Coolier - 新生・東方創想話

似た者同士?(1)

2004/08/16 09:01:21
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 博麗神社。深い、深い山奥にひっそりと建てられた神社である。
 こんな辺鄙な場所にある神社なんて、さぞかし閑古鳥が集まって大合唱でもしてるんじゃないかと思いきや、実は全くもってその通りだったりする。最後にまともな参拝客が訪れたのがいつの事だったかなど、この神社に暮らす巫女でさえも覚えていないのだからその寂れっぷりは推して知るべし。実はこの神社、今でこそ寂れてしまっているが本当は幻想郷と外の世界を隔てる大結界の要という大層ご立派な神社なのだ。しかしその威光も過去の話。博麗大結界が結ばれた当時の話を知っている者も、人間には絶えて久しい。妖怪も含めるのならばまだ多少は残っている。
 さて、そんな博麗神社なのだが今日はいつもよりちょっとだけ人気がある。具体的に言うと人ひとり分。いやいや馬鹿にしてはいけない、人ひとりと言えば、この神社にしてみたらなんと通常の二倍の人口密度である。ただ残念なのは、その客は参拝しに来た訳ではなく単なるひやかし、あるいは暇つぶしに来ただけって事だ。縁側に腰掛け、いつの間にかこの家の食器棚に並んでいた彼女専用の湯呑なんぞを引っ張り出して、家の主人である博麗霊夢の庭掃除をぼーっと眺めているのであるからして、つい霊夢があまりやる気の無い掃除を放っぽり出してその客に文句の一つも言いたくなっても無理はない。

「ちょっと魔理沙。あんた暇してるなら少しくらい手伝おうって気にならないの?」
「何言ってんだ、境内を掃き清めるってのは神職の大事な仕事の一つだろう。他人が勝手に手出ししたらいけないんじゃないのか」
「そういう事じゃなくてね、手伝いましょうかの一言が無いのはどうなのかって言ってるのよ私は」
「悪いな、私の箒は掃除用に出来てないんだ」

 脇に立てかけてある箒を一瞥し、魔理沙が言う。魔法使いである魔理沙の言葉だが、どう見ても普通の箒であり掃除に使っても何ら問題は無さそうである。つまり魔理沙の言はただの言い訳。

「なら私の箒を貸したげるから文句はな……っくしゅん」
「どうした? 悪い噂でも流されたのか」

 霊夢のくしゃみに魔理沙はやや驚いた様子で訊ねた。いつも元気で喧しいこの紅白がくしゃみをするところなんて初めて見た気がしたからだ。咄嗟に何とかは風邪をひかないなんてフレーズが浮かんだのだがそれは口にしない。すればきっと怒るし手も出る足も出る。御札だって出るだろう。
 
「何でそこで悪い噂なのよ。普通は良い噂が先でしょ」
「まあ冗談は置いておいて、具合悪いんじゃないのか?」
「どうだろ。特にどこか悪い気はしないんだけど……」
「なら日頃の行いだな。神様にばちでも当てられる予兆だ」
「あんたは一度私の職業を大きな声で言ってみなさい」

 両手を腰に当て、むんと目の前に立ちはだかる霊夢の不満は風に柳と受け流し、魔理沙は手にしたお茶を一啜り。程よい苦味と渋みが口の中に広がる。喉を落ちていく熱さも丁度良い感じだ。うん、今日のお茶は会心の出来。

「美味い。霊夢、このお茶っ葉良いな」
「え……ああー!! あ、あんた何勝手に秘蔵のお茶っ葉使ってんのよー!?」
「勝手も何も、戸棚の奥にひっそりと、気付かれないように置いてあったから使ったんだが」
「そういうのは隠しておいたって言うのよ! それ貴重品なんだから、返しなさい!」
「あー、それを聞くと益々美味く感じるのは何故だろうな」
「こらー!!」

 わいわいぎゃーぎゃーと、お決まりの弾幕ごっこが始まった。たちまち空を埋め尽くすほどの御札と魔弾が、周囲の被害なんてお構いなしに飛び交う。当然、霊夢の頭から掃除なんて単語はまた後でという枷をはめられ忘却の彼方へと押し出されていた。境内にぱたりと横たわる竹箒がどこか侘しさを醸し出す。
 彼女達の弾幕ごっこはいつどのような理由で始まるか分かりゃしないのだ。近場に棲む妖怪の間では、『黒白が来た日の博麗神社の上空を飛ぶと不幸になる』なんて噂までもがまことしやかに流布されている。何も知らずに近くを通り、流れ弾に当たって撃墜された妖怪も結構多かったりする事を二人は知らない。

 空気と霊気の僅かな流動から射線を見切り、魔理沙を乗せた箒が最小限の動きで背後から飛んでくる御札と針を回避。ひょいと竦めた頭の上を、お気に入りの帽子に掠る様にして霊夢の御札が飛んでいった。魔理沙の魔力に御札が反応し火花が散る。振り返ること無く背後からの弾幕を避ける魔理沙の軌道は、まるで背中に目でもついてるんじゃないかと疑いたくなるほどである。そんな鋭い審眼と直感を併せ持つ魔理沙だからこそ、今日の霊夢の異変はどこか胸に引っかかるものがあった。

「……?」

 蜻蛉を切りながら何度目かの針を避け、魔理沙は首を捻る。
 ……おかしい。別に霊夢も全力で当てに来てるわけじゃないだろうけど、そこそこ本気ではやっているはずだ。だというのに今日はどうにも手応えが無い。目を瞑っていても避けられそうな緩い弾幕だ。ひょっとして本当に体の具合が悪いのだろうか。
 そんな不安が頭を過ぎり、魔理沙が声を掛けようとしたその時、後を追ってきていた霊夢の体がふっと力を失い失速した。ゆらりと前のめりになるような姿勢のまま、地面に向かい飛んで――――いや、落ちている!

「っ!!」

 突然の霊夢の墜落に驚く間さえもどかしく、魔理沙は反転しつつ箒の先を真下へと向ける。重力の腕に抱かれ、さらに自身の魔力を全開にして加速。急激な加速に帽子が風に煽られ舞い上がるがそんな物に構っている余裕は無い。大地に吸い込まれるように落ちていく霊夢に向け、魔理沙が懸命に手を伸ばす。

「霊夢っ!」

 ――――間に合わない。
 そんな絶望を振り払い、一条の黒い矢が紅の蝶を捕らえんと疾る。
 木々の緑がもうすぐそこに見える。それが意味するのは地面も近いという事。だが魔理沙は自身のブレーキすら忘れ懸命に霊夢を追った。

「おい、霊夢っ!!」
「ひっかかったわね、魔理沙」

 あくまの声がした。
 今度こそ驚きに呆然とした魔理沙の目に、にやりとしか形容しようが無い霊夢の笑みが映る。手には大量の御札。この至近距離でそれらを全て避けきるのは、それこそ神の眼をもってしても不可能だろう。

「な…………っ!?」
「油断大敵よ」

 魔理沙の視界いっぱいに、御札の赤が広がった。



◆◇◆◇



「もう、絶対にお前の心配なんてしてやらん」
「まあまあ、そう拗ねない。それにしても、まさかあんなに見事にひっかかってくれるとは思ってなかったわ」
「ふん」

 顔といわず手足といわずあちこちに御札をぺたぺたと貼り付けた魔理沙がぷいと顔を背ける。唯一被害に遭っていない帽子だけが、やたらと浮いて見えた。頬にでっかく×の字に貼られた御札がおかしくて、霊夢は再び笑い出す。魔理沙は一層不機嫌に。

「でも、魔理沙がそこまで被弾したのって初めてじゃない?」
「あのなあ。私がどれだけ……」

 驚いたと思ってるんだ、という言葉はなんとか喉元で堰き止めた。ここでそれを言ったら益々霊夢のペースだ。それだけは絶対に阻止しなくてはいけない。喉に詰まった言葉を押し流すように、飲みかけだったお茶を啜る魔理沙。すっかり冷めてしまって美味しくない。過去最低のお茶だ。

「どれだけ?」
「……もういい、今日は帰る。あーくそ悔しい」
「そうね、私もまだ掃除が残ってるから早く帰ってくれると助かるわ」

 ぱんぱん、とスカートをはたきながら立ち上がる魔理沙。卓袱台の前から動こうともしない霊夢の態度まで一々気に入らない。せめて見送りくらいしろってもんだ。

「じゃあな。次は絶対仕返ししてやる」
「はいはい、いいからさっさと帰りなさい」

 卓袱台に上半身を預け、うつ伏せになったまま霊夢がひらひらと手だけを振って返事をした。障子を閉め、足音高く魔理沙は廊下を行く。結局最後まで居間から出てこなかった霊夢に憤慨しつつ、魔理沙は箒に跨り自分の家へと飛び立――――とうとして足を止めた。

「…………」

 何かが腑に落ちない。
 これだという決定的な一がある訳ではない。しかし小さな違和感が幾つも集まって魔理沙の心に疑念を生み出していた。

「……は。あんなに見事に騙されたってのに、何考えてるんだ私は」

 軽く頭を振り、魔理沙は空へと舞い上がる。








「ふう……危なかった」

 霊夢は胸の内に溜まった熱を、呼気に乗せて吐き出した。額に浮かぶ汗は、顔を伏せていたので見られはしなかった――――と思う。
 腕に力を込め、重い体を持ち上げる。重心の移動に血の巡りが追いつかなかったのか、くらりと軽い眩暈。暗くなっていく視界の中、がむしゃらに出した手を辛うじて壁につき、倒れるのだけは踏みとどまった。頭はがんがんと割れるように痛い。

「魔……理沙ってば勘が良いから……なあ。誤魔化すのも……骨が、折れる、わ」

 無理矢理軽口を叩きながら、帰るように仕向けた親友の顔を思い出す。魔理沙は確実に怒っていた。あれならば大丈夫だろう。きっと憂さ晴らしに霖之助さんの所へ邪魔しに行くか自宅で読書でもするに違いない。
 ただやはり本意では無いとはいえ、怒らせてしまったというのは少し気が重い。沈んだ気持ちが最悪の体調に障る。頭痛が酷くなった気がした。とりあえず水でも飲んで一息つけようと一歩を踏み出した途端、再び眩暈が襲ってきた。浮遊感。地面が迫ってきているのに、頭がその事実を受け入れたのは顔が畳に押し付けられてからだった。

「あー……これは……結構やばいか……も……」

 とりあえずこんな所に転がっていても、事態は好転しやしない。何とか寝所まで行かなくてはと腕を伸ばそうとするが、霊夢の体は既に限界が来ていた。

「こん……な……格好で…………死ぬの……嫌だ、な……」

 全く言う事を聞かない霊夢の体。朦朧としてきた意識で、らしくない弱気な考えをしていると、不意に自分の頭上に影が差した――――ような錯覚を霊夢は感じた。

「やっぱりこんな事だと思ったぜ。お前、あの墜落しかけた演技だって本当に危なかったんだろう? ったく、筋金入りの意地っ張りだよ」
「あ……れ……? 魔理、沙の……声……?」

 そんなはずは無い。魔理沙は怒って帰ったのだ。
 めちゃくちゃ都合の良い夢を見てるなあ――――なんて事を思いながら、霊夢は意識の糸を手放し深い闇の底へと落ちていった。


皆様、永夜抄を弾幕ってますか?私はまだです。・゚・(ノД`)・゚・。
委託待ちですよええ_| ̄|○
気を取り直して第三作目、投稿させていただきます。

結局パチェの出番は見送りとなりました。
今回の主人公は魔理沙?です。
?が付いているのは私も本当に彼女が主役なのか自信が無いからです(待て
それにしても私の書く霊夢はロクな目にあってません。霊夢ファンの方々、申し訳ありません。

今回からちょっと段落つけてみました。見やすくなっているでしょうか?
御意見、お待ちしております。
Barragejunky
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コメント



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4.30ym削除
をを、やっと出ましたね、元祖主人公コンビ。
今回は今のところ、普通な感じのお話ですね。
ここからどう続くのかが楽しみです。

ちなみに自分も委託待ち・・・w
13.40MSC削除
意地っ張りな霊夢が可愛い。
やはりこの二人の関係はこうでなくっちゃ。
この後どうつながっていくのか楽しみです。

同じく委託待ちだったり。
24.40裏鍵削除
この後どうつながっていくのが楽しみですね。
永夜抄ばかりやっててここに寄る頻率が凄く落ちましたけどw
46.50かなりに名無し削除
久々になかなか面白い東方SSを読めた。
会話とかに引き込む表現力が有る気がします。
乙です。

長い間ココには寄っていなかったけれど、これで楽しみが戻ってきた予感。
97.60名前が無い程度の能力削除
これからがものっそ楽しみだぜww
98.60名前が無い程度の能力削除
続き見てきます
99.70名前が無い程度の能力削除
検索したけど続きがない…
どうしちゃったんでしょうか?