天界。
そこは、この世のものとは思えぬほど豪奢な花々や、およそ考え付かないほど綺麗な景色が続く、桃源郷と呼ばれる人類の理想郷の一つ。そして、輪廻の輪を外れた天人で溢れている……筈、の場所である。
そんな天界の大地の淵にて、注連縄の巻かれた岩石に腰掛け、傍らに緋の剣を置いている娘が一人。
天人にして非想非非想天の娘、比那名居天子である
彼女が下界である幻想郷の大地を見下ろし始め、既に三刻程の時が流れていた。
「……」
彼女は瞼も動かさず、鳥のさえずりにも耳を傾けず、果てには空腹を訴える腹の虫ですら気に留めず。
唯只管に、遥か遠く、下界にある幻想郷の大地を眺め続けていた。
「……はぁ」
独りでに、溜息がこぼれた。
その顔には、憂鬱と例えればいいのか、気だるげと言えばいいのか……両方だろう。一言で表すには、複雑な表情が浮かんでいる。
天人とは、修行の末に一切の欲を捨てた人間がなる者である。そして、この天界で日がな一日釣りをしたり、音楽を聴いたり、碁を打ったりして長い時を過ごす――過ごせる。
だが、彼女は違う。
親のついでに天人になったのだ。当然のように修行なんてしてないし、その様に物事を悟れているわけでも、徳を持っているわけでもない。だから、そんな天界での生活が肌に合わないのも仕方ないのだ。
天子は、帽子に付けていた桃をかじりながら、そんなことを思っていた。
まぁようするに、何が言いたいのかと問われれば。
「ひーーーーまーーーー!」
彼女は退屈なのである。
そして一刻ほどの後、天子の姿は博霊神社の境内にあった。
「ねー、お客様にお茶は?」
「帰れ」
にべもない返事を返されている。
返したのは箒を両手で持ち、石畳の境内を掃いている紅白の巫女装束を纏った少女。
この幻想郷という楽園の素敵な巫女、博霊霊夢である。
箒を動かし、埃を集めている手を休めることなく霊夢は拒絶する。岩に腰掛けた天子には目もくれない。
だが、その程度の歓迎で堪えるような神経を、天子はしていなかった。
「なによー。私がわざわざ出向いたのよ? 歓迎の言葉くらいかけさせてあげてもいいのよ?」
「あんたが上から岩で降ってきたからまた掃きなおしになってるのよ! 暇なら自分で散らかしたゴミなんだから自分で集めなさいよ!」
「面倒だから嫌」
「……」
みしりと、霊夢の手元から何かが罅割れる音が聞こえた。
霊夢の堪忍袋は凄まじい勢いで膨張中である。
だが、まだいくらか緒が切れるには猶予がある。なにせこの博霊神社に来る連中来る連中、人の話を聞かなかったり胡散臭かったり捕らえ所がなかったり馬鹿だったり自己中心的で我が侭やり放題だったりと。……この程度なら、まだ許容範囲内なのだ。
――OK私。大丈夫。まだ大丈夫。こんな我が侭他の連中だって似たり寄ったりじゃない。頑張れ。頑張る。頑張ろう。
一つ大きく息をつき、ピリピリとした気を落ち着けると、霊夢は境内を掃く箒の手を止め天子に向き直り口を開く。
「なんでここに来るのよ。暇を潰せる場所なんて他にいくらでもあるでしょう?」
「私が知ってる幻想郷の場所なんて此処くらいよ」
ずっと天界にいたからねと続ける天子の言葉に、ああ成るほど、と納得する。
博霊神社は幻想郷の象徴、とでも言うべき場所だ。幻想郷に住んでいるものなら(それが地の底だろうが天上だろうであろうとも)知っていない者は居ない。
確かに彼女は神社の建て直しをしている時も、この敷地内から出ようとはしなかった。あれは、知らぬ土地だから出歩けなかったということなのか。
「それに貴方の周りなら異変とか日常茶飯事でしょ?」
「ぬけぬけと言ったものね。その異変を起こした張本人ともあろう者が」
「刺激的だったでしょ?」
「刺激物は取りすぎると体に悪いのよ!」
神社が壊れて家無き子になるなんて刺激はいらない。
最近はなんだか怒ってばかりな気がするなぁ、と頭の冷静な部分で霊夢は思うが、どうにもこの熱くなった気持ちの収まりが付きそうにない。
「ああもう! 思い出したらまた腹が立ってきた!」
「……ふふ、短気は損気よ?」
こう怒ってばかりいるのも目の前の天子のせいだ。その涼しげに浮かべられた薄笑いがまた霊夢の神経を逆なでする。
刺激を取りすぎたせいで感情が上手く制御できないのだと考えた霊夢は、刺激物を吐き出すために、徐に手を袖に伸ばす。
そして、符を取り出そうとして、
「……はぁ。アホらし」
大きく溜息を吐き、袖から腕を引き抜いた。勿論符は取り出していない。
表情を満面の笑顔に変えてそれを待ち構えている天子の姿を確認した途端、なんというか、色々と冷めた。相手をするのが馬鹿らしくなったのだ。
「……へ? あれ? ちょっと、なんで止めちゃうのよー!」
「そんな嬉しそうに倒されるのを待ってる奴を相手にする気なんて、起きないわよ」
私苛めるの得意じゃないのよね。とは、周囲から鬼だの鬼畜だのと言われている巫女の談。
「べ、別に待ってないもん! なによ、苛めるって。天人である私に人間が敵う筈ないじゃない!」
「……ま、どっちでもいいわ。あんたに付き合う気はないし」
霊夢はもう興味は失ったと言わんばかりに、しっし、と天子を手で追い払うと、背を向けて境内の掃き掃除に戻ってしまう。
そしてそんな様子を呆然と眺めて数瞬。我に返り、事態が飲み込めた天子は、
「うー……なによ、なによなによなによーーー! いいじゃないちょっとくらいのってくれたってーーー!」
切れた。
駄々を捏ねたとも言う。その目にほんの少し光るものがあるのは……恐らく気のせいではないだろう。
そんな軽く混沌とした境内に、空から箒に跨って降ってくる白黒二色の少女。
「お、今日はまた珍しい客が来てるな」
大きな帽子がトレードマークの普通の魔法使い、霧雨魔理沙である。
「あら魔理……ねぇ、魔理沙?」
「なんだ?」
「あんたの足元、私がさっき掃いたばかりのところなのよね」
ついでにゴミを集めていた場所でもある。
空中からの着地のせいで、今は四方八方飛び散り放題だが。
「気にするな。私は気にしてないぜ」
「気にしなさいよ! 散らかすんじゃないの!」
なんで私が偶に掃除をするとこうも邪魔が入るんだろうか。もしや私はなにか呪いでもかけられているのか。いや、これはきっと今日は掃除をしても無駄ですよ、という神様からの啓示に違いない。
霊夢はそこまで考えて箒を履く手をぴたっと止め、箒を物置に戻しにいく。
「お? 集めないのか?」
「あんたがやりなさいよ。私は今日これ以上掃除をしてはいけないと悟ったわ」
「……何をどう悟ったんだか。まぁ気にしてないからしないが」
元々さぼ――失敬、のんびり屋なことに関して定評がある霊夢だ。こじ付けに程が有ろうとも関係なかった。要はそれがどんなに些細でも、止めれる理由になればいいのだ。
そうして、掃除を止めた霊夢に期待をかけている者が一人。
――掃除を止めたのなら、次にやるとことは気に食わない私を倒すことよね。うんうん、ちょっと予定とは違ったけど、暇を潰せそうだわ!
が、その天子の期待とは裏腹に。霊夢は天子になど目もくれずに、神社の奥へと向け声を張り上げた。
「萃香―? ちょっと出かけてくるから留守番よろしくねー!」
「うーい。いーよー!」
社の奥、神社の居住区から、昼だというのに酔っ払らったような、のらくらとした声で返事が返ってくる。天子は、その声からあの自分の土地の一部に居座っていた、萃香という名の鬼だと察した。何時の間にか天界からいなくなったと思ったら、古巣に戻っていたのか。
「ついでに境内を綺麗にしてくれてもいいわよー?」
「それは巫女の仕事さね。自分でしなー」
「……けちね。あっという間に終わるくせに」
「いや当たり前だろ。横着しすぎだぜ」
「散らかした本人が言わない!」
「……はて? なんのことだか。気に留めてなかったから忘れたぜ」
そんなやりとりをしながら霊夢と魔理沙は、呆けて突っ立っている者の横を通り過ぎ、連れ立って鳥居をくぐり境内から去っていこうとする。
しかしそんな二人の行動に、待ったをかける者が居た。
「ちょっと! なんでそうなるのよー!」
当然と言うかなんと言うか、呆けていた人物、天子である。
「あら、まだいたの?」
「そういや、なんでこいつがここにいるんだ?」
「私が知るわけないじゃない」
その声に反応して振り返った二人の反応はといえば、割と冷ややかである。
「無視するなー!」
「……魔理沙」
「知らん知らん」
任せたとばかりに手をひらひらと振っている魔理沙を睨むが、帽子を深く被ってそっぽを向かれた。その口元がつりあがっているのがなんとも憎たらしい。
「ああもう。わかったわよ。その代わり、ちょっと言うこと聞いて」
仕方なく霊夢は、とても面倒くさそうに指示を出す。
「そこからあの場所……そうね、後ろに三歩、右に四歩移動してくれる?」
「仕方ないわね」
天子は言われたとおりに移動する。よくもまぁ疑いもせずに従うものだ。やっと構ってもらえる。その思いで浮かれた頭では判断できないのか。
まず後ろに三歩、とことこと下がる。
そこから更に横に、一、二、三、死。
「常置じーん」
「ひきゃあ!」
罠発動。
そうして、霊力で編まれた陣に捕らえられたまま体を動かせない天子は見た。
「はーいそのままそのままー」
嬉々とした表情の霊夢が、一直線に自分に向かい突っ込んで来るところを。
「え、ちょ、うそ、待った!」
天子の静止などに耳を傾けることなく、情け容赦なく追撃を決める霊夢。
「御用心。巫女は急には止まれない……ってか」
「―――!」
そうして、今日も幻想郷に天子の悲鳴が木霊する。
力ある者の趣味趣向は、凡人の理解の域を超えているものが多い。
これもまた、彼女流の暇つぶしなのだった。
そこは、この世のものとは思えぬほど豪奢な花々や、およそ考え付かないほど綺麗な景色が続く、桃源郷と呼ばれる人類の理想郷の一つ。そして、輪廻の輪を外れた天人で溢れている……筈、の場所である。
そんな天界の大地の淵にて、注連縄の巻かれた岩石に腰掛け、傍らに緋の剣を置いている娘が一人。
天人にして非想非非想天の娘、比那名居天子である
彼女が下界である幻想郷の大地を見下ろし始め、既に三刻程の時が流れていた。
「……」
彼女は瞼も動かさず、鳥のさえずりにも耳を傾けず、果てには空腹を訴える腹の虫ですら気に留めず。
唯只管に、遥か遠く、下界にある幻想郷の大地を眺め続けていた。
「……はぁ」
独りでに、溜息がこぼれた。
その顔には、憂鬱と例えればいいのか、気だるげと言えばいいのか……両方だろう。一言で表すには、複雑な表情が浮かんでいる。
天人とは、修行の末に一切の欲を捨てた人間がなる者である。そして、この天界で日がな一日釣りをしたり、音楽を聴いたり、碁を打ったりして長い時を過ごす――過ごせる。
だが、彼女は違う。
親のついでに天人になったのだ。当然のように修行なんてしてないし、その様に物事を悟れているわけでも、徳を持っているわけでもない。だから、そんな天界での生活が肌に合わないのも仕方ないのだ。
天子は、帽子に付けていた桃をかじりながら、そんなことを思っていた。
まぁようするに、何が言いたいのかと問われれば。
「ひーーーーまーーーー!」
彼女は退屈なのである。
そして一刻ほどの後、天子の姿は博霊神社の境内にあった。
「ねー、お客様にお茶は?」
「帰れ」
にべもない返事を返されている。
返したのは箒を両手で持ち、石畳の境内を掃いている紅白の巫女装束を纏った少女。
この幻想郷という楽園の素敵な巫女、博霊霊夢である。
箒を動かし、埃を集めている手を休めることなく霊夢は拒絶する。岩に腰掛けた天子には目もくれない。
だが、その程度の歓迎で堪えるような神経を、天子はしていなかった。
「なによー。私がわざわざ出向いたのよ? 歓迎の言葉くらいかけさせてあげてもいいのよ?」
「あんたが上から岩で降ってきたからまた掃きなおしになってるのよ! 暇なら自分で散らかしたゴミなんだから自分で集めなさいよ!」
「面倒だから嫌」
「……」
みしりと、霊夢の手元から何かが罅割れる音が聞こえた。
霊夢の堪忍袋は凄まじい勢いで膨張中である。
だが、まだいくらか緒が切れるには猶予がある。なにせこの博霊神社に来る連中来る連中、人の話を聞かなかったり胡散臭かったり捕らえ所がなかったり馬鹿だったり自己中心的で我が侭やり放題だったりと。……この程度なら、まだ許容範囲内なのだ。
――OK私。大丈夫。まだ大丈夫。こんな我が侭他の連中だって似たり寄ったりじゃない。頑張れ。頑張る。頑張ろう。
一つ大きく息をつき、ピリピリとした気を落ち着けると、霊夢は境内を掃く箒の手を止め天子に向き直り口を開く。
「なんでここに来るのよ。暇を潰せる場所なんて他にいくらでもあるでしょう?」
「私が知ってる幻想郷の場所なんて此処くらいよ」
ずっと天界にいたからねと続ける天子の言葉に、ああ成るほど、と納得する。
博霊神社は幻想郷の象徴、とでも言うべき場所だ。幻想郷に住んでいるものなら(それが地の底だろうが天上だろうであろうとも)知っていない者は居ない。
確かに彼女は神社の建て直しをしている時も、この敷地内から出ようとはしなかった。あれは、知らぬ土地だから出歩けなかったということなのか。
「それに貴方の周りなら異変とか日常茶飯事でしょ?」
「ぬけぬけと言ったものね。その異変を起こした張本人ともあろう者が」
「刺激的だったでしょ?」
「刺激物は取りすぎると体に悪いのよ!」
神社が壊れて家無き子になるなんて刺激はいらない。
最近はなんだか怒ってばかりな気がするなぁ、と頭の冷静な部分で霊夢は思うが、どうにもこの熱くなった気持ちの収まりが付きそうにない。
「ああもう! 思い出したらまた腹が立ってきた!」
「……ふふ、短気は損気よ?」
こう怒ってばかりいるのも目の前の天子のせいだ。その涼しげに浮かべられた薄笑いがまた霊夢の神経を逆なでする。
刺激を取りすぎたせいで感情が上手く制御できないのだと考えた霊夢は、刺激物を吐き出すために、徐に手を袖に伸ばす。
そして、符を取り出そうとして、
「……はぁ。アホらし」
大きく溜息を吐き、袖から腕を引き抜いた。勿論符は取り出していない。
表情を満面の笑顔に変えてそれを待ち構えている天子の姿を確認した途端、なんというか、色々と冷めた。相手をするのが馬鹿らしくなったのだ。
「……へ? あれ? ちょっと、なんで止めちゃうのよー!」
「そんな嬉しそうに倒されるのを待ってる奴を相手にする気なんて、起きないわよ」
私苛めるの得意じゃないのよね。とは、周囲から鬼だの鬼畜だのと言われている巫女の談。
「べ、別に待ってないもん! なによ、苛めるって。天人である私に人間が敵う筈ないじゃない!」
「……ま、どっちでもいいわ。あんたに付き合う気はないし」
霊夢はもう興味は失ったと言わんばかりに、しっし、と天子を手で追い払うと、背を向けて境内の掃き掃除に戻ってしまう。
そしてそんな様子を呆然と眺めて数瞬。我に返り、事態が飲み込めた天子は、
「うー……なによ、なによなによなによーーー! いいじゃないちょっとくらいのってくれたってーーー!」
切れた。
駄々を捏ねたとも言う。その目にほんの少し光るものがあるのは……恐らく気のせいではないだろう。
そんな軽く混沌とした境内に、空から箒に跨って降ってくる白黒二色の少女。
「お、今日はまた珍しい客が来てるな」
大きな帽子がトレードマークの普通の魔法使い、霧雨魔理沙である。
「あら魔理……ねぇ、魔理沙?」
「なんだ?」
「あんたの足元、私がさっき掃いたばかりのところなのよね」
ついでにゴミを集めていた場所でもある。
空中からの着地のせいで、今は四方八方飛び散り放題だが。
「気にするな。私は気にしてないぜ」
「気にしなさいよ! 散らかすんじゃないの!」
なんで私が偶に掃除をするとこうも邪魔が入るんだろうか。もしや私はなにか呪いでもかけられているのか。いや、これはきっと今日は掃除をしても無駄ですよ、という神様からの啓示に違いない。
霊夢はそこまで考えて箒を履く手をぴたっと止め、箒を物置に戻しにいく。
「お? 集めないのか?」
「あんたがやりなさいよ。私は今日これ以上掃除をしてはいけないと悟ったわ」
「……何をどう悟ったんだか。まぁ気にしてないからしないが」
元々さぼ――失敬、のんびり屋なことに関して定評がある霊夢だ。こじ付けに程が有ろうとも関係なかった。要はそれがどんなに些細でも、止めれる理由になればいいのだ。
そうして、掃除を止めた霊夢に期待をかけている者が一人。
――掃除を止めたのなら、次にやるとことは気に食わない私を倒すことよね。うんうん、ちょっと予定とは違ったけど、暇を潰せそうだわ!
が、その天子の期待とは裏腹に。霊夢は天子になど目もくれずに、神社の奥へと向け声を張り上げた。
「萃香―? ちょっと出かけてくるから留守番よろしくねー!」
「うーい。いーよー!」
社の奥、神社の居住区から、昼だというのに酔っ払らったような、のらくらとした声で返事が返ってくる。天子は、その声からあの自分の土地の一部に居座っていた、萃香という名の鬼だと察した。何時の間にか天界からいなくなったと思ったら、古巣に戻っていたのか。
「ついでに境内を綺麗にしてくれてもいいわよー?」
「それは巫女の仕事さね。自分でしなー」
「……けちね。あっという間に終わるくせに」
「いや当たり前だろ。横着しすぎだぜ」
「散らかした本人が言わない!」
「……はて? なんのことだか。気に留めてなかったから忘れたぜ」
そんなやりとりをしながら霊夢と魔理沙は、呆けて突っ立っている者の横を通り過ぎ、連れ立って鳥居をくぐり境内から去っていこうとする。
しかしそんな二人の行動に、待ったをかける者が居た。
「ちょっと! なんでそうなるのよー!」
当然と言うかなんと言うか、呆けていた人物、天子である。
「あら、まだいたの?」
「そういや、なんでこいつがここにいるんだ?」
「私が知るわけないじゃない」
その声に反応して振り返った二人の反応はといえば、割と冷ややかである。
「無視するなー!」
「……魔理沙」
「知らん知らん」
任せたとばかりに手をひらひらと振っている魔理沙を睨むが、帽子を深く被ってそっぽを向かれた。その口元がつりあがっているのがなんとも憎たらしい。
「ああもう。わかったわよ。その代わり、ちょっと言うこと聞いて」
仕方なく霊夢は、とても面倒くさそうに指示を出す。
「そこからあの場所……そうね、後ろに三歩、右に四歩移動してくれる?」
「仕方ないわね」
天子は言われたとおりに移動する。よくもまぁ疑いもせずに従うものだ。やっと構ってもらえる。その思いで浮かれた頭では判断できないのか。
まず後ろに三歩、とことこと下がる。
そこから更に横に、一、二、三、死。
「常置じーん」
「ひきゃあ!」
罠発動。
そうして、霊力で編まれた陣に捕らえられたまま体を動かせない天子は見た。
「はーいそのままそのままー」
嬉々とした表情の霊夢が、一直線に自分に向かい突っ込んで来るところを。
「え、ちょ、うそ、待った!」
天子の静止などに耳を傾けることなく、情け容赦なく追撃を決める霊夢。
「御用心。巫女は急には止まれない……ってか」
「―――!」
そうして、今日も幻想郷に天子の悲鳴が木霊する。
力ある者の趣味趣向は、凡人の理解の域を超えているものが多い。
これもまた、彼女流の暇つぶしなのだった。
このまま天子に幻想郷暇潰し回りをさせたりとかいくらでも膨らませそうなんですが、作者さんの『天子と霊夢』の構図から見るとなかなか難しい感じですし………。
言葉回しや展開はいい具合なんですが、正直物足りないなぁと思ってしまいます。
次回作に期待。