「おなかすいたなぁ」
「……何で私の方を見て言うのよ」
季節は実り多き秋。
木の葉が色付く森の一角でばったり出会って開口一番この台詞とは。
余程腹を空かしているのか自分のことを食べ物としか思っていないのか。
どちらにせよ、瞳を爛々と輝かせているルーミアを見ているミスティアは憤りを通り越して溜息を吐くしかなかった。
「そもそも其処ら中にいっぱい実ってるじゃない」
秋なんだし、と付け加えてミスティアは言う。
地面を見れば棘に覆われている栗。木の根元には茸が生え揃っている。
それでもルーミアは地面の其れ等には目も繰れず、どことなく浮かない面持ちだった。
「うーん、それもそうなんだけどさ」
ルーミアが愚痴る。
「なによ、何か理由でもある訳?」
「ここら辺の秋の味覚は大方食べ飽きたんだよね」
「あ、そう」
笑顔でそう言われると首肯するしかミスティアにはなかった。
ちら、とルーミアのお腹を一瞥。
食べ飽きたと言っても彼女のスレンダーな体躯は変わらない。
ルーミアが嘘を吐いているようにも見えないのでそれなりの量の味覚が彼女のお腹に入っているわけだ。
とてもそうは見えないが。
その視線に気付いたのか、ルーミアは恥ずかしげにお腹を少し横にずらす。
くぅ、と可愛らしくお腹が鳴る。
「それにしてもさ、よく食べても太らないわね」
「うーん、太りにくい体質みたい」
「…そう笑顔で言われると同じ女としてなんか傷付くわ」
たはは、と笑いながら女性が聞いたら羨むような発言をのたまう。
ミスティアも例外ではなく、心の中で羨望やら嫉妬やらが渦巻いていた。
「昨日食べた鮎は美味しかったなぁ。あと、鳥肉」
「取って付けたように言うな」
「じー」
「ああもう……取り敢えず涎を拭きなさい」
今にも飛びかからんとするルーミアをミスティアはどうどうと押さえる。
明らかに自分に標的を定められたことに、内心冷や汗ものだ。
被食者の立場に立っている彼女にとっては溜まったものじゃない。
「あはは、冗談だってば」
「私の死活問題に関わる冗談は止めて欲しいんだけど……」
「大丈夫だって、半分ほど本気だから」
「ごめん、冗談は止めてと言ったけどそういう意味じゃない」
頭を押さえて嘆息。
腹を空かせている彼女と話していると、本当に食べられるのではないかという恐怖やら何やらで精神的に参ってしまう。
それでもミスティアが彼女と話を続けているのは、ルーミアがヒトの妖怪であり自分が夜雀の妖怪ということを理解している為である。
自分もヒトガタではあるものの、元を正せば種族が違う。
先天性な部分をどう怒ったって仕様が無いという事を彼女は理解していた。
ただ、自分を見ただけで喜色満面になるのはなんだか嬉しいやら哀しいやらといった気持ちが正直なところ。
もう少しだけ食欲を抑えてくれればなぁ。
ミスティアはそう思わずにはいられなかった。
「もう申の刻だからかな。この時間帯はどうしてもお腹が空いちゃうんだよ」
「まぁ……言われれば確かにそうだけど」
「あと昨日の鳥肉も、んぐ。美味しかったし。もぐもぐ」
「あ、結局は食べるんだ」
まだ鳥肉を引き摺るか。
最終的には食欲に勝てなかったのだろうか、辺りの秋の味覚を拾っては食べ拾っては食べるルーミアがなんだか可哀想に思えてきた。
しょうがないかなぁ。とミスティアは小声でぼそりと呟いた。
「それなら私の屋台に、来る?」
「え?」
思わず聞き返す。
拾い食べる手を止めて目を丸くしたルーミアが目を丸くしてぱちぱちと瞬きをした。
「なんで?」
「今のあんた、目も当てられないわ。よしみでツケにしてあげるから食べに来なさい」
ここで許してしまうと食べ物が本格的に無くなる冬には集りに来そうなものだけど。
分かっている。そんなことは分かってはいるのだけれども。
「いいの?」
そう期待に満ちた眼差しを向けられてしまっては、
「ええ、任せなさい。今宵は生きの良いのが入って来る筈だからね」
断るにも野暮な話だろう。
とん、と胸を叩くミスティアはどこか誇らしげであった。
***
「ねぇ、まだぁ?」
「もう少し我慢してよ」
「まだなのかー」
うずうずと八目鰻が焼き上がるのを椅子に座る小さな体を左右に揺らしながら待望する。
食事を待っている姿は差し詰め食欲旺盛な幼子のように見える。
外観は全く以ってその通りではあるが。
そう例えるなら私は世話焼きな母親だろうか。
その想像が可笑しかったのかミスティアはくすりと笑みを零す。
「…なに?」
突然笑みを浮かべたミスティアに対して小首を傾げる。
「いや、アンタほど食べ物を美味しそうに食べる人はいないかなぁって」
「まだ食べてないし、私はヒトじゃないよ?」
「細かい事は気にしないの。ほら、焼き上がったわよ」
香ばしい匂いを漂わせ、今し方蒸し終わった八目鰻が少し大きめの平皿に乗せられた。
それをルーミアの目の前に置いた途端、我慢出来ないとばかりに喰らいついた。
「はむはむ」
「って、ちょっと……もう、行儀もへったくれもないわね」
「ミスティア」
「はいはい、何よ。そんなにがっつかなくても鰻は逃げないわよ」
「ありがと、凄く美味しい」
「…そ。よかったわ」
たれで頬を汚しながら喜ぶルーミア。
本当に美味しそうに食べる様子を見ているミスティアも満更ではない。
少しだけ上機嫌にもなり、これから来るだろう客の為に炭火の上に鰻を置く所作にさえもどことなく浮き彫りになっていた。
「ねぇ、もう一つだけ頼んでいいかな」
「ん? 今度は何かしら?」
既に半分以上を平らげたルーミアが急にしゃんとして頼みこむ。
大方、お替わりをせがみたいのだろうとミスティアは思い当たる。
それくらいならお安いご用だと。
ミスティアは機嫌をそのままに嬉々としてルーミアの口からお願いを聞いてあげようかなと耳を傾けた。
「あのさ……ほんのちょこっとだけでいいから、ミスティアのこと齧らせ――」
「却下」
佇まいを直し、真摯な態度で食べさせてと懇願するルーミア。
それに対し安請け合いを飲もうとしたミスティアは最後にこう思った。
結局私かい。
オチに至るまでのリズムが良かったです。
ミスチー逃げてー
読みやすかったですよ
みすちーはゆゆ様の嫁(食料的な意味で)
死ぬほど腹減った。
>捕食者の立場である彼女には溜まったものじゃない。
みすちー的には被食者のほうじゃないかと思った。
読みやすくていい感じでした。
それとも、唇でハムハム!?
しかも唇同士を合わせるだけの奴でなく舌を口の中につkk(ry
いずれみすちーはルーミアの手で食べられてしまうのですね(性的な意味で