Coolier - 新生・東方創想話

言葉ではなく

2004/09/15 11:56:24
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 幻想郷。文字通り幻想の住人やそれ以外の住人が集う場所である。
人気の無い神社、紅魔が統べる館、死者の集う庭、そして――魔女の住む森。
 その何れにも、幻想郷屈指の実力者が居を構えている。種類は色々で立場も様々で
力関係も歪なものではあったが、とりあえず皆まぁ平和っぽく暮らしていた。

 その内の一つ、常人なら抜け出ることはおろか入り込み迷うことすら至難の業という、
正しく怪異の根源のような魔女の森には、魔法使いが住む家と魔砲使いが住む家がある。

 その魔砲使いの家の前に、佇む一人の影。右の手には赤いドレスの綺麗な人形を抱え、
一部では自作ポエムノートではないかと噂されている魔道書を持っている。左の手には
今さっきまでバスケットを持っていたが今はそれを地面において、取り出したハンカチで
顔を拭っている。アリス・マーガトロイド。彼女が森の魔女分の五割を占める存在だ。
 森の中のくせに妙に西日が当たるその家の前で、額の汗を拭いたハンカチをポケットに
詰め込み、足元のバスケットを左手で拾い上げ、彼女は扉の前に立った。
 必然的に両の手がふさがるわけだが、代わりに抱えた人形が扉をノックしてくれる。
体躯に見合わぬ大きな扉を懸命に叩いて響かせる様は、なんとも愛らしい姿である。

「魔理沙、魔理沙ーっ」

 家主に呼び声をかける。一瞬の間の後、ドタドタと威勢のいい足音がして次に勢いよく
扉が開かれた。家主のこの一連の動きを知らない連中は開いた扉にしこたま顔をぶつける
ことになるが、アリスは慣れたもので開く直前に半歩退いてそれをいなす。

「お、アリス久しぶりだな。それで、さっき扉を叩いたのは誰だ?」
「叩いたのは上海人形。でも呼んだのは私よ」
「分かってるよ。確認しただけだ」

 そう言うと家主――霧雨魔理沙は小さく笑った。彼女はいつでも相手を小馬鹿にした
態度を取るが、アリスは特に気にする様子もない。これで森の魔女分が十割そろった。

「それで、何の用だ? メシの無心なら支度はこれからだぞ」
「アンタじゃあるまいし、たかりに来たわけじゃないわよ。今日は恩を売りに来たの」
「セールスはお断りだぜ」
「人の親切は素直に受けるものよ」
「自分で恩を売りに来たって言ったじゃないか。支払いは仇(あだ)でいいのか?」
「品も値段も見ないで支払えるの? ハイこれ。見てみなさい」

 左手に持ったバスケットを持ち上げる。上海人形がその上に掛かっている布をめくると、
中には変わった芳香を放つきのこが積まれていた。

「おぉ? そいつは魔法薬の材料きのこ……何でお前が?」
「私は別の材料を探しに行ったんだけど、森で偶然にも群生してるのを見つけたのよ」
「これが沢山生えてたってのか?」
「そうよ。だから、ついでに摘んできてあげたの。感謝してもいいのよ」
「そうだったか。こいつはこの森でも結構珍しい種類で……アレ?」

 何かを思い出して部屋の中に駆け戻る魔理沙。しばらく部屋をかき回す轟音が響き、
そして照れくさそうにはにかみながら玄関に戻ってきた。

「いやー、確認したらそのきのこ、もうストックが尽きる寸前だったぜ」
「まったく、在庫の確認ぐらい静かにやれないの? まぁ、そんな事だろうと思ってたけど」
「そう言うなって。それでモノは相談なんだが、そのきのこ譲ってくれないか?」
「恩を売りに来たって言ったでしょ。私の話を聞いてなかったの?」
「分かってるよ。確認しただけだ」
「支払いは仇以外でお願いね」

 魔理沙はアリスからバスケットを受け取ると、再び部屋の中に戻っていった。部屋に
受け取った荷物を置いて、ふと壁の時計に目をやる。そういえば夕食の支度をするつもり
だったのを思い出した。

「おーいアリス、せっかくだからメシぐらい食っていかないか」
「……そうね、たまには和食もいいかもね。それで恩を返したつもりになられても困るけど」
「気にするな、私だってそこまで無礼じゃないぜ。ところで、箸は使えたっけか?」
「お構いなく。何も問題は無いわ」
「そうかい」

 と、ここで魔理沙が奥の部屋から顔だけを覗かせ、

「うん、今日はサンキューな、アリス!」

 満面の笑みを浮かべた。



――――ああ。この一言、この笑顔が見たくて、聞きたくて。
丸一日、野山を駆けずり回って希少なきのこを探した苦労が報われた瞬間だわ。
事前に人形で勝手に在庫状況を調べたことには多少の罪悪感もあったけど、現にこうして
魔理沙の為になっているので深く考えないことにしよう。
あとは、通された客間で魔理沙の手料理(←ここ重要)が出来るのを待っていればいい。

今度は、足繁く白玉楼に通って和食の作法や箸の使い方を教わった苦労が報われる番ね。





――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




「まったく、幻想郷は不器用な奴らばっかりだぜ」

ちらりとバスケットを見て呟く。

「私だって、こんなに群生してたのなんて見たこと無いぜ」

嘘吐きが美徳とは言わないが、嘘が下手なのも美徳とは言えないだろう。

「それでいてきのこ以外は全くの手ぶらで。何が”ついで”だっつーの」

それにつけてのみ言えば、自分は嘘を吐くのが得意で良かったと思う。

「……まぁ、夕餉はせいぜい腕によりを掛けてやるか」

そして、あとは感謝してる事がバレないようにせいぜい振舞っていればいいのだから。




~End~
始めましてだす。
ここのSS郡が面白すぎるので、我慢しきれなくなって参戦した次第です。
東方はえいやしょーから入った新参ですが、もー虜。やめらんねっす。


今回のは、何処と無くツンデレな感じのアリスが頑張るお話です。
ほら、お弁当を渡す手の指にたくさん絆創膏が……ってヤツですよw
むしろ努力家設定は魔理沙のほうなんだけど、逆パターン。
ま、アリスへの返礼のときにその才能を遺憾なく発揮してくれるんでしょうね。

このテの二次創作は無性にやりたくなる瞬間があるので、またお邪魔することも
あるかもです。

んでわ、コンゴトモヨロシク……

PS.
スッゲ今更ですがちょっとだけ修正。不自然が自然になってればいいけど。
二足歩行猫
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