この話は作品集44「類は友を呼ぶ」の続編に当たる作品になります。
良ければそちらもお読みください。
後、一部キャラ崩壊をしておりますので、苦手な方はお戻りください。
ある雨の日
森の端にひっそりと佇む廃屋。
本来なら何物も住んでいない筈のこの廃屋に、今日は何やら気配が有る。
それもそのはず、なぜなら今この場には妖怪達が集っていたのだから。
「では、第二回・苦労人同盟会議を始めます!」
声高らかに叫ぶのは永遠亭に住む月の兎、鈴仙・優曇華院・イナバだ。
「会議と言いますが、具体的に何をするんですか?」
そう質問したのは、この幻想郷の最高裁判長、四季・映姫・ヤマザナドゥだ。
「まぁ、前みたいに愚痴じゃないですか?こんな事もあろうとお酒の用意はありますよ」
楽しそうに言うのは紅魔館の門番、紅美鈴。
「昼間から酒はあまり感心できんぞ」
その美鈴に真面目に返答するのは、人の里の守護者、半獣の上白沢慧音。
「まぁ、偶には良いだろうさ」
軽く笑いながら言うのは隙間妖怪、八雲紫の式、妖獣の八雲藍。
「大丈夫ですかね…………」
心配そうに言ったのは、冥界の白玉楼の庭師、魂魄妖夢だ。
その六名が囲炉裏を囲うように座っている。
一見、共通点など何も無さそうなこの六名だが、ひょんな事からある共通点が発覚した。
その共通点とは、
苦労人である事
だった。
鈴仙は師匠の手伝いやら、てゐの悪戯やら輝夜の我儘やらで。
映姫に至っては言わずもがな。
普段の大変な仕事に加え、サボリ魔の小町が悩みの種だ。
美鈴は頻繁に来る侵入者、霧雨魔理沙と、魔理沙のお陰で冷遇されている現状。
慧音は普段からの人間の相談役に加え、里の近くで問題を起こす者達への対応。
藍は紫の我儘。
橙の世話も苦労の一端ではあるが、本人が楽しんでるのでそれは問題ないようだ。
そして大食い亡霊の幽々子の世話を務める妖夢。
大食いだけでなく、未熟な身では不可解に見える幽々子の言動も妖夢の悩みの種の一つだ。
因みに、皆今はフリーの時間を利用して来ている。
「さて、この中で現状が良くなった方は居ますか?」
立場的にも苦労的にもリーダー格の映姫が尋ねる。
が、誰も反応しない。
「……………居ませんか」
「閻魔様は?」
鈴仙が尋ねる。
「良くなってると思いますか?」
「いえ、全然」
やっぱりな、と思いつつ鈴仙は返した。
「まったく、小町は………暇を見ればすぐサボる。叱りに言っても5分後にはサボる。ならば放置、としたらサボりに磨きが掛かる。腰が立たなくなるまで折檻したらそれを理由にまたサボる。あぁぁぁぁぁぁぁ!!!あのサボり魔はぁぁぁぁ!!!!」
思い出してか、映姫が珍しく取り乱す。
「お、落ち着いて下さい閻魔様!!」
妖夢がなだめる。
「魂魄妖夢!貴女の所の主もですよ!?真面目に管理をしていないでしょう!?」
「あうぅぅ……………」
幽々子の事を責められて妖夢は縮まる。
「あ~………いえ、貴女を責めてる訳では…………あああぁぁぁぁぁ!!!あの穀潰し共めぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
今ここで幽々子の事で責めても、それは妖夢を責めてるのも同意義。
つまり、妖夢に更なる苦労を掛けるようになる。
苦労人同盟のリーダーとして同じ同盟員の朋友(ポンヨウ)に苦労を掛ける訳にはいかなかった。
そして、行き場の無い怒りは叫びとなって放出される。
「まま、閻魔様。これでも飲んで落ち着いて」
美鈴が酒をコップに差し出す。
「貸しなさい!!」
が、映姫は一升瓶の方をふんだくってラッパ飲みをした。
「ちょっ………」
「うわお、凄い飲みっぷり」
美鈴と鈴仙が驚く。
「え、閻魔様…………」
慧音が心配そうに声を掛ける。
「にゃんですか!?こにょていりょで酔うちょ思ってりゅんですきゃ!?」
「見事に酔ってるな」
藍の言うとおり、既に呂律が回ってない。
そんな折、不幸としか言えない、いや自業自得とも言えるか。
そんな状況が起こった。
なんと、不意に横を向いた映姫の目に、廃屋の格子のついた窓から件の死神の姿が映ったのだった。
「げ………」
「あちゃ~…………」
鈴仙と美鈴が声を上げる。
そして
「こまああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁち!!!!」
四季の絶叫が木霊した。
「きゃん!!!」
突然の上司の叫びに思わず身をすくめる小町。
そして、廃屋の方に近寄り、窓から中を覗く。
「し、四季様?」
因みに、映姫同様、小町も今はオフだった。
「こっちに来にゃさい」
映姫が小町にそう言う。
因みに、目は据わってる。
「は、はい!」
言われて小町が廃屋に入って来る。
そして、映姫の所まで行く。
「し、四季様?もしかして酔ってません?」
「だ~れが酔ってりゅんでしゅか!?」
「120%酔ってるな」
「だな」
聞こえない程度の声で藍と慧音が突っ込む。
「し、四季様、お酒は………」
「きょみゃち!!!」
小町、と発音したつもりだろう。
「は、はい!!」
ビクッ!となって姿勢を正す小町。
「大体、あにゃたはにゃんどもにゃんどもしゃぼりゅにゃと…………」
映姫の説教、酔っ払いVerが始まった。
こうなるともう、有難味が全くない。
「災難だな、あの死神も」
慧音が同情する。
「自業自得では?普段からサボってなければ良いんですから」
妖夢はピシャッと言い返した。
「聞いてりゅんでしゅか!?」
映姫が小町に叫ぶ。
「も、勿論ですって!!そ、それよりもお酒が無くなってるようですが………?」
小町は映姫が持っている空の瓶を見て言う。
「む………」
映姫が一気飲みしてしまったので、この場にある酒は、さっき注いだコップ一杯分のみだ。
「よ、良ければあたいが買って来ましょうか?」
小町はそう提案する。
「あにゃたはしゅぐしょうやっちぇ話をごまきゃしょうとすりゅ!!」
「い、いえいえ!ほら!お酒が切れてると気分も切れちゃうじゃないですか!!」
「ああやって何時も凌いでるんだろうな」
「ですね~」
慧音が半ば呆れたように言い、美鈴が同意する。
「む~…………一理ありましゅね」
「あるんだ」
「あるんだな」
鈴仙と藍が半ば呆れたように言う。
「きょみゃち!!」
「は、はい!!」
「しゃけ買って来なしゃい!!」
「は、はい!!!」
「そう言えば小腹が空きましたね~」
何とはなしに、美鈴がそう呟いた。
「………きょまち!!」
少し考えてから再び映姫が叫ぶ。
「は、はい!?」
「鍋!!にゃべ買って来にゃしゃい!!」
「な、鍋ですか?」
「にゃべ!!にきゅとやしゃいとかきゅしゅ(各種)調味料も一緒にでしゅ!!!」
「えぇっと………お金は?」
「あちょで私が経費でおちょしましゅ!!!良いかりゃ行って来にゃしゃい!!!」
「良いのか………?」
「さぁ?」
慧音が妖夢に尋ねるが、妖夢だってそんな事は知らない。
「10分で戻って来にゃしゃい!!遅れたりゃラシュトジャッジミェントでしゅ!!!」
「は、はいぃぃ!!!」
悔悟の棒をビシッ!!と突き付けられて、小町はダッシュで人の里へと向かった。
「10分って………戻ってこれるの?」
鈴仙が尋ねるように呟く。
「大丈夫だろう。あの死神は距離を操れるからな。行きも帰りも一瞬だ」
「あ、成程」
藍の解説に妖夢が納得する。
「まったきゅ………きょまちはいちゅもいちゅも…………」
コップに注がれて居た酒をグイッ!と飲み干して映姫は愚痴る。
「見事なまでのへべれけっぷりだな」
藍が言う。
「しかし、閻魔様とて酒に弱い訳はなかろう?」
慧音が疑問を口にする。
そりゃまぁ、宴会などに顔を出した際に紫やら幽々子やらに強引に飲まされる事が有るので、映姫も酒は強い方だ。
「美鈴。貴女それ、なんの酒持って来たの?」
鈴仙が尋ねる。
「え?さぁ?前に誰かしらに貰ったのが残ってたので持って来たんですが………」
「ん~…………まさか八塩折(やしおり)の酒じゃあるまいな」
藍がそう呟く。
「何ですかそれ?」
妖夢が尋ねる。
「かつて、神話の時代に須佐之男命(すさのおのみこと)が八岐大蛇(やまたのおろち)を退治する際に、酔わせる為に飲ませた酒だな」
歴史に詳しい慧音がそう解説をした。
「それなら確かに酔うかもしれませんが………まさか、私の所にそんなの転がり込んできませんって!!」
美鈴はそう言った。
が、後日香霖堂でもう一本残っていた同じ酒の名を鑑定してもらった所、まさにそれだったと言う。
「しかして、どうします?」
妖夢が言いながら視線だけで映姫を見る。
「どうしたものかな」
慧音も腕を組んで考える。
「ようみゅ!!」
「は、はい!!」
突如映姫に呼ばれて妖夢がビクッ!となる。
「こっち来にゃしゃい」
「は、はい…………」
妖夢は渋々映姫の方へ行く。
「ご愁傷様」
鈴仙は手を合わせた。
「今のあの方にはちょっと近寄りたくないですねぇ」
美鈴がそう言った。
「ああ」
藍が首肯する。
「りゃん!!」
「え?」
が、藍も呼ばれた。
「あにゃちゃもこっちに来にゃしゃい」
「はぁ…………」
溜息を吐いて藍が向かう。
その溜息を吐く様が妙に貫禄が有って、残った三人に凄い哀愁を感じさせた。
藍と妖夢が並んで座る。
「大体でしゅね、あにゃちゃちゃちのありゅじと来ちゃら……………」
そして説教が始まった。
それから7分ほどして。
「ただいま戻りましっきゃん!!!」
ガゴッ!!
鍋一式を買って戻って来た小町の額に悔悟の棒が直撃した。
「おしょい!!」
「いや、見事に10分以内に戻って来たろうに…………」
叫ぶ映姫に聞こえぬ程度の声で突っ込む慧音。
「あうぅ………ちゃんと10分以内に戻って来たじゃないですかぁ」
小町が抗議の声を上げる。
「待たしぇしゅぎでしゅ!!で、買って来ちゃんれしゅか?」
「か、買って来ましたよ~」
酔っぱらいに抗議は無駄と悟り、小町は買って来た物を見せる。
鍋、肉、野菜、調味料、そして沢山の酒。
「よりょしい。だりぇか火を」
「では、私が」
鍋が来た事で解放された藍が囲炉裏に火をつける。
「あ、じゃあ鍋の用意は私がしますね」
藍に続いて逃げるように妖夢が言う。
「こみゃち」
「は、はい!」
再びご指名の小町。
「こっち来にゃしゃい」
「はいぃぃ………」
さっき悔悟の棒を当てられた個所を摩りながら小町は向かう。
「まったきゅ、あにゃちゃと言うもにょは……………ん?」
説教しようとして映姫は何かに気づく
悔悟の棒が無い。
まぁ、ぶん投げたのだから当たり前だ。
探すように映姫はきょろきょろと辺りを見回す。
そして見つける。
「にゃんでわちゃしの棒があんにゃとこりょにありゅんでしゅきゃ!?」
「四季様が投げたからじゃないですかぁぁぁ!!」
問い詰められた小町は非難するように言う。
「にゃげりゅ?わちゃしぎゃそんにゃこちょしゅりゅ訳にゃいでしょうぎゃ!!」
「いや、思いっきり投げたわよ」
「投げましたよね」
鈴仙と美鈴がやはり聞こえない程度に突っ込む。
「取って来にゃしゃいこみゃち!!」
「横暴だぁぁ………」
その意見には誰も反論しなかった。
擁護もしなかったが。
悔悟の棒を拾ってきながら、小町は何とか映姫の気を反らす事は出来ないかと考える。
そして、ふと窓の外を見ると、誰かが見えた。
「あれ?」
ほんの一瞬でも良い。
映姫の気を反らせればと思い、わざとらしく窓の外を見ながら小町は呟いた。
「ん?」
鍋の準備をしていた妖夢以外の者がそれに釣られて窓の外を見る。
当然、映姫も。
「あ、青巫女」
鈴仙が呟いた。
窓から見えたのは妖怪の山の巫女、東風谷早苗だった。
「みきょ?こりゃあぁぁぁぁぁ!!みきょ!!こっち来にゃしゃい!!!」
途端に映姫が叫ぶ。
「ふえ!?」
廃屋から突然叫ばれて、早苗は驚いて廃屋を見る。
見ると、窓から小町が手招きをしていた。
死神の手まねき。
これだけ聞くと凄まじく不吉な事この上ない。
いや、今廃屋に入るのは実際不吉な事この上ないのだが。
早苗は訝しがりながらも、窓の方へ向かった。
「何ですか?一体」
そしてその死神に尋ねる。
「良いから良いから。ここでちょいと雑談でもしないかい?」
小町はそう言って早苗を招き入れる。
小町の魂胆は当然、人身御供だ。
「いえ、そう言われましても…………」
早苗がそう言いかけた時だった。
ポッ…ポッ……
「あれ?」
雨が降り出して来た。
今日はあまり天気が良くなかった為、ついに崩れたようだ。
「ほら、雨宿りも兼ねて寄って来なって」
「ん~………」
早苗は考える。
ここから妖怪の山まではまだ遠い。
無理に突っ切って本降りになられたら、紙袋の買い物袋が非常にまずい事になる。
間違いなく破けて買って来た物が散乱する。
「天気の様子見も兼ねて暫く寄りましょうか」
「そうこなくっちゃ!さ、入っといで!!」
何故そうまで歓迎されるのかは不審だったが、前に幻想郷縁起で見た限りでは、この死神に危険性はないと判断し、早苗は廃屋に入って行った。
「お邪魔しま~す」
「はいは~い、仲間一人追加で~す」
鈴仙がそう言った。
「はい?」
早苗が首を傾げる。
「そうか。お前もそうだったな」
藍が同情するような瞳で見る。
「え~っと…………」
早苗の思考がグルグルと回る。
仲間って何?とか、なんでこの面子?とか、何で私同情されてる?とか色々とだ。
「ここは苦労人の苦労人による苦労人の為の集会場です」
美鈴がそう説明する。
早苗はもう一度面子を見渡す。
そして納得。
彼女らの事は早苗とて宴会などで聞いた事はある。
そして、もう一つ納得。
あぁ………私も同類だ、と。
「悟ったようだな、その顔は」
慧音が問いかける。
「ええ、まぁ………私も二人の神様に手を焼かされてますから」
遠い目で言う早苗。
「けど、あれ?そちらの死神さんは?」
早苗がそう問いかける。
「ああ、これはイレギュラーだ。自業自得の末路でここに居る」
「否定出来ないのが痛いねぇ………」
小町も藍の言葉を否定しなかった。
「みきょ!!」
それまで黙っていた映姫が早苗に向って叫んだ。
「は、はい?」
「こっち来にゃしゃい」
「あ、あれ?閻魔様………ですよね?」
酔っ払っているそれを見て思わず早苗は疑問形になる。
「わちゃしが四季・映姫・ヤミャジャニャドゥじゃなきぇりぇびゃにゃんだと言うんれしゅきゃ!!!」
全くもって呂律が回っていない。
「あ、はい。すみません………」
思わず謝る早苗。
「いいきゃらこっちに来にゃしゃい!!」
「あ、はい」
早苗は買い物袋を置いて素直に映姫の元に向かう。
一方で小町は安堵のため息を漏らしていた。
「人身御供………か」
慧音が呟く。
「いや、ほら、まぁ…………あの四季様はちょっとご遠慮したいなぁって」
「元々は貴女の所為じゃないの?」
鈴仙が小町を責めるように見る。
「う…………」
言われて黙り込む小町。
自覚はあるようだ。
「大体あにゃたは……………はりぇ?」
説教をしようとした映姫は途端に首を傾げた。
「あの、どうかなさいましたか?」
早苗が問いかける。
「あにゃたは誰でしゅか?」
「はい?」
突然不可解な事を言われて早苗も首を傾げる。
「きょみゃち!!」
「は、はい!!」
再び呼ばれてビクッ!となる小町。
「みきょは何処れしゅか!?」
「え?目の前に居るじゃないですか」
小町はそう返した。
「わらしをばきゃにしてるんれすきゃ!?あきゃ(赤)くないじゃないれすか!!!」
「あ、赤くないって…………それだけで判断してたんですか?」
小町が呆れたように言う。
「それ以外ににゃにか!?」
「はい。いえ、何もありません」
反論するだけ無駄だ。
小町はそう考え、口から出そうになった言葉を飲み込んだ。
「ああもう!あにゃたと言う死神は………」
再び映姫の説教が始まろうとしていた。
「はいはいはいはい!お鍋の用意が出来ましたよ!!」
そこへタイミングよく、割り込むように妖夢が鍋を持ってきた。
「お、ナイスタイミング!」
小町が嬉しそうに言う。
そして、妖夢が囲炉裏に鍋を掛ける。
「む………外が本降りになってるな」
藍が窓から外を覗いてそう言った。
「あら、本当。雨宿りして良かったわね」
鈴仙が早苗にそう言う。
「そうですね。酔っぱらいが居なければもっと良かったんですが」
後半は小声で言う早苗。
「まぁ、否定はできん」
慧音もそう言った。
「さて、後は鍋が温まるまで待ちましょうか」
嬉しそうに美鈴が言う。
「随分嬉しそうだな」
藍が問い掛けた。
「そりゃもう!鍋なんて何時以来だか!!」
美鈴はそう返した。
何時以来なのか?と聞きたいが、答えが怖くて聞けない面々だった。
そんな折
ガラッ!!
廃屋の扉が開かれた。
「ん?雨宿りか?」
慧音が呟く。
「はぁ~…………参ったわね……パチュリー様、今日は降らないって言ってたのに」
「こ……この声は…………」
美鈴が来訪者の声を聞いて驚愕する。
「あら?先客?それもこんなに」
気配を察知してか、来訪者は今に入って来た。
「げぇっ!?咲夜さん!!」
美鈴の予想通り、来訪者は紅魔館のメイド長、十六夜咲夜だった。
「何が、げぇっ、よ。失礼ね」
「十六夜咲夜?なんで貴女が?」
鈴仙が尋ねる。
「里に買い物に行っていたのよ。そうしたら雨に降られたって訳」
「ほう。雨宿りをしに来たと言う事は傘を忘れたと言う事か。完全、を名乗るお前らしくもないな」
藍が突っ込んだ。
「しょうがないでしょう。ウチの気象予報士とも言えるパチュリー様が雨は絶対降らないって言ったんですもの」
「パチュリー様が?珍しいですね、あの方が外すのも」
美鈴がそう言う。
「ならば、存外お前に嘘を吐いたのかもな」
慧音がそう言った。
「嘘を?何の為に?」
「さぁな?お前が館に戻って来てはまずい理由でもあるのか、ただ単に本当に外したのか。本人にでも聞いてくれ」
慧音はそう返した。
「まぁ、なんにせよ、このままじゃ帰れないわ」
「咲夜さんは時止められるから、一気に駆け抜けられるのでは?」
「いや、無理だろう」
美鈴の意見を藍が否定した。
「そうですね。時を止めると言う事は降っている雨粒も停止させると言う事ですから、空中に止まっている雨粒の集合体に突進する事になりますね」
妖夢の言う通り、それをやると思いっきり濡れる。
「正解よ。傘をさしてる方がよっぽど濡れないわ」
咲夜がそう答えた。
「いじゃよいさきゅや!!」
途端、また映姫が叫んだ。
「………………閻魔様、よね?」
誰にともなく尋ねる。
疑問符が付くのも無理のない事だ。
普段の映姫を知っている者なら、まず間違いなく疑いたくなる姿なのだから。
「あちゃりまえりゃないれしゅか!!!」
「なんでこんなにベロンベロンな訳?」
咲夜が美鈴に尋ねる。
「さぁ?私が持って来たお酒を一升瓶一気飲みしたらこうなっちゃいましたけど」
「弱いのかしら?」
「紫様達に強引に飲まされてる事も多いから、それはないと思うぞ。現に今までの宴で酔ったのを見た事はないしな」
咲夜の疑問に藍がそう返す。
「にゃにしてりゅんでしゅか!!はやきゅこっちに来にゃしゃい!!」
映姫が自分の横をバンバンッ!と叩きながら叫ぶ。
「はいはい…………何かしら?」
仕方なしに、溜息を吐きながら咲夜は映姫の横に行く。
「え~っと………あの方、本当に閻魔様ですよね?」
早苗が不安気味に小町に尋ねる。
「ああ、正真正銘、幻想郷の閻魔、四季・映姫・ヤマザナドゥ様さ」
「酔っ払ってなければ威厳たっぷりなんだけどね」
小町が返答し、鈴仙が半ば呆れたように言う。
「あにゃたは門番の紅美鈴を苛めてりゅそうでしゅにぇ」
「私が?苛めてなんて居ませんけど?」
「うしょ仰い!!そこに居る本人からはにゃしは聞いてりゅんでしゅよ!!」
映姫が美鈴を悔悟の棒で差しながら言う。
「美鈴?」
威圧の籠った声で美鈴の名を呼ぶ咲夜。
「だ、だって咲夜さん!私が魔理沙の撃退無理なの知ってるのに対応策もないまま私の給料削ってるじゃないですか!!」
美鈴が映姫と言う後ろ盾を得て反論する。
映姫が酔ってなければもっと良かったのだろうが。
「しょの通りでしゅ!彼女に撃退できりゅ程にょにょうりょく(能力)がにゃいのにゃら、上役でありゅあにゃたが対応策を練りゅべきでしゅ!!」
酔ってはいても、この辺りの説教の正当性は染み付いたものだろう。
「否定は出来ないわね。けど、人員不足である以上、美鈴にどうにかして貰うしかないのよ」
「雇うと言う手はないのか?門番も実力者二人くらいにすれば魔理沙の撃退はなんとか出来よう」
慧音が問いかける。
「そうしたいのは山々よ。でも、あそこはお嬢様の館。お譲さまの許しなくして人員の増員は出来ないわ」
「前の私達は?」
妖夢が以前、鈴仙と共に働かされてた事を尋ねる。
「勿論許可はあったわ。因みに貴女達ならいつでも大歓迎よ?」
「遠慮するわ」
「私もです」
鈴仙も妖夢も辞退する。
「門番を務めるからにはそれなりに実力、そして人格的な信用性が必要なのよ」
「まぁ、確かにな」
藍が頷く。
「貴女達の知り合いにこれを満たす者は居る?居たとしても鈴仙や妖夢みたいに既にどこかに収まってるでしょ?」
咲夜の言うとおり、有能な人材は大抵どこかの勢力に入っている。
まぁ、有能なのだから当然と言えば当然だが。
「でも、だからと言って魔理沙を通しても良いと言う事は職務怠慢に他ならないわ。それを防ぐ意味で罰則として給料を減らしてるのよ。後は金策。ウチってそれ程収入多くないから削れる所は削りたいの」
「にゃるほど…………あにゃてゃにゃりの考えぎゃありゅという事でしゅね」
「流石に意味もなく給料減らす程サディスティックじゃないわよ」
「でも、厳しい物は厳しいですよぉぉぉ」
泣き事の様に美鈴は言う。
「大丈夫よ、美鈴。ひとつ打開策が浮かんだから」
「へ?そうなんですか?何ですか?それ」
「あ、鍋が出来て来ましたよ!」
突如妖夢が叫ぶ。
「お、良い感じだね♪」
嬉しそうに小町が言う。
「わ、本当。良い匂い」
鈴仙もそう言う。
「ああ、死神。よそう物はあるのか?」
藍が問い掛ける。
「ああ、問題無い。安目のお椀がセット販売されてたからまとめて買ってきたよ。後割りばし」
そう言って小町は自分が買ってきた買い物袋を漁って取り出す。
「なら、ここにいる全員で食べれるな」
慧音がそう言った。
「え?私も良いんですか?」
早苗が尋ねる。
「良いんじゃないか?鍋は多い方が楽しいしな。ねぇ、閻魔様?」
藍が映姫に尋ねる。
「今日は私にょ奢りでしゅ!好きなだけ食べにゃしゃい!!」
映姫はそう言った。
「だそうよ。山の巫女も十六夜咲夜も、折角だから食べて言ったら?」
鈴仙がそう言う。
「そうね。暫く止みそうもないし、折角だから頂きましょうか」
「それもそうですね」
咲夜と早苗も食べていく事にした。
数十分後
「はぁ………食った食った」
小町が満足そうに言う。
鍋は綺麗になくなっていた。
「ええ、美味しかったです」
上品に口元を拭いながら早苗は言う。
「偶にはこう言うのも良いわね」
同じようにして咲夜も言う。
「あ、そう言えば聞きそびれたんですけど、咲夜さん」
「何かしら?」
美鈴が咲夜に問い掛ける。
「さっき言ってた打開策って何ですか?」
「ああ、それ、私も興味あるわ」
鈴仙がそう言った。
「ああ、あれね。パチュリー様の所で面白い本を見つけたからそれをやってみようかと思うのよ」
「面白い本?」
慧音が尋ねる。
「なんでも、外の世界ではメイド喫茶なるものがあるらしいわ」
「あ~…………ありましたね」
最近まで外の世界に居た早苗が思い出すように言う。
「あ、そう言えば貴女は外の世界に居たんでしたっけ?」
妖夢が尋ねる。
「え?ええ」
「へぇ、参考までに聞きたいわね。どんな感じだったのかしら?」
咲夜が尋ねた。
「う~ん………そもそも、向こうではメイド自体が幻想の様な物だったから、現実で非現実な物を一時的に楽しむ?みたいな感じだったと思いますよ」
「ほう、向こうではメイドは幻想なのか」
今度は慧音が尋ねた。
「少なくとも私の国ではそうでしたね。他の国ではいますよ、現実に。ただし、そう言うメイド喫茶とかで想像されているのとは思いっきりかけ離れてますが」
夢を壊したくない人は現実のメイドを調べない事をお勧めする。
「繁盛して居たのかしら?」
「一時期ブームになったんで、色々建ったり潰れたりが多かったですね。でも、残る所は残っているんで繁盛して居ない訳じゃないと思いますよ」
「なるほどね」
咲夜は早苗の回答に頷く。
「まぁ、里でも紅魔館のメイドに興味のある男は多いらしいしな、案外繁盛するんじゃないのか?」
慧音はそう言った。
「そうね………やってみる価値はありそうね」
「頑張ってくださいね~」
美鈴がそう言う。
「何言ってるのよ美鈴。貴女もやるのよ」
「はい!?」
「当然でしょ?さっき言ったとおり、貴女は霧雨魔理沙に対して全く役に立っていない。加えて、ウチに襲撃に来る奴なんて殆ど居ない。となると、貴女の門番としての役目はあってないような物になるわ」
「ひどっ!!」
「まぁ、門番するなとは言わないけど……あの白黒は連日で来る事が無いから、魔理沙が来た次の日から2,3日は出て貰う事にするわ」
「うへぇ………」
「その代り、そっちで働く分の給料は別に出すわよ?」
「やります!やらせてください!!」
美鈴は咲夜の提案に飛び付いた。
「美鈴の悩みは解決しそうだな」
笑いながら藍が言う。
「で、もう一つくらいインパクト欲しいと思ってるのよね」
誰にともなく言う咲夜。
「インパクト?」
鈴仙が聞き返す。
「そう。たとえばサプライズ人事みたいな」
「それは、紅魔館とは関係ない人がそのメイド喫茶で働くと言う事ですか?」
妖夢が尋ねる。
「ええ。そう言う訳で、妖夢、鈴仙。貴女達出てみない?絶対人が集まると思うわ」
「超絶却下」
「同じく断ります」
鈴仙も妖夢も即効断った。
「残念ね…………ねぇ、そこの天孤。貴女の式借りれない?」
「おい、ふざけてるのか?」
「ふざけてなんかいないわよ。想像してごらんなさい、貴女の式のメイド姿を」
言われて藍を始め、その場にいた全員がメイド服の橙を想像した。
「おかえりにゃさいませ!御主人さま!!………………かんじゃった」
「橙が可愛いのは認めよう。ああ、誰にも否定などさせんさ!!」
妄想から帰って来た藍が叫ぶ。
「だが、それとこれとは別問題だ!」
「そう?社会勉強になるとは思わない?いつまでも過保護じゃ成長しないわよ?」
「それは私が決める事だ。口出ししないでもらおう」
「残念ね………貴女は興味無い?」
今度は早苗を勧誘する咲夜。
「え?私ですか?私は巫女ですから」
「大丈夫よ。霊夢も誘うつもりだし、あの娘なら二つ返事で了承するわ」
それは誰も否定しなかった。
「それでも、やはり止めておきます」
「もう、残念ねぇ………」
本当に残念そうに咲夜は呟く。
そこへ
ヒラッ
「あら?」
突然、咲夜の前に紙切れが舞い降りてきた。
「え?何処から?」
「外?」
「馬鹿な。まだ雨が降ってるぞ」
小町、鈴仙、藍が辺りを見回しながら言った。
雨が降ってれば当然、紙が飛んで入ってくるなどあり得ない。
「…………………妖夢、鈴仙、天孤、山の巫女」
咲夜が四人を呼ぶ。
「なんですか?」
「何?」
「なんだ?」
「なんでしょう?」
四人が返事をする。
「これな~んだ?」
そう言って咲夜は紙を見せた。
そこにはこう書かれていた。
承認 @
了承(一秒) 永琳
女ならメイド服 ゆかりん
女ならやってやれ すわ&かな
「幽々子様ぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「ちょっ!!師匠ぉぉぉぉぉぉ!!!」
「かっこつけやがってとか言って欲しいんですか!?紫様ぁぁぁぁぁぁ!!!」
「何をやってやるか解りませんよぉぉぉぉぉ!!!」
四人が絶叫した。
「これで主の承認は得られたわ。と言う訳で、オープンしたらお願いね」
咲夜が素敵な笑顔で言う。
「じょ、冗談じゃないですよ!!」
「右におなじ!!」
妖夢と鈴仙が真っ先に叫んで拒む。
「私に言われてもねぇ………貴女達の主が行けって命令するんじゃない?」
「うぐっ…………」
「ひ、否定出来ない…………」
「あ、そうだ。閻魔様、貴女の所の死神、貸していただけます?どうせサボってばかりですし」
「ちょっ!?冗談じゃないよ!!」
小町は抗議の声を上げる。
「しょーにん!!」
「マジっすか!?」
あっさりと承認してしまった映姫に驚く小町。
「貴女はしゅこし彼女の下で真面目にはたりゃいて来にゃしゃい!!」
ビシッ!と悔悟の棒を付きつけて言う映姫。
「そ、そんなぁ…………」
嘆く小町。
「あら?雨が上がって来ましたね~」
そんな時、美鈴が外を見ながらそう言った。
「本当ね」
咲夜も外を見てそう言う。
「そろそろお開きにするか。結構な時間居たしな」
慧音がそう言った。
「あ~………四季様どうしよう?」
未だ酒を飲んでる映姫を見て小町が呟く。
「ああ、任せろ」
それを見て藍がそう言った。
「閻魔様、こちらへ」
「ん?なんれすか?」
藍に言われて映姫は藍の元へ行く。
「先ほどから飲み続けられてますから少し横になられてはどうでしょうか?」
そう言って藍は自身の尻尾を差し出す。
「む?貴女の尻尾でですか…………それは良いでしゅね」
そう言って映姫は藍の尻尾の上でゴロンッと横になった。
「ん~………相変わらず良い毛並みでしゅね…………………………………………ZZZzzz」
「寝るのはやっ!!」
鈴仙が驚いて言う。
「ふ………私の自慢の尻尾は泣いてる子供も5秒で泣き止み、10秒で眠りに付く」
「それは凄いな……………」
慧音が素直に驚く。
「あ~っと、お金どうします?」
妖夢が言う。
「流石に酔っぱらった閻魔様のツケには出来ないでしょうねぇ」
鈴仙がそう言う。
「まぁ、閻魔様の沽券にも関わるしな」
藍もそう言った。
「私が立て替えておこう。死神、領収証は切ってあるよな?」
慧音が小町に尋ねる。
「領収証は切ってないね。急いでたからあんたのツケにしてもらったよ。勿論、後で払うつもりでね」
「なるほど。それなら好都合だな。私が後で払っておけば良いか」
「なら、私からも少し出しておこう」
そう言って藍が財布からお金を出す。
「じゃあ、私も」
「私も」
妖夢と鈴仙も続いてお金を出す。
「あ、私も」
そして早苗も出し
「うぐぅ……………私は…………」
お金の無い美鈴は立て替えようがない。
「はい、これ。私と美鈴分ね」
が、咲夜がそう言ってお金を出した。
「さ、咲夜さん………!!」
美鈴は感激したような目に生る。
「この程度の事で感動されても困るのだけど…………まぁ、私も食べたしね」
「それじゃあ、今日はこれでお開きにしようか」
慧音がそう言って、この場は解散になった。
因みに映姫は小町に負ぶられての帰宅となった。
毎日客として規約に違反しない程度にゆうかりんがいじめにきそうだと思うのは。
苦労人同盟もだんだん数が増えてきましたね。そのうち衣玖さんとかも加入したりするんでしょうか?
メイド喫茶・紅魔館に期待しています
そして呂律が回らなくなった映姫がかわゆかった。
そして背景の色も自分にはいい感じでしたよ。この色のままでいいと思います。
次回作待ってます
さて、この書き込みが終わったらちょいと喫茶店のほうに行かなければ・・・
まぁ、幻想郷って結構苦労人多そうですしね~
衣玖さんは当然参加予定ですよ。
>やっぱり主に振り回される苦労人達に幸あれ(笑)
ですね^^;
>そして呂律が回らなくなった映姫がかわゆかった。
自分でも書いてて気に入ったので、そう言って頂けると幸いです^^
>2回までなら触っていいってことですね わかりま(ry
それは次回作をよく読んでください^^
>相変わらず苦労人が多いなぁ・・・・
ですね~
>あいかわらず咲夜はクソだな( ゚д゚)、ペッ
ん~・・・咲夜は色々きついですけど、やさしい所もあると思ってますし、そう書いていきたいと思うんですが・・・そう思われるという事は、まだまだ修行不足ですね(´・ω・`)
四季様…日本語でおk
紫たちが雨を降らせたのは、これに誘導するためだったと。
天才が変態だった結果がこれだよ!!!