Coolier - 新生・東方創想話

みょんむす・幼夢小異変

2008/09/13 13:48:15
最終更新
サイズ
7.57KB
ページ数
1
閲覧数
709
評価数
3/20
POINT
910
Rate
8.90
ある日、ある朝、ある森の小道で。


「・・・何これ?」


アリス・マーガトロイドはその道端にみょんなものを見つけた。


白い。

ほわほわ。

軽そう。


「どこかで見たような覚えがあるわ。」


それはそうだろう。


それはどう見ても――魂魄妖夢の半霊だった。


しかし、なんだってそれがここにあるのか?


それはわからない。が、そんなことにアリスは興味を示さなかった。

彼女はしばし何事かを思案すると、無造作に半霊を手に取った。


「いい材料になりそうね。」


その口元には暗い笑みが浮かんでいた。










ある日、ある朝、白玉楼に続く石段で。


「み”ょぁぁあああああああっ!?」


きみょんな悲鳴が辺り一帯に響き渡った。

その声の主は魂魄妖夢。


――何?何かにつねられた――


突然の痛み。

彼女は自らの左・脇腹をまさぐるが、おかしなところは見当たらなかった。


おかしい――



「っみょ!・・・あっ」


今度は背中。なんというのか――異常な感触。

例えるならば、毛玉が背筋を駆け抜けていくような――


そして、妖夢が自分の背中に手をやったとき。

彼女はようやく、自分に起こった異変に気がついた。



「私の半霊は――――いったいどこに!?」








昨晩の話だ。

草木も眠る丑三つ時。白玉楼の寝室で、魂魄妖夢はすやすやと寝息を立てていた。


その寝顔をのぞきこむ者がいる。

それは、彼女の半霊だった。


半霊は名残惜しげにその半身を一瞥すると、白玉楼をとびだした。




一路、半霊は夜空を駆ける。




自分の意思で半身から離れる半霊。

それがありうることなのかは定かではないが、現に半霊は白玉楼からはるか現界の森にまで来てしまっていた。


しかし体を離れて遠く飛ぶにはひどく力を使うのだろうか。

半霊は力尽きたように森の中へと舞い降りた。


そして手頃な木の根元にその身を寄せると、そのまますやすやと寝息を立て始めた。



そして、話は朝へと続く。

アリスは半霊を連れ帰り、妖夢は急ぎ半霊のもとへ。


そして彼女たちが一堂に会したとき――物語は本当の始まりを迎える。













「なんですこれは?」

「なにかおかしい?」


開け放たれた扉の前で、妖夢とアリスが向かい合う。

その間には、幼女――もとい、小さな人形が立っていた。


銀髪。青眼。

肌の色はあくまで白く、しかしその頬は愛らしく桜色に染まっている。

身長およそ30cm。抱きしめるのには手頃な体躯だった。


しかし、その姿は――



「・・・私?」


みょん。

ちびみょん。

ちいさなみょん。


そう、どうみてもその人形は魂魄妖夢(幼ver.)であった。



「――まさか私の半霊を人形の――」


妖夢の頬を冷汗が伝う。

アリスは胸を張り、やや自慢げにこう言った。



「素材の味を活かすのがプロの仕事よ。」


空気が凍る。


――ちょっと待て。

――その言葉が本当なら――。



「――これを私の半霊と知っていて使いましたね・・・?」

「プロは仕事を選ばないのよ。」


殺気、だ。

それが辺りを充満していく。


向き合う二人。


妖夢にとって、これは一刀即両断の間合いだった。

しかし背後の館に眠る無数の人形に守られたアリスは、ただ悠然として構えている。

まさに一触即発の状況。その時――



「――――!!」

小さなみょんがとび出して、妖夢の足元にすがりついた。


彼女は泣き出しそうな眼で少女を見上げる。

震えを堪え、想いを込めて、彼女はそっとこう言った。



「――――――――みょんっ」



哀れちびみょん。

彼女には舌っ足らずの音を出す程度のことしか出来なかったのだ。



――が。

この場を収めるには、ただそれだけで十分だった。



(かわいい・・・)
(かわいい・・・?)
(これはかわいい――――!!)



妖夢の胸は弾けんばかりににときめいた。



――いかん。私。

――落ち着け私。

――心を静めろ。

――しかしみょんっ、とは。

――駄目だ、堕ちるな。

――冷静になれ。

――あぁ、あたまぽてくりしたい――!!



目もとは下がり口元は緩む。彼女の顔は、いまや真っ赤に染まっていた。



ふと妖夢が視線を感じて目線を上げると、そこでは相変わらずアリスが胸を張り、やはり自慢げにこちらを見下ろしていた。





「・・・続きは後日。また改めて。」


ひとつ小さく咳払いして、妖夢はくるりと背を向けた。そのまま白玉楼へと歩き出す。

その背を追って小さな幼夢はちまちました足取りで歩き始めた。

彼女は一度だけアリスの方を振り返ったが、妖夢の足音が遠ざかると、あわててそれを追いかけていった。



そして足音が遠く彼方に消えたとき。



夕陽の中に幼女を抱き上げ小躍りをする少女の影が見えたが――それは気のせいだったのだろう。














幻想郷は今日も天下泰平。白玉楼もまたそれに同じ。

ただ妖夢だけがてんてこまいの日々を送っていた。


「みょんっ」

「みょん・・・」

「みょん?」

「みょん!!」


半霊を失い軽くなったはずの彼女の肩は、むしろ前よりはるかに重く。


「その娘の名前は“みょんむす”が良いと思うわ。だって娘に見えるもの。」

西行寺幽々子のその一言で、その娘の名前は「みょんむす」に決まった。


――娘か。

――この若さでもう娘持ちなのか。


感慨に浸る暇もなく、彼女は日々の仕事に追われ続ける。その背中には「娘」を背負って。


彼女はある時子連れの庭師。

またある時は子連れの番人。


「ふたりは可愛すぎて困るわ。食べたくなるほどなんだもの。」

「スクープ!消えた半霊~私の娘は生き人形――という記事名はどうでしょう?」

「子守り姿もかわいいぜ妖夢。どうだい嫁にならないか?」


群れる野次には愛刀一閃。娘のために切り捨てる。



「――みょん。」


背中のみょんむすが頭をたたく。どうやら彼女を気遣っているらしい。


「――ありがとうございます。」


情けないやら萌えやらで、妖夢は力なく俯いた。













どうしてこんなことになったのだろう。


どうして半霊は私から離れて。

ああ、あなたの――私の心が解らない。

半人半霊、心は一つのはずではなかったのか?



――顔で笑って心で泣いて。


果てない疑問と懊悩の果てに、取り敢えず妖夢はみょんむすを抱き、踊り回る事を選択した。

朗らかな笑い声。

背景:西行・桜吹雪でステップを踏む少女の影は、くるくる、くるくると回り続けた。












今日も疲れて、彼女は畳に突っ伏した。部屋に差し込む赤い夕陽が、部屋に気だるい雰囲気を漂わせている。

母と少女と、それから庭師。三足の草鞋を穿く彼女には、日々の疲れを癒す間もない。


妖夢はぴくりとも動かない。すると、小さな手のひらが頭をなぜた。

顔を上げると、みょんむすが心配げに妖夢の事を見下ろしていた。


「みょん・・・・・・。」


妖夢は微笑み、柔らかなその手を握り返す。


みょんむすをそっと抱きしめて、彼女は茜色の空に目をやった。


彼女の心は分らない。

でももう、そんなことはどうでも良くなり始めていた。


今、こんなにも通じ合っている。

肌を通して暖かさが伝わってくる。

それは彼女の体温で、そして心の温かさなのだろう。


ふたりは安らぎに包まれて、夢の中へと降りていく。

ふたりの影を、夕陽が包む。

それは、きっと優しい色だったのだろう。




そして、物語も終わりの時間である。





その夜。妖夢がふと目覚めると、みょんむすの姿は露と消えていた。

月の光が彼女を照らす。

そこには半霊を従えた少女の庭師――魂魄妖夢が立っていた。












――思春期の少年少女において、その心理は非常に不安定なものである。
自らの心を制御するのも容易ではなく、しばしば「自分の心が自分のものではないようだ」という感情が呼び起こされることがある。(中略)
そのため、半人半霊の血筋は半霊との意思疎通が上手くいかなくなる時期があるそうだ。心理的葛藤が不安定な霊的構造に与える影響が原因で、半霊が本人の意思に反して行動するなどの障害を起こすが、普通本人の心理的な成長に合わせて自然と治癒する場合がほとんどらしい。いわば年頃の少年少女がかかるはしかのようなものだと考えれば良いだろう。
                                          ――――永琳・家庭の医学説話集より抜粋











白玉楼の庭園で、妖夢は今日も庭の手入れに精を出している。

半霊と共に枝を払っていく彼女の仕事は、眼を見張るほどに的確かつ素早い。


突然娘があらわれた妖夢。

突然娘がいなくなってしまった妖夢。


束の間の日々は、彼女にとって幸せだったのかそれとも不幸せだったのか――私達にはわからない。


ただ――彼女の瞳は以前より強く、そして、優しく輝いて見えた。
最近妖夢が好きなので書いてみました。
シューティングなのに刀振り回す妖夢かわいいよ妖夢。


新参ゆえ設定その他でおかしな点や突っ込みどころも多々あると思いますが、ご笑覧いただければ幸いです。
イルダ
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.680簡易評価
2.80煉獄削除
半霊かわいいよ!
妖夢と一緒だとなんという可愛さ。
あああ………頭撫でたい。
大変面白い作品でした。
7.70マイマイ削除
途中はしょり過ぎっていうか、もっと詰め込めよとは思ったけどGJ!
みょんむす可愛いよみょんむす。って言うかその名前はねーよwww
12.80名前が無い程度の能力削除
よし、俺も半霊出せるように頑張ろう!!