友達達を想い涙を流す。
次の日にはきっと何事も無かったかのようにケロッとしていることだろう。
ただ、今だけはその深紅の瞳から止め処なく水晶の様な大粒の涙を流し続けるのだった…
― 了 ―
望みはすでに果たされた。
夢は一時であり永遠ではない。
全ての望みが果たされたとき、後には何が残るのだろう…
余りある至福か、はたまた絶望か。
思い残すことなど既にない。
ただ、やり残してきたことが其処にあるだけ。
『一人と独り』
昏い暗い、星一つ顔を覗かしていない曇った幻想郷の空の下、更に冥い鬱蒼とした森の中にもっと暗い…
いや、まさに漆黒と呼ぶに相応しい闇がそこにいた。
その闇は風も吹かずにただ生温い空気が漂うその森の中で何かに勤しんでいる。
闇の正体はルーミアという名の少女だった。
短めに揃えられた金髪に映える大きな赤いリボン、自らを包む闇に似た漆黒の服。
整ってはいるがあどけない顔立ちに深紅の瞳の彼女は満面の笑みで…食事をしていた。
もぐもぐ、パクパクと幸せそうにゴハンを口に運ぶ彼女を見つめる一つの影。
「…おいしい?」
そう問いかける存在はルーミアを少し上から見守るような形でそこに浮んでいた。
正確に言うと空間のスキマのような物に優雅に腰掛けているようだった。
紫色の典雅なドレスを身に纏い、腰まである流れるような金髪の先には幾つものリボンが踊っている。
不自然なまでに美しい容姿に爛々と輝く金色の瞳。
そして、この闇黒の中で日傘をさしているという奇妙な出立ち。
名を八雲紫という。
古くからこの幻想郷に存在していて、妖怪の賢者とも讃えられる大妖である。
「うんっ!美味しい!!」
もぐもぐ、ごっくんと食べ物を飲み込んでから口に付いた食べカスも気にせずにその大妖に対してにっこりと微笑んで応える。
この漆黒の中、人の目には何もかもが無に映るだろう。
しかしそこには、まるで親子のように微笑み合う二人の姿が幻視できるのだった。
変わらず風は無いが幾分空気が和らいで感じる。
「お腹一杯食べたのはすごく久しぶりだな~。本当にありがとうっ!」
そう…と応える紫は相変わらず微笑を湛えており、あの胡散臭いといわれていた表情の欠片も見えない。
そんな様子を見てから、ルーミアは少し逡巡するような素振りを見せる。
「…でも…」
「でも?」
質問をしようか、しまいか少し迷っているようである。
そうな様子のルーミアに落ち着いて先を促す紫。
「…な、何でゆかりはわたしにこんなに良くしてくれるのかなって…わたしは、その…食いしん坊だから
すぐお腹がすいちゃってお友達にも迷惑掛けたりしてて…でも、ゆかりはゴハンをくれるしよくお話も
聞いてくれるし…」
その質問に少し意外そうな顔をする紫。
そして考え込むような仕草をする。
案外、本人にもその答えがしっかり自覚できていなかったのかも知れない。
「う~ん…単なる気まぐれっていう答えではダメなのかしら?」
「う~…」
その答えに不服そうな態度をとるルーミア。
そんな彼女の表情に苦笑してから少し真面目な顔をして答える紫。
「そうね…強いて言うならば懐かしかったから…かしら。」
「…?」
こうして顔を会わせているのに懐かしいという単語が出てきてよくわからないという顔をする。
そんな顔を横目に紫は構わず独白でもするかのように語り続ける。
「時が経ち、天狐は空孤へ猫又は猫魈へ…そんな妖すらも変わって行く位の悠久の時の流れの中で唯一変わらない
貴女を見ているとあの騒がしかった頃が思い起こされるのかしらね…」
「…そーなのかー……?」
と、答えては見るが相変わらずよく判らないといった顔をする。
ふわりと空中のスキマから優雅に降り立った紫は屈んでいる彼女の前に立ち、その小さな額に
ぽんっと手のひらを乗せる。
「貴女は今を楽しんでいるかしら?」
突然妙な質問をする紫。
その表情は微笑んでいるようにも憐れんでいるようにも見えるひどく曖昧なものだった。
ルーミアにはその質問の意図がよく判らなかったがとりあえず大きく頷く。
そしてその度に頭のリボンが愛嬌よくぴこぴこ動く。
「うんっ!友達と遊んだりゆかりとお話したり毎日が楽しいよ。…お腹がすぐ空かなかったらもっと
楽しいかなあ。」
「…」
その答えを聞いて紫は黙り込む。
沈黙を疑問に思って彼女は顔を見上げる。
見上げてみるがこの真っ暗闇の中ルーミアからは紫がどんな表情をしているのか窺い知る事は出来ない。
少し風が吹き始め朧月の明かりが辺りを照らす。
しかし、この森の、この暗闇の中を照らす程ではなかったようだ。
ただ、木々のざわめきだけが木霊している。
「…一人一種族の妖怪は種としての絶滅を防ぐ為に絶大な力をその身に宿すわ。私はこの能力に、貴女はその
存在に…ああ、朽ちし紅き館の門番は例外ね。アレは家族という存在と概念を得てしまった。最早一介の妖怪に過ぎない
…っと話が逸れたわね。そう、そして私達には生物の三大欲求における生理的欲求の中の性欲が欠如しているの、
一人一種族であるが故に必要が無いからね。そのぶん別の欲求が過剰になる。私なら睡眠欲、貴女なら食欲ってところね。」
因みに門番は両方だったのかしらと付け足している紫に向かってルーミアは不服そうな顔を向ける。
「む~…ゆかりの話はいつも難しくて判らないわ。」
そういう彼女の額を紫は優しくなで続ける。
何となく…そう、何となくだ。
見えていないのだが、ある感情が辺りを包んでいるように感じる。
これは悲しみ、いや哀しみ?
紫の感情なのだろうか、と漠然と彼女は思う。
でも何で紫が哀しんでいるのか、サッパリ理由が判らない。
やっぱり気のせいなのだろうか…
頭を撫でられながらそんな事をルーミアは考える。
不意に紫が口を開く。
「貴女は何故自分の周りが暗闇に包まれているのか考えた事はあるかしら?」
「…?そーなのか。私にはよく判らない。」
そう、彼女にとってこの状態が常であって当たり前なのだ。
暗闇に包まれている彼女にとって世界は常に闇であって他を知らないのである。
おそらくは声は聞こえるし形だってうっすらとシルエット程度には見えている。
そこまで苦労した事も無いのだろう。
「そう…そうあれば世界が美しい事を知らずにいられる。時の過ぎる矛盾に気付かずにいられる…
それは貴女の防衛本能なのかしら…」
「?」
ポツリと呟く紫に対して彼女は疑問の表情を呈する事しか出来ない。
突然ルーミアは柔らかな温もりに包まれる。
この暗闇の中紫に抱きしめられていると気付くのに数瞬の時間が必要だった。
「……ゆかり…?」
突然の事に少々戸惑いながらもそのまま身を任せる。
紫は親が子に子守唄を聞かせるかのように優しく語りかける。
「闇はいつだってそこに在る。貴女は変わらず存在し続ける。蓬莱人が風化し、神々が忘れ去られる程の
時の最果て、天も地も既に無く世界は闇に包まれる。その時貴女の封印は解け本来の役割に目覚めるのかしら…」
「本来の役割…?」
何を言われているかまったく判らなかったが、その一言に何か引っかかるものを感じてそう聞き返してしまう。
質問が聞こえたのか聞こえなかったのか、変わらず紫はルーミアを抱きしめたまま話を続ける。
しかし、変わってその口調は淡々としていて何を考えているのかをうかがい知る事は出来ない。
「世界の闇を引き連れて無に還すまで存在し続けなくてはならない…それは咎でも罰でもなく貴女の宿命。
次なる世界の礎、それが貴女の存在の意義。」
なにかすごく大事な事を言っているのかもしれない。
でも彼女にはその内容をちっとも理解できない。
だから、結局口から出る言葉はさっきと同じだ。
「やっぱり、ゆかりの話は難しくて判らないや。」
そう答えると紫は苦笑しながらルーミアを自らの腕から解放した。
そして、代わりに彼女の腕を掴み面と向き合わせる。
この暗い中、金色に揺れる紫の瞳だけが彼女の目に映る。
「…そうね。さっきのは私の独り言。忘れてもらって構わないわ。ただ、これだけは覚えておいて欲しい。
私は私と世界の境界が保たれる限り貴女を見守り続けてあげる。流石にずっとという訳にはいかないけれどね…
去り行く者より残される者の方が辛いものなのだから…貴女にはそんな感覚は無いのかしら?」
思わずルーミアは俯く。
だんだんといなくなってしまう友達。
彼女の中には浮んでは消えていくたくさんの顔が霞がかったように思い起こされる。
寂しくないと言えば嘘になる。
ただ、空腹になるとそのような事を思っている余裕もないのかもしれない。
「…みんながいなくなっていくのは寂しいよ。でもゆかりはまた会いに来てくれるんでしょ?」
暗闇の中深紅の瞳が紫を真っ直ぐと見据える。
対する金色の瞳は僅かに揺らぎ視線を返すことは無い。
「…私には自身の存在の意義を失いかけているの。人の形を保つことすら出来なくなってきている。
そう遠くない未来、私はこの世界に融けていくでしょう。だから私に出来るのは貴女を見守る事だけ…
でも忘れないで、貴女は決して独りではないわ。貴女を想う者が沢山いた事とここにいるコトを…」
そこまで言うと紫はうっすらと暗闇に溶け込むようにしていなくなってしまった。
まるで先程の出会いが束の間の夢だったのではないかと錯覚してしまいそうになるほど痕跡も無くくっきりと。
しかし、紫に抱きしめられたこの温かみだけが夢ではないと告げていた。
後にはルーミア一人残される。
再び月は雲に隠れ完全な闇が森を包んでいる。
風は止み再び辺りは静寂に包まれる。
そして訪れる急激な孤独感。
もう思い出せないが遥か昔はもっと多くの友達がいて周りはいつも騒がしかった。
いつの頃からだろう、この静寂が当たり前になってしまったのは。
「みんな…みんな、消えていく…ぐすっ…わっ忘れたぐなんて…ないのに…
…………っく………ひっく………うぅ…………ぐうぅ………あううぅぅぅう!」
彼女はいつの間にかいなくなっていった仲間達を想い一人涙を流す。
既に顔も思い出せなくなった友達達を想い涙を流す。
次の日にはきっと何事も無かったかのようにケロッとしていることだろう。
ただ、今だけはその深紅の瞳から止め処なく水晶の様な大粒の涙を流し続けるのだった…
― 了 ―
↓
暫くはニコニコなどで人気はあるものの…
↓
自然消滅
いやぁぁぁぁ!
ところでルーミアが美味しそうに食べてたのってやっぱり…人?
いったいどのくらいの時間が経過しているのか。
でも、そんな作品がとても面白いと思いました。
いつかZUN氏が新作を作らなくなっても
私はこの東方を、そして東方が好きだということを幻想にはしたくないですね。
いずれは消え行く作品になるかもしれませんが、少なくとも私はそうあり続けたいですね。
多分あとがきのせいだどうしてくれる
頼む・・・!せめてあと10年はっ・・・!!
データが完全に消えない限り、誰かが見つけてくれると思いたいです。
――幻想物語の初めに出会う「敵」が「闇」であるのはなんとも象徴的だなと――
東方Projectはすごいゲームですよ。
隆盛を極めることよりも大切なことを見失わないでほしいなぁ。…言われずとも、ですね。
俺だって忘れねえぞおおぉ!!
とか言ってみる。
自分はそう信じている!!