「はふっ…。」
欠伸が一つ出る。
仕方ない、だって退屈なのだから。
天界の生活は退屈だけど、そんなのはもう遥か昔から判っている。
私、比那名居天子が退屈している理由は、目の前の釣竿にある。
釣り糸をたらしてからもう30分ほど。しかし、竿はピクリとも反応しない。
元々釣りというのには忍耐力が必要だけど…。…それでも、退屈な物は退屈だ。
うーん、エサが悪いのかなぁ、結構珍しい物をエサにつけたんだけどなぁ…。
「ああもう、さっさと掛かりなさいよー。」
文句を言ってみる事にする。誰に聞かれるわけでも…。
「それで釣れれば誰も釣りで苦労なんかしないぜ。」
聞かれてた。
驚いて振り返ると、そこに白黒魔法使いが、箒を持って立っていた。
…何時の間に…。…竿に集中してたせいで全然気付かなかった…。
「何しにきたのよ。それと人間がほいほい天界に来ないの。」
「こないだ天界に誘った奴がなに言ってるんだ。」
…まあ、確かに。天界で宴会も開いたっけ。確か変なメイドが巨大ナマズ持ってきた気がする。
それに私としても、イレギュラーな存在が天界にいてくれる方が楽しくなりそうだし、全然構わないのだけれど。
「まあいいけど…。…で、だから何しにきたのよ。」
「暇つぶしだぜ。」
暇つぶしに天界来るかなぁ普通。
…そう言えばこの魔法使いは、人のところから勝手に物を持って行く癖(?)があるとか何とか…。
天界まで何か盗みに来たのかしら。ご苦労な事で。
…ま、いいか。私の物じゃなければ何もって行っても別に構わないし。私が痛いわけじゃないから。
「暇つぶしならあんたも釣りする?」
折角なので誘ってみる事にする。
釣りは静かに楽しむものだとは言え、一人でやるよりは2人でやった方がいいだろう。
例え相手が泥棒だとしても、だ。
「そいつは名案なんだが、やめておくぜ。竿がない上に、此処で何が釣れるんだか…。」
竿くらいなら貸して上げてもいいんだけどね。確実にそのままこいつの物になるだろうけど。
「…そう言えば、本当に何が釣れるんだ?釣りは普通、湖とかでするもんだろ?
そんな雲の中に糸を垂らして、何が掛かるんだ?」
まあそうね、普通の天人なら天界の池だとかその辺で釣りをするでしょうね。
でも、私は今回ちょっと大物を狙っている。
「あんたも心当たりがあるでしょ?玄雲海の中を泳いでる魚の妖怪。」
私が何かする度にお仕置きだのなんだのと絡んでくる妖怪の事を私は思い浮かべる。
あいつが色々お仕置きするせいで、最近ではもうお仕置きが少し快感になって…。…って!!違う!!
何時も私をお仕置きする仕返しに、今回はあいつを釣り上げて恥ずかしい姿を晒してしまおうと言うのが、今回の目的。
あいつも結構いい歳のお姉さんキャラだからね。釣り糸に食いついてる姿なんて最高の屈辱になるわ。
「あー、竜宮の使いか。…でも、流石に無謀すぎないか?
幾らあいつが「空気を読む程度の能力」だからって、そんな露骨に釣り糸下げて、食いつくとは思わないんだが…。」
やっぱりそうかしらねー。
全く、目の前に釣り糸が下がってたら、空気呼んで食いつきなさいよ。KYなんだから。
「そうよねー。折角面白いエサ見つけたのに…。」
「面白いエサ?」
今回私が使っているエサは、ちょっと変わった物。
先日私用で下に降りた時、たまたま見つけた…。
「なんか、黄緑でクリーム色の斑点が付いてて、しかも幹の部分に目みたいな模様が付いたおかしなキノコ…。」
「1UPは私のものだぜえええぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
…私がそれを話すや否や、白黒は一瞬の内に箒に跨って急降下して、あっという間に玄雲海に消えていった。
…なに?何事?
* * * * * *
今日は、永江衣玖です。以後御見御知りを。
実はですね、今私、とても困っているんです。誰に話しているのかって?そんな事は瑣末です。
先ほどこの雲の中を泳いでいたら、妙なものを見つけまして…。
何か長いひものような物が見えたかと思ったら、その先には釣り針が、さらにそれには謎の大きな黄緑のキノコが付いています。
…どう見ても、何かを釣ろうとしているようですね。
そして、玄雲海の上には天界しかありません。さらに天界からこの玄雲海までは、そこそこの距離があります。
…そんな長い釣り糸を用意して、玄雲海で釣りをしようなんて事を考える方、総領娘様しかいませんね。
しかも、総領娘様が何を釣ろうとしているのか…。
…玄雲海を泳いでいる魚の妖怪で、総領娘様と関わりがある者といったら…。…私くらいですね。
とりあえず、総領娘様が私を釣ろうとしているんだという事、此処までは理解できたのですが…。
…さて、私はどういった選択肢を取ればよいのでしょうか。
1番:空気を読んで総領娘様の意思に従い、エサに食いつく。
2番:空気を読まずに、このまま立ち去る。
3番:総領娘様をしばき倒しに行く。
4番:キャッチャー 山○太郎
…場の空気を読んで総領娘様の意思に従いたいのは山々なのですが…。
…このエサに食いついたら、私は何か大切なものを失ってしまいそうです。
しかも、このエサ怖いんですよ。幹の部分に眼みたいなものが付いているんですよ。
これを見つけてからずっと、こっちを睨まれている様な気がして…。
色的にもなんだか毒キノコな気がして…。…食べたくないのは確かです。
うーん、でも私は場の空気を保つ事が、最早生き甲斐みたいなものですし…。
さて、どうすればいいのやらと考え続けて早20分ほど…。
「衣玖ううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」
…だ、誰ですか私の名前を大声で叫ぶのは!!
判ってはいるんですが恥ずかしいから止めてください!!
声的に女性ですね!!だったら尚更駄目ですそんな事大声で叫んでは!!
「キノコは私の物だぜえええぇぇぇぇぇ!!!!」
…っと、この口調は確か…。
私はふと上を見上げて、そこには…。
…私の頭上目掛けて猛スピードで突進してくる、霧雨魔理沙さんの姿が…。
「ひええっ!!!!」
光星『光龍の吐息』。
咄嗟に私はスペルカードを使い、頭上に雷の塊を作り出す。
「ぎゃおっ!!」
魔理沙さんはその雷の塊の中に突っ込んで、少女らしからぬ悲鳴を上げる。
私はすぐにスペルを解除。とりあえず魔理沙さんの突進を止められただけで充分です。
「けほっ…、…せ、先制攻撃とはやってくれるぜ…。」
玄雲海の大地に、魔理沙さんはゆっくりと降りる。
…いや、確実に先制攻撃して来たのそっちですよね。いきなり突進してきたのはそっちですよね。
「魔理沙さん、何か御用でしょうか?それとあまり人間の身で天界には足を運ばないようにしてください。」
「それ、さっき天子にも言われたぜ。」
おや、総領娘様がそんな事を言うとは珍しいですね。
何だかんだで、総領娘様のお世話係みたいなことをしている身。その成長は喜ばしい事です。
「そうですか。それはなにより。それで、何か御用でしょうか?」
総領娘様の名前が出てきているという事は、つい今まで総領娘様と一緒にいたのでしょう。
ただ、何故急に此処に来たのか…。…そう言えば、キノコが何とか…。
「ああ、そうだ。そのキノコを大人しく明け渡してもらう。拒否権はないぜ。」
…はぁ?言葉の意味を飲み込むのに少し時間が掛かってしまいました。
キノコ…。…キノコ…。…あ、ああ、ひょっとして釣り針のキノコ…?
「その黄緑のキノコですか?
それでしたら私のものではありませんし、天子様が勝手に釣り下げてるだけですから、どうぞご自由に。」
寧ろ持っていってください。私としてはそっちの方が楽です。
…魔理沙さんがこう、必死になっているところを見ると…。…珍しいキノコなんでしょうかね?
「よし、素直なのはいい事だぜ。それじゃ早速こいつは貰っていくぞ。」
そう言って、魔理沙さんは即座に釣り針のキノコに手を掛ける。
…しかし、暫くその様子を見ていたのですが、魔理沙さんは…。
「くっ…。…は、外れないぜ?こら動くな!!衣玖、ちょっと手伝ってくれ。」
どうやら釣り針からキノコが外れないようです。接着剤で固定してあるのでしょうか?
いや、でも動くなって…。…まあ、今は考えないようにしましょう。
「は、はぁ…。…ですが、どのようにすれば…?」
キノコを釣り針から外す作業に、一体どんな手伝いが必要なのでしょうか。
「思いっきり引っ張ってくれ。多少千切れちまうけど、この際仕方が無い。」
…うーん、何か目みたいな模様が付いているキノコなだけに、思いっきり引っ張るのはちょっと気が引けますが…。
まあ、私としても早くゆっくりと雲を泳ぎたい。空中散歩を楽しみたい。
「判りました。それでは…。」
私も玄雲海の台地に降りて、そのキノコに手を掛ける。むっ…、確かにちょっとやそっとじゃ外れそうにないですね…。
「それじゃ、せーので行くぜ。」
判りました。キノコの強度がどれだけなのかは判りませんが、流石に2人で引っ張れば針から外れるでしょう。
…あれ?私は何かを忘れている気が…。
「せー…のっ!!!!」
ぐいっ、と2人でいっぺんにキノコを引っ張ったところで…。
…そう言えば、このキノコって釣竿のエサでしたよね…。
しかも、今まで魔理沙さんがキノコを取り外そうと、色々動かしていて…。
…上の総領娘様が、もし今竿を手に持っていたら…。
* * * * * *
「あっ!やっと来たわね!!」
目の前の竿がカタカタと揺れる。
衣玖、流石に魚の本能からは逃れられなかったようね!!
あの白黒魔法使いがどうなったのかは気になるけれど、今はこのチャンスを逃さないように…。
「さあ衣玖!!この私に恥ずかしい姿を晒しなさい!!」
私は竿を掴む。しかし、下の衣玖も抵抗しているのか、上手く竿が上がらない。
くっ…!私はこれでも天人よ!妖怪一匹釣り上げるほどの力はあるわ!
衣玖!無駄な抵抗は止めなさい!
「ええいっ!!早く引け…。…ええっ!?」
と、急に竿の引っ張る力が増して、私はバランスを崩す。
何とか踏みとどまろうと、足に力を込めるが…。
…私の足は、天界の台地を踏む事はなく…。
「…あれっ…?」
目を下に移せば、視界一杯に広がる雲と地上。
あははは、とっても綺麗な光景ねー。何でいつもより綺麗に見えるのかしら?
ああ、それは簡単、だって余計な障害物が無いから…。
…ないから…、…って…。
「い…いやあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーー!!!!!!」
私の身体は、猛スピードで天界から玄雲海へと落ちていった…。
* * * * * *
「ちくしょー、何で取れないんだよー!」
2人で引っ張ったものの、結局キノコは釣り針に張り付いたままです。
何か強力な封印魔法でもかけてあるのか、それともキノコが異常に硬いのか…。
…まあ、正直な話、私としてはもうそんな事は如何でもいいんです。
…だって、ね、天から降りてきてる釣り糸がね、方向変えてるんですよ。
空気の流れる方向に流れていってるんですよ。これ、どういう事だか判りますよね。
…出来れば、今引っ張った時に釣竿“だけ”落ちたのだと思いたいのですが…。
「…総領娘様…。」
ああ、どうしよう、心配で心配でたまりません。
…いえ、万が一落ちても空を飛べるはずなのですが…。
…空を飛んでる姿なんて殆ど見たことありませんし、まさか飛べなくなってたり、なんてことは…。
「………ぃぃぃぃぃゃぁぁぁぁあああああああーーーーーーーー!!!!!!」
…私、何か悪い事しましたでしょうか?
今、この世で最も聞きたくない悲鳴が、私の頭上から響き渡る…。
私はさっと空を見上げて…。
…澄み渡った空に映る、一つの小さな影。
その影が、物凄い勢いで大きくなっていくのが見えて…。
…それが総領娘様である事に気がつくまでに、0,1秒だって掛かりませんでした。
「そ、総領娘様あああぁぁぁぁぁ!!!!」
ああどうしましょうどうしましょう!!
飛べなくなってるのかあまりの事に飛ぶのを忘れているのか、やっぱり落下して来てますよ!!
天界から落ちてきたら、幾ら天人だからって粉々ですよ!!
助けなければ!!しかしどうやって…!!
幾ら私が妖怪だとは言え、天界から落ちてくる人をキャッチ出来るほどの腕力なんかありません。
同様の理由で羽衣キャッチも恐らく無理でしょう。ドリルになるとは言え、人をキャッチできるハンモックにはならないでしょう。大きさ的に。
…こうなったら、魔理沙さんと同じように雷で受け止めますか…。
雷の衝撃で少しでもスピードが緩んでくれれば、粉々になる事はないでしょう。
…ま、死ぬよりはマシですよね総領娘様。許してくださいね。
「い、衣玖ううううぅぅぅぅぅぅぅ!!」
「総領娘様!!今お助けいたします!!」
私はスペルカードを構え、慎重にタイミングを伺う。下の名前を叫ばれる恥ずかしさはもういいです。
タイミングを、そして受ける位置を間違えて受け損ねてしまっては元も子もない。
もし受け損ねたら…。…ま、事故ですから。
「行きます!!光星『光龍の…!!」
「要石『天地開闢プレス』!!!!」
…はひっ…?
…急に視界を埋め尽くす、超が付くほど巨大な要石…。
…あ、ああ、なるほど、流石は総領娘様。素晴らしい機転です。要石を足場にして、着地しようとするとは…。
…で、その真下にいるのは…。…あの、私なんですけど…。
「ひいいいぃぃぃぃぃぃ!!!!」
考えるより先に身体が動いて、私は玄雲海の大地に滑り込む。
ろくに受身も取れず、完全にただのヘッドスライディングです。ああ、洋服が汚れて…。
ドスウウゥゥゥゥゥゥゥゥンン!!!!!!
…と、総領娘様が玄雲海に着陸いたしました。
あ、要石ごと落ちたからこんな地鳴りがするだけですよ?総領娘様の体重のせいではありませんからね?
「うん、完璧な着地ね。100点満点だわ。」
大地に立ち、やたら意気揚々とした笑みを浮かべる総領娘様。
しかし、私としては溜まった物ではない。
私は総領娘様をお助けしようと、こうして色々と準備をしたのに…。
…いきなり天地開闢プレスですか、そうですか。
「…総領娘様…。」
パンパンと土をはたき、総領娘様のほうへと向き直る。
「あっ!衣玖、いたわね!!さあ早くエサに食いつきなさい!!」
私に気付くなり、いきなりそんな事を言うのだから判らない。
…あの釣り針、やっぱり私に向けられたものだったのですか…。
「とりあえずですね、色々と言いたいことがあるのですが…。」
「言わなくていいわ。あなたは私の命令に従ってエサに食いつけばいいの。」
むぅ、我侭ですね相変わらず…。
少しでも成長されたのでは、と期待した私が馬鹿でした。
「総領娘様、あなた様の気持ちを汲んで差し上げたいのですが…。
申し訳ありませんが、その命令は聞けません。私はあなた様の遊びに付き合うために生きているのではありませんので。」
正直な心が私の口から出てくる。
幾らなんでも、総領娘様のお遊びに付き合ってそんな恥ずかしい事をしたくはありません。
空気読めないと言われるかもしれませんが、私は今回は自分の意思に忠実に生きる事にします。
「…そう言うと思ったわ。そう思って、私もいくつか策を考えていたのよ。」
はて、なんでしょうか?
確かに総領娘様のお力には、私では到底及びません。
しかし、私とてそう易々とはやられたりはしません。
そうほいほいと釣り針に食いつくなんて真似をするよりは、最後の最後まで総領娘様に抵抗しま…。
「そこの白黒!!」
…と、総領娘様は急に魔理沙さんの名(?)を叫ぶ。
若干存在を忘れかけていましたが、魔理沙さんはまだ釣り針からキノコを外そうと奮闘していました。
「衣玖を捕まえてくれるのを手伝ってくれれば、そのキノコをもう3つあげるわ!!」
…えっと、あの、その…?
「おおっ!!マジでか天子!!その話乗ったぜ!!」
ああああああああっ!!!!魔理沙さんなんて事をおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!
そ、そういう事ですか!!総領娘様1人では流石にそう易々を私を捕まえられないから、魔理沙さんを仲間に引き込んで…!!
卑怯!!卑怯ですよ!!訴えますよ訴訟起こしますよ裁判起こしますよ!!
「衣玖!!覚悟しなさい!!何時も私にお仕置きしてくれた罰よ!!」
しかも何のことですか!?お仕置き!?お仕置きってこないだの異変の時とかのですか!?
そんなのやって当たり前じゃないですか!!何だかんだで総領娘様のお世話役みたいな事やってるんですから!!
お仕置きされるような所業ばかりするあなたが悪いんじゃないですかああぁぁぁぁぁ!!!!
「衣玖!!悪く思うな!!これは全てキノコのためだぜ!!」
ああもう!!魔理沙さんも完全に洗脳されていらっしゃる!!
経済力ある方はずるいです!!私は魔理沙さんを懐柔する術なんてありませんよ!!
「さあ!!大人しく私に恥ずかしい姿を見せなさいいいぃぃぃぃ!!!!」
「嫌ですよおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
とりあえず…。
…逃げます!!!!
* * * * * *
「はぁ…!!はぁ…!!」
私は玄雲海を降り、とりあえず幻想郷の一番高い位置にある妖怪の山に降りる。
「衣玖ーッ!!待ちなさあぁぁぁぁい!!!!」
上を見上げると、猛スピードで飛翔してくる総領娘様と魔理沙さんが…。
うっ…!!流石総領娘様!!早い!!
ああっ!!何時も何時もゆっくりと泳いでいて、素早く動く特訓をしていなかった自分が恨めしい!!
しかも総領娘様には、幻想郷でもトップクラスの素早さを持つであろう魔理沙さんが味方に…!!
「と、とにかく今は逃げないと…!!」
まだ体力は大丈夫。とにかく今はこの場を離れようと、私は全速力で走る。…浮いているから泳ぐの方正しいですかね?
そんな事はどうでもいいです。
…誰か、誰かに助けを求めないと…。
流石に2対1では、元々薄い勝ち目が完全に0になります。
総領娘様や魔理沙さんと対等に戦えて、出来れば私を連れて素早く動けるような味方が…。
…でも、そんな人が都合よく…。
「あやややや?何時ぞやの竜宮の使いさん?どうしたんですかそんなに慌てて。」
…いました、都合のいい人が。
私は急ブレーキをかけて、声の方へと目を向ける。
そこには黒髪の鴉天狗、幻想郷最速の新聞記者、射命丸文さんの姿が…。
「あ、文さん…。…ちょ、丁度良いところに…。」
急に止まったために疲れがどっと押し寄せてきましたが、今はとにかくこの人に助けを求めなくては…。
この人は天狗なんだから実力は充分。そしてそのスピードは、今のところ幻想郷最速。
此処まで条件がピッタリな人、他にいるでしょうか?
「だからどうしたんですか?また地震の予兆でも?」
ああ、まあそれが私の仕事(?)ですからね。
そう思うのは無理はないのですが…。
「お、お願いします…!!助けてください…!!」
呼吸を落ち着かせながら、簡潔に用件だけを伝える。
しかし、流石にそれだけでは伝わらなかったのか、文さんは首をかしげて…。
「…本当にどうしたんですか?出来る限りは協力しても構いませんが、内容次第ですよ?」
ああ、新聞記者は自分から危険な行動には出ないものですね…!
…とりあえず真実を話して、それで納得してもらうしか…。
「じ、実は…!!」
「ああっ!!見つけた!!観念しなさい衣玖!!」
「さあ!私のキノコのために大人しく捕まるんだ!!」
…説明する手間が省けそうですね。
総領娘様と魔理沙さんがご到着。しかもご丁寧に、素早さアップのためか魔理沙さんの箒に2人乗りで。
「…あややや?これはどういう事ですか?」
「あの2人に追われてるんですよぉ!!お願いします助けてください!!御礼なら何でもしますから!!」
私の必死の頼みに、難しそうな顔をする文さん。
お、お願いですから見捨てないで下さい!!私を助けてくれる最高の条件があなたには揃っているんですから!!
「うーん…。…そうですねぇ…。」
そんな考え込まないで下さい!!素直に「はい」と言ってください!!空気読んでください!!
「…じゃあ、一週間私の取材の手伝いをしてくれますか?」
…取材の、手伝い?助手みたいな事ですか?
それで助けていただけるのであれば喜んで…。
「実はちょっと前に手伝ってもらっていた白狼天狗が倒れてしまいまして…。…疲労で…。」
…なんだか、最後に物凄く不吉な言葉を聞いた気がするのですが…。
「まあ、大丈夫です。流石に死ぬような事はさせませんから。
…どうせ妖怪ですし、ちょっとやそっとじゃ死なないでしょうから…。」
…それはつまり、死なない程度には色々やらされるって事ですよね…?
あああぁぁぁ!!悩む!!それってどっちがマシなんでしょうか!?
「嫌でしたら天子さんと魔理沙さんにどうぞご自由に追い回されてください。
ただ、幻想郷でもトップクラスの実力者2人に追い回されて助かる可能性は「判りました判りました!!お手伝いでも何でもしますぅ!!!!」
反射的に条件を呑んでしまう。
…まあ、総領娘様や魔理沙さんを相手にするよりも、文さんの手伝いの方がまだ身体に負担は少ない…と思いたい。
…死にはしませんよね…?その白狼天狗さんも疲労で倒れる程度で済んでるんですから…。
…何日でそうなったのかは知りませんけど…。
「交渉成立ですね。それでは…。」
色々と考え込んでいる私を他所に、文さんは真剣な目つきで総領娘様と魔理沙さんを見据える。
ああ、こうして味方についてくれると、なんだか物凄く頼もしいです…。
流石は生粋の新聞記者。やるとなったら徹底的に、ですね。
「…お、おい、拙いぜ天子。何度か戦ってるから判るけど、あいつの本気は純粋に強いぞ?」
文さんの迫力に圧されてか、魔理沙さんも性格に似合わず狼狽する。
天狗が強いと言うのは、妖怪に携わる者であれば大抵は知っている。
そして、戦った事がある者であれば尚更…。
「さあ天子さんに魔理沙さん。私の労働力確保のために、此処で倒れてもらいますよ。」
文さんの周りに風が集まり始める。
…その姿はとても美しく、そして力強い…。…言ってる事は結構酷いですが。
…っと、そんな事考えている場合ではない。
文さん一人に任せるわけにもいかないから、私も戦闘準備を…。
「あっはっはっははははははは!!!!」
…その場にいた全員が、思わず動きを止めてしまう。
総領娘様が、何の前触れもなく大声で笑い始めたので。
…魔理沙さん。飛行中におかしなキノコでも食べさせたんですか?
「どうしたんだ天子…?」
いや、それはなさそうですね。魔理沙さんも「うわっ、なにコイツ大丈夫か?」と言う顔をしていますし。
「衣玖!!その程度で私を止めようと言うのが甚だ可笑しいわ!!」
な、何を言っているんですか総領娘様…?
確かにあなた様の力は私よりも遥かに上ですが…。
幾らあなた様とは言え、私と文さんの2人で掛かれば…。
「交渉術と言うのは相手の本当に欲しい物を与えてこそよ!!今から私が本物の交渉術と言うのを見せてあげるわ!!」
…えっと…。…はい…?全く意味が判らないんですが…。
「…嘗められたものですね。私とて、記者としてのプライドがあります。
一度依頼を受けたならば、最後まで追及するのが記者と言うものです。
それは約束事でも同じです。一度結んだ約束であれば、最後まで貫き通すのが…。」
「ああそう?折角新聞が繁盛しそうないいネタがあるのに?」
…文さんの言葉が、ピタリと止まる。
…ちょ、ちょっと待ってくださいよ文さん…?今言いましたよね?記者のプライドが如何とかって…。
「私が衣玖を倒して引きずって帰れば、かなりの衝撃影像が拝めるかもしれないわよ?
そう、竜宮の使いが玄雲海の中で釣り針に食いついてる姿がね!!」
ぴくっ、ぴくっと文さんが何かに反応する…。
…いや、だからホントにちょっと待って…!
「衣玖みたいな見た目大人の女が釣り針に食いつくという姿…。
ああ、なんて珍しい光景なのかしら。きっと大衆の目は釘付けになるわよね。
そんな衝撃スクープを拝める機会なんて、あと何百年待てばいいのかしら。否、もう二度と来ないに決まっているわ。
ああ勿体無い。それを私と対立するという事で逃してしまう新聞記者…。とても可愛そうね…。そう思うでしょ?魔理沙。」
「ああそうだな。そんな機会は滅多にないぜ。1UPキノコ4つなんてな。」
総領娘様の果てしなく無駄に素晴らしい演技力。
言葉のアクセントの入れ方、身振り手振りを交えた感情表現、心に訴える巧みな話術。
何処を取っても、本当にハ○ウッドスター張りの演技力です。何処でそんなの学んだんでしょうか…。
そして魔理沙さん、同意するポイント違います。
「…さて、そんな可愛そうな新聞記者さん?あなたは私と衣玖と、どっちに付くのかしら?」
総領娘様は、止めと言わんばかりに文さんへと誘いをかける。
…私の中で、冷や汗に似たものがだらだらと流れていくのが感じられます…。
…うん、確かに素晴らしい交渉術でした総領娘様…。…私なんかでは到底及びません…。
後は文さんを信じるしか…。…労働力か、それともスクープか…。
…お願いですから、労働力を取ってください…。
「………。」
押し黙ったまま、何も語ろうとしない文さん。
その沈黙の長さに比例して、私の不安もどんどん大きくなっていきます…。
いや、本当に勘弁してくださいよ?私はあなたを信じていますからね?
「あ、文さん…?」
しかし、その沈黙に耐える事が出来なくなったので、私は文さんの名を呼ぶ。
お願いです、早く私を取ると言ってください。でなければ私は終わりです。
…と、文さんはゆっくりと私のほうを振り向く。
鴉天狗という妖怪だと言うのに、まるで天使の様な明るい笑みを浮かべて…。
「…大丈夫ですよ。心配しないで下さい衣玖さん。」
…ああ、その一言で、私の心は綺麗さっぱり…。
「…新聞にしても、友好的に記事にしてあげますから。」
「裏切り者おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
私の心は、綺麗さっぱり粉々に打ち砕かれてしまいましたとさ。
「あなた妖怪のプライドはどうしたんですか!?新聞記者としての魂はどうしたんですか!?」
「そんなの一文の得にもなりません。記者は事件あってこその存在です。」
「そんなあっさり懐柔されないで下さいいぃ!!!!」
「鴉は常に相手を見て、有利なほうの味方になるものです。」
「それ確かコウモリじゃありませんか!?」
「そんな事は瑣末な事です。」
「いや大分違いますよ鴉と蝙蝠!!」
「さあ衣玖!!形勢逆転ね!!さっさと諦めて投降しなさい!!」
「そうだ衣玖!!私のキノコのために!!」
「そして私の新聞のために!!」
「絶対に嫌です!!!!」
「「「ならば地の果てまででも追うのみ!!!!」」」
「ああもう!!此処まで来たら逃げて逃げて逃げまくってやりますよおおぉぉぉぉぉ!!!!」
そして、私はまた全速力で逃走した…。
こうなったら、頼れるのはもうただ1人…。
* * * * * *
ぜー…。…はー…。…ぜー…。…はー…。
す、凄い私…。幻想郷最速の2人を相手にして、目的地まで逃げ切れた…。
人間(?)死ぬ気になれば何でも出来るものですね…。
しかし、うかうかしていられない。もう逃げる体力なんか残っていませんし、此処であの3人を止められなかったら…。
「こーらー!!待ちなさいぃ!!!!」
「逃げると撃つぜ!!」
「この私の足から逃れられると思わないで下さい!!!!」
ああ大変、もうすぐそこまで…。
は、早くここに住んでいる人を探さなければ…!!
でも、彼女の日常生活がどんなのかなんて知りませんし、もし万が一買い物にでも出てたら…!!
「…あら、竜宮の使い?何しに来たの?退治されに来たの?素敵なお賽銭箱ならあっちよ?とりあえず入れていきなさい?」
私が博麗神社の境内に踏み入ろうとした瞬間に、庭掃除をしていた霊夢さんに声を掛けられる。
彼女の在宅と、最後の方の彼女らしい言葉に安堵する。同時に多少の虚しさも。
「お…、…お賽銭なら…入れますから…。…た、頼みを…聞いて…。」
マトモに声が出ない。疲れで喉がやられているのかもしれませんね…。
しかし、霊夢さんは最後の頼み。もし此処で助けてもらえないようならば、私は色々な意味で終わってしまいます。
「…なに?面倒事なら持ち込まないで欲しいわね。」
ああお願いです!!そんな事言わないで下さい!!
でも、今から来る3人を見てもらえば、ひょっとしたら霊夢さんも動いてくれるかも…。
「衣玖!!博麗神社に逃げ込むとは考えたわね!!だけどそれも此処までよ!!」
「霊夢!!悪いが衣玖は明け渡してもらうぜ!!私のキノコのために!!」
「さあ衣玖さん!!文々。新聞のために身体を張ってもらいますよ!!」
「ひいっ!!」
反射的に声を上げて、霊夢さんの後ろに回りこむ。…この出来事が暫くはトラウマになりそうですね…。
しかし、流石は霊夢さん。天人と人間と妖怪の代表3人を目の前にしても、全く動じません。
「…これはまた、面倒な事になってるわね…。」
呆れた、と言いたそうな表情でそう呟く霊夢さん。…申し訳ありません、本当に…。
「用件は言わなくても判っていただけましたか…?
お願いです、助けてください…!私にはあなたが最後の希望なんです…!!」
目の下が熱くなる。ああ本当に泣きそうです今。
「…面倒事を持ち込まないで欲しいんだけどなぁ…。」
「めんどくさい、やりたくない」といった表情を浮かべています。
…あ、今目から涙が一粒…。
「お願いします!!お礼は何だってします!!1ヶ月ぐらい雑用でも何でもしますから!!」
必死になって頼み込む。ああもう、目からぼろぼろと悲しみの涙が…。
しかも、そんな私の涙なんかどうでも良いと言わんばかりに、3人の欲望に塗れた目線が…。
ううっ、総領娘様、まさか洗脳術でも…。…いや、立派に洗脳してますねさっきから。
…ただ、私がそう頼み込んだ瞬間、霊夢さんの表情が少しだけ変化する。
「めんどくさい」から「やってもいいかなぁ」くらいには。
「…諭吉5人は?」
…はい?
「だから、諭吉5人で手を打たない?」
…諭吉…ですか…。
「…えっと、3人で…。」
「じゃあ4人。」
「…3人と稲造1人…。」
「稲造1人より漱石5人にして。そっちの方が沢山持ってる気がするから。」
「…判りました、諭吉3人と漱石5人で…。」
「OK。それでいいわ。後は普通のお賽銭に全ての小さいのを1枚ずつ。」
「…えっと…。…666ですね…。…判りました…。」
「交渉成立ね。」
…ああ、霊夢さんという人がよぉく判った気がします…。
私は何かお店開いてるわけでもありませんから、ちょっと痛い出費ですが…。
…まあ、そんなにお金使う機会もないですし、それで命(?)が助かるなら安いものだと思いましょう…。
「さあ、私の生活のためにあんた達は此処で懲らしめてあげる。」
しかし、流石は幻想郷一の妖怪バスター霊夢さん。
正直3人のうち妖怪は1人しかいないとは言え、やっぱり頼もしいですね。
「…素直に明け渡してくれればいいのに…。金の力は偉大だぜ。」
「霊夢さんが相手とはやりにくいですね…。」
魔理沙さんも文さんも、少し距離をとっています。
やはり霊夢さん相手では、たとえ自分の方が実力が上だとしてもやり辛いでしょう。
霊夢さんに助けを求めたのはどうやら正解だったようですね!出費はかさみましたが!
…あれ?総領娘様がさっきから何も仰らない…。
…なんだか、物凄くデジャヴなんですが…。
「あははははは!!残念ね衣玖!!私がその程度のことを予測しなかったとでも思ったの!?」
ああ、やっぱり!!展開がさっきの文さんの時と全く一緒ですから!!
そ、総領娘様、今度は何を…!!
「霊夢。諭吉10人。」
「夢符『二重結界』。」
…次の瞬間には、私は2枚の結界に閉じ込められていました…。
「れ、霊夢さあああぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」
私の無常の叫びが響き渡る。
ああ、今日だけで2回も裏切りを!!私はこれから何を信じて生きていけばいいのですか!?
汚い!!総領娘様も霊夢さんも汚いです!!これだから近頃の若い人たちはぁ!!
経済力豊かな方はずるいですよおおぉぉぉぉぉ!!!!
「衣玖!!いい加減見苦しいわよ!!男なら覚悟を決めなさい!!」
「私は女です!!生物学的にも心理学的にも!!」
「ええい!!所詮『空気を読む程度の能力』のくせに生意気よ!!幻想郷で1~2を争うくらい意味が判らない能力のくせに!!」
「それは『空気を読む程度の能力が能力に認定されてしまう程のKY揃いを保有する程度の能力』の幻想郷が悪いんじゃないですかぁ!!
私本当なら『電気を操る程度の能力』とかその辺ですよね!?」
「…まあそれは一理ある気がするけど…。
でも!!能力認定されたならおとなしく空気呼んで私に釣られなさい!!」
「そんなエサに私が釣られクマーッ!!」
「よし、錯乱してきたわね。そろそろ止め刺してあげるわ。」
総領娘様の目が本気になる。私はまさに籠の中の鳥。
ああ、私がいったい何をしたと言うのですか?私は今まで清く正しく生きてきた心算でしたのに…。
神は平気で私を見捨てるのですね…。…今度妖怪の山に出来た新しい神社にでも行ってみましょうかね…。
…ええい、こうなったらもう何でもやってやりますよ。
総領娘様に反抗?そんな事今までだって何度かやってるじゃないですか。
今日はもうとことんまでいきます。総領娘様、今日はおイタが過ぎますからね。
…今日くらい、総領娘様に手を上げたって許されますよね…。
「…判りました、総領娘様。そろそろ私も覚悟を決めました。」
ええ、決めましたよ覚悟は…。
「おお、やっと捕まる気になったか。」
「最初からそう素直にしてくれれば良かったのですが…。」
魔理沙さんと文さんが勝手なことを言う。
…判ってないですね。覚悟と言うのは…。
…私1人で、あなた達全員を相手にすると言うことですよ!!
「魚符『龍魚ドリル』!!!!」
私は羽衣ドリルを結界に打ち込む。
こんな結界、死ぬ気の私に貫けぬはずが無いぃ!!
パリイイィィィィィィィン!!!!
「おおっ!?霊夢の結界をあっさりと砕いたぜ!?」
「…これは予想外ね…。手を抜いた心算はなかったんだけど…。」
驚かれてるようですね…。
ですが、今の私には何だって出来る気がしますよ…。
「総領娘様…。…今回はもう私も堪忍袋の緒が切れました…。
もうお好きなようにしてください…。…ですが…。
…これ以上わがままを通すと言うのでしたら、この私を倒してからにしてください!!」
私は雷を身に纏う。棘符『雷雲棘魚』
…総領娘様がわがままなのは昔からです。
だから今更治そうとは思いませんし、そもそも治るとも思っていません。
ですが、わがままでい続けると言うのでしたら…。…私は、その都度心を鬼にしましょう。
…総領娘様、私はあなたの教育係の名を背負い続けて…!!
「…へぇ、衣玖。面白いコト言うじゃない…。」
…まるで、背筋に液体窒素を流し込まれたような感覚に襲われる…。
…えっと、あれ…?…総領娘様…?
私今「雷雲棘魚」状態ですよ?無敵状態ですよ?
「…たかが竜宮の使い如きが、この私の本気に勝てるとでも…?」
…総領娘様の身体が、ふわりと宙に浮く。
しかも、何処に持っていたのか、緋想の剣を振り上げて…。
…って、ちょっと待って下さい!!この技って確か…!!
そ、そんな!!確かに「雷雲棘魚」を破れるのは、貫通攻撃…!!
だけど、わざわざその技じゃなくても…!!
「衣玖、後悔しなさい。最初に素直に私の言う事を聞かなかった事を。
そして悔い改めなさい。この私に反逆したことを!!」
ひ、酷いです!!私は何も悪い事してないと思いますよぉ!!
うわああぁぁぁん!!最後の最後まで今日の私は厄まみれですかああぁぁぁぁぁ!!!!
『 全 人 類 の 緋 想 天 ! ! ! ! 』
いやあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!
* * * * * *
「ううっ…。…私が何をしたと言うのですかぁ…。」
…もう涙が止まりません…。
結局私は総領娘様の最強技の前になす術なく、そのままKO負け。
気付いた時には、私は玄雲海まで連れ戻されていました…。
…しかも、ご丁寧に目の前には釣り針(エサはなくなっていました)が…。
「…なんかもう、此処まで来ると少し可愛そうになってくるぜ…。」
「そうですね。完全に天子さんの我侭ですから。」
少しでもそう思うなら助けてくださいよ今から…。
…キノコ4つを大事そうに抱える魔法使いと、しきりにカメラのレンズを磨く天狗が相手じゃ、それも叶わぬ夢ですが…。
因みに霊夢さんは総領娘様から諭吉10人貰ってヘブン状態です。
「さあ衣玖。もう諦めはついたわよね?約束どおり恥ずかしい姿を見せてもらうわよ。」
鬼の首を取ったような表情の総領娘様。
何でこの人のわがままで、私がこんなに被害を被らなくてはならないのですか…。
…ああ、もう、全てが如何でも良くなってきました。
もういいです。諦めますよ。やればいいんでしょうやれば。
とりあえず、これやったら私は家に1ヶ月引き篭もることにします…。
「…せめて、針だけは外してください…。」
あんな釣り針に食いついたら、口に穴が開いてしまいます。
2~3日放っておけば治るでしょうが、そんな無駄な怪我はしたくないです…。
「…まあ、釣竿に食いつく姿が見られれば大丈夫よね。判ったわ。それだけは認めてあげる。」
ううっ、ありがとうございます…。…って、全く感謝するところではありませんが…。
手際よく、総領娘様は釣り針を外す。
「ほら、これで大丈夫でしょ?早くやっちゃいなさい。」
そんな軽々しく言わないでくださいよぉ…。
私としてはこれからの人(?)生に大きく関わるかもしれないんですから…。
「今後滅多にない機会だからな、じっくり見させてもらうぜ。」
「いい写真期待してますよ、衣玖さん。」
そんな事言われても…。
…ああ、もういいです。そんな事考えてても時間の無駄ですね…。
…一秒でも早く地獄に落とされれば、その分だけ早めに地獄から這い上がれるかもしれませんし…。
「…一回しかやりませんからね…。…絶対に一回だけですからね…。」
それだけは念を押しておきます。
…もし二回やれなんて言われたら、私は恥ずかしさだけで死ねる自信があります。
「いいからさっさとやりなさい。」
「一回見れれば充分だぜ。」
「カメラは逃しませんのでご心配なく。」
ああ、この突き放された感が、今は最早清清しいです。
どうせこの場に味方はもういません。だったら助けを期待するだけおろかというものです…。
…私は、ゆっくりと釣り針のなくなった竿の元へと近寄り…。
「…い、いきますよ…。」
…小さく口を開ける。
…総領娘様も、魔理沙さんも、文さんも、傍から見れば可愛い笑顔を浮かべながら、私の行動を注視しています…。
ああ、もう野となれ山となれ。
この経験が、いつか何か良い事に繋がってくれると信じて…。
…こんなくだらない経験が何に繋がるのかとか、そんなことは考えずに…。
「…ッ!!」
大きく口を開けて…。
…ぱくり。
* * * * * *
「…って言うゲームを考えたのよ!!」
「これだけやっておいて妄想オチですか。」
「私が主人公で、ありとあらゆる手を使って衣玖を調教するゲーム!!
名づけて『比那の衣玖釣り』よ!!これは絶対に売れるわ!!」
「よく判りました総領娘様。あなたがまだお仕置きが受け足りないとは思いませんでした。」
「な、何でそんな目をするのよ!!
ヒロイン(?)の座はあなたに譲ってあげたのよ!?何が不満なの!?」
「ほぅ、ではあなたはこのゲームのヒロイン(?)をやりたいですか?」
「全力で断るわ!!」
「私の気持ちを代返してくださってありがとうございます。私もお断りです。」
「な、何で駄目なのよ!!ちゃんと別シーンも沢山考えてるのよ!?これは絶対に売れるわよ!?」
「売れるわけありません。
こんな緋想天初プレイで私を見た時「蓮子と神奈子が合体しただと!?」とか思った馬鹿作者の妄想の作品が。」
「楽屋話は駄目!!」
「とにかく、こんなの商品化するなど断固許しません。
あなたの妄想は記憶ごと私のドリルで吹き飛ばして差し上げます。」
「わ、私に手を上げる心算!?私はあなたのなんだと思っているの?」
「いえ、正直な話、私が仕えているのはあくまで龍神様ですから。
総領様ならばともかく、別にあなたの命令を聞く謂れなんて得にないんですよねー。」
「そんな元も子もない事言わないでよ!!」
「馬鹿は死ななきゃ治らないといいますが、わがままくらいなら記憶を吹き飛ばせば治りますかね。」
「あなたそんな事言うキャラだったっけ!?」
「今は本能の赴くままに生きているだけです。」
「KYよ衣玖!!空気読みなさいよ!!」
「『空気読めてる』ですね判ります。」
「無理やり間違えないでよ!!」
「大丈夫、記憶を吹き飛ばした際は、代わりに私がゆっくりと調教して差し上げますから。」
「いやあああぁぁぁぁぁ!!誰か助けてえええぇぇぇぇぇぇ!!!!」
「魚符『龍魚ドリル』うううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!」
稲造は確かにそろそろ幻想入りか、しかしいの一番に入るのは間違いなく二千円札。
清楚のかけらもなくなったドタバタ劇は、衣玖さんが空気を読んだ結果でしょうけど、非常識人・妖怪が跋扈する幻想郷で空気読み続けた日には貴重なたおやかお姉さんキャラが影も形もなくなってしまうよ!
去年の今頃来た風祝も1年であそこまで変わってしまったのに…
4番:キャッチャー 山○太郎でいろいろと幻視した。
天子の親父のことを言いたいんだろうけど、総領ってのは跡取りのことだから多分違う
問題は原作でも間違えて使ってることだ。もしかしたら天子以外に息子もいるのかもしれないけど
あと、文が裏切った後の「セリフの右に名前が書いてある」ところですが・・・
名前書かなくてもわかりますよ。セリフで。
個人的には、へたれてる天天が好きです
天子のSS増えないかなぁ…すいてんが読みたいぜ
……さ、まずは作者の寿命を引き伸ばすことから始めようか。
吹いた。
とりあえず作者様は永遠亭に行って健康法を習い、蓬莱の薬マイルドタイプを買ってください。
さて、予約予約・・・っと・・・
てんいく素敵だよてんいく
予約予約…っと
天子は衣玖さんにいじめられたかったんですね。わかります。
だが別に妄想オチでなくてもよかったんじゃなくね?と、ちらっと思ったので-10点。
話のテンポやキレのある掛け合いは、うp主ぐっじょ!!と言わざるを得ない。
とりあえず、次回作も期待してます!作者様の発展と途上を願って・・・
P.S. >>2氏へ。
残念ながら2000円札は現在でもしぶとく生き残っているようです
by元某ドーナッツチェーン店アルバイト店員
P.S.のP.S.
このP.S.って、手紙書くと使いt(ry
長文&大量のネタ失礼しました。
魔理沙は1UPキノコを何に使うのだろうか・・・?
1.普通に実験等に使う(えー
2.誰かを増やしてみる
3.むしろ自分を増やす
4.ダブルスパークを1UPさせトリプルスパークに・・・
ゆっくり考えた結果がこ(ry 長文すまぬ
これは、テレビで紹介されていましたので、確実になります。
あとは文体の整理でしょうか…期待してます。
>それは『空気を読む程度の能力が能力に認定されてしまう程のKY揃いを保有する程度の能力』の幻想郷が悪いんじゃないですかぁ!!
納得ですw
いくさんは
えろい
な
二番 天人となる
三番 ゲームを買う
四番 キャッチャー 山田 ○郎
ですね。