「でかけるの? レミィ」
「パチェ……。うん、あまり遅くなる前に戻るから、留守番よろしく」
「そう、いってらっしゃい、レミィ」
◆
夕方の魔法の森、アリス・マーガトロイド邸前。
彼女の家の前では、博麗霊夢や霧雨魔理沙を筆頭にバーベキューが行われていた。
アリスは微笑みながら、集まったゲストたちへとお酒を振舞う。
絶えぬ笑い声、舌鼓や小さな言い争いまでも、宴会という場を盛り上げるには欠かせない要素である。
その一つでも欠ければ、宴会は本当の意味で盛り上がっているとは言えない。
上々に盛り上がっている場の雰囲気に、アリスは心のそこから満足していた。
芝生に座りながら酒を酌み交わす霊夢と魔理沙。
彼女らはアリスの姿を見つけると、コップを掲げて隣に来るように勧めた。
「なぁアリス、お前も一緒に飲まないか? このまま霊夢と飲んでいてもいいんだが、なんだか張り合いがなくってな」
「別に。魔理沙は誰かに絡めればそれでいいんでしょうに」
「いいわよ、魔理沙。でも少し待ってね。いま紫から、おつまみの催促をされているから」
「ちぇっ、おつまみぐらい自分で作れってんだ。それか藍にでも手伝いさせればいいのにな」
不満気な魔理沙へと笑顔を返し、家の中へと入るアリス。台所には既に、小さな人形たちが文字通り、身を削る勢いでフル回転している。
アリスは待機していた人形へと魔力を送りこみ、また宴会の場である外へと戻った。
外に戻ると人だかりができており、どうやら飲み比べが始まったらしい。
「のーむぞー!」
伊吹萃香と射命丸文、彼女らは会うたびに、どちらの方が酒に強いかという勝負に耽り、ロクにほかの参加者と話そうとはしない。
しかし飲み比べを眺めるのが一番の酒の肴とは魔理沙の弁、言葉どおり、参加者は面白がって、彼女らの動向を眺めていた。
「うぅ……。もうダメ、です」
その場に崩れ落ちたのは文。人間ならば十回死んでもお釣りが来る量を飲んでも前後不覚になる程度の天狗というのも、羨ましいものだとアリスは思った。
萃香も顔を赤くはしているが、まだまだ口調はハッキリしている。
魔法使いの体の構造上、人間と大きくは変わらないため、酒を飲める量も当然人並み。当然彼女らと同じ量を飲めばただでは済まないだろう。
といっても、まだうら若き年頃である魔理沙と霊夢の両名は、肝臓がザルでできているとしか思えない勢いで酒を飲み干していくのだが。
「咲夜、ワインを注いでちょうだい」
「はい、お嬢様」
紅魔館からの出席は二人、従者は瀟洒に、主は傲慢さを周りへと見せつけながらちんまりとした椅子に座っていた。
それはとてつもなく滑稽な光景なのだけれど、当の本人たちは涼しい顔をしていて、逆に自らの神経がおかしいのかと一度は錯覚させられる。
まるで血のような赤ワインを、レミリア・スカーレットは喉を鳴らして飲み干し、空になったグラスを弄ぶ。
十六夜咲夜はそのグラスに、トクトクとワインを注いだ。
その動作には一切の無駄がなく、彼女の洗練された技術を感じさせるものだった。
魔理沙はいつも通りに、たいしたもんだと茶化し、霊夢は興味なさげにコップを傾けていた。
アリス自身も、どちらかといえばワインが好きだった。
レミリアへと声をかけ、分けてもらえるかと頼むと、彼女は宴会の場を提供してくれたのだからと快く応じた。
アリスの持っていたグラスへと注がれる赤ワイン、紅魔館のワインは咲夜の能力で簡単にヴィンテージを作ることができた。
そのため彼女の持ってくるワインは非常に人気が高く、飲兵衛の多い幻想郷の住人はなかなか頭が上がらなかった。
「美味しい……」
「でしょう?」
アリスの言葉に、レミリアは心底嬉しそうに顔をほころばせた。相変わらず咲夜は表情を変えずに、けれどどこか誇らしげな雰囲気を漂わせていた。
「うちの門番が育てた葡萄をワインにして、うちのご自慢のワインカーヴで寝かせるの。飲みたくなれば咲夜が時間を進めればいいし……。ステキでしょう?」
「ええ、羨ましいわ。いつもこんなに美味しいワインが飲めるだなんて」
「本当に、咲夜がいて助かるわ」
「お褒めに与り光栄です、お嬢様」
「アリスも、もっと有能な助手をつけたらどう?」
「ええ、言われなくても私の人形たちは有能だから」
「あっ、そ」
レミリアはアリスに興味を失ったようで、視線を外してグラスを傾けた。
気まぐれなレミリアへとため息をつき、せっせと焼き奉行に徹している永遠亭の妖怪兎、鈴仙優曇華院と、白玉楼の庭師、魂魄妖夢を見やった。
永遠亭からは鈴仙のみの参加であり、まさに滅私奉公という言葉がよく似合う働き方をしていた。時折、人当たりよさそうな笑顔を回りに向けていた。
妖夢のほうはと言うと、完全に自らの主人のために行動しており、せっせと肉や野菜を焼き上げていた。
対する幽々子は切り株に腰掛けながら、これ以上の幸せはないとばかりに食べ物を頬張り、隣に座っていた八雲紫の顔を渋くさせていた。
「もう、幽々子ったらもう少し上品に食べなさいよ」
「紫? 食べ物は一番美味しい瞬間に食べるのが正しいのよ、見た目を取り繕うのは殿方の前か、自らの美しさに自信がない女だけなのよ」
「あっそ……。まぁ幽々子がいいなら私はいいんだけど。藍、ちょっとお酒のお代わり持ってきて」
「はい、紫さま」
切り株の傍に控えていた八雲藍がすくっと立ち上がり、氷を浮かべた水槽の中から、日本酒を一本取り出して蓋を開けた。
そして、紅魔館の従者にも勝るとも劣らない流麗な動作で、だらしなく差し出されたグラスへと酒を注ぐ。
ホストの役目を果たそうと、アリスは談笑している幽々子と紫の二人へと話しかけた。
「こんばんは、楽しんでる?」
「あら、私はまぁまぁね、幽々子はこの通り食い意地が張っているけど」
「失礼ね、私は私なりに楽しんでいるのよ。今日は招待してくれてありがとう、今度は白玉楼にも招待しちゃおうかしら」
「そう、でも白玉楼で宴会をしても、結局働くのは咲夜だったり藍だったり妖夢だったり……。どこでも同じね、これは」
「それが」
「主の仕事だもの~」
そういって、顔を見合わせて笑う二人。
二人とも、美人という領域を軽く十歩先に行っているため、二人が手を絡めあって顔を見合わせるなんていうことを目の前でされると、同性であっても鼓動が早くなる。
クスクスと笑う二人に背を向け、輪から若干外れて二人で話し込んでいる二人組みへと声をかけることにした。
蓬莱の人の形、藤原妹紅と、人間の里の守護者、上白沢慧音。彼女らはこういった宴席になると、大体二人で固まって飲んでいるか、もしくは永遠亭の当主と揉めている。
基本的には礼儀正しく大人しいうえ、小話大会になれば興味深い話を聞かせてくれる二人に対して、アリスは好意を持っていた。
妹紅は身振り手振りを交え、先日竹林であったことを大げさに話している。慧音は相槌を打ちながら、時折お酌をしている。
まるで亭主の自慢話に付き合う奥さんのようだとアリスは苦笑しながら、彼女らに声をかけた。
「こんばんは、楽しんでいるかしら」
「ん、ああ人形遣いじゃないか」
「こら妹紅、せっかく呼んでいただいたのに失礼じゃないか。もっと女の子らしくしていれば輝夜に馬鹿にされることもないっていうのに・・・・・。
ああすまないね、楽しんでいるよ。今日はどうもありがとう」
何か言いたげな妹紅を制して、慧音は頭を下げた。妹紅のほうが身長も年齢も高いというのに、まるで慧音のほうが年長者のような振る舞いだった。
どちらかというとぶっきらぼうな妹紅と、几帳面だけどもユーモアも通じる慧音。
幻想郷屈指の凸凹コンビっぷりに、アリスは思わず苦笑した。
「まぁ楽しんでいるならいいんだけど」
「ん、ああ。今日は輝夜もいないし」
「こら、妹紅、つっかからなければ何も起こらないんだから少し自分を抑えるんだ」
「だって!」
「だってじゃない。素直なのは妹紅のいいところだけど、もう少し周りを見て行動しろ。まぁ……。輝夜の態度も確かに、どうかと思うけど」
「まぁまぁ、夫婦喧嘩は犬も食わないって言うしね?」
アリスが横から茶化すと、二人は顔を見合わせて笑いだした。
「私と慧音が夫婦だったら、きっと慧音が旦那さんだ。なんたって慧音は頑固だから」
「む、そんなことはないと思うがな、いつまで経っても子供っぽい妹紅のほうが旦那に相応しい。私のような内助の功がなければ一人で生きていけないだろう」
「ふん、そんなこといって慧音だって、一人だとご飯が美味しくないからってすぐにうちに来るくせに」
「なっ!」
いつまで経っても終わらない夫婦漫才にアリスは半ば呆れ、すっと席を立った。
二人は言い争いに夢中でアリスが席を立ったことにも気づかない。
アリスは伸びをして、人形が給仕している姿を満足気に眺めた。
このままいけば、今回こそ成功だろう。
しかし、その瞬間に響く、コップの割れる音。
「何怒ってるんだよ、レミリア」
「ホントにね」
呆れたような、魔理沙と霊夢の声。
傍らには肩を震わせているレミリアが、息を荒くしていた。
宴会の空気が凍る。
紫と幽々子はめくばせをかわし、妖夢と鈴仙の従者コンビは、互いにどうしたものかと小声で相談しているようだった。
そして、十六夜咲夜は、動かない。
「帰る」
椅子に立てかけてあった日傘をひったくり、レミリアは逃げるように飛び去った。
アリスはため息をつくと、「人形」たちへの魔力供給を絶った。
「もっと柔軟性が、必要みたいね。……予想外のことにも対応できるようにしないと」
これは、続くのでしょうか・・・?
永遠亭からの参加が鈴仙だけってのは、珍しいですね。
次回作も期待
ですが本当のことが分からなかったです。
つまり、やっぱりアリスはアリスだったってこと・・・かな?
最後にちょっとぞくっとしてしまいました
アリスって、幻想郷でもやっぱり招かれざる客なんでしょうかね。
最初はほのぼのかと思ったがやっぱりか!
上手かったです。
…え?って、ええ!?
でも… えええ!?
まさに不思議の国の「アリス」。狂ってやがる。
もしかして東方永夜抄でエーリンに勝てないから…?でももこたん居るし…
…ってことは、アリスはもこんとかぐやのケンカを「再現」できないから欠席にしたことにして、
その事情に気づいたレミリアが「かんかんに怒って」その場を後にした?
うどんげが居て、その主従が居ないのはおかしいし。大量のウサギはキャパ越えだし。
つまり…レミィ以外全員「人形」たちだったり…します?
でもサクヤは…? えええ!?
レミリア以外は人形だったのかな?
むぅ……アリスのその行動にレミリアは気付いて激怒し、帰った・・・・で、良いのでしょうか?
続きが出なくても、これはその後のことが気になる作品ですね。
ああ・・・。ってついつい口ずさんでしまう作品でした。
面白かったです。
「は」がひとつ多いです。
状況は何となく解りましたが、アリスとレミリアは何故こんなことをしてるんでしょ?
全てを明かさないのもテクニックのうちですけど、もう少しヒントが欲しかったです。
しかしそれ故に深く、面白い。
独特のセンスを感じますね。
ぞくっとしました。
最初の部分、何故レミリアか疑問でしたが…ターゲットでしたか。
あれ?でも咲夜さんの本体が館に居たら気付くんじゃ…
もうちょっと情報がほしかったような気もします。
……つーか怖ぇよ!
あるいはそれ以上の事態になっているとも読めますが。
こういう話は実に好みです。
欲を言うと、人間たちとレミリアのやり取りは実際に描写するべきだったかなと思います。
というわけで予想はよそう、なんつってwwwww
いいですなー。こういう話大好き。
人それぞれに解答があっていい話ですね。
私の中では、人間組亡き後のレミリアの無聊を慰めるため?
ということになりました。面白いわー。
他の人がどう受け取ったのか話し合いたくなるお話ですね。
ぐっじょぶ!
人形に対する態度がそれぞれ違うのも面白かったです。永遠亭の面々が来ない事に何だか納得。
…って、私の推測が当たっていたら、の話ですが。
もし間違っていたら、m9(^Д^)プギャーしてやって下さいorz
如何にもアリスっぽいお話でした。百年以上たった後かな?
霊夢・魔理沙・咲夜・妖夢・鈴仙・藍が人形なんでしょうか?文も結構…
連続投稿でレミリアのキャラが似通っているあたり、前作と地続きなんでしょうか。
紫幽以外のペアで登場している人たちの片方は人形なのでしょうか
言動に不自然なところがあるキャラは人形なんだろうなと何度も見直してしまいました
私は??
よくできた物語みたいでかなりよかったです
100年くらい立って人間組が死んだ場合の If を考えさせられましたね
ただ、人間以外の方の内、何人が人形だったのやら・・・((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル
>「アリスも、もっと有能な助手をつけたらどう?」
>「ええ、言われなくても私の人形たちは有能だから」
ここの部分に色々含まれてて怖いですね・・・・そもそも咲夜さんもどちらかわかりませんし
Mad Tea Party・・・なるほど・・・・
普段は自分評価つけない性質の人間なんですがねえ、今回はびっくりしてつい書いちゃった
相方(もしくは親友)を失った悲しみを人形で癒している・・・と私は思いました。
輝夜&永琳は死なないのでそんな場所には興味無いから来ていないのかな?
ともあれ随分と悲しい宴会だことで・・・
その割りにその他がわかりにくかったのも残念
アイデアはいいのでもう少しヒントと目的をわかりやすくするともっとよくなると思う。
期待点も込めてこの点数
しかし「今回こそ成功」ってことは、今までも何度か挑戦してるんですよねこの宴会。
参加してる「本物」の人たちはもちろん設定を理解してるわけで、
それでも参加してる辺り、なんとも言えない気分にさせてくれます。
アイデアがものすごく良い!
いろいろと考えれてできて楽しかったです。
一度最後まで読んで ? ってなってから読み返すと・・・・パネエwwwwwww
とても面白く味のある作品だと思います。
面白かったです