<2 立待は蛍火を>
何でもない、瑣末な偶然で編まれた糸。
人はそれを出会いと呼び、
人はそれを運命と呼び、
人はそれを、命と呼んだ。
「ねぇ、咲夜」
「はい?」
「フランドールを見なかった?」
「妹様なら、つい先程散歩に出て行かれましたが……」
「そう…」
「何か?」
「フランドールに頼まれて、ちょっと調べモノをね…」
「妹様が?」
「魔理沙にでも何か吹き込まれたのかしら?」
「さあ、本人に訊いてみない事には…」
季節はもう秋だ。
―夏の名残を僅かに孕んだ風が、優しく肌を撫でて行く。
言い得て妙だと思う。
この季節の風は、本当に優しい。
あまりこの風に触れた事の無い私でさえそう思うのだから、
そう思う人はきっと少なくないだろう。
月はまだ出ていない。
―虫の鳴き声。
綺麗で、それでいて、どこか悲しい。
何故悲しいと思うのか。
その理由は、分からない。
綺麗な物は、悲しいのだろうか。
月はまだ出ていない。
―川のせせらぎ。
そうこう飛んでいるうちに、川まで辿り着いた。
そこで、見つけた。
―蛍が、舞っている。
それは、淡い光。
それは、儚い光。
それは、美しい光。
それは、命の光。
月がまだ出ていないからだろうか。
そこはまるで、別世界だった。
フランドールは、川のほとりに腰を下ろす。
―蛍が、舞っている。
淡く光る、命の灯。
その光る様は、まるで光を乗せた舟のように、ゆらゆらと。
目的地も分からず、ただどこかへと航海を続ける舟。
そんなイメージが、脳裏をよぎった。
そこへ。
「綺麗でしょう?」
そんな声が、掛かった。
顔を上げるフランドール。
「こんばんは。はじめまして」
「……貴女、誰?」
「蛍だよ。名前はリグル。貴女は?」
「フランドール…」
「そう」
そう答えると、リグルはフランドールの隣に腰を下ろした。
「……綺麗でしょう?」
そして、さっきの言葉を繰り返す。
フランドールは頷いた。
「…うん」
「初めて見た時、
貴女はこれを儚いと思った?
それとも、美しいと思った?」
「うーん……やっぱり、美しい、かな」
考え考え答えるフランドール。
「何でそんな問いを?」
「……儚いと思ったのなら、貴女は命の美しさを知っている。
美しいと思ったのなら、貴女は命の儚さを知っている」
リグルの言葉に、フランドールは笑った。
「あはは、それじゃどっちも同じじゃない」
その言葉を、リグルは違うよ、と否定した。
「確かに同じだけど、でも違うんだ。
そのうちのどちらを、大事にするかが」
「どちらを、大事にするか……?」
「うん。美しさと言うのはね、何かを犠牲にして現れるものなんだ。
時として、それは命になる。
花や、この蛍がそうさ。
命を削って、この美しさを現しているんだ」
「命を、削る…」
「その命を削る様を、人は『儚い』と呼ぶ。
美しさと儚さは、裏表なんだよ」
美しさと言うのは、何かを削って残った物だ。
彼女は―リグルは、そう言っている。
時として、命をも代償にする、儚い物なのだと。
「だからこそ、人はそれを大事にするんだ。
限りがあるから。
……いつか失われると、分かっているから」
夜空を見上げるリグル。
フランドールも、同じ様にした。
月はまだ出ていない。
星の光だけが、静かに降り注いでいる。
「この光も、遠い未来、失われるんだろうね。
それがいつになるかは、誰にも分からないけど」
フランドールは、ふと疑問に思った。
それを、そのままぶつけてみる。
「それじゃ、永遠って言うのは?」
リグルはすぐに答えた。
「その失われる連鎖だよ」
―虫の鳴き声。
川のせせらぎ。
そして、風の通り抜けていく音。
リグルは星空を見上げたまま続ける。
「始まりがある物には、必ず終わりがある。
それだけは、ずっと残っていて。
それだけは、ずっと変わらない。
例えそれを、私達が見る事が出来ないとしても。
……それが、永遠だよ」
「じゃあ、不老不死って言うのも…」
「うん。それは、その人の終わりが『死』と言うカタチで無いだけの事。
それがどんな終わり方になるかは、
本人か、よほど運の良い人でないと分からないだろうね。
何しろ、いつになるか分からないんだから。
この世界が失われたずっと後かも知れないし、もしかしたら明日、
いや、今この瞬間かも知れない。
不老不死と言うのは、そう言う事」
「ふーん…」
しばし、言葉も無く夜空を見上げる。
この光も、いつかは失われる。
でもきっと、この光が失われる前に、世界の方がカタチを失っているだろう。
フランドールは、何と無くそう思った。
失われるのは、形ある物の方が先だから。
だからきっと、自分よりも先に、周りのモノは形を失い、そして消えてゆく。
魔理沙も。
咲夜も、パチュリーさんも。
もしかしたら、お姉様も。
何だか怖くなって、フランは視線を川に戻した。
その気持ちを察したかのようにリグルも顔を下げ、口を開く。
「さっきの話に戻るけど。
これは人も同じ事なんだ。
人にも、いつか終わりは訪れる。
それがいつになるかなんて、誰にも分からないけど。
……私だって、明日の夜、もしかしたらここにいないかも知れない」
「…そうは見えないけど…」
「そう言う物だよ。命は。
その命を儚いと思うか、美しいと思うか。
それは、人生を細く長く生きるか、太く短く生きるかって事の違い。
勿論、この長さは時間の永さじゃないけどね。
今生きている事を大事にするか、
何時死んでも後悔しないように生きるか」
「貴女は、どっちなの?」
「……さあ、どっちでしょう」
おどけて言って見せてから、リグルは声のトーンを少し落とした。
「でも、それが選べるだけ、私達は幸せなのかも知れない」
「……え?」
「この子達には、それが選べない。
生きる為に、命を削って輝いているんだ」
その言葉を聞いて、フランドールは思った。
―美しさと言うのは、何かを削って残った物だ。
だからきっと、この輝きの為に、
言葉や、生き方を選ぶ自由を切り捨てたのだろう。
そう言う生き方を、選んだのだろう、と。
「でもこの子達、きっと後悔はしていないよ。私はそう思う」
今度はリグルが驚く番だった。
「……え?」
「だって、この輝きを私達が見ているから。
自分が精一杯生きた証を、こうやって、ちゃんと立てられているから」
―虫の鳴き声。
川のせせらぎ。
そして、風の通り抜けていく音。
フランドールは続ける。
「輝きたいから、きっとその為に、命を犠牲にしているんじゃないかな。
……後には何も求めない。ただ、輝きたいから。
私達とは大違いね」
―やっと分かった。
多分、他には何もいらないんだ。
輝きたいから。
ただ、それだけだから。
だから、命をも捨てられる。
綺麗な物は、悲しいんじゃない。
―綺麗な物は、潔いんだ。
フランドールは、今はそう思っていた。
「だから、見てあげようよ。……この子達が一所懸命に生きる、その姿を」
そう言って、フランドールはリグルに笑顔を向けた。
蛍の光が、その笑顔を柔らかく照らし出す。
リグルは、黙って頷いた。
それからしばし、2人はただ、蛍を見つめ続けた。
この世界で光を運ぶ、
蛍と言う名の光の舟。
この子達が何処へ行くのか、
その行方は、誰も知らない。
「……で、何をお調べになっていたのですか?」
「蛍の生態よ。『何で蛍が光るのかが分からない、教えてくれ』って言っていたから、
その時の雰囲気で『後で教えるわ』って答えちゃって……」
「あれ?さっき『頼まれた』って仰いませんでしたっけ?」
「まあ、同じ様なものよ」
「そうですか。
でも…きっと、違いますよ」
「違う?」
「妹様が聞きたかったのは、その仕組みでは無いと思います。
そんな難しい事では無い…」
「じゃあ、何?」
「きっと、もっと簡単な事ですよ」
「何でそう思うの?」
「なんとなく、です」
「……あ、もう時間だ」
そのリグルの声に、フランドールは現実へと引き戻された。
「何が?」
「ちょっと人を待たせているんだ。
まずいな、これじゃ完璧に遅刻だよ」
「大丈夫?」
「大丈夫じゃないけど…でも、貴女のせいじゃないから、気にする必要は無いよ。
それが、運命って言う物だから」
「運命?」
「うん。普段は誰も気にしないような、何でもない、瑣末な偶然で編まれた糸。
人はそれを出会いと呼び、運命と呼び、
……それを、命と呼ぶんだ。
きっとこれも、何でもない偶然さ」
リグルは立ち上がり、
そして、振り向く。
つられてフランドールも立ち上がった。
「それじゃ、フランドールさん。
……いい夜を」
最後にそう言い残して、彼女は飛び去って行った。
フランドールは独り残された。
星の光が降る、その底に。
辺りには虫の鳴き声と川のせせらぎだけが響き、
優しい風が、そっと頬を撫でて行く。
このまま時が止まってしまえば良いとさえ思った。
―蛍が、舞っている。
それは、淡い光。
それは、儚い光。
それは、美しい光。
それは、命の光。
自分はこれから、どんな光を放つのだろう。
それは誰にも分からない。
何でもない、瑣末な偶然で編まれた糸。
人はそれを出会いと呼び、
人はそれを運命と呼び、
人はそれを、命と呼んだ。
それは、誰にも見えないぐらい、幽かな光なのだから。
きっと、誰にも。
「……あ」
ふと、明るくなる気配。
フランドールは、そちらに顔を向けた。
―東の空。
立待月が、顔を覗かせていた。
「ふふっ」
自然と笑いがこぼれる。
立待月とは、言い得て妙だ。
そう思ったからだ。
なぜなら…………
この幻想郷(セカイ)で光を放つ、
命と言う名の蛍火。
その輝きが何処へ行くのか、
―その行方は、誰も知らない。
何でもない、瑣末な偶然で編まれた糸。
人はそれを出会いと呼び、
人はそれを運命と呼び、
人はそれを、命と呼んだ。
「ねぇ、咲夜」
「はい?」
「フランドールを見なかった?」
「妹様なら、つい先程散歩に出て行かれましたが……」
「そう…」
「何か?」
「フランドールに頼まれて、ちょっと調べモノをね…」
「妹様が?」
「魔理沙にでも何か吹き込まれたのかしら?」
「さあ、本人に訊いてみない事には…」
季節はもう秋だ。
―夏の名残を僅かに孕んだ風が、優しく肌を撫でて行く。
言い得て妙だと思う。
この季節の風は、本当に優しい。
あまりこの風に触れた事の無い私でさえそう思うのだから、
そう思う人はきっと少なくないだろう。
月はまだ出ていない。
―虫の鳴き声。
綺麗で、それでいて、どこか悲しい。
何故悲しいと思うのか。
その理由は、分からない。
綺麗な物は、悲しいのだろうか。
月はまだ出ていない。
―川のせせらぎ。
そうこう飛んでいるうちに、川まで辿り着いた。
そこで、見つけた。
―蛍が、舞っている。
それは、淡い光。
それは、儚い光。
それは、美しい光。
それは、命の光。
月がまだ出ていないからだろうか。
そこはまるで、別世界だった。
フランドールは、川のほとりに腰を下ろす。
―蛍が、舞っている。
淡く光る、命の灯。
その光る様は、まるで光を乗せた舟のように、ゆらゆらと。
目的地も分からず、ただどこかへと航海を続ける舟。
そんなイメージが、脳裏をよぎった。
そこへ。
「綺麗でしょう?」
そんな声が、掛かった。
顔を上げるフランドール。
「こんばんは。はじめまして」
「……貴女、誰?」
「蛍だよ。名前はリグル。貴女は?」
「フランドール…」
「そう」
そう答えると、リグルはフランドールの隣に腰を下ろした。
「……綺麗でしょう?」
そして、さっきの言葉を繰り返す。
フランドールは頷いた。
「…うん」
「初めて見た時、
貴女はこれを儚いと思った?
それとも、美しいと思った?」
「うーん……やっぱり、美しい、かな」
考え考え答えるフランドール。
「何でそんな問いを?」
「……儚いと思ったのなら、貴女は命の美しさを知っている。
美しいと思ったのなら、貴女は命の儚さを知っている」
リグルの言葉に、フランドールは笑った。
「あはは、それじゃどっちも同じじゃない」
その言葉を、リグルは違うよ、と否定した。
「確かに同じだけど、でも違うんだ。
そのうちのどちらを、大事にするかが」
「どちらを、大事にするか……?」
「うん。美しさと言うのはね、何かを犠牲にして現れるものなんだ。
時として、それは命になる。
花や、この蛍がそうさ。
命を削って、この美しさを現しているんだ」
「命を、削る…」
「その命を削る様を、人は『儚い』と呼ぶ。
美しさと儚さは、裏表なんだよ」
美しさと言うのは、何かを削って残った物だ。
彼女は―リグルは、そう言っている。
時として、命をも代償にする、儚い物なのだと。
「だからこそ、人はそれを大事にするんだ。
限りがあるから。
……いつか失われると、分かっているから」
夜空を見上げるリグル。
フランドールも、同じ様にした。
月はまだ出ていない。
星の光だけが、静かに降り注いでいる。
「この光も、遠い未来、失われるんだろうね。
それがいつになるかは、誰にも分からないけど」
フランドールは、ふと疑問に思った。
それを、そのままぶつけてみる。
「それじゃ、永遠って言うのは?」
リグルはすぐに答えた。
「その失われる連鎖だよ」
―虫の鳴き声。
川のせせらぎ。
そして、風の通り抜けていく音。
リグルは星空を見上げたまま続ける。
「始まりがある物には、必ず終わりがある。
それだけは、ずっと残っていて。
それだけは、ずっと変わらない。
例えそれを、私達が見る事が出来ないとしても。
……それが、永遠だよ」
「じゃあ、不老不死って言うのも…」
「うん。それは、その人の終わりが『死』と言うカタチで無いだけの事。
それがどんな終わり方になるかは、
本人か、よほど運の良い人でないと分からないだろうね。
何しろ、いつになるか分からないんだから。
この世界が失われたずっと後かも知れないし、もしかしたら明日、
いや、今この瞬間かも知れない。
不老不死と言うのは、そう言う事」
「ふーん…」
しばし、言葉も無く夜空を見上げる。
この光も、いつかは失われる。
でもきっと、この光が失われる前に、世界の方がカタチを失っているだろう。
フランドールは、何と無くそう思った。
失われるのは、形ある物の方が先だから。
だからきっと、自分よりも先に、周りのモノは形を失い、そして消えてゆく。
魔理沙も。
咲夜も、パチュリーさんも。
もしかしたら、お姉様も。
何だか怖くなって、フランは視線を川に戻した。
その気持ちを察したかのようにリグルも顔を下げ、口を開く。
「さっきの話に戻るけど。
これは人も同じ事なんだ。
人にも、いつか終わりは訪れる。
それがいつになるかなんて、誰にも分からないけど。
……私だって、明日の夜、もしかしたらここにいないかも知れない」
「…そうは見えないけど…」
「そう言う物だよ。命は。
その命を儚いと思うか、美しいと思うか。
それは、人生を細く長く生きるか、太く短く生きるかって事の違い。
勿論、この長さは時間の永さじゃないけどね。
今生きている事を大事にするか、
何時死んでも後悔しないように生きるか」
「貴女は、どっちなの?」
「……さあ、どっちでしょう」
おどけて言って見せてから、リグルは声のトーンを少し落とした。
「でも、それが選べるだけ、私達は幸せなのかも知れない」
「……え?」
「この子達には、それが選べない。
生きる為に、命を削って輝いているんだ」
その言葉を聞いて、フランドールは思った。
―美しさと言うのは、何かを削って残った物だ。
だからきっと、この輝きの為に、
言葉や、生き方を選ぶ自由を切り捨てたのだろう。
そう言う生き方を、選んだのだろう、と。
「でもこの子達、きっと後悔はしていないよ。私はそう思う」
今度はリグルが驚く番だった。
「……え?」
「だって、この輝きを私達が見ているから。
自分が精一杯生きた証を、こうやって、ちゃんと立てられているから」
―虫の鳴き声。
川のせせらぎ。
そして、風の通り抜けていく音。
フランドールは続ける。
「輝きたいから、きっとその為に、命を犠牲にしているんじゃないかな。
……後には何も求めない。ただ、輝きたいから。
私達とは大違いね」
―やっと分かった。
多分、他には何もいらないんだ。
輝きたいから。
ただ、それだけだから。
だから、命をも捨てられる。
綺麗な物は、悲しいんじゃない。
―綺麗な物は、潔いんだ。
フランドールは、今はそう思っていた。
「だから、見てあげようよ。……この子達が一所懸命に生きる、その姿を」
そう言って、フランドールはリグルに笑顔を向けた。
蛍の光が、その笑顔を柔らかく照らし出す。
リグルは、黙って頷いた。
それからしばし、2人はただ、蛍を見つめ続けた。
この世界で光を運ぶ、
蛍と言う名の光の舟。
この子達が何処へ行くのか、
その行方は、誰も知らない。
「……で、何をお調べになっていたのですか?」
「蛍の生態よ。『何で蛍が光るのかが分からない、教えてくれ』って言っていたから、
その時の雰囲気で『後で教えるわ』って答えちゃって……」
「あれ?さっき『頼まれた』って仰いませんでしたっけ?」
「まあ、同じ様なものよ」
「そうですか。
でも…きっと、違いますよ」
「違う?」
「妹様が聞きたかったのは、その仕組みでは無いと思います。
そんな難しい事では無い…」
「じゃあ、何?」
「きっと、もっと簡単な事ですよ」
「何でそう思うの?」
「なんとなく、です」
「……あ、もう時間だ」
そのリグルの声に、フランドールは現実へと引き戻された。
「何が?」
「ちょっと人を待たせているんだ。
まずいな、これじゃ完璧に遅刻だよ」
「大丈夫?」
「大丈夫じゃないけど…でも、貴女のせいじゃないから、気にする必要は無いよ。
それが、運命って言う物だから」
「運命?」
「うん。普段は誰も気にしないような、何でもない、瑣末な偶然で編まれた糸。
人はそれを出会いと呼び、運命と呼び、
……それを、命と呼ぶんだ。
きっとこれも、何でもない偶然さ」
リグルは立ち上がり、
そして、振り向く。
つられてフランドールも立ち上がった。
「それじゃ、フランドールさん。
……いい夜を」
最後にそう言い残して、彼女は飛び去って行った。
フランドールは独り残された。
星の光が降る、その底に。
辺りには虫の鳴き声と川のせせらぎだけが響き、
優しい風が、そっと頬を撫でて行く。
このまま時が止まってしまえば良いとさえ思った。
―蛍が、舞っている。
それは、淡い光。
それは、儚い光。
それは、美しい光。
それは、命の光。
自分はこれから、どんな光を放つのだろう。
それは誰にも分からない。
何でもない、瑣末な偶然で編まれた糸。
人はそれを出会いと呼び、
人はそれを運命と呼び、
人はそれを、命と呼んだ。
それは、誰にも見えないぐらい、幽かな光なのだから。
きっと、誰にも。
「……あ」
ふと、明るくなる気配。
フランドールは、そちらに顔を向けた。
―東の空。
立待月が、顔を覗かせていた。
「ふふっ」
自然と笑いがこぼれる。
立待月とは、言い得て妙だ。
そう思ったからだ。
なぜなら…………
この幻想郷(セカイ)で光を放つ、
命と言う名の蛍火。
その輝きが何処へ行くのか、
―その行方は、誰も知らない。
何故か『フランはまたひとつかしこくなった!』とか頭に浮かんだ。
こういう雰囲気は好きです。次の作品を楽しみにしております。
蛍の光はしっとりとした場面を作り上げるのに最適な光だとつくづく思いました。永夜抄の蛍火はあんなに危険なのに……
詩的な表現が美しくて素敵でした。
↑ちょっと感動。