「……ねぇ妖夢」
「はい?」
「新しい肩書きを考えない?」
「肩書きですか……」
「『半分幻の庭師』じゃあ、呼びづらいからね」
「はぁ…」
「と言うか、私が付けるわ」
「なんかとても無理やりな展開の気配がするんですが」
「うん。どうせ夢だし。
候補その1。『永遠の半人前』」
「……なんかとっても弱そうなんですが」
「だって、半分半分じゃない。
それに貴女の話じゃまだ皆伝も受けてないみたいだし」
「そんな物あったんだ……」
「……」
「それに、私そんなに弱くないし」
「ふーん、一人前を自負出来るわけね。じゃあ、私を斬ってみなさい」
「そ、そんな、とんでもない!」
「私を斬れないと、一人前になれないわよ」
「それでも嫌です!」
「じゃあ、半人前ね。これで名実ともに半人前になった、と」
「みょん……」
「それじゃあ嫌?
じゃあ、候補その2。『恒久の半人前』」
「……もういいです……」
目が覚めた。
……なんだか、みょんな夢だった。
「……っあ―」
体を起こす。
まだ朝早いと言うのに、もう日が高く昇っている。
ここ白玉楼にも、夏が来たようだ。
狂ったように咲いていた桜も、今では葉を咲かせ、春とは違った趣深さを見せていた。
……それにしても。
強い既視感を感じるのは、気のせいだろうか。
いつものように、顔を洗いに行く。
なんだろう。
何か足りない気がする。
桶に水を汲み、自身の顔を映す。
そこで、気付いた。
―足りない物が、何であるか。
「…無いっ!」
なんて事だろう。
何処を捜しても、無い。
と言うより、居ない、だろうか。
「幽々子様!!」
「あら、おはよう妖夢。どうしたのそんなに慌てて」
「私の半分が、無くなってしまったんですよ!!」
「……」
きょとん、とした顔の幽々子。
「……」
妖夢も、つられて停止してしまった。
「そう。…とりあえず朝ご飯にしましょう」
「あ、はい。今作りますね。
……って、そうじゃなくて!」
「…それで、半分が無くなったと」
「うん」
「…で、何で私がその話に付き合わなきゃいけないんだ?」
「来たからに決まってるでしょう」
魔理沙は、こめかみを抑えた。
「殺人事件を防ぐ傘は無い……か。良く言ったもんだぜ」
「殺人事件?」
「厄介事って意味だ。
殺人である以上犯人がいるから、普通の事件よりいろいろと面倒なんだよ。
死体の解剖とか、犯人捜しとか……って、そんな事はどうでも良いか。
初めから死んでるから殺人もくそも無いしな」
「こう言う事って、あるものなの?」
幽々子が訊いて来る。
「あり得ない事でもないだろ。
本来魂魄の『魂(コン)』は漂う物で、『魄』は留まる物だから」
「じゃあ、今の貴女は“魄妖夢”?」
「何か中国人みたいだな」
「2人とも、ちょっとは慌てて下さいよ~…」
「慌てていると、見つかるものも見つからなくなるわよ」
「…みょん…」
「ふうっ、」
立ち上がる魔理沙。
「ま、とりあえず捜しに行こう。
丁度暇を持て余してたんだ、それぐらいなら付き合うぜ」
「と言うわけで幽々子様、少々お暇をいただきます」
「少々じゃなくて、一週間ぐらいでも構わないけど?」
「ノリが悪いですよ」
「はいはい、それじゃあ行ってらっしゃい。
…あ、お土産よろしくねー」
「何で“失せ者捜し”に行くだけなのに土産なんですか」
「ノリが悪いわよ」
「みょん」
「切り返されてやんの…丸腰の奴に…くくく…」
隣を見ると、魔理沙が笑いを噛み殺そうとして失敗していた。
「で、まずは何処を当たるんだ?」
「ここ」
妖夢が指差す先には、(幽々子曰く)二百由旬の庭。
夥しい数の人魂が漂っている。
「多すぎて良く分からないな…。と言うか」
「?」
「特長とか、あるのか?」
「特徴…特に無いような…」
「どうやって見分けるんだよ」
「きっと分かる。私だから」
「それじゃあ、私が付いて来た意味が無いじゃないか」
「…呼べば答えるかな…多分」
「多分かよ」
「こんなみょんな事、今まで無かったから分からないわ」
「正直で結構。ま、手探りでやるしかないな」
「それじゃ、私はあっちから捜すから、貴女は…」
「こっちから、だろ?あっちと来ればこっちと続くもんだ」
とりあえず、二手に分かれる。
妖夢と魔理沙は、正反対の方向に歩き始めた。
妖夢は、丹念に調べていく。
樹の上。
樹の枝。
その周り。
いくつか枝に引っ掛かっている人魂があったが、
違ったので枝から外して放してやったりもした。
と。
「お~い、妖夢ぅ!」
魔理沙の声がした。
「見つかったのかな…」
妖夢は、声のする方へと走る。
「見つかったの?」
振り向いた魔理沙は、怪訝な表情だ。
「あ?もう終わったのか?速いな」
「え?見つかって…ない?」
「ああ。それにお前は呼んでないよ」
「でも、さっき妖夢って」
「お前じゃない、お前の相棒の方だ」
「……?」
「いくら人魂で半分で行方不明だとは言え、魂魄妖夢である事に変わりは無いんだから、
そう呼ぶのが一番適当だろ?」
「そうだけど…紛らわしいな」
「そうか。
じゃあ、見つかるまでお前の事を『庭師』、人魂の事を『妖夢』と呼ぶ事にしよう」
「何故『庭師』なの」
「便宜上だよ。それ以外に肩書きあったっけ?」
「…『半人半霊』とか」
「呼び辛いから却下。
ほら、早く捜しに行って来い」
「う、うん」
2人は、捜索を再開した。
「探し物は何ですか
見つけ難い物ですか…っと♪」
楽しそうに捜す魔理沙。
「しかし、広いなぁ~…」
200由旬にしては狭いが、それでも広いのは確かだ。
これだけの広さの庭に独りで頑張っている妖夢は、卓越した体力の持ち主なのだろう。
その力に、技術が追いついていないようだが。
魔理沙はそんな事を考える。
樹に登ったり、冗談半分に悪霊退散の呪を放ったりしながら、である。
と、そんな時。
―ぞくっ!
唐突に、背筋に寒気が走った。
「……?」
寒気と言うより、何かに背中をつつかれたような違和感と、
氷を押し付けられた時のようなひんやりした感じ、と言った方が近い。
「誰か見てんのかな……」
辺りを見回す。
人魂と、樹以外は特に何も無い。
「まあいいや。見られて恥ずかしいものでもなし…」
そう独りごちていると、妖夢がこちらに走ってくるのが見えた。
「はあ、ふぅ…終わった?」
「おお、庭師の方も終わったのか」
「終わったけど、見つからなかった。それと…」
「何かあったのか?」
「…名前」
「あ?」
「だから、名前で呼んでよ」
「は?お前、もう忘れたのか?」
「何を?」
「見つかるまでお前の事を『庭師』、人魂の事を『妖夢』と呼ぶって、
そう決めたじゃないか」
「そうだけど……やっぱり、なんかよそよそしい」
「やめると、今度は紛らわしい」
韻を踏みつつ切り返す。
妖夢は言葉に詰まってしまった。
「…みょん」
「さて、今度は…そうだな、冥界にでも行ってみるか」
「…なんか貴女が言うと変な感じね」
「仕方ないだろ、そう言う地名なんだから」
「……地名?」
「もしくは界名」
「……」
「さあ、そうと決めたら躊躇わない」
「決めてない」
「私が決めた。ほら、行くぞ」
「…方角、分かってるの…?」
「いや、知らないよ」
「……」
先が思いやられるなぁ、と溜め息を吐き、妖夢は魔理沙の後を追った。
実を言うと、
妖夢自身も、ここからどの方角に行けば冥界に着けるのか、分からなかったのだ。
「……着いたな」
「うん。直感だけでここまで来れるとは思わなかった」
冥界。
偶然か必然か、先程魔理沙が飛び立った先にあった。
「さて、捜すか。
逸れると大変だから、一緒にな」
「…うん」
「とは言ったものの……」
どう捜す?と言う眼を妖夢に向ける。
妖夢は首を傾げた。
「勝手が違うからなぁ…」
「ま、そこら辺にいる奴をひっ捕らえて訊いてみるか」
「それが一番手っ取り早い、か…」
「そうと決まれば、まず人捜しだな……っと?」
「おおぅ、人間発見」
「あれ、天狐じゃないか」
渡りに船とばかりに、藍が前を飛んでいた。
しかし、どこか様子がおかしい。
こちらに飛んで来る間も、視線が忙しなく動いていた。
「どうしたんだ?」
「いや、ちょっと人を捜していてね」
「ふーん……」
「正直、効率は悪いし、状況も芳しくないんだ。
猫の手も借りたいぐらい」
「猫って、橙がいるじゃないか」
「ちっ、橙にはこんな事させられない!
いやむしろ、させたくない!
まだ穢れを知らぬ可愛い私の橙に、そんな事……」
「親バカだなぁ……」
「親?」
「もしくは飼い主バカ」
「飼い主?」
「式撃ちバカの方が近いか?」
「式撃ち?」
「もっと直接、橙バカとか」
「バカバカバカバカって、それじゃ彼女がバカみたいじゃない」
「え?私、藍の事をバカって言いたかったんだが?」
「……」
妖夢を沈黙させると、魔理沙は藍に向き直る。
橙の可愛い姿でも妄想しているのか、彼女の眼は虚ろだった。
「…おーい、天狐、戻って来ーい」
「…あ?」
「えーっと、とりあえず手伝えば良いんだな?」
「あ、ありがとう」
捜査開始。
「早速だけど、その尋ね人の写真は持ってるかい?」
「写真?……何だそれは」
「知るか。で、持ってんのか?」
「いや…そう言うのは特に…」
「じゃあ、
その人の出身地や家族構成、貴女が最期に逢った時の様子などを、
知っている限り詳しく教えてくれ」
「最期って、尋ね人なのに故人扱いか。
出身地?家族構成??あ~…本人に訊いてみないと分からないかも…」
「それが出来ないから捜すんだろ?
困ったな…これじゃ捜しようが無い」
頬のにやつきを冷静に抑えつつ、
魔理沙は藍に問い続ける。
コイツの捜す奴なんて、基本的に1人しかいない。
「仕方ないな、時間かかるけど徹底的に洗い出すか。
その人について知ってる事を教えてくれるか?」
その意図が通じたのか、藍は考える振りをした。
魔理沙は分かっているが、妖夢にはそう見えない。
「そうだな……。
髪は金色で、
やたらリボンが多くて、
いつも寝てて、
夢遊病が得意技だったり、
何故か私より簡単な弾幕があったり、
エトセトラエトセトラ」
「そーなのかー。
……まあ、分かりきってるけどな」
「うん。もしかしなくても紫様だよ」
急転直下。
意図的に迷走させられた事件は、一瞬で解決へと方向を変えた。
「アイツなら、川へ洗濯にでも行ったんじゃないか?
『どんぶらこどんぶらこと橙が溺れながら流されて来るのを待つわ』
なんて言ってたし」
「な、な、ななな、何ぃ!?橙が!?」
橙と聞いて、藍の表情が変わった。
「こうしちゃいられない、紫様より先に橙を捜さないと!」
「ああ。頑張れよー」
「橙、無事でいてくれよ……!」
そんな台詞を残し、藍はいずこへとも無く飛び去って行った。
「はぁ、アイツも大変だなぁ…」
以上、捜査終了。
こうして、魔理沙と妖夢の探し物の旅は、幕を
「閉じるなあっ!!」
―スパーン!!
「ぶあっ!!」
抜き打ち一閃。
楼観剣大のハリセンが、魔理沙の頭にクリーンヒットした。
「…打てば響く奴だな、ホントに」
「なんで旅なんですか!」
「結構遠出だし、旅って言えると思うけどなぁ」
「こんな中途半端で終わりにして、どうするんですか!
責めて橙との感動の再開ぐらいまではやらないと!」
「…そっちを否定するのか」
「……。そう思うだろ、アンタも?」
「誰に向かって言ってんだよ、しかも声色まで変えて」
「……」
妖夢、見事に玉砕。
「あーはいはい、受けなかったからって地面に楼観剣でのの字書かない」
「……慣れない事はするもんじゃないな……しくしく」
「ほれ、いじけてる暇があったら捜すぞ」
「う、うん……」
捜し始めて数時間がたったと思われる頃、魔理沙はその異変に気付いた。
「なあ、妖夢」
結局、両方とも名前で呼ぶ事に落ち着いたので、魔理沙は妖夢を名前で呼んでいた。
「ん?」
「今何時だ?」
「……この日の高さだと、まだ昼かしら?」
「そうかな……」
帽子に手を突っ込み、中から懐中時計を取り出す。
蓋を開けて、文字盤を見ながら溜め息。
「やっぱり…」
「何かあった?」
「ほら、見てみろよ」
妖夢も時計を覘き込む。
文字盤の針は、なんと……
「も、もうこんな時間なの?」
4時半を指していた。
「どうもおかしいと思ってたんだ。
一向に日が落ちないんで、ここには昼夜が無いのかと思ったんだけど、
前来た時の事を思い出してな」
「前来た時って…ああ、さっきの狐が暴れてた時か」
「八雲女史に嵌められたんだ」
「嵌められた?」
「徹夜させられた」
「そりゃご愁傷様…って、いつも寝てたんだ」
「失礼な。毎日睡眠はとるよ」
「どのぐらい?」
「いつもバラバラだよ」
「最長は?」
「24時間、かな…」
「最短は?」
「……さあ?秒単位かな……」
「……」
「さて、って事は」
魔理沙はあたりの気配を探り始めた。
「八雲女史が近くにいるはずなんだけど……っと?」
足に何か、柔らかい物が当った。
見下ろすと。
「ここにいたよ……」
八雲紫が石段に寝そべって眠っていた。
「おい、起きろ~」
「…あと3年…」
「どこぞの寝太郎じゃないんだから」
「じゃあ…あと2光年…」
「何かさっきより長くなってるぞ」
「……」
「おーきーろー」
反応無し。
「くそっ、こうなったら奥の手だ」
「奥の手?」
「お客さ~ん、終…」
(点ですよ…かな?)
しかし、魔理沙が次に続けた言葉は、その妖夢の予想を裏切っていた。
「…電出ますよ」
(……え?)
しかも。
「あらっ、大変!!酔いを醒ますつもりで一休みしてたら寝過ぎちゃった!!」
紫もしっかり目を覚ました。
「すいませんね、何か時間外勤務なんかさせちゃって」
しかも、魔理沙の手まで握ったりしている。
「いえいえ、このぐらいわ」
「そうだ。今度飲みに行きません?」
「どこに?」
「紅魔館って所の地下に、バーがあるんですよ」
「あ、それ私が作ったやつだ」
「ああ、そうなんですか」
「でも、残念。明日は定休日なんだな」
「……あの、お二方」
「「?」」
「何やってるんでしょうか?」
「うーん…寸劇『恋愛ノスヽメ』、かなぁ?」
「いや、『半人前でも良く分かる恋愛レクチャー』とかの方が良いんじゃない?
ねぇ、妖夢」
「そこで私に振りますか。と言うか聞き返さないでください。
……そもそも半人前って」
「お前に決まってるじゃないか。今は半分しかないんだし」
「みょん」
「…半分?」
「ああ。なんでも、コイツ半分を見失ったんだと」
「そう。じゃあ今は名実ともに半人前ね。
……冗談よ。冗談だから楼観剣を鞘に収めなさい」
冗談よ、の所だけ威厳に満ちた声色で紫は言った。
妖夢はそれにつられて刀を鞘に収める。
「みょん……私って、いつもこう言う役回り……」
「まぁ、それだけからかいがいのある奴って事だな」
「それは、褒めてるんですか、貶してるんですか」
「両方」
「……」
「それにしても、お前ノリ良いな」
「ええ。だって寝起きだから」
「普通逆ですよね」
その妖夢の言葉に、紫はほんの僅か、顔をしかめた。
「……つまんないわね」
「ああ、つまんないな」
「何がですか?」
「こう言う時に普通にツッコむな」
「さて、じゃあ本題に入りましょう」
「え?今の全部前置きだったんですか」
「前置きじゃダメ?…じゃあ前座」
「変わりませんって。何処に違いがあるんですか」
「文字数」
妖夢は、それ以上訊くのをやめて、事情を説明した。
夢の中の幽々子と同じ事を言ったのは言わなかった。
「それで、半分を見失った、と……」
「はい…」
「ふーん……」
紫はそう言いながら、妖夢の体をしげしげと眺める。
「あの……」
「何?」
「私の体に、何か付いてます?」
「うーん…そうとも言えるし、そうとも言えないわね」
「???」
「……まぁ、モノを見失うのは良くある事だけど、
ほら、歌にもあるじゃない。
『探すのをやめた時、見つかる事もよくある話で』って。
意外と近くにあるものよ。探している物は」
「…そっか。じゃあ、白玉楼をもう一度捜してみます」
「それが良いわね。もう時間も遅いし」
「そろそろ夕飯の支度の時間だし、一旦帰るかな」
「そうか。明日もう一度行くから、見付からなかったらまた手伝うよ」
「…ありがとう」
「あ、そうだ。お前、ここ元に戻せ」
「なんで?」
「ここに住んでる奴らが月見酒を楽しめない」
「ああ、もう一眠りしたらね」
「まだ寝るのか」
「昨日あの紅白と話し込んでてね、余り寝てないのよ」
「じゃあ、このあたりを昼にしたのは?」
「ええ。睡眠時間の延長のため」
「贅沢だよなぁ…」
「何が?」
「その気になれば本当にずっと寝れるんだろ?」
「そう、かしらね」
2人は冥界を後にした。
「あら、今日は随分と遅い時間に」
「夜分遅くにすまんな」
その日の夜。
魔理沙は、博麗神社を訪れた。
丁度夕飯時で、霊夢は縁側に座して素麺を食べていた。
「何処か行ってたの?」
「ああ。ちょっと探し物をな」
「青い鳥でも探しに行ったわけだ」
「まぁ、そうなるかな」
「あんた、いつも言ってたじゃない。
『わざわざ探しに行かなくったって、必要な物は家に必ずあるんだ』って」
「そんな事、言ったか?」
「自分で言った事忘れてどうするの」
―ちりーん…
「約束すっぽかすとか」
「……」
「貰って良いか?」
「嫌だって言っても食べるでしょ」
箸とつゆを渡しながら不機嫌そうな顔で霊夢は答えた。
声は笑っているから、実はそうでもなかったりするのだろうが。
「ありがとう」
礼を言うと、魔理沙も食べ始めた。
その矢先。
「魔理沙」
「……んが?」
「なんか憑いてるわよ」
「何処に?」
「あんたに、よ」
ちょっと待ってて、と言って奥に消える霊夢。
程なくして戻って来た。
「ちょっと失礼」
魔理沙の背中に札をあてがう。
小さく印を結んでから、その札を背中から離した。
「……お」
振り向いた魔理沙の眼に映ったのは、
人魂を鷲掴みにしている霊夢だった。
「こんなの憑いてたのか…」
「気付かなかったの?」
「まあ、な……?」
その時。
魔理沙の脳裏に、閃く物があった。
『あの……』
『何?』
『私の体に、何か付いてます?』
『うーん…そうとも言えるし、そうとも言えないわね』
「……」
「どうしたの?」
「んにゃ、『青い鳥は家にいる』って事だよ」
「……あのさ、全文を言葉として発してくれない?」
「ごめん、ちょっと出かける」
スカートから箒を取り出すと、それに跨る。
「あ、ちょっと…」
「すぐ戻るから、私の分取っといてくれよ!!」
そんな事を言い残して、魔理沙はものすごいスピードで飛んで行ってしまった。
「元々待ってないわよー」
人魂にスリーパーホールドをかましながらの霊夢の言葉を、聞き流しながら。
所変わって、白玉楼。
ちなみに、こちらでも夕食は素麺だった。
魔理沙はそんな所へ、流星のように突っ込んだ。
「おーい、妖夢!」
「あれ、どうしたのこんな時間に」
「夜分遅くにすまんな。
ちょっと報告に参上したわけだが…」
「何を?」
「……見付かったよ、お前の片割れ」
「本当!?何処に?」
「ここ」
懐から札を取り出し、妖夢の背中にあてがう。
小さく呪文を詠唱し、札を背中から離した。
「……なんでこんな所に……」
振り向いた妖夢の眼に映ったのは、
自分の半分を鷲掴みにしている魔理沙だった。
「多分、熱暴走でもしたんだろ」
―要するに。
無くなったと思われていた人魂は、妖夢自身に憑いていたのだ。
「身の回りを探せばって、そう言う事だったのか……」
「そうなるな。…死人嬢」
「はい?」
素麺をすすりながら、幽々子が顔を上げる。
「敢えて訊こう。…なんで黙ってたんだ?」
「そりゃあ決まってるじゃない。慌てる妖夢の顔が可愛かったからよ」
そして、事も無げに答えた。
へたりこむ妖夢。
「それじゃあ、今までの私の苦労は全部無駄だった…のか?」
「無駄にはなってない。それが結果的に物を見つける所まで至らなかっただけだろ。
…これ前も誰かに言ったような」
「……」
「ってあーはいはい、地面に白楼剣でのの字書かない」
「…みょん…」
がりがりがりがり。
「この辺りが、半人前の所以なんだけどなぁ……」
「いいじゃない、いじける妖夢も可愛いし」
「…みょん…」
がりがりがりがり。
真実は、常に残酷である事を思い知った妖夢なのだった。
光年って距離ですよね。魔理沙突っ込み違う。