Coolier - 新生・東方創想話

巫女恋し神様

2008/09/19 12:01:53
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「~~~~♪」

雪解けも始まり春の気配を見せ始めた妖怪の山。
その山に鎮座している守矢神社が誇る広大な敷地の片隅。
住人が生活をする建物の台所で、少女が鼻歌を歌いながら料理をしていた。

「~~~~~~~♪」

守矢神社の巫女、東風谷早苗である。
キャベツを軽快なテンポで刻みながら少女は歌う。

気分が乗ったのか、徐々に歌声も大きくなってきた。
鼻歌から本格的な歌唱へ。
早朝の守矢神社。他に聞くものもいない空間で、東風谷早苗単独ライブはクライマックスを迎えようとしていた。

「あぁ愛しい人ーあなたを必ず振り向かせてみーせー「おはよー早苗ー」うひゃぅッ!?」

完全な不意打ち。
最も見られて恥ずかしい場面を目撃され、早苗の心拍数は一気に二倍に跳ね上がった。
手元に集中していた意識は声のした方向、つまり後ろへ向けられ、結果として

「きゃっ!?」
「さ、早苗!?」

意識の外に追いやられた包丁が牙を向き、早苗の指を傷つけてしまった。
深くはないが、白い指先に滲む血の赤色が痛々しい。
鋭い痛みに顔を歪ませていると

「大丈夫かい、早苗。ごめんね、急に声をかけたから…」

と、先ほどの声の主、洩矢諏訪子が心配そうな顔で言った。

「いえ、これは修行不足の私が悪いのですから諏訪子様がお心を痛める必要などありませんよ」

自らが仕える神に心配させるなど巫女失格だと、早苗はつとめて気丈に振る舞う。
そんな早苗がとても愛おしくて、少し寂しくて。

「早苗……。ほら、傷見せて。ん、良かった、そんなに深くはないね」
「はい。お料理もまだ残ってますから、絆創膏を貼ってきます。……って、諏訪子様?」
「んー……ぱくっ」
「ひゃっ、しゅ、しゅわこしゃまっ!?」

傷口に顔を近づけてきたかと思うと、諏訪子は躊躇いもなく早苗の指を口に含んだ。
生暖かい感覚に包まれる指先。突然のことに思考が止まり動けないでいると、更に舌を這わせてきた。

「ちゅ……ちゅっ…」
「んっ」

傷口に直接舌が当たり、鈍い痛みがあった。しかし痛みはすぐに引き、その後には不思議な暖かさを感じた。
這い回る舌の感覚はいつまでたってもくすぐったかったが。
十数秒早苗の指を堪能した諏訪子は、ようやく口を離した。

「ん、傷口は塞いだよ。今日一日は傷跡残ってるかもしれないけど、明日には綺麗さっぱり」
「あ、ありがとうございます……って、血!血を舐めたんですか!?汚いです、ほら、ぺっしなさい、ぺっ!」
「早苗の血だもん、汚いことなんて無いよー」
「ありますっ。御霊が穢れてしまいますよ!」

早苗が心配したのは穢れだ。体の外に出たもの、それは不浄となる。
まして血液という生命の根幹に根ざすものは、穢れもまた大きなものになる。
そんなものを神に舐め取らせたなんて…と、頭がクラクラした。

「早苗の血なんだから寧ろ清らかだと思うけどねえ」
「そんなわけありません。もう、自重なさってください」
「あはは、ごめんごめん。でもホントに早苗は穢れてなんていないよ」

まがりなりにも、洩矢諏訪子の直系なのだから。

「ふう……。でも、その、ありがとうございました…諏訪子様」
「んー、いいっていいって、可愛い早苗のためだもん」

深々と頭を下げる早苗の頭を諏訪子が優しく撫でた。
顔を赤らめ、くすぐったそうにする早苗のはにかんだ表情は世の至宝だ。
この笑顔の為に生きているね、などと諏訪子が考えていると

「…楽しそうだねえ」

山の上の神社であるにも関わらず、地底から響いてくるような声が届いた。
間違えようもなく、八坂神奈子である。
寝起きだからか、それとも他に要因があるのか不機嫌そうな顔で2人を見ている。

「あら神奈子、影から覗き見なんて趣味が悪い」
「…ここ、別に死角でもなんでもないし。朝っぱらから何してんのよ」
「見て分かるでしょ、らぶらぶちゅっちゅよ。いや、早起きは三文の徳とはよく言ったもんだ」
「諏訪子様何を言ってるんですか!誤解です神奈子様、これはすわ「早苗」はいっ!」

直立不動。神奈子にじろりと睨まれて、早苗は動けなくなった。
正に蛇に睨まれた蛙。やはり血は争えないのか。
そうして、不機嫌なままの顔で、しかし神託を告げるかのような重みのある声で神奈子は言い渡した。

「……次に怪我をする時は、私の前だけにしなさい。必ず」
「ふぇ?」

一瞬、言葉がただの音として耳を右から左へと流れていった。

「だから、次は私に傷を舐めさせなさい。指とは言わないわ、それじゃあ諏訪子と引き分けだもの。そうね、頬なんてどうかしら」
「ど、どうかしらと言われましても」

どうやら神奈子は早苗を諏訪子に取られて不機嫌だったようだ。
しかし次は自分の番だなんて。
どうするべきなのだろうかと答えに窮していると、諏訪子が呆れた顔をして言った。

「どうかしらって、神奈子アンタねえ。早苗に怪我をしなさいって言ってるようなもんじゃない。なに阿呆なこと言ってんのよ、まだ寝惚けてるんじゃない?」
「む。それもそうか。すまなかったわね、早苗。急に変なこと言って」
「い、いえ。神奈子様のお心は嬉しかったですし」

展開が変な方向へ行きかけていたが、どうやら落ち着くようだ。早苗は安堵した。
朝食もまだ作っている途中だった、神様たちも起きてきたのだから早く作り上げてしまわないと。
と、意識を調理台の上にある食材へと切り替えようとしていた時に、神様たちから聞き逃せない不穏な台詞が聞こえてきた。

「そうね、わざわざ傷を治すためという口実を作る必要なんてないじゃない。早苗は私たちの巫女。つまり、私たちの嫁も同然なのだから」
「おりょ、それは当然の事すぎて忘れていたね。うん、嫁にちゅーするのは全く問題無いし遠慮する必要も無いよね」
「寧ろ、より良い関係を築き上げるには必要な触れ合いだわ」
「全くその通り。ケロロン」

何か嬉しそうに鳴いてる。

「じゃあ諏訪子は左を。私は右をいただくわ」
「左ね、了解」

何やら談合も始まった。

「あの、神奈子様、諏訪子様……?」

早苗の頭の中で危険信号が鳴り始めた。これはよくない、何かよくない方向へ事態が進もうとしている。
見れば、神様たちの顔は完全に捕食者のそれに変わっている。
その異様な目の光に圧されながらも、早苗は最後の交渉を試みた。

「その、無理矢理はよくないと思うんです…けど」
「「愛とは奪うものだよ、早苗」」

微妙に答えになっていない。

「ねーかなこー、口はー?本命はどうすんのさ」
「勿論いただくわよ。諏訪子、あんたさっき指舐めたんだから最初は私に譲りなさい」
「えー、指と口じゃ全然違うよ。でもまーいっか、後から私もいただくわけだし」

早苗は戦慄した。恐ろしい、古代の戦乱を生き抜いた神々とはこのように恐ろしい存在だったのか。
略奪の計画を事も無げに、しかも獲物の前で話し合っている。
まるでホラー映画だ。昨日まで一緒に過ごしてきた家族も同然の神様たちが、今や自分をどう料理しようかと舌なめずりしながら迫ってきているのだ。
自分は、自分たちは何をどこで間違えたのだろうか。どうすればこの悲劇を回避できたのだろうか。

誰か…ああ神様、教えてください。

「さあ、早苗。覚悟はできたかい?」
「大丈夫、すぐに良くなるよ」

もしくは、逃れられない運命であったのだろうか。
ならば罪は誰かにあるのではない。そう、誰もに罪があったのだ。

「神奈子様…諏訪子様…」

神は自分を見ている。自分だけを見ている。
しかしそれはもう、巫女を見る目では無かった。
早苗は目を瞑った。覚悟は出来た、これは自分の罪でもある。
そして今、更なる罪を犯す自分への迷いを振り切り

「「早苗、優しくしてあげる」」












――その日、東風谷早苗は生まれて初めて神の頭にすりこぎ棒を叩き込んだ。
2作目です。少々間隔が短すぎたかな、もっと時間を空けて投稿するべきだろうか。

前作はレミ咲さんたちにいじられた早苗さんですが、今回はオーソドックスにスワカナさんたちにいじられる早苗さんを書いてみようと思い立った次第であります。
が、終わってみるとどうもいじられ早苗とは方向が違うような?
オチに関しても、ウチの早苗さん的にどうだろうという煩悶はありましたが、ここまで暴走した(させてしまった)神様たちを止めるにはこれしかなかったもので…。
どうか、こんな早苗さんも愛してくださると嬉しいです。

しかし2作書いてみて思ったのは、どうも自分はある種ベタな話しか書けないようで。うーん…まあいっか(ぇ
桜田
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コメント



0.2600簡易評価
8.100名前を表示しない程度の能力削除
連投でもいいじゃない。ベタな話でもいいじゃない。早苗さんがいじられればいいじゃない。
あれ、何か違うような・・・まあいいですよね。
むしろ大歓迎、いいぞもっとやれ。

あと二柱気をつけろ、今はまだすりこぎ棒だけどそのうち御柱叩き込まれるぞ!!
17.100名前が無い程度の能力削除
いいぞwもっとやれww
22.90名前が無い程度の能力削除
ベタ・・・だと・・・?
いいぞもっとやれ
27.90名前が無い程度の能力削除
とりあえず二柱とも自重。
早苗さん、遠慮はいらねえ。やっちまって下さい。
29.70名前が無い程度の能力削除
>「全くその通り。ケロロン」
これが不意打ちすぎたw

>少々間隔が短すぎたかな
質を保ちつつ、このペースのまま量産出来るなら、それはそれで大したものですよ。

>どうも自分はある種ベタな話しか書けないようで
次はプロットから練りに練って書いてみてはどうでしょう。
文章力は問題ないですし、作者さんの渾身の一作を読んでみたいなあとか。
38.無評価桜田削除
皆様、コメントどうもありがとうございます。
>名前を表示しない程度の能力さん
執筆は愛しき早苗さんの為に。早苗さんを愛する心があればベタでも大丈夫……かも!
もっと早苗さんいじりを探求したいです。
懲りない神様たちが相手ならば、御柱も近い将来ありそうですねw

>17さん
そ、それは早苗さんいじりでしょうか、それとも神様への容赦なき突っ込み…!?

>22さん
料理中に怪我をしてちゅぱちゅぱなんてベタ中のベタですよね。しかしベタだからこそ書きたくなる魅力が…!

>27さん
愛の暴走とは恐ろしいものです。これからは二柱をちょうきょ…躾けてゆく早苗さんにご期待ください(ぇ

>29さん
諏訪子様は素でケロケロ言いそうな、気がっ。
全くの未熟者ですので少しでも腕を上げるために物語の練りこみと推敲は必要不可欠ですね。
勢いに任せるだけではなく、外枠や骨子を作り上げてみようと思います。