(前編・前哨戦より続き)
「それじゃ乾杯だぜ。」
『かんぱーい』(X沢山)
「ちょいとそこ行く兎さん。」
「何かしら、食前運動で疲れた顔の魔法使いさん。私はてゐ。」
「(魔理沙の所為で変なイメージが…全く。)私はアリスよ。」
「あらあら、でも私を追いかけても不思議の国へはいけないわよ。」
「大丈夫、逆文字のグリモアでもちゃんと読めるから。」
「勿論鏡の国にも行けないわよ。」
「いやまぁ、その。(そういえば魔界では不思議も鏡もごった煮だったわね。)」
「で、私に何か用かしら。」
「いや、私は魔法のアイテムの蒐集家なんだけど。」
「それがどうか?」
「兎の足は幸運の印って知ってるかしら。」
「お生憎様だけど、私のは上げられないわよ。」
「いや、もし手に入りそうならお願いしておきたいんだけど。」
「どれぐらい先になるか分からないわよ。」
「まぁ、気長に待つことにするわ。」
「そこで今手に入る幸運のアイテムはどう?」
「まぁ、化け猫。」
「あんたも化け兎でしょうが。」
「橙よ。ほら、この道具。」
「それの何処が幸運のアイテムなのかしら。」
「マヨヒガから持ってきた産地直送よ。一個しかないけど。」
「あ、それは私が予約してたから持ってくわね。」
「おいそこの巫女、待てコラー。」
「……アリスさんっていつでも運動してますね。」
「そのようね。」
「ちなみに、ウサギの耳も幸運のアイテムよ。」
「へぇ、そうなんだ。」
「猫耳と四葉のクローバーと真珠、それに柔らかい毛を適量で作れるけど。」
「それやると化け猫じゃなくなるよ……」
「たまには庶民的なものを食べるのもいいわね。割と美味しいわ。」
「あら、うちの咲夜の料理は何を作らせても美味しいわよ。」
「うちの庭師ももっと料理ができればね。」
「あげたてのフライドチキンをお持ちしました。」
「流石、美味しいわ。」
「確かに美味しいわね。」
「あとはデザートのコーナーに、お嬢様とフラン様用のデザートを用意してあります。」
「後で頂くわ。」
「私は他のところにもできたてのチキンを配ってきますので。それでは後ほど。」
「お疲れ様、咲夜。」
「ところで吸血姫さん。」
「レミリア=スカーレットよ。」
「じゃあレミリア、あそこの腕のいいメイドさん、うちに貸してくれないかしら。」
「悪いけど咲夜は私の完璧な従者よ。幽霊にされたら困るわ。」
「私は西行寺幽々子。大丈夫、彼女は幽霊にしないし、手が足りなくなるならかわりにう
ちの半人半幽霊の庭師を貸してあげるわ。」
「幽霊の生き血、前から吸いたいと思ってたのよね~」
「まぁ、死なない程度になら適度に吸ってくれてもいいわよ。」
「……随分悩ましい交換条件ね。」
「どうかしら。3日間でいいわ、文字通り満漢全席を楽しむから。」
「でも、咲夜は料理だけじゃなくて掃除も何もかも完璧なのよね。」
「ああ、うちの庭師は弄っても楽しいわ。」
「前向きに考えさせてもらうわ、幽々子。」
「(ガツガツガツ)御代わり~」
「(ガツガツガツ)御代わりだ。」
「貴方、沢山食べるわね。」
「貴方こそ食べすぎじゃないかしら。」
「普段あまりものしか食べてないから。」
「私も肉なんて豪華な食べ物久しぶりで。」
「お嬢様が美食家で食費がかさんで、私は質素倹約飯じゃないと。」
「私はなぜか職務怠慢って言われて食事の分量を削られて…」
「ほれ、御代わりもって来たぜ。」
「「(ガツガツガツ)」」
「……。(こいつら主人に恵まれてないようだぜ)」
「御代わり~」
「御代わりだ」
「へいへい、行って来ますよ。」
「この前は珍しくお嬢様と同じ物を食べられそうだったんだけど、『腐りかけがおいし
い』らしいその食べ物はやばそうな匂いがしたんで人間側が拒絶して……」
「うちのお嬢様と同じ料理は血の味しかしないので食べられない……」
「ほれ、御代わりと補充の肉サンチュだぜ。」
「「(ガツガツガツ)御代わり~」」
「……私にも食べる暇を与えてほしいぜ。」
「ふむ、このレバーはなかなかいい味だな。」
「へぇ珍しい、レバーばっかり食べる人間もいるのね。」
「レバーは身体にいいからな。」
「へぇ、どんな風に?」
「ビタミンAが豊富だ。」
「それじゃよく分からないけど……」
「具体的に言うと、貧血とか夜盲症に効く。」
「それはひょっとして私対策?」
「そういうお前は夜雀か。」
「そのとおり、夜に私を恐れない人間はいないわ。」
「悪いが、人間の中でも大分肝が据わってる自信はあるんでな。」
「最近は恐れない人間が多くて割と困ってるけど。ここの連中とか。」
「お前の肝は?」
「って、貴方も私を食べる気でいるの?」
「……不味そうだな。」
「それは喜んでいいのか悲しんでいいのか微妙ね。」
「あら、フライドチキンなら美味しいわよ。」
「私はチキンじゃない~」
「と言ってる割には腰が引けてるわね。」
「人間のメイドより肝が据わってない夜雀って不味そうだな。」
「もう、なんでここにはこんな人間しかいないのよ~」
「(もぐもぐ)うむ、確かに美味しいなこのチキン。」
「へ?」
「さっきあげたばかりですわ。肝ばっかりでなく身もどんどん食べなさいな、レバーの食
べすぎは逆に身体に悪いですし(*1)。」
「ふむ、そうか。ならば助言に従うか。」
「……。(このメイド、タイミングをはかって来やがったな……)」
「おうパチュリー、レバーもって来たぜ。貧血に効くぞ。」
「ウェルダンが一番なの!」
「おーい、パチュリー?」
「魔理沙もそう思うでしょ、肉はウェルダン。」
「なぁ慧音、こいつがどうしたか知らないか?」
「いや、レアが一番美味しい。」
「お前もか、何か返事してくれよ。」
「お前もそう思うよな、魔理沙。」
「ウェルダン!」
「レア!」
「うちの図書館の書物に書いてあったから間違いないわよ。」
「ほう、歴史的にはレアで食べている人間のほうが多いぞ。」
「ウェルダンのほうが肉の硬さが歯に心地良い!」
「レアの肉汁こそが焼肉の美味しさだ!」
「(もぐもぐ)……一体何をやってるんだ、この知識人達は。」
「(もぐもぐ)そこのお二人は、お互いに自分の焼き方が一番だって主張して口論中。」
「ちなみに私はミディアム派だぜ。」
「中途半端なのね。」
「いや別にどっちとも気にしないで食ってるから。」
「確かに大人数で焼肉だとウェルダン派は不利になるわね。」
「半焼けでレア派が早々に食っちまうからな。」
「もっとも、その焼き加減の定義だって曖昧なのにね。」
「全く頭がいいんだか悪いんだか。」
「馬鹿と天才は紙一重ですしね。」
「もしかしてお前、そこらへんの境界いじらなかったか?」
「さて、何のことやら私にはさっぱりですわ。」
「……。(こりゃ主犯はこいつだな。)」
「肉だ肉~」
「タイトなルナサ~、酒飲めメルラン~、ハリアップザペース~」
「メルラン、リリカ、急がなくても肉はまだ一杯あるから焦らないの。」
「ケーキ、ケーキ♪」
「肉じゃなくてケーキに夢中な妖精がいる~」
「私は熱い物は苦手なのよ。……って、何このケーキ。酸っぱいじゃない。」
「どうした、そこの熱いもの嫌いな妖精。」
「このケーキ、血の味がする。」
「どれどれ一口、……ああ酸っぱいね。」
「あれ、これ『特製品、はしつけるな』って書いてあるわよ。」
「ご丁寧に平仮名で。」
「読めない馬鹿もいるんだね~」
「馬鹿とはなによ馬鹿とは。」
「リリカ、言いすぎよ。」
「箸つけるな、って言うから手で取ってきたの。」
「やっぱり言いすぎじゃないわ。こいつは馬鹿だわ。」
「馬鹿妖精~」
「馬鹿三昧。」
「馬鹿って言うな~」
「「「じゃあ寒い奴。」」」
「それもむかつく~。しかも三人息ぴったりで言うなんて~」
「「「じゃあ低気圧。」」」
「……?訳がわからないわ。」
「気圧が低いと沸点が下がるわ。」
「沸騰しやすくなるの事~」
「つまり煮えやすいと言うことよ。」
「ああもう、訳分かんないったらありゃしない。馬鹿にするな~」
「やばい、沸点越えちゃったみたい。」
「逃げるか。」
「逃げよう~」
「そこの三色、待てコラー。」
「ふう、久しぶりにお腹一杯食べた。」
「満腹で夜風にあたりながら見る月もいいものだ。」
「お、気が合うな狐。」
「私は八雲藍だ、兎。」
「鈴仙だ。この前はいろいろと大変だったな。」
「私は主人にこき使われて大変だったが、やられるほうはもっと大変だったろう。」
「喋る暇もなくうさぎ達を倒してたな。ところでお前は何処に住んでいるんだ?」
「うちは幻想郷の結界沿いのひっそりとしたところだ。」
「うちは知ってのとおり竹林の奥だ、そのうち弾幕抜きで遊びに来るかい?」
「冬になったら主人も冬眠するが、それまでは仕事が一杯でな。」
「それはそれは。まぁ、冬になったら遊びにくるといい、でも家を乗っ取るなよ。」
「雄鶏に相応するのも居ないが、そもそもそんな気もないから大丈夫だ」
「しかし、狐は大変な言われようだな。狐虎の威を藉る、狐に小豆飯、狐を馬に乗せたよ
う……いい意味に取れない言われようばかりだ。」
「兎もそうだろう。兎の糞、兎兵法、兎に祭文……」
「全く酷い言われようだ。でも、『兎死すれば狐これを悲しむ』って言うだろう。」
「狐にも『狐死して兎泣く』という言葉もあるぞ。」
「いい事を言う。やっぱり気が合いそうだな。」
「うむ、やっぱり気が合いそうだな。」
「月に昇る前、天竺の頃からの縁なんだろうか。」
「ああ、そうであると思っておこう。」
「しかし、満月じゃないにしてもいい月夜だわ。」
「月の見える夜は楽しまなくっちゃね。」
「あっちも弾幕打ってるし、こっちでも~」
「それじゃ早速、『地上の彗星』!」
「た~まや~、か~ぎや~」
「なかなか素敵な弾幕ね、尾を引く青がとっても綺麗。」
「それじゃ私も星つながりで、『スターボウブレイク』!」
「これはなかなか綺麗ですわ。」
「見事な色彩の弾幕だわ。」
「スターボウは星虹、そして私は『永夜返し -明けの明星-』!」
「避けろ避けろ~」
「ひぇぇ。」
「ちょいとそこの御三方。なかなか立派な星の弾幕だが、幻想郷じゃあ2番止まりだ。」
「なにぃ!じゃあ一番は誰だと言うんだ。」
「私だぜ。ほれ、『スターダストレヴァリエ』」
「なんだ、星屑じゃないか。」
「星屑とはいえ地球に落とせば冬の季節が来るぜ。」
「それは何かが違う……」
「続けて『ミルキーウェイ』だ!」
「季節外れね。」
「確かに綺麗だけど、これで一番を名乗られちゃね。」
「ならば取っておき、『ブレイジングスター』!」
「「「くっ……負けた。」」」」
「ふう、食べた食べた、食べ過ぎた~」
「あらお嬢ちゃん、食べ過ぎたの?」
「お腹一杯、ちょっと苦しいぐらい~」
「ならばいい薬があるわよ。」
「それは美味しいの?」
「良薬は口に苦し、って言葉知ってる?」
「そーなのかー。」
「まぁ、身体にいいって事は間違いなく保証するわ。」
「じゃあお願いー」
「了解っと。」
「よし、それじゃ禁薬『蓬莱の薬』~」
「弾避けわは~」
「……貴方達、随分と賑やかね。」
「あら、食後の適度な運動は身体にいいのよ。」
「へぇ、そうなの。」
「炭水化物や脂肪がエネルギーに分解されやすくなるのよ。」
「食後すぐの運動は胃腸に悪そうだけど。」
「大丈夫、三十分ぐらい経ってるから(*2)。」
「へぇ、でも薬の名前だけはいただけないわね。」
「まぁそこは気にしないで。」
「ふう、面白い薬だった。でも苦く無かったよ。」
「ちゃんと糖衣しといたからそれほどでもなかったかしら。」
「と、もう一つ良薬発見。取って食べていいかな。」
「んじゃ運動代わりに糖衣していない弾幕をプレゼントしてあげるわ。『夢想天生』!」
「うわ、どう避けていいの、苦い苦い~」
「……えげつないわね博麗の巫女。」
「笑えない冗談に笑えない冗談を返しただけよ。」
「……ああもう、霊夢といい魔理沙といい、片付け手伝わずに弾幕りあってるし……」
「まぁ、花見の時も皆さん片付けずに早々に撤退してましたしね。」
「で、私たち下っ端が片付けですか。」
「こういう地味な仕事もきっちりこなしてこそ瀟洒な従者よ、美鈴。」
「使用人の立場で主人に手伝えって言うのも何ですからね……幽々子様もレミリア様と意
気投合して何かしてるみたいだし。」
「藍、このゴミ全部スキマに放り込んでもらってくれないかしら。」
「うちの主人も早々にスキマから寝に帰ったみたいでなんとも。」
「まぁ、片付けはさっさと終わらせて、私たちも月を見ながら一杯引っ掛けますか。」
「「「賛成~」」」
(*1)過剰にとると身体に溜まって悪影響をきたすので、レバーは週1で一度にとるか、
毎日少しずつとるのがよいとされている。
(*2)調べると場所によっては一時間経過後と書いてあるが大丈夫だろう。ちなみに、
~食後三時間が食後運動の適正時間とのこと。
「それじゃ乾杯だぜ。」
『かんぱーい』(X沢山)
「ちょいとそこ行く兎さん。」
「何かしら、食前運動で疲れた顔の魔法使いさん。私はてゐ。」
「(魔理沙の所為で変なイメージが…全く。)私はアリスよ。」
「あらあら、でも私を追いかけても不思議の国へはいけないわよ。」
「大丈夫、逆文字のグリモアでもちゃんと読めるから。」
「勿論鏡の国にも行けないわよ。」
「いやまぁ、その。(そういえば魔界では不思議も鏡もごった煮だったわね。)」
「で、私に何か用かしら。」
「いや、私は魔法のアイテムの蒐集家なんだけど。」
「それがどうか?」
「兎の足は幸運の印って知ってるかしら。」
「お生憎様だけど、私のは上げられないわよ。」
「いや、もし手に入りそうならお願いしておきたいんだけど。」
「どれぐらい先になるか分からないわよ。」
「まぁ、気長に待つことにするわ。」
「そこで今手に入る幸運のアイテムはどう?」
「まぁ、化け猫。」
「あんたも化け兎でしょうが。」
「橙よ。ほら、この道具。」
「それの何処が幸運のアイテムなのかしら。」
「マヨヒガから持ってきた産地直送よ。一個しかないけど。」
「あ、それは私が予約してたから持ってくわね。」
「おいそこの巫女、待てコラー。」
「……アリスさんっていつでも運動してますね。」
「そのようね。」
「ちなみに、ウサギの耳も幸運のアイテムよ。」
「へぇ、そうなんだ。」
「猫耳と四葉のクローバーと真珠、それに柔らかい毛を適量で作れるけど。」
「それやると化け猫じゃなくなるよ……」
「たまには庶民的なものを食べるのもいいわね。割と美味しいわ。」
「あら、うちの咲夜の料理は何を作らせても美味しいわよ。」
「うちの庭師ももっと料理ができればね。」
「あげたてのフライドチキンをお持ちしました。」
「流石、美味しいわ。」
「確かに美味しいわね。」
「あとはデザートのコーナーに、お嬢様とフラン様用のデザートを用意してあります。」
「後で頂くわ。」
「私は他のところにもできたてのチキンを配ってきますので。それでは後ほど。」
「お疲れ様、咲夜。」
「ところで吸血姫さん。」
「レミリア=スカーレットよ。」
「じゃあレミリア、あそこの腕のいいメイドさん、うちに貸してくれないかしら。」
「悪いけど咲夜は私の完璧な従者よ。幽霊にされたら困るわ。」
「私は西行寺幽々子。大丈夫、彼女は幽霊にしないし、手が足りなくなるならかわりにう
ちの半人半幽霊の庭師を貸してあげるわ。」
「幽霊の生き血、前から吸いたいと思ってたのよね~」
「まぁ、死なない程度になら適度に吸ってくれてもいいわよ。」
「……随分悩ましい交換条件ね。」
「どうかしら。3日間でいいわ、文字通り満漢全席を楽しむから。」
「でも、咲夜は料理だけじゃなくて掃除も何もかも完璧なのよね。」
「ああ、うちの庭師は弄っても楽しいわ。」
「前向きに考えさせてもらうわ、幽々子。」
「(ガツガツガツ)御代わり~」
「(ガツガツガツ)御代わりだ。」
「貴方、沢山食べるわね。」
「貴方こそ食べすぎじゃないかしら。」
「普段あまりものしか食べてないから。」
「私も肉なんて豪華な食べ物久しぶりで。」
「お嬢様が美食家で食費がかさんで、私は質素倹約飯じゃないと。」
「私はなぜか職務怠慢って言われて食事の分量を削られて…」
「ほれ、御代わりもって来たぜ。」
「「(ガツガツガツ)」」
「……。(こいつら主人に恵まれてないようだぜ)」
「御代わり~」
「御代わりだ」
「へいへい、行って来ますよ。」
「この前は珍しくお嬢様と同じ物を食べられそうだったんだけど、『腐りかけがおいし
い』らしいその食べ物はやばそうな匂いがしたんで人間側が拒絶して……」
「うちのお嬢様と同じ料理は血の味しかしないので食べられない……」
「ほれ、御代わりと補充の肉サンチュだぜ。」
「「(ガツガツガツ)御代わり~」」
「……私にも食べる暇を与えてほしいぜ。」
「ふむ、このレバーはなかなかいい味だな。」
「へぇ珍しい、レバーばっかり食べる人間もいるのね。」
「レバーは身体にいいからな。」
「へぇ、どんな風に?」
「ビタミンAが豊富だ。」
「それじゃよく分からないけど……」
「具体的に言うと、貧血とか夜盲症に効く。」
「それはひょっとして私対策?」
「そういうお前は夜雀か。」
「そのとおり、夜に私を恐れない人間はいないわ。」
「悪いが、人間の中でも大分肝が据わってる自信はあるんでな。」
「最近は恐れない人間が多くて割と困ってるけど。ここの連中とか。」
「お前の肝は?」
「って、貴方も私を食べる気でいるの?」
「……不味そうだな。」
「それは喜んでいいのか悲しんでいいのか微妙ね。」
「あら、フライドチキンなら美味しいわよ。」
「私はチキンじゃない~」
「と言ってる割には腰が引けてるわね。」
「人間のメイドより肝が据わってない夜雀って不味そうだな。」
「もう、なんでここにはこんな人間しかいないのよ~」
「(もぐもぐ)うむ、確かに美味しいなこのチキン。」
「へ?」
「さっきあげたばかりですわ。肝ばっかりでなく身もどんどん食べなさいな、レバーの食
べすぎは逆に身体に悪いですし(*1)。」
「ふむ、そうか。ならば助言に従うか。」
「……。(このメイド、タイミングをはかって来やがったな……)」
「おうパチュリー、レバーもって来たぜ。貧血に効くぞ。」
「ウェルダンが一番なの!」
「おーい、パチュリー?」
「魔理沙もそう思うでしょ、肉はウェルダン。」
「なぁ慧音、こいつがどうしたか知らないか?」
「いや、レアが一番美味しい。」
「お前もか、何か返事してくれよ。」
「お前もそう思うよな、魔理沙。」
「ウェルダン!」
「レア!」
「うちの図書館の書物に書いてあったから間違いないわよ。」
「ほう、歴史的にはレアで食べている人間のほうが多いぞ。」
「ウェルダンのほうが肉の硬さが歯に心地良い!」
「レアの肉汁こそが焼肉の美味しさだ!」
「(もぐもぐ)……一体何をやってるんだ、この知識人達は。」
「(もぐもぐ)そこのお二人は、お互いに自分の焼き方が一番だって主張して口論中。」
「ちなみに私はミディアム派だぜ。」
「中途半端なのね。」
「いや別にどっちとも気にしないで食ってるから。」
「確かに大人数で焼肉だとウェルダン派は不利になるわね。」
「半焼けでレア派が早々に食っちまうからな。」
「もっとも、その焼き加減の定義だって曖昧なのにね。」
「全く頭がいいんだか悪いんだか。」
「馬鹿と天才は紙一重ですしね。」
「もしかしてお前、そこらへんの境界いじらなかったか?」
「さて、何のことやら私にはさっぱりですわ。」
「……。(こりゃ主犯はこいつだな。)」
「肉だ肉~」
「タイトなルナサ~、酒飲めメルラン~、ハリアップザペース~」
「メルラン、リリカ、急がなくても肉はまだ一杯あるから焦らないの。」
「ケーキ、ケーキ♪」
「肉じゃなくてケーキに夢中な妖精がいる~」
「私は熱い物は苦手なのよ。……って、何このケーキ。酸っぱいじゃない。」
「どうした、そこの熱いもの嫌いな妖精。」
「このケーキ、血の味がする。」
「どれどれ一口、……ああ酸っぱいね。」
「あれ、これ『特製品、はしつけるな』って書いてあるわよ。」
「ご丁寧に平仮名で。」
「読めない馬鹿もいるんだね~」
「馬鹿とはなによ馬鹿とは。」
「リリカ、言いすぎよ。」
「箸つけるな、って言うから手で取ってきたの。」
「やっぱり言いすぎじゃないわ。こいつは馬鹿だわ。」
「馬鹿妖精~」
「馬鹿三昧。」
「馬鹿って言うな~」
「「「じゃあ寒い奴。」」」
「それもむかつく~。しかも三人息ぴったりで言うなんて~」
「「「じゃあ低気圧。」」」
「……?訳がわからないわ。」
「気圧が低いと沸点が下がるわ。」
「沸騰しやすくなるの事~」
「つまり煮えやすいと言うことよ。」
「ああもう、訳分かんないったらありゃしない。馬鹿にするな~」
「やばい、沸点越えちゃったみたい。」
「逃げるか。」
「逃げよう~」
「そこの三色、待てコラー。」
「ふう、久しぶりにお腹一杯食べた。」
「満腹で夜風にあたりながら見る月もいいものだ。」
「お、気が合うな狐。」
「私は八雲藍だ、兎。」
「鈴仙だ。この前はいろいろと大変だったな。」
「私は主人にこき使われて大変だったが、やられるほうはもっと大変だったろう。」
「喋る暇もなくうさぎ達を倒してたな。ところでお前は何処に住んでいるんだ?」
「うちは幻想郷の結界沿いのひっそりとしたところだ。」
「うちは知ってのとおり竹林の奥だ、そのうち弾幕抜きで遊びに来るかい?」
「冬になったら主人も冬眠するが、それまでは仕事が一杯でな。」
「それはそれは。まぁ、冬になったら遊びにくるといい、でも家を乗っ取るなよ。」
「雄鶏に相応するのも居ないが、そもそもそんな気もないから大丈夫だ」
「しかし、狐は大変な言われようだな。狐虎の威を藉る、狐に小豆飯、狐を馬に乗せたよ
う……いい意味に取れない言われようばかりだ。」
「兎もそうだろう。兎の糞、兎兵法、兎に祭文……」
「全く酷い言われようだ。でも、『兎死すれば狐これを悲しむ』って言うだろう。」
「狐にも『狐死して兎泣く』という言葉もあるぞ。」
「いい事を言う。やっぱり気が合いそうだな。」
「うむ、やっぱり気が合いそうだな。」
「月に昇る前、天竺の頃からの縁なんだろうか。」
「ああ、そうであると思っておこう。」
「しかし、満月じゃないにしてもいい月夜だわ。」
「月の見える夜は楽しまなくっちゃね。」
「あっちも弾幕打ってるし、こっちでも~」
「それじゃ早速、『地上の彗星』!」
「た~まや~、か~ぎや~」
「なかなか素敵な弾幕ね、尾を引く青がとっても綺麗。」
「それじゃ私も星つながりで、『スターボウブレイク』!」
「これはなかなか綺麗ですわ。」
「見事な色彩の弾幕だわ。」
「スターボウは星虹、そして私は『永夜返し -明けの明星-』!」
「避けろ避けろ~」
「ひぇぇ。」
「ちょいとそこの御三方。なかなか立派な星の弾幕だが、幻想郷じゃあ2番止まりだ。」
「なにぃ!じゃあ一番は誰だと言うんだ。」
「私だぜ。ほれ、『スターダストレヴァリエ』」
「なんだ、星屑じゃないか。」
「星屑とはいえ地球に落とせば冬の季節が来るぜ。」
「それは何かが違う……」
「続けて『ミルキーウェイ』だ!」
「季節外れね。」
「確かに綺麗だけど、これで一番を名乗られちゃね。」
「ならば取っておき、『ブレイジングスター』!」
「「「くっ……負けた。」」」」
「ふう、食べた食べた、食べ過ぎた~」
「あらお嬢ちゃん、食べ過ぎたの?」
「お腹一杯、ちょっと苦しいぐらい~」
「ならばいい薬があるわよ。」
「それは美味しいの?」
「良薬は口に苦し、って言葉知ってる?」
「そーなのかー。」
「まぁ、身体にいいって事は間違いなく保証するわ。」
「じゃあお願いー」
「了解っと。」
「よし、それじゃ禁薬『蓬莱の薬』~」
「弾避けわは~」
「……貴方達、随分と賑やかね。」
「あら、食後の適度な運動は身体にいいのよ。」
「へぇ、そうなの。」
「炭水化物や脂肪がエネルギーに分解されやすくなるのよ。」
「食後すぐの運動は胃腸に悪そうだけど。」
「大丈夫、三十分ぐらい経ってるから(*2)。」
「へぇ、でも薬の名前だけはいただけないわね。」
「まぁそこは気にしないで。」
「ふう、面白い薬だった。でも苦く無かったよ。」
「ちゃんと糖衣しといたからそれほどでもなかったかしら。」
「と、もう一つ良薬発見。取って食べていいかな。」
「んじゃ運動代わりに糖衣していない弾幕をプレゼントしてあげるわ。『夢想天生』!」
「うわ、どう避けていいの、苦い苦い~」
「……えげつないわね博麗の巫女。」
「笑えない冗談に笑えない冗談を返しただけよ。」
「……ああもう、霊夢といい魔理沙といい、片付け手伝わずに弾幕りあってるし……」
「まぁ、花見の時も皆さん片付けずに早々に撤退してましたしね。」
「で、私たち下っ端が片付けですか。」
「こういう地味な仕事もきっちりこなしてこそ瀟洒な従者よ、美鈴。」
「使用人の立場で主人に手伝えって言うのも何ですからね……幽々子様もレミリア様と意
気投合して何かしてるみたいだし。」
「藍、このゴミ全部スキマに放り込んでもらってくれないかしら。」
「うちの主人も早々にスキマから寝に帰ったみたいでなんとも。」
「まぁ、片付けはさっさと終わらせて、私たちも月を見ながら一杯引っ掛けますか。」
「「「賛成~」」」
(*1)過剰にとると身体に溜まって悪影響をきたすので、レバーは週1で一度にとるか、
毎日少しずつとるのがよいとされている。
(*2)調べると場所によっては一時間経過後と書いてあるが大丈夫だろう。ちなみに、
~食後三時間が食後運動の適正時間とのこと。
ある程度前後させながら読まないと分かりづらいのは、形式上仕方ないですね。
ひたすらにレアにこだわる慧音さんがなんか面白いです。馬鹿馬鹿言われるチルノは言わずもがなで(笑)。
(ちなみに私は、魔理沙と同じく中途半端なミディアム派。)
内容では狐-兎組がツボでした、月下とは語り合う場ナリ。
(そして焼肉で損をするor生焼けを勝手に渡されて往生するウェルダン派)
特に藍と鈴仙の会話はお互いの素直な感情が見れて良かったッス!
なんだかんだいっても良いヤツらが多い東方の世界をよく表現できていたと思います。
そしてこれから愚痴をこぼしたり励ましあったり皮肉を言ったりする「従者達の月見酒」が始まって、その後は誰かの家に遊びに行って…という流れになりそうですね。
自分達が遊ぶ時もこんな感じなので^^;