Coolier - 新生・東方創想話

2008/09/13 09:54:55
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※初投稿です
※主役は萃夢想ラスボス&地霊殿3ボス、端役で地霊殿2ボス
※しかし地霊殿は委託待ち、ぶっちゃけ体験版だけで妄想した
※さらに足りない設定は自力で妄想した
※なんだかリリカル

それでも読んでくださるという方は、どうぞスクロールを。










天から遠く離れた地底にも、夜は存在する。
見えぬ月を仰ぐ、空になった朱塗りの杯。

まだあどけない外見の同胞を膝に座らせ、
星熊勇儀はその髪を梳いてやっていた。
幼さを残した、ふわふわと柔らかい髪。
小柄な身体で存分に動きまわるせいで、
長い髪は時折絡み、小さな縺れを生む。
そのひとつひとつを、勇儀は丁寧に解きほぐした。
髪の一筋も傷まぬよう、気遣ってほどく繊細さは
杯を掲げ、酒を呷る日頃の豪快さとは程遠い。

「別にいいよ、そんなにきっちりしなくたって」
じっとしていることに、倦んできたのだろう。
膝の上で、友人がじれったそうに身を捩った。
「だめだめ。ちゃんと結んでおかないと、
 思う存分暴れられないだろ?」
髪を梳くついでに、角の付け根をくすぐってやると
彼女は大きな目をぎゅっと閉じて、むず痒さを堪えた。
その隙に髪をまとめ、毛先をきっちりと結わえる。
「これで良し、と」
華奢な肩をぽんと叩き、終わりを知らせる。
膝から飛び降り、大きく伸びをする小さな友。
その姿を、その温もりを、忘れるまいと思った。
こうして、彼女と共に在れる時も、残り少ないのだから。



陽光の差さぬかつての地獄に移り住んで、
どれほどの時が経っただろう。
旧都の雪が止みかけた、ある日。
――ちょっと、地上にでも行ってみるかな。
彼女は唐突に、そんなことを言ったのだ。

同胞たちは、口々に彼女を止めた。
もちろん、自分も止めた。
だが、彼女はいつもの酔いが回った口調で、
そのくせ決して譲ることなく、言い張ったのだ。
また、人間と酒が呑みたい――と。

打ち棄てられ、何もなかった土地を一から切り開いた。
忌み嫌われた妖怪たちを受け入れた。
地上の賢者と、約定を交わした。
楽園と呼ぶに値する場所を、やっと手に入れた。
自分も彼女も、全ての同胞たちが力を合わせて。

それを捨てて行くほどの価値が、地上にあるのか。
鬼の姿も、渡り合う術すらも忘れた人間の土地に。
正面切ってそれを尋ねると、彼女は言った。
――どうだろうね。
――あるかもしれない。ないのかもしれない。
――でも、私は行くよ。
――だって、



「勇儀」
不意に名を呼ばれ、現実に引き戻された。
小さな身体が、振り向いてこちらを見ている。
「何だい」
「……私がいなくなったら、寂しい?」
大きな瞳が、こちらを覗き込んでいる。

寂しくなどない。
そう、言ってやらねばならないのはわかっていた。
光差す地上へ、彼女は旅立つのだ。
自分を忘れて久しい場所へ、ただ独りで。

彼女を、独りで行かせたくはなかった。
共に行くか、共に残るか。
それより他に、道はないと思っていた。
だが、地底にも維持するべき秩序がある。
忘れ去られ、忌み嫌われた者の集う土地で
それを保つのは、最も力ある者の務めだ。
一人が去るのは、まだいい。
だが、二人が欠ければ、力の均衡は確実に狂う。
彼女が行きたいというなら、残るのは自分の役目だ。

「何だい、急に神妙な顔して」
寂しくなどない。
そう、言ってやらねばならないのはわかっていた。
「あんたが、いなくなったって」
ここは自分に任せろ。安心して行け。
胸を張って、そう言ってやらねばならなかった。

だが。
「あんたが、いなくたって……」
その続きを、どうしても言えなかった。
「……いなくたって、私は」
膝の上で、握り締めた拳が震える。
歪む唇は、何の声も紡ぐことはない。

彼女を、独りにしたくはなかった。
だが、それ以上に。
自分も、独りでいたくは、なかった。

「……っ……!」
自分は鬼だ。
嘘は――吐けない。

そして、彼女もまた鬼だ。
彼女は自分より、もう少し器用だけれど。
同胞の沈黙が何を意味するかは、
十分に理解しているはずだった。

「ごめん」
小さな友人の重みが、膝に乗るのを感じた。
「ごめんね」
妙にしおらしいことを言って、頭を撫でてくる。

この馬鹿。お調子者。考えなしの小娘。
地上へでも何処へでも、好きなところに行ってしまえ。
一息にそう言ってしまえれば、どんなにか楽だろう。
こちらが啖呵を切る。彼女はそれを受ける。
そうして威勢よく、背を向け合って袂を分かつ方が
まだ鬼の流儀に適っているというものだ。

だが、それすらも言葉にできない。
言えるものか。
別れなど、欠片ほども望んではいないのだから。

口に出せない嘘は、涙になって頬を滑り落ちた。
そっとそれを拭う、柔らかな指の感触。
こうしている限り、小娘とは自分の方だろう。

彼女と呑む酒ほど、美味いものなどありはしなかった。
彼女がいる宴ほど、楽しいものなどありはしなかった。
彼女と築いた旧都。たとえ、他の全てがそこにあろうと。
彼女がいないなら、そこは、もう。

わかっている。
そんなことでは、彼女と同じ四天王の名が泣くというもの。
わかっている、それでも己を偽れない。
ならば、せめて。

傍らに置いていた、空の杯を取る。
それだけで、こちらの意図は通じたようだった。
酒を注いで渡すと、彼女は一息にそれを空ける。
いつもと同じ、心から満足そうな溜息。
そして、笑顔。

遠い遠い昔から、酩酊の中を生きている彼女。
今宵の酒も、その一部となる。
遠く離れても、変わらないもの。
それを絆と、自惚れることは許されるだろうか。

今度は、彼女の方から酌をしてくれた。
愛用の瓢箪から、無限に湧く酒の一部。
受け取った杯の水面に、雫が一つ落ちた。
顎の先に残っていた、最後の涙。

もはや未練は残すまいと、勢いをつけて空けた。
涙の苦味、胸の内の想い、決して忘れるものか。
今宵より、この杯で呑む酒は、彼女のものと思おう。
失われた信頼を探しに、遠い地に旅立った同胞の酒。
一滴たりとも、零しはしない。

そうして、いつまでも杯を交わした。
二人して呑み潰れ、折り重なって眠りに落ちるまで。



目を覚ますと、小さな友人は既にいなかった。
地上への縦穴を守る橋姫の言を信じるなら、
彼女は朝を待たずに発ち、縦穴を抜けたらしい。

「浮かれ騒がない鬼の姿なんて、久しぶりに見たわ」
嫉妬深い守護神が、攻撃を仕掛けずに通すほどだ。
黙って旅立った彼女にも、思うところはあったのだろう。
自分だけではなかったのかと感慨に浸っていると、
橋姫は一言、妬ましいと口にして背を向けた。

――私は行くよ。
地上に出たいと言い張った、彼女の言葉を思い出す。
鬼の存在を忘れた地上に、価値はあるのかと問うた時。
それでも一縷の望みに賭けると、彼女は言ったのだ。
――だって、

――皆で呑む酒が、一番美味いじゃない。
言い切った彼女の、迷いのない、力強い笑顔。
きっと、忘れることはないだろう。

光の差さぬ旧都は、今日も宴の最中。
その喧騒を、星熊勇儀は守り続ける。
街を共に築いた、かけがえない友人はもういない。
だが、それを嘆けば、彼女と築いた楽園が嘘になる。
嘘は嫌いだ。自分も、彼女も。
ならば、宴を続けよう。この時を楽しもう。
遠く離れた友への、それが餞。

天から遠く離れた地底に、夜は続く。
見えぬ月を仰ぐ、満たされた朱塗りの杯。
い…今、ありのまま、起こったことを話す!
『地霊殿3ボスの漢気に惚れてSSを書いたはずが
 いつの間にか百合っぽい雰囲気になっていた』
気丈な人の涙は素晴らしいだとか 東方の鬼は面白いだとか
そんなチャチなもんじゃ(ry

読んでくださった方、ありがとうございました。
C-7
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コメント



0.400簡易評価
11.70名前が無い程度の能力削除
ちょっとものたりない。でも悪くない。
雰囲気はけっこういいなと思いました。

ただ、最初の注意書きで損をしてるように思います。
>※しかし地霊殿は委託待ち、ぶっちゃけ体験版だけで妄想した
>※さらに足りない設定は自力で妄想した
>※なんだかリリカル
正直なのは美徳です。
でも、読者が初めに目にする文章であるわけで、これでは、じゃあ期待できないなと戻ることを促すかのようです。
本編の文章、作り出す雰囲気とあまりにかけ離れていて、もったいない。
12.無評価C-7削除
丁寧なコメント、ありがとうございます。

>ちょっとものたりない。でも悪くない。
物足りないのは、情景や心情の描写でしょうか。
それとも、話の主題そのものでしょうか。
いずれにせよ、練りこみの余地があるということですね。
精進します。

>ただ、最初の注意書きで損をしてるように思います。
>読者が初めに目にする文章であるわけで、これでは、じゃあ期待できないなと戻ることを促すかのようです。
恥ずかしながら、全く予想していなかったご指摘でした。
これまで読み手専門でいたこともあり、SSの前に置く注意書きといえば
「読後の不快感や、裏切られた感じをなくすためのもの」とばかり思い込んでいました。
これから読んでくださる方に対して、前書きでアピールするという考えも大切なのですね。
次回からは、注意書きの文面にも気を遣っていこうと思います。

しかしながら、そんな注意書きにもめげず、SSを最後まで読んでくださった上
時間を割いてコメントをくださったお気遣いが、何よりも嬉しく感じられます。
本当にありがとうございました。またご縁がありましたら、ご指導お願いいたします。