それは、よく晴れた、とてもとても寒いある冬の日の出来事だった。
ここは霧の湖から少し離れた所にある名も無い平原。
その平原のど真ん中に大きな雪だるまとそれより少しだけ小さな雪だるまが、何もない銀世界の中にぽつりと立っていた。
「ねぇねぇ、レティ」
そんな雪だるまの上に腰かけている妖精が一人、氷の妖精チルノだ。
チルノはレティと一緒に作った雪だるまの上に腰かけて空を仰ぎながら、隣にある小さな雪だるまの上に座っているレティに声をかけた。
「どうしたの?」
レティの重さで小さな雪だるまは『かつて雪だるまであり、いまは雪でできた台形のモノ』となっているが、レティはさして気にせずにチルノを見上げて聞き返す。
「あのさー、空ってどうして青いの?」
チルノは、さっきからずっと不思議そうに空を見上げている。
その顔は、好奇心旺盛な子供のそれだった。
「疑問に思ったらまず自分で考える、いつも言ってるでしょう?」
そんなチルノにレティは『なぜ、空が青いか』を考える様に促して、
「じゃあ、逆に聞くわね。チルノはどうして空が青いと思う?」
と、逆に問いかける。
するとチルノは、しばらく腕組みをして『うーん』と考え込んで、
「えーと、空に青汁があるから?」
と、答えた。
「空に、青汁……」
その答えを聞いてレティは絶句し、そして腹を抱えて笑いだした。
「むー、なんだよー」
「……ごめんごめん。あのねチルノ……チルノは青汁って飲んだことある?」
涙を拭いながらレティは、チルノが青汁の詳細を知っているか尋ねる。
「ないよー。てゐが毎日飲んでるって話してたのを聞いたとこあるだけで、見たこともない」
雪だるまの上でチルノはプルプルと首を振った。
「そっか、じゃあ仕方がないわね。チルノ、青汁はね……青くないの」
「マジでっ!?」
目を白黒させてチルノは叫んだ。
「ええ、マジよ」
レティは余裕で頷く、その表情に浮かんでいるのは九割九分の確信と、一分の『なんていうかチルノに対してお姉さんとして振舞い
たいなー』という、どこか可愛いらしい感情だった。
「青汁というのはね、野菜を絞った汁のことでその色は緑よ。だから青空が青汁でできているって事は、まあないわね」
「みどり、ミドリ、緑……青汁は緑なんだ」
雪だるまの上で、青汁が緑とショックを受ける氷の妖精。
その姿は大変シュールな光景で、じっと雪だるまの上で考え込む氷の妖精を見て、レティはこっそりと笑っていた。
「じゃあなんで青汁っていうのさ! 緑色の汁なら緑汁じゃん!」
納得できないチルノは叫ぶ、どうやら緑ものを青と称するのがどうしても気に入らないようだ。
「それはね、昔からこの国では野菜の事を『青菜』と呼んでいたの。だから『青菜の汁』で、青汁って言うのよ」
そこまで説明されるとチルノは『へー』と感心したように頷いた。
そんなチルノの顔に浮かぶのは『さすがレティだ』という尊敬のまなざし、その視線を受けレティも悪い気がしないのか、
ちょっと得意げに両手を腰に当てて胸を張った。
「んー、じゃあじゃあさ。なんで昔の人間は『緑』の野菜を『青』菜って言ったの?」
チルノは曇りのない笑顔でレティに聞いた。
しかし、チルノの質問に冬の妖怪レティ・ホワイトロックは完全に凍りつく。
(なんで緑の野菜を『青』の菜と呼んでいたかだって!? し、知らないッ 分からないわ!?
なんてことなの! レティ・ホワイトロックともあろうものが、昔の人間が緑のものを青色で呼んで
いた理由を分からないなんて、そんなことをチルノに言う訳にはいかないわ! 私は常にチルノ
にとって『頼れる存在』で無ければならないのよ!)
「ん? レティ? レティー! いきなりどうしたのー?」
そんな凍ったレティの意識を、チルノは雪だるまの上から襟を引っ張って引き戻した。
「…………ああ、待ってチルノ。あなた話を逸らしてないかしら?」
我に返ったレティは顔を片手で隠して、チルノに向けて手を振って制した。
「え?」
「この話は『空はどうして青いのか』でしょう? そろそろ本題に戻さないと行けないわ」
あさっての方向を向いて、レティはチルノに向かって説いた。
目を思いっきり逸らしたレティの姿に説得力というものはまるで見られない。
しかし、チルノは、
「そういやそうだ! ゴメンねレティ!」
と、言って頭をかきながら軌道修正に同意した。
緑の野菜を青菜と呼ぶ理由は、それほどチルノにとって重要なものではないらしい。
そんなチルノの様子を見てレティは、こっそりと安堵のため息を吐いた。
「さぁて、それじゃあ『どうして空は青いのか』だったわね!」
誤魔化すように……否、誤魔化す為に、レティはパンパンと手を叩きながらチルノに向きなおった。
「おおー」
一方、チルノはそんなレティの思惑など気がつかず無邪気にレティの『解答』を期待している。
その素直なチルノを見て、レティの胸がちくりと痛むが、あえて気にしないようにして『空はどうして青いか』と
いう解説を始めた。
「いい、チルノ? それはね空に浮かんでる太陽が関係しているのよ。太陽の光は大気中に入って、
様々な分子によって拡散するわ。この拡散は青みたいな強くて波長の短い光が強く拡散されるから、
空は青く見えるのよ。ほかに夕焼けや朝焼けはどうして赤いのかも簡単ね。真昼の太陽からの光は
大気圏をまっすぐ進めるけど、夕暮れ時は大気圏を斜めに通らなくてはならないわ。つまりこれによっ
て大気圏を通る距離が増え、大気圏を透過するときに青い光が最初に拡散してしまい、地上に到
着するときには赤や黄色しか残ってないから、夕暮れ時は空が赤かったり黄色かったりするのよ……
わかった?」
チルノの疑問に答えられなかった恥ずかしさや焦り、そしてうまくチルノを誤魔化せた安堵から、
こうなってしまったのだろう。
それは、分かりやすい例えも無ければ、手加減もない実に真っ当な科学的解説だった。
そんな解説を、ぼー、と無表情に聞いていたチルノは、話が終わると同時に雪だるまから落下する。
「ち、チルノ? チルノー!!」
慌てて駆け寄るレティに、チルノは目をグルグル回して『だ、だいじょうぶ……』と呟くだけで
精いっぱいだった。
「チルノ……大丈夫?」
レティが解説した『空の青さの理由』は、チルノには少々荷が勝ち過ぎていたのだろう。
世界の理を正面から理解するにはチルノはまだお子様だということを、レティ・ホワイトロックは、
慌てていた所為で忘れてたのだ。
「レティ……」
しばし、レティの膝枕で休んでいたチルノは青い、ひたすらに青く高い空を見て、
「あたいにとって、空は青汁でできている……それでいいや」
と、深く嘆息してチルノは宣言した。
その宣言を聞いてレティは、
「……そうね、それでもいいんじゃないかな」
と言って、チルノの額を撫でた。
どのような解釈をしても、空の青さは変わらない。
だから、別に『空は青汁でできている』と考える妖精が居ても良い。レティはそう思った。
決して『なんか面倒くさくなってきたから、もうどうでもいいや』という投げやりな気持ちで頷いている訳ではないのだ。
「でも、空は青汁でできているなら、空は苦いってことね?」
そんなチルノにレティが悪戯っぽく笑いかけ。
「ええー、あたい苦いのやだー」
レティの冗談にチルノは舌を出して呻いた。
そんなおかしな妖怪と妖精を冬の『青汁でできていると解釈された青空』は、まったく変わることなく、ただ見下ろしていた。
ここは霧の湖から少し離れた所にある名も無い平原。
その平原のど真ん中に大きな雪だるまとそれより少しだけ小さな雪だるまが、何もない銀世界の中にぽつりと立っていた。
「ねぇねぇ、レティ」
そんな雪だるまの上に腰かけている妖精が一人、氷の妖精チルノだ。
チルノはレティと一緒に作った雪だるまの上に腰かけて空を仰ぎながら、隣にある小さな雪だるまの上に座っているレティに声をかけた。
「どうしたの?」
レティの重さで小さな雪だるまは『かつて雪だるまであり、いまは雪でできた台形のモノ』となっているが、レティはさして気にせずにチルノを見上げて聞き返す。
「あのさー、空ってどうして青いの?」
チルノは、さっきからずっと不思議そうに空を見上げている。
その顔は、好奇心旺盛な子供のそれだった。
「疑問に思ったらまず自分で考える、いつも言ってるでしょう?」
そんなチルノにレティは『なぜ、空が青いか』を考える様に促して、
「じゃあ、逆に聞くわね。チルノはどうして空が青いと思う?」
と、逆に問いかける。
するとチルノは、しばらく腕組みをして『うーん』と考え込んで、
「えーと、空に青汁があるから?」
と、答えた。
「空に、青汁……」
その答えを聞いてレティは絶句し、そして腹を抱えて笑いだした。
「むー、なんだよー」
「……ごめんごめん。あのねチルノ……チルノは青汁って飲んだことある?」
涙を拭いながらレティは、チルノが青汁の詳細を知っているか尋ねる。
「ないよー。てゐが毎日飲んでるって話してたのを聞いたとこあるだけで、見たこともない」
雪だるまの上でチルノはプルプルと首を振った。
「そっか、じゃあ仕方がないわね。チルノ、青汁はね……青くないの」
「マジでっ!?」
目を白黒させてチルノは叫んだ。
「ええ、マジよ」
レティは余裕で頷く、その表情に浮かんでいるのは九割九分の確信と、一分の『なんていうかチルノに対してお姉さんとして振舞い
たいなー』という、どこか可愛いらしい感情だった。
「青汁というのはね、野菜を絞った汁のことでその色は緑よ。だから青空が青汁でできているって事は、まあないわね」
「みどり、ミドリ、緑……青汁は緑なんだ」
雪だるまの上で、青汁が緑とショックを受ける氷の妖精。
その姿は大変シュールな光景で、じっと雪だるまの上で考え込む氷の妖精を見て、レティはこっそりと笑っていた。
「じゃあなんで青汁っていうのさ! 緑色の汁なら緑汁じゃん!」
納得できないチルノは叫ぶ、どうやら緑ものを青と称するのがどうしても気に入らないようだ。
「それはね、昔からこの国では野菜の事を『青菜』と呼んでいたの。だから『青菜の汁』で、青汁って言うのよ」
そこまで説明されるとチルノは『へー』と感心したように頷いた。
そんなチルノの顔に浮かぶのは『さすがレティだ』という尊敬のまなざし、その視線を受けレティも悪い気がしないのか、
ちょっと得意げに両手を腰に当てて胸を張った。
「んー、じゃあじゃあさ。なんで昔の人間は『緑』の野菜を『青』菜って言ったの?」
チルノは曇りのない笑顔でレティに聞いた。
しかし、チルノの質問に冬の妖怪レティ・ホワイトロックは完全に凍りつく。
(なんで緑の野菜を『青』の菜と呼んでいたかだって!? し、知らないッ 分からないわ!?
なんてことなの! レティ・ホワイトロックともあろうものが、昔の人間が緑のものを青色で呼んで
いた理由を分からないなんて、そんなことをチルノに言う訳にはいかないわ! 私は常にチルノ
にとって『頼れる存在』で無ければならないのよ!)
「ん? レティ? レティー! いきなりどうしたのー?」
そんな凍ったレティの意識を、チルノは雪だるまの上から襟を引っ張って引き戻した。
「…………ああ、待ってチルノ。あなた話を逸らしてないかしら?」
我に返ったレティは顔を片手で隠して、チルノに向けて手を振って制した。
「え?」
「この話は『空はどうして青いのか』でしょう? そろそろ本題に戻さないと行けないわ」
あさっての方向を向いて、レティはチルノに向かって説いた。
目を思いっきり逸らしたレティの姿に説得力というものはまるで見られない。
しかし、チルノは、
「そういやそうだ! ゴメンねレティ!」
と、言って頭をかきながら軌道修正に同意した。
緑の野菜を青菜と呼ぶ理由は、それほどチルノにとって重要なものではないらしい。
そんなチルノの様子を見てレティは、こっそりと安堵のため息を吐いた。
「さぁて、それじゃあ『どうして空は青いのか』だったわね!」
誤魔化すように……否、誤魔化す為に、レティはパンパンと手を叩きながらチルノに向きなおった。
「おおー」
一方、チルノはそんなレティの思惑など気がつかず無邪気にレティの『解答』を期待している。
その素直なチルノを見て、レティの胸がちくりと痛むが、あえて気にしないようにして『空はどうして青いか』と
いう解説を始めた。
「いい、チルノ? それはね空に浮かんでる太陽が関係しているのよ。太陽の光は大気中に入って、
様々な分子によって拡散するわ。この拡散は青みたいな強くて波長の短い光が強く拡散されるから、
空は青く見えるのよ。ほかに夕焼けや朝焼けはどうして赤いのかも簡単ね。真昼の太陽からの光は
大気圏をまっすぐ進めるけど、夕暮れ時は大気圏を斜めに通らなくてはならないわ。つまりこれによっ
て大気圏を通る距離が増え、大気圏を透過するときに青い光が最初に拡散してしまい、地上に到
着するときには赤や黄色しか残ってないから、夕暮れ時は空が赤かったり黄色かったりするのよ……
わかった?」
チルノの疑問に答えられなかった恥ずかしさや焦り、そしてうまくチルノを誤魔化せた安堵から、
こうなってしまったのだろう。
それは、分かりやすい例えも無ければ、手加減もない実に真っ当な科学的解説だった。
そんな解説を、ぼー、と無表情に聞いていたチルノは、話が終わると同時に雪だるまから落下する。
「ち、チルノ? チルノー!!」
慌てて駆け寄るレティに、チルノは目をグルグル回して『だ、だいじょうぶ……』と呟くだけで
精いっぱいだった。
「チルノ……大丈夫?」
レティが解説した『空の青さの理由』は、チルノには少々荷が勝ち過ぎていたのだろう。
世界の理を正面から理解するにはチルノはまだお子様だということを、レティ・ホワイトロックは、
慌てていた所為で忘れてたのだ。
「レティ……」
しばし、レティの膝枕で休んでいたチルノは青い、ひたすらに青く高い空を見て、
「あたいにとって、空は青汁でできている……それでいいや」
と、深く嘆息してチルノは宣言した。
その宣言を聞いてレティは、
「……そうね、それでもいいんじゃないかな」
と言って、チルノの額を撫でた。
どのような解釈をしても、空の青さは変わらない。
だから、別に『空は青汁でできている』と考える妖精が居ても良い。レティはそう思った。
決して『なんか面倒くさくなってきたから、もうどうでもいいや』という投げやりな気持ちで頷いている訳ではないのだ。
「でも、空は青汁でできているなら、空は苦いってことね?」
そんなチルノにレティが悪戯っぽく笑いかけ。
「ええー、あたい苦いのやだー」
レティの冗談にチルノは舌を出して呻いた。
そんなおかしな妖怪と妖精を冬の『青汁でできていると解釈された青空』は、まったく変わることなく、ただ見下ろしていた。
容量の低さがGOODですね^ ^
想像することでまた真実が生まれることもあるのだ なんちゃって
チルノがレティに懐いていてかわいいです
レティは重くないよ!雪だるまの耐性がなかっただけだよ!
レティがお姉さんでスゲェ和む(^_^)v
外の世界の知識に近いぞw
こういった微笑ましいお話大好きです
水色も群青色も、まとめると青色。
日本人はなぜか緑色も青色にまとめてしまったようで、昔の日本には「緑色」はなかったそうです。
つぎは『どうすれば赤ちゃんが出来るの?』をチルノとレティでやってみてください。
よくある『じゃあコウノトリは何処から赤ちゃんを連れてくるの?』という疑問も混ぜてくれるとありがたいです。
うん、雰囲気が出ててとてもよかったです。
今の科学で説明できる空の青さだって、
もしかしたら未来では鼻で笑われる理論かも知れない。
そうなれば、今の科学的な理由も、”青汁だから”という理由と大差ありませんね。
そういうことなら、チルノのように自分の空想を信じるのも素敵だと思います。
この作品を読んでたらなんかそんな大事なことを思い出せそうな気がしてきた。
なんでだろう?
表情が見える文章って良いですねぇ。
でも、そんな考えで生きていたら辛いんだよなぁ。
ふと、自分が大人になったなぁと感じられる作品でした。
どっちも可愛いなぁ。素敵な時間をありがとう。