Coolier - 新生・東方創想話

白玉楼の永い夜(中編)

2004/09/21 06:42:03
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「少し冗談が過ぎませんか? お嬢様」
「あら、なんのこと?」
 半分人間の庭師が立ち去ったあとに残された、私とレミリア様。敵意と小馬鹿にした態度にて招待への返答とした私の主人に、その真意を正そうと話を切り出した。
「春は取り返しましたし、それに彼の姫は私から見てこれ以上害があるとは思いません。降りかかる火の粉があるわけでもないのに、お嬢様自ら出向く理由が思い当たりませんから。ですから冗談と判断したまでです」
「ふふ、咲夜は賢いわね。それに気づいているなら、たいした演技家だこと」
 さきほどのような、威厳ある態度から一転して柔らかな空気と共に軽く笑みをもらすレミリア様。そんな主人に私は少しだけ肩をすくめて答える。
「いえ、ただそう思っただけで確信があったわけじゃありませんから。ですので、先ほどは演技というよりは話の流れにあわせただけですわ」
「やっぱり咲夜は賢いわ。だって、さっきの返事は半分冗談、半分本気だったもの。つまり最初のあなたの質問に答えるならば、別に過ぎた冗談ではないわよ」
 今度は小悪魔的な笑みで答えるレミリア様。ころころ表情が変わるのは、見かけ年齢的に不思議ではないのだが、その浮かべている表情が実際に経てきた年月をあらわしている。
「もし、この返事を受けて亡霊の姫が刃を向けるようならば…全力で潰すわ。輪廻を拒絶するくらい徹底的にね」
「そうならなければ?」
「その時は、宴とやらを楽しめばいいわ。矮小な姫の顔をつまみにね」
 地平線のかなたに今宵の月が丸い頭をのぞかせている。その月はいつもより大きく見え、また血で濡れたかのように深紅の輝きを放っている。その光に照らされたお嬢様の顔は、心なしか嬉しそうな表情だった。



「おーい霊夢ー」
「あら、魔理沙じゃないの。あれ? もしかしてあなたも呼ばれた口?」
 冥界への結界入り口前で霊夢と鉢合わせる。いつもの巫女装束で、いつもながらのんびりと飛行している彼女。
「ああ、そうだぜ。しかし、霊夢まで呼ばれているとわな。今宵は賑やかな宴になりそうだぜ」
「魔理沙一人だけでも十分賑やかになるわよ、きっと」
 やれやれといった感じで答えられる。まあ、確かに宴は楽しまなきゃ損だからな。霊夢に声がかかってるならば、きっと紅魔館のメイド長にも誘いはいっているだろう。結界を抜け、白玉楼へと向かう長い階段を飛行しながら、さらに声を掛ける。
「でもまあ、暇つぶしにしては急にどういうつもりなんだろうな、あの姫様は」
「暇つぶしでしょ。ほんとに、何も考えていないだけじゃないかしら」
「…さー」
「はは、違いないな」
 苦笑いを浮かべる私と霊夢。長い永い階段を抜け、地平線の向こうに白玉楼が姿をあらわす。
「しっかし…ほんとに無駄に広いよな、ここ」
「ほんとよね、来客の事を考えてほしいわ」
「まあ、普通の人間はこんなところにはこれないからな、考えちゃいないだろ」
「それもそうね」
 嘆息混じりに二人して仕方なく納得する。
「…りさー」
「で、何かさっきから後ろから聞こえるような気がするんだけど」
「気のせいだぜ。ほらもう月が昇ってきてるし急ぐぜ」
 背後から聞こえる怨霊のような声を無視して、私は速度を上げる。しかし霊夢に速度をあわせるとなると、それもすぐ限界が来てしまう。
「ちょっと、待ちなさいよ魔理沙ー!」
「ほら、呼んでるわよ、あなたのこと」
「あいにくと私には怨霊の知り合いはいない」
「でも、どう見てもあれ、生身の魔界人」
 後ろを振り返り、声の主を見たらしい霊夢。少なくとも私には振り返るつもりはない。むしろ、振り返りたくない。
「眼の錯覚だぜ。あー、ちょっと幽々子に用事があったんだ。そういうわけで、私は先に行く」
 徐々に近づいてきて、明瞭に聞き取れるようになりつつある声を振り切るために、私は霊夢を置いて先に白玉楼へ向かうことにする。
「そう? 私は疲れるの嫌だし、のんびり行くことにするわ」
「ああ、それじゃまたな、霊夢」
 そうして、私は一路白玉楼へ、全速力で向かった。



「魔理沙ぁ…待ってよぅ…」
 魔理沙が全速力で飛んでいったその数瞬後、後ろから声の主がやけにしおらしくなって追いついてきた。
「で、こんなところに何の用よ、アリス」
「あ、霊夢」
 アリスは一瞬、魔理沙を追いかけるかどうか逡巡した様子を見せたが、速度に絶対的な差があることはわかっているのだろう、諦めて私と並走する。
「別にこんなところに用はないんだけど、魔理沙が来てるから仕方なく、ね」
「へぇ、魔理沙もこんなに思い慕われて幸せよねぇ」
 と、私はからかい混じりにこの魔界人を囃す。いつもなら、『誰があんな黒白魔法使いを。まあ、目障りだから、消してしまいたいという思いは募ってるかもしれないけどね』と軽く返してくる。
 が、その反応は私を驚嘆させるものだった。
「う…うん…」
 頬を赤らめ、指先をもじもじと絡めながら消え入りそうな声で肯定の返答をするアリス。それは、私の中の世界で音が一切なくなったような気がするほどの、衝撃の告白。
「えーっと…アリス、何か最近実験に失敗した記憶とかない?」
「失礼ね。どこぞの巫女と違って、私は失敗なんてしないわ」
 さっきの態度が嘘のように居丈高に答える。ただ、まだ頬は赤いままだった。
「そ、そう。ならいいんだけど」
 返答に私を引き合いに出されたのが多少気になるが、今はそれどころではない。
「ところで、霊夢。魔理沙と親しげにしてたみたいだけど、あんまりべたべたしないでよね」
 ふらぁ…
 意識が遠くなる。居丈高な態度は変わらず、だが顔をよりいっそう紅潮させながら言うアリスを尻目に私は、今日食べたもので何か幻覚作用があるものでも食べたかどうか、実はこれは夢なんだとか取り留めのない思考に意識を奪われる。
「そもそも、べたべたしているつもりはないんだけどね…それ、本気で言ってる?」
 かろうじて、紡ぎ出せた言葉は確認を取るための言葉。そして、ここで、アリスが私をからかっているということで一件落着となるはず。
 だが、やはりその期待は叶えられないらしい。
「ええ、本気よ。もし、私の魔理沙に手を出したら、霊夢といえどもただではすまさないわ。私の命にかえても」
 殺気混じりで、まじめな顔で返答されてしまった。
 あーもう、頭が痛い。ってか、なんで私がこんなことで悩まなくちゃいけないのよ。そうよ、これは、魔理沙とアリスの二人の問題。二人がどんなことになろうと私には関係ない。
 私は、考える事を止めた。
「安心して、私は魔理沙には興味ないし。アリスが本気なら応援してあげるわよ」
「ほんとっ!?」
 うって変わって満面の笑みと共に私に抱きつくアリス。
「こ、こら、落ちるっ。制御が効かないじゃないのよっ」
「ありがとっ、大好き霊夢」
 背筋が凍りつくような一言をあっけらかんと言うアリス。冗談じゃない。こんな倒錯した世界の被害者は魔理沙一人で十分だわ。
「あ、ありがと。さ、さあ、とりあえず、魔理沙の行き場所は私と一緒だから、向かいましょう」
「うんっ」
 人懐っこい笑顔と共に力いっぱい頷くアリスを引き離し、私はこころもち速度を上げて、魔理沙が向かった先…白玉楼へと向かう。ああ、早くこのアリスの皮をかぶったなにかを魔理沙に押し付けないと精神衛生上非常によくないわ。



…そして、時は遡る…



「ただいま戻りました」
「あら、意外に遅かったわね妖夢」
 幾分、疲れた体で白玉楼に戻った私を迎えたのは、いつもの飄々とした表情の幽々子様。
「ええ、それはまあ、いろいろありましたから」
「あらあら、ただ人を誘うのに何がいろいろあるのかしら」
 頭に『?』を浮かべながらきょとんとした表情で尋ねてくる。
「…いえ、別にたいしたことじゃないんですけどね」
「そう?」
 紅魔館での出来事が、頭に思い浮かんだが、逡巡した後、私はその事を幽々子様に話さないことにした。
 卓上に並べられた和食料理の数々を見るだけで、幽々子様がどれだけはりきってるのかが見て取れる。その楽しみに水を差すような事をいいたくはなかった。
 普段は面倒臭がりな幽々子様だが、やるときはやる。そして、そのときの幽々子様は何事にも卓越した技術を振るう。
 本人曰く『真の実力者は、その能力を安っぽく見せるべきではないわ。最低限、ここぞというべきところでその能力を発揮するからこそ、その実力は尾ひれがついてカリスマ溢れるものになるのよ』だそうだ。
 でも、料理の能力まで普段隠す必要があるのかどうか、ちょっぴり疑問だったりもする。それ以前に普段から隠しすぎで、かえって人からの印象は『ぼーっとしてる人』になりかねない状態だ。
「それにしても、ずいぶん作りましたね。食べきれるんですか?」
「大丈夫よ。残った分は全部妖夢が食べてくれるから」
「…え?」
 さらっと恐ろしい事を言われて、私はもう一度、その用意された料理を見直す。
 …ごめんなさい、幽々子様。この量はどう考えても、全員で食べても三人前くらいは残ってしまいそうです。
「冗談よ。それにきっと、これくらいでちょうどいいわ」
「えー。絶対余りますよ、これ」
「主の言うことが信用できないのかしら?」
 信用できません…と、喉下まででかかったその言葉を飲み込む。居間のほうから三人分の気配が感じ取れたからだ。
「信用はしますけど、幾分性格が悪いかと」
「むー」
 そして、本日二度目の膨れっ面を浮かべる。紅魔の主とは違い威厳のかけらもない表情。でも、一つだけわかったことがある。
 そう、私は別に主人に威厳などは求めていないということだ。口では、『もっと、しゃきっとしてください』と言うことはあるが、決してこの生温い主従関係が嫌いではないこと。むしろ大好きであること。
 そして、この関係は守らねばならないということ。たとえ、それを脅かすのが絶大な力を持つ相手であろうと、私の持てる力をすべて発揮して、その結果、この身が五体満足ですまなくても。
「…妖夢。ずいぶん険しい顔つきだけど? もしかして怒った?」
「いえ、そういうわけではないですよ」
 幾分決意が表情に出てしまったのか、幽々子様が心配げに尋ねてくる。それに対して、私はなんでもないように返事をした。
 幽々子様は、心底今日の宴を楽しみにしていらっしゃる。その楽しみに水を差すわけにはいかない。なので、宴は中止するわけにはいかない。幽々子様に余計な心労をかけるわけにもいかない。だが、もし、あの紅魔の主が不穏な動きを見せれば…そのときは、幽々子様には申し訳ないが、宴が台無しになってでも初太刀をあの主に…
「おーい、来てやったぜー」
 外から、黒白魔法使いらしい声が聞こえる。空を見上げると、紅く不気味な月が、さんさんとその光を地上へと振りまいていた…
はい、懲りずに中編を書かせていただきました、頭痛がひどくていっぱいいっぱいな一駄文書きです。
またまた、私の作品を見ていただけた方がいるなら、感謝の気持ちでいっぱいです。

今回は、前編でご指摘いただいた点に気をつけて書き上げてみました。

しかし…結局、そこそこに三点リーダを使ってますし、地の文を増やしてはみたものの、情景描写的にはほとんどないような気が…他作者様のお話を一度ゆっくり読み直して勉強する必要がありそうです。

お話も、また微妙な方向に進んでいますしね…

しかし、出来に関しては全く満足できないというほどではないので、投稿させていただきました。(それに早くしないと、新規ページに移ってしまいますから…)

結局、構図としては血気はやってる妖夢、まあ、気に食わないことしやがったらぶっ潰すぞのレミリア、成り行き任せの咲夜、何も知らない幽々子様といったところでしょうか…

さて、次回は登場人物がまた3人ほど増えますし…今のところは1対1の会話がメインですからまだ見れてますけど、多人数会話が果たして成り立たせることができるのかどうか…筆者の力量に不安を感じながらお待ちいただけますと幸いです。

そもそも、永い夜はまだ始まっていないわけで…これ、後編だけで終わるのかどうかが激しく不安な作者でした。

(9月22日、文中『なりかねていない』を『なりかねない』に修正)
一駄文書き
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コメント



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4.50MUI削除
闊達としたセリフが、先へ先へと読ませる巧い話の運びになっています。
思っていた以上にスケールの大きな話が待っているような感じがして、続きが非常に気になってきました。豪華メンバーになりそうですねぇ。何となく、かなりの危険が待っているような(笑)。

しかし、ご自身で危惧していらっしゃるのであれば以下はあえて厳しく書きますが、割と感情的になれない妖夢の視点で一人称というせいか、実に書き辛そうにしていると思わせる箇所が散見されます。
特に地の文に気を使いすぎているような感じです。全体が幾分ぎこちないのはその所為なのかと。
やはり三人称か、完全に過去の話として回想風にしたほうがよかったのではないかと、残念に思いました。
6.50裏鍵削除
あーアレですなこりゃ。魔理沙がアリスに飲ませたのはw
実は幽々子、大した事をするつもりはなかったのに、結局面子が面子で大したことになりかねませんなw
続き期待してますー
8.無評価NNC削除
文章で気になった点が。
途中「~になりかねていない状態」とありますが、単に「なりかねない」で
よいのではないでしょうか。
あと、コメントの「新規ページに~」云々は、(投稿基準は人それぞれとはいえ)
いかにも急いで書き上げましたという印象を受けてしまうのですが。
16.無評価一駄文書き削除
っとと、また感想が…本当に、ありがとうございます。
仕事の疲れが、癒されるような気がします。

>MUI様
台詞回しの部分を気に入っていただけて何よりです。
スケールは大きくしようかなぁとは思っていますが…作者の力量に激しく不安が…
いかにして、多人数時にキャラを立たせるか、そこが問題です。

ご指摘の地の文ですが、正直大変難儀しております。
実質、三人称とキャラ視点とごっちゃになってるような気がしています、作者自身が。
基本的に風景描写等が三人称、そうでないところがキャラ視点でしょうか…
そういう風に感じてはいるものの、自分なりの修正をして未だこの結果なので、精進が足りません。

別の作品を書く機会がありましたら、いろいろと試してみたいようにと思っています。

>裏鍵様

まあ、ちょっとした副作用ネタですね<魔理沙&アリス
なんか、殺伐とした空気を変える適役といえば魔理沙が一番ですから。
(作者的にはレティチルコンビが一番なのですが…今回出番ないです)

幽々子自体は、暇だからみんなで遊ぼうー程度のことでした。
まあ、そんな中変に気負ってる二人がいますが…まあ、なるようになるかと…

>NNC様

あ…『なりかねていない』でGoogle検索しても一件も出てこないですね…
すみません、確かに『なりかねない』が正しいです。
しかし…今の今まで、『なりかねていない』が普通に日本語として存在するものだと思っていました。
一つ勉強になりました。ありがとうございます。

ご指摘の新規ページ云々ですが…すみません、確かに書き急ぎました。
読んでもらいたいがために、この場を借りて公開させていただいてる身ですが、
新規ページってすっごく目立っちゃうと思ったので、まだまだ新参者の身としては気が引けてしまい…かといって、ペースを考えると、新規ページが落ち着く前に書きあがりそうなペースでしたので。

でも、確かにあとがきに書くべきではないですね。書いてしまったものは消してもどうにもなりませんから、消しませんが、反省します。
17.50真人削除
章ごとに視点の移動が「咲夜>魔理沙>霊夢>妖夢」と移っているんですね。
全て永夜抄の人間側キャラなのは狙いなのでしょうか?
最初は戸惑いましたが、慣れて来ると面白いと感じました。

ちなみに原則としては章の中での視点移動は混乱を招きますので、
「風景描写等が三人称、そうでないところがキャラ視点」と区切るよりは
風景描写もキャラ視点でやる方がいいかと思います。
それはそれで難しくなるとは思いますが…。

冥界の宴はどのような結末を見せるのか?
続きを期待しています。
20.50RIM削除
うむむ、宴会の内容がさらに気になる。
絶対にレミリアが噛んでいるなと一人で予想…する今日この頃。
これだけの人数がいるとキャラを立たせるだけでも大変になりそうだw
危険な香りがかなりしそうな後編を期待します。

さきも言いましたが、これだけの人数になると視点のやり取りが大変になるのではないかと思われます。
話の中心は妖夢のようなので固定視点でなるべく展開するか、敢えて様々な視点から話を展開させるか、その方向性を決めないと話がぐちゃぐちゃになりそうな事が否めないと思いました。
21.50MSC削除
アリスまで参戦。
この宴はどうなってしまうのかかなり気になりますな。
これで永夜抄組が勢ぞろい、この展開は間違いなく危険区域。
一体どうなる後編!?

気になるポイントは皆様と同じで、三人称とキャラ視点です。
読み手としては少々マイナスポイントになるので気をつけて。