「何やってるんだか、こんな暑い時に夏風邪なんて。おまけに熱出してるし」
「う、うるさいわね、引いたものは仕方ないでしょ!けほっけほっ!」
「おいおい、あまり大きな声を出すと発作が起こるぜ」
私―――霧雨魔理沙の呆れも混じった言葉にベッドで寝ている紫色の髪の少女は頬を膨らませる。
ここは紅魔館にあるヴワル魔法図書館の主の自室。で、そこに寝ているのがその当の主である七曜の魔法使いにして知識と日陰の少女パチュリー・ノウレッジ……そんでもってまあ、彼女はその……私の、何だ。「あれ」だ。
今の彼女は俗に言う夏風邪を引いており熱もあって寝込んでいる状態だ。3度の飯より本を読むことが好きなこいつだが今回はメイド長に本を取り上げられており、熱で体が思うように動かないのもあってかかなり不機嫌だ。
治癒魔法と言う手もあるのはあるんだが、まー持病の喘息の発作―――最近私が外によく連れ出してるのがいいのか悪いのか、その数は少なくなってきているが―――が運悪く発動して使えない状況。
「はぁ……仕方ないな。これじゃあ新作スペルカードのお披露目も無理か」
「ごめんね。私が風邪なんて引いたから……こほっこほっ」
「別に構わんって。風邪を引いたときは何もせずに休むが一番だぜ」
「……そうね。そうするわ」
珍しくパチュリーは私の意見に従った。いつもなら「本が読みたい」とか言うくせに。
「っと、そろそろかな。パチュリー。脇のあれ」
「うん、わかったわ」
パチュリーはネグリジェの中から1本の棒のような物体を取り出す。それは硝子のような何かでできており、中には液体とメモリの書かれた紙のような物が入っている。
こいつは香霖堂から私が拝借してきた地上世界の道具で体温計と言うらしい。ネーミングからしてこんな感じに使うだろうなというのとパチュリーに見せてやろうというのの二つを思って持って来たが、ビンゴだったみたいだな……
「38度、ね」
「それってどんな感じなの?」
「香霖の言うには人間の形をした生物の基本的な体温は36度ぐらいらしいけどな」
「たった2度しか違わないじゃない」
「ついでに言うと40度で脱水症状を起こして42度ぐらいで普通の人間は死ぬらしいぜ」
「……」
パチュリーはいきなり沈黙する。ま、私の言葉が効いたんだろ。そうだ、そうに決まっている。よしそう決めた、ここで決めた、今決めた。
さてと、貸した本も返したことだし、私はどうするかね……っとそうだ。
「なあパチュリー」
「何?」
「薬とか飲んだのか?」
「飲んでないわ。この紅魔館にそういった類のものは少ないのよ。けほっ」
「成る程ね。原因は主?」
「そうよ」
顔だけをこっちに向けたまま言う。やっぱりな、主が病気なんてものを知らない体質だからそういう類の物が必要ないためだろう。
「そうだな、私の家から解熱剤辺り持って来ようか?」
「いいの?」
「構わないって」
「ん、ありがとう」
そういってパチュリーは熱で赤い顔を微笑ませる。ほんと、こういう顔は冗談抜きで可愛いのにな。何と言うか勿体無い気がするぜ。
私は今まで座っていたベッドの横の椅子から立ち上がりドアへ向かう。
「じゃ、家に一旦戻るとするぜ」
「わかったわ」
「メイド長に言われてるかも知れんが、本とか読むなよー」
「っ!もう!」
部屋を出る前にパチュリーに言っておいたが、枕が飛んできたのでさっさと私は部屋を後にした。
「あら魔理沙、何処に行くの?」
図書館を出て直にメイド長の十六夜咲夜と遭遇した。パチュリーの様子が気になってたんだろうかね。
「ああ、パチュリーの熱冷ましにちょっと家まで解熱剤を取りに行くんだ」
「そう、ありがとうね」
ぬお!珍しい!あの小言の喧しくて閻魔すらもビビって逃げ出す程の怒気を内包したメイド長が素直にお礼言ってる!明日は雪か!?
「貴女今物凄く失礼なこと思ってなかった?」
「気のせいだぜ」
「まあいいわ。とにかく、ここってほんと薬の類が少ないからね、持ってきてくれるだけでも助かるわ」
「それはパチュリーに聞いたからな。じゃ、薬を取ってからまた来るぜ」
「分かったわ」
私はその言葉を聞きながら紅魔館の入り口へと向かって行った。窓があったらそこを開けて飛ぶって手が使えるんだがなぁ。
「ほんと、おあついことで」
咲夜が何か言ってたがそれは私の耳に入ることは無かった。
真昼間の幻想郷。今は日の暦では長月の14日―――月の暦で言えば葉月の1日にあたる―――で風の臭いというべきものと気温から晩夏と初秋の中間といった感じがするが、やはりまだまだ暑い。加えて私の服は黒をメインにしているため太陽の光を吸収しやすいからもし魔法で服の内部を涼しくしてなかったら汗だくになってただろう。そんな幻想郷の空を私は箒に跨って飛んでいた。一応箒無しでも飛べるんだがまあ、これは私なりのスタイルみたいなものだ。
しっかし、本当に暑い。チルノが近くにいたら極楽だろうなぁ……
私がそんな事を考えていたら前方から何か黒い点のような物体が見えた。あんなのがあるということは……恐らく多分きっとあいつか。
その黒い点というよりは闇の球体は段々と大きくなり―――否、近づいてきて私の前の数メートル程で止まる。
「あーーーーーーっ!お前は!」
んがしかし、そこから聞こえてきたのはその闇を出してる張本人ではない声だった。だが私はこの声に聞き覚えがある。
「この声は……確かミスティア・ローレライか」
「そーよ!」
いきなり闇の球体から1人の少女が顔を出した。端から見るとちょっと異常な光景だな。
それはついこの前、私とアリスが月の異常を探るために空へと飛び立った時に人を鳥目にする能力で私の目を封じて攻撃してきた夜雀の怪、ミスティア・ローレライであった。まーあの時は私のマスタースパークであっさりと堕ちたがな。
「で、そのミスティアが一体全体何でそんな黒の球体を体に纏ってるんだ?」
「日除け兼相棒よ!」
「日除けってなんだよ~」
「ああごめんルーミアちゃん」
そして闇の中からもう一つ―――こっちは私が想像してた通りの相手の声がしてミスティアはそちらに謝る。
「そんなことより、此処であったが百年目!この前のリベンジも兼ねてあんたを食べてやるわ!」
「橙の台詞をパクるのはいけないが私は食べても美味しくないぜ」
「そーなのかー」
「ルーミアちゃん騙されちゃダメだよ!」
「騙してなんか無いぜ」
「とにかく!今日はあんた1人だけ!そして私達は2人!イコールあんたに勝ち目は無いわ!」
「ちょうどお腹もすいてきたし、倒して食べようね~」
闇を収縮して表れたルーミアとミスティアは横に並ぶ。
全く、仕方ないな……そうだ、どうせならこいつらには新作スペルカードの実験台にでもなってもらうか。
「私はお前達に食べられたくも無いんでね。食べたかったら私を倒すことだな」
「この力の差が分からないなんてあんたも所詮人間ね!」
「私は魔法使いだぜ」
「どうでもいいわそんな事!行くよ!ルーミアちゃん!」
「お~」
十字架のポーズのまま右手だけを上げたルーミア。そして幻想郷恒例行事の弾幕ごっこが開始された。
先手はミスティアの攻撃であった。いきなり彼女は懐からスペルカードを一枚取り出す。
「いくよ!声符「梟の夜鳴声」!!」
「楽勝!」
私はそれを最低限の動きで躱す。まあこれくらいは集中しなくても普通に回避できる。というか中国の方がもっと密度の濃い弾幕撃つぞ。
「せ~のっ、夜符「ナイトバード」!」
躱しきった所にナイスなタイミングでルーミアがスペルカードを発動。しかもこちらは何気にハード弾幕だし。だがこんなのは朝飯前。ミスティアの弾幕よりも楽である。
「当たれ!蛾符「天蛾の蠱道」!!」
「それ~っ!月符「ムーンライトレイ」!」
今度は2人同時にスペルカードを発動させた。ミスティアが前で使い魔を使って弾幕を発射しつつルーミアが後ろからレーザーの援護射撃をしてくる。中々にいいコンビネーションじゃないか。
「よっ、それっと、遅いぜ!」
「むかつくーーーー!!さっさと当たって私達の餌になりなさい!!」
「お断りだぜ!」
あっさりと躱しきった私に怒りを前面に出すミスティア。短気だなこいつ。とはいったものの流石に回避一方じゃつまらないしな、そろそろ反撃行きますかね。
私は1枚のスペルカードをポケットから取り出す。タイプは魔符でも恋符でもない、新しいタイプだ。
種類は……光符。
発動。瞬間、私の目の前に四角の線が現れる。魔法によって私の目だけに幻視(み)えるようになっているからミスティアとルーミアには見えない四角。ふむ、これはロックオンサイトって名付けておくか。
依然続くルーミアとミスティアの連携弾幕を躱しつつ私はミスティアに目をやる……そして、ロックオン。ミスティアにロックオンサイトと同じく私の目にしか幻視(み)えない逆三角形の物体が現れる。それが1、2、3、4、5、6、7……よし8つ!
「隙だらけだぜ!行け!」
私の声をトリガーにして発射されたのは、8つの緑色のレーザー。だがいつものレーザーではなく霊夢のホーミング弾のように敵を追尾する奴だ。へにょりレーザーが敵を追尾するタイプと思えばいいな。
「こんなのっ!って嘘!?」
ミスティアはあっさりと躱したはずであったがレーザーの追尾性能に驚き、攻撃を中断して回避に専念する。どうせ躱せるわけないだろ。
次はルーミアだな!
1、2、3、4、5、6、7、8つ!
「もう1つ!行け!」
「うわああああああああっ!」
ルーミアはあっさりと全弾直撃。しかも周囲に爆発が起こり追加のダメージを与える。
ふむ、最大同時発射可能数は8つ、それと私が幻視(み)てるこのロックオンサイトで捕捉しないとレーザーは相手に追尾しないか。まあ予想通りの能力だな。
「あ、あんたいつの間にこんなの使えたのよ!」
「人間は学習するものだぜ」
「派手に痛かったよ~」
ルーミアと同じく全弾直撃を受けたんだろう、ミスティアは少しフラフラしながらルーミアの元に戻る。ちっ、これでやられてくれたら楽だったのに……ってそれじゃあ本家の方がテストできないか。
「こーなったらこっちも奥の手よ!ルーミアちゃん!」
「わかったよミスティアちゃん!」
何をする気だ?
「いくよ!魔空「ザ・ダークネス」!」
ルーミアの発動させたスペルカードは……闇、ただそれだけを周囲にばら撒いた。私の周りもその闇に飲み込まれ―――いや、これは夜だ!
すぐに私の周りも闇夜へと変化する。一体どれくらい広がるつもりだ!?
「マジかよ……周囲の空間を夜に変えるスペルカードか」
非常にマズイ。これはルーミアだけならただ周りが夜に変わっただけで普通に戦える。だが今ルーミアの隣にはミスティア・ローレライがいる。そう……人間を鳥目にする程度の能力を持つ夜雀の怪が。
事実、この夜に飲まれてから私の目は周囲を写さなくなってきている。私は夜目が効く方だというのに……魔空「ザ・ダークネス」……単体では何の意味を持たないがミスティアがいるとその真価を発揮するスペルカードね。よくこんなものを作り上げたな。
「どう?あんたに私達の姿が見えるかしら?」
「……」
何処からとも無く―――って言うわけでもなく前方からミスティアの声が聞こえる。逃げる、という手もあるんだがこの擬似的な夜がどこまで続いてるか分からない状況でその行為はかなり危険だ。
「まさかこんな隠し玉を持ってるなんてな。褒めてやってもいいぜ」
「えへへ、ありがと~」
「こら!ルーミアちゃん!」
「あうっ、ごめん」
「まあいいわ。いくわよ!夜雀「真夜中のコーラスマスター」!!」
いきなりミスティアはラストスペルを発動する。ご丁寧に「コーラス」と「マスター」の部分で区切りをつけて強調しているし……しょうがない、こんな状態で堕とされたら堪ったもんじゃないからな、使うか。
私は光符に魔力を集中させる。
―――汝は光、汝は雨、汝は嵐―――
ミスティアの使い魔が私の周りを通過する。通過した跡には大量の弾。
―――我呼ぶは世界を照らす汝、我呼ぶは世界を濡らす汝、我呼ぶは世界を蹂躙する汝なり!―――
ルーミアからの攻撃は、無い。恐らくこの夜を維持するだけでいっぱいいっぱいなのだろう。
―――この声に応えるならば来たれ!この声に応えるならば舞え!この声に応えるならば……嵐となれ!!―――
ミスティアの放った弾丸が近づいてくるのが彼女から放たれる殺気で何となく分かる。だがもう遅い!既にスペルカードの発動の呪は終わっている。後は、力を解放させるだけ。
「光符……」
私は両手を前に突き出し、言った。
「レイストーム!!」
発動したのは先程のロックオンレーザーとは違って純白のレーザー、それが数十本。一度拡散すると方向を転換、一気に前方に嵐のように降り注ぐ。着弾点からは爆発。それが幾度と無く。一度爆発が起こると連鎖反応でも起こっているかのように爆発が連続して起こる。
「やられた~~!」
「お、おぼえてなさいよーーーーーー!!」
ルーミアとミスティアの断末魔のようなものが聞こえたがそれは大量の爆発音に掻き消された。ルーミアが発動した擬似的な闇夜を作り出すスペルカードも使用者が撃墜されたためか、段々と闇が晴れてきている。
「おおう、私が作ったとはいえ凄い威力だな……無差別殲滅攻撃型スペルカードってところか」
感嘆に浸る私だが、本来の目的を思い出して我に変える。そうだった、パチュリーに解熱剤を届けるために家に向かってるんだった。
「さて、中々にいい成果がでたからな。パチュリーを待たせるのもいけないから、行くか」
因みに復路では湖であのいっぱいいっぱいなガキの邪魔に会ったがあっさりと撃墜させた。しかもやられぎわの台詞がミスティアと同じ「お、おぼえてなさいよーーーーーー!」だったし。
「また来たぜ」
「また来たの」
紅魔館のヴワル魔法図書館にあるパチュリーの部屋に戻っていつもの挨拶代わりの言葉を交わす。ちゃんとベッドで大人しくしてたみたいだな。偉い偉い。
「メイド長に本没収されたか?」
「今日は読んでないわよ」
「おおう珍しい。まあそれより解熱剤、持って来たぜ」
「ん、ありがとう。って水?」
「水じゃないぜ。まあ水と同じ液体なのは確かだが」
私が持って来たのは一つの手のひらサイズの瓶。それに無色透明の液体が半分ほど入っている。
んー、このまま渡して帰るってのも何か味気無いしな、どうするかね……ってそうだ。
「ちょっと、何ニヤニヤしてるのよ?」
「別に何も無いぜ」
「その笑みはどう見たって何か企んでるでしょ」
やっぱりばれるよな、でもまあ私がやることは気付かれて無いみたいだし。
「というかそろそろその薬くれない?」
「ああ、分かったぜ」
私は瓶の蓋を開けてそれを半分だけ「自分の口に含んだ」うっ、苦い。
「何してるんんっ!?」
そしてそのままパチュリーの唇に口付ける。両手で側頭部を掴み、逃げられないようにしながら
「んっ……」
自分の舌を使って彼女の口を開き、そのまま口に含んだ薬をパチュリーの口の中へ入れていく。すぐにパチュリーの喉が何かを飲み込んだように動いた。よし、飲み込んだな。
私は口を離す。パチュリーのものかそれとも私のか、はたまた両方のか、唾液が余韻を残すように糸を引いている。
「ち、ちょっと!い、いきなり何するのよ!」
「このまま渡すってのも味気ないしな、ただ単に口移ししただけだぜ」
「う、あうう……」
「で、どうだった?」
「え?」
「お味はどうでしたか、パチュリー様?」
「そ、そんなこと……い、言えるわけ無いじゃないの!」
トマトのように顔を真っ赤にしているパチュリーはついに「うう……あう……」だのと唸りだした。おーうろたえてるうろたえてる。こいつって不意打ちにはとことん弱いからな。
「ま、これでちゃんと寝てたら熱は下がると思うからしっかり寝てろよ」
「……うん」
「さてと、どうするかね」
「あ、あのさ……魔理沙」
「ん?」
これから先のことを考えていたときにパチュリーに呼ばれる。
「どうした?」
「あ、あの……その」
「ん?」
「も……かい」
「よく聞こえないんだが」
「あ、あのね……もう一回、キス……してくれるかな?」
はい!?
「えっと、もう一回言ってくれるか?」
「もうっ!に、二度も言わせないでよ!その……もう一回、してくれる?」
多分パチュリーはさっきの口移し兼キスのことを言ってるんだろう。だが私の頭がそれを理解するのに十秒ほど掛かった。いつもは私の方からこういうのはするのに……パチュリーがねぇ。ま、いいか。
「いいぜ、お望みとあらばいくらでもしてやるよ」
そして再びキス。但し今回は触れるだけの優しいキス。さっきみたいに舌まで入れない。だがそれだけでも十分相手の気持ちは、わかる。
どれくらいの間そうしていただろうか、不意に部屋のドアが開かれた。
「パチュリー様ー、大丈夫ですかってきゃあっ!」
『!!』
私とパチュリーが声のした入り口の方を向くとそこにはパチュリーに召喚されて彼女の助手を務めている小悪魔―――確かパチュリーはリトルって言ってる奴がいた。但し、その顔を朱に染めて。
「ご、ごごごごごめんなさい。へへへへへ部屋間違えましたっ!!」
「間違えたっておい」と突っ込みを入れようと思ったが、言うより早く深々とお辞儀をして大慌てで出ていったリトル。残されたのは私とパチュリーのみ。
「うーん、どうも勘違いしてるみたいだな」
「あなたがキスするからでしょ」
「おいおい、お前がしてくれって言ったじゃないか」
「う……」
「で、どうする?この先するか?」
「やめとくわ。あ、後ね、もう一つお願いがあるの」
「ん?」
パチュリーは一度深呼吸して、言った。
「あのね……今日、ここに泊まってくれるかな?」
……それはあのメイド長やレミリアに私をからかうネタを作ってるような気もしないでもない提案であったが
「ああ、いいぜ」
私は二つ返事でOKを出した。ま、たまにはいいか。
あの風邪から数日後、私―――パチュリー・ノウレッジは夜の幻想郷の空を紅魔館へ向かって飛行していた。
さっきまで魔理沙の家で色々と本を読んだりお話しをしたり色々としていたらこんな時間になってしまったのよ。
まあその……あの時、魔理沙が激しくするんだもん。って何を思い出してるのよ私は!
慌てて魔理沙の家での記憶を頭を振って振り払う。顔が真っ赤になってるのが自分でも分かる。深呼吸をして息を整え、心を落ち着かせる。ふぅー
でもまあ、今日開発した新しいスペルカードも実験としては上々の結果だったし、いいかな。それにしても、光符「レイストーム」だっけ?あれは本当に驚いた。何せレーザーが正確にターゲットを狙い。ボムにいたってはルナティックなレーザーの弾幕が大量に来るんだから……躱せるのは至難の技ね。
私がそんな事を考えていると前方から気配を3つ感じた。1箇所に3人が集まってるみたいね。無視して通り過ぎようと思ってたけど気配の持ち主達はこっちに近付いてきていた。
「ここで会ったが百年目!」
「今日は新しい技の実験台に」
「付き合ってもらうよ~」
前方数メートルまで接近して停止したのは台詞の順からミスティア・ローレライ、リグル・ナイトバグ、そしてルーミアの3人だった。夜の闇トリオって言ってもいいかな?
「私はそれどころじゃないんだけど、実験台なら他の妖怪か人間にやってくれる?」
ジト目でミスティア達を見る。これで退いてくれたらいいんだけど。
『嫌』
「……」
聞いた私が馬鹿だったわ。しょうがない、新しいスペルカードの実験台に……でも3人でやる技って、あの騒霊姉妹達じゃあるまいし……まさか。
「いくわよ!!ジェットストリーム」
「日&風符「ラウンドディバイダー」!!」
ミスティアの言葉を皆まで聞くより早く体が勝手に反応して今日完成した新作スペルカードの詠唱に移っていた。いわゆる脊髄反射と言う奴よ。
発動。私を中心に大量の衝撃波状の弾幕が発射された。
「きゃああぁぁぁぁぁっ!!」
「やられた~~!」
「お、おぼえてなさいよーーーーーー!!」
まったく……誰かの技を盗むのは魔理沙だけにして欲しいわ。
終わり
「う、うるさいわね、引いたものは仕方ないでしょ!けほっけほっ!」
「おいおい、あまり大きな声を出すと発作が起こるぜ」
私―――霧雨魔理沙の呆れも混じった言葉にベッドで寝ている紫色の髪の少女は頬を膨らませる。
ここは紅魔館にあるヴワル魔法図書館の主の自室。で、そこに寝ているのがその当の主である七曜の魔法使いにして知識と日陰の少女パチュリー・ノウレッジ……そんでもってまあ、彼女はその……私の、何だ。「あれ」だ。
今の彼女は俗に言う夏風邪を引いており熱もあって寝込んでいる状態だ。3度の飯より本を読むことが好きなこいつだが今回はメイド長に本を取り上げられており、熱で体が思うように動かないのもあってかかなり不機嫌だ。
治癒魔法と言う手もあるのはあるんだが、まー持病の喘息の発作―――最近私が外によく連れ出してるのがいいのか悪いのか、その数は少なくなってきているが―――が運悪く発動して使えない状況。
「はぁ……仕方ないな。これじゃあ新作スペルカードのお披露目も無理か」
「ごめんね。私が風邪なんて引いたから……こほっこほっ」
「別に構わんって。風邪を引いたときは何もせずに休むが一番だぜ」
「……そうね。そうするわ」
珍しくパチュリーは私の意見に従った。いつもなら「本が読みたい」とか言うくせに。
「っと、そろそろかな。パチュリー。脇のあれ」
「うん、わかったわ」
パチュリーはネグリジェの中から1本の棒のような物体を取り出す。それは硝子のような何かでできており、中には液体とメモリの書かれた紙のような物が入っている。
こいつは香霖堂から私が拝借してきた地上世界の道具で体温計と言うらしい。ネーミングからしてこんな感じに使うだろうなというのとパチュリーに見せてやろうというのの二つを思って持って来たが、ビンゴだったみたいだな……
「38度、ね」
「それってどんな感じなの?」
「香霖の言うには人間の形をした生物の基本的な体温は36度ぐらいらしいけどな」
「たった2度しか違わないじゃない」
「ついでに言うと40度で脱水症状を起こして42度ぐらいで普通の人間は死ぬらしいぜ」
「……」
パチュリーはいきなり沈黙する。ま、私の言葉が効いたんだろ。そうだ、そうに決まっている。よしそう決めた、ここで決めた、今決めた。
さてと、貸した本も返したことだし、私はどうするかね……っとそうだ。
「なあパチュリー」
「何?」
「薬とか飲んだのか?」
「飲んでないわ。この紅魔館にそういった類のものは少ないのよ。けほっ」
「成る程ね。原因は主?」
「そうよ」
顔だけをこっちに向けたまま言う。やっぱりな、主が病気なんてものを知らない体質だからそういう類の物が必要ないためだろう。
「そうだな、私の家から解熱剤辺り持って来ようか?」
「いいの?」
「構わないって」
「ん、ありがとう」
そういってパチュリーは熱で赤い顔を微笑ませる。ほんと、こういう顔は冗談抜きで可愛いのにな。何と言うか勿体無い気がするぜ。
私は今まで座っていたベッドの横の椅子から立ち上がりドアへ向かう。
「じゃ、家に一旦戻るとするぜ」
「わかったわ」
「メイド長に言われてるかも知れんが、本とか読むなよー」
「っ!もう!」
部屋を出る前にパチュリーに言っておいたが、枕が飛んできたのでさっさと私は部屋を後にした。
「あら魔理沙、何処に行くの?」
図書館を出て直にメイド長の十六夜咲夜と遭遇した。パチュリーの様子が気になってたんだろうかね。
「ああ、パチュリーの熱冷ましにちょっと家まで解熱剤を取りに行くんだ」
「そう、ありがとうね」
ぬお!珍しい!あの小言の喧しくて閻魔すらもビビって逃げ出す程の怒気を内包したメイド長が素直にお礼言ってる!明日は雪か!?
「貴女今物凄く失礼なこと思ってなかった?」
「気のせいだぜ」
「まあいいわ。とにかく、ここってほんと薬の類が少ないからね、持ってきてくれるだけでも助かるわ」
「それはパチュリーに聞いたからな。じゃ、薬を取ってからまた来るぜ」
「分かったわ」
私はその言葉を聞きながら紅魔館の入り口へと向かって行った。窓があったらそこを開けて飛ぶって手が使えるんだがなぁ。
「ほんと、おあついことで」
咲夜が何か言ってたがそれは私の耳に入ることは無かった。
真昼間の幻想郷。今は日の暦では長月の14日―――月の暦で言えば葉月の1日にあたる―――で風の臭いというべきものと気温から晩夏と初秋の中間といった感じがするが、やはりまだまだ暑い。加えて私の服は黒をメインにしているため太陽の光を吸収しやすいからもし魔法で服の内部を涼しくしてなかったら汗だくになってただろう。そんな幻想郷の空を私は箒に跨って飛んでいた。一応箒無しでも飛べるんだがまあ、これは私なりのスタイルみたいなものだ。
しっかし、本当に暑い。チルノが近くにいたら極楽だろうなぁ……
私がそんな事を考えていたら前方から何か黒い点のような物体が見えた。あんなのがあるということは……恐らく多分きっとあいつか。
その黒い点というよりは闇の球体は段々と大きくなり―――否、近づいてきて私の前の数メートル程で止まる。
「あーーーーーーっ!お前は!」
んがしかし、そこから聞こえてきたのはその闇を出してる張本人ではない声だった。だが私はこの声に聞き覚えがある。
「この声は……確かミスティア・ローレライか」
「そーよ!」
いきなり闇の球体から1人の少女が顔を出した。端から見るとちょっと異常な光景だな。
それはついこの前、私とアリスが月の異常を探るために空へと飛び立った時に人を鳥目にする能力で私の目を封じて攻撃してきた夜雀の怪、ミスティア・ローレライであった。まーあの時は私のマスタースパークであっさりと堕ちたがな。
「で、そのミスティアが一体全体何でそんな黒の球体を体に纏ってるんだ?」
「日除け兼相棒よ!」
「日除けってなんだよ~」
「ああごめんルーミアちゃん」
そして闇の中からもう一つ―――こっちは私が想像してた通りの相手の声がしてミスティアはそちらに謝る。
「そんなことより、此処であったが百年目!この前のリベンジも兼ねてあんたを食べてやるわ!」
「橙の台詞をパクるのはいけないが私は食べても美味しくないぜ」
「そーなのかー」
「ルーミアちゃん騙されちゃダメだよ!」
「騙してなんか無いぜ」
「とにかく!今日はあんた1人だけ!そして私達は2人!イコールあんたに勝ち目は無いわ!」
「ちょうどお腹もすいてきたし、倒して食べようね~」
闇を収縮して表れたルーミアとミスティアは横に並ぶ。
全く、仕方ないな……そうだ、どうせならこいつらには新作スペルカードの実験台にでもなってもらうか。
「私はお前達に食べられたくも無いんでね。食べたかったら私を倒すことだな」
「この力の差が分からないなんてあんたも所詮人間ね!」
「私は魔法使いだぜ」
「どうでもいいわそんな事!行くよ!ルーミアちゃん!」
「お~」
十字架のポーズのまま右手だけを上げたルーミア。そして幻想郷恒例行事の弾幕ごっこが開始された。
先手はミスティアの攻撃であった。いきなり彼女は懐からスペルカードを一枚取り出す。
「いくよ!声符「梟の夜鳴声」!!」
「楽勝!」
私はそれを最低限の動きで躱す。まあこれくらいは集中しなくても普通に回避できる。というか中国の方がもっと密度の濃い弾幕撃つぞ。
「せ~のっ、夜符「ナイトバード」!」
躱しきった所にナイスなタイミングでルーミアがスペルカードを発動。しかもこちらは何気にハード弾幕だし。だがこんなのは朝飯前。ミスティアの弾幕よりも楽である。
「当たれ!蛾符「天蛾の蠱道」!!」
「それ~っ!月符「ムーンライトレイ」!」
今度は2人同時にスペルカードを発動させた。ミスティアが前で使い魔を使って弾幕を発射しつつルーミアが後ろからレーザーの援護射撃をしてくる。中々にいいコンビネーションじゃないか。
「よっ、それっと、遅いぜ!」
「むかつくーーーー!!さっさと当たって私達の餌になりなさい!!」
「お断りだぜ!」
あっさりと躱しきった私に怒りを前面に出すミスティア。短気だなこいつ。とはいったものの流石に回避一方じゃつまらないしな、そろそろ反撃行きますかね。
私は1枚のスペルカードをポケットから取り出す。タイプは魔符でも恋符でもない、新しいタイプだ。
種類は……光符。
発動。瞬間、私の目の前に四角の線が現れる。魔法によって私の目だけに幻視(み)えるようになっているからミスティアとルーミアには見えない四角。ふむ、これはロックオンサイトって名付けておくか。
依然続くルーミアとミスティアの連携弾幕を躱しつつ私はミスティアに目をやる……そして、ロックオン。ミスティアにロックオンサイトと同じく私の目にしか幻視(み)えない逆三角形の物体が現れる。それが1、2、3、4、5、6、7……よし8つ!
「隙だらけだぜ!行け!」
私の声をトリガーにして発射されたのは、8つの緑色のレーザー。だがいつものレーザーではなく霊夢のホーミング弾のように敵を追尾する奴だ。へにょりレーザーが敵を追尾するタイプと思えばいいな。
「こんなのっ!って嘘!?」
ミスティアはあっさりと躱したはずであったがレーザーの追尾性能に驚き、攻撃を中断して回避に専念する。どうせ躱せるわけないだろ。
次はルーミアだな!
1、2、3、4、5、6、7、8つ!
「もう1つ!行け!」
「うわああああああああっ!」
ルーミアはあっさりと全弾直撃。しかも周囲に爆発が起こり追加のダメージを与える。
ふむ、最大同時発射可能数は8つ、それと私が幻視(み)てるこのロックオンサイトで捕捉しないとレーザーは相手に追尾しないか。まあ予想通りの能力だな。
「あ、あんたいつの間にこんなの使えたのよ!」
「人間は学習するものだぜ」
「派手に痛かったよ~」
ルーミアと同じく全弾直撃を受けたんだろう、ミスティアは少しフラフラしながらルーミアの元に戻る。ちっ、これでやられてくれたら楽だったのに……ってそれじゃあ本家の方がテストできないか。
「こーなったらこっちも奥の手よ!ルーミアちゃん!」
「わかったよミスティアちゃん!」
何をする気だ?
「いくよ!魔空「ザ・ダークネス」!」
ルーミアの発動させたスペルカードは……闇、ただそれだけを周囲にばら撒いた。私の周りもその闇に飲み込まれ―――いや、これは夜だ!
すぐに私の周りも闇夜へと変化する。一体どれくらい広がるつもりだ!?
「マジかよ……周囲の空間を夜に変えるスペルカードか」
非常にマズイ。これはルーミアだけならただ周りが夜に変わっただけで普通に戦える。だが今ルーミアの隣にはミスティア・ローレライがいる。そう……人間を鳥目にする程度の能力を持つ夜雀の怪が。
事実、この夜に飲まれてから私の目は周囲を写さなくなってきている。私は夜目が効く方だというのに……魔空「ザ・ダークネス」……単体では何の意味を持たないがミスティアがいるとその真価を発揮するスペルカードね。よくこんなものを作り上げたな。
「どう?あんたに私達の姿が見えるかしら?」
「……」
何処からとも無く―――って言うわけでもなく前方からミスティアの声が聞こえる。逃げる、という手もあるんだがこの擬似的な夜がどこまで続いてるか分からない状況でその行為はかなり危険だ。
「まさかこんな隠し玉を持ってるなんてな。褒めてやってもいいぜ」
「えへへ、ありがと~」
「こら!ルーミアちゃん!」
「あうっ、ごめん」
「まあいいわ。いくわよ!夜雀「真夜中のコーラスマスター」!!」
いきなりミスティアはラストスペルを発動する。ご丁寧に「コーラス」と「マスター」の部分で区切りをつけて強調しているし……しょうがない、こんな状態で堕とされたら堪ったもんじゃないからな、使うか。
私は光符に魔力を集中させる。
―――汝は光、汝は雨、汝は嵐―――
ミスティアの使い魔が私の周りを通過する。通過した跡には大量の弾。
―――我呼ぶは世界を照らす汝、我呼ぶは世界を濡らす汝、我呼ぶは世界を蹂躙する汝なり!―――
ルーミアからの攻撃は、無い。恐らくこの夜を維持するだけでいっぱいいっぱいなのだろう。
―――この声に応えるならば来たれ!この声に応えるならば舞え!この声に応えるならば……嵐となれ!!―――
ミスティアの放った弾丸が近づいてくるのが彼女から放たれる殺気で何となく分かる。だがもう遅い!既にスペルカードの発動の呪は終わっている。後は、力を解放させるだけ。
「光符……」
私は両手を前に突き出し、言った。
「レイストーム!!」
発動したのは先程のロックオンレーザーとは違って純白のレーザー、それが数十本。一度拡散すると方向を転換、一気に前方に嵐のように降り注ぐ。着弾点からは爆発。それが幾度と無く。一度爆発が起こると連鎖反応でも起こっているかのように爆発が連続して起こる。
「やられた~~!」
「お、おぼえてなさいよーーーーーー!!」
ルーミアとミスティアの断末魔のようなものが聞こえたがそれは大量の爆発音に掻き消された。ルーミアが発動した擬似的な闇夜を作り出すスペルカードも使用者が撃墜されたためか、段々と闇が晴れてきている。
「おおう、私が作ったとはいえ凄い威力だな……無差別殲滅攻撃型スペルカードってところか」
感嘆に浸る私だが、本来の目的を思い出して我に変える。そうだった、パチュリーに解熱剤を届けるために家に向かってるんだった。
「さて、中々にいい成果がでたからな。パチュリーを待たせるのもいけないから、行くか」
因みに復路では湖であのいっぱいいっぱいなガキの邪魔に会ったがあっさりと撃墜させた。しかもやられぎわの台詞がミスティアと同じ「お、おぼえてなさいよーーーーーー!」だったし。
「また来たぜ」
「また来たの」
紅魔館のヴワル魔法図書館にあるパチュリーの部屋に戻っていつもの挨拶代わりの言葉を交わす。ちゃんとベッドで大人しくしてたみたいだな。偉い偉い。
「メイド長に本没収されたか?」
「今日は読んでないわよ」
「おおう珍しい。まあそれより解熱剤、持って来たぜ」
「ん、ありがとう。って水?」
「水じゃないぜ。まあ水と同じ液体なのは確かだが」
私が持って来たのは一つの手のひらサイズの瓶。それに無色透明の液体が半分ほど入っている。
んー、このまま渡して帰るってのも何か味気無いしな、どうするかね……ってそうだ。
「ちょっと、何ニヤニヤしてるのよ?」
「別に何も無いぜ」
「その笑みはどう見たって何か企んでるでしょ」
やっぱりばれるよな、でもまあ私がやることは気付かれて無いみたいだし。
「というかそろそろその薬くれない?」
「ああ、分かったぜ」
私は瓶の蓋を開けてそれを半分だけ「自分の口に含んだ」うっ、苦い。
「何してるんんっ!?」
そしてそのままパチュリーの唇に口付ける。両手で側頭部を掴み、逃げられないようにしながら
「んっ……」
自分の舌を使って彼女の口を開き、そのまま口に含んだ薬をパチュリーの口の中へ入れていく。すぐにパチュリーの喉が何かを飲み込んだように動いた。よし、飲み込んだな。
私は口を離す。パチュリーのものかそれとも私のか、はたまた両方のか、唾液が余韻を残すように糸を引いている。
「ち、ちょっと!い、いきなり何するのよ!」
「このまま渡すってのも味気ないしな、ただ単に口移ししただけだぜ」
「う、あうう……」
「で、どうだった?」
「え?」
「お味はどうでしたか、パチュリー様?」
「そ、そんなこと……い、言えるわけ無いじゃないの!」
トマトのように顔を真っ赤にしているパチュリーはついに「うう……あう……」だのと唸りだした。おーうろたえてるうろたえてる。こいつって不意打ちにはとことん弱いからな。
「ま、これでちゃんと寝てたら熱は下がると思うからしっかり寝てろよ」
「……うん」
「さてと、どうするかね」
「あ、あのさ……魔理沙」
「ん?」
これから先のことを考えていたときにパチュリーに呼ばれる。
「どうした?」
「あ、あの……その」
「ん?」
「も……かい」
「よく聞こえないんだが」
「あ、あのね……もう一回、キス……してくれるかな?」
はい!?
「えっと、もう一回言ってくれるか?」
「もうっ!に、二度も言わせないでよ!その……もう一回、してくれる?」
多分パチュリーはさっきの口移し兼キスのことを言ってるんだろう。だが私の頭がそれを理解するのに十秒ほど掛かった。いつもは私の方からこういうのはするのに……パチュリーがねぇ。ま、いいか。
「いいぜ、お望みとあらばいくらでもしてやるよ」
そして再びキス。但し今回は触れるだけの優しいキス。さっきみたいに舌まで入れない。だがそれだけでも十分相手の気持ちは、わかる。
どれくらいの間そうしていただろうか、不意に部屋のドアが開かれた。
「パチュリー様ー、大丈夫ですかってきゃあっ!」
『!!』
私とパチュリーが声のした入り口の方を向くとそこにはパチュリーに召喚されて彼女の助手を務めている小悪魔―――確かパチュリーはリトルって言ってる奴がいた。但し、その顔を朱に染めて。
「ご、ごごごごごめんなさい。へへへへへ部屋間違えましたっ!!」
「間違えたっておい」と突っ込みを入れようと思ったが、言うより早く深々とお辞儀をして大慌てで出ていったリトル。残されたのは私とパチュリーのみ。
「うーん、どうも勘違いしてるみたいだな」
「あなたがキスするからでしょ」
「おいおい、お前がしてくれって言ったじゃないか」
「う……」
「で、どうする?この先するか?」
「やめとくわ。あ、後ね、もう一つお願いがあるの」
「ん?」
パチュリーは一度深呼吸して、言った。
「あのね……今日、ここに泊まってくれるかな?」
……それはあのメイド長やレミリアに私をからかうネタを作ってるような気もしないでもない提案であったが
「ああ、いいぜ」
私は二つ返事でOKを出した。ま、たまにはいいか。
あの風邪から数日後、私―――パチュリー・ノウレッジは夜の幻想郷の空を紅魔館へ向かって飛行していた。
さっきまで魔理沙の家で色々と本を読んだりお話しをしたり色々としていたらこんな時間になってしまったのよ。
まあその……あの時、魔理沙が激しくするんだもん。って何を思い出してるのよ私は!
慌てて魔理沙の家での記憶を頭を振って振り払う。顔が真っ赤になってるのが自分でも分かる。深呼吸をして息を整え、心を落ち着かせる。ふぅー
でもまあ、今日開発した新しいスペルカードも実験としては上々の結果だったし、いいかな。それにしても、光符「レイストーム」だっけ?あれは本当に驚いた。何せレーザーが正確にターゲットを狙い。ボムにいたってはルナティックなレーザーの弾幕が大量に来るんだから……躱せるのは至難の技ね。
私がそんな事を考えていると前方から気配を3つ感じた。1箇所に3人が集まってるみたいね。無視して通り過ぎようと思ってたけど気配の持ち主達はこっちに近付いてきていた。
「ここで会ったが百年目!」
「今日は新しい技の実験台に」
「付き合ってもらうよ~」
前方数メートルまで接近して停止したのは台詞の順からミスティア・ローレライ、リグル・ナイトバグ、そしてルーミアの3人だった。夜の闇トリオって言ってもいいかな?
「私はそれどころじゃないんだけど、実験台なら他の妖怪か人間にやってくれる?」
ジト目でミスティア達を見る。これで退いてくれたらいいんだけど。
『嫌』
「……」
聞いた私が馬鹿だったわ。しょうがない、新しいスペルカードの実験台に……でも3人でやる技って、あの騒霊姉妹達じゃあるまいし……まさか。
「いくわよ!!ジェットストリーム」
「日&風符「ラウンドディバイダー」!!」
ミスティアの言葉を皆まで聞くより早く体が勝手に反応して今日完成した新作スペルカードの詠唱に移っていた。いわゆる脊髄反射と言う奴よ。
発動。私を中心に大量の衝撃波状の弾幕が発射された。
「きゃああぁぁぁぁぁっ!!」
「やられた~~!」
「お、おぼえてなさいよーーーーーー!!」
まったく……誰かの技を盗むのは魔理沙だけにして欲しいわ。
終わり
やっぱり東方にはどんなネタも合いますな。
で、3作目の2号機と3号機のロックオンレーザーは無いんですか?w
P.S この調子でいくと「あの」某シューティングが来ません?w
機体を脳内で魔理沙に変更....っっっイイ!!(何
かなりウケマシタorz
魔理沙は2作目の2号機に似てますし、ロックオンレーザーはピッタリですな。
出来もとても良いし、言うこと無し!
1号機のレーザーってことは・・・当たらないけど連射とか出来るのかしら?
ただ、パチュリー・ノウレッジではなくノーレッジだったかと。