キャラが多少壊れております。
人間の里も妖怪の山も騒がしかった。
一人の人間が自宅に飛び込むなり叫んだ。
「来るよ、今年も」
途端に酒盛りをしていた男達が静かになる。
「本当だよ」
飛び込んできた若者は手前に座っている酔っぱらいに一枚の紙を渡した。
周りにいた男達も集まってくる。
「やっぱり来るんだ」
「体が震えるぜ」
「静葉姉さん」
穣子が呼びかけたが、静葉はギターの手入れに夢中なのか、微動だにしなかった。
「ああ」
「チラシ配ってきたよ」
「もう、秋だ」
穣子もベースギターを取った。
「ええ」
穣子は腰掛けると、でたらめにギターを弾き始めた。
「ピアノとドラムは用意出来たか」
「里の若い人が」
静葉は灰皿の中に唾を吐いた。
「人間なんかに任せるくらいなら私がやるのに」
確かに、ドラムもリードギターも静葉に匹敵する腕を持つものはいない。
姉に返す言葉が思いつかず、指だけが動く。
「収穫祭なんてのは、形だけだ」
事実、収穫祭に意味など無かった。やろうがやらなかろうが、不作の年は不作、豊年は豊年であったのだ。
彼女達は悩んだ末に音楽が恵みをもたらすことに気付いた。
「ええ、だからその前に私達が演奏して、神様に音楽を捧げて」
「違う。神に音楽を捧げるんじゃない。私達が神だ」
静葉は白目を剥き、服をまくり上げてへそピアスを見せた。
謎のバンド「AKKI」。ここ10年程前から、収穫祭の前になると里に現れ、嵐のように演奏しては去って行くようになった。
固定のバンドメンバーは二人の女性、ボーカル兼リードギタリスト「シーズーQ」とベーシスト「RIKO」。彼女たちは毎年優秀なキーボードとドラム担当を要求してくる。
今年も二人の男が選出された。
一人は、毎年の様に抜擢されている太った中年ドラマーが即採用されたが、キーボード担当がもめた。強力な新人が二人もいたのだ。選出には一週間かかり、指定された曲の楽譜を何度も弾かされた二人の内、医療所に運ばれなかった方の若者が見事本年度「AKKI」キーボーディストとなった。
「そろそろ行くか、穣子」
メイクを終えた静葉が呼びかけると稔子はギターを担ぎ、作り物の牙を覗かせた。
逆立てた金髪、いつもの赤い上品なドレスとはかけ離れた黒いジャンプスーツ、極めつけは真っ白に装飾した顔面と眼口や口縁の周りに渦巻く赤い隈取り模様。
全て正体を隠すためである。しかし、耳にピアスなど付けてはいない。それもまた、跡が残るのを防ぎ正体を隠すためなのだ。
「似合ってるよ、穣子」
舌っ足らずな静葉が言った。
「もし、人間の演奏がクソならすぐにステージから蹴り落としてやる」
一通り、打ち合わせを終えてキーボーディストとドラマーの二人はサングラスを外し、恭しく頭を下げた。
「AKKIの皆さんと共演出来て幸せです」
穣子は頭を下げたが、静葉はタバコに火を点けた。
「そっちのデブは前も見た顔だな」
「今回もお世話になります」
「新入りですが、どうかよろしく。いつも皆さんの演奏を聞かせて頂いて。毎年憧れて」
若者はさらにへこへこと頭を下げた。
静葉は灰皿にタバコを投げ入れ、ぷいと顔を背けて言った。
「演奏が全てなんだよ、もう、こう、豊穣を彷彿とさせるようなさあ」
人間の二人にとっては、いささか難しいアドバイスであった。
簡易の控え室の外からは、観衆の足音と叫び声が聞こえてきた。
どうやら、近隣の村の住民も駆けつけ、妖怪まで集まって来たようだ。
稔子はうずうずと肩を震わせて、ギターのネックを抑えた。
「緊張するなよ、楽に行こう」
いよいよ演奏が始まる段になった。夕方、割れんばかりの歓声の中、キーボーディストとドラマーがステージ上に待機していた。
「早くっ、RIKO。シーズーっ」
キーボーディストが脂汗をかき歯を鳴らして居るのを見たドラマーは「大丈夫だ」とばかりに視線を送った。
若者もサングラスの下からぎこちない笑みを見せる。
歓声が一際高まり、静葉と穣子が躍り出た。
「うわ、シーズーだ。ジャンプスーツだ」
「RIKOぉ」
厚いメイクに隠されて、薄暗さも重なり見にくかったが、確かにこの時静葉は笑った。
稔子は姉のそれが爆笑であることを知っていた。
「一曲目、秋の恵み」
「出た、シーズーの十八番、秋の恵みだっ」
途端に打ち鳴らされるシンバル、ドラム。
「ダァッ」
穣子はベースギター片手に叫んだ。それを合図に始まるキーボード。
キーボードという楽器はどうしても軽いイメージが付きがちだが、違う。
秋姉妹のギターが混ざることによって美しく複雑な反応を起こすのである。
「紅葉の舞い落ちる中、一人の少女が眼を覚ます、そしてギターが火を噴き」
秋姉妹作曲のこの秋の恵み、いつもながらに難解な詞である。
観客の何人が理解出来るかは定かではないが、理解する必要などはない。
理解する前に感動する。
「燃え盛る紅葉、それでも少女とギターは止まらない。ああ、信仰の山が燃え上がる。紅葉が始まり終わる。やがて少女のギターも燃え上がる。それでも少女とギターは止まらない」
最前列で感極まった観客が数人倒れた。
「ああ、そして、秋になった」
ベースの音が曲の終わりを告げ、観客の声が再び聞こえて来る。
キーボーディストもすっかり落ち着いた様子で息を吐いた。
実際に演奏し、肝が据わったようだ。
二曲目の「気まずい冬」も歌い上げ、いよいよ盛り上がりが最高潮に達した。
予想通りの展開である。
「行くよRIKOっ」
「OK」
「三曲目、収穫」
「1,2,1,2,3,4」
「うおお」
新曲である。軽快なリズムのリードギターとドラムが豊穣と神々を表現するのだ。
「人間には分からない、神々の業を思い知れ。秋の恵みを享受するならっ」
ここから、穣子がボーカルを取る。
「罰当たりな冬など、雪など、燃やせ、燃やせ、燃やせ。姉妹は今年も雪だるまをぶち壊す」
静葉はギターを振り上げ、キーボードに叩きつけた。
ここからは姉妹の声が混ざり合った。
「私は神の声を聞く。不敬な冬など刈り取ってしまえと。今も今日も明日も、秋の内に収穫、収穫、収穫。冬の新芽を収穫しておけ、刈り入れておけ。冬を阻止せよ、人間 達よ。秋の恵みを思い知るのだ。滝めく秋、滝めく秋。さあ、今だ。冬が来る前に火を持ち鎌を持て。冬を刈っておけ、一刻も早く。冬を刈り取っておけ。そして、恵みの神々 は」
「秋の恵みを与え給う」
「姉妹は舞い降りて告げる。神々の声を告げるのだ。村興しだ。すぐに鎌を持て、火を持て。刈って刈って刈って刈って収穫してしまえと。秋が来て、冬を刈るために再び姉 妹が舞い降りる。そして姉妹は恵みをもたらす。冬を刈れ。今こそその時だ。刈って刈って刈って刈って収穫してしまえ。一刻も早く刈り取ってしまえ。今、村興しが始まるの だ」
この二人の声が生み出す奇妙な、メロディの調和こそが豊穣を呼ぶのだ。
観衆も狂ったように叫んだ。
「冬など、殺せ」
「あっ、慧音先生が倒れたぞ」
四曲目の「抹殺、冬将軍」も歌い終えた静葉は息を切らしながら、他のメンバーに目配せした。穣子達は頷く。
「ラスト、異聞・風神録」
「シーズー、愛してるよっ」
「私達こそが奇跡だ」
観衆が息を呑む。
「大地に恵みを与えたる姉妹も初面に追いやられ。ああ、仕組まれた不条理な位置配置。当たる訳がない。幾たびも行くたび帰るたび撃ち落とされて私は地に落ちて行く。 地に落ちて行く。下がるたび上がるたびまたもや、撃ち落とされ真っ逆さま、地に落ちる。妹も撃たれて落ちて来る。誰ぞの札と針とミサイルとレーザーとに追いやられ、私は地 に落ちて行く」
「恵みを与えし神々にこの仕打ち。姉妹の弾幕では勝ち目なし。ああ。電源を点けるたび、起動するたび、遊ぶたびに、彼女達がやって来る。幾たびも行くたび帰るたび踏 みつけ追い伏せ追い散らし撃ち落とす。難易度上げても低効果。それでも姉妹は」
「WOーWOー」
もはや、豊穣は約束されたも同然だ。
聴衆は呆然と歌声を聞いている。
静葉がリードを取った凄まじいマシンガンボーカルが終わりギターソロも終わると、稔子はギターの肩掛けを外し、ネックを持った。
そして、幾分ためらいがちにそれをステージに叩きつけた。
「AKKI」の名物パフォーマンスである。
「出た」
怯えるキーボーディストを尻目にキーボードとドラムを引き倒し、踏み付け、そしてまたギターで殴りつける。こうして秘密裏に豊穣は約束されるのだ。ギターの弦は切れ、破片は前列の聴衆の上に降り注いだ。
最後に、姉妹はピックを二つ、投げた。
豊穣が確約された今、もう演奏は終わりだ。毎年、そうなのだ。
楽器が無くなったことを知りつつも人々は「アンコール」を口にしたが、その時には既に二人の姿は無かった。
ステージ上から秋の風に乗って、あっという間に消えたのである。
「来年も来てくれ」
それでも「アンコール」の声は消えなかった。
朝食を作り終えて、穣子は布団の上から姉の体を揺すった。
「姉さん、起きて」
「何、まだこんなに早いのに」
「今日は収穫祭に行くから、早めに朝ご飯作ったの」
静葉はのろのろと食卓に着いて味噌汁をすすり始めた。
「また、ギター仕入れてこないとね」
静葉は頷いて卵焼きをつまんだ。
「今日は留守番しててね」
穣子が頼むと静葉は静かに一冊の本を手にとって見せた。
「言われなくても、ずっと家にいるわ。あれから一月も経つのにまだ疲れがとれないの。賑やかな所は苦手」
もう秋が終わるんだなあ、と穣子は思う。
収穫祭は演奏会に比べていささか小規模なものだった。
しかし、今年も豊作だった。
秋は終わり、そして冬が来た。
人間の里も妖怪の山も騒がしかった。
一人の人間が自宅に飛び込むなり叫んだ。
「来るよ、今年も」
途端に酒盛りをしていた男達が静かになる。
「本当だよ」
飛び込んできた若者は手前に座っている酔っぱらいに一枚の紙を渡した。
周りにいた男達も集まってくる。
「やっぱり来るんだ」
「体が震えるぜ」
「静葉姉さん」
穣子が呼びかけたが、静葉はギターの手入れに夢中なのか、微動だにしなかった。
「ああ」
「チラシ配ってきたよ」
「もう、秋だ」
穣子もベースギターを取った。
「ええ」
穣子は腰掛けると、でたらめにギターを弾き始めた。
「ピアノとドラムは用意出来たか」
「里の若い人が」
静葉は灰皿の中に唾を吐いた。
「人間なんかに任せるくらいなら私がやるのに」
確かに、ドラムもリードギターも静葉に匹敵する腕を持つものはいない。
姉に返す言葉が思いつかず、指だけが動く。
「収穫祭なんてのは、形だけだ」
事実、収穫祭に意味など無かった。やろうがやらなかろうが、不作の年は不作、豊年は豊年であったのだ。
彼女達は悩んだ末に音楽が恵みをもたらすことに気付いた。
「ええ、だからその前に私達が演奏して、神様に音楽を捧げて」
「違う。神に音楽を捧げるんじゃない。私達が神だ」
静葉は白目を剥き、服をまくり上げてへそピアスを見せた。
謎のバンド「AKKI」。ここ10年程前から、収穫祭の前になると里に現れ、嵐のように演奏しては去って行くようになった。
固定のバンドメンバーは二人の女性、ボーカル兼リードギタリスト「シーズーQ」とベーシスト「RIKO」。彼女たちは毎年優秀なキーボードとドラム担当を要求してくる。
今年も二人の男が選出された。
一人は、毎年の様に抜擢されている太った中年ドラマーが即採用されたが、キーボード担当がもめた。強力な新人が二人もいたのだ。選出には一週間かかり、指定された曲の楽譜を何度も弾かされた二人の内、医療所に運ばれなかった方の若者が見事本年度「AKKI」キーボーディストとなった。
「そろそろ行くか、穣子」
メイクを終えた静葉が呼びかけると稔子はギターを担ぎ、作り物の牙を覗かせた。
逆立てた金髪、いつもの赤い上品なドレスとはかけ離れた黒いジャンプスーツ、極めつけは真っ白に装飾した顔面と眼口や口縁の周りに渦巻く赤い隈取り模様。
全て正体を隠すためである。しかし、耳にピアスなど付けてはいない。それもまた、跡が残るのを防ぎ正体を隠すためなのだ。
「似合ってるよ、穣子」
舌っ足らずな静葉が言った。
「もし、人間の演奏がクソならすぐにステージから蹴り落としてやる」
一通り、打ち合わせを終えてキーボーディストとドラマーの二人はサングラスを外し、恭しく頭を下げた。
「AKKIの皆さんと共演出来て幸せです」
穣子は頭を下げたが、静葉はタバコに火を点けた。
「そっちのデブは前も見た顔だな」
「今回もお世話になります」
「新入りですが、どうかよろしく。いつも皆さんの演奏を聞かせて頂いて。毎年憧れて」
若者はさらにへこへこと頭を下げた。
静葉は灰皿にタバコを投げ入れ、ぷいと顔を背けて言った。
「演奏が全てなんだよ、もう、こう、豊穣を彷彿とさせるようなさあ」
人間の二人にとっては、いささか難しいアドバイスであった。
簡易の控え室の外からは、観衆の足音と叫び声が聞こえてきた。
どうやら、近隣の村の住民も駆けつけ、妖怪まで集まって来たようだ。
稔子はうずうずと肩を震わせて、ギターのネックを抑えた。
「緊張するなよ、楽に行こう」
いよいよ演奏が始まる段になった。夕方、割れんばかりの歓声の中、キーボーディストとドラマーがステージ上に待機していた。
「早くっ、RIKO。シーズーっ」
キーボーディストが脂汗をかき歯を鳴らして居るのを見たドラマーは「大丈夫だ」とばかりに視線を送った。
若者もサングラスの下からぎこちない笑みを見せる。
歓声が一際高まり、静葉と穣子が躍り出た。
「うわ、シーズーだ。ジャンプスーツだ」
「RIKOぉ」
厚いメイクに隠されて、薄暗さも重なり見にくかったが、確かにこの時静葉は笑った。
稔子は姉のそれが爆笑であることを知っていた。
「一曲目、秋の恵み」
「出た、シーズーの十八番、秋の恵みだっ」
途端に打ち鳴らされるシンバル、ドラム。
「ダァッ」
穣子はベースギター片手に叫んだ。それを合図に始まるキーボード。
キーボードという楽器はどうしても軽いイメージが付きがちだが、違う。
秋姉妹のギターが混ざることによって美しく複雑な反応を起こすのである。
「紅葉の舞い落ちる中、一人の少女が眼を覚ます、そしてギターが火を噴き」
秋姉妹作曲のこの秋の恵み、いつもながらに難解な詞である。
観客の何人が理解出来るかは定かではないが、理解する必要などはない。
理解する前に感動する。
「燃え盛る紅葉、それでも少女とギターは止まらない。ああ、信仰の山が燃え上がる。紅葉が始まり終わる。やがて少女のギターも燃え上がる。それでも少女とギターは止まらない」
最前列で感極まった観客が数人倒れた。
「ああ、そして、秋になった」
ベースの音が曲の終わりを告げ、観客の声が再び聞こえて来る。
キーボーディストもすっかり落ち着いた様子で息を吐いた。
実際に演奏し、肝が据わったようだ。
二曲目の「気まずい冬」も歌い上げ、いよいよ盛り上がりが最高潮に達した。
予想通りの展開である。
「行くよRIKOっ」
「OK」
「三曲目、収穫」
「1,2,1,2,3,4」
「うおお」
新曲である。軽快なリズムのリードギターとドラムが豊穣と神々を表現するのだ。
「人間には分からない、神々の業を思い知れ。秋の恵みを享受するならっ」
ここから、穣子がボーカルを取る。
「罰当たりな冬など、雪など、燃やせ、燃やせ、燃やせ。姉妹は今年も雪だるまをぶち壊す」
静葉はギターを振り上げ、キーボードに叩きつけた。
ここからは姉妹の声が混ざり合った。
「私は神の声を聞く。不敬な冬など刈り取ってしまえと。今も今日も明日も、秋の内に収穫、収穫、収穫。冬の新芽を収穫しておけ、刈り入れておけ。冬を阻止せよ、人間 達よ。秋の恵みを思い知るのだ。滝めく秋、滝めく秋。さあ、今だ。冬が来る前に火を持ち鎌を持て。冬を刈っておけ、一刻も早く。冬を刈り取っておけ。そして、恵みの神々 は」
「秋の恵みを与え給う」
「姉妹は舞い降りて告げる。神々の声を告げるのだ。村興しだ。すぐに鎌を持て、火を持て。刈って刈って刈って刈って収穫してしまえと。秋が来て、冬を刈るために再び姉 妹が舞い降りる。そして姉妹は恵みをもたらす。冬を刈れ。今こそその時だ。刈って刈って刈って刈って収穫してしまえ。一刻も早く刈り取ってしまえ。今、村興しが始まるの だ」
この二人の声が生み出す奇妙な、メロディの調和こそが豊穣を呼ぶのだ。
観衆も狂ったように叫んだ。
「冬など、殺せ」
「あっ、慧音先生が倒れたぞ」
四曲目の「抹殺、冬将軍」も歌い終えた静葉は息を切らしながら、他のメンバーに目配せした。穣子達は頷く。
「ラスト、異聞・風神録」
「シーズー、愛してるよっ」
「私達こそが奇跡だ」
観衆が息を呑む。
「大地に恵みを与えたる姉妹も初面に追いやられ。ああ、仕組まれた不条理な位置配置。当たる訳がない。幾たびも行くたび帰るたび撃ち落とされて私は地に落ちて行く。 地に落ちて行く。下がるたび上がるたびまたもや、撃ち落とされ真っ逆さま、地に落ちる。妹も撃たれて落ちて来る。誰ぞの札と針とミサイルとレーザーとに追いやられ、私は地 に落ちて行く」
「恵みを与えし神々にこの仕打ち。姉妹の弾幕では勝ち目なし。ああ。電源を点けるたび、起動するたび、遊ぶたびに、彼女達がやって来る。幾たびも行くたび帰るたび踏 みつけ追い伏せ追い散らし撃ち落とす。難易度上げても低効果。それでも姉妹は」
「WOーWOー」
もはや、豊穣は約束されたも同然だ。
聴衆は呆然と歌声を聞いている。
静葉がリードを取った凄まじいマシンガンボーカルが終わりギターソロも終わると、稔子はギターの肩掛けを外し、ネックを持った。
そして、幾分ためらいがちにそれをステージに叩きつけた。
「AKKI」の名物パフォーマンスである。
「出た」
怯えるキーボーディストを尻目にキーボードとドラムを引き倒し、踏み付け、そしてまたギターで殴りつける。こうして秘密裏に豊穣は約束されるのだ。ギターの弦は切れ、破片は前列の聴衆の上に降り注いだ。
最後に、姉妹はピックを二つ、投げた。
豊穣が確約された今、もう演奏は終わりだ。毎年、そうなのだ。
楽器が無くなったことを知りつつも人々は「アンコール」を口にしたが、その時には既に二人の姿は無かった。
ステージ上から秋の風に乗って、あっという間に消えたのである。
「来年も来てくれ」
それでも「アンコール」の声は消えなかった。
朝食を作り終えて、穣子は布団の上から姉の体を揺すった。
「姉さん、起きて」
「何、まだこんなに早いのに」
「今日は収穫祭に行くから、早めに朝ご飯作ったの」
静葉はのろのろと食卓に着いて味噌汁をすすり始めた。
「また、ギター仕入れてこないとね」
静葉は頷いて卵焼きをつまんだ。
「今日は留守番しててね」
穣子が頼むと静葉は静かに一冊の本を手にとって見せた。
「言われなくても、ずっと家にいるわ。あれから一月も経つのにまだ疲れがとれないの。賑やかな所は苦手」
もう秋が終わるんだなあ、と穣子は思う。
収穫祭は演奏会に比べていささか小規模なものだった。
しかし、今年も豊作だった。
秋は終わり、そして冬が来た。
夢落オチとはわかっていたが・・・
って夢落オチじゃねえ!?
うん、秋が来るなぁ
2回読み直してやっと分かったわ。