―3 ふたによい―
見覚えの無い木と、見知らぬ少女。
互いに支え合って、巨木の方もつられて船を漕いでいるようにも見える。
よく見ると、眠っているのは少女だけではなかった。
木の周りで沢山の人が死んだように眠っている。
寝そべって、寝転がって、寝違えて。
眠っているのだ。まるで、死んでいるように。
眠っているように、見えた。
***
「なかなかに澄んだ眼をしておる。まだまだ動きのぎこちないところもあるが、
そう遠くない未来には幻想郷随一の剣客となるであろうな」
酒蓋は聞いてもいないのに喋りだす。
どうにもお喋りが多い世の中であるが、この蓋の妖怪も多分に漏れない輩のようだ。
「あら、うちの妖夢は既に幻想郷一だわ」
妖夢の走り去った向きを見て答える。
声の主が酒蓋であることなど、私たちにとっては驚くに値しないことだ。
驚くには、である。興味を抱くには十分すぎるほど珍しい、珍客中の奇客なのに間違いは無いのだ。
こんなちっぽけな酒蓋が喋った程度のことで、なぜ強い好奇心を抱くのか、
とあるいは怪訝に思われるかもしれない。
確かにこの冥界も含めた幻想の郷の内には古今東西の悪鬼や魔神らが跋扈し、
珍妙極まりない現象がまるでそれが起こること自体が日常であるかのようなペースで巻き起こる。
今現在も我らが白玉楼庭園に梅雨も近くに咲く桜という異常事態が発生しているような調子だ。
しかしどっこい、意外や意外。この酒蓋は、それらの怪奇を遥かに上回るレアな存在である。
何がそんなに珍しいのかといえば、理由はその姿形にある。
酒蓋の姿をして、そのままで喋っている、ということ。
不思議なことに、高位な妖魅変成に類する者は、皆ヒトの形を平常より保つという性質がある。
人化することは、中級クラスの妖にとっての一種の目標・目的のようなものらしい。
私のような元人間が変成したタイプの妖にはわからない感覚である。
大体にして、彼らはそうなると人間を馬鹿にし始める。
己が自分以下と判じたモノを侮蔑するような態度では、人間とまるで変わらないというのに、だ。
其のような幻想世間的な風潮から見て、ヒトの形を持たずにこうして在り、
私と相対して物怖じしないことから精神的に余裕がある風に窺えるこの酒蓋は、
なかなか凡人ならぬ凡妖にはあるまい、と思えた。単に時代遅れの妖怪なのかもしれないが。
「妖夢のこと、知らないかしら?魂魄妖夢。肩書きは庭師。職業は守護。
二つ名は“半ばなる完全”、双剣(ダイヤモンドトゥイン)、葛藤抜刀。
忌み名は地平線を薙ぐ者、エバーグリーンエッジ・ホワイトシルバーハート、愛でられし忌み子。
殺し名は、“大悟殺界(カーストフィニッシュ)”、『矛盾に討ち克つ盾飾り』。
まぁ、概ねどれも結構な名付けね。基本的には私の側付き侍女みたいな感じだけれど。
ほらほら、一個ぐらい聴き覚えがあってもいいと思うんだけど?」
「ほとんど聞いたことが無いが、魂魄・・・ふむ、ちと待ってくれるかの?
・・・うむ、そうか、魂魄。かの“最剣期神”がそのような名だったが、
あの嬢ちゃんはそのお子かな?」
「残念、孫よ。って、妖忌のことを知ってるなんて、またそれも珍しいわ。
でも妖忌はしばらく前にどっか行っちゃって帰ってこないから、
私の知る限りで幻想郷一は妖夢ね」
「ふうむ、なるほど・・・ふむ、ふむ。確かにそうかもしれんの。
もっとも、見た感じではあの嬢ちゃん、もののふとしては柔軟さに欠くか」
木に凭れた私の傍らで、時々浮かんだりしながら酒蓋がのんびりと言う。
その浮き沈みする様が、ふむと言う度に頷く髭を蓄えた老人の姿であるように感じられ、
少しだけおかしくて笑ってしまう。ヒトの形に囚われているのは私かもしれない。
この酒蓋が、一体何に対して首肯しているのか、何を知って納得しているのか、
全く私にはわからなかったけれど、余り気に留めぬまま受け答える。
「うーん、あの子の場合、頑固なところが良いと思うのだけど」
「あくまでもののふとしては、じゃよ。
忠心あれば野に落つ事も無く、義心あらば卑に下る事も無し、じゃ。
忠義もんは頑固じゃなきゃやってられんわい」
「名言ね、と言いたいところだけれど、
生憎誰かにお仕えした事が無いのでわからないわ」
「それで良いのじゃよ。
お嬢さんのような人は、お嬢さんが一番向いておる」
「お褒めに預かり、ありがとうございますわ」
皮肉とも取れるその発言を、私は素直に受け止めた。
正直な所、自分がお嬢様以外をしている姿は想像できない。
お嬢様は基本的にのほほんとおしとやかにしているだけで、
考えられうる限りの職務を全うすることができる楽な仕事だ。
尤も私の場合お嬢様は副職で、本職は亡霊であるが。
「あんたも人を疑わん人かな?」
「それが皮肉ね? まぁ、私は人も妖怪も疑わない元人ですけど」
「ん、元?」
ピタ、と妖怪の言葉が止まる。声が止むと、同時に好々爺の幻視も消え失せた。
気配があるとはいえ、喋らなくなってはただの無機物である。
それなりに気分よく会話していたというのに、突然黙考されるとこちらの立場が無い。
はて、私は何か妙な事を言っただろうか・・・。
白玉楼にやってくる者で幽霊でないのは実に久方ぶりだったから、
何か勝手の違う事を言ったかもしれない。
「急に黙るってのは、相手に失礼なんじゃないかと思うのだけど」
「ああ、すまんかったの。・・・なに、少しばかり驚いただけじゃ。
いやはや気付かなんだ。わしはいつの間にやら顕現と幽冥の境を超えておったのだな」
「ああ、そういうこと・・・何かと思いましたわ。
ええ、普通は失礼に当たるけど、私も黙ったからおあいこですわ。気にしない気にしない」
「おう、優しいお嬢さんじゃの。では気にしない事にするよ」
再び、ふむふむ、という声と共にお爺さんの姿が見えるような感覚が立ち現れる。
妖夢に対して珍しいなどといった事を言っておいて、この酒蓋爺さんも結構な変わり者だ。
どうも最近の妖怪は喧嘩っ早い節が有る。私などはまぁそれも賑やかで好ましいと思えるけれど、
妖同士の大暴れ、とばっちりを受けて困るのは人間である。
やはりこの妖怪のように気さくな、それも物理的には人を食べないような奴がたまにはいないとだ。
しかしなるほど、この酒蓋妖怪。
どうやら酒及び酒瓶と一緒に現世(うつしよ)と幽世(かくりよ)を超えてしまって、
そのことに今の今まで気付いていなかった、ということらしい。
恐らくは先ほど私が酒の封を剥がすまで意識が無かったのだろう。
呪符の封印の力で酒蓋に酒瓶の内と外の境界の役目を与えたのだなと、
私は以前友人に聴いた結界の仕組みのことを思い返して考えてみた。
であれば、封ぜられる前と今とで年月に幾許かの流れが生じていたことだろう、
この妖怪が時代遅れに感じられるのも、あるいは錯覚ではないのかもしれない。
さて、現世にいるものと思い込んでいたという事は、
封ぜられる前は現世にいたということに他ならないのだが―――。
「えーっと。するということは、あのお酒。
お供え物だったのかしら? だったら少しばかり丁重に飲む方が良いかしらね」
「さぁのう。それはともかくとして、
あれは大層な特注品じゃからな、さぞ格別な味わいじゃろうて」
「それはきっと楽しみだわ。・・・お屋敷に置きっぱなしで、
おまけに蓋が開けっ放しになってるのだけどね」
「何じゃい、呑んでおらんのか。勿体無い」
「それというのも、あなたが酒瓶をほっぽって奈辺に消えてしまうからだわ」
「酒蓋なんぞ探さずとも、一度に呑めば良いじゃろうに」
「それこそ勿体無いじゃないの。一息に飲んだら一息しか楽しめないわ」
「誰も一気呑みをせいとは言っておらんのじゃが」
「自慢だけどお酒には強いわ」
「勿体無いはやはりこっちのセリフじゃな。
おおかた独りで飲み干すつもりだったのであろう、一息しか楽しんでおらんではないか」
「その一息のために飲むのよ、私は」
ふふん。と、勝ち誇るように言った。いや、勝ち誇っているのだ。
美食家は健啖家であり、酒飲みは酔い知らずなのだから。私はその両方である。
神酒を飲むときは気をつけなくてはならない。
本物の霊酒なんて飲んでしまって、取り返しのつかないことになる生き物は多い。
千年醸造酒はそれ自体が一つの妖怪である。木が妖になる歳月だ。
私は多分、生きてるときから強かったのだろう。五百年やそこらの妖酒程度は喇叭飲める。
これは私の宴会芸の一つであるから、こうしてとうとうと自慢したところで罰は当たるまい。
肩を竦める老体が見えるような感覚。幻視は続いている。
手を伸ばしても当たる事は無く、それが幻覚であるという意識は確かにあっても、
幻視は幻である以上、朧である限り消えはしない。
ふむぅ、とおおげさに溜息らしき音を出して酒蓋が続ける。
「無茶苦茶じゃのう、お嬢さんは。
そんなに破天荒なのはさて一体どこのお嬢さんじゃ?」
「幽々子よ。西行寺家のお嬢様と、ここ白玉楼の主をやってますわ。
年を取らないのはお嬢様だからじゃなくて幽霊だから」
「―――西行寺。ふむ? ふむ、・・・ふむ」
再び妖怪の声が止まる。次いで、先程より長い沈黙。消える幻視。
死んでしまったかのように身動き一つ見せない酒蓋は、何かを考えながら月を見上げているように思える。
暫くの間、付近の桜一本一本の枝ぶりなどを眺めながら静寂に付き合っていたが、
静かな花見より賑やかな花見が好きな私は自分から口を開いた。
「人に素性を聞くときは、普通自分のことから先に話すわよね。
それとも正直者には聴こえない言葉とかで自己紹介したかしら?」
「・・・名前なんぞとうに忘れてしまったわい。
じゃが、そうじゃなぁ。封ぜられる前は咲く花の翁と呼ばれておったよ。
ご覧のとおり、しがない酒蓋じゃ。ふむ、そして。ふむ・・・」
酒蓋の口調は、明確に言葉を選んだものになっている。
蓋が桜の幹から離れ、ふわり、中空へと高く浮かび上がり、そして言った。
「死人の国の亡霊姫と比ぶれば、さても呆れた小物じゃよ。
―――有名にして幽冥なる“誘命”の王女どの。
こなる雅な屋敷にお住まいとは知らなんだが、
さればこの桜どもの紅きことに御身の業も無関係というわけではあるまい」
すう、と空気が冷えていく感覚。
さっきまでの好々爺めいた喋り方はもう無く、
喋り出しても幻視が現れる様子も無かった。
声音は低く、その中に暗い情念すら感じさせる。
ぴりぴりと張り詰めるのは、ハッキリとした敵意。
ましろの桜は、人の血を吸うことで朱へ。朱へ。朱へ。朱へ。
人の精、人の生を吸い上げて妖しく雅に呪われる。
彼の世にしか咲かない、生者が見れば彼の世に呼ばれる。
ここ白玉楼に咲き乱れる桜の、どれ一つとして元から紅くは無い。
私が招いた物は輪廻から外れ、永久にこの場の住民となる。
その遺体はみな、桜の下に。
それに。そのことに気付いている来客。
そんなお供え物が、ただの酒蓋のわけが無く。
「珍しい客だとは思っていたけど、まさか刺客だったとは。
少しびっくりしたわ。70点くらいかしら」
「ふん、呆けておるようで、どうして、見る目は確かのようじゃな」
「ちなみに百京満点中」
「そりゃあ天文学的なことじゃわい」
冗談はさて置くとしても、なるほどこの妖怪が私へ差し向けられた刺客であるなら、
先ほどこの酒蓋が吹き飛んだのも頷けるというものだ。
シャンパンのように中身が吹き出るのでもなく、
酒蓋のみが高速で飛翔したのはこういうわけだったのか、と私は納得した。
あれは元々、符を剥がしたものを急襲するために仕掛けられていた罠だったのだ。
恐らくは、酒蓋の意思に関わらず、大きな妖気に反応して自動的に発射されるという。
もしかするなら、これこそあの貼られた符の効果そのものだったのかもしれないが、
仕掛けとして、奇襲攻撃としては、些かちゃっちいものに思える。
それに、飛ばすだけならこの酒蓋妖怪を使う必要も無いのではないだろうか。
というよりも、この酒蓋妖怪を使うのなら、わざわざ吹き飛ばす必要も無かったのでは?
まぁ、どちらにせよ。私に生半可な攻撃は通用しないことを、
仕掛けた当の本人は知らなかった、ということなのだろうが。
飛んでくる酒蓋だろうが、酒蓋が飛ばす何かだろうが、私にとっては大した違いも無い。
「はて、それにしても。なんで私じゃなくて妖夢に当たったのかしら。
私への刺客でしょう? 妖夢が何物かもわかっていなかったようだし」
「さあの。仕掛けたのはわしではない」
「随分、あからさまに態度が変わるのね」
「敵相手に和やかに振舞っても仕方があるまいよ」
「まあ、もっともだけど。
でも、酒蓋じゃあね」
目前の存在が私にとって敵に当たるものであることを意識して、
まずは軽い調子で挑発など。
この程度の嘲りであれば、ザコなら激昂し、
そこそこの相手なら同様の調子でいなされる。
そのどちらかを想定していたのだけど、この酒蓋は意外にも強気な答えを返した。
「どうかな。身はこの通りちっぽけなもんじゃが、
―――ここで闘って、わしが負けるとは思えぬよ」
「あら、そんな自信・・・あなたはどんな能力を持ってるのかしら」
「気付いておるくせによう言うわ。喰えぬ姫さまじゃな」
「幽霊って食べれるの?」
「化かし合いはもう良かろう」
「そうね。そろそろ妖夢も戻ってくる頃だし、
ちゃっちゃと終わらせちゃいましょ」
「ほ、軽く言ってくれる」
こちらを舞台の上へと引き込むように、酒蓋はざぁっ、と桜の森を見下ろす位置まで飛び上がる。
私は見えない手に引かれて立ち上がり、そのままの勢いでふわ、と老人の幻視と同じ高さまで舞い上がった。
月光に照らされて、私と桜紋様の酒蓋が対峙する。
「先に言っておくとしようかの」
「何かしら?」
「姫さん、お主が負けたときのことじゃよ」
「ああ、問答無用で調伏、とかじゃないの?」
「・・・彼奴は、どうにかしてお前さんを懲らしめてやりたいと思っておったのだろう。
事の次第はわしの預かり知るところにはないが、
余命幾ばくもない身で符の生成と酒の製造をし、
あまつさえ旧友であるわしにお前さんを消せと仕事を依頼したんじゃ」
「黒幕は酒屋さん、刺客は酒蓋。
なんとも締まらない話だわ」
呟いてかぶりを振り、あからさまに落胆した風を装ってみた。
実際、そんなことだろうとは思ったのだが。
大方私が死に誘った者の血縁とかそのへんの怨恨かなんかなのだろう。
そんなことで恨まれても、私のこれは趣味なので止められないのに。
元々私が誘いたくなるような人間自体が少ないのだ。
少ないチャンスをみすみす見逃してしまえば、何のために死んでいるのかわからないじゃないか。
そんな私を見て、酒蓋は何か気の抜けたような様子でいる。
「一番締まらぬのはお嬢さんじゃろう。話の腰を折るでない」
「私、ソムリエの口上って嫌いなのよ」
「酒の話じゃないのだがの。ま、良いわい。
言いたいことは、わしとしてはお前さんを消すつもりはない、とそれだけじゃ。
ただちょいと痛い目に合って反省してもらおうと思っておるんじゃよ。
―――お嬢さん、あんたは死を軽んじすぎる」
ギン、と。
目も口も無い酒蓋から、凄絶なまでに鋭く睨まれたように感じた。
獲物を射竦め、捕食する狩猟動物の目。
いや、暗闇に浮かび、標的を射殺して棄て去る暗殺者の黒い穴か。
それは不可視の瞳が齎す無色透明の脅威。
人の理性にリセットをかけてしまう、忘れるべき初心。
本能を揺さぶる原初の恐怖、最初の悪夢。
このちっぽけな酒蓋は今、世に並み居る有象無象の化け物どもが裸足で逃げ出す程の妖気を、
私一人へ向けて大きく強くざざざぁ、と吐き出したのだった。
だが、そんなもの。
「足りないわ、足りない。重んじるには溢れすぎ、尊ぶには無意味すぎるのよ、死というのはね。
まぁ、私は軽んじても貶してもいないけど」
一欠片の恐怖も感じない。そんなものよりも、
私にとっては妖夢が小言を言う時のジト目の方が数億倍恐ろしいのだ。
「生きたいと思う者の事を考えたことは、無いのじゃろうなぁ。
あるいは、もうとうの昔に忘れてしまったのか・・・」
ふと、酒蓋の私を見る透明な目が悲しげなものになった。
だがそれも一瞬のこと、再び酒蓋は私を睥睨する。
見つめたり睨んだり忙しいが、視ていることに違いは無い。
というか、これでも其処ほどに誘引は自重しているつもりなのだけど。
この妖怪が少々噂を曲解しているのか、
それとも世に流れる噂が私を曲解しているのか。
取り敢えず、可哀相な人を見るような目をしないでほしい、と思った。
酒蓋に目は無いけれど、この気配は少々腹が立つ。
「・・・だからの、お嬢さん。わしに負けたら、もうその能力は使ってくれるな。
それだけ約束して欲しいのじゃよ」
「ああ、弾幕(や)るの?」
「決闘は流行の方法でするのが流儀じゃろう。
なればこそ言っておるのじゃ。負けはせんとな」
「ふうん?」
「そうでなければ、本当にわしがお前さんを消すつもりでいるのなら、
こうまで長々とおしゃべりをする筈が無かろうに」
「はじめは気付いてなかったんじゃ?」
「それは忘れなさい。まさか噂に聞く死誘の幽鬼が、
こんなのほほんとした嬢ちゃんだとは思わんかったわ」
気付けば、辺りの妖気が禍禍しいまでに濃くなっている。
事ここに到って、私はようやく眼前の妖怪を久々にやりがいのある相手だと認識した。
散歩をするだけだと思っていたから、今手元には数枚の保険用の符しか持っていないのが、
多少の不安と言えば不安ではある。
「全く、いい妖気ですわ。
見かけで判断しちゃいけないわね。お互いに」
「全くじゃな、お互いに。
・・・行くぞい!」
弾幕戦の口火が切られる。
何処から出でた物か、何時の間にか一片の符が酒蓋を中心に高速で公転していた。
それを見て私も一枚の符を袖口から取り出し、幽かなる詩を、声高らかに謳う。
・・・そういえば、私が勝ったときのことを決めていなかったな、と思いながら。
「ふむ。 宴舞「酒川京の渡し守」―――!」
「―――幽曲「リポジトリ・オブ・ヒロカワ -幻霊- 」!」
***
侵入者の能力は、既に桜花の楽園を一面の赤に染め上げていた。
たったひとつの例外を除いて。
白玉楼庭師・魂魄妖夢は、幼くも確かなるその両の目でしかと見た。
一本の桜の木が満開こそ迎えていないものの、
ゆうらりとその花を風に揺らして、
・・・確実に、ただただその場にて『ざらり』、とのたくる忌まわしき妖気を発するその様を。
「そんな・・・
・・・咲きかけて、いる・・・?」
その名、千年を生きる桜。
―――西行妖。
そしてめっちゃ気になる引きで続いてくれちゃってますね。
色々と次回が楽しみでなりません。
酒瓶のじい様と幽々子の会話に惚れました
しかし5年半も前の作品なのかこれ・・・