Coolier - 新生・東方創想話

ごぉすとカラー ごぉすとバカンス

2008/09/11 06:03:38
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※このお話は、忍ともかんとも時期を外しています。あらかじめご了承ください。











曇天。

ここ数日続いた猛暑は、幻想郷に住む多くの人妖にとって忌み嫌われるものとなっていた。
人里では、容赦なく照りつける日差しに倒れる者が続出、日照りによる作物への影響も心配された。
また、人外のモノにとっても暑いのは同じらしく、悩み知らずの氷精も夏バテに悩まされっぱなしだという。

そんなこともあって、今日の涼しさは彼女にとっても有難いものになる…はずだったのだが。当の彼女はというと、

「…うぇ~」

専ら嘆いていた。











~ごぉすとカラー ごぉすとバカンス~









穏やかな曇り空の下、大きな樫の木に寄り掛かって空を仰ぐ。
広がる雲がモヤモヤした今の気持ちを投影しているようで、リリカは少しアンニュイになった。

「なんだかなぁ」

事の始まりは「大掃除をしよう」というルナサの一言。
最近の多忙っぷりもあって、プリズムリバー邸はいつになく散らかっていた。
洗濯物や食器は放ったらかし、書きかけの譜面も散乱し放題という生真面目な長女には有るまじき体たらくだ。
そこで、涼しいうちに家の中を片付けてしまおうという事になったのだが、今日はリリカにしても久し振りのお休みだったのだ。
音集めに人里でショッピング、姉遊び、姉いじり、姉いじめ等々やりたいことが山ほどあったというのに、大分予定を狂わされてしまった。
しかも、それだけならまだ良かったのだが。

「大体、メル姉が悪いんだっ。わけ分かんないんだからさー」

事件はメルランによって引き起こされた。
大掃除などという苦行の最中、こともあろうかリリカ大のお気に入りである、クマさんの縫いぐるみ(XL)を捨てようとしたのだ。
機嫌の悪さも災いしてか、これにはリリカも憤慨してしまう。
引こうとしないメルランと口論になった挙句、家を飛び出してきてしまった。

そういう訳でリリカは今、クマさんを抱きながら木に寄りかかって「うぇ~」するという大変妙な状況になっている。
ちなみにヌイグルミに隠れてよく見えない。

「こんな可愛い子を捨てようとするなんてどうかしてるよ。ねー、熊っ八?」

熊っ八の頭を撫でながらブー垂れてはみたものの、一向に気分が晴れない。
姉と喧嘩別れをした後といえば、いつもこんな様子だった。



気分を変えようと、立ち上がってひと伸びしてみる。
シンとした辺りの空気も、鬱いだ心境には丁度いいくらい。
欠伸と一緒に出た涙を拭いながら、もうひと伸びしていると大分頭も冷えてきたような気が…しないでもない。

「あーあ。なーんか、らしくなかったかなぁ。
…まあ、ルナ姉がフォロー入れてくれてそうだし、そろそろ戻ってもいいかなー、なーんて」

ちらりと熊っ八を見やってみるけど、パチクリと純粋そうな目で見返してくるだけ。この薄情者ー。

「ちくしょー、冴えない! 冴えない! 冴えないよ、わたしー。
こんな調子じゃあ、天下無双のプリズムリバー三姉妹、計略担当の名が泣くってもんですよー?」

適当な冗談で気分を紛らわそうとしても、こんがらがった頭はちっとも冴えてきやしない。
どこかに、おいしい策でも落ちてないかなぁ?

もう一度、空を見つめる。
困った時の直感頼みね。相変わらず雲ばかりの空だけど、気分が変われば感じ方も変わるってもの。
こうやって思いのままに流されていくのも、たまには良いかな、と思う。

…ふと、視界の端に光るものを見つける。よくよく見れば、雲の合間に空が少し覗いただけ。
こんなに沢山の雲に隠れていても、空はいつでも青いまんま。
冷たくて静かな、何でも穏やかに包み込んでしまう、ルナ姉みたいな色。

「青、かぁ…」

そういえば、最近どこかでやったら青いもの見た気がする。なんだっけ?
メル姉の発明したブルーカレー…は違うか。アレはむしろ、どどめ色って感じだもん。

「うーん。青、青………あ。」

そうだ、この前、書庫で楽譜本あさってた時だ。
探し物してる時って、意外な物が見つかったりして、ついつい関係ないことに興味がいっちゃうんだよね。
うちの書庫も、紅魔のお屋敷の図書館には全然及ばないにしろ、そこそこ貯蔵量はあるし。
で、その時見つけたのが、外の世界についての本で、青くて大きな水たまりの絵が挿入ってたんだ。
確かテーマが、

「うみ? うん、海。…海っ、これだ!」

キュピーンと閃いた。
その本によると、暑い季節になると、あっちの人はみんな海とかいう所に行って遊ぶらしい。
だったら、私たちも海、行こうじゃないの!楽しいことしてれば、メル姉の機嫌もきっと良くなるわ。
というか、ホントは私が興味あるからなんだけど。

思い立ったら、即行動!が私の信条。
本の内容を頭から引っ張り出す。記憶力には、ちょっと自信がある。
アレやコレやと、計画を立てていく。やることが決まったら、後は準備!結構、色々と要りようだね、こりゃ。
…あ、お金、持ってきてないや。

「…まぁ、何とかなるっしょ。それじゃ、行動開始だー!」



善は急げ、とばかりに、あっという間に空の彼方へ消えていく。
騒霊、リリカ・プリズムリバーは一人でもやはり騒がしいのだった。







         ***







「…メルラン、大丈夫?」

ノックの後に聞こえたのは、姉さんの静かな声。
リリカと喧嘩別れした後、わたしは一人、部屋でふてくされていた。
自分でも、ちょっと子供っぽいかな?って思うけど、いまひとつテンション上がらなかったんだからしょうがない。

姉さんを放っておくのもアレだし、取りあえず出ようかな。
なんだか、お腹も空いてきちゃった。

………………。

「あ。」

二階からロビーに降りて、開口一番に間の抜けた声を出してしてしまう。
う、うわ~、完璧に忘れてたわ…。

プリズムリバー亭は、メルランが拗ねている間に、知らない人のお屋敷に変わっていた。
もっと分かりやすく言えば、家の中はすっきりさっぱり綺麗に片付いていた。

「あ、あの~」
「……大変だったよ。埃で目は痒いし、屋敷は広いし」

ご、ごめんなさーいっ。





応接間。指定席の、巻き巻き装飾付き椅子に座る。
改めて周りを見渡してみても、一目で違うと分かるサッパリ具合。
ポルターガイストの能力があるとはいえ、これを全部一人でやっちゃった、っていうんだから驚き。
わたしだったら、絶対に途中で投げちゃうもの。

「もう落ち着いたの?」

残りを片付け終えた姉さんが、少し遅れてやってきた。

「まだ全然ノッてこないわ~。美味しいお料理食べたら回復するかもね~」
「大丈夫そうね」

「杞憂だった…」と溜息をついて、さも呆れたって感じの、糸目。
何だかんだ言ってても、姉さんは本当に怒ってたわけじゃないの。
自分の苦労も鼻にかけずに、わたしやリリカのことを第一に考えて、心配してくれる。とっても優しい姉さん。

「…それで、どうして捨てようとしたの?」
「ふぇ? 何を?」
「いや、クマのヌイグルミ。確か、リリカのお気に入りなんでしょ?」
「あぁ。それはね…、っていうか聞いてたんなら止めてくれればよかったのに~」
「あなたたちが始めた喧嘩でしょう。
 それに、私はリリカが脇目も振らずに出て行くところを見ただけよ。大きなクマさん抱えてね」

うーむ、さすがは姉さん。観察眼が鋭いわね~。

それから、わたしなりの事情を話していく。
熊っぱ…なんたらを捨てようとしたのも、初めはほんの冗談のつもりだった。
リリカが、あれを大切にしてたのも知っていたし。
でも、思ってたよりも、あの子怒らせちゃったみたいで。
あんまり執拗に怒鳴ってくるものだから、わたしの方もつい意地になっちゃったの。
それで、結局どっちも引っ込みがつかなくなって、大喧嘩。

「…それは、あなたが悪い」と、糸目で姉さん。「逆ギレじゃないの、ほとんど」
「むぅ、分かってるわよ~…。わたしが大人げなかったとは思うけど。でも…」
「でも?」

そう、聞いて!リリカったらヒドイのよ~。「メル姉のぐるぐる趣味のほうが意味分かんないしっ!」とか言って。
わたしはともかく、ぐるぐるを侮辱するのは、いくら血を分けた(?)姉妹だろうと許せないわ!
全国六百万人の、ぐるぐる愛好家のみなさんに向けた、謝罪会見を開きなさーい!

…あれ、どうしたの姉さん、そんなに脱力しちゃって。
そんな陰鬱な調子じゃ駄目よ~、あははっ!





「…で、要するに、二人とも意地張り合ってただけで、特別に深い理由があったわけじゃないんだね」
「ん、多分そんな感じだったと思う。…ありがとっ」

――まぁ、心配いらないわね。

コーヒーを淹れてあげながら、ルナサは内心、安堵した。
これが引き金になって、姉妹の間に溝を生み出してしまうようなことがあるならば、と色々聞いてはみたものの。
何のことはない、いつもの痴話喧嘩が少しばかりエスカレートしてしまっただけのことだ。
リリカも、その内けろっとした顔で戻ってくるだろう。
一見、人を喰ったような性格の妹も、その内には、自分では到底持ち得ない程の逞しさを具えているということをルナサは知っていた。

「…あの子自身は、それに気付いていないみたいだけど」
「……? 何か言った?」
「あ、いや、何でも」

目の前で、ホッとした顔でコーヒー(ミルク入れすぎよ…)を飲んでいるメルランにしても同じ。
いつも滅茶苦茶やってるようだけど、彼女は彼女なりに考えてくれているようだし、いざとなれば頼りになる子だ。
姉として、妹たちの成長は純粋に嬉しかった。

安心したところで、自分も一口。
うん、美味しい。やっぱりコーヒーはブラックが一番ね。

「…ぷっ! ね、姉さん、その糸目癖なんとかならないの? おかしいわ~」
「え…? そ、そんなこと言われても…。これは生まれつきというか…」

突然、自分の話になって焦ってしまう。

「ほらまたぁ。わたしに任せてちょうだい!ほ~ら、パッチリパッチリぃ~」
「こ、こら、メルランっ。やめろっ!」

無理矢理、開眼しようとしてくるメルラン。
い、痛っ! 頬を掴むな、頬を!

やっとの思いでメルランを引っぺがしながらも、本当に成長してくれているのだろうか…、と心配になるルナサであった。

「もー、別に恥ずかしがらなくたって良いじゃないのよ~!」
「…あなたねぇ。…はぁ、やっぱりいい」

大掃除のつかれが、ここにきて一気に出た気がする…。
取りあえず、気を取り直して、もう一口。
今度は、目を細めてしまわないように慎重に…、

「URRRYYYYY! 姉さんたちー! 海水浴するよ、かーいーすーいーよーくーーーーー!!」

ぶふっ…! ごほっ、ごほっ!こ、今度は何よ……。







         ***







何事もない、平和な幻想郷の風景。
少しばかり刺激は足りない気もするが、のどかな天候のもと、安寧な時間が過ぎていく。

そんな中、やたら騒がしい騒霊が数名、気ぜわしく飛んでいく。
その周りには、大小、何やら様々な荷物が浮かんでいる。

「ルナ姉ー、ちゃんと鉄板持ってきてくれたー?」
「持ってきた、けど…。何に使うつもりなの」
「何にって…焼くために決まってるじゃん。それ以外に使い道ないっしょ」
「だ、だから、そういう意味じゃなくて…」
「この際細かいことは気にしないでおきましょうよ!わたしは、楽しそうな事ならなんだって良いわ~」

と、呑気にメルラン。
リリカに持たされた大きなスイカが、豊満な胸に押されて窮屈そうだ。ルナサの鬱度は上がる。

「お?さっすがメル姉だ、話が分かるね。いえーい!」
「えへへ~。いえーい!」
「…………」

元気にハイタッチを交す二人。
ルナサとしては、あなたたち喧嘩してたんじゃないのか、とでも言ってやりたかったが、自分が疲れるだけだろうから止めておく。

「ところで、海ってなぁに? 美味しいの?」

知らないで喜んでたのか。

「ちょい待ち。えっとねぇ……そうそう、こんな感じだよ」

質問が来るのを予測していたのか、小脇に抱えていた古びた本をめくって、一枚の項を開く。
そこには、砂の陸地に沿って、どこまでも続く大きな湖のようなものが描かれていた。
いくつかの説明も添えられている。

「へぇー、綺麗だね!」
「でしょ。あっちでは、暑い時には良く海へ行ってカイスイヨクをするんだってさ」

日ごろ、好んで本を読んでいるルナサとしても、海に関する知識が全く無いわけではなかった。
その海でする遊びの一つに、「西瓜割り」なるものがあることも知っている。
あのメルランの……胸に挟まれたスイカは、そのためのものなのだろう。
…しかし、それにしても一つ、大きな問題がある。

「……リリカ。あっちにはあっても、こっちには無いじゃないの、海」
「へ…? やだなぁ。メル姉じゃあるまいし、そんなこと分かってるって」

私に任しときなさーい、と手をヒラヒラ。
うーむ…。いささか心配ではあるが、何か考えがあるようだし、多分問題ないだろう。
計画とか作戦だとか、そういうのはリリカの大の得意分野だし。

「それよか姉さんたち、お昼はもう食べちゃったの?」
「あ~。言われてみれば、朝から何も食べてなかったかも。大掃除してたし」
「あなたは…というか、あなたたちは全然働いてないじゃないの。大体、いっつもいつもこうなんだから…」

すかさずツッコミをいれながら、自分もかなりお腹がすいていることに気付く。
時刻は既に昼時を大きく過ぎてしまっていた。

「あ、あっはは。ゴメンってば、ルナ姉~」

と、悪びれずに言うが、毎回こんな感じではルナサにとってはお手上げ状態だ。

「…もう、いいわよ。それよりどうするの?人里にでも寄って、何か食べてからにする?」
「はいはーい! わたしはねー…おうどん食べたいわ~、久しぶりに~」
「んにゃ、その必要はないよ。あっちで作って、食べるつもりだから。食材もちゃんと調達してきたわ」
「…手際、いいね」
「へっへー、それほどでも…あるけどね~!」
「あるけどね~♪」

リリカと一緒になって、何故かメルランまで胸を張る。
呆れつつも、その様子がおかしくて、つい笑ってしまった。

「ふふ…全く、調子いいんだから、二人とも…」

…まぁ、せっかくの姉妹揃っての休日なのだし。
きっかけはどうあれ、いつも姉任せのリリカがここまで準備してくれたのだ。
少しくらい羽目を外したって、誰も文句は言わないだろう。

妹たちに悟られぬよう、密かに心弾ませた。







          ***







「それでね、姉さん。ぐるぐるには国宝級の価値があると思うのよっ。
 なぜなら、あれは言葉では到底言い表せないほどの、ぐるぐるぽっぽ鳩ぽっぽっぽぽっめるめるPO!
 そして、ぐるぐるをかぶった時、その人は人間を超越する事ができるのっ! そもそも石k………」

「お? 見えてきたよ! アレアレ!」
「え、どれどれ~?」
「(助かった)…あれは」

屋敷を出てから、数十分。
リリカの指し示す方向にあったのは、どうやら湖のようだ。
遠目には良く分からないが、木々の緑もしばしば見える。

「こんな所に湖があったなんて」
「うん、私も最近見つけたんだ。音集めでふらふら~っとしてたらね」
「でもでも、あれってどう見てもただの湖よね? 海っていうのはもっとも~っと広いハズでしょ?」
「そだね。海水浴っていうより、湖水浴が正しいか」
「え~!? じゃあ、海はお預けってこと? そんないい加減な~」
「…無いものを望んだところで仕方ないわ。湖でも、似たようなことくらいはできるのでしょう?」
「まぁ、概ね大丈夫だと思うよ。
 それに! きっと二人が思ってる以上に素敵な場所なんだから!
 少なくとも、お姉様方に御満足いただけるようなプランを用意したつもりでごぜーますよ?」
「ふむふむぅ。苦しゅうない、苦しうないぞよ!しからば、早速案内いたせー」

はやくもテンションが上がってきた様子のメルランに苦笑しながら、ルナサも後に続く。
雲の合間に青空が見える。さっきよりは晴れてきただろうか。





名も無い川の下流に位置する、名も無い湖。
大きさは、霧の湖よりも一回りほど小さい程度といったところか。
厳か、といった情緒だった湖も、賑やかな三人娘の登場で少し華やいだような雰囲気を帯びた。

「はい、三名様ご到着ね。おつかれさま」
「あらあら?これから目一杯遊ぶんだから疲れてなんかいられないわよ?」
「はは、頼もしいねぇ」

拠点の位置は決めてあるらしいので、まずはリリカ指定の場所に移動することになった。
雑草の生い茂るエリアから湖の上に出る。

一度近づいてみれば、湖は目もあやな一つの芸術品のような輝きを見せていた。
水はエメラルドの澄んだ色をしていて、底まで見通せてしまるほどの透明感。
淡い陽の光に反射して、その姿をとりどりに変え続けている。
その見たことの無いような美景に、メルランも思わず声をあげてはしゃいでしまう。
さらに周りを見渡せば、湖畔林に囲まれた自然の遊歩道が見える。散歩をしたら楽しそうだ、とルナサは思った。

そうこうしているうちに、さほど広くない湖の向こう端が見えてきた。
こちらは一見すると、点々と木が生えているだけで緑の少ない殺伐とした感じを受けたのだが、

「「あっ!」」

姉二人で、見事にハモってしまう。
荒涼として見えたそこは、湖に沿って続く砂地だった。
まさに本にあった通りの、砂浜そっくりの湖岸が広がっていたのだ。
拠点というのはどうやらここのことらしい。
早速降りて、砂の感触を確かめてみる。

「ひゃあ! す、すごいわね~。油断してたら足とられちゃいそうよ」
「そうだね。私もこれは…っとと、初めての体験だよ」

おぼつかない足取りで砂浜を歩いてみると、サラサラとした砂に微かに足跡が残った。
熱くはないものの、慣れるまでに時間がかかりそうだ。

「これこれーい、興味津津なのは分かるけど、先にこれ組み立てちゃってよね」

そう言ってリリカが雑多な荷物の中から取り出したのは、やや大きめの傘と土台のセット。
簡素な折りたたみ式の椅子と、シートもそれぞれに用意してある。

「んーと、日よけ用の日傘かしら?」
「そんなに日は差していないし、必要無い気もするけど」
「ルナ姉ってば、全然分かってないなー。こういうのは雰囲気作りが大事なんだって。
 要は気持ちの問題だよ。さ、分かったらとっとと準備しちゃいな!」
「……うーん」

何か釈然としないが、取りあえず言われるがままにパラソルを組み立て始める二人。リリカは指示係。
土台のタンク部に水を入れて重しにする。水はすぐ傍に豊富にある。
二人掛かりで運んできたら、土台に傘の部分を取り付けて、高さを調節する。
椅子とシートも広げて準備完了。

「…できた」
「これだけでいいの?」
「おけおけ。後はその都度用意すればいいよ」

ここでゴホン、と咳ばらいを一つ。

「…えー、それでは改めまして。ここに第一回虹川一家、大湖水浴大会の開催を宣言しまーす。
 わー、ぱちぱちぱち。ではでは皆様、お手を拝借」
「…何、ソレ」
「だー、もう! 私一人で馬鹿みたいじゃんかー! もういいよーだっ。はいはい、傘も広げて、開幕かいまくー!」
「…???」
「あははー、いきなりグダグダね~」

水色の可愛らしい模様が入ったパラソルが花を咲かせ、明るい空気を一層引き立てる。
泣く霊も黙る音楽一家、プリズムリバー姉妹の騒がしい湖水浴が始まった。





「リ、リリカ。これはちょっと恥ずかしい…っていうか、私には似合わないっていうか、その…」
「そんなこと無いって!めちゃめちゃ可愛いじゃないわよ、お・ね・え・さ・ま♪」
「あうう…」

別に姉妹同士なんだし、そんなに恥ずかしがらなくたって良いのに、といつになく焦りまくる長姉を見ながらリリカは思った。

件の本によると、海水浴において最も大切な要素の一つが…水着である。
何でも、魅力的な水着を着た魅力的な女性の前には、世のあらゆる野郎どもは全くの無力であり、そもそも…(以下略)ということらしい。
まあ、その云々はどうでも良かったのだが、そこはリリカも女の子。かわいい水着を着てみたいと思う気持ちはリリカにもあった。
そこで、手先の器用な人形師に頼み込んで、それぞれの水着を仕立ててもらうことにした。
まあ水着なんて作ったことも無いだろうし、自分の分だけでもできれば儲け物、くらいに思っていたのだが…。
できるかどうか分からないわよ、と言いつつも、僅か数時間で三人分の、しかもサイズまで伝えた通りに完璧に完成させてしまったのだ。
その人間離れした(人間では無いらしいが)職人技に、リリカはただただ感心するばかりだった。

…と、こういう塩梅である。
ルナサはいつもの楽士の服装ではなく、オーダーメイドの水着を着せられていたのだった。
おしゃれなタンキニタイプの上下。肩から背中にかけて大きく露出させたトップにフレアスカート、胸元のフリルが可愛らしい。
色はイメージに合わせてか、紫黒色。少々地味目な色づかいが、ルナサの大人びた魅力をより引きだしていた。

「それは…あなたは元気娘だし、そういうの似合うから素敵だと思うけど…。私は…」
「大丈夫だってば! 姉さんのと私のとじゃ、そもそもデザインが違うじゃん。似合ってるし、大人カワイイよ!」

かくいうリリカも、もちろん水着姿だ。
リリカのものは、ひらひらスカートのAラインワンピース。
普段はキュロットをはいているだけに、新鮮な感じだ。
明るい青を基調とした花柄模様がプリントされていて、爽やかさと一緒にリリカの元気な子供らしさがよく出ている。
リリカも一目で気に入ってしまった。

「えっへへぇ、いいなー、かわいいなー。これだけでも来た甲斐あったってものだよ~」
「うぅ…ところで、メルランは? あの子にも渡したんでしょう?」
「そりゃ、モチロン。ふっふふ、きっと驚くと思うよ?」

当然ながら、メルランの水着がどんなものかは知っていた。
それが、ある意味自分のものより楽しみであったことも。

「噂をすれば何とやらっ! お着換え完了したわよ~」

着替え用に張った簡単なテントから、楽しげな声がする。
どうやら気に入ってくれたようだ。

「…えっとー、もう出てきてもいいの?」
「ん、いいよ」
「………」
「じゃあ、行くわよ。えいっ」
「…!!」
「おおっ!」
「じゃじゃーん。えへへ。どう、かな?」

現れたのは巨大な双丘…もとい、大胆にもビキニに身を包んだメルランだ。
紐を背中側に結わえたシンプルな三角ビキニ、ボトムはパンツタイプで、どちらも白の生地にカラフルな水玉模様。
健康的かつ色白の肌はもちろん、圧倒的な存在感を持つ“ソレ”が惜しげもなく強調されている。

「すごい可愛いよ、メル姉! 似合う似合うっ。まあ、上半身のソレに嫉妬心が浮かばないこともないけど」
「そうかしら? 嬉しいわ~」
「…ちぇー、嫌味がきかないんだから。ほら、ルナ姉も」
「………」
「…? ルナ姉、どしたの?」
「大丈夫?」
「………っぽい…」
「「へ?」」
「メルラン、私なんかよりもずっと大人っぽい…。うう…」

ここでようやく、しまったと気付く。ルナサがいる所での胸の話は禁物なのだ。
オマケにメルランは今、ビキニ姿である。
ルナサよりは背も高く、しなやかな肢体をさらす彼女には、確かに大人なオーラがあった。
実際、リリカにしてみても今、どちらが姉っぽく見える?と聞かれたら、メル姉と答えてしまうだろう。
運命とは時として、まっこと残酷なものである。

「ちょっとちょっと、何も泣かなくたっていいじゃん!? ルナ姉だって凄く綺麗だってば!」
「そ、そうよ姉さん! 人には、それぞれ違った良さってものがあるのよ!
 それに、年長者らしくない姉さんっていうのも、可愛いくってわたしは好きよ~?」
「メ、メル姉、それ逆効果だから!」

メルランの余計な一言で、ルナサはいよいよ体操座りモードに突入してしまう。
こうなるとリリカでも立ち直らせるのは困難だ。
仕方がない、回復を待つより他にないだろう。

――でも、かわいいって言われて落ち込むなんて贅沢な話だよねぇ。

そんなことを思いながら、意識はすでに泳ぐことに行きつつあるリリカであった。





そっと、湖の中につまさきを入れてみる。
足先からヒンヤリと伝わってくる冷たさに、メルランは小さく身体を震わせた。

「いけそう?」
「うんっ。…入ってみるね」

ゆっくりと水に浸かっていく。と同時に、こんな簡単なことに真剣になっている自分が少しおかしかった。
次第に体を沈み込ませ、横の体勢になって肩まで浸かるころには、初めに感じた冷たさはどこかに消えてしまっていた。
そのまま、仰向けに体を反回転。
手を広げてみるとフワフワして、空に浮かんでいるみたいだ。めるぽ風船。
その思いのほかの心地よさに、思わず、ほわぁと顔を緩ませてしまう。

「ふぁ~ぁ~。とっても気持ちいいわぁ~」
「…あー、もう! メル姉ったらホントに気持ちよさそうなんだから! よーし、私も入っちゃうよ!」

リリカも我慢しきれない様子だ。
足を付けた瞬間はビクッとしたが、すぐにチャプンと全身から飛び込んだ。
深さは無いから、小さいリリカでも安全だろう。
…口にしたら怒られるから言わないけど。

「ふむ、意外と冷たすぎなくて快適かも」
「でしょでしょ! ぶいっ」
「何でメル姉が偉そうにしてんのさ」

体を慣らしながら、しばらく水の感触を楽しむ。
両の手ですくって、こぼして、すくって、こぼして、またまたすくって…、

「…楽しそうだね」
「んぅ? 楽しいわよ~。ずっとこうやってても飽きないかも」
「うぇ~、私が飽きちゃうって。…それよりさぁ。競争、しない?」
「きょーそー?」
「そ、競争」

人差し指をぴんとたてて、得意げな顔。

「息止め競争。長く潜ってたほうが勝ち。罰ゲーム付き」
「あ、それ面白そう。罰ゲームって?」
「ふふん。ズバリ!お昼の準備係、でどうよ?」

お昼と聞いてハッとした。
ウキウキ気分ですっかり忘れていたが、今日はまだ何も食べていない。
付け加えると、メルランはさりげなく大食騒霊娘なのだった。
彼女にとって美味しいゴハンは、家族とぐるぐるの次くらいに大事なものだ。
この際、音楽のことはさておく。

「分かったわ。いい加減お腹空いてきちゃったし、ササッ!って勝って、ささっと素敵なランチタイムよ~!」
「そうこなくっちゃ! 待ったなしの一本勝負でいいね」
「おっけ~、やったるわ~」

腕をグルグル振りまわして気合いを入れる。
こういうのはやる気と根性と食にかける情熱が重要なのだ。

「それじゃあ、せーのせで始めるよ」

気合いを入れたら大きく一息。準備は万端いつでもオーケー。

「…いっせーのー、せっ!」

目をつむって勢いよく潜水開始!



「…ぷはっ!! ったぁ~、ごほっ!」

…完全なミスだった。
腹ぺこの体に気合いを入れたまでは良かった。
しかし、そのままの勢いで潜りにいったことがいけなかった。
勢いよく水に入ったせいで、思い切り鼻に水が入ってきてしまったのだ。
ツンと鼻をさす痛みに、たまらず水から飛び出してしまった。
記録0秒。

「いったぁい。もぅ…、げほっ」

リリカは気付かずに潜ったまま。
透き通った水の中、固く目をつむって鼻はしっかりつまんでいるようだ。
今からこっそり潜ればバレないかもしれないが、ズルしてまで勝ってもハッピーじゃない気がした。

「…あーあ、今日はわたしが当番かぁ」

立ち上がって、うん、と伸びる。
腰の辺りまで水に浸かりながら、空を見上げてみると中々気持ちが良かった。
雲間から差した日ざしが眩しくて、少しだけ顔を歪ませた。

ふと、砂浜の方を見てみると、姉さんはまだ立ち直れていないようで、相変わらずの体操座り。
鬱気味なのはいつものことだが、自分にも原因があることを思うと心が痛む。
何より、せっかく遊びにきて楽しめていないというのは可哀想だった。
ダウナー担当とはいえ、ルナサも騒霊。楽しいことが嫌いなわけはないのだ。

「う~ん」
「……うりゃ!」
「ひゃわ!?」

考え事をしていたら、いきなり後ろから水をぶっかけられた。
振り向けば、満面の悪戯っ子スマイルを浮かべたリリカ。

「な、何よ~」
「それはこっちのセリフだよ。私の勝ちみたいだけどいいの? ルナ姉みたいに、ぼーっとしちゃってさぁ」
「えーとぉ、その姉さんのことなんだけどね…」
「ん?」

砂浜を指さしたら、リリカも察してくれたようだ。

「まだうじうじしてんの? っとに、しょうがない姉さんね」
「ねぇ、何とかしてあげられないかしら?」
「うーん、そうだねぇ…」

顎に手を添えて考える仕草。
性格や容姿はあまり似てない姉妹だけど、細めた目と何とも言えない微妙な表情は姉さんそっくりだな、とか思った。

「…あ、それならこうしようか」





―――シャー。ジュー。

麺の焼ける音を聞きながら、ルナサはぼんやりと虚空を仰いだ。
魔法で出した火にあたっているせいか、額にはうっすらと汗が浮かんでいる。

「…ふぅ」

面倒くさそうに汗を拭う。
熱っされた鉄板の上には麺の他にも豚肉、にんじん、ピーマンが踊る。
かたわらには青のり、紅生姜、ソース。
いわゆる、焼きそばとかいう料理の材料だ。

いじけているところにリリカが慌ててやってきたのは、つい先刻の話。
何事かと聞いてみれば、メルランが空腹のあまりξ・∀・)になりかけているというのだ。
このままではガッされかねない。すぐに焼きそばを三人…いや、四人前作ってちょうだい!…と頼まれた。
正直さっぱり意味が分からなかったし、何で焼きそば?と疑問に思ったりはしたのだが。
お昼を食べさせないのも可哀想だったので、早速昼食作りに取り掛かった。

「ソース、ソース」

ソースを絡ませながら炒めていく。
一気に香ばしい香りが広がってきて、大変食欲をそそられた。
すきっ腹に染みるとはこのことだろうか。
ともかく、もう少しでルナサ特製ソース焼きそばの完成だ。

気が抜けたところで、ふと自分の格好が気になり始めた。
水着で焼きそば作りなんて、恐らく幻想郷でも初の試みだろう。
これはレアな経験をしたわね…などと、くだらないことを考えてしまったことが恥ずかしくてセルフ赤面。
何だかんだで、ルナサも結構気に入っていたのだ。

湖からは妹たちのはしゃぎ声。
水をばしゃばしゃ掛け合って遊んでいるようで、メルラン自慢のヘアースタイルは見る影もなくなっていた。
朝の喧嘩もどこふく風とばかりに、仲のいい姿は見ていて微笑ましい。
…しかし、空腹のあまり云々はどこへいったのか、と思わず疑いたくなる元気さだ。

――また、騙されたかも。

どれだけ意識しても、結局最後は騙される、というのはルナサにはよくあることだった。
素直と言えば聞こえはいいが、騙される側としては案外たまったものではない。
そのおかげで、割と損をしてきたという感覚はルナサにもあった。
とはいえ、頑張って意識しても駄目なのだから、そう簡単に治るものでもないのだろう。
しばらくの間、自分の単純さに頭を抱える。

…と、バチバチと妙に耳障りな音。
そういえば、何か忘れている気が…。

「…あっ!?」

気づいた頃には、時すでに遅し。
焼きそばからは何やら焦げたような匂いが…というか明らかに焦がした。
急いで火を消して、菜箸で裏をつついてみると案の定、見るも無残なまっ黒な炭がこびりついていた。

「…新料理、焼きすぎそば…はさすがに無理がある、か」

はぁ、と重い溜息。
つくづく自分の情けなさには嫌気がさす。
しかも、これをネタにしてほぼ確実にリリカに弄られるであろうことを思うと…。
またもや塞ぎ込んでしまいたくなるような思いだった。





「ルナ姉ってば、いつもぼんやりしてるからこうなるんだよ。これじゃ焼きすぎそばじゃん!」
「あの…別にぼんやりしてたわけじゃ…」
「問答無用!」
「あぅ…。ご、ごめんなさい…」

純白が眩しいシートの上、仲良く麺をすする横文字の住人たち。
傍から見たら何事かと思うような違和感のある光景だ。

「ま、まあまあ。そんなに怒らなくたっていいじゃないの。焦げた所も、これはこれで結構おいしいわよ~?」

異常な量の紅生姜が乗せられた焼きそばを片手に、メルランが珍しくフォローを入れた。
一人のミスは全員でカバーする、これがプリズムリバー流のやり方だった。
よって、三人の紙皿の上には、均等に焦げそばが取り分けられていた。

「あのねぇ、甘やかすのはルナ姉のためになんないの。
 悪いことをしたら、ちゃんと反省して次に生かすことが大事なのよ。でしょ、ルナ姉?」
「う、うん」
「え~? リリカ、反省なんてしたことなんかあったかしら~?」
「うっさいなー。それとこれとは話が別なの!」

文句を垂れつつ、焦げそばを一口。
割りばしの扱いが少しぎこちない。

「別かしらぁ?」
「別なの! ともかく、ルナ姉には相応の罰を受けてもらうことにするわ」
「ば、罰!?」
「当たり前でしょ。それが長女としてのケジメってものだよ」
「う、ケジ…。…分かった」
「ちょっとリリカ! さすがにやりすぎよ!」
「…ありがとう、メルラン。でも、責任はちゃんととらないとダメだから」
「もぅ、姉さんったら素直すぎるわ。もっと自分の意思ってものを尊重しないと!」
「心配無用だってメル姉。私だって鬼じゃないんだから、不快に思うようなことはさせないよ。
 ただ、少しばかり今日のリゾート気分に興趣を添えてあげるだけの話。…ルナ姉、ちょっと耳貸して」
「…? うん」

ごにょごにょと耳打ちするリリカ。
メルランにしてみれば、仲間外れにされたみたいで少し気分が悪い。

「…あー、………」
「ね。別にどうってことないっしょ?」
「そう、ね」

と、妙に納得したような様子。

「え? なになに? 何なの?」
「へっへぇ~。まだ秘密、だからね。それじゃ、私はもうひと泳ぎしてくるよっ!」
「あっ、ちょっとぉ!」

じゃねー、と手を振って、さっさと湖へかけ出していってしまった。
いつの間にか、リリカの皿は空になっている。

「一体全体何だっていうのよ~」
「はは…、どうにも敵わないわね、あの子には」
「ちっともおかしくな~い! って、それより姉さん、罰って何? 何をしろって!?」
「え? それはちょっと…。秘密って言われたし」
「こっそり教えたってバレやしないわ! それに、無茶苦茶してるのはリリカの方なんだから」
「うーん…」

それでも渋い顔を見せるルナサ。基本的に、何に関しても生真面目なのだ。
それが身内の間の、他愛のない約束事程度であったとしても。

「…ごめん。やっぱり約束は約束だから」
「うー…。わたしだけ仲間外れなの~?」
「そういうわけじゃないわ。内緒にしておいた方があなたの楽しみが増えるから、なんだと思う」
「わたしの楽しみ?」

しかし、そうは言われてもメルランには何のことだかさっぱり分からない。
寧ろ、リリカの内緒話とやらに付き合っても、碌な目に遭ったことがないのだから。

「でもねぇ」
「大丈夫よ。私だって考えてるわ。
 それとも、姉さんのこと信用できない? そんなに頼りない姉だったかしら?」
「え~、それってずる~い」
「はは、ごめんごめん。だけど本当に大丈夫だから。
 それに、まるでリリカが凄い悪人みたいに言ったら可哀想でしょう。妹を信用してあげるのも、姉として必要なことだよ?」
「………」

メルランとて喧嘩はよくすれど、リリカのはしっこさを心から嫌いになったことなんて一度もないし、それがあの子の魅力なのだとも思う。
ただ、いい様に遊ばれている、騙されやすい姉を見るのはどこか悔しいのだ。
自分でもよく分からない心持ちだが、悔しいものは悔しい。
気持ちを偽るなんて遠回しな事はしたくない。本能のまま、常に明るくハッピーに。
それが、メルラン・プリズムリバーという騒霊の在り方だった。
しかし、今まで何度と無く騙されてきたというのに、この姉さんは呆れてしまうくらい人がいい。
あるいは、単純に妹を思いやる気持ちからなのか。
どちらにせよ、姉にここまで言わせておいて、自分のワガママを通すことはメルランにはできなかった。

「分かったわ。姉さんが納得してるんだったら、それでいい」
「…ん。ありがと」
「でも! 後で騙されたことに気づいて、泣きごと言ったって知らないわよ~?」
「その時は…まぁよろしく頼む」
「だめだめ! 長女なんだから、ケジメはつけなくちゃね」
「う…。あなたも中々、口達者になったわね。誰かさんに似て」
「誰かさんには全然敵わないけどね~」

誰かさん抜きでの、しばしの姉座談会。
焼きそば片手に躁と鬱のテンポのいい掛け合い。
演奏でも雑談でも、正反対の性質を持つ二人は意外なほど気が合うのだった。
当然、そりの合わない部分も多分にあるのだが。

「…私も泳ぎたくなってきたわね」
「あら? わたしが教えてあげましょうか?」
「そうね。ぜひともご教授頂こうかしら」
「気まりねっ! めるぽ泳法~」
「……不安」

のっそり腰を上げる姉と、元気に飛び出していく姉。
そこに違いはあれど、下の妹を寂しがらせないように、という気持ちは変わらないのだった。





柔らかな砂の上に敷かれた、天狗の新聞に鎮座するのは巨大な正球。
艶やかに水をはじいてきらきらと輝いている。
さらには圧倒的な質量感でもって騒霊たちの目を引きつけて止まない。叩けばぺしぺしといい音が鳴りそうだ。
至極の宝玉の如く輝くそれは、一般的に言われているところの…、

「はい、ルナ姉。これ付けて」
「何、これ」
「目隠し」

スイカである。

「あの…、リリカ。まずはスイカ割りとやらのルールを説明して欲しいんだけど」
「そうよそうよ。さっぱりだわ~」
「分かったわよ。…え~、例の如く文献によると、スイカ割りとはスイカを割る遊びである。以上」
「「それだけ!?」」
「あぁ、それだけだと簡単すぎるから、目隠しをして割るらしいよ。はい、説明終了」
「そんな適当な…。その本ホントにアテになるのかしら…」
「あっはは…。まぁ、この際遊び方なんて何だっていいんじゃない?楽しけりゃいいのよ!」
「そゆこと。さ、初めはルナ姉だよ。失敗したら交代だからね」
「…仕方ないわね」

渋々と目隠しを付けた。
この時、目隠しを注意してよく見なかったのがルナサの失敗だった。

「!!」

目隠しの表面には、某姉の特徴とも言うべき糸目が描かれていたのだ。
シンクロ率200%。

「ぶっ…!! くっ…、ちょ、ちょっとリリカぁ…!?」
「ふ、ふふふっ…こ、これは予想…以上だ、ったわ…」
「……? どうしたの、あなたたち?」
「い、いやぁ…な、何でも…ないよっ。えっへへ…!」
「も、も~っ。あ、あはは、はは、は…」
「…変な子たちね」

そんなことはいざ知らずスイカ割りを始めようとする某姉の人。
しかし妹たちはといえば、笑いを堪えるのに必死で、お腹を抱えてもんどり返っている。

「…本当に何にも見えないわね。しかも割る…って。手刀でも使えってこと?」
「う、くっ…へ、へ? しゅ、手動が何だって? あ、あは…」
「手動じゃなくて手刀。言っておくけど、私にはそんな格闘家みたいなことできないよ」
「しゅ、しゅとーね。えーっと、それは…く、ふ、や、やばい。もう…無理…」
「わ、わたしも…我慢のげん、か、あ、はは…」
「え? 二人とも本当にどうし……」
「「…あっはははははははは!」」



「あ、あなたたちって子は…!?」

ネタばらし。
糸目目隠しを見て、こんなふざけたものを付けさせられていたのかと顔を真っ赤にしてしまう。

「だって、だってさぁ~! 私だってこんなに違和感ゼロとは…ぷふっ!」
「そうね~。もう思い出すだけで…あははっ!」
「わ、笑うなぁー!」

真っ赤になった顔から、今にも煙を噴き出さんとばかり。
ルナサにとって馬鹿にされたり、からかわれたりすることは、最も嫌うべきことの一つでとても恥ずかしいことなのだ。
それが口調に出てしまうあたりからも、彼女の感情の掴みやすさが伺えてしまうのだが。

「そんなに怒んないでよ。改めてルナ姉の魅力を再確認できたんだからさ♪」
「糸目はやっぱりアドバンテージよね~。わたしもそういう技、身につけようかしら♪」
「お前ら、♪付ければ許されると思うなよ! 大体、メルランッ! さっきまでの姉を庇う発言はどこへ行ったのよ!?」
「お前ら、だなんて怖いわ~。今日は情緒不安定気味?」
「誤魔化すなっ!」
「あんまり怒ってると血圧あがっちゃいますぜー?」
「くっ…ぅぅぅ…」

普段は大人しいルナサだけに、ここまで激昂すると余計恐ろしい、というより騒がしい。
どちらかと言うと恥ずかしさのあまり空回りしている、という感じではあるが。

「あはは、ルナ姉ごめんって! 次、私がやるからさ」
「……」
「だからそう暗い顔しないでさ、ね?」
「ぅぅ…。分か、った…」

どんなに頭に血が昇ろうが、ルナサは常より長女としての責任を感じている。
胸の話…ならともかく、このくらいで自分が駄々をこねて場の空気を悪くするのは本意ではないのだ。
それを計算に入れた上で、絶妙なタイミングで話を切り上げたリリカの狡猾さといったらないだろう。

手近な棒を拾って、バッグからちゃっかりと普通の目隠しを取り出す。
本人は何食わぬ顔である。

「……ずるい」
「さて、と。このままだとさっぱりだから、場所の指示よろしくね」
「わたしが? いいわよ~」
「……うぅ」

スッと青眼に棒を構える。
気分は白玉楼の庭師といったところ。

「なかなか様になってるじゃないの! 初段認定! 剣士さんにでも教わればイイ線いけるんじゃない?」
「冗談きついって。体育会系のノリじゃないよ、わたしゃ」
「え~。格好いいと思うんだけどな~」
「楽士が剣術なんか上手くなったって一ミリの得もないわよ。それよか指示頼むよ、しじ」

はーい、とメルラン。
ルナサは軽くうんざりしながら黙って見ているだけ。

「もっと前よ。前、前、前。あたり前田のクラ…」
「待った。それ以上は色んな意味で危険だから言わない方がいいと思う」
「え~」
「………」

「この辺じゃない?」
「全然違うわ。左見てー、右見てー、も一度確認してー。はい、渡ってよーし!」
「わけわかんないって」
「え~」
「………」

「ねぇ、そろそろいいっしょ?」
「ん~? そうね~、もうちょっと左かしら」
「はいはい」
「あ、やっぱり右ね」
「ほいほい」
「上~」
「うぇ~…ってコラァ! 遊ぶなっつーの!」
「え~」
「………疲れた」

かなりうんざりしながら見ているしかできなかった。



「最後はわたしね! 覚悟しなさいよこのスイカ野郎~」
「そもそもスイカで間違いないと思うよ」
「スイカ野郎…」

結局、かすりもしないということでメルランに交代。初段もはく奪。
そもそもこんな陳家な木の棒如き、クリーンヒットしたところでビクともしなさそうなものだが。

「…うあ~。世界が真っ黒だわ~。ん? 真っ黒なのが世界なのかな?」
「だからわけわかんないってば」
「……それより、はやく始めましょう。いい加減、じらされるスイカも不憫だわ」
「はーい」

気の抜けるような呑気な返事を返しながらも意識はしっかり目標へ。
リリカの指示を聞きながら、じわり、じわりと近づいていく。

「まだまだ前だよ」
「ん」
「そうそう、いい感じいい感じ。あ、左にずれてきてるよ」
「ん」
「…意外と慎重派なのかしら」

普段の“豪怪”さとはうってかわって、丁寧な動作にルナサは感心した。
彼女ならば、前などと言った途端に猛突進していってしまいそうな気がしていたのだが。
やっぱり落ち着いて行動すればしっかりした子なのよ、などと少し嬉しく思っているうちに、既にスイカのすぐ近くまで到達していた。

…しかし、この流れからしてその思考、どう考えてもフラグである。本当にあり(ry

「(…え?何か今、凄まじい悪寒が…)」
「ストーップ!」
「…ここでいいの?」
「おっけーおっけー。位置は完璧だよ」
「じゃあ後は割るだけね」
「気合い入れてね。せーの、の合図でいくよ」
「分かったわっ!」

意気揚揚と棒を振り上げる。
そして演奏の時のように息を合わせて…、

「いっ」
「せー」
「のー」
「「…せっ!」」

スカッ。

「…………」
「……え?」

獲物はそのまま勢いよく振り下ろされ…ることなく、横振りで空しく宙を切った。
一瞬、固まる空気。

「あれ~、おかしいわね~? 当たらないわ~」
「い、いやいや。スイカは地面に置いてあるんだから、そもそも縦に振らなくちゃ当たら…」
「このー! えいえいえいえいえいえいえいえい!!」

滅茶苦茶に振り回し始めるメルラン。
それで当たるわけも無く、ただただ空を切る音だけが響くのみ。

ブンブンスカスカ、ブンブンスカスカ。

「メル姉!?」
「…リリカ。これはもしかすると」
「うりゃうりゃ~。あはは~」

発症である。

「…マジ? でも、なんだってこんな突然…」
「大体はいきなりくるでしょう。それよりも…この壊れ具合、いつもの比じゃないわ」

確かにメルランには少々、躁病のケがある。
それは彼女の生まれ持った性質のようなもので、本人含めて姉妹たちも半分諦めている。
しかし、これは明らかに異常なレベルだ。
春度マックスK点超えの最大めるぽ状態でも、ここまでひどくはないだろう。

「むぅ、確かに」
「あの子のことも心配だけど…。目隠ししたまま暴れられたら、こっちが危ないわ」
「じゃあ…とりあえず静かになるまでは様子見ってこと?」
「しかないと思う」
「はぁ…またこんな展開かー」

撤退も止むを得ず、と話がまとまりかけたその時、

「当たらない…。全然当たらないわ…」
「あれ。大人しくなった?」
「油断はしないほうが…」
「もー、こーなったら容赦しないわよぉー! ひっさつわざで片付けてやるんだからぁー!」
「必殺技!?」
「あぁ…また嫌な予感が…」

両手を広げて騒霊は十進法を採用するやいなや、メルランの周囲に禍々しいほどの魔力が渦巻きだした。
彼女の持つ強力な躁の力を込めた、不安定な魔力の解放。
数多くのメイド長をピチューンのどん底に叩き落としてきた……へにょりレーザー(ルナティック)である。

「はあ!? ちょ、待っ…。何やってんのあの人!?」
「……へにょりの溜め」
「それは分かってるけど! あの纏わり具合やばいじゃん! 絶対、本気だよ!?」
「落ち着いて、リリカ。弾幕ごっこの要領でかわせば大丈夫、かも」
「かも!?」

「いっくわよぉー!」

「く…! もうやるしかないのー!?」
「まあ、こっちには飛んでこないかもしれないし、大丈夫よ」
「…そ、それもそうよね。よしっ、くるならこいっ!」

「…必殺ぅ! 全方位ルナティックへにょりレーザー乱れ撃ちぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」

「「…………ぇ」」

まるでコントのようなやりとり。
視界を埋め尽くすチートの雨を目の前に、ルナサはただただ呆然とするしかなかった。

あぁ、今日の晩御飯、何にしようかしら…。
そんな現実逃避の思考を巡らせながら―――







          ***







陽が沈む。
夕景に広がる空は桃と水、金の色とが混じり合い、鮮やかな彩色にその身を焦がしている。
空気が澄んでいるから、こんな色が出せるのだろう。
絵に描いたような幻想の光景を眺めながら、ゆったりと背もたれによりかかった。
ギシ、と椅子の軋む音。

もたれかかったまま、うんと一伸び。
まだ身体の節々痛いけれど、大事に至るほどではないらしいから問題ないだろう。
ここにきてやってきた安堵感と、肌をさすようなジリジリとした感覚の狭間。
僅かに霞んだ視界が痛みか、それとも欠伸ででた涙のせいなのかは良く分からなかった。



メルランが正気を取り戻した頃には、私はうずくまるリリカに覆いかぶさって倒れていた。
どうやら無意識のうちに庇っていたらしい。
その介もあってか、リリカは左のももの辺りを少し火傷した程度で済んだ。
比べて私はというとヒドイもので、背中やら足やら、とにかく色んな所に被弾してしまって、しばらくは痛みで動けなかった。
でも、あれだけのレーザーの雨が降ってきた中なのだから、まだ運が良かったのだと思う。

メルランは泣きながら謝ってくれた。
ごめんなさい、ごめんなさいって息を詰まらせながら何度も何度も。
無理矢理に痛みを堪えて、笑いかけてあげてもやっぱり同じで。
リリカにしても企画者としての責任を感じていたらしくて、目をうるわせながら黙って涙をこらえるばかり。
一向に泣きやんでくれない妹に少し困ったけれど、いつもと違うこの子たちの表情が見れて、嬉しいようなそんな気分。
泣きじゃくるメルランの頬をペシと軽く叩いて、今度は心の底から…笑った。

その後がまた大変で、すぐさま服を着替えて永遠亭へ文字通りすっ飛んでいった。
大丈夫だから、と言っても全然聞いてくれないし。
それから、竹林で三人揃って迷子になったり、後からお金持ってきていないことに気付いたり。
後者に関しては、あそこの薬師さんのご厚意で、後払いで構わないということになったけれど…。
正直言うと、何をやらされるか分からないと内心ビクビクしていた。すみません。
ともかく、治療を終えてようやく戻ってきたころにはもう陽が沈み始めていた。



妹二人はと言えば、戻ってからすぐ後片付けに専念しているはずだった。
へにょいレーザーの無茶な乱射を喰らって、砂浜は穴ボコだらけの荒れ放題になっていたのだ。
このままにするのも忍びないということで、砂浜整備が決行された。観光客として最低限のマナー。
自分も手伝うとは言ったものの、

「姉さんは休んでてっ!!」
「ルナ姉は休んでればいいよ!」

…と、一対二で即却下されてしまったわけだ。

漫然と思い立って、ふらり立ち上がる。
夕日に映える湖が周りの木々や空をうつし出し、潤んでは輝いている。
天と地、夕空と湖の見事なまでのコントラストに、思わず息を飲んで魅入ってしまう。
自然の風光というのは、どうしてこうも人の心を揺り動かすものなのだろうか。
どうすれば、こんなにも心に響かせることができるのだろうか。

「……ずるいわね」

誰にでもなく呟いた。





「……ル……ねえ………ルナ姉ってば!」
「…え?」
「あ、やっと気付いた」
「えっと…どうしたの?」
「どうしたの、じゃないよ! さっきから呼んでるのにちっとも気付かないんだから」
「お片付け終わったわ~」

言われてみると、辺りが大分きれいになっていた。
いけない。どうやらまたいつもの癖が出たらしい。

「あぁ…御苦労さま」
「うむ」
「…ぽけーっとしてたみたいだけど大丈夫? まだ痛むんじゃない?」
「うん? …まぁ、痛むのは痛むけど、平気だよ」
「そう? ならいいけどねぇ」

そういって微かに微笑むメルランも、どことなく疲れているように見える。
あれだけの魔力を一気に放出したのだから、当然といえば当然だろうか。

「ルナ姉がぼーっとしてんのはいつものことじゃん。だから…」
「焼きそば焦がす?」
「えっへへ」
「む、しつこいわよ、あなたたち」
「自業自得だよ」

いつも通りの会話に少し安心した。
らしく振舞ってくれるのが、やっぱり一番やりやすい。
と、突然ポンと手を叩く、リリカ。

「あ。焼きそばと言えば、例の罰ゲームの件だけどさ」
「…あー。ごめんなさい。何も考えてなかった…」
「ん? いいっていいって。あんな状況じゃ無理もないしね」
「…うん」
「そうよ! ねえねえ、一体何をやらせるつもりだったの?」
「あ、まだ教えてあげてなかったっけ?」
「もらってないわ」
「…だったらさー」

…この顔は。

「罰ゲーム代打で、メル姉ってことにしようか!」
「……え、えぇ~!?」
「ルナ姉もそれでいいよね?」
「…まぁ、いいんじゃない?」
「そんなぁ~姉さんまで~」
「あっはは、だから心配いらないってば。あのね……」

内容をかいつまんで説明していくリリカ。
こういう時の手際の良さといったら、我が妹ながら末恐ろしいものがある。

「…つまり、即興演奏をしろってことかしら?」
「そゆこと! 綺麗な湖と綺麗な夕景にマッチした、綺麗な一曲をね。さしずめ夕日に乗せたエンディングテーマってところかな」
「うーん。そうは言っても、インスピレーション湧かないわ~」
「浪漫ないなぁ。ルナ姉、一言いってやりな!」
「…急には難しいと思う」
「ガクッ…情けない、情けなさすぎるわ、姉さんたちっ。それでもプロなの!? ぷろふぇっしょなるなの!?」

そんなこと言われても…と顔を見合わせる。
ルナサにしてみれば、プロだからこそじっくりと時間をかけて曲の構想を練っていくものだと思っているのだが。
そこら辺の価値観や考え方は、姉妹でそれぞれびっくりするくらい違っていたりする。
まぁどの道、言い始めたら聞かないのだ。
メルランには、何とか頑張ってもらう他ないだろう。

楽器は、それぞれのケースに丁寧にしまいこんであった。
遠出用や保護用にと購入した最新モデル。
その内から、メルランお得意の楽器をとりだすリリカ。
もはや身体の一部の如く、自由に歌わせることのできる相棒たちだ。

「さあ、どうだい。いいイメージは湧いてきたかね、ぐるぐるマスター?」
「あ、今のでティンときたかも!」
「……」

…どうすれば今の会話からアイディアが生まれるのかさっぱり分からない。
困惑気味の姉を尻目に、すっとトランペットを寄せるメルラン。
どうやら本当にティンときたらしい。
リリカも既に聞きの体勢に入っている。

「コホン。今日はメルラン・プリズムリバーのハッピーソロライブにお越しいただき、誠にありがとうございました」
「ひゅーひゅー! ほらほらルナ姉も!」
「えと、わ、わー…」
「あはっ。…それじゃあ、いよいよ最後の曲よ。これは、今日という善き日を大切な人たちと過ごせることへの感謝とハッピーの歌!
 しんみりモードなんていらないわ! みんな、この嬉しさをストレートに爆発させちゃいましょ!」

ライブさながらのトーク。
あっという間に聴衆を魅了する、清々しく澄んだソプラノ。

「ではっ、聞いてください。めるぽインプロヴィゼーション! そうねぇ、曲目は……『騒霊トランペット吹きの休日』!」

~♪

テンポの良い軽快でコミカルな出だし。
明るく楽しく、そんな気持ちが伝わってくるような、疾走感がある。
即興でこの完成度なのだから、大したものだろう。
ただ、夕暮れの黄昏にはいささか…、

「ふふ、ご機嫌な曲ね」
「…これ、どっちかっていうと昼間っ! って感じじゃない? そりゃもう元気に真っ昼間っ!って」
「私は好きよ? あの子らしくて」
「別に嫌いとは言ってないけどね。…あー、なーんか締まらないわー」
「…♪」

益々調子を上げるトランペットを背に、夕景に佇む湖を見つめる。
陽気な音楽とはやっぱり似合わないけど、その不釣り合いさが妙に愛おしくて、また笑ってしまった。

「……ぷはっ。以上で終了っ! ご静聴、ありがとうございました!」

元気に一礼。
姉妹の為だけのミニライブを絞める、極上の笑顔。
拍手でお返し。

「…よかったわ。すごく」
「ま、そこそこかなー」
「…リリカ」
「…分かった分かった。良かったよ。素敵な曲だった!」
「えへー、ありがとー!」

純粋な喜びを返してくれる。
夜へと変わる中の薄暗さも吹き飛ばして明るくしてしまいそうだ。


「…さて、と。暗くなる前に、帰りましょうか。何だか今日は疲れちゃったわ」
「さんせー。わたしもうお腹ぺこぺこよ~」
「また食べ物の話? 昼間っから、そればっかりじゃーん」

適当に笑い話をしながら、帰り支度。
散らばった荷物を片付けていると、リリカが真面目な顔をして話しかけてきた。

「ねえねえ。ルナ姉は、さ…」
「ん?」
「今日来て、楽しかった?」
「…………」
「…………」

まじまじと覗き込んでくるリリカに、珍しくはっきりと笑いかけながら、

「…楽しかったよ。ありがとね」

と一言。
たちまち明るい表情をしてくれる。
この子も結構、素直なとこあるのかもね。

「ふふんっ、まぁいいってことよ! せいぜい姉思いなリリカ様に感謝しなさーい!」
「でも、次は怪我しないようなプランを立ててくれると、もっと嬉しいな」
「うぐっ…。これは手厳しいですなぁ…」
「ふふっ」

「…リーリカァー!パラソルしまうの手伝ってぇー!」
「うぇ~? 一人でできないわけー?」
「これ意外と大変なのよ~。あああああ重くてしんじゃぅ~」
「だーっ、たく! はいはーい、今いくから死ぬなよー」

メルランの元に駆けていくリリカ。
それにしても、今日は本当に充実した一日だった。
その分、色々と大変でもあったのだけど。
リリカとメルランの頑張りなしには実現しなかった騒霊バカンス、楽しかった。
頑張ってくれた妹たちを遠くに見つめながら、もう一度、ありがとう、と心の中で呟いた。

――今日の晩ご飯は、二人の好きなものにしてあげよう…。
そんなことを、のんびりと思いながら。











































『虹川家、家訓その十一! 海水浴でのスイカ割りは今後一切、禁止のこと!! byリリカ』
はじめまして。本作が初投稿となりました、水道水です。
色々とすいませんな作品ですが、中でも秋も間近というこの時期。
遅筆に加え、構想を練るのに思わぬ時間をとってしまい(以下言い訳

とまれ、このような素人の拙作を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。
次はもっと可愛く三姉妹を(ぇ)描けるよう精進したいと思います。
誤字・感想などありましたらコメントいただければ幸いです。
水道水
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コメント



0.620簡易評価
2.70煉獄削除
悪くはなく、私は楽しめました。
次回も楽しみにしています。

誤字の報告
>またれかかったまま、うんと一伸び。
 「またれ」ではなく、「もたれ」ですね。
以上、報告でした。
4.90名前が無い程度の能力削除
ニヤニヤが止まらないw
小ネタを織り交ぜつつ、丁寧に情景描写がされていて、
3姉妹の仲睦まじい様子を覗き見しているような錯覚に陥ってしまうほどでした。


些細なことですが、
「これこれーい、興味津津なのは分かるけど、先にこれ組立ちゃってよね」
というセリフの『組立』は8行(改行を含めると11行)下と同じように『組み立て』とした方が読みやすくていいかも。

それと、
「碌な目にしか会ったことがないのだから」
の部分は、『碌』が真面目なこと、きちんとしたことの意なので、
恐らく誤用ではないかと思われます。
「会う」も「遭う」が正しい筈です。


改行の仕方に工夫が表れていて読みやすく、
また、読んでいて非常に楽しい作品でした。
目隠しが特にw
11.70名前が無い程度の能力削除
読んでてハッピー。幸せな気持ちになれるSSでした。
一人称三人称がコロコロ変わるので視点が定まらないのがちょっともったいなかったかなー
12.80名前が無い程度の能力削除
これは素晴らしい姉妹愛
夏の終わりにはむしろちょうど良いお話でした
13.無評価水道水削除
レス感謝です!
以下、コメ返し。

>>煉獄さん
私自身、時期も時期で相当あせってしまい、雑になってしまった所が多分にあると感じています。
次は基本的な部分をもっと徹底していきたいものですね。
誤字、修正しました。ありがとうございます。

>>4さん
そう言っていただけると嬉しいです、ほんとに。
もっと可愛く、可愛く!描けるように精進しますです。
ご報告ありがとうございます。推敲が足りないよ…。

>>11
ご指摘いただいた点に関しては、全くその通りというか一番気になっていました…。
せっかく三人なのだから、上手く切り替えられるようにしなければ。
ハッピーありがとうございます!

>>12
九月…な……つ?
いえ、すみませんでした;
コメントありがとうございます。

みなさんありがとうございました。
まだ誤字などありましたら、お手数ですがご報告お願いいたします。
14.無評価水道水削除
自分で連レス申し訳ない。
大丈夫とは思いますが、
>>11さん >>12さん です。
17.100名前が無い程度の能力削除
とても良かったです。
やっぱり三人そろってこそ、だなと思えました(この言い方じゃレイラが不憫かw)。
次回作も楽しみに待ってます!
18.100tnp削除
楽しい三姉妹が目に浮かんでくるようです。
失礼ながら最初は少々余分な描写が多いかな、と思いましたが
読み進めるうちにその描写の豊富さで三姉妹の姦しい様が浮かんできてとても良かったです。
これからも頑張って下さい!
19.無評価水道水削除
視点に関するご指摘について、完全に勘違いしていたことに今気づきました(汗
以後、気を付けます。

>>17さん
ありがとうございます!
三人で楽しく過ごすことがレイラの為にもなるんじゃないかなぁ、とか妄想をぶちまけてみたり。
未熟者ですが、頑張って書かせていただきますね。

>>tnpさん
わざわざコメントいただき、申し訳ないです…。
なるほど。あまりクドくなり過ぎるのも考えものですね。
アドバイス&ご感想ありがとうございました。
20.100名前が無い程度の能力削除
これはいい三姉妹だなぁ