ある日の幻想郷。
それは夏の暴風雨の数日後の、よく晴れた日。
「らららら~んらららららら~~ん♪」
霊夢は境界近くの森の中、珍しい物を探して歩き回っていた。
見つけても別に自分で使おうというわけではなく、あれば香霖堂に売りつけようという魂胆だ。
しかしひんやりとした空気が気持ちよく、なんだか下を向いたままもなんなので、前を向いて歩いている。
「らんら~んららららら――って、それにしても激しかったみたいねぇ」
大きな木がばったんばったん倒れている。
なんだか今の快晴が嘘のようだった。空には雲ひとつ見当たらない。
神社の木はあまり被害がなかったが……この辺りは余計に風が強かったのかもしれない。
きっと川の方は大変だろう、もしかしたら河童が流れてるかもしれない。
後で見に行ってみようと、霊夢は木陰で一休みしながら決めた。
「――ふぅ、さて……と?」
また散策を始めよう、と思ったところ、ふと木々の合間に根元から倒れている一本の木を見つけた。
不思議とそれが気になって、近づいてよく見てみた。
どうやら老いた巨木に巻き込まれて倒れたようだ。
こうして見てみると、神社が無事なのがまるで嘘のようだった。
「うわ~~、根っこから……ん?」
周りをぐるぐる回っていた霊夢は巻き込まれた方の木の根元に、妙な物体があることに気づいた。
岩ではない、赤茶けた色の何か。根っこが土ごと引っこ抜かれて、さらに雨が降って土を流したから見えるようになったようだ。
「なんなのかしら……?」
薄い板のようなものが出ているが、その下は膨らんでいるような形をしている。
足元に気をつけながら、穴になっているそこに降りてみた。
よく分からない。錆びていることから、鉄で出来ているようだ。
取り敢えず、幻想郷のものではないようだった。ほぼ間違いなく外の世界のものだろう。
ただ。
「怪しい……」
見えている部分の横幅だけで自身の数倍はある。
下に伸びている感じから、長さもある。すごく大きい。
……。
気になる。
「よしっ」
取り敢えず暇つぶしになるだろうということで、空に出た。
そしてまず、少しは役に立ちそうなのを呼んでくることにした。
目指すは香霖堂。
「――なんだこりゃ?」
「……むむ」
再び謎の物体の前。香霖と、何故か魔理沙も付いてきた。
香霖はそれをじっと見つめる。
ただ、何も言わない。
「ちょっと、名前だけは分かるんじゃないの?」
「そうだぞ、役立たずめ」
「五月蝿い。ちょっとしか見えてないんだから仕方ないだろ?」
「我侭な人ね……」
はぁ、と溜息。
「だったら掘ってみようぜ」
「汚れるから嫌よ」
魔理沙はやる気だったが霊夢は提案を一蹴して、今度は思案する。
(こういうときに役に立つって言えば……)
「香霖! そっち持て!」
……考え中の霊夢の視界に、何故か服を脱いで褌一丁になった変態が見えたが気にせず。
二人が出っ張っている部分を掴んで引くも、なんら効果は無い。やはりかなり大きいようだ。
(……あっ)
霊夢はポンと手を打った。
丁度いいのがいた。幻想郷で力持ちと言えば、あれだ。
「ちょっと待ってて」
――そして、すんなりと見つかった萃香を霊夢が連れてきて、泥だらけになっていた二人は大きな溜息をついた。
「ん~~? なにこれ?」
「知らない。何か知りたいから引っ張り出してほしいと思って」
「頼むぜ……」
「僕らの頑張りは一体……?」
知らない間にかなり苦労したらしいが、成果はまったく確認できない。
ようは無駄な努力だったというわけで。
「ま~そういうことなら任せて~~」
小さな酔っ払いが窪みに入る。三人はとりあえずその周囲から退避した。
「ふんっ……!」
萃香は出っ張った謎の物体の一部を掴んで、引っ張り上げる。
ずずず……
だんだん謎の物体はその姿を現し始めた。
「おおっ」×3
そして。
「よいしょっ」
……ごろん、と謎の物体が完全な姿を現した。
かなり大きい。長さは霖之助の身長と大差なく、円筒形で、全体が錆びているが、壊れている様子は無い。
「……で、なんなの~?」
汚れた手をぷらぷらさせながら、萃香が窪みから出てきた。
「これは……」
「これは?」
「なんだ?」
「……爆弾だな」
……。
「……ばくだん?」
霊夢は小首を傾げた。
「それって、あれか? 導火線で火つけて爆発する……」
「まあそうかもしれないが……」
「そんなのないけど~?」
萃香はぐるぐるとその辺りを回って観察している。
「違うものかもしれん。取り敢えず、そうかもしれないからあまり乱暴に扱わないほうが……って待て!」
持ち上げて下になっていた側を見ていた萃香。
そちら側も変わりはなく、詰まらなそうにしていた。
「取り敢えずは、そっと扱ったほうががいい」
「ん~~」
萃香が言われた通りに地面に置きなおして、霖之助は一度息をついた。
「……で。本当に爆発するかは分からないと」
「まあ、そうだ」
「わりと危険だな……もっと物知りなヤツいなかったか?」
「う~~ん……」
一度思案するが、今すぐに適役は思い浮かばなかった。
と、そこで救世主。
「じゃあ萃める?」
「……あぁ、そうね」
それが一番、手っ取り早い。
「それじゃあ任せて~~」
――そうして、とりあえず神社まで謎の物体を輸送し、それから萃めた。
ざわざわ……
少し萃め過ぎた感もあったが、まずは取り敢えず役に立ちそうな、魔法使いに聞いてみることにした。
「……バクダン? 確かにどこかで読んだことがあるかもしれないけど……」
やはり夏の日差しが辛いのだろう。ふらふらしている。
どうやらあまり詳しくは知らないらしい。次を当たることにした。
月の頭脳と言われるくらいなら知っているだろうと、夏空の下でも涼しい顔をしている永琳に聞いてみた。
「ちょっと、分からないわね。取り敢えずそれらしい危ない感じはするけど……」
「ホント? 分かったわ、ありがとう」
……。
科学文明を知る人物に言われたからか、少し不安になってきた。
「お嬢様、お手が汚れますわ」
「分かってるわ、近くで見るだけよ」
「……」
……なんだか全員危険人物に見えてきた。
「……萃香、あんたはもう近づいたらダメよ」
「えー、なんでよ?」
「やっぱり危ない物らしいの」
特に危険な酔っ払いに釘を刺す。
「お、やっぱりヤバイもんなのか?」
「多分。だけどもっと知ってそうなヤツいなかったかしら……って待ちなさいカッパ!!」
「――ぐぇっ!」
超妖怪弾頭こと河城にとりが工具片手に嬉々として謎の物体仮称『バクダン』に突撃しようとしていたのを、慌てて引き止める。
下手に触られて大変なことになったら適わない……。
「まったく……」
「にとりは何か分かるか?」
「知らないから解体してみようとしたんだけど……」
どいつもこいつも……と小さく呟いた。
いつの間にか射命丸もやってきて、カシャカシャと謎の物体の写真を撮っている。
なんだかんだとしていると、皆自然に謎の物体から一定の距離を取るようになった。どうやら危ない空気は伝わっているらしい。
「あ~~もうっ、誰かこれ何か知らないの!?」
「知らないからこうしてるんだろ?」
「ん~~……紫は?」
「……あ」
「おお、名案だなそれ」
霊夢に捕まっていた萃香の言葉に全員が納得。とりあえず呼んでこようという話で意見は纏まった。
そうして霊夢が向かい、予想通り寝ていたところにけし掛けてなんとか起床させた。その際式神と式神の式神が被害にあったが、起こした霊夢と起こされた紫は気にしていなかった。
「――で、なんなの?」
「謎の物体見つけたから、それが何か知りたいの」
「……それは私が行かないといけないくらい大事なの?」
非常に不機嫌そうにしながらも、紫は支度を整えた。
「なんだか外の世界の『バクダン』っていうらしいわ」
「え? ……ちょっと、それ今どこにあるの?」
……少しだけ表情が硬くなった。どうやらどんなものか知っているらしい。
さすが年増のスキマ妖怪、と霊夢は内心感心していた。
「博麗神社よ。誰も知らないって言うけど、なんだか危ないんじゃな~い? っていう話になって。わりと危ないの?」
「神社で見つかったの?」
「そんなわけないでしょ、境界近くの森で見つけたの。萃香に頼んで運んで貰ったわ」
話すごとに紫の表情は険しくなってゆく。
本当に危険なものらしいことが伝わってきた。
「急いで行くわよ」
「え、やっぱりわりと危ない物?」
眠気も覚めた紫は伸びている式に置手紙を書きながら、答えた。
「わりと最悪よ。戻ってみたら神社が無いかもしれないわね……」
「……」
……軽く、血の気が引いた。
戻ってみると、とりあえず神社はあった。
状況は変わっていなかったが、触りたくてうずうずしているにとりを取り押さえる魔理沙他数名が見えた。
萃香は言いつけを守って他数名と酒を酌み交わしている。
「……はぁぁ」
安心して、大きく息をついた。
「まだ危ないのは変わってないわよ。萃香、悪いけどこれをもう一度持って行ってくれない?」
「えー。まあ、いいけどさ」
杯の酒を飲み干してから、危うい足取りのまま、『バクダン』と判明した物体を再び担ぎ上げた。
「あれがどれだけのものか見せてあげるわ。待ってなさい」
「え? あぁ、うん……」
紫は萃香と『バクダン』と共に森の奥へと進んでいった。
霊夢が残ったからか、他もほとんどその場所に止まっている。
魔理沙が空に上がって、霊夢の隣についた。
「なあ、何が始まるんだ?」
「分かんないわよ」
「霊夢ぅ~~っ! あれなんだったの~~っ?」
日傘の下からレミリアが空にいる霊夢に聞く。
「すぐに分かるって!」
しばし紫たちが消えていった森の方角に目をやる。
するとまず萃香が戻ってきて、その後すぐに紫が戻ってきた。
「後10秒よ」
「なあ、何が起こるんだ?」
「見れば分かるわ」
「……」
紫がカウントダウンを始める。
「――5、4、3、2、1……よく見てて」
「……えっ?」
見えたのは、とんでもない爆発だった。粉々になった森の一部が吹き飛んで、空に煙が舞い上がった。その少し後。
動体視力の高い者や感覚の鋭い者は、それが巻き起こした爆風や地震も感じていた。
――どおぉぉぉぉん……
後から来た音はかなりの距離があるにも拘らず、大気を揺らし、届いてきた。
さらに高く昇ってゆく煙が、よく目立つ。
「「「……」」」
それを見ていたほとんどが、ぽかん、と口を空けていた。
考えていたものよりも遥かに破壊力があったことに、魔理沙と霊夢は乾いた笑いをもらすほかなかった。
「あ……あははは……ギャグじゃ、すまないな、あれじゃ……」
「そ、そうねぇ……あははは……」
その場にいる者の行動は二つに分かれた。
現場に向かうか、残って騒ぐか。
霊夢と魔理沙は現場に行く方だった。
……上空まで行くとその破壊力がはっきりと分かった。
爆心地を中心に薙ぎ倒された木々と、吹き飛ばされた倒木。
凄まじい光景に唖然となったが、興奮している者が一人。シャッターを切る音が止まない。
「なんなんだ、これは?」
「あっちの戦争で使われる兵器なのよ。本当なら、戦争が終わるまでこれが何百と頭の上からばら撒かれるの。怖いでしょう?」
「そ……そいつはまた、豪快だな」
想像できない。しかしそれはさぞ恐ろしい光景なんだろう。霊夢はそう感じた。
「もしかしたらまだ似たような外の物があるかもしれないから、特に霊夢、無闇やたらと怪しい物に触れないようにしなさい。私もわりと冷や汗かいたわ」
今回ばかりは本当に背筋が寒くなっただけに、紫の言葉は身に染みた。
「ふわぁぁぁ……それじゃ、お休み……」
そして紫は眠たげにしながらスキマに消えていった。
空に二人。
「……あ~あ、危なかったな」
これが人間の狂気の一つなのかもしれない。
……こんなものが使われる度に、きっと閻魔様の仕事も忙しくなるのだろう。
「差し詰め人が作った破壊の神ってところか……って、霊夢?」
「……ん?」
「どうした? わりと怖かったのか?」
「まあ、わりとね……」
一歩間違えていれば、今頃影も形も無くなっていたのだ。
妖怪なら無事とは行かないまでもなんとかなったかもしれないが、人間だとそうは行かない。
「わりと、心配したし……」
「お、それはもしかして私のことか?」
「……わりとね。人間だし」
「そうだな、人間だしな」
考えるのも、作るのも、使うのも、使われるのも、恐れるのも、全部人間。
こんなものを大量に作るくらい、外の人間は妖怪などでは無く、同じ人間を恐れているということなんだろうか。
これでは、信仰が薄れるのも理解できる。
「あ~~……だがこれだと、香霖のとこにも実は危険なものがあるのかもしれないなぁ……」
「確かにそうかもね、気をつけなくちゃ」
「爆発してもアイツに関してはこれでもギャグで済みそうだがな。ま、そろそろ戻ろうぜ。みんないるし、このまま騒ぐのもいいだろ」
「ん」
この事件も多少の騒ぎになってから、すぐに消えてしまうだろう。
しかし、いつもより少しだけ霊夢は考えていた。
幻想郷が幻想郷であって、本当によかったと。
アレに比べれば妖怪の起こす異変なんて大したことはない、自分で止めることができるのだから。
もしかしたら妖怪に溢れるこの幻想郷のほうが、外の世界よりも遥かに平穏なのではないだろうか。
人が作った破壊の神。
一旦始まると簡単に止めることのできない最悪の異変。それがきっと、あっちの戦争なんだろう。
「――おお、全員残ってるな」
魔理沙に手を引かれて、霊夢は神社まで戻ってきた。
鬼、河童、天狗、吸血鬼、魔法使い、月の民、それから自分たち人間。
雑多な種が集った神社の境内。
霊夢はそんな風景を見ると、どこか平穏な気持ちになるのだった……
それは夏の暴風雨の数日後の、よく晴れた日。
「らららら~んらららららら~~ん♪」
霊夢は境界近くの森の中、珍しい物を探して歩き回っていた。
見つけても別に自分で使おうというわけではなく、あれば香霖堂に売りつけようという魂胆だ。
しかしひんやりとした空気が気持ちよく、なんだか下を向いたままもなんなので、前を向いて歩いている。
「らんら~んららららら――って、それにしても激しかったみたいねぇ」
大きな木がばったんばったん倒れている。
なんだか今の快晴が嘘のようだった。空には雲ひとつ見当たらない。
神社の木はあまり被害がなかったが……この辺りは余計に風が強かったのかもしれない。
きっと川の方は大変だろう、もしかしたら河童が流れてるかもしれない。
後で見に行ってみようと、霊夢は木陰で一休みしながら決めた。
「――ふぅ、さて……と?」
また散策を始めよう、と思ったところ、ふと木々の合間に根元から倒れている一本の木を見つけた。
不思議とそれが気になって、近づいてよく見てみた。
どうやら老いた巨木に巻き込まれて倒れたようだ。
こうして見てみると、神社が無事なのがまるで嘘のようだった。
「うわ~~、根っこから……ん?」
周りをぐるぐる回っていた霊夢は巻き込まれた方の木の根元に、妙な物体があることに気づいた。
岩ではない、赤茶けた色の何か。根っこが土ごと引っこ抜かれて、さらに雨が降って土を流したから見えるようになったようだ。
「なんなのかしら……?」
薄い板のようなものが出ているが、その下は膨らんでいるような形をしている。
足元に気をつけながら、穴になっているそこに降りてみた。
よく分からない。錆びていることから、鉄で出来ているようだ。
取り敢えず、幻想郷のものではないようだった。ほぼ間違いなく外の世界のものだろう。
ただ。
「怪しい……」
見えている部分の横幅だけで自身の数倍はある。
下に伸びている感じから、長さもある。すごく大きい。
……。
気になる。
「よしっ」
取り敢えず暇つぶしになるだろうということで、空に出た。
そしてまず、少しは役に立ちそうなのを呼んでくることにした。
目指すは香霖堂。
「――なんだこりゃ?」
「……むむ」
再び謎の物体の前。香霖と、何故か魔理沙も付いてきた。
香霖はそれをじっと見つめる。
ただ、何も言わない。
「ちょっと、名前だけは分かるんじゃないの?」
「そうだぞ、役立たずめ」
「五月蝿い。ちょっとしか見えてないんだから仕方ないだろ?」
「我侭な人ね……」
はぁ、と溜息。
「だったら掘ってみようぜ」
「汚れるから嫌よ」
魔理沙はやる気だったが霊夢は提案を一蹴して、今度は思案する。
(こういうときに役に立つって言えば……)
「香霖! そっち持て!」
……考え中の霊夢の視界に、何故か服を脱いで褌一丁になった変態が見えたが気にせず。
二人が出っ張っている部分を掴んで引くも、なんら効果は無い。やはりかなり大きいようだ。
(……あっ)
霊夢はポンと手を打った。
丁度いいのがいた。幻想郷で力持ちと言えば、あれだ。
「ちょっと待ってて」
――そして、すんなりと見つかった萃香を霊夢が連れてきて、泥だらけになっていた二人は大きな溜息をついた。
「ん~~? なにこれ?」
「知らない。何か知りたいから引っ張り出してほしいと思って」
「頼むぜ……」
「僕らの頑張りは一体……?」
知らない間にかなり苦労したらしいが、成果はまったく確認できない。
ようは無駄な努力だったというわけで。
「ま~そういうことなら任せて~~」
小さな酔っ払いが窪みに入る。三人はとりあえずその周囲から退避した。
「ふんっ……!」
萃香は出っ張った謎の物体の一部を掴んで、引っ張り上げる。
ずずず……
だんだん謎の物体はその姿を現し始めた。
「おおっ」×3
そして。
「よいしょっ」
……ごろん、と謎の物体が完全な姿を現した。
かなり大きい。長さは霖之助の身長と大差なく、円筒形で、全体が錆びているが、壊れている様子は無い。
「……で、なんなの~?」
汚れた手をぷらぷらさせながら、萃香が窪みから出てきた。
「これは……」
「これは?」
「なんだ?」
「……爆弾だな」
……。
「……ばくだん?」
霊夢は小首を傾げた。
「それって、あれか? 導火線で火つけて爆発する……」
「まあそうかもしれないが……」
「そんなのないけど~?」
萃香はぐるぐるとその辺りを回って観察している。
「違うものかもしれん。取り敢えず、そうかもしれないからあまり乱暴に扱わないほうが……って待て!」
持ち上げて下になっていた側を見ていた萃香。
そちら側も変わりはなく、詰まらなそうにしていた。
「取り敢えずは、そっと扱ったほうががいい」
「ん~~」
萃香が言われた通りに地面に置きなおして、霖之助は一度息をついた。
「……で。本当に爆発するかは分からないと」
「まあ、そうだ」
「わりと危険だな……もっと物知りなヤツいなかったか?」
「う~~ん……」
一度思案するが、今すぐに適役は思い浮かばなかった。
と、そこで救世主。
「じゃあ萃める?」
「……あぁ、そうね」
それが一番、手っ取り早い。
「それじゃあ任せて~~」
――そうして、とりあえず神社まで謎の物体を輸送し、それから萃めた。
ざわざわ……
少し萃め過ぎた感もあったが、まずは取り敢えず役に立ちそうな、魔法使いに聞いてみることにした。
「……バクダン? 確かにどこかで読んだことがあるかもしれないけど……」
やはり夏の日差しが辛いのだろう。ふらふらしている。
どうやらあまり詳しくは知らないらしい。次を当たることにした。
月の頭脳と言われるくらいなら知っているだろうと、夏空の下でも涼しい顔をしている永琳に聞いてみた。
「ちょっと、分からないわね。取り敢えずそれらしい危ない感じはするけど……」
「ホント? 分かったわ、ありがとう」
……。
科学文明を知る人物に言われたからか、少し不安になってきた。
「お嬢様、お手が汚れますわ」
「分かってるわ、近くで見るだけよ」
「……」
……なんだか全員危険人物に見えてきた。
「……萃香、あんたはもう近づいたらダメよ」
「えー、なんでよ?」
「やっぱり危ない物らしいの」
特に危険な酔っ払いに釘を刺す。
「お、やっぱりヤバイもんなのか?」
「多分。だけどもっと知ってそうなヤツいなかったかしら……って待ちなさいカッパ!!」
「――ぐぇっ!」
超妖怪弾頭こと河城にとりが工具片手に嬉々として謎の物体仮称『バクダン』に突撃しようとしていたのを、慌てて引き止める。
下手に触られて大変なことになったら適わない……。
「まったく……」
「にとりは何か分かるか?」
「知らないから解体してみようとしたんだけど……」
どいつもこいつも……と小さく呟いた。
いつの間にか射命丸もやってきて、カシャカシャと謎の物体の写真を撮っている。
なんだかんだとしていると、皆自然に謎の物体から一定の距離を取るようになった。どうやら危ない空気は伝わっているらしい。
「あ~~もうっ、誰かこれ何か知らないの!?」
「知らないからこうしてるんだろ?」
「ん~~……紫は?」
「……あ」
「おお、名案だなそれ」
霊夢に捕まっていた萃香の言葉に全員が納得。とりあえず呼んでこようという話で意見は纏まった。
そうして霊夢が向かい、予想通り寝ていたところにけし掛けてなんとか起床させた。その際式神と式神の式神が被害にあったが、起こした霊夢と起こされた紫は気にしていなかった。
「――で、なんなの?」
「謎の物体見つけたから、それが何か知りたいの」
「……それは私が行かないといけないくらい大事なの?」
非常に不機嫌そうにしながらも、紫は支度を整えた。
「なんだか外の世界の『バクダン』っていうらしいわ」
「え? ……ちょっと、それ今どこにあるの?」
……少しだけ表情が硬くなった。どうやらどんなものか知っているらしい。
さすが年増のスキマ妖怪、と霊夢は内心感心していた。
「博麗神社よ。誰も知らないって言うけど、なんだか危ないんじゃな~い? っていう話になって。わりと危ないの?」
「神社で見つかったの?」
「そんなわけないでしょ、境界近くの森で見つけたの。萃香に頼んで運んで貰ったわ」
話すごとに紫の表情は険しくなってゆく。
本当に危険なものらしいことが伝わってきた。
「急いで行くわよ」
「え、やっぱりわりと危ない物?」
眠気も覚めた紫は伸びている式に置手紙を書きながら、答えた。
「わりと最悪よ。戻ってみたら神社が無いかもしれないわね……」
「……」
……軽く、血の気が引いた。
戻ってみると、とりあえず神社はあった。
状況は変わっていなかったが、触りたくてうずうずしているにとりを取り押さえる魔理沙他数名が見えた。
萃香は言いつけを守って他数名と酒を酌み交わしている。
「……はぁぁ」
安心して、大きく息をついた。
「まだ危ないのは変わってないわよ。萃香、悪いけどこれをもう一度持って行ってくれない?」
「えー。まあ、いいけどさ」
杯の酒を飲み干してから、危うい足取りのまま、『バクダン』と判明した物体を再び担ぎ上げた。
「あれがどれだけのものか見せてあげるわ。待ってなさい」
「え? あぁ、うん……」
紫は萃香と『バクダン』と共に森の奥へと進んでいった。
霊夢が残ったからか、他もほとんどその場所に止まっている。
魔理沙が空に上がって、霊夢の隣についた。
「なあ、何が始まるんだ?」
「分かんないわよ」
「霊夢ぅ~~っ! あれなんだったの~~っ?」
日傘の下からレミリアが空にいる霊夢に聞く。
「すぐに分かるって!」
しばし紫たちが消えていった森の方角に目をやる。
するとまず萃香が戻ってきて、その後すぐに紫が戻ってきた。
「後10秒よ」
「なあ、何が起こるんだ?」
「見れば分かるわ」
「……」
紫がカウントダウンを始める。
「――5、4、3、2、1……よく見てて」
「……えっ?」
見えたのは、とんでもない爆発だった。粉々になった森の一部が吹き飛んで、空に煙が舞い上がった。その少し後。
動体視力の高い者や感覚の鋭い者は、それが巻き起こした爆風や地震も感じていた。
――どおぉぉぉぉん……
後から来た音はかなりの距離があるにも拘らず、大気を揺らし、届いてきた。
さらに高く昇ってゆく煙が、よく目立つ。
「「「……」」」
それを見ていたほとんどが、ぽかん、と口を空けていた。
考えていたものよりも遥かに破壊力があったことに、魔理沙と霊夢は乾いた笑いをもらすほかなかった。
「あ……あははは……ギャグじゃ、すまないな、あれじゃ……」
「そ、そうねぇ……あははは……」
その場にいる者の行動は二つに分かれた。
現場に向かうか、残って騒ぐか。
霊夢と魔理沙は現場に行く方だった。
……上空まで行くとその破壊力がはっきりと分かった。
爆心地を中心に薙ぎ倒された木々と、吹き飛ばされた倒木。
凄まじい光景に唖然となったが、興奮している者が一人。シャッターを切る音が止まない。
「なんなんだ、これは?」
「あっちの戦争で使われる兵器なのよ。本当なら、戦争が終わるまでこれが何百と頭の上からばら撒かれるの。怖いでしょう?」
「そ……そいつはまた、豪快だな」
想像できない。しかしそれはさぞ恐ろしい光景なんだろう。霊夢はそう感じた。
「もしかしたらまだ似たような外の物があるかもしれないから、特に霊夢、無闇やたらと怪しい物に触れないようにしなさい。私もわりと冷や汗かいたわ」
今回ばかりは本当に背筋が寒くなっただけに、紫の言葉は身に染みた。
「ふわぁぁぁ……それじゃ、お休み……」
そして紫は眠たげにしながらスキマに消えていった。
空に二人。
「……あ~あ、危なかったな」
これが人間の狂気の一つなのかもしれない。
……こんなものが使われる度に、きっと閻魔様の仕事も忙しくなるのだろう。
「差し詰め人が作った破壊の神ってところか……って、霊夢?」
「……ん?」
「どうした? わりと怖かったのか?」
「まあ、わりとね……」
一歩間違えていれば、今頃影も形も無くなっていたのだ。
妖怪なら無事とは行かないまでもなんとかなったかもしれないが、人間だとそうは行かない。
「わりと、心配したし……」
「お、それはもしかして私のことか?」
「……わりとね。人間だし」
「そうだな、人間だしな」
考えるのも、作るのも、使うのも、使われるのも、恐れるのも、全部人間。
こんなものを大量に作るくらい、外の人間は妖怪などでは無く、同じ人間を恐れているということなんだろうか。
これでは、信仰が薄れるのも理解できる。
「あ~~……だがこれだと、香霖のとこにも実は危険なものがあるのかもしれないなぁ……」
「確かにそうかもね、気をつけなくちゃ」
「爆発してもアイツに関してはこれでもギャグで済みそうだがな。ま、そろそろ戻ろうぜ。みんないるし、このまま騒ぐのもいいだろ」
「ん」
この事件も多少の騒ぎになってから、すぐに消えてしまうだろう。
しかし、いつもより少しだけ霊夢は考えていた。
幻想郷が幻想郷であって、本当によかったと。
アレに比べれば妖怪の起こす異変なんて大したことはない、自分で止めることができるのだから。
もしかしたら妖怪に溢れるこの幻想郷のほうが、外の世界よりも遥かに平穏なのではないだろうか。
人が作った破壊の神。
一旦始まると簡単に止めることのできない最悪の異変。それがきっと、あっちの戦争なんだろう。
「――おお、全員残ってるな」
魔理沙に手を引かれて、霊夢は神社まで戻ってきた。
鬼、河童、天狗、吸血鬼、魔法使い、月の民、それから自分たち人間。
雑多な種が集った神社の境内。
霊夢はそんな風景を見ると、どこか平穏な気持ちになるのだった……
でも、実際に幻想郷のほうが遥かに平和だと思うのも確かですよねぇ・・・。
1.使い古された褌、変態ネタを使っている
2.その場合「霖之助」という名を使うべきでない
3.シリアス?な作品にギャグはいらないかも
ということで30点ほど引かせてもらいました。
最初に注意書きでもしておいたほうがいいかと、
どんなキャラでもそれを好きな人がいて、好きなキャラを蔑ろにされたら怒るでしょうから。
幻想入りしたかな?いや、まだか・・・
>その場合「霖之助」という名を使うべきでない
なぜ?(真剣に分からない
それはそうと前ここでこれと同じ爆弾幻想入りネタを見たことあるような…。
初投稿だし、これだけの作品数では似たのがあるのには気付けなかったかな?
チルノじゃなくて
次回からよく気をつけます…
なにも片っ端から読んで全部確かめるにも無理あるもんね?
多少かぶるものはかぶるだろ。
レスレスサーセンw
そんなしがらみを気にするより、書きたい物を書きたい時に書くのが一番、作品の為に良いことです
(勿論、投稿する物については読者のことも考えなければいけませんが)
作品のほうは、「わりと」「……」の多用が後半特に引っかかります
地の文は確かに読みやすく、内容も筋が一直線ですが、それも逆に読みやすさの一因となって
あまり文句をつけるところが無いので、表現の多様化を気にされてはどうでしょうか
ただ、爆弾の概要と集まった皆さんの感想がさらっとあったら、
と思ったけど、どうだろうね、って感じです。
話が特徴的なせいかなんとなくどっかで読んだような、とは感じたけど
あんまり慎重になりすぎないで次回作もよろしくです!
(あなたのように気にする意志が伺える人であれば問題ないでしょうから)
友人たちを雑多な種、というのがちょっと気になりました。
(いきなり褌以外)ストーリーに引っかかりはなかったので、表現を吟味すると更に良くなるかもです。
変態はこーりん、霖之助は常識人の薀蓄兄さんと使い分けとけば、
今後、本文と関係無い所で叩かれる事もないよ。で、俺はこの点数。
香霖堂店主の名が「森近霖之助」で、褌で変態な二次創作キャラが「こーりん」。
まあ、東方二次創作にどっぷり浸かってる人じゃないと区別付かないよね。
よく無事だったなあ、掘り出した面々。
話自体は良いと思いますよ。たとえかぶっているとしても。
霖之助については香霖堂から二次創作まで読まないと呼称が難しいからなあ。