作品名にも書きましたが、本作品は地霊殿エクストラステージのネタバレを含んでいます。
なので、「どんと来い!」な人や「もうプレイしたよ」な人のみお進みください。
そういえば前に山登りをした時は神社だけしか目的じゃなかったから他の所って飛行して飛ばしてたんだよねー。あの山って結構広いし、もっといろんな所を見てみたいかも・・・。
途中に面白そうな森もあったし、今日はあそこに行ってみよーっよ。
……と、私、古明地こいしはこの時の私の選択が私にいろんな悲劇をもたらすことになるなんて少しも考えて無かったんだけど。無意識だったし。
~以上導入~
「う、うあー。迷ったぁ……」
森に進入後一時間、無意識に進んでいた私は見事迷ってしまった。お燐が作った怨霊・死体迷路でも迷ったこと無かったのに。私は「ふぅ~……」と言うと、バタリとすぐそこに木の下に小休止のために寝転がった。
すると耳に、潺々、水の流れる音が聞えた。ゆっくりと首を動かして、息を呑んで耳をすました。すぐ近くで川が流れているらしい。
「!」
私は起き上がり、走った。走れこいし!
「とうっ!」
私は腕を胸の前でバッテンに組みながら前方へ飛び、木々の間を飛んだ。もはや走ってないけどそんなことは気にしてはいけない。
──スタッ!
着地! 10.00! さて、川はどこかなっと。
「! 女の子……?」
キョロキョロと辺りを見回すと、少し離れた場所で緑色の髪の毛に赤いリボンをこれでもかってほど付けている女の子と、水色の髪の毛に緑色の帽子を被ってリュックサックを背負っている二人の女の子が仲よさげに話しているのが見えた。無論、無意識な私には気づいていない。
川の事はひとまず置いておいて、私は女の子たちに近寄って話を聞いてみることにした。森から出るヒントがもらえるかもしれないし、好奇心には素直に従えってお姉ちゃん言ってたし。
「……で、山の神様の所に人間を向かわせたわけなんだけど、」
「それで?」
「するとビックリ、さっき言った心を読む妖怪の妹がいたのさ!」
「ずいぶんとまた姉妹で登場場所が離れたわね」
「で、なんか核融合の力を狙ってた感じがしたから人間に倒させた」
「……人使いが荒いわね。というか感じただけで倒させれた妹は大変ね」
……今思えばそうだよね。私核とか何とかの力じゃなくてペットを最強にして欲しかっただけだし。……それにしてもなんで私の話をしてるんだろう? あの子達に会ったことなんて無かったはずだけど。
「妹って事はその子も心を読んで技を盗んできたりしたの?」
「いいや、その子は心を読まないことにして、その代わり無意識で動けるようになったらしいよ」
「無意識……また定義が曖昧な力ね」
「光学迷彩に使えそうなんだけどね。他の人妖から認知されなくなるらしいし」
「いや、どうやって使うのよ」
「それは……ホラ、ロープでグルグル巻きにして体に縛り付けたりして……」
ひどっ! 私の扱いひどっ!
「一体何をやらかそうとしてるのよ……。……というか縛ってどうにかなるものなの?」
「うーん……薬が必要かなぁ……」
なんかすごく危険なことをされそう!?
「いや、やめなさいよ」
あ、よかった! 緑色の髪の毛の女の子が止めてくれた!
「強風の中で火打石だけをあげて火を起こさせて、屈服させる程度でやめておいて上げなさい」
結局ひどい!? どいうか火打石だけ!?
「水で妨害は?」
「状況さえ出来たらあとの調理はご自由に」
さらにひどい!
「…………」
「? どしたの雛」
「……あ、いや、なんでもないわ」
……。…………今視線が合った気がするんだけど……。……そんなわけないよね?
「それよりもセロリ、私家でやってくるのを忘れたことがあるのを思い出したの。だからちょっと処理してくるから待っててくれない?」
「誰!? セロリって! 私は──」
「じゃ、行ってくるわねセロリ」
「せめてちゃんと名前を言ってから行って!」
緑髪の女の子は水色の……セロリ? とかいう女の子の主張を無視してこちらに歩いてきた。
……え? なんでこっち?
──がしっ
「ふぇ!?」
私は腕をつかまれ、そして、そのまま引きずられるようにして緑髪の少女に連れて行かれた。
「こんにちは、古明地さん?」
「な、何!? 何でバレたの!?」
途中で木の枝に当たりまくったり小石にこけそうになりまくったりして、つれてこられたのは小屋のような家のような場所だった。外見はボロく、とても人の住めたような場所ではなかった。
「下の名前は知らないけれど……ムーチョでいいかしら?」
「嫌だよ!? というかそのネーミングセンスはありえない!」
「じゃあ何て言うのよ」
「むぅ……。こいし。古明地こいし。それで一体どうやって無意識な私を認識したの?」
「あなた自身が無意識でも、あなたの体についている厄は無意識ではないわ。だから私はすぐそこにあった厄を見て、そしてあなたに気づいただけ。ね、簡単でしょ? ……まぁまさか今まさに話していた妖怪が目の前にいるとは思わなかったけれど」
「や、厄って?」
「不運の具現。消えない不幸。まぁ何でもいいわ。誰でも持っているただの不幸よ」
「あなた、何者?」
「別に、ただの神様よ」
「神、様? あなたが?」
「あら、別に珍しくもないでしょ? あなたの行った山の上にも居るんだし」
「いや、珍しいとかじゃなくて……」
「じゃあ何よ」
「神様っぽくないなぁって」
「暑いのと冷たいの、どっちがいい?」
「何をする気!?」
「ただ飲み物を出すだけよ。温度は極端だけど」
「正直な感想を言っただけなのに!」
「ところで、無理やり飲ませるにはどうしたらいいかしら」
「それをなんで私に聞くの!? もしかして選択迫ってる!?」
「そういえば今は秋の神様も嘆き悲しむ冬だったわね。これは冷たいのを用意しなきゃ!」
「すごいやる気で嫌がらせしようとしてる!?」
「あ、ちなみに何故かコケてあなたの顔に超冷水がかかるけど気にしないで」
「決定された未来!? 気にするよ!」
「じゃ、あなたのために水を取りに行ってくるわ」
「行かないで! 私のためにも行かないで!」
「ウソニキマッテルデショー、コケタリスルハズナイジャナイー」
「棒読み!? 絶対やる気だ!」
何だろう、この人(?)すごく私苦手だ……。
「そうそう、自己紹介が遅れたわね。私は偉大なる厄神様、鍵山雛よ」
「自分で偉大とか付けた!」
「で、さっきの水色の髪のは『キューカンバー』のコードネームを持つ伝説のエンジニア、河童の河城にとりよ」
「何かすごそうだけどショボそうだ!」
「伝説の厄神『ザ・ヒナ』として鈴蘭畑で彼女と対峙してから久しいわね……」
「対峙したの!? というか鈴蘭畑で大丈夫だったの!?」
「彼女は私を毒で倒し、そして自身も毒に苦しみながら、やっとのことで帰還し『ビッグ・ポロロッカ』の称号を得たわ」
「称号得たの!? というか毒って自滅しただけだよね!?」
「やがて現役引退した彼女は超妖怪弾頭『河城にとり』として幻想郷で平和に暮らしているわ」
「今もってる二つ名のほうが強そうだ!」
「私も、かつて『流し雛部隊』のリーダーでもあった私も、今はただの流し雛軍団団長、鍵山雛。しがない厄神をやっているわ。平和っていいわね……」
「今の方が強そうな軍団持ってる!」
「まぁ冗談はいいわ。さっきの河童は河城にとり。あなたは彼女のサポートする人間と戦ったはずよ」
「え? 人間? もしかしてあの巫女のこと?」
「いや、魔法使いね」
「あぁ、あっちかぁ。あのたまに急に姿が消える」
「そうね。ちなみに消えてたのはにとりの所為だけど」
「あの河童がやってたんだ! あれさえなければ勝ててたのにー!」
「流石にあの魔法使いもノーボムは辛いでしょうしね」
「……それでさ、えぇと、雛はどうして私をこんな所に連れてきたの?」
「こんな所とは失礼ね。ここは私の……言うなれば神社の本殿よ」
「本殿!? ボロい! ……あ、ごめんなさい、お願いだから水を取りに行こうとしないで!」
「この樹海は私の領地みたいなものよ。樹海は神社。あなたは参拝客」
「気づかないうちに参拝してたんだ!」
「ちなみにあの河童は危険だから仮にも、仮にも、仮にも参拝客であるあなたを助けたっていうのもあるわね」
「大事なことだから三回言った!? そこまで参拝客にしたくないの!? というかあの河童の言ってたことって本気だったんだ!」
セロリ改め河童のにとりは危険だと、私は自分の頭に刻み込んだ。
「まぁ私が助けてもあんまり意味は無いんだけど」
「? なんで?」
「だって私、あなたのお姉さんよりもタチの悪い能力の持ち主だもの」
「……え?」
「私は厄を集める厄神。ただ集めるだけ。別に厄を浄化するわけじゃない。だから私の周りにいれば誰だって不幸になることが出来る。ね? 心が丸裸にされるよりもタチが悪いでしょう? 場合によっては妖怪でも死ぬんだし」
「え、えぇと……」
「まぁ、まだそれでも友達になってくれるような変なのがいるし、私のほうがマシと言ったらマシかもしれないわね。あなたのお姉さんは誰も周りにいないんでしょう? 友達も、ペットも──妹さえも」
「…………」
「孤独の辛さはずっと孤独だった者には分からない。でも、そんなずっと孤独だった者も、少しでも孤独じゃなくなってしまえばすぐに──カキ氷を食べた後に頭にキーンと来るように心を開く。まぁ問題はかき氷を食べるまでなんだけど」
「すごくいい話なのに例が悪い……」
「まぁ何が言いたいかっていうと──」
「雛さーん、いるー?」
「あら、お客さんのようね。入ってきていいわよ」
──ガラガラ
「こんにちは……って、先客?」
入って来たのはブドウの付いたへんな帽子を被っている女の子だった。
「紹介するわ。このブドウはこの季節フィーバーな秋の神様、かつて私の戦友でもあった『ザ・ミノ』こと秋穣子よ」
「誰!? というかブドウって言うな! あと今冬なのにフィーバーなんてするわけ無いでしょ!」
この神様は普通に紹介できないんだろうか。
「で、こっちがさっきキャプチャーした地下からの来訪者、古明地……えと……ムーチョ! そう、ムーチョよ!」
「こいしって言ってるでしょ!? 覚えて! というかムーチョしつこい!」
「ム、ムーチョさん?」
「誤解しないで! 私の下の名前はこいしだから!」
「あ、そうそう穣子」
「何? 雛さん」
「この子、最近地上に出てきたの」
「それが、何?」
「しかも姉がいるの」
「…………。…………」
「で、妹のほうが強いのよ」
「──死んで、おねがい」
「ふぇ? はい!?」
「ごめんね! でも私にはもう後が無いの! これ以上人気が下がったら……全生物の中で最下位とかもありえるんだから!」
「なんか妹だってだけで私大変なことになってる!? というか全生物は無いと思う!」
「穣子。弾幕なら外でお願いね。あと環境保護に協力してね」
「許可が出たわ、行きましょう──聖戦へ」
「なんかすごく壮大なことになってる!」
「私は一ボス。エクストトラボスのあなたから見れば飛行戦艦から落ちていく人のよう……」
「ゴミ!? いきなり自虐!?」
「だけど、今の私にはあなたに負けない自信がある!」
「本当に負けそうに無いから困る! とりあえず落ち着いて! というか雛も止めて!」
「さて、三人分の飲み物の用意でもしておこうかしら」
「止める気ゼロだ!」
「今日の気分的に私は二つの湯のみで飲むことにするわ」
「残りの一つは私の分だよね!」
「あ……っと、四人分だったわね」
「何か私の分出さない予定だったっぽいー!」
「水三人分と毒一人分、と」
「しかも不幸な声が!」
「さぁ行くわよ。妹王よ、スペカの貯蔵は十分か?」
「ギャー! ち、ちょっと目につながってるんだからその管引っ張らないで! すごく痛いんだから! って、引っ張る強さが増した気がする!」
そのまま私は秋の神様に表に連行された。……って痛い痛い!
「何かと思って付いてきたら……まさか本当に来てたとはね」
「あら、にとり。いたのね。はじめまして」
「それははじめて出会った時にする挨拶だと思う!」
「じゃあさようなら?」
「帰れってこと!?」
「まったく、付いてくるなんて変態みたいなことをするのね」
「う……いや、それは……」
「あら、否定しないの?」
「ついてきたのは事実だしね」
「変態はいらないわ。消えて」
「いきなり扱いがひどくなった!」
「シッシッ!」
「もはや妖怪として扱ってもらって無い気がする! ……でもさー、雛ー」
「何かしら、クズ」
「ひどっ! ……さっきさ、飲み物をちゃんと『人数分』用意してたよね」
「……何の話かしら? 私が二人分飲んで穣子が一人分。こいしが毒一人分。にとりはいなかったから無いわ」
「…………」
「な、何よ」
「…………やっぱり素直じゃないねー」
「い、言いたいことがあるなら言いなさい!」
「私がいるって知っててちゃんと四人分用意するって言ったんでしょ?」
「は、な、そ、そんなわけ無いでしょ! 何を言ってるの!?」
「照れなくてもいいじゃん。雛は見事私の好感度を上げることに成功したんだから」
「それは嬉しいけど意図して無い!」
「やっぱり嬉しいんじゃん」
「……はぅ」
「そんな素直じゃない雛も私は好きだよ」
「はぅ!?」
家から外に出て、少し進んだところにある開けた場所まで来て、穣子はようやく管から手を離した。そして少し進むと私のほうに振り返った。
「……今まで何人もの人妖は私の名前を間違えたことで死んでいったわ」
「名前間違えただけで!?」
「そしてあなたは、私と同じ『シスター』であったがために死ぬ」
「普通に妹って言おうよ! ……で、でも私はあなたよりスペルカードの枚数もあるし、戦いは避けたほうが……」
「お姉ちゃんは言っていた。『死ね!』と」
「それ普通に暴言吐かれただけだ!」
「じゃあサッサといくわよ! スペルカードセット! ──お姉ちゃん、今回出番の無いお姉ちゃんの分も、私はがんばるよ! 『秋の空と乙女の心──with狂いの落ち葉』!」
「文字通り姉の分もがんばってる!? というか完全にスペルカード混ぜるのはルール違反だと思う!」
「教えてあげる。私の実際の能力は『豊穣を司る程度の能力』じゃない『ルールを無視しても問題が無い程度の能力』」
「博麗の巫女に喧嘩売り出した!?」
って、ツッコミをしてる暇は無い。今にもありえない密度の弾幕が私に迫ってきている。……ここは数で勝負するしかない……!
そう思って私はポケットの中のスペルカードを取り出そうとして、
「ふぇ?」
何かスペルカードとは違う紙を手に取った。というかスペルカードがポケット内に無い。
…………と、とりあえず紙を見てみよう!
『ごめんね、アナザーシスター。でも今回出番が無い私にはこうするしかなかったんだ♪
ばーい穣子の姉♪
ぴーえす♪
盗ったスペルカードはあとで返すね♪』
「嘘ぉ! というか何それ! すごく楽しそうに今の状況ですごく絶望的な事態を引き起こさないで!」
「言ったでしょう。私にルールは通用しないって」
「それ!? それの効果!?」
「じゃ、こいしさん──ゆっくりしね!!」
「アッー!!」
──ピチューン
「ヒドスギル!!」
「あなたの体にはさっき私が手を掴んだ時に厄がついたもの。これくらいのことは『あるある』で済ませないといけないわ」
「取ってよ! 厄!」
「あとでね」
「なんで!?」
「さっき穣子に言われたのよ、『選択によっては幻想郷が一瞬で消滅するわ』ってね。私も幻想郷が可愛いのよ」
「聞こえてるわ雛さん! あと私そんなこと言ってないから!」
あの後私は「やりすぎた。反省はしている、後悔はしていない」と穣子に謝られ、何故か私も謝ることになって、結局全面的に私が悪いってことになり、土下座までさせられた。……踏んだり蹴ったりだ!
……それでとりあえず今は雛の家に戻ってなごんでいる。
「ああそうそう、こいし」
「何!? まだ何かあるの!?」
「ええ」
「あたかもそれが普通であるかのように言わないで!」
「…………」
「な、なに?」
「落ち着いて、聞いて頂戴」
「なにが起こっているの?」
「…………」
「…………」
──トン
その緊迫した空気の中で、私は急に肩を叩かれた。
「ぴえっ!?」
「捕まえたよ。無意識少女コイシ」
「あ、ああああ……か、河童……」
「雛から全部話は聞いたよ。……さて、じゃ、はじめよっか」
「ぴえっ!? 裏切り者! や、や、やややめ……」
今までひどい目に会いまくってきた私はもうブルブル震えている。エクストラボスとしての威厳なんて跡形も無い。
「こらにとり、怯えてるでしょう。やめてあげなさい」
「えー。雛も……本来弄られ役の穣子でさえも弄ってるのに私が弄らなくてどうするの!?」
「あなたはいつも私や穣子のことを弄ってるからいいでしょ」
「でも……それじゃあ八千九百時間もここに潜んでいた私の努力が……」
「一年以上!? 嘘も甚だしいわ!」
「…………!」
「な、なに?」
「そんな……」
「え、え?」
「雛は私の心がこの家に住み着いてることに気づいていなかったって言うの!?」
「知らないわ!」
「あのー、雛さん。話が進まないからそろそろ夫婦漫才やめてもらえる?」
「やってないわ!」
「それは無意識ね。この世の全ての異常現象は無意識で説明が付くのよ、雛さん」
「それ私が言うべき台詞だと思う!」
「雛、夫婦だって……」
「にとりは黙ってて!」
うぅ……専売特許の無意識まで盗られた……。
「そういえば穣子。あなた今日はなんで来たの?」
「え? ああ、お姉ちゃんに妹キャラがいると思うから消してきてって頼まれ──じゃなかった。ちょっと暇つぶしに来ただけよ」
「違うって言ってる割には実行したよね!」
なんだろう、私イジメられてるのかな。
「あら、収穫祭とやらは大丈夫なの?」
「もう終わったわ! 今冬よ!? 秋ナメてるの!?」
「……いい、テンション……」
「にとりさんは黙ってて!」
「秋の神様だから冬にはローテンションになるの?」
「ジャリも黙ってて!」
「ジャリ!? ちょっと知りたかっただけなのにジャリ!? もはや扱いが生き物ですらない!」
「だってあなた漢字にしてみると小さい石じゃない」
「そう言えなくも無いけど別の解釈も考えて!」
……と、まぁ私は結局そのまま弄られて夕方まで過ごした。うん、地上は案外ハードな場所だって事は分かったよ……。
「あら、もう夕方ね。こいしはそろそろ帰らなきゃいけないんじゃない?」
「私だけ!? にとりと穣子は!?」
「あぁ……穣子は今にも手首にナイフを当ててスパッとしそうな姉のところにいると自分もついスパッとしたくなっちゃうらしいから今日は泊まるらしいわ──そこで」
そう言って雛は玄関の戸を親指でクイッと指した。
「いや、泊まる気で来ては無かったんだけど……。それにお姉ちゃんはそうだけど私はそこまで──って、私の扱いひどくない!?」
「にとり、泊まる場合にはあなたに特別に樹海の外を貸してあげるわ」
「暗に帰れって言われた!」
「まぁ冗談はいいとして、もし帰るのなら今のうちよ。樹海の夜は危険だから」
「危険って?」
私もさっきは策略で負けたけど弱いわけじゃない。スペルカードも気づいたらまたポケットに入ってたし、弱小妖怪程度だったら余裕だ。
「私に殺されるわ」
「それは雛が危険なんだと思う!」
「まぁどっちにしろあなたたちは私がいない限り夜の樹海から帰るのは難しいわね。暗いと川も、上を飛んでいたとしても見にくくなるし」
「そうね……。私はお姉ちゃんが心配だから帰るわ。死んでないだろうけどもしものことがあったら困るし」
「私も雛が恋しいけど、まだ核融合パワーの研究で中途半端な部分があってそこを終わらせたいから帰ることにするよ」
「そう、わかったわ。こいしは?」
「うーん……」
私は地霊殿に帰ってからのことを考えた。
かえって、たくさんのペットたちの歓迎を受けて、姉の変な冗談に突っ込んだり、お燐をお空と弄ったり、この場所とは違った楽しみがあそこにはある。
「……私も帰る」
何故かあの場所が恋しく思えた私は、雛の問いにそう答えた。
「そう。こいしは……どこぞの秋の神様みたく迷子だったわね。樹海の出口まで送るわ」
「あ、うん」
「今更その話を持ち出すの!?」
雛の家を出て、少しして見えた川でにとりと別れた。にとりは川にザプンと入るとこちらに一度手を振ってすぐに行ってしまった。そんなに研究がしたいのだろうか。
私と雛、穣子の三人(人?)は、雛を先頭にしてスイスイと樹海の中を走っている川の上を飛んだ。樹海の中を通って妖怪の山に行くにはこれが一番分かりやすいルートらしい。やがて川の先に森の暗さとは正反対の光が見えてきた。さらに飛ぶと、森を抜け、丘のようになっている大きな草原に出た。
「さて、ここでお別れね」
「うん」
「そうね」
「穣子、静葉もあの調子だと何をしでかすかわからないから早く帰ってあげなさいな」
「……そうね。確かに何をしでかすかわからないわね……」
「どんな調子なんだろう……」
「じゃ、また会いましょう。雛さんにこいしさん」
「ええ、また」
「さよーならー」
穣子はこちらに手を振りながら去っていった。
「さて、と」
「?」
「今日は楽しんでもらえたかしら? こいしいじり」
「それ私が楽しいと思ってると思って言ってる!? ……しいて言うならいつも弄られてるお姉ちゃんのペットに優しくしてあげる気が起きたかな……」
お燐、あなたの気持ちが今の私にはすごく分かるよ……。
「……その子とも今度会ってみたいわね」
「地霊殿に来れば?」
「残念。私は樹海からめったなことがないと動かないの」
「え、なんで?」
「私は厄神。厄を集めると同時に人の元に厄が戻らぬように監視しなければいけない。それが私に課せられた義務だからよ」
「…………。……むぅー残念だなぁ。きっと来れば面白いと思ったんだけど」
「あら、そんなに弄られたいの? Mなのね、こいしは」
「そうじゃなくて! こう、なんというか……友達を家に招く、みたいな」
「友達? 私が? 面白いことを言うのね。私の周りにいればみんな不幸になるのに」
「だってあそこまでされたんだから友達くらいなってくれないと困るよ」
「…………ふふ。そんな軽い気持ちで私の友達になろうとするなんて、火傷するわよ? 厄の所為で」
「あなたと一緒にいると大変だっていうのは今日一日でたっぷりと理解したよ……。でも、その上で私は友達だって言ったの」
「……やっぱりこいしは面白いわ。あなたとは……いい主従関係を結べそうね」
「主従!? 友達じゃなくて主従!?」
「これからは『ビッグ・ヒナ』と呼びなさい。奴隷」
「私の身分が果てしなく下だ!」
「まずはピラミッドの建設ね。一人でやりなさい」
「何百年かけろと!? とうてい終わりそうに無いから!」
「建設しながら全く意味の無い場所の掃除も頼むわね」
「無意味なことをさせる!? もはやイジメだ!」
「……くす。やっぱり面白いわ。あなた今度穣子とツッコミで争ってみたら? いい勝負になると思うわよ」
「いや……勝負事は勘弁して……当分やりたくない……」
「……まぁ、お疲れさん」
「……ほんと、疲れたよ」
「じゃ、早く帰ってぐっすり眠りなさい。……永遠に」
「永眠!? 嫌だよ! 私まだ死なないよ!」
「嘘よ。まぁでも疲れたなら寝なさいな。ぐっすり眠れると思うわ」
「そーだねー。うん、そうするよ。じゃ、また会おうねー」
「ええ、また──ああ、そうだ」
「?」
雛は唐突に私に近づくと、いきなり私の帽子を取って頭を撫でた。
「ふ、ふぇっ?」
「……うん。あなたの体にあった厄は取っておいたわ。何をしても当分は幸運続きよ」
そう言うと雛は私の頭に帽子をポフッとのせた。
「……あ、ありがと」
「…………どういたしまして。じゃ、また会いましょう」
「う、うん。またね」
「……そうそう、お姉ちゃんとは仲良くね。あなたの唯一無二の姉なんだから」
「──うん!」
「──ってことがあったんだー」
私は帰宅後、地霊殿の大広間でお姉ちゃんとお燐、お空に今日体験してきたことを話した。
「へー。地上にも面白い奴がいるんですねー」
「……お空も行ってみな、確実に弄り倒されるから……。……弄られることに慣れてない私には辛かったよ……」
「う゛……それはちょっと遠慮したいですね……」
「お燐にはオススメだよ。慣れてるでしょ、ツッコミ」
「無理やり慣れさせられたんですけどね! ……あたいはただのしがない猫車なのに……」
お燐はため息をつきながらそう言った。
すると、今まで黙っていたお姉ちゃんがようやく口を開いた。
「こいし、その方々はこの前迷惑をかけられた神様のいる山の、その麓にいるのですね?」
「え? うん、そうだけど?」
「いえ、少し聞いてみただけですよ」
「あ、そーだー」
「? なんですか?」
「最後に私は言ったよね」
「?」
「雛の『お姉ちゃんと仲良く』って台詞に私は『うん』って」
「!?」
私はお姉ちゃんに抱きついた。
「な、なにをするのですこいし」
「えへへ~。お姉ちゃんあったか~い♪」
「ちょ、お燐、お空、助けなさい。って、お燐なんですか『たまには傍観者に回ってみたい』って! お空はお空で『姉妹丼』って変態ですか!」
私はお姉ちゃんに抱きつきながら『あはは』と笑った。
それならさっさと帰れよw
>1さん
私の悪いクセでギャグを書こうとするとほとんど会話だけになっちゃうんですよね……。次からは気を付けて書くことにします。
>7さん
ちょっと突っ走りすぎたって感じはしてたんですよね……。次のSSの内容にもよりますが、次はもうちょっと落ち着かせて書こうと思います。
>#15さん
ありがとうございます。そう言っていただけると書いた甲斐があったあったという気分になります。これからもこんな感じで書いていこうとは思っていますのでよろしくお願いします。
>17さん
エクストラのにとりルートの撃破後などでペットに力を与えてほしいみたいなことを言ってますよ、こいしは。あとにとりは核融合を諦めたわけじゃなくて雛>核融合なだけです。
腋では?
指摘ありがとうございます。
修正しました。