パロディです。
太宰作品に対するパロディを好まれない方はお戻りください。
登場人物にあわせたキャラ改変を含む可能性があります。
ご了承ください。
レミリアは激怒した。
必ず、かの邪智暴虐の姫を除かねばならぬと決意した。
レミリアは、吸血鬼にして紅魔館の主である。
血を啜り、弾幕ごっこに興じて暮らしてきた。
けれどもカリスマに対しては、人一倍に敏感であった。
レミリアには父も、母もない。
夫も無い。
ヒキコモリな妹と暮らしている。
この妹は、森の或る普通の魔法使いを、近々、花婿として迎えることになっていた。
結婚式も間近なのである。
レミリアはそれゆえ、花嫁衣装を買いに自ら里にやって来たのだ。
まず、その品々を買い集め、それから日傘をくるくると廻しながら里の大路をぶらぶら歩いている。
レミリアには竹馬の友があった。
魔法使いのパチュリーである。
今はこの町で、暇つぶしに占い師をやっている。
その友を、これから訪ねてみるつもりなのだ。
一週間ほど逢わなかったのだから、訪ねて行くのが楽しみである。
歩いているうちにレミリアは、町の様子を怪しく思った。
ひっそりしている。
もう既に日も落ちてはいるが、夜のせいばかりではなく、里自体がやけに寂しい。
若者をつかまえて、何かあったのか、まちは賑やかであった筈だが、と質問した。
若者は、悲鳴をあげて逃げ出した。
しばらく歩くと老人に会ったので、こんどはもっと語勢を強くして詰問してみる。
老人は白目をむいて気絶した。
レミリアは両手で老人のからだをゆすぶって質問を重ねた。
老人は、あたりをはばかる低い声で、わずか答えた。
「永遠亭の姫様が、人を殺します」
「なぜ殺すの」
「悪心を抱いている、というのですが、誰もそんな、悪心を持ってはおりませぬ」
「たくさんの人を殺したの?」
「はじめは姫様の好敵手を。それから竹林の妖怪退治屋を。それから、妹紅殿を。それから、健康マニアの焼き鳥屋を。それから、竹林の自警団を。それから、妹紅殿を」
レミリアは同一人物が二回出ようと気にしない大らかな性格だったから、この老人の話を疑問にも思わなかった。
「おどろいたわね。
乱心したの?」
「いいえ、乱心ではございませぬ。
人を、信ずることが出来ぬ、というのです。
このごろは、臣下の心をもお疑いになり、御自身のカリスマを常に称えさせます。
カリスマを称えることを拒否すれば十字架にかけられて、文々。新聞に晒されます。
きょうは、3人晒されました」
聞いて、レミリアは激怒した。
「呆れた姫ね。
誰がカリスマか、思い知らせてあげないと」
レミリアは単純な女であった。
買い物を背負ったままで、とてとてと永遠亭に入っていくと、たちまち彼女は巡邏の妖怪ウサギに捕縛される。
調べられて、レミリアの懐からはスペルカードが出てきたので、騒ぎが大きくなってしまった。
レミリアは、輝夜の前に引き出された。
「このスペルカードで何をするつもりだったの?
言いなさい」
暴君輝夜は静かに、けれどもカリスマを込めて問い詰めた。
「里を暴君の手から救うのよ」
レミリアは悪びれずに答えた。
「オマエが?」
輝夜は憫笑した。
「仕方のない子ね。
オマエには、私の孤独がわからないの?」
「言うな!」
レミリアはいきりたって反駁した。
「己のカリスマを疑うのは、最も恥ずべき悪徳だ。
オマエは、臣下の忠誠をさえ疑っている」
「人の心は、あてにならない。
人間は、もともと私欲のかたまりよ。
信じては、いけない」
暴君は落ち着いて呟き、ほっとため息をついた。
「私だって、平和を望んでいるの」
「何のための平和?
自分のカリスマが漏れないためか」
こんどはレミリアが嘲笑した。
「だまれ、卑しい吸血鬼が」
姫は、さっと顔をあげて言い放った。
「口では、どんなカリスマに満ちたことも言えるわ。
私には、人の腹の奥底が見え透いてならない。
オマエだって、今に磔になってから、カリスマが駄々漏れになっても聞かないわよ」
「ああ、姫は利巧ね。
自惚れているがよい。
私は、ちゃんと磔られても、カリスマを保つ覚悟でいるのに。
カリスマ乞いなど決してしない。
ただ・・・」
言いかけて、レミリアは足元に視線を落とし瞬時躊躇い、
「ただ、私にカリスマを見せ付けるつもりなら、磔までに3日間の日限を与えなさい。
たった一人の妹に、亭主を持たせてやりたいの。
3日のうちに、私は紅魔館で結婚式を挙げさせ、必ず、ここへ帰ってくる」
「ばかな」
と暴君は、鈴が鳴るような高い声で囀った。
「とんでもない嘘を言うわね。
逃がした小鳥が帰ってくるというの?」
「そう、帰ってくるのよ」
レミリアは堂々と言い張った。
「私は約束は守る。
3日間だけ許しなさい。
妹が、私の帰りを待っているわ。
・・そんなに私を信じられないのならば、この町にパチュリーという占い師がいるわ。
私の無二の友人なの。
あれを、人質としてここに置いていくわ。
3日目の夜明けまで、私がここに帰って来なかったら、あの友人を磔てやっていい。
うん、それでいこう」
それを聞いて姫は、残虐な気持ちで、そっとほくそ笑んだ。
生意気なことを言う。
どうせ帰ってこないに決まっている。
このうそつきに騙されたふりして、放してやるのもカリスマだ。
そして身代わりの魔女を、3日目に晒してやるのも気味がいい。
人はこれだから信じられぬと、私は悲しい顔をして、その身代わりの魔女を磔て辱めてやるのだ。
「その身代わりを呼ぶがよい。
3日目の夜明けまでに帰ってきなさい。
遅れたら、その身代わりを、きっと辱めるぞ。
ちょっと遅れて来るがいい。
オマエの罪は、永遠にゆるしてあげるわ」
「何を言っているの!」
「ふふ、カリスマが大事だったら、遅れてきなさい。
おまえの心は、わかっているわ」
レミリアは口惜しく、地団駄踏んだ。
永遠亭を震度3程度の地震が襲った。
パチュリーは、深夜、永遠亭に召された。
暴君輝夜の面前で、よき友とよき友は、一週間ぶりで相見えた。
レミリアは、友に一切の事情を語った。
パチュリーは無言で頷き、ハードカバーの本の角でレミリアの頭をはたく。
友と友との間は、それでよかった。
パチュリーは、縄打たれる。
エロイ縛り方だったので、
「むきゅう」
と鳴いていた。
レミリアはすぐに出発した。
満点の星が満ちていた。
レミリアが館に到着したのは、もう空が白みはじめた時刻だった。
夜行性が多い紅魔館では、メイドたちが就寝の準備を進めている。
レミリアの四百九十五の妹も、今日はもうお寝むのようだった。
よろめいて飛んでくる姉の、疲労困憊の姿を見つけて驚いている。
そうして、うるさく姉に質問を浴びせた。
「何でもないわ」
レミリアはムリに笑おうと努めた。
「町に用事を残してきたしまったわ。
またすぐ町に行かないといけないの。
そうそう、今夜、おまえの結婚式を挙げるわね。
早いほうがよいでしょう」
妹は頬を赤らめた。
「嬉しい?
綺麗な衣装も買ってきたのよ。
さぁ、これから行って、館中に伝えて来なさい。
結婚式は今夜だと」
レミリアは、メイド長の咲夜に祝宴の席を調えるように指示を出すと、間もなく深い眠りに落ちてしまった。
眼が覚めたのは夜である。
レミリアは起きてすぐ、花婿の家を訪れた。
そうして、少し事情があるから、結婚式を今夜にしてくれ、と頼んだ。
婿の魔法使いは驚き、それはいけないぜ、こちらには未だ何も支度も出来ていない、もう少し待ってくれ、と答える。
レミリアは、待つことは出来ぬ、どうか今夜にしてくれ、とさらに押して頼んだ。
婿の魔法使いも頑強だった。
なかなか承諾してくれない。
真夜中近くまで議論を続けて、やっと、どうにか婿をなだめ、すかして、説き伏せた。
結婚式は、真夜中に行われた。
いつの間にか黒雲が空を覆い、ぽつりぽつり雨が降り出し、やがて外に出るのを躊躇うほどの大雨となった。
祝宴に参加していたメイドや妖怪たちは何か不吉なものを感じたが、だだっ広い紅魔館の中で、陽気に歌をうたい新郎新婦を祝福する。
レミリアも満面に喜色を湛え、しばらくは輝夜とのあの約束をさえ忘れていた。
祝宴は、丑三つ時を越えいよいよ乱れ華やかになり、人々は、外の豪雨を全く気にしなくなった。
明日の夜明けまでには、まだ十分の時がある。
ちょっと一眠りして、それからすぐ出発しよう、とレミリアは考えた。
その頃には、雨も止んでいよう。
歓喜に酔っているらしい花嫁に近寄り、
「おめでとう。
私は疲れてしまったから、ちょっとご免こうむって眠らせてもらうわ。
眼が覚めたら、すぐに里に出かけるわ。
私がいなくても、もう優しい亭主がいるのだから、決して寂しい事はないわね。
おまえの姉の、一番きらいなものは、カリスマが駄々漏れなことと、それから、カリスマが駄々漏れることよ。
オマエも、それは、知っているね。
オマエの姉は、偉い妖怪なのだから、オマエもその誇りを持っていなさい」
花嫁は、夢見心地で頷いた。
レミリアは、それから花婿の肩をたたいて、
「支度のないのはお互い様よ。
私の家にも、宝といっては、妹と図書館だけ。
全部あげよう。
もう一つ、デーモンロードの家族になったことを誇ってくれ」
花婿はもみ手して、照れていた。
レミリアは笑って宴席から立ち去り、私室に潜り込んで死んだように深く眠った。
眼が覚めたのは、その日の夕暮れ時である。
今日は是非とも、あの姫に、人の信実の存するところを見せてやろう。
そうして笑って磔の台に上ってやる。
レミリアは、悠々と身支度をはじめた。
雨も、ほとんど止んでいる様子である。
身支度は出来た。
さて、レミリアは、ぶるんと両腕を大きく振って、
「れみりあ、うーっ!」
叫ぶと、雨中、矢のごとく走り出た。
小雨に当たった肌がひりひりと痛むが、耐えられぬほどではなかった。
私は今宵、身代わりの友を救うために走るのだ。
姫のカリスマを打ち破るために走るのだ。
走らなければならぬ。
そうして、私は磔になり、自分のカリスマを守る。
まだ500余りの若いレミリアは、つらかった。
幾度か、立ち止まりそうになった。
うーっ、うーっ、と大声を挙げて自分を叱りながら走った。
館を出て、湖上を駆け抜け、森をくぐる頃には、雨も止み、雲の隙間から月が顔をのぞかせていた。
レミリアはひたいの雨粒をこぶしで払い、ここまで来れば大丈夫、もはや紅魔館への未練はない。
妹たちはきっと良い夫婦になるだろう。
私には、いま、なんの気がかりもない筈だ。
まっすぐに永遠亭に行き着けば、それでよい。
そんなに急ぐ必要も無い。
ゆっくり歩こう、「亡き王女の為のセプテット」をレミリアは口ずさみだした。
ぶらぶらと二里行き三里行き、歩き続けた己の身に降って湧いた災難に、レミリアの足は、はたと、止まった。
見よ、前方の川を。
きのうの豪雨で山の水源地は氾濫し、どうどうとおどろおどろしい響きをあげる激流が、木っ端微塵に橋桁を跳ね飛ばしていた。
レミリアは顔をしかめ、立ち止まった。
あちこちと眺めまわすと、厄神さまがぐるぐると回転しながら上流から下流へと流れている。
「レミリアはなんで飛ぶのんー?」
厄神はレミリアへ疑問を投げかけながら、そのまま見えなくなった。
「吸血鬼だからよ」
その疑問に答えながらレミリアは濁流をひとっ飛び。
流れ水は渡れないはずだが、神に祈る暇も与えず、えいやっ、と気合で乗り越えた。
レミリアは、すぐにまた先を急いだ。
思ったよりも時間がなくなっていた。
そしてようやく峠を越えたレミリアの前に一隊のウサ耳山賊団が躍り出た。
「待ちなさい」
「何をする気?
私は陽の昇らぬうちに亭に行かなければならぬ。
どけ」
「持ち物を全部置いていけ」
「置いていくのももったいない。
どうせだから、貴女たちにあげるわ、紅符『スカーレットシュート』」
山賊たちの幾人かは、バタバタと倒れ、すぐにものも言えぬ状態になった。
残された者のひるむ隙に、さっさと飛んで峠を下った。
一気に峠を下ったが、流石に疲労し、雨水と流水の影響が今頃祟ったのか、レミリアは幾度と無くめまいを感じ、ついにがく、と膝を折った。
立ち上がることが出来なかった。
天を仰いで、悔しがった。
ああ、雨水を浴び、濁流を飛び越えて、山賊は特に問題もなく打ち倒しスカーレットデビル、ここまで突破してきたレミリアよ。
真のカリスマ、レミリアよ。
今、ここで、疲れきって動けなくなるとは情けない。
愛する友は、オマエを信じたばかりに、やがて磔にされなければならぬ。
カリスマ駄々漏れ、まさしく輝夜の思うツボだぞ、と自分を叱ってみせるのだが、全身萎えて、もはやモケーレムベンベほどにも動くことが出来ない。
路傍の草原にごろりと寝転がった。
身体疲労すれば、精神もともにやられる。
もう、どうでもいいという、カリスマには不似合いな不貞腐れた根性が、心の隅に巣食った。
私は、きっと笑われる。
私は、友を欺いた。
中途で倒れるのは、はじめから何もしないのと同じことだ。
ああ、もう、どうでもいい。
これが私の定まった運命なのかもしれない。
パチェよ、ゆるしてくれ。
私たちは、本当に良い友と友であったのだ。
一度だって、暗い疑惑の雲をお互い胸に宿したことは無かった。
いまだって、キミは私を無心に待っているだろう。
それを思えば、やりきれない。
友と友の間の信実は、この世で一番誇るべきカリスマなのだ。
パチェよ、私は走ったのだ。
だが、ああ、私は負けたのだ。
だらしがない。
こうなったら、私は、永遠に裏切者だ。
地上で最も、不名誉の人種だ。
パチェよ、私も辱められるぞ。
キミと一緒に辱められる。
キミだけは私を信じてくれるにちがい無い。
いや、それも私の、ひとりよがりか?
ああ、もういっそ、悪徳者として生き伸びてやろうか。
正義だの、信実だの、愛だの、考えてみれば、くだらない。
人を殺して自分が生きる。
それが妖怪世界の定法ではなかったか。
ああ、何もかも、ばかばかしい。
私は、醜い裏切り者だ。
どうとも、勝手にするがよい。
ふと耳に、液体が奏でる、ちゃぷん、という音が聞こえた。
そっと頭をもたげ、力の入らない手で懐をまさぐる。
いつの間にか、希少品入りの紅茶の水筒が手荷物の中に入っていた。
覚えの無いアイテムに、レミリアの頭に瀟洒なメイドの顔が浮かんで消える。
その水筒に吸い込まれるように身を屈める。
ぐい、と両手を使って水筒を傾かせ、一口呑んだ。
ほうと長いため息が出て、夢から覚めたような気がした。
歩ける。
行こう。
肉体の疲労回復と共に、わずかながら希望が生れた。
わが身を殺して、名誉を守る希望である。
夜明けまでには、まだ間がある。
私を、待っている人があるのだ。
私は、信頼に報いなければならぬ。
いまはただその一事だ。
走れ!レミリア。
私は信頼されている。
私は信頼されている。
先刻の、あの囁きは、あれは夢だ。
悪い夢だ。
レミリア、おまえの恥ではない。
やはり、おまえは真のカリスマだ。
再び立って走れるようになったではないか。
レミリアは紅い風のように走った。
少しずつ沈んでゆく月の、何十倍も早く走った。
妖精の集団とすれちがった瞬間、不吉な会話を小耳にはさんだ。
「いまごろは、あの魔法使いも、磔にかかっているよ」
ああ、その魔女、その魔女のために私は、いまこんなに走っているのだ。
その魔女を死なせてはならない。
急げ、レミリア。
おくれてはならぬ。
風態なんかは、どうでもいい。
レミリアは、いまは、ほとんど全裸体であった。
見える。
はるか向うに小さく、里の唯一の刑場が見える。
「ああ、お嬢様」
うめくような声が、風と共に聞こえた。
「誰よ」
レミリアは走りながら尋ねた。
「小悪魔でございます。
貴方のお友達、パチュリー様の使い魔でございます」
その小悪魔も、レミリアの後について走りながら叫んだ。
「もう、駄目でございます。
むだでございます。
走るのは、やめて下さい。
もう、パチュリー様をお助けになることは出来ません」
「いや、まだ陽は昇っていない」
レミリアは胸の張り裂ける思いで走り続けた。
「やめて下さい。
走るのは、やめて下さい。
あの方は、あなたを信じて居りました。
刑場に引き出されても、平気でいました。
輝夜が、さんざんあの方をからかっても、レミリアは来ます、とだけ答えておりました」
「それだから、走るのよ。
信じられているから走るの。
間に合う、間に合わぬは問題でないわ。
人の命も問題でない。
私は、なんだか、もっと恐ろしく大きいカリスマの為に走っているのよ。
ついて来なさい、小悪魔!!」
「ああ、あなたは気が狂ったか。
それでは、うんと走るがいい。
ひょっとしたら、間に合わぬものでもない。
走るがいい」
最後の死力を尽して、レミリアは走った。
空がかすかに白み始めたころ、レミリアは疾風の如く刑場に突入した。
間に合った。
「待ちなさい。
その人を殺してはいけないわ!
レミリアが帰って来たわ。
約束のとおり、いま、帰って来た!!」
すでに磔の柱が高々と立てられ、縄を打たれたパチュリーは、徐々に釣り上げられいた。
レミリアはそれを目撃して最後の勇、先刻、濁流を飛び越えたように飛びついた。
「私だ!
レミリアよ。
彼女を人質にした私は、ここにいる!」
と、叫びながら、ついに磔台に昇り、釣り上げられてゆく友の両足に、かじりついた。
ようやくパチュリーの縄は、ほどかれたのである。
「パチェ」
レミリアは眼に涙を浮べて言った。
「私を殴って。
ちから一ぱいに頬を殴って。
私は、途中で一度、悪い夢を見たわ。
パチェがもし私を殴ってくれなかったら、私はパチェと抱擁する資格さえ無いの。
殴って」
パチュリーは、すべてを察した様子でうなずき、レミリアの右頬を殴った。
殴ってから優しく微笑み、
「レミィ、私を殴って。
同じくらい音高く私の頬を殴って。
私はたった一度だけ、ちらとレミィを疑ったわ。
レミィが私を殴ってくれなければ、私はレミィと抱擁できない」
レミリアは腕にうなりをつけてパチュリーの頬を殴った。
パチュリーが刑場の端まで吹き飛んだ。
「ありがとう、友よ」
レミリアは言い、ひしと抱き合ったが、パチュリーは気絶していた。
暴君輝夜は、まじまじと二人を見つめていたが、顔をあからめて、こう言った。
「貴女たちは、私の心に勝ったのね。
信実とは、決して空虚な妄想ではなかった。
どうか、私も仲間に入れてくれてほしい」
ひとりの少女が、紅のマントをレミリアに捧げた。
レミリアは、まごついた。
目覚めた友は、気をきかせて教えてやった。
「レミィ、貴女は、まっぱだかよ。
早くそのマントを着た方がいいわ。
この可愛い娘さんは、レミィの裸体を、皆に見られるのが、たまらなく口惜しいのね」
カリスマは、ひどく赤面した。
太宰作品に対するパロディを好まれない方はお戻りください。
登場人物にあわせたキャラ改変を含む可能性があります。
ご了承ください。
レミリアは激怒した。
必ず、かの邪智暴虐の姫を除かねばならぬと決意した。
レミリアは、吸血鬼にして紅魔館の主である。
血を啜り、弾幕ごっこに興じて暮らしてきた。
けれどもカリスマに対しては、人一倍に敏感であった。
レミリアには父も、母もない。
夫も無い。
ヒキコモリな妹と暮らしている。
この妹は、森の或る普通の魔法使いを、近々、花婿として迎えることになっていた。
結婚式も間近なのである。
レミリアはそれゆえ、花嫁衣装を買いに自ら里にやって来たのだ。
まず、その品々を買い集め、それから日傘をくるくると廻しながら里の大路をぶらぶら歩いている。
レミリアには竹馬の友があった。
魔法使いのパチュリーである。
今はこの町で、暇つぶしに占い師をやっている。
その友を、これから訪ねてみるつもりなのだ。
一週間ほど逢わなかったのだから、訪ねて行くのが楽しみである。
歩いているうちにレミリアは、町の様子を怪しく思った。
ひっそりしている。
もう既に日も落ちてはいるが、夜のせいばかりではなく、里自体がやけに寂しい。
若者をつかまえて、何かあったのか、まちは賑やかであった筈だが、と質問した。
若者は、悲鳴をあげて逃げ出した。
しばらく歩くと老人に会ったので、こんどはもっと語勢を強くして詰問してみる。
老人は白目をむいて気絶した。
レミリアは両手で老人のからだをゆすぶって質問を重ねた。
老人は、あたりをはばかる低い声で、わずか答えた。
「永遠亭の姫様が、人を殺します」
「なぜ殺すの」
「悪心を抱いている、というのですが、誰もそんな、悪心を持ってはおりませぬ」
「たくさんの人を殺したの?」
「はじめは姫様の好敵手を。それから竹林の妖怪退治屋を。それから、妹紅殿を。それから、健康マニアの焼き鳥屋を。それから、竹林の自警団を。それから、妹紅殿を」
レミリアは同一人物が二回出ようと気にしない大らかな性格だったから、この老人の話を疑問にも思わなかった。
「おどろいたわね。
乱心したの?」
「いいえ、乱心ではございませぬ。
人を、信ずることが出来ぬ、というのです。
このごろは、臣下の心をもお疑いになり、御自身のカリスマを常に称えさせます。
カリスマを称えることを拒否すれば十字架にかけられて、文々。新聞に晒されます。
きょうは、3人晒されました」
聞いて、レミリアは激怒した。
「呆れた姫ね。
誰がカリスマか、思い知らせてあげないと」
レミリアは単純な女であった。
買い物を背負ったままで、とてとてと永遠亭に入っていくと、たちまち彼女は巡邏の妖怪ウサギに捕縛される。
調べられて、レミリアの懐からはスペルカードが出てきたので、騒ぎが大きくなってしまった。
レミリアは、輝夜の前に引き出された。
「このスペルカードで何をするつもりだったの?
言いなさい」
暴君輝夜は静かに、けれどもカリスマを込めて問い詰めた。
「里を暴君の手から救うのよ」
レミリアは悪びれずに答えた。
「オマエが?」
輝夜は憫笑した。
「仕方のない子ね。
オマエには、私の孤独がわからないの?」
「言うな!」
レミリアはいきりたって反駁した。
「己のカリスマを疑うのは、最も恥ずべき悪徳だ。
オマエは、臣下の忠誠をさえ疑っている」
「人の心は、あてにならない。
人間は、もともと私欲のかたまりよ。
信じては、いけない」
暴君は落ち着いて呟き、ほっとため息をついた。
「私だって、平和を望んでいるの」
「何のための平和?
自分のカリスマが漏れないためか」
こんどはレミリアが嘲笑した。
「だまれ、卑しい吸血鬼が」
姫は、さっと顔をあげて言い放った。
「口では、どんなカリスマに満ちたことも言えるわ。
私には、人の腹の奥底が見え透いてならない。
オマエだって、今に磔になってから、カリスマが駄々漏れになっても聞かないわよ」
「ああ、姫は利巧ね。
自惚れているがよい。
私は、ちゃんと磔られても、カリスマを保つ覚悟でいるのに。
カリスマ乞いなど決してしない。
ただ・・・」
言いかけて、レミリアは足元に視線を落とし瞬時躊躇い、
「ただ、私にカリスマを見せ付けるつもりなら、磔までに3日間の日限を与えなさい。
たった一人の妹に、亭主を持たせてやりたいの。
3日のうちに、私は紅魔館で結婚式を挙げさせ、必ず、ここへ帰ってくる」
「ばかな」
と暴君は、鈴が鳴るような高い声で囀った。
「とんでもない嘘を言うわね。
逃がした小鳥が帰ってくるというの?」
「そう、帰ってくるのよ」
レミリアは堂々と言い張った。
「私は約束は守る。
3日間だけ許しなさい。
妹が、私の帰りを待っているわ。
・・そんなに私を信じられないのならば、この町にパチュリーという占い師がいるわ。
私の無二の友人なの。
あれを、人質としてここに置いていくわ。
3日目の夜明けまで、私がここに帰って来なかったら、あの友人を磔てやっていい。
うん、それでいこう」
それを聞いて姫は、残虐な気持ちで、そっとほくそ笑んだ。
生意気なことを言う。
どうせ帰ってこないに決まっている。
このうそつきに騙されたふりして、放してやるのもカリスマだ。
そして身代わりの魔女を、3日目に晒してやるのも気味がいい。
人はこれだから信じられぬと、私は悲しい顔をして、その身代わりの魔女を磔て辱めてやるのだ。
「その身代わりを呼ぶがよい。
3日目の夜明けまでに帰ってきなさい。
遅れたら、その身代わりを、きっと辱めるぞ。
ちょっと遅れて来るがいい。
オマエの罪は、永遠にゆるしてあげるわ」
「何を言っているの!」
「ふふ、カリスマが大事だったら、遅れてきなさい。
おまえの心は、わかっているわ」
レミリアは口惜しく、地団駄踏んだ。
永遠亭を震度3程度の地震が襲った。
パチュリーは、深夜、永遠亭に召された。
暴君輝夜の面前で、よき友とよき友は、一週間ぶりで相見えた。
レミリアは、友に一切の事情を語った。
パチュリーは無言で頷き、ハードカバーの本の角でレミリアの頭をはたく。
友と友との間は、それでよかった。
パチュリーは、縄打たれる。
エロイ縛り方だったので、
「むきゅう」
と鳴いていた。
レミリアはすぐに出発した。
満点の星が満ちていた。
レミリアが館に到着したのは、もう空が白みはじめた時刻だった。
夜行性が多い紅魔館では、メイドたちが就寝の準備を進めている。
レミリアの四百九十五の妹も、今日はもうお寝むのようだった。
よろめいて飛んでくる姉の、疲労困憊の姿を見つけて驚いている。
そうして、うるさく姉に質問を浴びせた。
「何でもないわ」
レミリアはムリに笑おうと努めた。
「町に用事を残してきたしまったわ。
またすぐ町に行かないといけないの。
そうそう、今夜、おまえの結婚式を挙げるわね。
早いほうがよいでしょう」
妹は頬を赤らめた。
「嬉しい?
綺麗な衣装も買ってきたのよ。
さぁ、これから行って、館中に伝えて来なさい。
結婚式は今夜だと」
レミリアは、メイド長の咲夜に祝宴の席を調えるように指示を出すと、間もなく深い眠りに落ちてしまった。
眼が覚めたのは夜である。
レミリアは起きてすぐ、花婿の家を訪れた。
そうして、少し事情があるから、結婚式を今夜にしてくれ、と頼んだ。
婿の魔法使いは驚き、それはいけないぜ、こちらには未だ何も支度も出来ていない、もう少し待ってくれ、と答える。
レミリアは、待つことは出来ぬ、どうか今夜にしてくれ、とさらに押して頼んだ。
婿の魔法使いも頑強だった。
なかなか承諾してくれない。
真夜中近くまで議論を続けて、やっと、どうにか婿をなだめ、すかして、説き伏せた。
結婚式は、真夜中に行われた。
いつの間にか黒雲が空を覆い、ぽつりぽつり雨が降り出し、やがて外に出るのを躊躇うほどの大雨となった。
祝宴に参加していたメイドや妖怪たちは何か不吉なものを感じたが、だだっ広い紅魔館の中で、陽気に歌をうたい新郎新婦を祝福する。
レミリアも満面に喜色を湛え、しばらくは輝夜とのあの約束をさえ忘れていた。
祝宴は、丑三つ時を越えいよいよ乱れ華やかになり、人々は、外の豪雨を全く気にしなくなった。
明日の夜明けまでには、まだ十分の時がある。
ちょっと一眠りして、それからすぐ出発しよう、とレミリアは考えた。
その頃には、雨も止んでいよう。
歓喜に酔っているらしい花嫁に近寄り、
「おめでとう。
私は疲れてしまったから、ちょっとご免こうむって眠らせてもらうわ。
眼が覚めたら、すぐに里に出かけるわ。
私がいなくても、もう優しい亭主がいるのだから、決して寂しい事はないわね。
おまえの姉の、一番きらいなものは、カリスマが駄々漏れなことと、それから、カリスマが駄々漏れることよ。
オマエも、それは、知っているね。
オマエの姉は、偉い妖怪なのだから、オマエもその誇りを持っていなさい」
花嫁は、夢見心地で頷いた。
レミリアは、それから花婿の肩をたたいて、
「支度のないのはお互い様よ。
私の家にも、宝といっては、妹と図書館だけ。
全部あげよう。
もう一つ、デーモンロードの家族になったことを誇ってくれ」
花婿はもみ手して、照れていた。
レミリアは笑って宴席から立ち去り、私室に潜り込んで死んだように深く眠った。
眼が覚めたのは、その日の夕暮れ時である。
今日は是非とも、あの姫に、人の信実の存するところを見せてやろう。
そうして笑って磔の台に上ってやる。
レミリアは、悠々と身支度をはじめた。
雨も、ほとんど止んでいる様子である。
身支度は出来た。
さて、レミリアは、ぶるんと両腕を大きく振って、
「れみりあ、うーっ!」
叫ぶと、雨中、矢のごとく走り出た。
小雨に当たった肌がひりひりと痛むが、耐えられぬほどではなかった。
私は今宵、身代わりの友を救うために走るのだ。
姫のカリスマを打ち破るために走るのだ。
走らなければならぬ。
そうして、私は磔になり、自分のカリスマを守る。
まだ500余りの若いレミリアは、つらかった。
幾度か、立ち止まりそうになった。
うーっ、うーっ、と大声を挙げて自分を叱りながら走った。
館を出て、湖上を駆け抜け、森をくぐる頃には、雨も止み、雲の隙間から月が顔をのぞかせていた。
レミリアはひたいの雨粒をこぶしで払い、ここまで来れば大丈夫、もはや紅魔館への未練はない。
妹たちはきっと良い夫婦になるだろう。
私には、いま、なんの気がかりもない筈だ。
まっすぐに永遠亭に行き着けば、それでよい。
そんなに急ぐ必要も無い。
ゆっくり歩こう、「亡き王女の為のセプテット」をレミリアは口ずさみだした。
ぶらぶらと二里行き三里行き、歩き続けた己の身に降って湧いた災難に、レミリアの足は、はたと、止まった。
見よ、前方の川を。
きのうの豪雨で山の水源地は氾濫し、どうどうとおどろおどろしい響きをあげる激流が、木っ端微塵に橋桁を跳ね飛ばしていた。
レミリアは顔をしかめ、立ち止まった。
あちこちと眺めまわすと、厄神さまがぐるぐると回転しながら上流から下流へと流れている。
「レミリアはなんで飛ぶのんー?」
厄神はレミリアへ疑問を投げかけながら、そのまま見えなくなった。
「吸血鬼だからよ」
その疑問に答えながらレミリアは濁流をひとっ飛び。
流れ水は渡れないはずだが、神に祈る暇も与えず、えいやっ、と気合で乗り越えた。
レミリアは、すぐにまた先を急いだ。
思ったよりも時間がなくなっていた。
そしてようやく峠を越えたレミリアの前に一隊のウサ耳山賊団が躍り出た。
「待ちなさい」
「何をする気?
私は陽の昇らぬうちに亭に行かなければならぬ。
どけ」
「持ち物を全部置いていけ」
「置いていくのももったいない。
どうせだから、貴女たちにあげるわ、紅符『スカーレットシュート』」
山賊たちの幾人かは、バタバタと倒れ、すぐにものも言えぬ状態になった。
残された者のひるむ隙に、さっさと飛んで峠を下った。
一気に峠を下ったが、流石に疲労し、雨水と流水の影響が今頃祟ったのか、レミリアは幾度と無くめまいを感じ、ついにがく、と膝を折った。
立ち上がることが出来なかった。
天を仰いで、悔しがった。
ああ、雨水を浴び、濁流を飛び越えて、山賊は特に問題もなく打ち倒しスカーレットデビル、ここまで突破してきたレミリアよ。
真のカリスマ、レミリアよ。
今、ここで、疲れきって動けなくなるとは情けない。
愛する友は、オマエを信じたばかりに、やがて磔にされなければならぬ。
カリスマ駄々漏れ、まさしく輝夜の思うツボだぞ、と自分を叱ってみせるのだが、全身萎えて、もはやモケーレムベンベほどにも動くことが出来ない。
路傍の草原にごろりと寝転がった。
身体疲労すれば、精神もともにやられる。
もう、どうでもいいという、カリスマには不似合いな不貞腐れた根性が、心の隅に巣食った。
私は、きっと笑われる。
私は、友を欺いた。
中途で倒れるのは、はじめから何もしないのと同じことだ。
ああ、もう、どうでもいい。
これが私の定まった運命なのかもしれない。
パチェよ、ゆるしてくれ。
私たちは、本当に良い友と友であったのだ。
一度だって、暗い疑惑の雲をお互い胸に宿したことは無かった。
いまだって、キミは私を無心に待っているだろう。
それを思えば、やりきれない。
友と友の間の信実は、この世で一番誇るべきカリスマなのだ。
パチェよ、私は走ったのだ。
だが、ああ、私は負けたのだ。
だらしがない。
こうなったら、私は、永遠に裏切者だ。
地上で最も、不名誉の人種だ。
パチェよ、私も辱められるぞ。
キミと一緒に辱められる。
キミだけは私を信じてくれるにちがい無い。
いや、それも私の、ひとりよがりか?
ああ、もういっそ、悪徳者として生き伸びてやろうか。
正義だの、信実だの、愛だの、考えてみれば、くだらない。
人を殺して自分が生きる。
それが妖怪世界の定法ではなかったか。
ああ、何もかも、ばかばかしい。
私は、醜い裏切り者だ。
どうとも、勝手にするがよい。
ふと耳に、液体が奏でる、ちゃぷん、という音が聞こえた。
そっと頭をもたげ、力の入らない手で懐をまさぐる。
いつの間にか、希少品入りの紅茶の水筒が手荷物の中に入っていた。
覚えの無いアイテムに、レミリアの頭に瀟洒なメイドの顔が浮かんで消える。
その水筒に吸い込まれるように身を屈める。
ぐい、と両手を使って水筒を傾かせ、一口呑んだ。
ほうと長いため息が出て、夢から覚めたような気がした。
歩ける。
行こう。
肉体の疲労回復と共に、わずかながら希望が生れた。
わが身を殺して、名誉を守る希望である。
夜明けまでには、まだ間がある。
私を、待っている人があるのだ。
私は、信頼に報いなければならぬ。
いまはただその一事だ。
走れ!レミリア。
私は信頼されている。
私は信頼されている。
先刻の、あの囁きは、あれは夢だ。
悪い夢だ。
レミリア、おまえの恥ではない。
やはり、おまえは真のカリスマだ。
再び立って走れるようになったではないか。
レミリアは紅い風のように走った。
少しずつ沈んでゆく月の、何十倍も早く走った。
妖精の集団とすれちがった瞬間、不吉な会話を小耳にはさんだ。
「いまごろは、あの魔法使いも、磔にかかっているよ」
ああ、その魔女、その魔女のために私は、いまこんなに走っているのだ。
その魔女を死なせてはならない。
急げ、レミリア。
おくれてはならぬ。
風態なんかは、どうでもいい。
レミリアは、いまは、ほとんど全裸体であった。
見える。
はるか向うに小さく、里の唯一の刑場が見える。
「ああ、お嬢様」
うめくような声が、風と共に聞こえた。
「誰よ」
レミリアは走りながら尋ねた。
「小悪魔でございます。
貴方のお友達、パチュリー様の使い魔でございます」
その小悪魔も、レミリアの後について走りながら叫んだ。
「もう、駄目でございます。
むだでございます。
走るのは、やめて下さい。
もう、パチュリー様をお助けになることは出来ません」
「いや、まだ陽は昇っていない」
レミリアは胸の張り裂ける思いで走り続けた。
「やめて下さい。
走るのは、やめて下さい。
あの方は、あなたを信じて居りました。
刑場に引き出されても、平気でいました。
輝夜が、さんざんあの方をからかっても、レミリアは来ます、とだけ答えておりました」
「それだから、走るのよ。
信じられているから走るの。
間に合う、間に合わぬは問題でないわ。
人の命も問題でない。
私は、なんだか、もっと恐ろしく大きいカリスマの為に走っているのよ。
ついて来なさい、小悪魔!!」
「ああ、あなたは気が狂ったか。
それでは、うんと走るがいい。
ひょっとしたら、間に合わぬものでもない。
走るがいい」
最後の死力を尽して、レミリアは走った。
空がかすかに白み始めたころ、レミリアは疾風の如く刑場に突入した。
間に合った。
「待ちなさい。
その人を殺してはいけないわ!
レミリアが帰って来たわ。
約束のとおり、いま、帰って来た!!」
すでに磔の柱が高々と立てられ、縄を打たれたパチュリーは、徐々に釣り上げられいた。
レミリアはそれを目撃して最後の勇、先刻、濁流を飛び越えたように飛びついた。
「私だ!
レミリアよ。
彼女を人質にした私は、ここにいる!」
と、叫びながら、ついに磔台に昇り、釣り上げられてゆく友の両足に、かじりついた。
ようやくパチュリーの縄は、ほどかれたのである。
「パチェ」
レミリアは眼に涙を浮べて言った。
「私を殴って。
ちから一ぱいに頬を殴って。
私は、途中で一度、悪い夢を見たわ。
パチェがもし私を殴ってくれなかったら、私はパチェと抱擁する資格さえ無いの。
殴って」
パチュリーは、すべてを察した様子でうなずき、レミリアの右頬を殴った。
殴ってから優しく微笑み、
「レミィ、私を殴って。
同じくらい音高く私の頬を殴って。
私はたった一度だけ、ちらとレミィを疑ったわ。
レミィが私を殴ってくれなければ、私はレミィと抱擁できない」
レミリアは腕にうなりをつけてパチュリーの頬を殴った。
パチュリーが刑場の端まで吹き飛んだ。
「ありがとう、友よ」
レミリアは言い、ひしと抱き合ったが、パチュリーは気絶していた。
暴君輝夜は、まじまじと二人を見つめていたが、顔をあからめて、こう言った。
「貴女たちは、私の心に勝ったのね。
信実とは、決して空虚な妄想ではなかった。
どうか、私も仲間に入れてくれてほしい」
ひとりの少女が、紅のマントをレミリアに捧げた。
レミリアは、まごついた。
目覚めた友は、気をきかせて教えてやった。
「レミィ、貴女は、まっぱだかよ。
早くそのマントを着た方がいいわ。
この可愛い娘さんは、レミィの裸体を、皆に見られるのが、たまらなく口惜しいのね」
カリスマは、ひどく赤面した。
キャラ的にはレミリアとパチュリーは親友同士だからこういうことがあっても
問題ないかなぁ・・・とは思いますけどね。(苦笑)
ちょっとシメが緩すぎたのかもしれないです。
決して悪い作品ではありませんでした。
パロディとしてはなかなか良作であったと思います。
いつのまにか殺されることになってるし(世間的にという意味かもしれないけど)
下着はもともと無いんじゃないかと
後半、パチュリーが気絶する以外がほとんどそのままなのがちょっと