(※原材料の一部に殴り合い、スプラッター表現を含む。)
欠けるところの無い満月だった。
特に夏から秋に変わる頃の満月は、永遠亭の面々において大きな意味を持つ。
「月兎三番隊、倉から上新粉を出して! え? 何人いると思ってるの。全部よ!」
「五番隊は湯を準備! 鍋でも釜でもいいわ、どんどん沸かして!」
「みたらしの準備は一番隊に任せるわ。作り方は厨房にあるからそれを参照!」
永遠亭の月兎筆頭こと鈴仙・優曇華院・イナバは下っ端兎に指示を出していた。
毎年、永遠亭では夏の終わりに三日三晩雨が続く。それが止んでから十五夜の夜まで、満月の日には月迎えの宴をすることになっている。
その宴の中心となるのは言うまでもなく――
「……ヒマね」
蓬莱山輝夜その人である。
ただ困ったことに、この宴の中心人物は宴が始まるまで我慢できないのである。
「永琳、遊んでー」
いつものごとく畳を這うように従者へ接近する。
「すみません輝夜。私もウドンゲの手伝いをしないといけないので、電子箱で遊んでいてくださいな」
従者は主の首根っこをひょいと持ち上げると、机の前へと座らせた。
しかし、普段、電子箱での遊びすぎを注意される主からすれば、面白くない対応であった。
「イナバー! 退屈よ。付き合いなさい」
「え、あ、あぅ。宴の準備がありますので……せめて準備が終わるまではご容赦を」
月兎もうやうやしく主を椅子まで運ぶと、もみもみと肩を揉んですぐに戻ってしまった。
といってもやっぱり電子箱で遊ぶ気にもなれず、仕方なく屋敷の中をあてもなく歩くことにした。
「姫様ごめんなさいっ、通ります!」
お盆を抱えた兎たちが、廊下をばたばたと駆け回る。
静かでいるのは自分だけだった。
「……永琳ー。少し出かけるわ」
どこかで皿が割れた音と、それを聞いた月兎の怒声が返事をした。
「ちぇ。つまんないの」
雪駄をつっかけ、一人で永遠亭を出る永遠亭の主。
その影をめざとく見つけた兎が一匹、楽しそうに後を追っていった。
◇◆◇
欠けたところの探しようがない満月だった。
蓬莱の人の形こと藤原妹紅は、そんな大きな満月を眺めながら、竹水筒の焼酎をちびちびと飲んでいた。
「あら。今日は一人なの?」
それを後ろから冷やかす月の姫。
普段の夜ならば、彼らは二人でこの竹林の小さな丘にいることを月人は知っていた。
「……満月だからな」
今頃、寺子屋の教師は歴史書とにらめっこしていることだろう。
昔から、満月の日はそういう仕事をすることになっている。
「満月だから? そうね。満月はいろいろな物を奪っていくわ。家族、愛情、そして正気すらもね」
「私が今日は一人ってのを知って、そんなことを言ってるのか?」
「さぁ? どうかしらね」
舌打ちの音。
「ふん。今日はまた一段と気に入らないじゃないか。理由があるなら言え。なければ殺す」
「望む所よ。さぁ私を殺して見せなさい。恥知らずの藤原家の末裔が!」
「――っ!」
両者が動き出すのはほぼ同時だった。
月人の爪が、最低限の動きで蓬莱人の首を裂かんと宙を走る。しかし、蓬莱人の手が一瞬だけ早かった。
竹水筒を投げ、その中身は的確に月人の目を焼いた。
蓬莱人の首筋に、紙の端で指先を切ってしまった時のような、そんな小さな痛みが走る。
即座に後ろへ跳び、距離をとる。しかし首には、既に洒落にならない量の鮮血が垂れていた。
「くっ、小細工が……!」
月人が痛みをこらえて目を拭う、一瞬の隙をついて体勢を整える。
「輝夜。今日は私の勝ちだな」
紅蓮の炎が蓬莱人の体を回り始める。
「今日こそ灰も残さない。こんなにあっさり終わるのは――っぶ!?」
全てを燃やすはずの炎を突き抜け、火鼠の皮が蓬莱人に張り付いた。
腰と足の動きを奪われバランスを崩した蓬莱人を押し倒し、月人はそばに落ちていた竹水筒を、蓬莱人の肩へと打ち込んだ。
「っ? ――なんだ、くっ、ぐああっ!!」
「イルメナイトで凝固させたわ。抜けるものなら抜いてごらんなさい」
地面と左肩を縫い付ける竹水筒。
それを素早く抜こうとしたが、凄まじい激痛が走るだけだった。
「……何をする気だ、輝夜」
「火鼠の皮は、十六回目と百二十二回目と千八百五十六回目の殺し合いで既に使った手よ? また引っかかるなんて、やっぱり貴方は愚鈍ね」
馬乗りになったまま、月人は続ける。
「今思うと、貴方のお父上は立派な人だったわ。貴方とは比べようのないほどに、ね」
「父の話は、するなっ!」
「あら。私は昔あったことをそのまま言ってるだけ」
「もう一度言ってみろ! 殺す……殺してやる!」
仰向けのまま手を伸ばし、蓬莱人が首に手をかける。
そんな蓬莱人を見て月人は口が裂けるような笑みを浮かべ、その手をさらに首へ押しつけさせた。
「あの男は強く、美しく、教養もある素晴らしい人だったわ。勇気もあって、誇り高く……私は彼を愛していたもの」
「やめろ……」
「養老四年八月三日、氏寺にて病死。あの人がいない今、私はなぜ生きているのかしら」
「――――!!」
声にならない声だった。
蓬莱人は反射的に拳を振り上げ、月人の頬を打った。
人ならざる凄まじい力で突き飛ばされた月人は竹林を転がり、静かな夜の竹林に、竹の枝が肉を裂く音が響いた。
「はっ! ……わざわざ首を差し出してあげたのに。とんだ心構えね。貴族の娘が笑わせるわ」
打突された頬、そして竹が裂いた傷を痛がるそぶりも見せず、月人は立ち上がった。
「ちくしょう! そんなに死なせて欲しいなら、お前の従者に頼めばいいだろう! 蓬莱の薬が知ったもんか。あいつなら、そんなもの関係なくお前を絶命させてくれるだろ! ……ちくしょうっ、ちくしょうちくしょうちくしょう!」
もはや半狂乱だった。
「お前がそうやって父を弄んだから……くそっ、何も持たずにやってきて、お前は私を踏みにじっていく!」
「そうね。初めから私には捨てるものもないわ。だから今でもこんなことができる」
「ぐぅっ、あァっ……」
肩を貫く竹水筒を足でさらに捻り込む。
激痛で消耗し、精根果てた蓬莱人の身体に、ゆっくりと腰掛ける。
「でもいいの。私は何もしなくても生きていける。だから私がすること為すこと、無駄になることは何も無い」
つ、と指先で蓬莱人の体を撫でてゆく。
「輝夜……? 何、言ってんの……さっきから、おかしい……」
「妹紅。貴方は私と同じだから。だから蓬莱の遊びをしよう」
上着の釦の隙間から、手を差し入れた。
仰向けになっている分、自身の重さでやや潰れた乳房を撫でながら、ゆっくりと爪を立てた。
「いっ、痛いっ!」
「そうね。きっと痛いわ。でもそれは痛いだけ。だって私たちは死なないから」
立てた爪をゆっくりと奥へ差し込んでいく。
まるで糠床に手を入れる様に、蓬莱人の胸は月人の手に貫かれていった。
「ぎっ――あ、がああああああああ!!」
「感じるよ、妹紅の鼓動だ。熱くて……びくびくしてて……すごく優しい……」
命の律動をその手に掴み、月人は未知の感覚に目を細め、身悶えする。
しかしその律動すら、止めてしまったところで生命を脅かすには至らない。
「がはっ、ごぼっ、か……ぐっ、ふぅ、や……」
荒縄がちぎれていくような、不快な音がした。
胸の筋肉、骨、血管が、少しずつ爪でねじ切られている。
「あははは! 妹紅苦しそうね頑張って! 私も頑張るわ、私と妹紅の万億年の生を死を弄る未来のために! 時間はいくらでもあるわ。だって私たちは」
「そうだな。お前たちにとって、過去ってのは無限に訪れるものだったな」
後ろから、がし、と頭を掴まれた。
遊び相手たる妹紅は既に目の前にいる。しかし、この状況で現れる人物を、月人は既に知っていた。
「……寺子屋の教師ね。子供のケンカに手を出すとは感心しないわ」
「今夜の私は気が立ってるんだ。生憎、教え子に手を出されて見逃せるような気分じゃない」
「奇遇ね。私もよ。何故かね、やけに昔のことが思い出されてイライラするの。邪魔しないで頂戴」
背後に立つ白沢を、素早く五色の弾丸が襲う。
しかし、五つの弾丸はどれも白沢に触れることなく消滅した。
「そう気色ばるな、ただの課外授業さ。じゃあ記憶力テストをしよう」
白沢の周りを数枚の鏡が舞っていた。
その神器は満月の光をはじめ、あらゆるものを反射し竹林を照らしている。
「問一。思い出してみろ。まずはちょうど三十日前の晩御飯の献立から」
「……?」
「思い出せないか? じゃあ問二。先週の朝食は?」
「あっ」
致命的なことに気づき、慌てて振り向こうとする月人。
しかしその頭は万力のように固定され、ぴくりとも動かせない。
「ぐっ、はく、た、く」
「じゃあもっと簡単な問題だ」
「っ、あ、が」
「最終問題。『お前は誰だ?』そして『どこから来た?』」
「――あ、ああああああああ!!」
押さえられていた手を離すと、月人は抵抗なく崩れ倒れた。
「あああああああっ、いや、いやあああああああっ!!」
笹藪に倒れ込んだまま、涎を垂らしてのたうち回る月人。
その異様な姿に圧倒され、蓬莱人は口を開けたままだった。
「け、慧音、何を……?」
「ん、心配するな。少し『隠して』やっただけだ。たかが不老不死の分際で、人の歴史と尊厳を冒そうとした罰さ」
その時、竹林の奥から、月人を呼ぶ声がした。
声の主――永遠亭の従者は、血の池と化した竹林を見ても驚くことなく、自らの主を発見した。
「輝夜、そこにいましたか……っ、輝夜っ!?」
従者は聡明だった。
まさに気が触れたかの如き主と、その横に横たわる血塗れの蓬莱人、さらに角を持った白沢を見て、状況を一瞬で把握した。
「……御免なさい。私の目が行き届かないばかりに、ひどいことをしたと思うわ」
ふかぶかと頭を下げる。
「んー。子供のケンカに私が出るのもどうかと思ったが、ちょっとお痛が過ぎてたからな。ソッチでもよく言い聞かせてくれ」
「ええ。そうするわ」
ぱちん、と白沢が指を打つと、虚ろだった月人の目が徐々に定まった。
その目が自らを抱く従者を捉えると、月人はまた大声で泣き喚いた。今度は、従者の名と明確な意思を伴って。
従者は、主が落ち着くまでその肩をきつく抱きしめていた。主が泣き止み、僅かな嗚咽を漏らす程度にまで落ち着かせる。
そして従者はおもむろにその目を見据え、主の頬を――、打った。
◇◆◇
癒着が解けた竹水筒を抜きながら、白沢は呟いた。
「子を打ちし 長き一瞬 天の蝉 ってね。帰ろうか。妹紅」
「私も、慧音の子なのかよ」
「あっはは。手のかかる子ほど可愛いってもんだ。ほら、一人で立てるか?」
「うん。あー、ううん。手、貸して」
◇◆◇
痛かった。
いや、従者に痛い思いをさせられたのは今まで数度あった。
でも今日のそれは、今までの痛みと類することのない痛みで、痛いというよりも――苦しかった。
いつか妹紅に締められた首なんかよりも遙かに耐えがたく――悲しかった。
そして、目の前の人を怒らせてしまった恐怖心よりも、
目の前の人を悲しませた自責の念が、心をいっぱいに満たした。
「う、え……永琳、ご、ごめん、な、さ」
涙がぼろぼろと溢れて止まらなかった。
「謝るのは私の方です、輝夜」
再び涙を流した主を、従者は優しく抱きとめる。
「私たちは月の人間だから。安っぽい人の道なんて教えられないと思ってたわ。ううん、今でも思ってる」
涙と洟を手巾で拭いてやる。
「でも、もう私たちは幻想郷の人間だから。悲しいことは……だめ。
私たちに失うものは何もないけれど、ここには色々なものを背負った人がいるわ」
主の目をじっと見ればわかる。あの満月の白沢に、きついお灸を据えられたのだ。
自分の歴史を喰われてみろ。後に残った無限の空白と比べ、ただ不老不死の自分がいかにちっぽけなことか。
従者とて考えるだに恐ろしいことだ。きっとわかってくれる。
「永遠と須臾の間には、狂気が棲むわ。狂っていてもいい、幸せであればいいと思ってた。
でも『あれ』は――いずれ自分が一人になるわ。そして本当の退屈の中で、狂ってたった一人、『本当に』死ぬ」
従者は目を閉じた。そこに見たのは、月にいた頃の記憶、だろうか。
自分でさえもはっきりとしない記憶の中、ただ陰鬱とした感情だけが残っている。
「違うわ、永琳」
「輝夜?」
「私は月を逃げる時、色んなものを捨ててきた。……でも、永琳は私についてきてくれた」
そっと、従者の着物を握り締める。
「さっき夢の中で、永琳もイナバもいなかったの。怖かった。誰もいない月で、ずっと私一人だと思ってた。
失うものが無いなんて嘘。私も永琳がいなかったら嫌だ。ごめんなさい。私、妹紅に酷いことした」
従者の口から、ふ、と、思わず息が漏れた。
あの白沢、思っていたよりもずっと叱り上手だ。
「私、永琳が大好きだよ。だから、永琳にはあんなことしたくない。妹紅にも……。あの子は私のたった一人の――」
「そうね……明日、寺子屋へ謝りに行きましょう」
「うん」
主の頭を優しくなでてやる。
普段の艶やかな黒髪は、少女達の乾いた血糊で張り付いていた。
「……てゐ。見ているのでしょう? 先に戻って湯を沸かせておきなさい」
少し離れた所の竹藪が音を立てて返事をした。
「ふぅ、いつのまに抜け出してるのかしら。悪趣味ったらないわ」
「永琳、今日は一緒に入ろう」
「今日だけよ。さぁ、ウドンゲが支度をして待ってるわ、早く帰りましょう」
◇◆◇
翌朝。
里の外れにある寺子屋――。
永遠亭の主の姿はそこにあった。
「おはよう。妹紅」
「……げぇ、輝夜」
まずい所を見られた。
蓬莱人は寺子屋の子供に吊り紐を下ろされ、今まさに乙女の秘密が明かされようとしていたところだった。
これが最後まで下ろされてしまったら私はどうすればいいんだ。
そのまま空でも飛んで別モノだから恥ずかしくありませんと主張するしかないのか。
しかし、月人の口から出たのは、予想していたからかいの文句ではなかった。
「あの白沢……。いや、慧音先生、いる?」
気付けば、月人の後ろにはあの従者が控えていた。
珍しい来客に気づいた子供たちはすぐに蓬莱人の履物から手を離し、二人を取り囲んでわいわい騒ぎ始めた。
「妹紅、先日はお世話になりました。慧音先生に話があるの。取り次いでもらえるかしら?」
少し憮然とした表情を浮かべ――奥にいる半白沢を呼びだした。
永遠亭の面々を見た半白沢は少し驚いていたようだったが、すぐに楽しそうに話し始めた。
それを縁側で眺めながら、蓬莱人はまた憮然としてため息をついた。
◇◆◇
午後。
寺子屋の裏、普段人が通らないこの空間は妹紅と一部の子供たちにだけ許される特等席。
しかしその蓬莱人が特等席へ行った時、既に先客がいた。
「ん」
白いワンピースに黒いくせっ毛をしたこの少女に、蓬莱人は見覚えがあった。
「……輝夜んトコの兎じゃないか。何やってんだこんなとこで」
「んー。お付き添い」
「二人なら中にいるぞ。いいのかこんなとこにいて。っつうかここは私ん場所だ」
蓬莱人が縁側に腰掛けると、素兎は軽い身のこなしで隣へ腰掛けた。
「嘘。昨晩、姫様の手で無様に内蔵をぶちまかれた負け犬さんを見に来たの」
「んがっ、ちがっ、あれはなぁ!」
慌てて訂正させようとした蓬莱人の口を、素兎は指で制する。
「うん。ちゃーんとわかってる。あれは私のおかげなの」
「は?」
「妹紅ちゃん、人間でしょ?」
「……まぁ、一応」
「あの場で慧音が駆けつけられたのも、あれだけのぶちまけっぷりで済んだのも、側に私がいたから」
そういえば、そんな気配もあったかもしれない。
「姫様は十五夜が近づくと、ああいう過激なことを好まれるようになるの。それは月人だから仕方がないことだって」
「月人の事情なんか知らないさ」
「月迎えの宴はね。月のものを無事にお迎えするための宴なの。うふふ。妹紅ちゃんにわっかるかなー? わっかんねぇだろなー?」
頭が痛い。
私はどこまでこいつらの事情に振り回されなければならないのだろう。
「だから抜け出した姫様を見つけた時、妹紅ちゃんの負担を最小限にする幸運を与えるために私がついていきました。えっへん」
「いや、どう見ても手遅れだっただろ、あれ。つーかお前が止め」
ツッコミを入れる間もなく、素兎は蓬莱人の腹に抱き付いた。
「んー、妹紅ちゃんすっかり元通りー」
「おい、こら気安く触るな……ってボタン外すな! おいっ、こらっ! えっち!」
「んはー。妹紅ちゃんのお腹あったけー」
いつの間にか半裸同然にされている蓬莱人の後ろに、
「あら、随分仲良しなのね」
永遠亭の主が立っていた。
「――あ」
ぼんっ、と音がしそうな羞恥の表情を見せたが、すぐにすましてはだけた上着を元に戻す。
「……ふん」
「貴方には、悪いことをしたと思う。永琳にも叱られたわ。でも、あれから考えたけど……貴方に謝るべきではないと思った」
「私だって別に、お前に謝ってもらいたいわけじゃない。どうせ私らは、ずっと昔から殺し合ってきた仲だ」
「そうね、でも――」
月人が、懐から小さな笹包みを取り出した。
「はい、揚げおもち。昨日のお残りだけど、イナバが揚げてくれたの」
「……はぁ?」
「うん。貴方と一緒に食べたくて。イナバも一ついいわよ」
「わーい。姫様大好きー」
隣に腰掛けた月人と、ピンポン球程度の小さい揚げもちを何度か交互に見て、食べた。甘かった。
気が削がれた蓬莱人は何を話す気にもなれず、しばらく縁側から見える風景をぼんやりと眺めていた。
蝉の声は、以前に比べてだいぶ少なくなった。
「自分でも不思議。貴方とあれだけ殺し合っておきながら、こういう時間も過ごしたいって思うの。
きっと、こうして一緒に過ごしている時間が長ければ長いほど――――貴方を殺し甲斐があるのよ」
不意に月人は顔を近づけ、蓬莱人の頬に口づけをした。
「こうしてほっぺのおべんとを取ってあげるのも、次の満月の夜に貴方と殺し合うためよ」
「……っ。か、勝手にすればいいだろ」
蓬莱人がぶっきらぼうに答えると月人は、にぱーっと顔に一面の笑みを浮かべた。
「ええそうするわ。だから私、この寺子屋に通うことにしたの!」
「ブゥッ」
詰まった。
幸い素兎が背を叩いてくれたからよかったものの、危うく昼間っから死ぬところだった。
呼吸困難で死んでしまったら、息が通らない限り文字通りの生き地獄だ。
「だっ、えっ、だって慧音は、え?」
「慧音先生は大歓迎って言ってたわ」
「けぇ~ねぇ~……」
屈託のない返答に、蓬莱人は思わず頭を抱える。
「ああ。明日から一緒に学ぶことになるぞ。くれぐれも仲良くな」
気づけば、縁側に半白沢が立っていた。
「先日の件に関しては、お前らなりに答えを出すだろうと思う。私とあの従者が話したことはその件だけさ。
寺子屋入学の意思は輝夜からだ。まぁ私は断る理由も無いし、いつも退屈そうな妹紅が楽しめればもっと良いだろう」
慧音が許可したのであれば、文句の出しようがない。
むぅ、と一言うめくしかなかった。
「さ、じゃあ私たちはそろそろ帰るわね。今日は世話になったわ。そして明日からも」
「妹紅、見送りするぞ。一緒に行こう」
寺子屋の門では、永遠亭の従者が待っていた。
二人が門を出る直前、月人は蓬莱人を振り向いて言った。
「じゃあね妹紅。次は『貴方だけ』と殺し合いましょう?」
流し目で格好つけて言った矢先、従者に頬を引っ張られた。
「輝夜っ! ケンカにもルールがあると先日言ったばかりでしょう!?」
「いたいいたい、永琳違うの。どうしても言っておかないといけないことなんだから。いたいー」
徐々に遠くなっていく二人の背を見ながら、蓬莱人は一人ごちる。
「なんだよ。何が一番ヤだったのか、わかってんじゃんか……ちぇ」
了
深いテーマの作品でした。でも、ちょっとグロい・・・
>半白沢
上白沢
やっぱり永琳たちと永く過ごしてきた過去を何よりも大切に思ってるんでしょうね
いや、良いてるもこでした
てゐもこもいいぞ!
どんどんやって欲しいです
むしろそっちメインで
相手のことだけを考え、相手の考えを理解しようとし、相手のことを最優先とする。
…元ネタなんだったっけ?
はまだですか
もこたんやそれぞれの保護者まで巻き込んでいつもお疲れ様です。
なんて下ネタかましてみる。
文章量、内容ともにいい塩梅でしたよ。
それと、お母さんなエーリンうふふ。