※注意
・多少ぶっ壊れてるところがあります
・地霊殿の連中が出てきます
・もうエライコッチャです
これらがダメな方はすぐにお戻りください
毒というのは小さい頃から害の無い程度の量を少量ずつ服用しつづけると、抗体ができるらしい。
私もそのパターンだったらしい。
やはりあの時の嫌な予感は当たっていたのか。
これは、相当危険なものだった。
もっと安全なところで試しておくべきだった。
・・・たとえば霊夢とかそこらへんで。
それにしても、一体どこでどう間違ってしまったのだろう。
外には奴らがいる。
ここはもうダメだ。
・・・・・・やるしかない。
私は自分が引き起こしたことを清算しなければならない。
日記というのは人に見られたくない、と言うが、実際のところは、どこかで見てほしいと思っているのかもしれない。
・・・これは日記というより、遺書のようなものかもしれないな。
来世の私よ。もし、この日記を見る機会があったなら、同じ過ちを犯さないでほしい。
自分の大切な世界を守りたいのであれば。
―――霧雨 魔理沙より
そこまで書いて、魔理沙はその本を本棚にしまう。
大切な本を詰め込んだその本棚に結界を施す。
家に張った結界が大きく軋む。
「もう、限界か・・・」
魔理沙は呟き、近くに置いた愛用の箒を手に取る。
「・・・・・・最後の飛行だ。最後までお世話になるな・・・」
そう言うと、箒に跨り、浮かぶ。
その瞳には涙が浮かんでいた。
24時間ともう少し前のこと
魔理沙は暇だった。
アリスは人形製作、パチュリーは新しい魔法の研究と言って家に引きこもっていた。
霊夢の所に行くのは構わないが、たまには違うこともしてみたい。
宴会だとしても、それは夜からになるだろうし、今は真昼間だ。
「・・・・・・暇だぜー」
家に居ても暇なのは解消されないので、外を飛び回って、面白そうな場所を探すことにした。
・・・・・・『あるもの』を持って・・・
実際のところ、魔理沙は暇なわけではなかった。
『あるもの』の効力を確かめたかったのだ。
パチュリーのところの図鑑にも載っていなかったため、新種だとわかった。
新種を自分が発見したと言うことに対する喜びと、それの効力に対する不安が魔理沙にはあった。
3つほどあったので、持ち帰り、研究対象にでもしようかと思っていた。
もちろん、魔理沙の言うところの『研究』とはそれの効力を自分自身の体験、他人の体験をもとに調べることだった。
3つのうち、1つは自分に使ってみた。が、あまり効果がわからなかった。
毒は小さい時から服用しつづけると効果が薄れていくと言う話を聞いたことがある。
自分もそれなのかもしれない。そう思い、被検体を探していた。
かなり危険なものかもしれない。
だとしたら、親友である霊夢たちに食べさせるのは少々気が引ける。
何しろ、見た目がヤバイ。
本能に「これは危険だ」と語りかけてくるような見た目をしている。
自分でもよく食べたものだと感心する。
「・・・さて、誰に食べさせるかな?」
魔理沙は空を飛びながら思案する。
紅魔館、マヨヒガ、白玉楼、人間の里、永遠亭、無縁塚、妖怪の山、地霊殿・・・。
どこかにいい人材は居ないかと考え、ある人物にいきあたった。
「・・・・・・アイツなら少しくらい何かあっても大丈夫かもしれないな」
我ながら名案だ。
そう思いながら、魔理沙は箒の先を上に向ける。
――行き先は天界、有頂天。
「・・・・・・暇潰しだからって、私に勝負を挑んでくるとはね。よっぽど暇なのね」
魔理沙の前には天子が立っていた。
お互い八卦炉と緋想の剣を構えている。
「あぁ、暇すぎて、とうとうこんな所まで来ちまったぜ」
けしかけたのは魔理沙だ。
暇だから勝負だ、と言う訳のわからない理由で戦いが始まった。
魔理沙のその理由もアレだが、それを受ける天子もアレだった。
二人はある程度の本気で戦っていた、が、しばらくすると、魔理沙が押されだした。
「その程度の実力で私に挑んでくるなんて、泣けてくるわ」
「・・・・・・まぁ、そう言うな。今日の私にはこれがあるんだからな」
そう言うと、魔理沙はポケットの中からキノコを1つ取り出した。
「このキノコはな、食べると自分の身体能力、魔力それからその他諸々を強化するキノコなのさ! これで形勢逆転だぜ!!」
魔理沙は大げさな身振りで、それを口に運び、口に入る寸前で、
「うわっ!」
落とした。
地震が起きたからだ。
魔理沙が見ると、天子は緋想の剣を地面に突き立てていた。
そして、そのままもう2、3度地震が起きる。
地震が収まり、魔理沙が体勢を立て直したときには、キノコは天子の手にあった。
「っ!! しまった!!」
魔理沙は慌てる。
それを見て、天子は勝ち誇ったような表情で言う。
「つまり、これが貴方の切り札ね? じゃあ、遠慮なく、いただきまーす」
そのまま、天子は手に持ったキノコを食べた。
もう、その瞬間に魔理沙はニヤニヤが止まらなかった。
あのキノコが『あるもの』なのだ。
天子のほうが優勢だったのも、わざわざ説明をしたのも、わざと大げさな身振りで食べようとしたのも、全て、このためだったのだ。
そんなことも知らず、天子はキノコを飲み込む。
さぁ、どうなるのか?
この間のやつはアリスに食べさせたら、頭にたくましいのが生えた。親の遺伝を強力に発現させる物だったらしい。
別のはパチュリーに食べさせた。喘息が治った代わりに、頭が春になってたっけ。一週間くらいしたら喘息といっしょに効果が切れた。
とにかく、何か起こることは間違いない。
キノコ暦何年やってると思ってるんだ。
あの手のキノコは間違いなく何かが起きる。
全財産賭けてもいい。絶対に勝つから。
そんなことを考えていたが、一向に変化が見られない。
・・・というより、飲み込んでから天子がまったく動かなくなった。
完全に放心状態だ。
目の焦点が合ってない。
口も開いたままだ。
さすがに魔理沙も不安になった。
即効性の毒で、食べた瞬間ポックリなんて話もたまに聞く。
とりあえず、確かめようと、近づき、声をかけてみる。
「・・・・・・おーい、大丈夫・・・か?」
そう言って、魔理沙が触れた瞬間、天子が突然動いた。
目の焦点もしっかり元に戻っている。
しかし、動いたはいいが、その動きは、いろいろと素晴らしかった。
「スッパてんこおおおぉぉぉっっ!!!」
叫びながら、たった一回の動作で服を全て空中に放った。
「ちょっ、ちょっと待て!!」
目の前でそんなことをされるのだから、魔理沙はもう真っ赤だ。
自分の目隠しで精一杯だった。
「・・・・・・これが、『スッパ』ということなの!?」
必死に見ないようにする魔理沙を無視して、天子は何か感動していた。
「・・・衣服という柵の一切ない、全てを開放した感覚・・・。何故、今までこんな素晴らしいことに気付かなかったのかしら?!」
魔理沙は、もうどうしたら良いかわからなかった。
しかし、1つ何か嫌な予感がした。
直感的な何かだ。
魔理沙はそれを理解する前に、行動にでていた。
しかし、ほんの少し、直感を行動に移すまでのたかだかコンマ1秒程度の遅れが、全てを手遅れにした。
伸ばした手は届かず、天子は天界の端に浮かぶ。
「こんなに素晴らしいものは、皆に知ってもらうべきだ!!」
天子はそう叫び、どこからともなく取り出したスペルカードを掲げた。
「やめろっ!! それはダメだ!!!」
魔理沙の叫びは天子に届くことなく、スペルカードは宣言された。
「―――『全人妖はスッパてん』!!!!」
天子から緋色の光が地上に降り注いでいく。
魔理沙はそれを見ながら、
あぁ、あれは『全人類の緋想天』が元だったんだろうな。とか、
きっとあのキノコは脱衣効果と全能力強化があったんだろうな。とか、
やたら冷静になっていた。
地上では大変なことになっていた。
紅魔館では、レミリアとフランドールが脱ぎ、咲夜が鼻血の海に沈みながら脱ぎながら美鈴の服を切り、逃げ出した先の図書館ではすでにパチュリーが小悪魔にいろいろされての後だったり、それに絶望した瞬間に光を受けて僅かに残った服の破片を自らただの布にしたりしていた。
マヨヒガでは、藍がいつものようにスッパし、紫もそれに続き、逃げかけた橙もスキマにつかまり、しっかり光を受けて覚醒した。
白玉楼では、幽々子が暇潰しに集めた春で咲いていた桜が全て散り、幽々子は普通に、妖夢は「こんなもの、こうだ!!」と楼観剣で自分の服を切り裂いた。
人間の里では、慧音が一番初めに覚醒し、「そんな歴史、無かったことにしてやる!!」と、村人の服全てを消し去った。
妹紅も自らの炎で焼ききった。
永遠亭では、鈴仙が日頃の鬱憤を晴らすため、他の兎たちの服をはぎ取ったり、永琳が覚醒したことでてゐに助けを求めた輝夜が、「服を着ている? それは罠!」と服の下に隠していた鏡で光を反射されて、覚醒した。
無縁塚の方では、スッパした小町がスッパした映姫に「有罪!!有罪!!!」としこたま叩かれていた。小町としては何のことだかはさっぱりだとか。
妖怪の山では、せっかく完成した改良型光学迷彩スーツを「全裸のほうが良い!!」と、にとりがぶっ壊したり、それを千里眼で見ていた椛の服を射命丸がカメラで消して、「これって弾幕だったのか・・・」と椛が驚愕している間に光があたり覚醒した。
地下では、ヤマメがキスメの桶を覗いて、鼻血を吹き出し、その後にパルスィが「妬ましい!!」とか叫びながら暴れまわったりして、キスメに『脱いだら凄いです』とか『桶はハンデです』とか言う二つ名がついた。
地霊殿では、こいしが突然スッパし、初めてこいしの心が読めた(「スッパ!!」だったとか)さとりが感激しながらスッパし、ペットたちもそれに続いた。
それを天界で見ながら、魔理沙はいろいろと絶望していた。そして、始めに口に出た言葉が、
「あぁ、もうダメかもわからんね・・・」
だった。
そんな魔理沙の様子も気にせず、天子は魔理沙の方に向かってくる。
「さぁ、貴方も素晴らしい『スッパ』の世界へいらっしゃい」
そうして、天子は魔理沙に手を差し出す。
しかし、魔理沙はその手を叩き、八卦炉を構える。
「絶対に断る!! それよりも、下のやつらを元に戻せ!!」
八卦炉に魔力を込めながら叫ぶ。
しかし、天子はそんなこと気にならないというように近づく。
「くそっ!! ―――恋符『マスタースパーク』!!」
魔理沙は天子に魔砲を一発撃つ。
至近距離からの発射で、回避するのはほぼ不可能だ。
閃光が天子を飲み込む。
これでスペルブレイクしてくれれば・・・
そう願いながら撃ち続ける。
しかし、現実はそう甘くなかった。
「そんな・・・・・・」
天子は無傷で立っていた。
「効いて無いなんて・・・」
それほどまでにあのキノコは強力だったというのか!?
そんなに危険だったのか!
なんて物をなんて奴に食べさせたんだ、私は!!
魔理沙は箒に跨り、その場から最高速で逃げ出す。
どこへ逃げるのかはわからない。
とりあえず、スペルが解除されるまで逃げつづけよう。
きっと数人くらいは生き残り(?)が居るはずだ。
そう思い、地上を目指した。
「スッパしろー!! 逃げられると思うなー!!」
後ろで天子が叫んでいた。
地上に降りるにしたがい、絶望感はどんどん強くなっていく。
空から見下ろすと、どこを見ても、スッパ、スッパ、スッパ・・・・・・。
ある程度力のあるやつは、ZUN帽だけかぶっている。
「・・・まるで地獄絵図だ・・・」
もう、そうとしか言えなかった。
見つからないようにひっそりと地面に降り立つ。
空を飛んでいると、すぐに見つかる可能性があるからだ。
しかし、ほんの僅か進んだ時点で、あっという間に見つかった。
「魔理沙さん・・・、そんな、貴方がそんな人だったとは・・・」
目の前に立っているのは早苗だった。
「私は元からこうだ。変わったのは他だ!!」
魔理沙は叫ぶ。
早苗も他と同じで、スッパしていた。
もうこうなると、緑色の髪色をした変な人だ。
「スッパは信仰の証なんです!! スッパこそが信仰なんです!!!」
魔理沙はなんだか面倒になり、目を隠すのもやめた。
「信仰しないのならば・・・」
早苗はどこからとも無くスペルカードを取り出す。
一体どこにしまっていたんだろうか、という疑問はもう浮かばない。
「・・・・・・死あるのみです!!―――開海『海が割れる日』!!」
弾幕に囲まれながらも、魔理沙は、
あぁ、スペルまではおかしくならないのか。
とか、もうなんだかさっきから変なところで冷静になっていた。
人はそれを混乱していると呼ぶとか呼ばないとか。
しかし、いろいろと覚醒して能力も強くなっているのか、弾幕密度が濃い。
「・・・これは、辛いぜ」
だんだん避けるのも辛くなってきた。
それよりも、普通ではありえないほどのスペル維持時間だ。
これもあのキノコとスッパの影響なんだろうか。
いろいろと考えをめぐらせている間も、どんどん密度が濃くなっていく。
ふと、気付くと、目の前に弾があった。
「しまった!!」
避けられない。
そう思った瞬間、弾が消えた。
「!? 一体何が・・・」
早苗の方を見ると、一枚の座布団が直撃していた。
比喩ではなく、本当の座布団。
しかし、それだけで、誰がやったのかはよく分かった。
「霊夢!! 無事だったのか!!」
親友が無事だった。
そう思い、魔理沙は振り返る。
「早苗・・・、アンタなんてことを!!」
叫ぶ霊夢を見て、魔理沙は意識を失いかけた。
「・・・・・・現実ってのは、残酷だぁ・・・」
そこに立っていたのは、袖だけをつけた霊夢だった。
その他のものは無い。しいて言うなら他には、頭に付いている大きなリボンくらいだけだった。
「・・・霊夢さん? 私は信仰の為に・・・」
「信仰の為に全てを捨てるって言うの!?」
「・・・えっ?」
ほぼ放心の魔理沙を完全に無視し、霊夢は早苗の前に立ち、叫ぶ。
「2P巫女とさえ言われたアンタが! あの袖を捨ててどうする!! 腋を捨ててどうする!!」
早苗は困ったような表情で返す。
「し・・・信仰の証はスッパなんです! 袖はあってはならないものなんです!!」
「信仰が何だ!! アイデンティティーを犠牲にしてまで集めるものなのか!?」
もう二人は止まらない。
魔理沙は完全に置いてけぼりだ。
「信仰のために私はこの世界に来ました! 外の世界を捨てて!! 信仰のためには犠牲は必要なんです!!」
「分らず屋めっ!!! その考え方、私が叩きなおしてやる!!!」
二人は互いに弾幕を展開する。
魔理沙はまだ放心状態。
「信仰が無い世界ほど廃れやすいものは無い!!」
「そのために自分を犠牲にして良いなんていうことは無い!!!」
決着はあっという間についた。
霊夢が圧倒的に勝った。
早苗は地面に落ちる。
「そんな・・・、信仰の力が・・・」
「・・・・・・アイデンティティーの無い者が、それのある者に勝てるわけが無い」
「しかし、信仰は・・・!」
「・・・どうして、自分の能力を使おうとしないの?」
「!?」
霊夢は早苗の肩に手を置く。
「私の能力は『空を飛ぶ程度の能力』、つまり、無重力。何にも縛られない。この袖は『スッパ』という考えに縛られていないと言うこと。
・・・この世界で、袖をつけていられるという事は、無重力の私以外、本来は考えられない。つまり、」
「袖自体が・・・『奇跡』・・・」
「貴方の能力はなんだったかしら?」
「・・・『奇跡を起こす程度の能力』・・・」
霊夢は微笑む。
「信仰の為に自分を犠牲にする必要は無いのよ!!」
早苗の表情が明るくなる。
「本当・・・ですか!?」
「さぁ!! 2P巫女の名前を再び呼び戻すのよ!! 幻想郷の巫女はもう2人なのよ!! それは不変よ!!」
「・・・・・・奇跡よ!!!」
放心から覚めた魔理沙はいいかげん嫌になった。
目の前に居るのは、
袖だけつけた、かつての親友だった赤いの。
奇跡を起こした、もともと変だった緑の。
それが並んで立っていた。
頭が痛い。
誰か助けてくれ。
もうダメなのか?
幻想郷は終わりなのか?
・・・そんなことは無いはずだ。
きっと何か出来るはず。
スペルさえ解除されればきっとどうにかなるはず。
「さぁ、早苗・・・」
「はい、霊夢さん」
「目の前の!」
「白黒の服を!!」
「「いざっ!!」」
2人同時に魔理沙に向かって走る。
「捕まってたまるかっ!!」
箒で逃げ出すが、霊夢の投げるリアル座布団は質量もあって邪魔なことこの上ない。
そのうえ、撃ち落すと綿をぶちまけるおまけ付きだ。
「ちくしょう!!」
すぐそこに2人が迫ってきている。
もう逃げられない。
そう思ったとき、空が光った。
「――雷符『エレキテルの龍宮』!!」
「「っ!!!」」
2人は突然の雷の壁にぶつかり、感電。
そのまま気絶した。
随分な電力だったのだろう。
とりあえず助かったが、魔理沙はそれよりも、目の前の存在に驚愕していた。
「・・・大丈夫でしたか?」
魔理沙を救ったのは衣玖だった。
いつもはかなりのんびり飛んでいる衣玖が、自分とあの2人の間にスペルをねじ込んだことも驚きだったが、
なにより、服を着ている。いつも通りの服装だ。
「な・・・何で、嘘じゃ・・・ないのか?」
魔理沙は一応箒に手をかけながら聞く。
衣玖は何とも普通に答える。
「映画などでこのような状況になると、大体は、1人くらい味方が居るんです。そこで、空気を読んでその役目をして差し上げようかと思いまして」
魔理沙は感動した。
『空気を読む程度の能力』万歳!!
それほどに感動した。
「さぁ、逃げましょう! スペル効果が消えるまで!!」
衣玖は魔理沙を引っ張り、魔法の森の中へ入っていった。
・・・・・・・・・・・・。
随分長く隠れていた気がする。
だというのに、いまだにスペルが切れる様子が無い。
「どういうことなんだ?」
魔理沙はいろいろ頭の中を整理する。
あのキノコは確かに食べた人の能力を身体強化する効果はある。
私が食べても一応わかるくらいだった。
身体能力を強化するキノコは、一部には強烈な副作用のある物がある。
きっと今回はそれに当たったんだろう。
だからといって、強烈すぎやしないだろうか?
その手のものは、木などに寄生する際に、宿主が枯れないようにするためのものだ。
それか、自分の子孫をのこすために、有利な条件を作るためだ。
本来なら、そうだ。栄養満点のものを除いたら、この辺の身体能力強化はそういったものだ。
・・・そもそもあのキノコはどこで採ったものだった?
うちの近くだ。
うちの近くで関係のありそうなものは何がある?
「・・・・・・まさか」
そこまで考えたところで、魔理沙の頭に、1つ、最悪な可能性が浮かんだ。
「衣玖、私の家だ。資料があるかもしれない」
立ち上がろうとして、衣玖に止められた。
「・・・・・・霧がでてきました」
衣玖が辺りを警戒する。
魔理沙も辺りに注意をめぐらせる。
こんな変な時間に霧が出てくるなんて。
そう思った瞬間、嫌な予感が浮かんだ。
「・・・まずい! 衣玖!! 逃げるぞ!!」
「えっ!?」
さっきとは逆に、魔理沙が衣玖を引っ張る。
箒で全力で家のほうに向かう。
「何なんですか?」
衣玖は困惑している。
魔理沙はそれにすら答えず、全速力で飛ばす。
しかし、現実は甘くないと感じたのは何回目だろう。
霧が一点に集中してきた。
間違いない。
アイツだ。
箒を急旋回させるが、間に合わなかった。
「まぁまぁ、お二人さん待ちなって」
目の前に現れたのは、もういい加減に見飽きたスッパな人。
人というよりも、鬼。
萃香だ。
「そこをどかないと、魔砲でぶっ飛ばすぞ」
八卦炉を構えるが、怯みもしない。
「服を着たのが2人も居るんだからね。そりゃもう、スッパさせるしかないでしょ」
もう嫌だ。
きっとこいつにもマスタースパークは効かない。
何か解決策は無いのか。
「諦めてはダメです」
衣玖が前に出る。
「衣玖・・・」
「・・・映画などのラストのほうではもう一人の味方は、主人公が進む為に戦うんです」
「じゃあ、まず始めにそっちからでいいのかな? スッパはいいよ~」
手をワキワキさせながら近づいてくる萃香に、衣玖は怯まない。
「行ってください。ここは私が引き受けます」
「・・・たとえその先にバッドエンドしかなかったとしてもか?」
「たとえそうだとしても、こういう場合は、主人公を進ませるべきなんですよ。空気を読むのが私の能力です」
衣玖の真後ろにはもう萃香が立っていた。
「お話は済んだかな? じゃあ、さっそく・・・」
「―――棘符『雷雲棘魚』!!」
「ふぎゃ!!」
触れようとした萃香を電気で弾き飛ばし、魔理沙の方を一瞬向く。
「早く!! 行ってください!!」
向こうでは萃香がもう起き上がりはじめている。
魔理沙は箒に再び魔力を込め、全速で飛び出す。
「衣玖、すまない!!!」
かつて幻想郷最速を自負していただけのことはある。
もう衣玖からは見えなくなった。
「いたたー、やってくれるねぇ」
後ろに萃香が完全に体勢を整えなおして立っていた。
「・・・・・・私が電気を纏っている限り、手は出せませんよ?」
そういう衣玖に対し、萃香はニヤリとした。
「私の能力を知ってるかなぁ?」
「?」
「『疎と密を操る程度の能力』、だから、こんなことも、」
萃香がスッと手を動かすと、緋色とも桃色とも、何ともいえない不思議な色をした霧が衣玖をつつむ。
「できるんだなぁ」
そう言った瞬間、衣玖の中に電流が走った。
もちろん比喩表現だが。
「これは・・・、一体」
体が火照る。
今まで感じたことの無い感覚。
「私は人の想いも萃める事ができるのさ。今、アンタに集めたのはもちろん『スッパ』の想い」
「く・・・」
どんどん体温が上がっていく。
熱い。
「そうだねぇ、もう一押しくらいかな?」
そう言って、萃香は再び手を動かす。
「・・・あぅ」
さらに体温上昇。
「・・・これだけの『スッパ』の想いがあふれてるんだから、」
萃香は耳元で囁く。
「空気・・・読んじゃいなよ」
その一言で、衣玖の理性は崩壊した。
「衣玖、スッパします!!!」
主人公を先に進ませた人物は大抵そこでゲームオーバー、というお約束の空気を読んだらしい。
魔理沙は自分の家に着いていた。
中に入り、結界を施し。
結界を施し。
また施し。
もう1枚。
何重にも結界を張った。
「これで、しばらくは持つだろう」
そう言い、足元に散らかった物をどかす。
「・・・――スッパします!」
そんな声が聞こえた気がしたが、気にしないことにした。
心当たりのある本棚をあさる。
これはパチュリーの本。
これもパチュリーの本。
これはアリスのやつか。
パチュリー、アリス、パチュリー、パチュリー、アリス・・・
どれも違う。
いくつか本を放り投げて、やっと見つけた。
『キノコ研究日誌』
家の地下にキノコの栽培場をつくり、いろいろなキノコを栽培してみよう、というためにつくった物だ。
霧雨邸の地下には巨大なキノコの栽培場がある。
普通の食卓に並ぶようなキノコから、食べたら即死などの危険レベル5キノコまで扱っている。
かなり広い面積がある割に、管理はしっかりしており、今まで事故が起こったことも無かった。
そこでは新種のキノコの栽培も試していた。
研究日誌をめくる。
○月○日
今日は面白いキノコが手に入った。
食べると身体能力、魔力、その他諸々が強化されるキノコだ。
食べてみたが、なかなかに美味だ。
これは期待が出来そうだ。
○月×日
あのキノコの栽培は成功だ。
このままいけば数を増やすことは簡単だろう。
ある程度数を増やしたら、副作用などの確認も含めて、誰かに食べさせようか。
○月△日
これは凄い。
あのキノコは、副作用が無いかもしれない。
丁度用事でマヨヒガに出かけるついでに、藍に食べさせてみた。
だが、特に何も起こらず、そのまま終わった。
○月◎日
残念なことがあった。
あのキノコの実用性を増すために、品種改良しようとしたが、結果は失敗。
あのキノコの数を減らしただけだった。
胞子も全滅。
また別の方法を試してみるか。
それにしてもこの頃暑くてしょうがない。
ここまで読んで、あることに気付いた。
ちくしょう!!
どうしてもっと早く気付かなかったんだろうか。
天子に食べさせたあれは、このキノコにかなり似ていたじゃないか!
胞子は全滅?
そんなことは無い。
おそらく通気孔から外に出た生き残りがいたんだ。
再び日誌に目を戻す。
×月●日
あのキノコを他のやつに食べさせてみる事にする。
紅魔館に行くついでに、パチュリーにでも食べさせてみるか。
×月◇日
小悪魔に食べられた。
しかし、1つ副作用が判明した。
どうもこのキノコには、服を脱ぎたくなる効果があるらしい。
まったく良くわからない。
毒キノコだったのかもしれない。
パチュリーにもそのまま食べさせた。
興奮効果もあるらしい。
かなり強力な魔力強化もあるようだ。
3時間耐久ロイヤルフレアは泣くかと思った。
そうだな、このキノコにも名前をつけよう
じゃあ、このキノコの名前は・・・
「・・・『タダヌグ茸』」
自分のネーミングセンスに感動のあまり涙が出たのを覚えている。
そうだ。思い出せば、そのものじゃないか。
となると、今回の騒動は、おそらく、○月◎日の・・・・・・
そう思った時、結界が歪んだ。
「何だ!?」
窓から外を見ようとして、心臓が止まりかけた。
「・・・・・・なんだ、こりゃ」
大慌てで二階に上がり、窓から見る。
そして、今度こそ一瞬だけ心臓が止まった。
「嘘だろ?」
外には何人もの『スッパ』。
見たことのある顔ばかりだ。
それぞれが何か言っている。
唇をよんでみる。
『魔理沙ー、スッパしろー!!』
カーテンを閉めた。
早く何とかしなければ。
「・・・スペル維持終了時間まで耐えられるのか?」
タダヌグ茸はあの喘息中のパチュリーがロイヤルフレアを3時間うちつづけられたのだ。
それの改良型となると・・・。
ポケットの中に何か違和感を感じた。
キノコだ。3つあったうちの最後の1個。
すぐに地下のキノコ栽培場兼研究室に向かう。
一口かじり、確認する。
間違いない。
タダヌグ茸だ。
キノコを細切れにし、それに魔力を込めて、液体状にする。
それを専用の紙の上に一滴垂らす。
その色で、魔力への影響の大きさがわかるという、検査用紙だ。
「・・・・・・冗談じゃないぜ」
見たことも無い色を示している。
その色を元に計算してみると、最悪の結果になった。
「・・・・・・魔力の永久循環・・・?」
一度使った魔力を、未使用の魔力が再吸収し、再使用し、また吸収し・・・。それを繰り返す。
魔力が尽きることが無い。
普通の修行ではけして手にすることの出来ない、究極の力。
つまり、
「スペルが、解除されない・・・」
魔理沙は脱力した。
どれだけ粘っても、解除されないスペル。
周りの様子から察するに、あれもきっと発狂タイプだろう。
時間が経つごとに酷くなっていく。
「もう、勘弁してほしいぜ・・・」
自分が脱げばそれで終わるかもしれない。
しかし、こんな中で生活していく自信は無い。
いろいろ考えた結果、ある方法を思いついた。
直すことが出来ないのなら、せめて。
救うことが出来ないのなら、せめて。
素敵な楽園は、そのまま、楽園のままで。
「ふ・・・ふふふ・・・」
もう笑いが出てきてしまう。
それほどまでに魔理沙は限界だった。
魔理沙は1階に下り、研究日誌を拾う。
そして、自分の今まで書いた日誌部分と表紙を破り捨て、白紙のページに文字を書き始めた。
そうして今に至る。
涙で視界が歪む。
しかし、タイミングをしくじれば、もう二度とチャンスは来ないだろう。
外の声が聞こえる。
「まったく、魔理沙も随分念入りに結界を張ったわね」
「これは一苦労ですね。『K.S.魔理沙は結界好きなのか!?』・・・次はこれについてインタビューしてみますかね」
「はいはい、下がって下がって。・・・妖夢、お願いするわ」
「・・・わかりました。―――断迷剣『迷津慈航斬』!!」
結界が刀によって無理やり切り裂かれる。
その隙間に向けて、魔理沙は昨日から何度目かの全速力スタートをした。
魔理沙は、知っている顔を見ながら飛び去る。
目指すは地霊殿、灼熱地獄跡。
爆風にまぎれて飛んできただけあり、なかなか追手は来ない。
ついでに、ありったけのビットを設置してきた。
ご先祖様の使っていた旧ビットや、レーザー射出可能の最新ビットまで惜しみなく設置してきた。
帰るつもりなんて無い。
魔理沙は神風だった。
帰りの燃料は積んでいなかった。
そのまま地下に潜り、旧都を突っ切る。
地霊殿の住民を無視して、中庭に突入する。
中庭への扉は閉められていたが、あんなもの、連中を相手にするのに比べたら、紙より薄い。
そこまできて、さとりが魔理沙の考えていることに気付いた。
「・・・・・・地上に灼熱地獄を呼び出す・・・ですか。お燐!お空! 彼女を止めなさい!!」
地獄最深部、灼熱地獄跡。
そこに魔理沙と、お燐、お空がいた。
そのうち、お燐とお空は裸だ。
ぱっと見たら変な光景である。
「・・・・・・そこを退いてもらうぜ!!」
魔理沙は中央に向かいさらに速度を上げる。
「なにがなんでも、これ以上進ませないよ!!―――妖怪『火焔の車輪』!!」
「さとり様の命令だしね!!―――『地獄の人工太陽』!!」
両方とも移動に制限のかかるスペルを使う。
片方は直進が出来ないような弾幕密度。
もう片方は超高熱、超高圧の太陽。
それでも魔理沙は止まらない。
弾が体を掠める。
・・・気にしない。
髪の毛がこげる。
・・・気にしない。
自分の魔力が悲鳴を上げる。
「気にしないっ!!」
魔理沙は更に速度を上げる。
「まずい、お空!!」
「うぅ・・・、―――『地獄極楽メルトダウン』!!」
魔理沙の進行方向に核融合の超高熱を撃ちだす。
人間程度なら一瞬で蒸発させることも出来る。
しかし、魔理沙は止まらない。
魔理沙の目にはもう中央しか見えていなかった。
黒焦げになりそうな熱さを結界でなんとか持ちこたえ、悲鳴をあげる体を無視する。
上のほうが騒がしい。
どうやら追いついてきたらしい。
でも、構わない。
「――――彗星『ブレイジングスター』!!」
もう、誰も手が出せない。
運命はもう覆せない。
死に誘ったってこの体は止まらない。
幻覚の回廊でも、もう迷わない。
天狗でさえ追いつくことは出来ない。
無限の距離をつくるならば、それを超える距離を一瞬で飛んでやる。
閻魔の説教なんてもう耳に届かない。
神が何を言おうとも、もう私に信仰は必要ない。
スキマさえも破壊してやる。
楽園の巫女にだって、止めさせない!!
彗星は中央へとまっすぐに進む。
灼熱地獄。
その中央の炎の中に魔理沙は入る。
体が黒焦げになるのを結界を張ってギリギリに持ちこたえさせる。
もう指先は黒くなってきている。
止まることの無い筈の彗星が、止まった。
力はまったく衰えていない。
両手で大切な八卦炉をしっかりと構える。
魔力を込めるたびに幾つもの思い出がよみがえってくる。
紅い霧が出た夏。
春がなかなか来なかった季節。
歪な月と明けない夜。
宴会の続いた不思議な何日か。
季節に関係なく花が咲いたあの景色。
はた迷惑なブン屋が飛び回っていたこともあったっけな。
神様が神社ごとこっちに引っ越してきた事。
滅茶苦茶な天気に悩まされた時期。
温泉の為に地下に潜っての『フュージョンしましょ』は最近の話だ。
あぁ、素晴らしき楽園よ。
私のこの過ちと、その哀れな被害者の全てを、浄化してほしい。
力が必要ならば、この最後の最高の一発を使ってくれ!!
魔理沙は一度大きく息を吸い込む。
肺が焼けそうになるが、もう構わない。
「・・・・・・本当の意味での『最後の』魔砲だ。
・・・・・・さようなら、だ!! 来世で会えたら今度は平和なのを願うぜ!!!」
―――――魔砲『ファイナルマスタースパーク』!!
★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
「変な夢だったのよ。ホントに」
「それでそんなに疲れた顔をしてるのね」
「もう疲れたったらありゃしないわ。あの手の夢はもう見たくないわね」
「トラウマになりそうってやつ?」
「本当にそんな感じよ」
「そんなに怖かったんだ」
「目が覚めるのがあともう何秒か遅かったらと思うとゾッとするわ。周りはみんな変になってるし、地下から大爆発が起きるし」
「まぁ、無事だったんだからいいじゃないのさ」
「まったく。たまにはゆっくり満喫したいものね」
「睡眠を?」
「いろいろと、よ」
「ふぅん、まぁ、その話はこの辺にしておいて、そろそろこっちの話もさせてほしいなぁ」
「はい、どうぞ」
「・・・今度はこの写真を見てほしいのよ。場所は特定できてるわ。ここに星と月が写ってるからね」
・多少ぶっ壊れてるところがあります
・地霊殿の連中が出てきます
・もうエライコッチャです
これらがダメな方はすぐにお戻りください
毒というのは小さい頃から害の無い程度の量を少量ずつ服用しつづけると、抗体ができるらしい。
私もそのパターンだったらしい。
やはりあの時の嫌な予感は当たっていたのか。
これは、相当危険なものだった。
もっと安全なところで試しておくべきだった。
・・・たとえば霊夢とかそこらへんで。
それにしても、一体どこでどう間違ってしまったのだろう。
外には奴らがいる。
ここはもうダメだ。
・・・・・・やるしかない。
私は自分が引き起こしたことを清算しなければならない。
日記というのは人に見られたくない、と言うが、実際のところは、どこかで見てほしいと思っているのかもしれない。
・・・これは日記というより、遺書のようなものかもしれないな。
来世の私よ。もし、この日記を見る機会があったなら、同じ過ちを犯さないでほしい。
自分の大切な世界を守りたいのであれば。
―――霧雨 魔理沙より
そこまで書いて、魔理沙はその本を本棚にしまう。
大切な本を詰め込んだその本棚に結界を施す。
家に張った結界が大きく軋む。
「もう、限界か・・・」
魔理沙は呟き、近くに置いた愛用の箒を手に取る。
「・・・・・・最後の飛行だ。最後までお世話になるな・・・」
そう言うと、箒に跨り、浮かぶ。
その瞳には涙が浮かんでいた。
24時間ともう少し前のこと
魔理沙は暇だった。
アリスは人形製作、パチュリーは新しい魔法の研究と言って家に引きこもっていた。
霊夢の所に行くのは構わないが、たまには違うこともしてみたい。
宴会だとしても、それは夜からになるだろうし、今は真昼間だ。
「・・・・・・暇だぜー」
家に居ても暇なのは解消されないので、外を飛び回って、面白そうな場所を探すことにした。
・・・・・・『あるもの』を持って・・・
実際のところ、魔理沙は暇なわけではなかった。
『あるもの』の効力を確かめたかったのだ。
パチュリーのところの図鑑にも載っていなかったため、新種だとわかった。
新種を自分が発見したと言うことに対する喜びと、それの効力に対する不安が魔理沙にはあった。
3つほどあったので、持ち帰り、研究対象にでもしようかと思っていた。
もちろん、魔理沙の言うところの『研究』とはそれの効力を自分自身の体験、他人の体験をもとに調べることだった。
3つのうち、1つは自分に使ってみた。が、あまり効果がわからなかった。
毒は小さい時から服用しつづけると効果が薄れていくと言う話を聞いたことがある。
自分もそれなのかもしれない。そう思い、被検体を探していた。
かなり危険なものかもしれない。
だとしたら、親友である霊夢たちに食べさせるのは少々気が引ける。
何しろ、見た目がヤバイ。
本能に「これは危険だ」と語りかけてくるような見た目をしている。
自分でもよく食べたものだと感心する。
「・・・さて、誰に食べさせるかな?」
魔理沙は空を飛びながら思案する。
紅魔館、マヨヒガ、白玉楼、人間の里、永遠亭、無縁塚、妖怪の山、地霊殿・・・。
どこかにいい人材は居ないかと考え、ある人物にいきあたった。
「・・・・・・アイツなら少しくらい何かあっても大丈夫かもしれないな」
我ながら名案だ。
そう思いながら、魔理沙は箒の先を上に向ける。
――行き先は天界、有頂天。
「・・・・・・暇潰しだからって、私に勝負を挑んでくるとはね。よっぽど暇なのね」
魔理沙の前には天子が立っていた。
お互い八卦炉と緋想の剣を構えている。
「あぁ、暇すぎて、とうとうこんな所まで来ちまったぜ」
けしかけたのは魔理沙だ。
暇だから勝負だ、と言う訳のわからない理由で戦いが始まった。
魔理沙のその理由もアレだが、それを受ける天子もアレだった。
二人はある程度の本気で戦っていた、が、しばらくすると、魔理沙が押されだした。
「その程度の実力で私に挑んでくるなんて、泣けてくるわ」
「・・・・・・まぁ、そう言うな。今日の私にはこれがあるんだからな」
そう言うと、魔理沙はポケットの中からキノコを1つ取り出した。
「このキノコはな、食べると自分の身体能力、魔力それからその他諸々を強化するキノコなのさ! これで形勢逆転だぜ!!」
魔理沙は大げさな身振りで、それを口に運び、口に入る寸前で、
「うわっ!」
落とした。
地震が起きたからだ。
魔理沙が見ると、天子は緋想の剣を地面に突き立てていた。
そして、そのままもう2、3度地震が起きる。
地震が収まり、魔理沙が体勢を立て直したときには、キノコは天子の手にあった。
「っ!! しまった!!」
魔理沙は慌てる。
それを見て、天子は勝ち誇ったような表情で言う。
「つまり、これが貴方の切り札ね? じゃあ、遠慮なく、いただきまーす」
そのまま、天子は手に持ったキノコを食べた。
もう、その瞬間に魔理沙はニヤニヤが止まらなかった。
あのキノコが『あるもの』なのだ。
天子のほうが優勢だったのも、わざわざ説明をしたのも、わざと大げさな身振りで食べようとしたのも、全て、このためだったのだ。
そんなことも知らず、天子はキノコを飲み込む。
さぁ、どうなるのか?
この間のやつはアリスに食べさせたら、頭にたくましいのが生えた。親の遺伝を強力に発現させる物だったらしい。
別のはパチュリーに食べさせた。喘息が治った代わりに、頭が春になってたっけ。一週間くらいしたら喘息といっしょに効果が切れた。
とにかく、何か起こることは間違いない。
キノコ暦何年やってると思ってるんだ。
あの手のキノコは間違いなく何かが起きる。
全財産賭けてもいい。絶対に勝つから。
そんなことを考えていたが、一向に変化が見られない。
・・・というより、飲み込んでから天子がまったく動かなくなった。
完全に放心状態だ。
目の焦点が合ってない。
口も開いたままだ。
さすがに魔理沙も不安になった。
即効性の毒で、食べた瞬間ポックリなんて話もたまに聞く。
とりあえず、確かめようと、近づき、声をかけてみる。
「・・・・・・おーい、大丈夫・・・か?」
そう言って、魔理沙が触れた瞬間、天子が突然動いた。
目の焦点もしっかり元に戻っている。
しかし、動いたはいいが、その動きは、いろいろと素晴らしかった。
「スッパてんこおおおぉぉぉっっ!!!」
叫びながら、たった一回の動作で服を全て空中に放った。
「ちょっ、ちょっと待て!!」
目の前でそんなことをされるのだから、魔理沙はもう真っ赤だ。
自分の目隠しで精一杯だった。
「・・・・・・これが、『スッパ』ということなの!?」
必死に見ないようにする魔理沙を無視して、天子は何か感動していた。
「・・・衣服という柵の一切ない、全てを開放した感覚・・・。何故、今までこんな素晴らしいことに気付かなかったのかしら?!」
魔理沙は、もうどうしたら良いかわからなかった。
しかし、1つ何か嫌な予感がした。
直感的な何かだ。
魔理沙はそれを理解する前に、行動にでていた。
しかし、ほんの少し、直感を行動に移すまでのたかだかコンマ1秒程度の遅れが、全てを手遅れにした。
伸ばした手は届かず、天子は天界の端に浮かぶ。
「こんなに素晴らしいものは、皆に知ってもらうべきだ!!」
天子はそう叫び、どこからともなく取り出したスペルカードを掲げた。
「やめろっ!! それはダメだ!!!」
魔理沙の叫びは天子に届くことなく、スペルカードは宣言された。
「―――『全人妖はスッパてん』!!!!」
天子から緋色の光が地上に降り注いでいく。
魔理沙はそれを見ながら、
あぁ、あれは『全人類の緋想天』が元だったんだろうな。とか、
きっとあのキノコは脱衣効果と全能力強化があったんだろうな。とか、
やたら冷静になっていた。
地上では大変なことになっていた。
紅魔館では、レミリアとフランドールが脱ぎ、咲夜が鼻血の海に沈みながら脱ぎながら美鈴の服を切り、逃げ出した先の図書館ではすでにパチュリーが小悪魔にいろいろされての後だったり、それに絶望した瞬間に光を受けて僅かに残った服の破片を自らただの布にしたりしていた。
マヨヒガでは、藍がいつものようにスッパし、紫もそれに続き、逃げかけた橙もスキマにつかまり、しっかり光を受けて覚醒した。
白玉楼では、幽々子が暇潰しに集めた春で咲いていた桜が全て散り、幽々子は普通に、妖夢は「こんなもの、こうだ!!」と楼観剣で自分の服を切り裂いた。
人間の里では、慧音が一番初めに覚醒し、「そんな歴史、無かったことにしてやる!!」と、村人の服全てを消し去った。
妹紅も自らの炎で焼ききった。
永遠亭では、鈴仙が日頃の鬱憤を晴らすため、他の兎たちの服をはぎ取ったり、永琳が覚醒したことでてゐに助けを求めた輝夜が、「服を着ている? それは罠!」と服の下に隠していた鏡で光を反射されて、覚醒した。
無縁塚の方では、スッパした小町がスッパした映姫に「有罪!!有罪!!!」としこたま叩かれていた。小町としては何のことだかはさっぱりだとか。
妖怪の山では、せっかく完成した改良型光学迷彩スーツを「全裸のほうが良い!!」と、にとりがぶっ壊したり、それを千里眼で見ていた椛の服を射命丸がカメラで消して、「これって弾幕だったのか・・・」と椛が驚愕している間に光があたり覚醒した。
地下では、ヤマメがキスメの桶を覗いて、鼻血を吹き出し、その後にパルスィが「妬ましい!!」とか叫びながら暴れまわったりして、キスメに『脱いだら凄いです』とか『桶はハンデです』とか言う二つ名がついた。
地霊殿では、こいしが突然スッパし、初めてこいしの心が読めた(「スッパ!!」だったとか)さとりが感激しながらスッパし、ペットたちもそれに続いた。
それを天界で見ながら、魔理沙はいろいろと絶望していた。そして、始めに口に出た言葉が、
「あぁ、もうダメかもわからんね・・・」
だった。
そんな魔理沙の様子も気にせず、天子は魔理沙の方に向かってくる。
「さぁ、貴方も素晴らしい『スッパ』の世界へいらっしゃい」
そうして、天子は魔理沙に手を差し出す。
しかし、魔理沙はその手を叩き、八卦炉を構える。
「絶対に断る!! それよりも、下のやつらを元に戻せ!!」
八卦炉に魔力を込めながら叫ぶ。
しかし、天子はそんなこと気にならないというように近づく。
「くそっ!! ―――恋符『マスタースパーク』!!」
魔理沙は天子に魔砲を一発撃つ。
至近距離からの発射で、回避するのはほぼ不可能だ。
閃光が天子を飲み込む。
これでスペルブレイクしてくれれば・・・
そう願いながら撃ち続ける。
しかし、現実はそう甘くなかった。
「そんな・・・・・・」
天子は無傷で立っていた。
「効いて無いなんて・・・」
それほどまでにあのキノコは強力だったというのか!?
そんなに危険だったのか!
なんて物をなんて奴に食べさせたんだ、私は!!
魔理沙は箒に跨り、その場から最高速で逃げ出す。
どこへ逃げるのかはわからない。
とりあえず、スペルが解除されるまで逃げつづけよう。
きっと数人くらいは生き残り(?)が居るはずだ。
そう思い、地上を目指した。
「スッパしろー!! 逃げられると思うなー!!」
後ろで天子が叫んでいた。
地上に降りるにしたがい、絶望感はどんどん強くなっていく。
空から見下ろすと、どこを見ても、スッパ、スッパ、スッパ・・・・・・。
ある程度力のあるやつは、ZUN帽だけかぶっている。
「・・・まるで地獄絵図だ・・・」
もう、そうとしか言えなかった。
見つからないようにひっそりと地面に降り立つ。
空を飛んでいると、すぐに見つかる可能性があるからだ。
しかし、ほんの僅か進んだ時点で、あっという間に見つかった。
「魔理沙さん・・・、そんな、貴方がそんな人だったとは・・・」
目の前に立っているのは早苗だった。
「私は元からこうだ。変わったのは他だ!!」
魔理沙は叫ぶ。
早苗も他と同じで、スッパしていた。
もうこうなると、緑色の髪色をした変な人だ。
「スッパは信仰の証なんです!! スッパこそが信仰なんです!!!」
魔理沙はなんだか面倒になり、目を隠すのもやめた。
「信仰しないのならば・・・」
早苗はどこからとも無くスペルカードを取り出す。
一体どこにしまっていたんだろうか、という疑問はもう浮かばない。
「・・・・・・死あるのみです!!―――開海『海が割れる日』!!」
弾幕に囲まれながらも、魔理沙は、
あぁ、スペルまではおかしくならないのか。
とか、もうなんだかさっきから変なところで冷静になっていた。
人はそれを混乱していると呼ぶとか呼ばないとか。
しかし、いろいろと覚醒して能力も強くなっているのか、弾幕密度が濃い。
「・・・これは、辛いぜ」
だんだん避けるのも辛くなってきた。
それよりも、普通ではありえないほどのスペル維持時間だ。
これもあのキノコとスッパの影響なんだろうか。
いろいろと考えをめぐらせている間も、どんどん密度が濃くなっていく。
ふと、気付くと、目の前に弾があった。
「しまった!!」
避けられない。
そう思った瞬間、弾が消えた。
「!? 一体何が・・・」
早苗の方を見ると、一枚の座布団が直撃していた。
比喩ではなく、本当の座布団。
しかし、それだけで、誰がやったのかはよく分かった。
「霊夢!! 無事だったのか!!」
親友が無事だった。
そう思い、魔理沙は振り返る。
「早苗・・・、アンタなんてことを!!」
叫ぶ霊夢を見て、魔理沙は意識を失いかけた。
「・・・・・・現実ってのは、残酷だぁ・・・」
そこに立っていたのは、袖だけをつけた霊夢だった。
その他のものは無い。しいて言うなら他には、頭に付いている大きなリボンくらいだけだった。
「・・・霊夢さん? 私は信仰の為に・・・」
「信仰の為に全てを捨てるって言うの!?」
「・・・えっ?」
ほぼ放心の魔理沙を完全に無視し、霊夢は早苗の前に立ち、叫ぶ。
「2P巫女とさえ言われたアンタが! あの袖を捨ててどうする!! 腋を捨ててどうする!!」
早苗は困ったような表情で返す。
「し・・・信仰の証はスッパなんです! 袖はあってはならないものなんです!!」
「信仰が何だ!! アイデンティティーを犠牲にしてまで集めるものなのか!?」
もう二人は止まらない。
魔理沙は完全に置いてけぼりだ。
「信仰のために私はこの世界に来ました! 外の世界を捨てて!! 信仰のためには犠牲は必要なんです!!」
「分らず屋めっ!!! その考え方、私が叩きなおしてやる!!!」
二人は互いに弾幕を展開する。
魔理沙はまだ放心状態。
「信仰が無い世界ほど廃れやすいものは無い!!」
「そのために自分を犠牲にして良いなんていうことは無い!!!」
決着はあっという間についた。
霊夢が圧倒的に勝った。
早苗は地面に落ちる。
「そんな・・・、信仰の力が・・・」
「・・・・・・アイデンティティーの無い者が、それのある者に勝てるわけが無い」
「しかし、信仰は・・・!」
「・・・どうして、自分の能力を使おうとしないの?」
「!?」
霊夢は早苗の肩に手を置く。
「私の能力は『空を飛ぶ程度の能力』、つまり、無重力。何にも縛られない。この袖は『スッパ』という考えに縛られていないと言うこと。
・・・この世界で、袖をつけていられるという事は、無重力の私以外、本来は考えられない。つまり、」
「袖自体が・・・『奇跡』・・・」
「貴方の能力はなんだったかしら?」
「・・・『奇跡を起こす程度の能力』・・・」
霊夢は微笑む。
「信仰の為に自分を犠牲にする必要は無いのよ!!」
早苗の表情が明るくなる。
「本当・・・ですか!?」
「さぁ!! 2P巫女の名前を再び呼び戻すのよ!! 幻想郷の巫女はもう2人なのよ!! それは不変よ!!」
「・・・・・・奇跡よ!!!」
放心から覚めた魔理沙はいいかげん嫌になった。
目の前に居るのは、
袖だけつけた、かつての親友だった赤いの。
奇跡を起こした、もともと変だった緑の。
それが並んで立っていた。
頭が痛い。
誰か助けてくれ。
もうダメなのか?
幻想郷は終わりなのか?
・・・そんなことは無いはずだ。
きっと何か出来るはず。
スペルさえ解除されればきっとどうにかなるはず。
「さぁ、早苗・・・」
「はい、霊夢さん」
「目の前の!」
「白黒の服を!!」
「「いざっ!!」」
2人同時に魔理沙に向かって走る。
「捕まってたまるかっ!!」
箒で逃げ出すが、霊夢の投げるリアル座布団は質量もあって邪魔なことこの上ない。
そのうえ、撃ち落すと綿をぶちまけるおまけ付きだ。
「ちくしょう!!」
すぐそこに2人が迫ってきている。
もう逃げられない。
そう思ったとき、空が光った。
「――雷符『エレキテルの龍宮』!!」
「「っ!!!」」
2人は突然の雷の壁にぶつかり、感電。
そのまま気絶した。
随分な電力だったのだろう。
とりあえず助かったが、魔理沙はそれよりも、目の前の存在に驚愕していた。
「・・・大丈夫でしたか?」
魔理沙を救ったのは衣玖だった。
いつもはかなりのんびり飛んでいる衣玖が、自分とあの2人の間にスペルをねじ込んだことも驚きだったが、
なにより、服を着ている。いつも通りの服装だ。
「な・・・何で、嘘じゃ・・・ないのか?」
魔理沙は一応箒に手をかけながら聞く。
衣玖は何とも普通に答える。
「映画などでこのような状況になると、大体は、1人くらい味方が居るんです。そこで、空気を読んでその役目をして差し上げようかと思いまして」
魔理沙は感動した。
『空気を読む程度の能力』万歳!!
それほどに感動した。
「さぁ、逃げましょう! スペル効果が消えるまで!!」
衣玖は魔理沙を引っ張り、魔法の森の中へ入っていった。
・・・・・・・・・・・・。
随分長く隠れていた気がする。
だというのに、いまだにスペルが切れる様子が無い。
「どういうことなんだ?」
魔理沙はいろいろ頭の中を整理する。
あのキノコは確かに食べた人の能力を身体強化する効果はある。
私が食べても一応わかるくらいだった。
身体能力を強化するキノコは、一部には強烈な副作用のある物がある。
きっと今回はそれに当たったんだろう。
だからといって、強烈すぎやしないだろうか?
その手のものは、木などに寄生する際に、宿主が枯れないようにするためのものだ。
それか、自分の子孫をのこすために、有利な条件を作るためだ。
本来なら、そうだ。栄養満点のものを除いたら、この辺の身体能力強化はそういったものだ。
・・・そもそもあのキノコはどこで採ったものだった?
うちの近くだ。
うちの近くで関係のありそうなものは何がある?
「・・・・・・まさか」
そこまで考えたところで、魔理沙の頭に、1つ、最悪な可能性が浮かんだ。
「衣玖、私の家だ。資料があるかもしれない」
立ち上がろうとして、衣玖に止められた。
「・・・・・・霧がでてきました」
衣玖が辺りを警戒する。
魔理沙も辺りに注意をめぐらせる。
こんな変な時間に霧が出てくるなんて。
そう思った瞬間、嫌な予感が浮かんだ。
「・・・まずい! 衣玖!! 逃げるぞ!!」
「えっ!?」
さっきとは逆に、魔理沙が衣玖を引っ張る。
箒で全力で家のほうに向かう。
「何なんですか?」
衣玖は困惑している。
魔理沙はそれにすら答えず、全速力で飛ばす。
しかし、現実は甘くないと感じたのは何回目だろう。
霧が一点に集中してきた。
間違いない。
アイツだ。
箒を急旋回させるが、間に合わなかった。
「まぁまぁ、お二人さん待ちなって」
目の前に現れたのは、もういい加減に見飽きたスッパな人。
人というよりも、鬼。
萃香だ。
「そこをどかないと、魔砲でぶっ飛ばすぞ」
八卦炉を構えるが、怯みもしない。
「服を着たのが2人も居るんだからね。そりゃもう、スッパさせるしかないでしょ」
もう嫌だ。
きっとこいつにもマスタースパークは効かない。
何か解決策は無いのか。
「諦めてはダメです」
衣玖が前に出る。
「衣玖・・・」
「・・・映画などのラストのほうではもう一人の味方は、主人公が進む為に戦うんです」
「じゃあ、まず始めにそっちからでいいのかな? スッパはいいよ~」
手をワキワキさせながら近づいてくる萃香に、衣玖は怯まない。
「行ってください。ここは私が引き受けます」
「・・・たとえその先にバッドエンドしかなかったとしてもか?」
「たとえそうだとしても、こういう場合は、主人公を進ませるべきなんですよ。空気を読むのが私の能力です」
衣玖の真後ろにはもう萃香が立っていた。
「お話は済んだかな? じゃあ、さっそく・・・」
「―――棘符『雷雲棘魚』!!」
「ふぎゃ!!」
触れようとした萃香を電気で弾き飛ばし、魔理沙の方を一瞬向く。
「早く!! 行ってください!!」
向こうでは萃香がもう起き上がりはじめている。
魔理沙は箒に再び魔力を込め、全速で飛び出す。
「衣玖、すまない!!!」
かつて幻想郷最速を自負していただけのことはある。
もう衣玖からは見えなくなった。
「いたたー、やってくれるねぇ」
後ろに萃香が完全に体勢を整えなおして立っていた。
「・・・・・・私が電気を纏っている限り、手は出せませんよ?」
そういう衣玖に対し、萃香はニヤリとした。
「私の能力を知ってるかなぁ?」
「?」
「『疎と密を操る程度の能力』、だから、こんなことも、」
萃香がスッと手を動かすと、緋色とも桃色とも、何ともいえない不思議な色をした霧が衣玖をつつむ。
「できるんだなぁ」
そう言った瞬間、衣玖の中に電流が走った。
もちろん比喩表現だが。
「これは・・・、一体」
体が火照る。
今まで感じたことの無い感覚。
「私は人の想いも萃める事ができるのさ。今、アンタに集めたのはもちろん『スッパ』の想い」
「く・・・」
どんどん体温が上がっていく。
熱い。
「そうだねぇ、もう一押しくらいかな?」
そう言って、萃香は再び手を動かす。
「・・・あぅ」
さらに体温上昇。
「・・・これだけの『スッパ』の想いがあふれてるんだから、」
萃香は耳元で囁く。
「空気・・・読んじゃいなよ」
その一言で、衣玖の理性は崩壊した。
「衣玖、スッパします!!!」
主人公を先に進ませた人物は大抵そこでゲームオーバー、というお約束の空気を読んだらしい。
魔理沙は自分の家に着いていた。
中に入り、結界を施し。
結界を施し。
また施し。
もう1枚。
何重にも結界を張った。
「これで、しばらくは持つだろう」
そう言い、足元に散らかった物をどかす。
「・・・――スッパします!」
そんな声が聞こえた気がしたが、気にしないことにした。
心当たりのある本棚をあさる。
これはパチュリーの本。
これもパチュリーの本。
これはアリスのやつか。
パチュリー、アリス、パチュリー、パチュリー、アリス・・・
どれも違う。
いくつか本を放り投げて、やっと見つけた。
『キノコ研究日誌』
家の地下にキノコの栽培場をつくり、いろいろなキノコを栽培してみよう、というためにつくった物だ。
霧雨邸の地下には巨大なキノコの栽培場がある。
普通の食卓に並ぶようなキノコから、食べたら即死などの危険レベル5キノコまで扱っている。
かなり広い面積がある割に、管理はしっかりしており、今まで事故が起こったことも無かった。
そこでは新種のキノコの栽培も試していた。
研究日誌をめくる。
○月○日
今日は面白いキノコが手に入った。
食べると身体能力、魔力、その他諸々が強化されるキノコだ。
食べてみたが、なかなかに美味だ。
これは期待が出来そうだ。
○月×日
あのキノコの栽培は成功だ。
このままいけば数を増やすことは簡単だろう。
ある程度数を増やしたら、副作用などの確認も含めて、誰かに食べさせようか。
○月△日
これは凄い。
あのキノコは、副作用が無いかもしれない。
丁度用事でマヨヒガに出かけるついでに、藍に食べさせてみた。
だが、特に何も起こらず、そのまま終わった。
○月◎日
残念なことがあった。
あのキノコの実用性を増すために、品種改良しようとしたが、結果は失敗。
あのキノコの数を減らしただけだった。
胞子も全滅。
また別の方法を試してみるか。
それにしてもこの頃暑くてしょうがない。
ここまで読んで、あることに気付いた。
ちくしょう!!
どうしてもっと早く気付かなかったんだろうか。
天子に食べさせたあれは、このキノコにかなり似ていたじゃないか!
胞子は全滅?
そんなことは無い。
おそらく通気孔から外に出た生き残りがいたんだ。
再び日誌に目を戻す。
×月●日
あのキノコを他のやつに食べさせてみる事にする。
紅魔館に行くついでに、パチュリーにでも食べさせてみるか。
×月◇日
小悪魔に食べられた。
しかし、1つ副作用が判明した。
どうもこのキノコには、服を脱ぎたくなる効果があるらしい。
まったく良くわからない。
毒キノコだったのかもしれない。
パチュリーにもそのまま食べさせた。
興奮効果もあるらしい。
かなり強力な魔力強化もあるようだ。
3時間耐久ロイヤルフレアは泣くかと思った。
そうだな、このキノコにも名前をつけよう
じゃあ、このキノコの名前は・・・
「・・・『タダヌグ茸』」
自分のネーミングセンスに感動のあまり涙が出たのを覚えている。
そうだ。思い出せば、そのものじゃないか。
となると、今回の騒動は、おそらく、○月◎日の・・・・・・
そう思った時、結界が歪んだ。
「何だ!?」
窓から外を見ようとして、心臓が止まりかけた。
「・・・・・・なんだ、こりゃ」
大慌てで二階に上がり、窓から見る。
そして、今度こそ一瞬だけ心臓が止まった。
「嘘だろ?」
外には何人もの『スッパ』。
見たことのある顔ばかりだ。
それぞれが何か言っている。
唇をよんでみる。
『魔理沙ー、スッパしろー!!』
カーテンを閉めた。
早く何とかしなければ。
「・・・スペル維持終了時間まで耐えられるのか?」
タダヌグ茸はあの喘息中のパチュリーがロイヤルフレアを3時間うちつづけられたのだ。
それの改良型となると・・・。
ポケットの中に何か違和感を感じた。
キノコだ。3つあったうちの最後の1個。
すぐに地下のキノコ栽培場兼研究室に向かう。
一口かじり、確認する。
間違いない。
タダヌグ茸だ。
キノコを細切れにし、それに魔力を込めて、液体状にする。
それを専用の紙の上に一滴垂らす。
その色で、魔力への影響の大きさがわかるという、検査用紙だ。
「・・・・・・冗談じゃないぜ」
見たことも無い色を示している。
その色を元に計算してみると、最悪の結果になった。
「・・・・・・魔力の永久循環・・・?」
一度使った魔力を、未使用の魔力が再吸収し、再使用し、また吸収し・・・。それを繰り返す。
魔力が尽きることが無い。
普通の修行ではけして手にすることの出来ない、究極の力。
つまり、
「スペルが、解除されない・・・」
魔理沙は脱力した。
どれだけ粘っても、解除されないスペル。
周りの様子から察するに、あれもきっと発狂タイプだろう。
時間が経つごとに酷くなっていく。
「もう、勘弁してほしいぜ・・・」
自分が脱げばそれで終わるかもしれない。
しかし、こんな中で生活していく自信は無い。
いろいろ考えた結果、ある方法を思いついた。
直すことが出来ないのなら、せめて。
救うことが出来ないのなら、せめて。
素敵な楽園は、そのまま、楽園のままで。
「ふ・・・ふふふ・・・」
もう笑いが出てきてしまう。
それほどまでに魔理沙は限界だった。
魔理沙は1階に下り、研究日誌を拾う。
そして、自分の今まで書いた日誌部分と表紙を破り捨て、白紙のページに文字を書き始めた。
そうして今に至る。
涙で視界が歪む。
しかし、タイミングをしくじれば、もう二度とチャンスは来ないだろう。
外の声が聞こえる。
「まったく、魔理沙も随分念入りに結界を張ったわね」
「これは一苦労ですね。『K.S.魔理沙は結界好きなのか!?』・・・次はこれについてインタビューしてみますかね」
「はいはい、下がって下がって。・・・妖夢、お願いするわ」
「・・・わかりました。―――断迷剣『迷津慈航斬』!!」
結界が刀によって無理やり切り裂かれる。
その隙間に向けて、魔理沙は昨日から何度目かの全速力スタートをした。
魔理沙は、知っている顔を見ながら飛び去る。
目指すは地霊殿、灼熱地獄跡。
爆風にまぎれて飛んできただけあり、なかなか追手は来ない。
ついでに、ありったけのビットを設置してきた。
ご先祖様の使っていた旧ビットや、レーザー射出可能の最新ビットまで惜しみなく設置してきた。
帰るつもりなんて無い。
魔理沙は神風だった。
帰りの燃料は積んでいなかった。
そのまま地下に潜り、旧都を突っ切る。
地霊殿の住民を無視して、中庭に突入する。
中庭への扉は閉められていたが、あんなもの、連中を相手にするのに比べたら、紙より薄い。
そこまできて、さとりが魔理沙の考えていることに気付いた。
「・・・・・・地上に灼熱地獄を呼び出す・・・ですか。お燐!お空! 彼女を止めなさい!!」
地獄最深部、灼熱地獄跡。
そこに魔理沙と、お燐、お空がいた。
そのうち、お燐とお空は裸だ。
ぱっと見たら変な光景である。
「・・・・・・そこを退いてもらうぜ!!」
魔理沙は中央に向かいさらに速度を上げる。
「なにがなんでも、これ以上進ませないよ!!―――妖怪『火焔の車輪』!!」
「さとり様の命令だしね!!―――『地獄の人工太陽』!!」
両方とも移動に制限のかかるスペルを使う。
片方は直進が出来ないような弾幕密度。
もう片方は超高熱、超高圧の太陽。
それでも魔理沙は止まらない。
弾が体を掠める。
・・・気にしない。
髪の毛がこげる。
・・・気にしない。
自分の魔力が悲鳴を上げる。
「気にしないっ!!」
魔理沙は更に速度を上げる。
「まずい、お空!!」
「うぅ・・・、―――『地獄極楽メルトダウン』!!」
魔理沙の進行方向に核融合の超高熱を撃ちだす。
人間程度なら一瞬で蒸発させることも出来る。
しかし、魔理沙は止まらない。
魔理沙の目にはもう中央しか見えていなかった。
黒焦げになりそうな熱さを結界でなんとか持ちこたえ、悲鳴をあげる体を無視する。
上のほうが騒がしい。
どうやら追いついてきたらしい。
でも、構わない。
「――――彗星『ブレイジングスター』!!」
もう、誰も手が出せない。
運命はもう覆せない。
死に誘ったってこの体は止まらない。
幻覚の回廊でも、もう迷わない。
天狗でさえ追いつくことは出来ない。
無限の距離をつくるならば、それを超える距離を一瞬で飛んでやる。
閻魔の説教なんてもう耳に届かない。
神が何を言おうとも、もう私に信仰は必要ない。
スキマさえも破壊してやる。
楽園の巫女にだって、止めさせない!!
彗星は中央へとまっすぐに進む。
灼熱地獄。
その中央の炎の中に魔理沙は入る。
体が黒焦げになるのを結界を張ってギリギリに持ちこたえさせる。
もう指先は黒くなってきている。
止まることの無い筈の彗星が、止まった。
力はまったく衰えていない。
両手で大切な八卦炉をしっかりと構える。
魔力を込めるたびに幾つもの思い出がよみがえってくる。
紅い霧が出た夏。
春がなかなか来なかった季節。
歪な月と明けない夜。
宴会の続いた不思議な何日か。
季節に関係なく花が咲いたあの景色。
はた迷惑なブン屋が飛び回っていたこともあったっけな。
神様が神社ごとこっちに引っ越してきた事。
滅茶苦茶な天気に悩まされた時期。
温泉の為に地下に潜っての『フュージョンしましょ』は最近の話だ。
あぁ、素晴らしき楽園よ。
私のこの過ちと、その哀れな被害者の全てを、浄化してほしい。
力が必要ならば、この最後の最高の一発を使ってくれ!!
魔理沙は一度大きく息を吸い込む。
肺が焼けそうになるが、もう構わない。
「・・・・・・本当の意味での『最後の』魔砲だ。
・・・・・・さようなら、だ!! 来世で会えたら今度は平和なのを願うぜ!!!」
―――――魔砲『ファイナルマスタースパーク』!!
★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
「変な夢だったのよ。ホントに」
「それでそんなに疲れた顔をしてるのね」
「もう疲れたったらありゃしないわ。あの手の夢はもう見たくないわね」
「トラウマになりそうってやつ?」
「本当にそんな感じよ」
「そんなに怖かったんだ」
「目が覚めるのがあともう何秒か遅かったらと思うとゾッとするわ。周りはみんな変になってるし、地下から大爆発が起きるし」
「まぁ、無事だったんだからいいじゃないのさ」
「まったく。たまにはゆっくり満喫したいものね」
「睡眠を?」
「いろいろと、よ」
「ふぅん、まぁ、その話はこの辺にしておいて、そろそろこっちの話もさせてほしいなぁ」
「はい、どうぞ」
「・・・今度はこの写真を見てほしいのよ。場所は特定できてるわ。ここに星と月が写ってるからね」
乙です。
そういえば最近昼寝する時間をとっていなかったので満喫してきます。いろいろと?
なんだろ、ちょっと騒ぎを大きくしすぎてるような気がしないでもないです。
面白くはあったんだけど笑えるという感じではなかったかなぁ・・・。
むしろ冷静な状態で読んでた自分がいたような。
最後はメリーの夢落ち?ですかぁ・・・。
実際あんな状況になったらどうなるんでしょうね?
メリーが見たと言う(幻想郷の)夢は、実は実際にメリーが幻想郷に行って体験した事だって分かってます?
秘封倶楽部に関して何も分かってないまま書いたのが丸分かり
やけに幻想郷の住人に詳しいし
メリーにそんなに幻想郷の知識は無いです
(竹林でも紅魔館でも、相手の名前も正体も分かってません)
他にもつっこみたいとこはありますが
まあ
光浴びたときの反応が面白かったので10点だけあげます
メリーと魔理沙は別人視点なのね。(「地下から大爆発が起きるし」と客観的に観ている)
ということは、一見夢オチと見せかけて本当に幻想郷崩壊?
>2
ツボってくださる方がいらっしゃったとは! どうぞ昼寝をご満喫ください。いろいろと
>4
気が付いたら大変なことになってた感がたっぷりになりました故。採点で言うと『がんばりましょう』ですね、・・・精進します。
>12
大丈夫ですよ。きっと本当に夢だったんですよ・・・・多分・・・・ぅん。メリーだって普通の夢を見るときくらいあるはずですよ・・・・多分。
>13
秘封はCD持ってる+あっちこっちのss読みちらすくらいく知ってるわけですが、なにぶん文章力が無いもので・・・。そちらのつっこみたいこと全部に頭を下げてたら床に穴が開きそうなくらいあるんだろうなぁ。
>14
13と同一人物さんでいらっしゃいますか? これを2回も確認してくださったことに感謝です。
その通りです。その辺は私の文章力の問題です。その他は私の頭の問題です。
・・・夢落ち。そう信じたい。
自業自得でしかないけど、とりあえず合掌。
あと空気を読まれた素晴らしい方には拍手を。
ちょっと風呂敷を広げすぎ(&回収できてない)気がします
おそらくキノコの魔力の永久機関辺りで手に負えなくなったのでは?